JPWO2003072796A1 - 無細胞タンパク質合成反応液、その調製方法及びそれを用いたタンパク質合成方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、弱い還元状態を有するタンパク質のフォールディングに適した無細胞タンパク質合成反応液、該弱還元型合成反応を行うこと、好ましくは翻訳反応初期にジスルフィド結合交換反応を触媒する物質をさらに添加して翻訳反応を行うことを特徴とする、無細胞タンパク質合成法を提供する。本法により、タンパク質の分子内ジスルフィド結合が正しく形成されており、本来有するものと同質の機能を有するタンパク質を効率良く提供する。具体的には抗原と特異的に結合する抗体タンパク質等を提供する。
Description
技術分野
本発明は、タンパク質分子内のジスルフィド結合が保持されているタンパク質を無細胞タンパク質合成を用いて効率よく合成する方法、及び該方法によって製造されたタンパク質等に関するものである。
技術背景
タンパク質を自由自在に合成する技術を開発することは、生命科学やバイオテクノロジー分野のみならず、ナノマシーンの設計や、ニューラルコンピューター等工学分野における分子素子の開発に大きく貢献することが期待される。現在、タンパク質の合成にはクローン化したDNAを生細胞に導入する遺伝子工学的手法が広く利用されているが、この方法で生産可能な外来性タンパク質は宿主の生命維持機構をくぐり抜けられる分子種に限られてしまう。一方、有機合成技術の進展によって自動合成機が普及し、数十個のアミノ酸から成るペプチドを合成することは日常的となっているが、分子量のより大きなタンパク質を化学的に合成することは収率や副反応等の限界から現在においてもきわめて困難である。さらに欧米では、生体をそのまま利用する従来型のタンパク質生産や新規分子探索方法に対する倫理的な批判が強く、国際的な規制がさらに厳しくなる懸念もある。
このような問題点を打破する新しいタンパク質合成法として、生化学的手法を取り入れ、生物体の優れた特性を最大限に利用しようとする、無細胞タンパク質合成法を挙げることができる。この方法は、生体の遺伝情報の翻訳系を人工容器内に取り揃え、設計・合成した核酸を鋳型として、非天然型をも含む望みのアミノ酸を取り込むことのできる系を再構築するというものである。このシステムでは、生命体の制約を受けることがないので、合成可能なタンパク質分子種を殆ど無限大にまで広げることが期待できる。
無細胞タンパク質合成系については、すり潰した細胞液にタンパク質合成能が残存することが40年前に報告されて以来、種々の方法が開発され、大腸菌、コムギ胚芽、ウサギ網状赤血球由来の細胞抽出液はタンパク質合成等に現在も広く利用されている。
先に発明者らは、これまでのリボソーム不活性化毒素の研究から得た知見をもとに、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系に見られる極端なタンパク質合成活性の低下現象が対病原微生物防御機構として本来細胞にプログラムされた自己リボソームの不活性化機構(細胞自殺機構)のスイッチが胚芽破砕が引き金となって起動することに起因することを明らかにしている(Madin,K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,559−564(2000))。そして、トリチン活性などを胚芽組織から排除する新規方法で調製したコムギ胚芽抽出液のタンパク質合成反応が長時間に渡って高いタンパク質合成特性を発揮するようになることを実証した(Madin,K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,559−564(2000)、特開2000−236896号公報)。
しかし、一般に無細胞タンパク質合成系においては、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製及び翻訳反応に際して、高度な還元条件を必要とするので、分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質はその形成が行われない。そのため、従来の無細胞タンパク質合成系により製造された分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質は、立体構造を取れないために本来の機能を有していないものが多いという問題点があった。
発明の開示
本発明は、無細胞タンパク質合成反応において分子内のジスルフィド結合が正しく形成された(保持されている)タンパク質を効率よく合成する方法、及び該方法によって製造された本来の機能と同質の機能を有するタンパク質を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コムギ胚芽抽出液をジチオスレイトールを含まない緩衝液で平衡化したセファデックスG−25カラムを用いてゲルろ過した後に、さらにタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを添加した翻訳反応液を用いて、抗サルモネラ単鎖抗体を合成したところ、取得された抗体は抗原に対し特異的に結合することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
〔1〕タンパク質分子内のジスルフィド結合が形成され得るに十分な酸化還元電位を有する無細胞タンパク質合成反応液。
〔2〕酸化還元電位が−100mV〜0mVである上記〔1〕に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔3〕ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールおよびグルタチオン/酸化型グルタチオンから選択される少なくとも1つを還元剤として含有する上記〔1〕または〔2〕に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔4〕20μM〜70μMのジチオスレイトールを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
〔5〕0.1mM〜0.2mMの2−メルカプトエタノールを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
〔6〕30μM〜50μM/1μM〜5μMのグルタチオン/酸化型グルタチオンを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
〔7〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含む、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔8〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである上記〔7〕に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔9〕無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の酸化還元電位を、タンパク質分子内のジスルフィド結合が形成され得るのに十分な程度に調整する工程を含む無細胞タンパク質合成反応液の調製方法。
〔10〕還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を、還元剤を含まない緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体に通すことを特徴とする上記〔9〕に記載の調製方法。
〔11〕無細胞タンパク質合成反応液中の還元剤の濃度範囲を選択する方法であって、
(1)互いに異なる濃度の還元剤を含有する複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(2)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加したこと以外は上記(1)と同じ複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(3)上記(1)と(2)で測定された可溶化率を比較し、
(4)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲、ならびに物質の非存在下で、前記濃度範囲における該物質存在下での可溶化率と同等もしくはそれ以上の可溶化率を示す濃度範囲を選択する方法。
〔12〕選択された濃度範囲の還元剤を含有する各無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質合成量をそれぞれ測定し、タンパク質合成量が最も高い還元剤の濃度範囲を選択することを特徴とする上記〔11〕に記載の方法。
〔13〕還元剤が、ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールおよびグルタチオン/酸化型グルタチオンから選択される少なくとも1つである上記〔11〕または〔12〕に記載の方法。
〔14〕無細胞タンパク質合成系において、上記〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載の方法により選択された濃度範囲の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔15〕無細胞タンパク質合成系において、20μM〜70μMのジチオスレイトールを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔16〕無細胞タンパク質合成系において、0.1mM〜0.2mMの2−メルカプトエタノールを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔17〕無細胞タンパク質合成系において、30μM〜50μM/1μM〜5μMのグルタチオン/酸化型グルタチオンを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔18〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が添加された無細胞タンパク質合成反応液を用いるものである上記〔14〕〜〔17〕に記載の方法。
〔19〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、翻訳反応初期には無細胞タンパク質合成反応液に添加されているものである、上記〔18〕に記載の方法。
〔20〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである上記〔18〕または〔19〕に記載の方法。
〔21〕上記〔14〕〜〔20〕に記載の方法を用いて取得されるタンパク質。
〔22〕無細胞タンパク質合成系を用いて合成されたタンパク質であって、分子内のジスルフィド結合が保持されていることを特徴とするタンパク質。
〔23〕本来有するものと同質の機能を有することを特徴とする上記〔22〕に記載のタンパク質。
〔24〕抗体タンパク質、分泌タンパク質、あるいは膜タンパク質である上記〔22〕または〔23〕に記載のタンパク質。
発明の詳細な説明
(1)ジスルフィド結合形成が可能な無細胞タンパク質合成反応液
本発明は、無細胞タンパク質合成系において、分子内ジスルフィド結合が正しく形成される(保持される)ようにタンパク質を合成できる方法、ならびにそのための無細胞タンパク質合成反応液に関するものである。
無細胞タンパク質合成系は、細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液(以下、これを「無細胞タンパク質合成用細胞抽出液」と呼ぶ)に鋳型(転写鋳型または翻訳鋳型)、基質となる核酸及びアミノ酸、エネルギー源の他、必要に応じて各種イオン、緩衝液、及びその他の転写または翻訳反応に好ましい添加物を加えて試験管内で行う方法である。このうち、鋳型として翻訳鋳型であるmRNAを用いて翻訳反応を行わしめるもの(これを以下「無細胞翻訳系」と称することがある)と、転写鋳型であるDNAを用い、RNAポリメラーゼ等の転写に必要な因子をさらに添加して転写反応を行った後、この転写反応で得られた産物(mRNA)を翻訳鋳型として翻訳反応を行わしめるもの(これを以下「無細胞転写/翻訳系」と称することがある)がある。本発明における無細胞タンパク質合成系は、上記の無細胞翻訳系、無細胞転写/翻訳系のいずれをも含む。
分子内ジスルフィド結合が正しく形成された(保持された)タンパク質を合成するために、本発明では、従来と比較して弱い還元条件にて翻訳反応を行うことを特徴とする。ここで、「従来と比較して弱い還元条件にて翻訳反応を行う」とは、酸化還元電位が−100mV〜0mV(好ましくは、−50mV〜−5mV)である無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを指す(従来の一般的に使用されていた無細胞タンパク質合成反応液の酸化還元電位:−300mV〜−150mV)(以下、本発明の無細胞タンパク質合成反応液を、「弱還元型合成反応液」と呼ぶことがある。)。なお、無細胞タンパク質合成反応液の酸化還元電位は、ORPコントローラーFO−2000(EYELA社製)を用い、その取扱い説明書の記載にしたがって、たとえば約3mlの合成反応溶液を調製し、26℃に保温した後、電位測定用電極を溶液中に浸した後、測定値が安定するまで待ち(約15分間〜30分間)、安定した値を記録することで測定することができる。
上述した範囲の酸化還元電位を有する本発明の弱還元型合成反応液は、無細胞翻訳系を行う反応液のタンパク質合成に必要な成分のうち、還元剤の濃度を調整することにより作製することができる。還元剤としては、従来より無細胞タンパク質合成反応液に使用されてきている公知の還元剤、たとえば、ジチオスレイトール(以下これを「DTT」と称することがある)、2−メルカプトエタノール、グルタチオン/酸化型グルタチオン、チオレドキシン、リポ酸、システインなどから選ばれる少なくとも1つを特に制限なく使用できる。たとえば、反応液のpHが約7.6の還元剤としてDTTを単独で用いる場合には最終濃度で20μM〜70μM、好ましくは30μM〜50μM、還元剤として2−メルカプトエタノールを単独で用いる場合には最終濃度で0.05mM〜0.5mM、好ましくは0.1mM〜0.2mM、還元剤としてグルタチオン/酸化型グルタチオンを単独で用いる場合には最終濃度で10μM〜400μM/1μM〜40μM、好ましくは30μM〜50μM/1μM〜5μMなどが例示される。
本発明の弱還元型合成反応液における還元剤濃度は、上述したものに限定されるものではなく、合成しようとするタンパク質、あるいは用いる無細胞タンパク質合成系の種類により適宜変更することができる。上記弱還元型合成反応液における還元剤の至適濃度範囲の選択法としては、特に制限はないが、例えば、合成されたタンパク質の可溶化率及びそれに及ぼすジスルフィド結合交換反応(リフォールディング反応)を触媒する物質の効果によって判断する方法、具体的には、以下の(1)〜(4)を含むことを特徴とする方法、を挙げることができる。
(1)互いに異なる濃度の還元剤を含有する複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(2)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加したこと以外は上記(1)と同じ複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(3)上記(1)と(2)で測定された可溶化率を比較し、
(4)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲、並びに該物質非存在下で前記濃度範囲におけるのと同等以上の可溶化率を示す濃度範囲を選択する。
すなわち、まず、還元剤の濃度を様々にふった複数の無細胞タンパク質合成反応液を調製し、これらにジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加して、分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質の合成を行う。また対照実験として、上記ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含有しない以外は同じ無細胞タンパク質合成反応液を調製して、それぞれ翻訳反応を行わせる。上記各場合のそれぞれについて、翻訳反応後の反応液中に合成されたタンパク質の可溶化率を測定する。可溶化率の測定法は特に制限されるものではないが、たとえば遠心分離等の方法により反応液中のタンパク質の可溶化成分を分離し、反応液全体中に占める可溶化成分の体積割合(液体シンチレーションカウンター、オートラジオグラフィを用いて測定)として測定できる。こうして可溶化率を測定していった結果、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲並びに、場合によってはさらに該物質の非存在下で前記濃度範囲における該物質の存在下の可溶化率と同等もしくはそれ以上の可溶化率を示す還元剤の濃度範囲を、分子内ジスルフィド結合を保持したまま合成し得る無細胞タンパク質合成反応液における還元剤の至適濃度範囲として選択する。ここで、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇したか否かは、対照実験の同じ濃度の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液での翻訳反応後の可溶化率と比較して有意に高ければ、可溶化率が上昇しているものと判断する。なお、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇した濃度範囲における反応液の可溶化率は、50%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。
上記「ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質」としては、真核細胞の小胞体内に存在する酵素であるタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、大腸菌由来のシャペロンタンパク質であるGroEL及びGroES、あるいはDnaK、DnaJ及びGrpEなどのリフォールディング反応を触媒する種々のタンパク質や、それらの低分子ミミック(例えば、PDIのミミックであるBMC(Chem Biol.,6,871−879,1999)、芳香族チオール化合物(4−mercaptobenzene acetate;J.Am.Chem.Soc.124,3885−3892,2002)などを特に制限されることなく使用することができる。中でも、真核細胞内でのタンパク質のリフォールディング機構を担っているタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを使用するのが好ましい。
また本発明においては、さらに、上記で選択された濃度範囲の還元剤を含有する各無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質合成量をそれぞれ測定し、タンパク質合成量が最も高い還元剤の濃度範囲を選択することで、合成されるタンパク質合成量の最も高い還元剤の濃度範囲を、さらに好ましい濃度範囲として選択することができる。
上述した本発明の弱還元型合成反応液の調製方法としては、還元剤を含まない無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を調製し、これに無細胞タンパク質合成系に必要な成分とともに、上記の濃度範囲となるように還元剤を添加する方法や、還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液から上記の濃度範囲となるように還元剤を除去する方法等が挙げられる。通常、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、これを抽出する際に高度の還元条件を必要とするため、抽出後にこの溶液から還元剤を除去する方法によることが簡便であり、好ましい。かかる方法としては、ゲルろ過や透析法などが挙げられる。例えば、ゲルろ過による場合、抽出後の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を、還元剤を含まないか、より低い濃度で含有する緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体を通して調製する方法が挙げられる。ゲルろ過用担体としては、具体的には、セファデックスG−25カラム(アマシャムバイオサイエンス社製)などを好適に使用することができる。また、上記還元剤を含まないか、より低濃度で含有する緩衝液の組成としては、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の種類等によって従来公知の組成を適宜選択すればよく、特に制限されるものではない。たとえば、後述するHEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、又はL型アミノ酸を含む緩衝液が例示される。
本発明はさらに、上記弱還元型合成反応液を用いた無細胞タンパク質合成方法も提供する。本発明のタンパク質合成方法は、上記選択方法により選択された濃度範囲の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液(すなわち上記弱還元型合成反応液)を用いて翻訳反応を行うことをその特徴とするものである。用いる弱還元型合成反応液としては、上述した、pH約7.6の最終濃度で20μM〜70μM(好ましくは、30μM〜50μM)のDTTを還元剤として含有する無細胞タンパク質合成反応液、最終濃度で0.05mM〜0.5mM(好ましくは、0.1mM〜0.2mM)の2−メルカプトエタノールを還元剤として含有する無細胞タンパク質合成反応液、最終濃度で10μM〜400μM/1μM〜40μM(好ましくは、30μM〜50μM/1μM〜5μM)グルタチオン/酸化型グルタチオンを還元剤として含有する無細胞タンパク質合成反応液などが例示できる。
また本発明のタンパク質合成方法は、上記弱還元型合成反応液に、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質をさらに添加して翻訳反応を行うことが好ましい。これにより、分子内のジスルフィド結合が正しく形成された(保持された)タンパク質をより高効率で合成することができる。ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質としては、上述したような物質を特に制限なく使用することができるが、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを使用するのが好ましい。
上記物質の添加量は、用いる物質の種類、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の組成、還元剤の種類、濃度などに応じて適宜選択すればよく、特に制限されるものではない。たとえば、コムギ胚芽から抽出した無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を用い、還元剤としてDTTを20μM〜70μM、好ましくは30μM〜50μM含有する無細胞タンパク質合成反応液に、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを添加する湯合、最終濃度で0.01μM〜10μMの範囲、好ましくは0.5μMとなるように添加する。
なお、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加する場合、添加する時期は、無細胞タンパク質合成反応液を使用して翻訳反応を開始する前であっても開始した後であっても構わないが、ジスルフィド結合が形成される効率から、翻訳反応初期(翻訳反応の開始直後より30分経過までの間)には添加されているのが好ましい。ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含有する無細胞タンパク質合成反応液を反応開始直前に予め調製してもよい。
(2)無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製
本発明に用いられる無細胞タンパク質合成用細胞抽出液(以下、単に「細胞抽出液」ということがある。)としては、無細胞タンパク質合成系においてタンパク質合成能を有するものであれば如何なるものであってもよい。本発明に用いられる細胞抽出液として具体的には、大腸菌、植物種子の胚芽、ウサギ網状赤血球等の細胞抽出液等の既知のものが用いられる。これらは市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液は、Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179−209,B.D.&Higgins,S.J.,eds),IRL Press,Oxford(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。
市販の細胞抽出液としては、大腸菌由来のものは、E.coli S30 extract system(Promega社製)とRTS 500 Rapid Tranlation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうち、植物種子の胚芽抽出液を用いることが好ましく、植物種子としては、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科の植物のものが好ましい。本発明における細胞抽出液としては、このうちコムギ胚芽抽出液を用いたものが好適である。
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature,179,160−161(1957)、あるいはErickson,A.H.et al.,(1996)Meth.In Enzymol.,96,38−50等に記載の方法を用いることができるが、以下にさらに詳細に説明する。
通常、胚芽の部分は非常に小さいので胚芽を効率的に取得するためには胚芽以外の部分をできるだけ除去しておくことが好ましい。通常、まず、植物種子に機械的な力を加えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。植物種子に加える力は、植物種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。具体的には、公知の粉砕装置を用いて、植物種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
植物種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、ピンミル、ハンマーミル等の被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置を用いることが好ましい。粉砕の程度は、使用する植物種子胚芽の大きさに応じて適宜選択すればよいが、例えばコムギ種子の場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのがが好ましい。
次いで、得られた植物種子粉砕物から、通常公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギ種子の場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水又は水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)p40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、胚乳成分の除去に十分且つ胚芽成分のタンパク質合成活性に悪影響を及ぼさない濃度で使用され得るが、例えば0.5%の濃度で使用することができる。水又は水溶液による洗浄処理及び界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
本発明においては、上記のように植物種子を粉砕して得られた粉砕物から植物胚芽を選別した後洗浄して得られた無傷(発芽能を有する)の胚芽を(好ましくは抽出溶媒の存在下に)細分化した後、得られるコムギ胚芽抽液を分離し、更に精製することにより無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液を得る。
抽出溶媒としては、緩衝液(例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、ピペラジン−1,4’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)−NaOH、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)−HClなど;pH5〜10)、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はチオール基の還元剤を含む水溶液を用いることができる。チオール基の還元剤は、特に制限はないが、例えば、DTT、2−メルカプトエタノール、グルタチオン/酸化型グルタチオン、チオレドキシン、リポ酸、システインなどが挙げられる。これらの還元剤の濃度は、種類に応じて適宜選択することができ、例えばDTTの場合10μM〜5mM、2−メルカプトエタノールの場合50μM〜20mM、グルタチオン/酸化型グルタチオンの場合5μM〜1mM/1μM〜100μMの範囲で選択される。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸を含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸及び/又はDTTを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク質合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
胚芽と抽出に必要な量の抽出溶媒とを混合し、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。また、細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいし、凍結させていないものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのがより好ましい。
細分化の方法としては、摩砕、圧砕、衝撃、切断等粉砕方法として従来公知の方法を採用することができるが、特に衝撃または切断により胚芽を細分化することが好ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕又は圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
細分化する際に用いることのできる装置や方法としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、好ましくは10℃以下で操作が可能な範囲内、特に好ましくは4℃程度が適当である。
このように衝撃または切断により胚芽を細分化することにより、胚芽の細胞核や細胞壁を全て破壊してしまうのではなく、少なくともその一部は破壊されることなく残る。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在するタンパク質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
このような方法によれば、従来の植物胚芽を粉砕する工程と粉砕された植物胚芽と抽出溶媒とを混合してコムギ胚芽抽出液を得る工程とを同時に一つの工程として行うことができるため効率的にコムギ胚芽抽出液を得ることができる。上記の方法を、以下、「ブレンダー法」と称することがある。
このような植物胚芽の細分化、特に衝撃または切断による細分化は、抽出溶媒の存在下に行うことが好ましいが、細分化した後に抽出溶媒を添加することもできる。
次いで、遠心分離等によりコムギ胚芽抽出液を回収し、ゲルろ過、透析等により精製することによりコムギ胚芽抽出液を得ることができる。ゲルろ過としては、例えばセファデックスG−25カラム等を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。ここで、上述のように高度の還元条件下で無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の抽出を行った場合には、上述したように、還元剤を含まないか、より低濃度で含有する緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体に当該細胞抽出液をとおすのが好ましい。上記緩衝液の組成は、特には制限されるものではないが、例えば、HEPES−KOH(pH7.6)、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、又はL型アミノ酸を含む溶液を用いると、抽出液中に含まれていた還元剤のうちの約97%が吸収されるため、好ましい。具体的には、コムギ胚芽から還元剤としてDTTを1mM含む抽出液を用いて抽出を行った場合、最終的に約30μMのDTTを含むコムギ胚芽抽出液を取得することができる。ただし、還元剤濃度を低下させたコムギ胚芽抽出液は凍結保存によりその活性が著しく低下するため、還元剤の除去工程は翻訳反応に用いる直前に行うことが好ましい。
ゲルろ過または透析後の胚芽抽出液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入の可能性のある微生物が除去可能なものであれば特に制限はないが、通常0.1μm〜1μm、好ましくは0.2μm〜0.5μmが適当である。ちなみに、小さな部類の枯草菌の胞子のサイズは0.5μm×1μmであることから、0.20μmのフィルター(例えばSartorius社製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、まずポアサイズの大きめのフィルターでろ過し、次に混入の可能性のある微生物が除去可能であるポアサイズのフィルターを用いてろ過するのが好ましい。
このようにして得られた無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、原料細胞自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳タンパク質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いたコムギ胚芽抽出液のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
また、このような無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、低分子のタンパク質合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含有しているため、細胞抽出液の構成成分から、これら低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画排除することが好ましい。排除されるべき物質(低分子合成阻害物質)の分子量は、細胞抽出液中に含まれるタンパク質合成に必要な因子よりも小さいものであればよい。具体的には、分子量50,000〜14,000ダルトン以下、好ましくは14,000ダルトン以下のものが挙げられる。
低分子合成阻害物質の細胞抽出液からの排除方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法(透析法)が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。なお、低分子合成阻害物質を「含まない」とは、上記した種々の方法によって低分子合成阻害物質を排除する処理を行ったのと同程度にまで、該低分子合成阻害物質が含まれていないことを意味し、排除されたか否かは、得られる細胞抽出液のそのタンパク質合成活性の高さでもって確認することができる。
以下、透析法を用いる場合を例に詳細に説明する。
透析に用いる透析膜としては、50,000〜12,000ダルトンの排除分子量を有するものが挙げられる。具体的には排除分子量12,000〜14,000ダルトンの再生セルロース膜(Viskase Sales,Chicago社製)や、排除分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量の上記細胞抽出液を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
低分子合成阻害物質の排除を行う際、細胞抽出液に不溶性物質が生成される場合には、これを阻害する(以下、これを「細胞抽出液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られる細胞抽出液(以下、これを「処理後細胞抽出液」と称することがある)のタンパク質合成活性が高まる。ここで、不溶性物質とは、低分子合成阻害物質の排除工程にある細胞抽出液を適当な条件、具体的には遠心分離やろ過等、特に10,000〜80,000×g、好ましくは30,000×g程度、5〜60分間、好ましくは20分間程度の遠心分離によって沈殿として回収される物質である。
細胞抽出液の安定化の具体的な方法としては、上記低分子阻害物質の排除を行う際に、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等を含む溶液中で行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATP、GTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
これらの成分(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液中で低分子合成阻害物質の排除を行う場合は、細胞抽出液に予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子合成阻害物質の排除工程に供してもよい。低分子合成阻害物質の排除に透析法を用いる場合は、細胞抽出液だけでなく透析外液にも安定化成分を添加して透析を行い低分子合成阻害物質の排除を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体を安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含む細胞抽出液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、細胞抽出液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分を細胞抽出液に添加し、適当な時間の後に低分子合成阻害物質の排除工程を行い、取得された処理後細胞抽出液を遠心分離等の方法で可溶性画分と不溶性画分に分離し、そのうちの不溶性物質が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後細胞抽出液を用いて無細胞タンパク質合成を行い、タンパク質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上記の選択方法において、低分子合成阻害物質の排除工程として透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られた細胞抽出液中の不溶性物質の量や、得られた細胞抽出液のタンパク質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
このようにして選択された細胞抽出液の安定化条件の例として、具体的には、上記したブレンダー法を用いて調製したコムギ胚芽抽出液で、透析法により低分子合成阻害物質の排除工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出液、及び透析外液中に、ATPを100μM〜0.5mM、GTPを25μM〜1mM、20種類のL型アミノ酸をそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、タンパク質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
細胞抽出液への安定化成分の添加方法は、特に制限はなく、低分子合成阻害物質の排除工程の前に添加しこれを適当時間インキュベートして安定化を行った後、低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよいし、安定化成分を添加した細胞抽出液、及び/または安定化成分を添加した該排除工程に用いるための緩衝液を用いて低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよい。
(3)弱還元型合成反応液を用いたタンパク質合成
上記した無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、これを上記(1)に記載した範囲の還元剤の濃度範囲に調製し、無細胞タンパク質合成に必要なエネルギー源やアミノ酸、翻訳鋳型、あるいはtRNA等、またジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を必要に応じて添加して、また無細胞転写/翻訳系の場合には、RNAポリメラーゼ、4種のヌクレオシド三リン酸、翻訳鋳型の代わりに転写鋳型DNAなど転写に必要な酵素をさらに添加して、無細胞タンパク質合成反応液として調製され、それぞれ選択されたそれ自体既知のシステム、または装置に投入し、タンパク質合成を行うことができる。タンパク質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179−209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford(1984))や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin,A.S.et al.,Science,242,1162−1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WlD6)、あるいは重層法(PROTEIOSTM Wheat germ cell−free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。
さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000−333673号公報:以下これを「不連続ゲルろ過法」と称することがある)等を用いることができる。
このうち、アミノ酸やエネルギー源の連続、または不連続供給系を使用することにより、反応を長時間維持させることができ、更なる効率化が可能となるが、本発明の弱還元型合成反応液を用いてタンパク質合成を行う湯合は、バッチ法を用いる方がタンパク質合成効率が高い傾向にあるため好ましい。また、上記(2)に記載のブレンダー法によりコムギ胚芽抽出液を調製した場合にはtRNAを充分に含んでいるため通常これを添加する必要が無い。
また、本発明の方法により合成するタンパク質としては、特に制限されるものではなく、如何なるタンパク質であってもよいが、その分子内にジスルフィド結合を有しているタンパク質が好ましい。本発明の合成方法によれば、無細胞タンパク質合成系で、分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質を合成する場合であっても、正しい立体構造が形成され、そのタンパク質が本来有する機能と同質の機能を有するタンパク質を合成することが可能であるからである。本発明の合成方法にて、本来有する機能と同質の機能を有するように好適に合成し得る分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質としては、具体的には、たとえば任意の抗原に対する抗体のFabフラグメント、VLとVHとをリングで連繋した単鎖抗体(ScFv)などの抗体タンパク質、たとえば血清アルブミン、酸性ホスファターゼ、インシュリン、リゾチーム、セルラーゼなどの分泌タンパク質、たとえばGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質、脳に局在するグルタミン酸トランスポーター、ホルモン受容体としてのLeucine Rich Repeat受容体(LRR receptor)などの膜タンパク質等が挙げられる。抗体タンパク質を合成する場合には、抗原結合領域をランダムなアミノ酸配列とした人工抗体ライブラリーをコードするDNAを鋳型として合成することにより抗体ライブラリーを作製することができる。またたとえば、重鎖と軽鎖とがジスルフィド結合しているIgGなど、分子間にジスルフィド結合を有するタンパク質についても本発明の方法により好適に合成することができる。
バッチ法によりタンパク質合成を行う場合には、例えば翻訳鋳型を除いた合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後に翻訳鋳型を添加してインキュベートすること等により行うことができる。無細胞タンパク質合成反応液(翻訳反応液)としては、例えば、10〜50mM HEPES−KOH(pH7.8)、55〜120mM酢酸カリウム、1〜5mM酢酸マグネシウム、0.1〜0.6mMスペルミジン、各0.025〜1mM L−アミノ酸、20〜70μM、好ましくは30〜50μMのDTT、1〜1.5mM ATP、0.2〜0.5mM GTP、10〜20mMクレアチンリン酸、0.5〜1.0U/μl RNase inhibitor、0.01〜10μMタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、及び24〜75%コムギ胚芽抽出液(ブレンダー法により調製したもの)を含むもの等が用いられる。
このような翻訳反応液を用いた場合、プレインキュベートは10〜40℃で5〜10分間、インキュベートは同じく10〜40℃、好ましくは18〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で行う。反応時間は、反応が停止するまでの時間であるが、バッチ法では通常10分〜7時間程度である。
透析法によりタンパク質合成を行う場合には、合成反応液を透析内液とし、透析外液と物質移動が可能な透析膜によって隔離される装置を用いて、タンパク質合成を行う。具体的には、例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な透析容器に入れ反応内液とする。透析容器としては、底部に透析膜が付加されている容器(第一化学社製:透析カップ12,000等)や、透析用チューブ(三光純薬社製:12,000等)が挙げられる。透析膜は、10,000ダルトン以上の分子量限界を有するものが用いられるが、12,000ダルトン程度の分子量限界を有するものが好ましい。
透析外液としては、上記合成反応液から翻訳鋳型を除いたものが用いられる。透析外液は反応速度が低下した時点で、新鮮なものと交換することにより透析効率を上昇させることができる。反応温度、及び時間は用いるタンパク質合成系において適宜選択されるが、コムギ胚芽抽出液を用いた系においては通常10〜40℃、好ましくは18〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で10分〜12日間行うことができる。
重層法を用いてタンパク質合成を行う場合には、合成反応液を適当な容器に入れ、該溶液上に、上記透析法に記載した透析外液を界面を乱さないように重層することによりタンパク質合成を行う。具体的には例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な容器に入れ反応相とする。容器としては、例えばマイクロタイタープレート等が挙げられる。この反応相の上層に上記透析法に記載した透析外液(供給相)を界面を乱さないように重層して反応を行う。
両相の界面は必ずしも重層によって水平面状に形成させる必要はなく、両相を含む混合液を遠心分離することによって、水平面を形成することも可能である。両相の円形界面の直径が7mmの場合、反応相と供給相の容量比は1:4〜1:8が適当であるが、1:5が好適である。両相からなる界面面積は、大きいほど拡散による物質交換率が高く、タンパク質合成効率が上昇する。従って、両相の容量比は、両相の界面面積によって変化する。合成反応は静置条件下で、反応温度、及び時間は用いるタンパク質合成系において適宜選択されるが、コムギ胚芽抽出液を用いた系においては10〜40℃で、好ましくは18〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で、通常10〜17時間行うことができる。また、大腸菌抽出液を用いる場合、反応温度は30〜37℃が適当である。
不連続ゲルろ過法を用いてタンパク質合成を行う場合には、合成反応液により合成反応を行い、合成反応が停止した時点で、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を供給し、合成物や分解物を排出することによりタンパク質合成を行う。具体的には例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な容器に入れ反応を行う。容器としては、例えばマイクロプレート等が挙げられる。この反応下では、例えば容量の48%容のコムギ胚芽抽出液を含む反応液の場合には反応1時間で合成反応は完全に停止する。このことは、アミノ酸のタンパク質への取りこみ測定やショ糖密度勾配遠心法によるポリリボソーム解析(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,97,559−564(2000))により確認することができる。
合成反応の停止した上記合成反応液を、予め上記透析法に記載の透析外液と同様の組成の供給液により平衡化したゲルろ過カラムを通す。このろ過溶液を再度適当な反応温度に保温することにより、合成反応が再開し、タンパク質合成は数時間に渡って進行する。以下、この反応とゲルろ過操作を繰り返す。反応温度、及び時間は用いるタンパク質合成系において適宜選択されるが、コムギ胚芽抽出液を用いた系においては26℃で約1時間ごとにゲルろ過を繰り返すのが好ましい。
かくして得られたタンパク質は、それ自体既知の方法により確認することができる。具体的には例えば、アミノ酸のタンパク質への取りこみ測定や、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分離とクマシーブリリアントブルー(CBB)による染色、オートラジオグラフィー法(Endo,Y.et al.,J.Biotech.,25,221−230(1992);Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,97,559−564(2000))等を用いることができる。
また、かくして得られる反応液には、目的タンパク質が高濃度に含まれているので、透析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲルろ過等のそれ自体既知の分離、精製法により、該反応液から目的タンパク質を容易に取得することができる。
以下、本発明を実験例によりさらに詳細に説明するが、下記の実験例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実験例により何ら限定されるものではない。
実験例1:コムギ胚芽抽出液の調製
北海道産チホクコムギ種子(未消毒)を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製:Rotor Speed Mill pulverisette 14型)に添加し、回転数8,000rpmで種子を温和に粉砕した。篩で発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.7〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液(容量比=四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別排除する手段を有する装置である。
色彩選別機のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/m2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を排除するために、ベージュ色のベルトを取り付け、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、濃緑色のベルトに取り替えて胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。
得られたコムギ胚芽画分を4℃の蒸留水に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次いで、ノニデット(Nonidet:ナカライ・テクトニクス社製)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄してコムギ胚芽を得、以下の操作を4℃で行った。
洗浄した胚芽湿重量に対して2倍容量の抽出溶媒(80mM HEPES−KOH、PH7.8、200mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム、8mM DTT、(各0.6mMの20種類のL型アミノ酸を添加しておいてもよい))を加え、ワーリングブレンダーを用い、5,000〜20,000rpmで30秒間ずつ3回の胚芽の限定破砕を行った。このホモジネートから、高速遠心機を用いた30,000×g、30分間の遠心により得られる遠心上清を再度同様な条件で遠心し、上清を取得した。本試料は、−80℃以下の長期保存で活性の低下は見られなかった。取得した上清をポアサイズが0.2μmのフィルター(ニューステラディスク25:倉敷紡績社製)を通し、ろ過滅菌と混入微細塵芥の除去を行った。
次に、このろ液を予め還元剤を含まない緩衝液(40mM HEPES−KOH(pH7.8)、100mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、各0.3mMの20種類L型アミノ酸混液(タンパク質の合成目的に応じて、アミノ酸を添加しなくてもよいし、標識アミノ酸であってもよい))で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムでゲルろ過を行った。得られたろ液を、再度30,000×g、30分間の遠心し、回収した上清の濃度を、A260nmが90〜150(A260/A280=1.4〜1.6)に調整した後、下記の透析処理やタンパク質合成反応に用いるまで、−80℃以下で保存した。
実験例2:弱還元型無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成された抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合解析
(1)野生型及び変異型サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAの作製
本発明のタンパク質合成の対象としては、分子内にジスルフィド結合を有する抗サルモネラ単鎖抗体を選択した。該抗体は既にX線立体構造が解析され、糖鎖に対する分子認識が詳細に調べられている(Cygler,M.,et al.,Science,253,442−445(1991);Bundle,D.R.et al,Biochemistry,33,5172−5182(1994))。サルモネラ細菌の細胞表層には、リポ多糖が存在し、抗サルモネラ抗体は、このリポ多糖の最も細胞外に位置するO−抗原に結合する(Anand,N.N.,et al.,Protein Engin.,3,541−546(1990))。このO−抗原に対して特異的に結合する抗原認識部位であるVL鎖とVH鎖を特定のリング(リンカー)で繋げた単鎖抗体を大腸菌で大量発現させた報告がある(Anand,N.N.,et al.,J.Biol.Chem.,266,21874−21879(1991))。単鎖抗体を活性な状態で合成するためには、VL鎖とVH鎖に1個ずつ存在するジスルフィド結合の形成が不可欠である(Zdanov,A.L.Y.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,91,6423−6427(1994))ため、該単鎖抗体を本発明のタンパク質合成方法の対象とした。
抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAは、野生型のサルモネラO−抗原に対する単鎖抗体をコードするDNAを含むプラスミド(Anand,N.N.,et al.,J.Biol.Chem.,266,21874−21879(1991))を鋳型として、配列番号1及び2に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてポリメラーゼチェインリアクション(PCR)を行った。取得されたDNA断片をpGEMT−easyベクター(Promega社製)に挿入した後、BglII及びNotIで制限酵素処理した。得られたDNA断片を予め同じ制限酵素で処理したpEUベクターに挿入した。このプラスミドをテンプレートとして配列番号3及び4に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRを行い、ストップコドンを導入した。ここで作製したプラスミドをscfv−pEUと称する。
また、抗サルモネラ単鎖抗体の抗原認識部位に存在する6個の超可変ループのうち、抗原の結合に最も寄与する領域はVH3領域であることがX線立体構造解析から明らかにされており、この領域に変異を導入すると抗原結合活性が大幅に低下する結果が既に報告されている(Brummell,D.A.,et al.,Biochemistry,32,1180−1187(1993))。そこで、無細胞タンパク質合成系により合成された単鎖抗体の抗原特異性を解析する目的で、上記の領域に変異を導入した変異型抗サルモネラ単鎖抗体を作製するため、該抗体の鋳型となるDNAを作製した。
VH3領域の9個のアミノ酸をすべてアラニンに置換した変異体(以下、これを「AlaH3」と称することがある)をコードするDNAを作製した。まず、上記で作製したプラスミドscfv−pEUを鋳型として、配列番号5及び6に記載の塩基配列からなるプライマーによりLA taq(TAKARA社製)キットを用いてPCRを行った。PCR反応液は、5μl 10×LA buffer、5μl 25mM塩化マグネシウム、8μl 2.5mM dNTP、各1μl 20μMプライマー、0.1ng鋳型プラスミド/50μlに調製し、94℃1分×1サイクル、94℃45秒/55℃1分/72℃1分30秒×30サイクル、72℃5分の反応を行った。増幅されたDNA断片は、常法に従い、KOD T4polymerase(NEB社製)により末端の平滑化を行ったのち、Polynucleotide kinase(NEB社製)によるリン酸化後、Ligation High(東洋紡社製)によりSelf Ligationを行い、環状のプラスミド(以下、これを「AlaH3−pEU」と称することがある)を作製した。
また、抗サルモネラ単鎖抗体の抗原認識部位に存在する超可変ループ構造形成の要であるグリシン残基をアスパラギン酸に置換した変異体(以下、これを「G102D」と称することがある)を、配列番号7及び8に記載の塩基配列からなるプライマーを用いた上記と同様のPCRで増幅されたDNAを上記と同様にして環状のプラスミド(以下、これを「G102D−pEU」と称することがある)として作製した。
(2)弱還元型合成反応液を用いたタンパク質合成
上記(1)で取得された鋳型DNAについて、SP6 RNA polymerase(TOYOBO社製)を用いて転写反応を行った。反応液としては、80mM HEPES−KOH(pH7.6)、16mM酢酸マグネシウム、2mMスペルミジン、10mM DTT、NTPs各2.5mM、0.8U/μl RNase inhibitor、50μg/mlプラスミド、及び1.2U/μl SP6 RNA polymerase/ddw 400μlを用いた。37℃で2時間インキュベートした後、フェノール/クロロフォルム抽出、NICK column(Amersham Pharmacia社製)による精製を行い、エタノール沈殿後、沈殿を精製水35μlに溶解した。
取得されたmRNAを翻訳鋳型として用いて、翻訳反応を行った。弱還元型合成反応液の組成は、上記実験例1のゲルろ過後のコムギ胚芽抽出液12μlに、1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、4nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNA、を添加したものを用いた。該弱還元型合成反応液の、酸化還元電位は−14mV(ORPコントローラーFO−2000(EYELA社製)を用い、その取扱い説明書の記載にしたがって、たとえば約3mlの合成反応溶液を調製し、26℃に保温した後、電位測定用電極を溶液中に浸した後、測定値が安定するまで待って測定)であり、DTTの最終濃度は58μMであった。翻訳反応は、26℃で4時間バッチ法により行った。
翻訳反応1時間ごとにWhatmanフィルターへ5μlをスポットした後TCA沈殿を行い、液体シンチレーションカウンターにより各スポット中の14C−Leuの取り込み量を測定した。この結果を図1に示す。図1から明らかなように野生型、変異型単鎖抗体ともに3時間後に合成量が最大に達していた。また、翻訳反応3時間後の反応液を15,000rpm、10分間の遠心分離によって可溶化成分を分離し、その割合を測定したところ、合成タンパク質の可溶化率は、いずれも60%程度であった。
(3)コムギ胚芽抽出液中の糖鎖分解酵素阻害剤の検討
このようにして合成された抗サルモネラ単鎖抗体とサルモネラ糖鎖との結合性を解析する場合、コムギ胚芽抽出液には、糖鎖を分解する酵素が含まれており、上記のようにしてコムギ胚芽抽出液を用いて合成された単鎖抗体を含む溶液には、抗原である糖鎖を分解する活性があることが明らかとなったので、結合性の解析実験を行う反応液には、サルモネラ糖鎖を分解する酵素であるβ−ガラクトシダーゼの阻害剤を添加して行った。β−ガラクトシダーゼの阻害剤については以下の実験により検討した。
塩化カルシウムはβ−ガラクトシダーゼの活性部位に結合することが知られている(Huber,R.E.,et al.,Biochemistry,18,4090−4095(1979))。そこで、p−nitrophenyl β−galactosideを基質としてコムギ胚芽抽出液中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。実験例1で取得されたコムギ胚芽抽出液50μlに対し、各濃度(2mM、4mM、6mM、12mM)の塩化カルシウムを添加すると、塩化カルシウムを添加しない場合(0mM)とは異なり、塩濃度が増加した結果と考えられる沈殿が生じた。この溶液を5,000rpm、10分間の遠心分離に付し、得られた上清について酵素活性を測定した。この結果を図2に示す。図2から明らかなように、塩化カルシウムは濃度依存的に上記の上清中に含まれるβ−ガラクトシダーゼ活性を阻害した。上記の沈殿中の酵素活性については、上清及び沈殿に1.3mMのEGTAを添加すると、上清中の酵素活性は回復したが、沈殿中の酵素活性については特に変化が見られなかったことから、β−ガラクトシダーゼは上清中にのみ存在し、この活性は塩化カルシウムの添加により濃度依存的に阻害されることが明らかとなった。
これらの結果よりサルモネラ糖鎖との結合性解析に用いる抗サルモネラ単鎖抗体の合成には予め2.5mMの塩化カルシウムを添加して翻訳反応に用いることとした。
(4)弱還元型合成反応液を用いて合成された抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性の解析
(4−1)抗原のビオチン化
抗原である糖鎖と抗体の結合体を回収するために抗原にビオチンを結合させた。ビオチン化糖鎖の調製方法は、文献記載の方法に準じた(Melkel,P.,et al.,J.Immunol.Methods,132,255−261(1990))。リポポリサッカライド(SIGMA社製)20mg(2.8μmol)を0.25M水酸化ナトリウム水溶液20μlに溶解し、56℃にて1時間攪拌した。蒸留水に対して透析後、メタ過葉酸ナトリウム200mg(0.8mmol)を添加し、遮光下にて5分間攪拌した。エチレングリコール1mlをさらに添加して1時間攪拌した後、これを蒸留水に対して透析を行い、凍結乾操によりアルデヒド型サルモネラ糖鎖の粉末を得た。
これを0.2M MK2HPO4−NaOH緩衝液(pH8.0)3mlに溶解し、そのうち1.5mlに対して30mgの1,3−dl aminopropane(0.2mmol)及び30mgのNaCNBH3(0.5mmol)を添加した。1時間攪拌した後、凍結乾燥を行い、アミノ化サルモネラ糖鎖の粉末を得た。これを600μlのDMSOに懸濁し、N−hydroxysuccinimidobiotin 3.3mg(0.1mmol)を添加して室温にて一晩穏やかに攪拌を続けた。これにさらに蒸留水1mlを加えた後、セファデックスG−25カラムによりゲルろ過を行った。
ゲルろ過は、蒸留水で平衡化したセファデックスG−25ゲル120ml(1.0×50cm)に対し、上記で作製したビオチン化サルモネラ糖鎖の溶液1.6mlをロードし、60mlの蒸留水により溶出した。各フラクション2mlに対して、フェノール硫酸法により490nmにおける中性糖の検出を行った。サルモネラ糖鎖の存在が確認された画分を集めた後、凍結乾操し、最後に0.5mlの50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解し、以下の解析に用いた。
(4−2)抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性の解析
実験例2(2)に記載のコムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成反応液に2.5mMの塩化カルシウムと、さらに0.5μMのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を添加し、遠心分離により生じた沈殿を除いたものを用いて、実験例2(1)に記載の翻訳鋳型を添加してタンパク質合成を行った。取得された野生型及び変異型抗サルモネラ単鎖抗体を含む無細胞タンパク質合成反応液50μlを、15,000rpm、10分間の遠心分離により不溶性タンパク質を除いた。この上清28μlに対し、(4−1)で調製したビオチン化サルモネラ糖鎖3μl(280μM)と蒸留水14μlを添加し、26℃で1時間インキュベートした。その溶液16μlを25μlストレプトアビジン固定化アガロースゲル(SIGMA社製、30nmol/mlゲル)と共にエッペンドルフチューブ(500μl)へ入れ、室温にて穏やかに混合した。
反応後マイクロ遠心機にてゲルを沈降した後、上清を吸い取り代わりに25μlの50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を添加した。これを10分間同様に混合しゲルを沈降させ上清を吸い取る操作を8回繰り返した。次に25μlの0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を添加した。これを10分間同様に混合しゲルを沈降させ上清を吸い取る操作を4回繰り返した。続いて、4%SDSを含む同量の50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を添加し、30分混合した。この操作も4回繰り返した。各上清成分をTCA沈殿し、14Cカウントを測定した。この結果を図3に示す。
図3中、横軸は上記で取得された上清の番号を示し、1〜8が50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、9〜13が0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、さらに14〜22が4%SDSを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分を示し、ビオチン化サルモネラ糖鎖に特異的に結合した抗体は14〜22の画分に溶出されたものである。図3から明らかなように野生型抗サルモネラ単鎖抗体のみが特異的に抗原に結合していた。このことは弱還元型合成反応液にさらにPDIを添加して合成された抗体が本来の機能を有していることを示す。
実験例3:合成反応液中の還元剤濃度及びPDIが合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で取得された抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中のDTT及びPDIの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、抗原との結合性を解析した。翻訳反応、及び抗原との結合性の解析は実験例2に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、4nCi/μl14C Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)(c)と、さらに(a)DTTの最終濃度2mMとなるようにDTTを添加したもの(酸化還元電位:−230mV)、(b)DTTの最終濃度2mM、PDI 0.5μMとなるように添加したもの(酸化還元電位:−237mV)、(d)PDIの最終濃度0.5μMとなるように添加したものを用いた(酸化還元電位:−21mV)。この結果を図4に示す。
図4中、横軸はストレプトアビジン固相化アガロースから溶出された上清の番号を示し、1〜8が50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、9〜13が0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、さらに14〜22が4%SDSを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分を示し、ビオチン化サルモネラ糖鎖に特異的に結合した抗体は14〜22の画分に溶出されたものである。また、a〜dは上記の無細胞タンパク質合成反応液の組成を示す。
図4から明らかなように、PDIを添加した弱還元型合成反応液により翻訳合成された抗サルモネラ単鎖抗体が抗原へ結合する比率が最も高く、高還元型合成反応液を用いた場合ほとんどが抗原への結合活性を有さない。また、PDIの添加の効果は弱還元型合成反応液では顕著であった。
さらに上述したそれぞれの合成反応液を15,000rpm、10分間の遠心分離によって可溶化成分を分離し、その割合を測定した。この結果を図5に示す。図中a〜dは上記合成反応液の組成を示し、縦軸は得られたタンパク質の可溶化率を示す。
DTTを高濃度に含む無細胞タンパク質合成反応液で合成されたタンパク質はその50%が可溶性(可溶化率:50%)であるが、DTT濃度を低くした場合その比率は65%以上(可溶化率:65%以上)に上昇し、さらにPDIの添加により80%(可溶化率:80%)程度となった。
これらの結果より、無細胞タンパク質合成系において、タンパク質分子内に存在するジスルフィド結合が形成され、本来の機能を有するタンパク質が合成されていることは、取得された無細胞タンパク質合成反応液に含まれるタンパク質の可溶化率がPDIの添加によって上昇することを指標に判断できることが明らかとなった。
実験例4:無細胞タンパク質合成反応液中のDTT濃度が合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で作製した抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中のDTTの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、無細胞タンパク質合成反応液の可溶化率を解析した。翻訳反応、及び無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率の解析は実験例2及び3に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)と、さらにDTTの最終濃度50μM、100μMとなるような量のDTTを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−52mV、−81mV)を用いた。また、ぞれぞれの無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率に対するPDIの効果を解析するために、同様の組成で0.5μMのPDIを添加した反応液を用いて合成を行った。この結果を図6に示す。
図6中左側のカラム(−PDI)にはPDIを含まない反応の結果を、また右側のカラム(+PDI)にはPDIを含む反応の結果を示した。図6から明らかなように、無細胞タンパク質合成反応液中においては50μMより高濃度のDTTを含むとPDIによる可溶化率の上昇効果が認められなかった。
実験例5:無細胞タンパク質合成反応液中のDTT濃度が合成されるタンバタ質量に与える影響の解析
実験例4によりタンパク質の分子内ジスルフィド結合の形成には、無細胞タンパク質合成系の無細胞タンパク質合成反応液中のDTT濃度が50μM以下であることが必要であることが判ったが、DTTは該合成系において必須の成分であることが知られているため、その濃度のタンパク質合成量への影響を解析した。
翻訳鋳型、翻訳反応、タンパク質合成量の測定は、全て実験例2(1)及び(2)に記載の方法と同様にして行った。鋳型としてはscfv−pEUを用いた。また、無細胞タンパク質合成反応液としては、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)と、さらにDTTの最終濃度180μM、360μM、600μM、840μM、1.2mM、3mMとなるようにDTTを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−95mV、−130mV、−170mV、−180mV、−200mV、−230mV)を用いた。また、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液を透析により含有するDTT濃度を15μMに調製したもの12μl、透析を経ずにDTT濃度を30μMとしたもの12μlそれぞれにつき、1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(PH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(それぞれ、酸化還元電位が+20mV、−9mV)を用いた。この結果を図7に示す。
図7から明らかなように、タンパク質合成量が最大となるのは、DTT濃度が1.2mM程度の無細胞タンパク質合成反応液を用いた場合であった。この合成量に比べて、分子内のジスルフィド結合の形成に最も適しているDTT濃度50μMの無細胞タンパク質合成反応液では、約50%程度であった。さらにDTT濃度30μMでは、40%程度であり、DTT濃度15μMではタンパク質合成は行われていなかった。
実験例6:無細胞タンパク質合成反応液中の2−メルカプトエタノール濃度が合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で作製した抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中の2−メルカプトエタノールの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、無細胞タンパク質合成反応液の可溶化率を解析した。翻訳反応、及び無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率の解析は実験例2及び3に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むものと、さらに2−メルカプトエタノールの最終濃度が0.2mM、0.4mM、0.96mM、9.6mMとなるような量の2−メルカプトエタノールを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−35mV、−63mV、−168mV、−207mV)を用いた。また、それぞれの無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率に対するPDIの効果を解析するために、同様の組成で0.5μMのPDIを添加した反応液を用いて合成を行った。この結果を図8に示す。
図8中左側のカラム(−PDI)にはPDIを含まない反応の結果を、また右側のカラム(+PDI)にはPDIを含む反応の結果を示した。なお、図8には、実験例5でのDTT濃度30μMの場合も参考として示している。図8から明らかなように、無細胞タンパク質合成反応液中においては0.2mMより高濃度のメルカプトエタノールを含むとPDIによる可溶化率の上昇効果が認められなかった。
さらに実験例5と同様の方法で上記無細胞タンパク質合成反応液によるタンパク質合成量を測定したところ、最終濃度0.2mMとなるような量のメルカプトエタノールを添加した無細胞タンパク質合成反応液を用いてもタンパク質合成量の低下は10%程度にとどまることが判った。
実験例7:無細胞タンパク質合成反応液中のグルタチン/酸化型グルタチオン濃度が合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で作製した抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中のグルタチン/酸化型グルタチオンの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、無細胞タンパク質合成反応液の可溶化率を解析した。翻訳反応、及び無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率の解析は実験例2及び3に記載したものと同様にして行った。
このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)と、さらにグルタチン/酸化型グルタチオンの最終濃度が50μM/5μM、200μM/20μMとなるような量のグルタチオン/酸化型グルタチオンを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−3mV、−6mV)を用いた。また、ぞれぞれの無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率に対するPDIの効果を解析するために、同様の組成で0.5μMのPDIを添加した反応液を用いて合成を行った。この結果を図9に示す。
図9中左側のカラム(−PDI)にはPDIを含まない反応の結果を、また右側のカラム(+PDI)にはPDIを含む反応の結果を示した。図9から明らかなように、無細胞タンパク質合成反応液中においてはグルタチン/酸化型グルタチオン濃度が50μM/5μMより高濃度であるとPDIによる可溶化率の上昇効果が認められなかった。
さらに実験例5と同様の方法で上記無細胞タンパク質合成反応液によるタンパク質合成量を測定したところ、グルタチオン/酸化型グルタチオン最終濃度が50μM/5μMの無細胞タンパク質合成反応液を用いてもタンパク質合成量の低下は10%程度にとどまることが判った。
実験例8:弱還元型合成反応液を用いた翻訳反応におけるPDIの添加時期の検討
実験例2(1)で取得された抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中に添加するPDIの添加時期を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、抗原との結合性を解析した。翻訳反応、及び抗原との結合性の解析は実験例2に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、4nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)を用いた。またPDIについては、翻訳反応2時間後に同量添加した場合と、添加しない場合を検討した。この結果を図10に示す。
図10中、横軸はストレプトアビジン固相化アガロースから溶出された上清の番号を示し、1〜8が50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、9〜13が0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、さらに14〜22が4%SDSを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分を示し、ビオチン化サルモネラ糖鎖に特異的に結合した抗体は14〜22の画分に溶出されたものである。また、+PDIは翻訳反応2時間後にPDIを添加した結果を示し、−PDIはPDI非添加の無細胞タンパク質合成反応液を用いた湯合の結果を示す。
図10から明らかなように、翻訳反応が進行した後にPDIを添加した楊合、抗原へ結合する抗サルモネラ単鎖抗体の合成量はPDI非添加のものと差が見られなかった。このことは、PDIが翻訳反応終了後にそのジスルフィド結合を誘導するのではなく、翻訳反応の進行と共にジスルフィド結合交換反応を触媒していることを示すものである。
産業上の利用の可能性
本発明により、無細胞タンパク質合成系においては効率的な合成が不可能であった分子内ジスルフィド結合が形成されたタンパク質の合成が可能となった。分子内ジスルフィド結合を有するタンパク質の1例としては抗体が挙げられるが、抗体は、強力な抗原結合力と厳格な抗原特異性を有する。そのため、動物細胞を特定の人工抗原で免疫する必要がある場合、生命体にとって致死的な産物は排除されるという限定的な問題が発生する。その点、無細胞タンパク質合成系はそのような心配がないので本発明の方法によりほぼ無限大のレパートリーの抗原に対する医薬抗体を供給できる。また、本実験例により合成した糖鎖を抗原とする抗体についても糖鎖−タンパク質相互作用のシミュレーション技術の開発等に非常に有用な手段を提供するものである。
本出願は、日本で出願された特願2002−053161を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、弱還元型合成反応液により合成されたタンパク質の量を示すグラフである。
図2は、コムギ胚芽抽出液中のβ−ガラクトシダーゼ活性に対する塩化カルシウムの阻害作用を示すグラフである。
図3は、弱還元型合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性を示すグラフである。
図4は、還元剤濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性を示すグラフである。
図5は、還元剤濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図6は、DTT濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図7は、DTT濃度の添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の合成量を示すグラフである。
図8は、メルカプトエタノール濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図9は、グルタチオン/酸化型グルタチオン濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図10は、PDIの添加時期が異なる弱還元型合成反応液により合成した抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性を示すグラフである。
本発明は、タンパク質分子内のジスルフィド結合が保持されているタンパク質を無細胞タンパク質合成を用いて効率よく合成する方法、及び該方法によって製造されたタンパク質等に関するものである。
技術背景
タンパク質を自由自在に合成する技術を開発することは、生命科学やバイオテクノロジー分野のみならず、ナノマシーンの設計や、ニューラルコンピューター等工学分野における分子素子の開発に大きく貢献することが期待される。現在、タンパク質の合成にはクローン化したDNAを生細胞に導入する遺伝子工学的手法が広く利用されているが、この方法で生産可能な外来性タンパク質は宿主の生命維持機構をくぐり抜けられる分子種に限られてしまう。一方、有機合成技術の進展によって自動合成機が普及し、数十個のアミノ酸から成るペプチドを合成することは日常的となっているが、分子量のより大きなタンパク質を化学的に合成することは収率や副反応等の限界から現在においてもきわめて困難である。さらに欧米では、生体をそのまま利用する従来型のタンパク質生産や新規分子探索方法に対する倫理的な批判が強く、国際的な規制がさらに厳しくなる懸念もある。
このような問題点を打破する新しいタンパク質合成法として、生化学的手法を取り入れ、生物体の優れた特性を最大限に利用しようとする、無細胞タンパク質合成法を挙げることができる。この方法は、生体の遺伝情報の翻訳系を人工容器内に取り揃え、設計・合成した核酸を鋳型として、非天然型をも含む望みのアミノ酸を取り込むことのできる系を再構築するというものである。このシステムでは、生命体の制約を受けることがないので、合成可能なタンパク質分子種を殆ど無限大にまで広げることが期待できる。
無細胞タンパク質合成系については、すり潰した細胞液にタンパク質合成能が残存することが40年前に報告されて以来、種々の方法が開発され、大腸菌、コムギ胚芽、ウサギ網状赤血球由来の細胞抽出液はタンパク質合成等に現在も広く利用されている。
先に発明者らは、これまでのリボソーム不活性化毒素の研究から得た知見をもとに、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系に見られる極端なタンパク質合成活性の低下現象が対病原微生物防御機構として本来細胞にプログラムされた自己リボソームの不活性化機構(細胞自殺機構)のスイッチが胚芽破砕が引き金となって起動することに起因することを明らかにしている(Madin,K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,559−564(2000))。そして、トリチン活性などを胚芽組織から排除する新規方法で調製したコムギ胚芽抽出液のタンパク質合成反応が長時間に渡って高いタンパク質合成特性を発揮するようになることを実証した(Madin,K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,559−564(2000)、特開2000−236896号公報)。
しかし、一般に無細胞タンパク質合成系においては、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製及び翻訳反応に際して、高度な還元条件を必要とするので、分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質はその形成が行われない。そのため、従来の無細胞タンパク質合成系により製造された分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質は、立体構造を取れないために本来の機能を有していないものが多いという問題点があった。
発明の開示
本発明は、無細胞タンパク質合成反応において分子内のジスルフィド結合が正しく形成された(保持されている)タンパク質を効率よく合成する方法、及び該方法によって製造された本来の機能と同質の機能を有するタンパク質を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コムギ胚芽抽出液をジチオスレイトールを含まない緩衝液で平衡化したセファデックスG−25カラムを用いてゲルろ過した後に、さらにタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを添加した翻訳反応液を用いて、抗サルモネラ単鎖抗体を合成したところ、取得された抗体は抗原に対し特異的に結合することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
〔1〕タンパク質分子内のジスルフィド結合が形成され得るに十分な酸化還元電位を有する無細胞タンパク質合成反応液。
〔2〕酸化還元電位が−100mV〜0mVである上記〔1〕に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔3〕ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールおよびグルタチオン/酸化型グルタチオンから選択される少なくとも1つを還元剤として含有する上記〔1〕または〔2〕に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔4〕20μM〜70μMのジチオスレイトールを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
〔5〕0.1mM〜0.2mMの2−メルカプトエタノールを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
〔6〕30μM〜50μM/1μM〜5μMのグルタチオン/酸化型グルタチオンを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
〔7〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含む、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔8〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである上記〔7〕に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
〔9〕無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の酸化還元電位を、タンパク質分子内のジスルフィド結合が形成され得るのに十分な程度に調整する工程を含む無細胞タンパク質合成反応液の調製方法。
〔10〕還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を、還元剤を含まない緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体に通すことを特徴とする上記〔9〕に記載の調製方法。
〔11〕無細胞タンパク質合成反応液中の還元剤の濃度範囲を選択する方法であって、
(1)互いに異なる濃度の還元剤を含有する複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(2)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加したこと以外は上記(1)と同じ複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(3)上記(1)と(2)で測定された可溶化率を比較し、
(4)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲、ならびに物質の非存在下で、前記濃度範囲における該物質存在下での可溶化率と同等もしくはそれ以上の可溶化率を示す濃度範囲を選択する方法。
〔12〕選択された濃度範囲の還元剤を含有する各無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質合成量をそれぞれ測定し、タンパク質合成量が最も高い還元剤の濃度範囲を選択することを特徴とする上記〔11〕に記載の方法。
〔13〕還元剤が、ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールおよびグルタチオン/酸化型グルタチオンから選択される少なくとも1つである上記〔11〕または〔12〕に記載の方法。
〔14〕無細胞タンパク質合成系において、上記〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載の方法により選択された濃度範囲の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔15〕無細胞タンパク質合成系において、20μM〜70μMのジチオスレイトールを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔16〕無細胞タンパク質合成系において、0.1mM〜0.2mMの2−メルカプトエタノールを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔17〕無細胞タンパク質合成系において、30μM〜50μM/1μM〜5μMのグルタチオン/酸化型グルタチオンを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
〔18〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が添加された無細胞タンパク質合成反応液を用いるものである上記〔14〕〜〔17〕に記載の方法。
〔19〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、翻訳反応初期には無細胞タンパク質合成反応液に添加されているものである、上記〔18〕に記載の方法。
〔20〕ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである上記〔18〕または〔19〕に記載の方法。
〔21〕上記〔14〕〜〔20〕に記載の方法を用いて取得されるタンパク質。
〔22〕無細胞タンパク質合成系を用いて合成されたタンパク質であって、分子内のジスルフィド結合が保持されていることを特徴とするタンパク質。
〔23〕本来有するものと同質の機能を有することを特徴とする上記〔22〕に記載のタンパク質。
〔24〕抗体タンパク質、分泌タンパク質、あるいは膜タンパク質である上記〔22〕または〔23〕に記載のタンパク質。
発明の詳細な説明
(1)ジスルフィド結合形成が可能な無細胞タンパク質合成反応液
本発明は、無細胞タンパク質合成系において、分子内ジスルフィド結合が正しく形成される(保持される)ようにタンパク質を合成できる方法、ならびにそのための無細胞タンパク質合成反応液に関するものである。
無細胞タンパク質合成系は、細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液(以下、これを「無細胞タンパク質合成用細胞抽出液」と呼ぶ)に鋳型(転写鋳型または翻訳鋳型)、基質となる核酸及びアミノ酸、エネルギー源の他、必要に応じて各種イオン、緩衝液、及びその他の転写または翻訳反応に好ましい添加物を加えて試験管内で行う方法である。このうち、鋳型として翻訳鋳型であるmRNAを用いて翻訳反応を行わしめるもの(これを以下「無細胞翻訳系」と称することがある)と、転写鋳型であるDNAを用い、RNAポリメラーゼ等の転写に必要な因子をさらに添加して転写反応を行った後、この転写反応で得られた産物(mRNA)を翻訳鋳型として翻訳反応を行わしめるもの(これを以下「無細胞転写/翻訳系」と称することがある)がある。本発明における無細胞タンパク質合成系は、上記の無細胞翻訳系、無細胞転写/翻訳系のいずれをも含む。
分子内ジスルフィド結合が正しく形成された(保持された)タンパク質を合成するために、本発明では、従来と比較して弱い還元条件にて翻訳反応を行うことを特徴とする。ここで、「従来と比較して弱い還元条件にて翻訳反応を行う」とは、酸化還元電位が−100mV〜0mV(好ましくは、−50mV〜−5mV)である無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを指す(従来の一般的に使用されていた無細胞タンパク質合成反応液の酸化還元電位:−300mV〜−150mV)(以下、本発明の無細胞タンパク質合成反応液を、「弱還元型合成反応液」と呼ぶことがある。)。なお、無細胞タンパク質合成反応液の酸化還元電位は、ORPコントローラーFO−2000(EYELA社製)を用い、その取扱い説明書の記載にしたがって、たとえば約3mlの合成反応溶液を調製し、26℃に保温した後、電位測定用電極を溶液中に浸した後、測定値が安定するまで待ち(約15分間〜30分間)、安定した値を記録することで測定することができる。
上述した範囲の酸化還元電位を有する本発明の弱還元型合成反応液は、無細胞翻訳系を行う反応液のタンパク質合成に必要な成分のうち、還元剤の濃度を調整することにより作製することができる。還元剤としては、従来より無細胞タンパク質合成反応液に使用されてきている公知の還元剤、たとえば、ジチオスレイトール(以下これを「DTT」と称することがある)、2−メルカプトエタノール、グルタチオン/酸化型グルタチオン、チオレドキシン、リポ酸、システインなどから選ばれる少なくとも1つを特に制限なく使用できる。たとえば、反応液のpHが約7.6の還元剤としてDTTを単独で用いる場合には最終濃度で20μM〜70μM、好ましくは30μM〜50μM、還元剤として2−メルカプトエタノールを単独で用いる場合には最終濃度で0.05mM〜0.5mM、好ましくは0.1mM〜0.2mM、還元剤としてグルタチオン/酸化型グルタチオンを単独で用いる場合には最終濃度で10μM〜400μM/1μM〜40μM、好ましくは30μM〜50μM/1μM〜5μMなどが例示される。
本発明の弱還元型合成反応液における還元剤濃度は、上述したものに限定されるものではなく、合成しようとするタンパク質、あるいは用いる無細胞タンパク質合成系の種類により適宜変更することができる。上記弱還元型合成反応液における還元剤の至適濃度範囲の選択法としては、特に制限はないが、例えば、合成されたタンパク質の可溶化率及びそれに及ぼすジスルフィド結合交換反応(リフォールディング反応)を触媒する物質の効果によって判断する方法、具体的には、以下の(1)〜(4)を含むことを特徴とする方法、を挙げることができる。
(1)互いに異なる濃度の還元剤を含有する複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(2)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加したこと以外は上記(1)と同じ複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(3)上記(1)と(2)で測定された可溶化率を比較し、
(4)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲、並びに該物質非存在下で前記濃度範囲におけるのと同等以上の可溶化率を示す濃度範囲を選択する。
すなわち、まず、還元剤の濃度を様々にふった複数の無細胞タンパク質合成反応液を調製し、これらにジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加して、分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質の合成を行う。また対照実験として、上記ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含有しない以外は同じ無細胞タンパク質合成反応液を調製して、それぞれ翻訳反応を行わせる。上記各場合のそれぞれについて、翻訳反応後の反応液中に合成されたタンパク質の可溶化率を測定する。可溶化率の測定法は特に制限されるものではないが、たとえば遠心分離等の方法により反応液中のタンパク質の可溶化成分を分離し、反応液全体中に占める可溶化成分の体積割合(液体シンチレーションカウンター、オートラジオグラフィを用いて測定)として測定できる。こうして可溶化率を測定していった結果、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲並びに、場合によってはさらに該物質の非存在下で前記濃度範囲における該物質の存在下の可溶化率と同等もしくはそれ以上の可溶化率を示す還元剤の濃度範囲を、分子内ジスルフィド結合を保持したまま合成し得る無細胞タンパク質合成反応液における還元剤の至適濃度範囲として選択する。ここで、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇したか否かは、対照実験の同じ濃度の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液での翻訳反応後の可溶化率と比較して有意に高ければ、可溶化率が上昇しているものと判断する。なお、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇した濃度範囲における反応液の可溶化率は、50%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。
上記「ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質」としては、真核細胞の小胞体内に存在する酵素であるタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、大腸菌由来のシャペロンタンパク質であるGroEL及びGroES、あるいはDnaK、DnaJ及びGrpEなどのリフォールディング反応を触媒する種々のタンパク質や、それらの低分子ミミック(例えば、PDIのミミックであるBMC(Chem Biol.,6,871−879,1999)、芳香族チオール化合物(4−mercaptobenzene acetate;J.Am.Chem.Soc.124,3885−3892,2002)などを特に制限されることなく使用することができる。中でも、真核細胞内でのタンパク質のリフォールディング機構を担っているタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを使用するのが好ましい。
また本発明においては、さらに、上記で選択された濃度範囲の還元剤を含有する各無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質合成量をそれぞれ測定し、タンパク質合成量が最も高い還元剤の濃度範囲を選択することで、合成されるタンパク質合成量の最も高い還元剤の濃度範囲を、さらに好ましい濃度範囲として選択することができる。
上述した本発明の弱還元型合成反応液の調製方法としては、還元剤を含まない無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を調製し、これに無細胞タンパク質合成系に必要な成分とともに、上記の濃度範囲となるように還元剤を添加する方法や、還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液から上記の濃度範囲となるように還元剤を除去する方法等が挙げられる。通常、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、これを抽出する際に高度の還元条件を必要とするため、抽出後にこの溶液から還元剤を除去する方法によることが簡便であり、好ましい。かかる方法としては、ゲルろ過や透析法などが挙げられる。例えば、ゲルろ過による場合、抽出後の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を、還元剤を含まないか、より低い濃度で含有する緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体を通して調製する方法が挙げられる。ゲルろ過用担体としては、具体的には、セファデックスG−25カラム(アマシャムバイオサイエンス社製)などを好適に使用することができる。また、上記還元剤を含まないか、より低濃度で含有する緩衝液の組成としては、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の種類等によって従来公知の組成を適宜選択すればよく、特に制限されるものではない。たとえば、後述するHEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、又はL型アミノ酸を含む緩衝液が例示される。
本発明はさらに、上記弱還元型合成反応液を用いた無細胞タンパク質合成方法も提供する。本発明のタンパク質合成方法は、上記選択方法により選択された濃度範囲の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液(すなわち上記弱還元型合成反応液)を用いて翻訳反応を行うことをその特徴とするものである。用いる弱還元型合成反応液としては、上述した、pH約7.6の最終濃度で20μM〜70μM(好ましくは、30μM〜50μM)のDTTを還元剤として含有する無細胞タンパク質合成反応液、最終濃度で0.05mM〜0.5mM(好ましくは、0.1mM〜0.2mM)の2−メルカプトエタノールを還元剤として含有する無細胞タンパク質合成反応液、最終濃度で10μM〜400μM/1μM〜40μM(好ましくは、30μM〜50μM/1μM〜5μM)グルタチオン/酸化型グルタチオンを還元剤として含有する無細胞タンパク質合成反応液などが例示できる。
また本発明のタンパク質合成方法は、上記弱還元型合成反応液に、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質をさらに添加して翻訳反応を行うことが好ましい。これにより、分子内のジスルフィド結合が正しく形成された(保持された)タンパク質をより高効率で合成することができる。ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質としては、上述したような物質を特に制限なく使用することができるが、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを使用するのが好ましい。
上記物質の添加量は、用いる物質の種類、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の組成、還元剤の種類、濃度などに応じて適宜選択すればよく、特に制限されるものではない。たとえば、コムギ胚芽から抽出した無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を用い、還元剤としてDTTを20μM〜70μM、好ましくは30μM〜50μM含有する無細胞タンパク質合成反応液に、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを添加する湯合、最終濃度で0.01μM〜10μMの範囲、好ましくは0.5μMとなるように添加する。
なお、ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加する場合、添加する時期は、無細胞タンパク質合成反応液を使用して翻訳反応を開始する前であっても開始した後であっても構わないが、ジスルフィド結合が形成される効率から、翻訳反応初期(翻訳反応の開始直後より30分経過までの間)には添加されているのが好ましい。ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含有する無細胞タンパク質合成反応液を反応開始直前に予め調製してもよい。
(2)無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製
本発明に用いられる無細胞タンパク質合成用細胞抽出液(以下、単に「細胞抽出液」ということがある。)としては、無細胞タンパク質合成系においてタンパク質合成能を有するものであれば如何なるものであってもよい。本発明に用いられる細胞抽出液として具体的には、大腸菌、植物種子の胚芽、ウサギ網状赤血球等の細胞抽出液等の既知のものが用いられる。これらは市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液は、Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179−209,B.D.&Higgins,S.J.,eds),IRL Press,Oxford(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。
市販の細胞抽出液としては、大腸菌由来のものは、E.coli S30 extract system(Promega社製)とRTS 500 Rapid Tranlation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうち、植物種子の胚芽抽出液を用いることが好ましく、植物種子としては、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科の植物のものが好ましい。本発明における細胞抽出液としては、このうちコムギ胚芽抽出液を用いたものが好適である。
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature,179,160−161(1957)、あるいはErickson,A.H.et al.,(1996)Meth.In Enzymol.,96,38−50等に記載の方法を用いることができるが、以下にさらに詳細に説明する。
通常、胚芽の部分は非常に小さいので胚芽を効率的に取得するためには胚芽以外の部分をできるだけ除去しておくことが好ましい。通常、まず、植物種子に機械的な力を加えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。植物種子に加える力は、植物種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。具体的には、公知の粉砕装置を用いて、植物種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
植物種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、ピンミル、ハンマーミル等の被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置を用いることが好ましい。粉砕の程度は、使用する植物種子胚芽の大きさに応じて適宜選択すればよいが、例えばコムギ種子の場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのがが好ましい。
次いで、得られた植物種子粉砕物から、通常公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギ種子の場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水又は水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)p40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、胚乳成分の除去に十分且つ胚芽成分のタンパク質合成活性に悪影響を及ぼさない濃度で使用され得るが、例えば0.5%の濃度で使用することができる。水又は水溶液による洗浄処理及び界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
本発明においては、上記のように植物種子を粉砕して得られた粉砕物から植物胚芽を選別した後洗浄して得られた無傷(発芽能を有する)の胚芽を(好ましくは抽出溶媒の存在下に)細分化した後、得られるコムギ胚芽抽液を分離し、更に精製することにより無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液を得る。
抽出溶媒としては、緩衝液(例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、ピペラジン−1,4’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)−NaOH、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)−HClなど;pH5〜10)、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はチオール基の還元剤を含む水溶液を用いることができる。チオール基の還元剤は、特に制限はないが、例えば、DTT、2−メルカプトエタノール、グルタチオン/酸化型グルタチオン、チオレドキシン、リポ酸、システインなどが挙げられる。これらの還元剤の濃度は、種類に応じて適宜選択することができ、例えばDTTの場合10μM〜5mM、2−メルカプトエタノールの場合50μM〜20mM、グルタチオン/酸化型グルタチオンの場合5μM〜1mM/1μM〜100μMの範囲で選択される。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸を含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸及び/又はDTTを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク質合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
胚芽と抽出に必要な量の抽出溶媒とを混合し、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。また、細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいし、凍結させていないものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのがより好ましい。
細分化の方法としては、摩砕、圧砕、衝撃、切断等粉砕方法として従来公知の方法を採用することができるが、特に衝撃または切断により胚芽を細分化することが好ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕又は圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
細分化する際に用いることのできる装置や方法としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、好ましくは10℃以下で操作が可能な範囲内、特に好ましくは4℃程度が適当である。
このように衝撃または切断により胚芽を細分化することにより、胚芽の細胞核や細胞壁を全て破壊してしまうのではなく、少なくともその一部は破壊されることなく残る。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在するタンパク質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
このような方法によれば、従来の植物胚芽を粉砕する工程と粉砕された植物胚芽と抽出溶媒とを混合してコムギ胚芽抽出液を得る工程とを同時に一つの工程として行うことができるため効率的にコムギ胚芽抽出液を得ることができる。上記の方法を、以下、「ブレンダー法」と称することがある。
このような植物胚芽の細分化、特に衝撃または切断による細分化は、抽出溶媒の存在下に行うことが好ましいが、細分化した後に抽出溶媒を添加することもできる。
次いで、遠心分離等によりコムギ胚芽抽出液を回収し、ゲルろ過、透析等により精製することによりコムギ胚芽抽出液を得ることができる。ゲルろ過としては、例えばセファデックスG−25カラム等を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。ここで、上述のように高度の還元条件下で無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の抽出を行った場合には、上述したように、還元剤を含まないか、より低濃度で含有する緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体に当該細胞抽出液をとおすのが好ましい。上記緩衝液の組成は、特には制限されるものではないが、例えば、HEPES−KOH(pH7.6)、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、又はL型アミノ酸を含む溶液を用いると、抽出液中に含まれていた還元剤のうちの約97%が吸収されるため、好ましい。具体的には、コムギ胚芽から還元剤としてDTTを1mM含む抽出液を用いて抽出を行った場合、最終的に約30μMのDTTを含むコムギ胚芽抽出液を取得することができる。ただし、還元剤濃度を低下させたコムギ胚芽抽出液は凍結保存によりその活性が著しく低下するため、還元剤の除去工程は翻訳反応に用いる直前に行うことが好ましい。
ゲルろ過または透析後の胚芽抽出液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入の可能性のある微生物が除去可能なものであれば特に制限はないが、通常0.1μm〜1μm、好ましくは0.2μm〜0.5μmが適当である。ちなみに、小さな部類の枯草菌の胞子のサイズは0.5μm×1μmであることから、0.20μmのフィルター(例えばSartorius社製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、まずポアサイズの大きめのフィルターでろ過し、次に混入の可能性のある微生物が除去可能であるポアサイズのフィルターを用いてろ過するのが好ましい。
このようにして得られた無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、原料細胞自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳タンパク質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いたコムギ胚芽抽出液のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
また、このような無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、低分子のタンパク質合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含有しているため、細胞抽出液の構成成分から、これら低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画排除することが好ましい。排除されるべき物質(低分子合成阻害物質)の分子量は、細胞抽出液中に含まれるタンパク質合成に必要な因子よりも小さいものであればよい。具体的には、分子量50,000〜14,000ダルトン以下、好ましくは14,000ダルトン以下のものが挙げられる。
低分子合成阻害物質の細胞抽出液からの排除方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法(透析法)が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。なお、低分子合成阻害物質を「含まない」とは、上記した種々の方法によって低分子合成阻害物質を排除する処理を行ったのと同程度にまで、該低分子合成阻害物質が含まれていないことを意味し、排除されたか否かは、得られる細胞抽出液のそのタンパク質合成活性の高さでもって確認することができる。
以下、透析法を用いる場合を例に詳細に説明する。
透析に用いる透析膜としては、50,000〜12,000ダルトンの排除分子量を有するものが挙げられる。具体的には排除分子量12,000〜14,000ダルトンの再生セルロース膜(Viskase Sales,Chicago社製)や、排除分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量の上記細胞抽出液を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
低分子合成阻害物質の排除を行う際、細胞抽出液に不溶性物質が生成される場合には、これを阻害する(以下、これを「細胞抽出液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られる細胞抽出液(以下、これを「処理後細胞抽出液」と称することがある)のタンパク質合成活性が高まる。ここで、不溶性物質とは、低分子合成阻害物質の排除工程にある細胞抽出液を適当な条件、具体的には遠心分離やろ過等、特に10,000〜80,000×g、好ましくは30,000×g程度、5〜60分間、好ましくは20分間程度の遠心分離によって沈殿として回収される物質である。
細胞抽出液の安定化の具体的な方法としては、上記低分子阻害物質の排除を行う際に、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等を含む溶液中で行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATP、GTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
これらの成分(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液中で低分子合成阻害物質の排除を行う場合は、細胞抽出液に予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子合成阻害物質の排除工程に供してもよい。低分子合成阻害物質の排除に透析法を用いる場合は、細胞抽出液だけでなく透析外液にも安定化成分を添加して透析を行い低分子合成阻害物質の排除を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体を安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含む細胞抽出液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、細胞抽出液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分を細胞抽出液に添加し、適当な時間の後に低分子合成阻害物質の排除工程を行い、取得された処理後細胞抽出液を遠心分離等の方法で可溶性画分と不溶性画分に分離し、そのうちの不溶性物質が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後細胞抽出液を用いて無細胞タンパク質合成を行い、タンパク質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上記の選択方法において、低分子合成阻害物質の排除工程として透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られた細胞抽出液中の不溶性物質の量や、得られた細胞抽出液のタンパク質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
このようにして選択された細胞抽出液の安定化条件の例として、具体的には、上記したブレンダー法を用いて調製したコムギ胚芽抽出液で、透析法により低分子合成阻害物質の排除工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出液、及び透析外液中に、ATPを100μM〜0.5mM、GTPを25μM〜1mM、20種類のL型アミノ酸をそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、タンパク質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
細胞抽出液への安定化成分の添加方法は、特に制限はなく、低分子合成阻害物質の排除工程の前に添加しこれを適当時間インキュベートして安定化を行った後、低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよいし、安定化成分を添加した細胞抽出液、及び/または安定化成分を添加した該排除工程に用いるための緩衝液を用いて低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよい。
(3)弱還元型合成反応液を用いたタンパク質合成
上記した無細胞タンパク質合成用細胞抽出液は、これを上記(1)に記載した範囲の還元剤の濃度範囲に調製し、無細胞タンパク質合成に必要なエネルギー源やアミノ酸、翻訳鋳型、あるいはtRNA等、またジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を必要に応じて添加して、また無細胞転写/翻訳系の場合には、RNAポリメラーゼ、4種のヌクレオシド三リン酸、翻訳鋳型の代わりに転写鋳型DNAなど転写に必要な酵素をさらに添加して、無細胞タンパク質合成反応液として調製され、それぞれ選択されたそれ自体既知のシステム、または装置に投入し、タンパク質合成を行うことができる。タンパク質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179−209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford(1984))や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin,A.S.et al.,Science,242,1162−1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WlD6)、あるいは重層法(PROTEIOSTM Wheat germ cell−free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。
さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000−333673号公報:以下これを「不連続ゲルろ過法」と称することがある)等を用いることができる。
このうち、アミノ酸やエネルギー源の連続、または不連続供給系を使用することにより、反応を長時間維持させることができ、更なる効率化が可能となるが、本発明の弱還元型合成反応液を用いてタンパク質合成を行う湯合は、バッチ法を用いる方がタンパク質合成効率が高い傾向にあるため好ましい。また、上記(2)に記載のブレンダー法によりコムギ胚芽抽出液を調製した場合にはtRNAを充分に含んでいるため通常これを添加する必要が無い。
また、本発明の方法により合成するタンパク質としては、特に制限されるものではなく、如何なるタンパク質であってもよいが、その分子内にジスルフィド結合を有しているタンパク質が好ましい。本発明の合成方法によれば、無細胞タンパク質合成系で、分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質を合成する場合であっても、正しい立体構造が形成され、そのタンパク質が本来有する機能と同質の機能を有するタンパク質を合成することが可能であるからである。本発明の合成方法にて、本来有する機能と同質の機能を有するように好適に合成し得る分子内にジスルフィド結合を有するタンパク質としては、具体的には、たとえば任意の抗原に対する抗体のFabフラグメント、VLとVHとをリングで連繋した単鎖抗体(ScFv)などの抗体タンパク質、たとえば血清アルブミン、酸性ホスファターゼ、インシュリン、リゾチーム、セルラーゼなどの分泌タンパク質、たとえばGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質、脳に局在するグルタミン酸トランスポーター、ホルモン受容体としてのLeucine Rich Repeat受容体(LRR receptor)などの膜タンパク質等が挙げられる。抗体タンパク質を合成する場合には、抗原結合領域をランダムなアミノ酸配列とした人工抗体ライブラリーをコードするDNAを鋳型として合成することにより抗体ライブラリーを作製することができる。またたとえば、重鎖と軽鎖とがジスルフィド結合しているIgGなど、分子間にジスルフィド結合を有するタンパク質についても本発明の方法により好適に合成することができる。
バッチ法によりタンパク質合成を行う場合には、例えば翻訳鋳型を除いた合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後に翻訳鋳型を添加してインキュベートすること等により行うことができる。無細胞タンパク質合成反応液(翻訳反応液)としては、例えば、10〜50mM HEPES−KOH(pH7.8)、55〜120mM酢酸カリウム、1〜5mM酢酸マグネシウム、0.1〜0.6mMスペルミジン、各0.025〜1mM L−アミノ酸、20〜70μM、好ましくは30〜50μMのDTT、1〜1.5mM ATP、0.2〜0.5mM GTP、10〜20mMクレアチンリン酸、0.5〜1.0U/μl RNase inhibitor、0.01〜10μMタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、及び24〜75%コムギ胚芽抽出液(ブレンダー法により調製したもの)を含むもの等が用いられる。
このような翻訳反応液を用いた場合、プレインキュベートは10〜40℃で5〜10分間、インキュベートは同じく10〜40℃、好ましくは18〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で行う。反応時間は、反応が停止するまでの時間であるが、バッチ法では通常10分〜7時間程度である。
透析法によりタンパク質合成を行う場合には、合成反応液を透析内液とし、透析外液と物質移動が可能な透析膜によって隔離される装置を用いて、タンパク質合成を行う。具体的には、例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な透析容器に入れ反応内液とする。透析容器としては、底部に透析膜が付加されている容器(第一化学社製:透析カップ12,000等)や、透析用チューブ(三光純薬社製:12,000等)が挙げられる。透析膜は、10,000ダルトン以上の分子量限界を有するものが用いられるが、12,000ダルトン程度の分子量限界を有するものが好ましい。
透析外液としては、上記合成反応液から翻訳鋳型を除いたものが用いられる。透析外液は反応速度が低下した時点で、新鮮なものと交換することにより透析効率を上昇させることができる。反応温度、及び時間は用いるタンパク質合成系において適宜選択されるが、コムギ胚芽抽出液を用いた系においては通常10〜40℃、好ましくは18〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で10分〜12日間行うことができる。
重層法を用いてタンパク質合成を行う場合には、合成反応液を適当な容器に入れ、該溶液上に、上記透析法に記載した透析外液を界面を乱さないように重層することによりタンパク質合成を行う。具体的には例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な容器に入れ反応相とする。容器としては、例えばマイクロタイタープレート等が挙げられる。この反応相の上層に上記透析法に記載した透析外液(供給相)を界面を乱さないように重層して反応を行う。
両相の界面は必ずしも重層によって水平面状に形成させる必要はなく、両相を含む混合液を遠心分離することによって、水平面を形成することも可能である。両相の円形界面の直径が7mmの場合、反応相と供給相の容量比は1:4〜1:8が適当であるが、1:5が好適である。両相からなる界面面積は、大きいほど拡散による物質交換率が高く、タンパク質合成効率が上昇する。従って、両相の容量比は、両相の界面面積によって変化する。合成反応は静置条件下で、反応温度、及び時間は用いるタンパク質合成系において適宜選択されるが、コムギ胚芽抽出液を用いた系においては10〜40℃で、好ましくは18〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で、通常10〜17時間行うことができる。また、大腸菌抽出液を用いる場合、反応温度は30〜37℃が適当である。
不連続ゲルろ過法を用いてタンパク質合成を行う場合には、合成反応液により合成反応を行い、合成反応が停止した時点で、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を供給し、合成物や分解物を排出することによりタンパク質合成を行う。具体的には例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な容器に入れ反応を行う。容器としては、例えばマイクロプレート等が挙げられる。この反応下では、例えば容量の48%容のコムギ胚芽抽出液を含む反応液の場合には反応1時間で合成反応は完全に停止する。このことは、アミノ酸のタンパク質への取りこみ測定やショ糖密度勾配遠心法によるポリリボソーム解析(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,97,559−564(2000))により確認することができる。
合成反応の停止した上記合成反応液を、予め上記透析法に記載の透析外液と同様の組成の供給液により平衡化したゲルろ過カラムを通す。このろ過溶液を再度適当な反応温度に保温することにより、合成反応が再開し、タンパク質合成は数時間に渡って進行する。以下、この反応とゲルろ過操作を繰り返す。反応温度、及び時間は用いるタンパク質合成系において適宜選択されるが、コムギ胚芽抽出液を用いた系においては26℃で約1時間ごとにゲルろ過を繰り返すのが好ましい。
かくして得られたタンパク質は、それ自体既知の方法により確認することができる。具体的には例えば、アミノ酸のタンパク質への取りこみ測定や、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分離とクマシーブリリアントブルー(CBB)による染色、オートラジオグラフィー法(Endo,Y.et al.,J.Biotech.,25,221−230(1992);Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,97,559−564(2000))等を用いることができる。
また、かくして得られる反応液には、目的タンパク質が高濃度に含まれているので、透析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲルろ過等のそれ自体既知の分離、精製法により、該反応液から目的タンパク質を容易に取得することができる。
以下、本発明を実験例によりさらに詳細に説明するが、下記の実験例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実験例により何ら限定されるものではない。
実験例1:コムギ胚芽抽出液の調製
北海道産チホクコムギ種子(未消毒)を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製:Rotor Speed Mill pulverisette 14型)に添加し、回転数8,000rpmで種子を温和に粉砕した。篩で発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.7〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液(容量比=四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別排除する手段を有する装置である。
色彩選別機のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/m2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を排除するために、ベージュ色のベルトを取り付け、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、濃緑色のベルトに取り替えて胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。
得られたコムギ胚芽画分を4℃の蒸留水に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次いで、ノニデット(Nonidet:ナカライ・テクトニクス社製)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄してコムギ胚芽を得、以下の操作を4℃で行った。
洗浄した胚芽湿重量に対して2倍容量の抽出溶媒(80mM HEPES−KOH、PH7.8、200mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム、8mM DTT、(各0.6mMの20種類のL型アミノ酸を添加しておいてもよい))を加え、ワーリングブレンダーを用い、5,000〜20,000rpmで30秒間ずつ3回の胚芽の限定破砕を行った。このホモジネートから、高速遠心機を用いた30,000×g、30分間の遠心により得られる遠心上清を再度同様な条件で遠心し、上清を取得した。本試料は、−80℃以下の長期保存で活性の低下は見られなかった。取得した上清をポアサイズが0.2μmのフィルター(ニューステラディスク25:倉敷紡績社製)を通し、ろ過滅菌と混入微細塵芥の除去を行った。
次に、このろ液を予め還元剤を含まない緩衝液(40mM HEPES−KOH(pH7.8)、100mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、各0.3mMの20種類L型アミノ酸混液(タンパク質の合成目的に応じて、アミノ酸を添加しなくてもよいし、標識アミノ酸であってもよい))で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムでゲルろ過を行った。得られたろ液を、再度30,000×g、30分間の遠心し、回収した上清の濃度を、A260nmが90〜150(A260/A280=1.4〜1.6)に調整した後、下記の透析処理やタンパク質合成反応に用いるまで、−80℃以下で保存した。
実験例2:弱還元型無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成された抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合解析
(1)野生型及び変異型サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAの作製
本発明のタンパク質合成の対象としては、分子内にジスルフィド結合を有する抗サルモネラ単鎖抗体を選択した。該抗体は既にX線立体構造が解析され、糖鎖に対する分子認識が詳細に調べられている(Cygler,M.,et al.,Science,253,442−445(1991);Bundle,D.R.et al,Biochemistry,33,5172−5182(1994))。サルモネラ細菌の細胞表層には、リポ多糖が存在し、抗サルモネラ抗体は、このリポ多糖の最も細胞外に位置するO−抗原に結合する(Anand,N.N.,et al.,Protein Engin.,3,541−546(1990))。このO−抗原に対して特異的に結合する抗原認識部位であるVL鎖とVH鎖を特定のリング(リンカー)で繋げた単鎖抗体を大腸菌で大量発現させた報告がある(Anand,N.N.,et al.,J.Biol.Chem.,266,21874−21879(1991))。単鎖抗体を活性な状態で合成するためには、VL鎖とVH鎖に1個ずつ存在するジスルフィド結合の形成が不可欠である(Zdanov,A.L.Y.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,91,6423−6427(1994))ため、該単鎖抗体を本発明のタンパク質合成方法の対象とした。
抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAは、野生型のサルモネラO−抗原に対する単鎖抗体をコードするDNAを含むプラスミド(Anand,N.N.,et al.,J.Biol.Chem.,266,21874−21879(1991))を鋳型として、配列番号1及び2に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてポリメラーゼチェインリアクション(PCR)を行った。取得されたDNA断片をpGEMT−easyベクター(Promega社製)に挿入した後、BglII及びNotIで制限酵素処理した。得られたDNA断片を予め同じ制限酵素で処理したpEUベクターに挿入した。このプラスミドをテンプレートとして配列番号3及び4に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRを行い、ストップコドンを導入した。ここで作製したプラスミドをscfv−pEUと称する。
また、抗サルモネラ単鎖抗体の抗原認識部位に存在する6個の超可変ループのうち、抗原の結合に最も寄与する領域はVH3領域であることがX線立体構造解析から明らかにされており、この領域に変異を導入すると抗原結合活性が大幅に低下する結果が既に報告されている(Brummell,D.A.,et al.,Biochemistry,32,1180−1187(1993))。そこで、無細胞タンパク質合成系により合成された単鎖抗体の抗原特異性を解析する目的で、上記の領域に変異を導入した変異型抗サルモネラ単鎖抗体を作製するため、該抗体の鋳型となるDNAを作製した。
VH3領域の9個のアミノ酸をすべてアラニンに置換した変異体(以下、これを「AlaH3」と称することがある)をコードするDNAを作製した。まず、上記で作製したプラスミドscfv−pEUを鋳型として、配列番号5及び6に記載の塩基配列からなるプライマーによりLA taq(TAKARA社製)キットを用いてPCRを行った。PCR反応液は、5μl 10×LA buffer、5μl 25mM塩化マグネシウム、8μl 2.5mM dNTP、各1μl 20μMプライマー、0.1ng鋳型プラスミド/50μlに調製し、94℃1分×1サイクル、94℃45秒/55℃1分/72℃1分30秒×30サイクル、72℃5分の反応を行った。増幅されたDNA断片は、常法に従い、KOD T4polymerase(NEB社製)により末端の平滑化を行ったのち、Polynucleotide kinase(NEB社製)によるリン酸化後、Ligation High(東洋紡社製)によりSelf Ligationを行い、環状のプラスミド(以下、これを「AlaH3−pEU」と称することがある)を作製した。
また、抗サルモネラ単鎖抗体の抗原認識部位に存在する超可変ループ構造形成の要であるグリシン残基をアスパラギン酸に置換した変異体(以下、これを「G102D」と称することがある)を、配列番号7及び8に記載の塩基配列からなるプライマーを用いた上記と同様のPCRで増幅されたDNAを上記と同様にして環状のプラスミド(以下、これを「G102D−pEU」と称することがある)として作製した。
(2)弱還元型合成反応液を用いたタンパク質合成
上記(1)で取得された鋳型DNAについて、SP6 RNA polymerase(TOYOBO社製)を用いて転写反応を行った。反応液としては、80mM HEPES−KOH(pH7.6)、16mM酢酸マグネシウム、2mMスペルミジン、10mM DTT、NTPs各2.5mM、0.8U/μl RNase inhibitor、50μg/mlプラスミド、及び1.2U/μl SP6 RNA polymerase/ddw 400μlを用いた。37℃で2時間インキュベートした後、フェノール/クロロフォルム抽出、NICK column(Amersham Pharmacia社製)による精製を行い、エタノール沈殿後、沈殿を精製水35μlに溶解した。
取得されたmRNAを翻訳鋳型として用いて、翻訳反応を行った。弱還元型合成反応液の組成は、上記実験例1のゲルろ過後のコムギ胚芽抽出液12μlに、1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、4nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNA、を添加したものを用いた。該弱還元型合成反応液の、酸化還元電位は−14mV(ORPコントローラーFO−2000(EYELA社製)を用い、その取扱い説明書の記載にしたがって、たとえば約3mlの合成反応溶液を調製し、26℃に保温した後、電位測定用電極を溶液中に浸した後、測定値が安定するまで待って測定)であり、DTTの最終濃度は58μMであった。翻訳反応は、26℃で4時間バッチ法により行った。
翻訳反応1時間ごとにWhatmanフィルターへ5μlをスポットした後TCA沈殿を行い、液体シンチレーションカウンターにより各スポット中の14C−Leuの取り込み量を測定した。この結果を図1に示す。図1から明らかなように野生型、変異型単鎖抗体ともに3時間後に合成量が最大に達していた。また、翻訳反応3時間後の反応液を15,000rpm、10分間の遠心分離によって可溶化成分を分離し、その割合を測定したところ、合成タンパク質の可溶化率は、いずれも60%程度であった。
(3)コムギ胚芽抽出液中の糖鎖分解酵素阻害剤の検討
このようにして合成された抗サルモネラ単鎖抗体とサルモネラ糖鎖との結合性を解析する場合、コムギ胚芽抽出液には、糖鎖を分解する酵素が含まれており、上記のようにしてコムギ胚芽抽出液を用いて合成された単鎖抗体を含む溶液には、抗原である糖鎖を分解する活性があることが明らかとなったので、結合性の解析実験を行う反応液には、サルモネラ糖鎖を分解する酵素であるβ−ガラクトシダーゼの阻害剤を添加して行った。β−ガラクトシダーゼの阻害剤については以下の実験により検討した。
塩化カルシウムはβ−ガラクトシダーゼの活性部位に結合することが知られている(Huber,R.E.,et al.,Biochemistry,18,4090−4095(1979))。そこで、p−nitrophenyl β−galactosideを基質としてコムギ胚芽抽出液中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。実験例1で取得されたコムギ胚芽抽出液50μlに対し、各濃度(2mM、4mM、6mM、12mM)の塩化カルシウムを添加すると、塩化カルシウムを添加しない場合(0mM)とは異なり、塩濃度が増加した結果と考えられる沈殿が生じた。この溶液を5,000rpm、10分間の遠心分離に付し、得られた上清について酵素活性を測定した。この結果を図2に示す。図2から明らかなように、塩化カルシウムは濃度依存的に上記の上清中に含まれるβ−ガラクトシダーゼ活性を阻害した。上記の沈殿中の酵素活性については、上清及び沈殿に1.3mMのEGTAを添加すると、上清中の酵素活性は回復したが、沈殿中の酵素活性については特に変化が見られなかったことから、β−ガラクトシダーゼは上清中にのみ存在し、この活性は塩化カルシウムの添加により濃度依存的に阻害されることが明らかとなった。
これらの結果よりサルモネラ糖鎖との結合性解析に用いる抗サルモネラ単鎖抗体の合成には予め2.5mMの塩化カルシウムを添加して翻訳反応に用いることとした。
(4)弱還元型合成反応液を用いて合成された抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性の解析
(4−1)抗原のビオチン化
抗原である糖鎖と抗体の結合体を回収するために抗原にビオチンを結合させた。ビオチン化糖鎖の調製方法は、文献記載の方法に準じた(Melkel,P.,et al.,J.Immunol.Methods,132,255−261(1990))。リポポリサッカライド(SIGMA社製)20mg(2.8μmol)を0.25M水酸化ナトリウム水溶液20μlに溶解し、56℃にて1時間攪拌した。蒸留水に対して透析後、メタ過葉酸ナトリウム200mg(0.8mmol)を添加し、遮光下にて5分間攪拌した。エチレングリコール1mlをさらに添加して1時間攪拌した後、これを蒸留水に対して透析を行い、凍結乾操によりアルデヒド型サルモネラ糖鎖の粉末を得た。
これを0.2M MK2HPO4−NaOH緩衝液(pH8.0)3mlに溶解し、そのうち1.5mlに対して30mgの1,3−dl aminopropane(0.2mmol)及び30mgのNaCNBH3(0.5mmol)を添加した。1時間攪拌した後、凍結乾燥を行い、アミノ化サルモネラ糖鎖の粉末を得た。これを600μlのDMSOに懸濁し、N−hydroxysuccinimidobiotin 3.3mg(0.1mmol)を添加して室温にて一晩穏やかに攪拌を続けた。これにさらに蒸留水1mlを加えた後、セファデックスG−25カラムによりゲルろ過を行った。
ゲルろ過は、蒸留水で平衡化したセファデックスG−25ゲル120ml(1.0×50cm)に対し、上記で作製したビオチン化サルモネラ糖鎖の溶液1.6mlをロードし、60mlの蒸留水により溶出した。各フラクション2mlに対して、フェノール硫酸法により490nmにおける中性糖の検出を行った。サルモネラ糖鎖の存在が確認された画分を集めた後、凍結乾操し、最後に0.5mlの50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解し、以下の解析に用いた。
(4−2)抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性の解析
実験例2(2)に記載のコムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成反応液に2.5mMの塩化カルシウムと、さらに0.5μMのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を添加し、遠心分離により生じた沈殿を除いたものを用いて、実験例2(1)に記載の翻訳鋳型を添加してタンパク質合成を行った。取得された野生型及び変異型抗サルモネラ単鎖抗体を含む無細胞タンパク質合成反応液50μlを、15,000rpm、10分間の遠心分離により不溶性タンパク質を除いた。この上清28μlに対し、(4−1)で調製したビオチン化サルモネラ糖鎖3μl(280μM)と蒸留水14μlを添加し、26℃で1時間インキュベートした。その溶液16μlを25μlストレプトアビジン固定化アガロースゲル(SIGMA社製、30nmol/mlゲル)と共にエッペンドルフチューブ(500μl)へ入れ、室温にて穏やかに混合した。
反応後マイクロ遠心機にてゲルを沈降した後、上清を吸い取り代わりに25μlの50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を添加した。これを10分間同様に混合しゲルを沈降させ上清を吸い取る操作を8回繰り返した。次に25μlの0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を添加した。これを10分間同様に混合しゲルを沈降させ上清を吸い取る操作を4回繰り返した。続いて、4%SDSを含む同量の50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を添加し、30分混合した。この操作も4回繰り返した。各上清成分をTCA沈殿し、14Cカウントを測定した。この結果を図3に示す。
図3中、横軸は上記で取得された上清の番号を示し、1〜8が50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、9〜13が0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、さらに14〜22が4%SDSを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分を示し、ビオチン化サルモネラ糖鎖に特異的に結合した抗体は14〜22の画分に溶出されたものである。図3から明らかなように野生型抗サルモネラ単鎖抗体のみが特異的に抗原に結合していた。このことは弱還元型合成反応液にさらにPDIを添加して合成された抗体が本来の機能を有していることを示す。
実験例3:合成反応液中の還元剤濃度及びPDIが合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で取得された抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中のDTT及びPDIの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、抗原との結合性を解析した。翻訳反応、及び抗原との結合性の解析は実験例2に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、4nCi/μl14C Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)(c)と、さらに(a)DTTの最終濃度2mMとなるようにDTTを添加したもの(酸化還元電位:−230mV)、(b)DTTの最終濃度2mM、PDI 0.5μMとなるように添加したもの(酸化還元電位:−237mV)、(d)PDIの最終濃度0.5μMとなるように添加したものを用いた(酸化還元電位:−21mV)。この結果を図4に示す。
図4中、横軸はストレプトアビジン固相化アガロースから溶出された上清の番号を示し、1〜8が50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、9〜13が0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、さらに14〜22が4%SDSを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分を示し、ビオチン化サルモネラ糖鎖に特異的に結合した抗体は14〜22の画分に溶出されたものである。また、a〜dは上記の無細胞タンパク質合成反応液の組成を示す。
図4から明らかなように、PDIを添加した弱還元型合成反応液により翻訳合成された抗サルモネラ単鎖抗体が抗原へ結合する比率が最も高く、高還元型合成反応液を用いた場合ほとんどが抗原への結合活性を有さない。また、PDIの添加の効果は弱還元型合成反応液では顕著であった。
さらに上述したそれぞれの合成反応液を15,000rpm、10分間の遠心分離によって可溶化成分を分離し、その割合を測定した。この結果を図5に示す。図中a〜dは上記合成反応液の組成を示し、縦軸は得られたタンパク質の可溶化率を示す。
DTTを高濃度に含む無細胞タンパク質合成反応液で合成されたタンパク質はその50%が可溶性(可溶化率:50%)であるが、DTT濃度を低くした場合その比率は65%以上(可溶化率:65%以上)に上昇し、さらにPDIの添加により80%(可溶化率:80%)程度となった。
これらの結果より、無細胞タンパク質合成系において、タンパク質分子内に存在するジスルフィド結合が形成され、本来の機能を有するタンパク質が合成されていることは、取得された無細胞タンパク質合成反応液に含まれるタンパク質の可溶化率がPDIの添加によって上昇することを指標に判断できることが明らかとなった。
実験例4:無細胞タンパク質合成反応液中のDTT濃度が合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で作製した抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中のDTTの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、無細胞タンパク質合成反応液の可溶化率を解析した。翻訳反応、及び無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率の解析は実験例2及び3に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)と、さらにDTTの最終濃度50μM、100μMとなるような量のDTTを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−52mV、−81mV)を用いた。また、ぞれぞれの無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率に対するPDIの効果を解析するために、同様の組成で0.5μMのPDIを添加した反応液を用いて合成を行った。この結果を図6に示す。
図6中左側のカラム(−PDI)にはPDIを含まない反応の結果を、また右側のカラム(+PDI)にはPDIを含む反応の結果を示した。図6から明らかなように、無細胞タンパク質合成反応液中においては50μMより高濃度のDTTを含むとPDIによる可溶化率の上昇効果が認められなかった。
実験例5:無細胞タンパク質合成反応液中のDTT濃度が合成されるタンバタ質量に与える影響の解析
実験例4によりタンパク質の分子内ジスルフィド結合の形成には、無細胞タンパク質合成系の無細胞タンパク質合成反応液中のDTT濃度が50μM以下であることが必要であることが判ったが、DTTは該合成系において必須の成分であることが知られているため、その濃度のタンパク質合成量への影響を解析した。
翻訳鋳型、翻訳反応、タンパク質合成量の測定は、全て実験例2(1)及び(2)に記載の方法と同様にして行った。鋳型としてはscfv−pEUを用いた。また、無細胞タンパク質合成反応液としては、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)と、さらにDTTの最終濃度180μM、360μM、600μM、840μM、1.2mM、3mMとなるようにDTTを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−95mV、−130mV、−170mV、−180mV、−200mV、−230mV)を用いた。また、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液を透析により含有するDTT濃度を15μMに調製したもの12μl、透析を経ずにDTT濃度を30μMとしたもの12μlそれぞれにつき、1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(PH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(それぞれ、酸化還元電位が+20mV、−9mV)を用いた。この結果を図7に示す。
図7から明らかなように、タンパク質合成量が最大となるのは、DTT濃度が1.2mM程度の無細胞タンパク質合成反応液を用いた場合であった。この合成量に比べて、分子内のジスルフィド結合の形成に最も適しているDTT濃度50μMの無細胞タンパク質合成反応液では、約50%程度であった。さらにDTT濃度30μMでは、40%程度であり、DTT濃度15μMではタンパク質合成は行われていなかった。
実験例6:無細胞タンパク質合成反応液中の2−メルカプトエタノール濃度が合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で作製した抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中の2−メルカプトエタノールの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、無細胞タンパク質合成反応液の可溶化率を解析した。翻訳反応、及び無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率の解析は実験例2及び3に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むものと、さらに2−メルカプトエタノールの最終濃度が0.2mM、0.4mM、0.96mM、9.6mMとなるような量の2−メルカプトエタノールを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−35mV、−63mV、−168mV、−207mV)を用いた。また、それぞれの無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率に対するPDIの効果を解析するために、同様の組成で0.5μMのPDIを添加した反応液を用いて合成を行った。この結果を図8に示す。
図8中左側のカラム(−PDI)にはPDIを含まない反応の結果を、また右側のカラム(+PDI)にはPDIを含む反応の結果を示した。なお、図8には、実験例5でのDTT濃度30μMの場合も参考として示している。図8から明らかなように、無細胞タンパク質合成反応液中においては0.2mMより高濃度のメルカプトエタノールを含むとPDIによる可溶化率の上昇効果が認められなかった。
さらに実験例5と同様の方法で上記無細胞タンパク質合成反応液によるタンパク質合成量を測定したところ、最終濃度0.2mMとなるような量のメルカプトエタノールを添加した無細胞タンパク質合成反応液を用いてもタンパク質合成量の低下は10%程度にとどまることが判った。
実験例7:無細胞タンパク質合成反応液中のグルタチン/酸化型グルタチオン濃度が合成されるタンパク質の分子内ジスルフィド結合形成に与える影響の解析
実験例2(1)で作製した抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中のグルタチン/酸化型グルタチオンの濃度を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、無細胞タンパク質合成反応液の可溶化率を解析した。翻訳反応、及び無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率の解析は実験例2及び3に記載したものと同様にして行った。
このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、2nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)と、さらにグルタチン/酸化型グルタチオンの最終濃度が50μM/5μM、200μM/20μMとなるような量のグルタチオン/酸化型グルタチオンを添加したもの(それぞれ、酸化還元電位が−3mV、−6mV)を用いた。また、ぞれぞれの無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質の可溶化率に対するPDIの効果を解析するために、同様の組成で0.5μMのPDIを添加した反応液を用いて合成を行った。この結果を図9に示す。
図9中左側のカラム(−PDI)にはPDIを含まない反応の結果を、また右側のカラム(+PDI)にはPDIを含む反応の結果を示した。図9から明らかなように、無細胞タンパク質合成反応液中においてはグルタチン/酸化型グルタチオン濃度が50μM/5μMより高濃度であるとPDIによる可溶化率の上昇効果が認められなかった。
さらに実験例5と同様の方法で上記無細胞タンパク質合成反応液によるタンパク質合成量を測定したところ、グルタチオン/酸化型グルタチオン最終濃度が50μM/5μMの無細胞タンパク質合成反応液を用いてもタンパク質合成量の低下は10%程度にとどまることが判った。
実験例8:弱還元型合成反応液を用いた翻訳反応におけるPDIの添加時期の検討
実験例2(1)で取得された抗サルモネラ単鎖抗体をコードするDNAを含むscfv−pEUを鋳型とした翻訳反応を、反応液中に添加するPDIの添加時期を変えて行い、合成された抗サルモネラ単鎖抗体のタンパク質分子内ジスルフィド結合形成への影響を解析するために、抗原との結合性を解析した。翻訳反応、及び抗原との結合性の解析は実験例2に記載したものと同様にして行った。このうち、無細胞タンパク質合成反応液については、実験例1で調製したコムギ胚芽抽出液12μlに1.2mM ATP、0.25mM GTP、15mMクレアチンリン酸、0.4mMスペルミジン、29mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.23mM L型アミノ酸、0.58U/μl RNase inhibitor(Promega社製)、4nCi/μl 14C−Leu、7.5μg mRNAを含むもの(酸化還元電位:−14mV、DTTの最終濃度は58μM)を用いた。またPDIについては、翻訳反応2時間後に同量添加した場合と、添加しない場合を検討した。この結果を図10に示す。
図10中、横軸はストレプトアビジン固相化アガロースから溶出された上清の番号を示し、1〜8が50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、9〜13が0.15M NaCl/50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分、さらに14〜22が4%SDSを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)により溶出された画分を示し、ビオチン化サルモネラ糖鎖に特異的に結合した抗体は14〜22の画分に溶出されたものである。また、+PDIは翻訳反応2時間後にPDIを添加した結果を示し、−PDIはPDI非添加の無細胞タンパク質合成反応液を用いた湯合の結果を示す。
図10から明らかなように、翻訳反応が進行した後にPDIを添加した楊合、抗原へ結合する抗サルモネラ単鎖抗体の合成量はPDI非添加のものと差が見られなかった。このことは、PDIが翻訳反応終了後にそのジスルフィド結合を誘導するのではなく、翻訳反応の進行と共にジスルフィド結合交換反応を触媒していることを示すものである。
産業上の利用の可能性
本発明により、無細胞タンパク質合成系においては効率的な合成が不可能であった分子内ジスルフィド結合が形成されたタンパク質の合成が可能となった。分子内ジスルフィド結合を有するタンパク質の1例としては抗体が挙げられるが、抗体は、強力な抗原結合力と厳格な抗原特異性を有する。そのため、動物細胞を特定の人工抗原で免疫する必要がある場合、生命体にとって致死的な産物は排除されるという限定的な問題が発生する。その点、無細胞タンパク質合成系はそのような心配がないので本発明の方法によりほぼ無限大のレパートリーの抗原に対する医薬抗体を供給できる。また、本実験例により合成した糖鎖を抗原とする抗体についても糖鎖−タンパク質相互作用のシミュレーション技術の開発等に非常に有用な手段を提供するものである。
本出願は、日本で出願された特願2002−053161を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、弱還元型合成反応液により合成されたタンパク質の量を示すグラフである。
図2は、コムギ胚芽抽出液中のβ−ガラクトシダーゼ活性に対する塩化カルシウムの阻害作用を示すグラフである。
図3は、弱還元型合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性を示すグラフである。
図4は、還元剤濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性を示すグラフである。
図5は、還元剤濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図6は、DTT濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図7は、DTT濃度の添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の合成量を示すグラフである。
図8は、メルカプトエタノール濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図9は、グルタチオン/酸化型グルタチオン濃度及びPDIの添加条件が異なる無細胞タンパク質合成反応液を用いて合成した抗サルモネラ単鎖抗体の可溶化率を示すグラフである。
図10は、PDIの添加時期が異なる弱還元型合成反応液により合成した抗サルモネラ単鎖抗体の抗原への結合性を示すグラフである。
Claims (24)
- タンパク質分子内のジスルフィド結合が形成され得るに十分な酸化還元電位を有する無細胞タンパク質合成反応液。
- 酸化還元電位が−100mV〜0mVである請求の範囲1に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
- ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールおよびグルタチオン/酸化型グルタチオンから選択される少なくとも1つを還元剤として含有する請求の範囲1または2に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
- 20μM〜70μMのジチオスレイトールを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
- 0.1mM〜0.2mMの2−メルカプトエタノールを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
- 30μM〜50μM/1μM〜5μMのグルタチオン/酸化型グルタチオンを含有する、無細胞タンパク質合成反応液。
- ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を含む、請求の範囲1〜6のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成反応液。
- ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである請求の範囲7に記載の無細胞タンパク質合成反応液。
- 無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の酸化還元電位を、タンパク質分子内のジスルフィド結合が形成され得るのに十分な程度に調整する工程を含む無細胞タンパク質合成反応液の調製方法。
- 還元剤を含有する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を、還元剤を含まない緩衝液で予め平衡化したゲルろ過用担体に通すことを特徴とする請求の範囲9に記載の調製方法。
- 無細胞タンパク質合成反応液中の還元剤の濃度範囲を選択する方法であって、
(1)互いに異なる濃度の還元剤を含有する複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(2)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質を添加したこと以外は上記(1)と同じ複数の無細胞タンパク質合成反応液にてそれぞれ翻訳反応を行った後、反応液中の合成されたタンパク質の可溶化率を測定し、
(3)上記(1)と(2)で測定された可溶化率を比較し、
(4)ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質の存在により可溶化率が上昇する還元剤の濃度範囲、ならびに物質の非存在下で、前記濃度範囲における該物質存在下での可溶化率と同等もしくはそれ以上の可溶化率を示す濃度範囲を選択する方法。 - 選択された濃度範囲の還元剤を含有する各無細胞タンパク質合成反応液中のタンパク質合成量をそれぞれ測定し、タンパク質合成量が最も高い還元剤の濃度範囲を選択することを特徴とする請求の範囲11に記載の方法。
- 還元剤が、ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノールおよびグルタチオン/酸化型グルタチオンから選択される少なくとも1つである請求の範囲11または12に記載の方法。
- 無細胞タンパク質合成系において、請求の範囲11〜13のいずれかに記載の方法により選択された濃度範囲の還元剤を含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
- 無細胞タンパク質合成系において、20μM〜70μMのジチオスレイトールを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
- 無細胞タンパク質合成系において、0.1mM〜0.2mMの2−メルカプトエタノールを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
- 無細胞タンパク質合成系において、30μM〜50μM/1μM〜5μMのグルタチオン/酸化型グルタチオンを含有する無細胞タンパク質合成反応液を用いて翻訳反応を行うことを特徴とするタンパク質合成方法。
- ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が添加された無細胞タンパク質合成反応液を用いるものである請求の範囲14〜17に記載の方法。
- ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、翻訳反応初期には無細胞タンパク質合成反応液に添加されているものである、請求の範囲18に記載の方法。
- ジスルフィド結合交換反応を触媒する物質が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである請求の範囲18または19に記載の方法。
- 請求の範囲14〜20に記載の方法を用いて取得されるタンパク質。
- 無細胞タンパク質合成系を用いて合成されたタンパク質であって、分子内のジスルフィド結合が保持されていることを特徴とするタンパク質。
- 本来有するものと同質の機能を有することを特徴とする請求の範囲22に記載のタンパク質。
- 抗体タンパク質、分泌タンパク質、あるいは膜タンパク質である請求の範囲22または23に記載のタンパク質。
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