JP2004261160A - 非天然蛋白質、その製造方法、固定化方法及びキット - Google Patents

非天然蛋白質、その製造方法、固定化方法及びキット Download PDF

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Abstract

【課題】生理活性の低下を抑えつつ非天然アミノ酸を高効率で部位特異的に組込むのが容易な非天然蛋白質の製造方法、その製造方法により製造された非天然蛋白質、及び生理活性の低下を抑えつつ部位特異的に非天然蛋白質を固定化するのが容易な非天然蛋白質の固定化方法を提供する。
【解決手段】非天然蛋白質は非天然アミノ酸が組込まれたものである。第1の非天然蛋白質は、チロシンアナログ、サプレッサーtRNA及びチロシルtRNA合成酵素変異体を含有する蛋白質合成系に鋳型を加えて蛋白質合成させることにより製造される。チロシンアナログは化1又は化2に示されるものが用いられる。第2の非天然蛋白質は第1の非天然蛋白質に組込まれたチロシンアナログの置換基R1又はR2を狙って修飾物を結合させることにより製造される。固定化方法は前記修飾物を固定化担体に変更することにより行われる。
【化1】
Figure 2004261160

R1はアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基。
【化2】
Figure 2004261160

R2はアジド基、アセチル基又はアミノ基。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、生物が普遍的に利用する20種類のL−α−アミノ酸に存在しない側鎖を持つ非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれた非天然蛋白質を製造する非天然蛋白質の製造方法、その製造方法により得られる非天然蛋白質、及びその非天然蛋白質を固定化する非天然蛋白質の固定化方法に関するものである。また、この発明は、ブロモチロシンを部位特異的に組込ませることによりX線結晶構造解析に有意に利用できる非天然蛋白質、その非天然蛋白質の製造方法及びその非天然蛋白質の製造用キットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、この種の非天然蛋白質の製造方法としては、例えば、非天然型アミノ酸組込み蛋白質とその製造法及び試薬キットが知られている(特許文献1参照)。この製造法は、無細胞蛋白質合成系下で、特定のアミノ酸に対応するアイソアクセプティングtRNAのうち、一部のもののみを非天然型アミノ酸と結合させたものと、蛋白質構成アミノ酸とを用いて蛋白質合成を行って、非天然型アミノ酸を特定のコドングループに組込むものである。また、前記非天然型アミノ酸は、a.天然型アミノ酸中の原子を安定同位体で置換したもの、b.天然型アミノ酸中の原子を放射性同位体で置換したもの、c.天然型アミノ酸の側鎖の光学異性体、d.天然型アミノ酸の側鎖に置換基を導入したもの、e.天然型アミノ酸の側鎖を置換して疎水性、反応性、蛍光性、荷電状態、分子の大きさ、水素結合能を変化させたもの、等が挙げられる。
【0003】
一方、従来より、蛋白質のX線結晶構造解析には、例えば非特許文献1に開示されている方法により製造されたセレノメチオニン置換タンパク質が用いられている。このセレノメチオニン置換タンパク質を製造する際には、まず、大腸菌のメチオニン要求株と目的タンパク質の遺伝子が挿入されているプラスミドを準備して形質転換を行った後、抗生物質を含むアガロースゲルプレートを用いて目的タンパク質を発現する単一コロニーを単離する。次に、単離された形質転換体をメチオニンの代わりにセレノメチオニンを含む培地中で培養することにより目的タンパク質を発現させて精製する。
【0004】
【特許文献1】
特許第3317983号公報
【非特許文献1】
清水敏之、岡田健吾、箱嶋敏雄、第17章 X線結晶構造解析 セレノメチオニン置換タンパク質の発現と調製、「基礎生化学実験法3 タンパク質I.検出・構造解析法」、株式会社東京化学同人、第1版第1刷 2001年2月15日、p.189−190。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来の非天然型アミノ酸組込み蛋白質の製造法では、前記d及びeの置換基の種類、性質、大きさ等が十分に厳選されていなかったことから、それら非天然型アミノ酸の組込み効率に著しい差異が生じやすく、実用的ではなかった。さらに、この製造法では、リボソームとの結合において立体障害となるような巨大な置換基が導入された非天然型アミノ酸の組込みは事実上不可能であった。
【0006】
一方、前記従来のセレノメチオニン置換タンパク質を製造する際には、前記目的タンパク質のメチオニンが取り込まれるべき全ての位置にセレノメチオニンが取り込まれて置換されることから部位特異的な置換を行うことができなかった。このため、この製造方法にて製造されたタンパク質では、セレノメチオニンの置換数が多すぎる場合には溶解度が著しく低下することから精製や結晶化が困難になり、逆に目的タンパク質中の構成アミノ酸としてメチオニンを含まない場合にはそのままの状態では適用できないといった様々な不都合が生じていた。
【0007】
この発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、生理活性の低下を抑えつつ、蛋白質構成アミノ酸として非天然アミノ酸を高効率で部位特異的に組込むことが容易な非天然蛋白質の製造方法を提供することにある。別の目的とするところは、蛋白質構成アミノ酸として非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれているうえ、生理活性の低下を抑えることが容易な非天然蛋白質を提供することにある。その他の目的とするところは、生理活性の低下を抑えつつ、部位特異的に非天然蛋白質を固定化することが容易な非天然蛋白質の固定化方法を提供することにある。一方、この発明のそれ以外の目的とするところは、X線構造解析に容易に利用することができる非天然蛋白質、その製造方法及び製造用のキットを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の非天然蛋白質の製造方法は、非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれた非天然蛋白質を製造する方法であって、チロシンアナログと、サプレッサーtRNAと、前記チロシンアナログをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを含有する蛋白質合成系に、鋳型を加えて蛋白質合成させる蛋白質合成工程を含み、前記チロシンアナログはアジドチロシン、アセチルチロシン、アミノチロシン又はドーパであり、前記鋳型は前記サプレッサーtRNAが認識する終止コドンを翻訳領域に配したポリヌクレオチドであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明の非天然蛋白質の製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記蛋白質合成工程後に後修飾工程を行うとともに、該後修飾工程は、前記チロシンアナログの側鎖のアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基を修飾して修飾物を結合させることにより該チロシンアナログをチロシンアナログ修飾体にする工程であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載の発明の非天然蛋白質の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記アミノアシルtRNA合成酵素変異体をSaccharomyces cerevisiaeのチロシルtRNA合成酵素変異体とするとともに、前記サプレッサーtRNAをSaccharomyces cerevisiaeのナンセンスサプレッサーtRNATyrとしたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明の非天然蛋白質は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造されたものである。
請求項5に記載の発明の非天然蛋白質の固定化方法は、請求項1に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質を、支持体とその支持体に結合した反応基とを備えた固定化担体に固定化する方法であって、前記チロシンアナログの側鎖のアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基を前記反応基に対して結合させることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6に記載の発明の非天然蛋白質の製造方法は、非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれた非天然蛋白質を製造する方法であって、ブロモチロシンと、サプレッサーtRNAと、前記ブロモチロシンをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを含有する蛋白質合成系に、鋳型を加えて蛋白質合成させる蛋白質合成工程を含み、前記鋳型は前記サプレッサーtRNAが認識する終止コドンを翻訳領域に配したポリヌクレオチドであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7に記載の発明の非天然蛋白質は、請求項6に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質であって、蛋白質構成アミノ酸としてブロモチロシンを備えていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項8に記載の発明のキットは、請求項6に記載の非天然蛋白質の製造方法に用いられる非天然蛋白質の製造用のキットであって、ブロモチロシンと、そのブロモチロシンをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを備えていることを特徴とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
(第一実施形態)
以下、この発明を具体化した第一実施形態を詳細に説明する。
【0016】
第一実施形態の非天然蛋白質は、非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれたポリペプチドである。前記非天然アミノ酸は、生物が普遍的に利用する20種類の標準型アミノ酸(L−α−アミノ酸)に存在しない側鎖を持つアミノ酸であり、チロシンアナログ(Yアナログ)又はその修飾体(チロシンアナログ修飾体、Yアナログ修飾体)が挙げられる。この非天然蛋白質は、前記Yアナログが組込まれた第1の非天然蛋白質、又は前記Yアナログ修飾体が組込まれた第2の非天然蛋白質の2種類に分類される。
【0017】
Yアナログとしては、アジドチロシン(azido tyrosine)、アセチルチロシン(acetyl tyrosine)、アミノチロシン(amino tyrosine)又はドーパ(DOPA;3,4−dihydroxyphenylalanine)が用いられる。これらのYアナログは、下記化1又は化2に示される構造を有している。
【0018】
【化1】
Figure 2004261160
但し、R1はアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基。
【0019】
【化2】
Figure 2004261160
但し、R2はアジド基、アセチル基又はアミノ基。
【0020】
即ち、化1に示されるYアナログは、チロシンの側鎖を構成するフェノール性芳香族環の3(メタ)位に置換基R1としてアジド基(−N)、アセチル基(−COCH)、アミノ基(−NH)又は水酸基(−OH)を有している。化2に示されるYアナログは、チロシンの側鎖を構成するフェノール性芳香族環の2(オルト)位に置換基R2としてアジド基、アセチル基又はアミノ基を有している。なお、これらのYアナログの置換基は、メタ位又はオルト位のいずれに結合されていても構わないが、側鎖の端部側に位置しYアナログ修飾体にする反応が進行しやすいことからメタ位に結合されているのが好ましい。また、これらのYアナログは、L型又はD型のいずれの光学異性体であっても構わないが、蛋白質合成効率が高いことからL型であるのが好ましい。
【0021】
Yアナログ修飾体は、前記Yアナログの側鎖(フェノール性芳香族環の2位又は3位)に修飾物が結合した有機化合物である。前記修飾物は、修飾基と、その修飾基に結合した反応基とを備えている。前記反応基としては、オルトアルコキシカルボニルアリールジアリールホスフィン(トリアリールホスフィン(triarylphosphine)誘導体)、ヒドラジン(hydrazine)、コハク酸イミドエステル(succimidyl ester)、イソチオシアン酸(isothiocyanate)塩、塩化スルホニル(sulfonyl chloride)、アルデヒド(aldehyde)、又はカルボン酸や酸ハライド若しくはその酸無水物が挙げられる。前記修飾基は、特に限定されないが、実用的な用途拡大が容易であることから、蛍光物質、疎水性の巨大分子、親水性物質、電荷を有する物質、水素結合能を有する物質、化学反応性を有する物質、生理活性物質(酵素等)、生体構成物質(蛋白質、糖鎖、ポリヌクレオチド、脂肪酸等)、ビオチン(Biotin)、抗体又はその一部等が好適に用いられる。また、修飾基として、ポリエチレングリコール等のドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いられる機能性担体を用いてもよい。
【0022】
このYアナログ修飾体は、Yアナログの置換基と、前記修飾物の反応基とを化学的又は生物化学的に結合(共有結合)させることにより得られる。
前記置換基と反応基との組合わせとしては、置換基がアジド基の場合には反応基としてはトリアリールホスフィン誘導体となり、図1に模式的に示されるような反応(Staudinger ligation反応)が行われる。また、置換基がアセチル基の場合には反応基がヒドラジンとなり、置換基がアミノ基の場合には反応基がコハク酸イミドエステル、イソチオシアン酸塩、塩化スルホニル、アルデヒド、又はカルボン酸や酸ハライド若しくはその酸無水物となる。これら置換基と反応基との反応は化学的反応である。また、前記Yアナログがドーパの場合には、そのフェノール性芳香族環の3位及び4位の水酸基をドーパオキシダーゼ(DOPA oxidase)による酵素反応を利用しつつ反応基としてのアミノ基と結合(生物化学的反応)させることにより、修飾物が結合してYアナログ修飾体となる。これらのYアナログの置換基を修飾する反応は、生理的条件下(例えば大腸菌や酵母等の一般細菌又は単細胞生物が生存可能な条件下)で行うことが可能となっている。
【0023】
実施形態の第1の非天然蛋白質の製造方法は、Yアナログと、サプレッサーtRNAと、アミノアシルtRNA合成酵素変異体とを含有する蛋白質合成系に、鋳型を加えて蛋白質合成させる蛋白質合成工程を行うものである。前記サプレッサーtRNAは、mRNA上の終止コドン(アンバー、オーカー又はオパール)をあるアミノ酸に対応するコドンとして読むナンセンスサプレッサーtRNA又はミスセンスサプレッサーtRNAである。
【0024】
前記アミノアシルtRNA合成酵素変異体は、前記Yアナログを前記サプレッサーtRNAに特異的に結合させる酵素である。このアミノアシルtRNA合成酵素変異体としては、前記Yアナログを基質とするものであれば特に限定されないが、標準型アミノ酸に対する基質特異性が低くなりやすく有用であることから野生型のチロシルtRNA合成酵素を改変したチロシルtRNA合成酵素変異体(TyrRS変異体)が最も好適に用いられる。前記野生型のチロシルtRNA合成酵素としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる酵母(Saccharomyces cerevisiae)チロシルtRNA合成酵素が挙げられる。
【0025】
この酵母チロシルtRNA合成酵素の変異体、即ち酵母TyrRS変異体としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列の43番目のTyrがGlyに置換されたY43GチロシルtRNA合成酵素変異体(Y43G TyrRS)、配列番号1で表されるアミノ酸配列の81番目のHisがValに置換されたH81VチロシルtRNA合成酵素変異体(H81V TyrRS)、配列番号1で表されるアミノ酸配列の186番目のGlnがValに置換されたQ186VチロシルtRNA合成酵素変異体(Q186V TyrRS)、配列番号1で表されるアミノ酸配列の186番目のGlnがThrに置換されたQ186TチロシルtRNA合成酵素変異体(Q186T TyrRS)、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列の186番目のGlnがIleに置換されたQ186IチロシルtRNA合成酵素変異体(Q186I TyrRS)が挙げられる。また、前記Y43G TyrRS、H81V TyrRS、Q186V TyrRS、Q186T TyrRS若しくはQ186I TyrRSの1〜364番目のアミノ酸配列からなる変異体も同様の酵素活性があることから用いられる。
【0026】
さらに、このTyrRS変異体としては、精製が容易であること等から、前記各TyrRS変異体のC末端にヒスチジンタグ等のタグ(tag)が結合したものを用いるとよい。なお、前記Y43G TyrRSについては、S.Ohno et.al., Changing the Amino Acid Specificity of Yeast Tyrosyl−tRNA Synthetase by Genetic Engineering, J.Biochem.130,417−423(2001)に開示されている。また、前記各酵母TyrRS変異体はいずれも、酵母ナンセンスサプレッサーtRNATyr(tRNATyr)(アンバー、オーカー又はオパール)を基質とする。
【0027】
前記鋳型は、前記サプレッサーtRNAが認識する終止コドンを、部位特異的突然変異(site−directed mutagenesis)等により人為的に翻訳領域に配したポリヌクレオチドであり、DNA又はmRNAの形態で用いられる。前記DNAとしては、転写に必須な配列を含む二本鎖DNAが挙げられ、種々のベクターやプラスミド等に導入して利用するのが最も簡便である。なお、前記翻訳領域の3’末端に位置する終止コドンは、前記サプレッサーtRNAが認識する終止コドンとは異なる塩基配列のコドンが配される。
【0028】
前記蛋白質合成系は、前記鋳型がコードする蛋白質を合成させるためのシステムであり、インビトロ(in vitro)蛋白質合成系又はインビボ(in vivo)蛋白質合成系が挙げられる。なお、この蛋白質合成系に含有されるアミノアシルtRNA合成酵素変異体及びその変異体の基質としてのサプレッサーtRNAは、同蛋白質合成系の翻訳過程に関与する成分とは異なる種の生物に由来するものであるのが好ましく、一方が真核細胞由来で他方が原核細胞由来であるのがより一層好ましい。このとき、第1の非天然蛋白質にYアナログを適切かつ部位特異的に組込むことがより一層容易となる。
【0029】
インビトロ蛋白質合成系としては、鋳型としてのmRNAからの翻訳を行わせるインビトロ翻訳系、又は鋳型としてのDNAから転写及び翻訳を行わせるインビトロ転写翻訳系が挙げられる。これらインビトロ蛋白質合成系としては、転写、若しくは転写及び翻訳に必要な成分を人工的に混合することにより構築されたもの、細胞抽出物からなる無細胞蛋白質合成系、又は両者を混合することにより構築されたものが用いられる。前記無細胞蛋白質合成系は、大腸菌等の原核細胞、酵母等の真核細胞、プロトプラスト等の植物細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の細胞を主として脱核することにより得られ、転写及び翻訳に必要な各種成分が高含有されている。このインビトロ蛋白質合成系としては、広く有用性が認められていることから、大腸菌S30抽出物又は小麦胚芽抽出物を含有するもの、ウサギ網状赤血球の溶血系、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、バキュロウィルスベクター蛋白質発現系、アフリカツメガエル卵母細胞等が好適に用いられる。また、非天然アミノ酸の導入に負に働く因子(例えば核酸分解酵素、蛋白質分解酵素、解離因子、酸化・還元酵素等)を破壊(欠損)、又は免疫沈降等により取り除いた大腸菌の細胞抽出液も好適に用いられる。
【0030】
このインビトロ蛋白質合成系中に含まれるYアナログは、同蛋白質合成系中の各標準型アミノ酸の含有量よりも多いのが好ましく、より好ましくは前記含有量の1〜100倍量、さらに好ましくは5〜10倍量であるとよい。Yアナログが前記含有量の1倍量未満の場合にはYアナログを非天然蛋白質に高い効率で組込ませることができず、逆に100倍量を越える場合には蛋白質合成系の秩序が乱されて破綻しやすくなる。また、インビトロ蛋白質合成系中に含まれるサプレッサーtRNAは、同蛋白質合成系中の各tRNAの含有量と同程度であるのが好ましく、より好ましくは前記含有量の0.01〜10倍量、さらに好ましくは0.5〜2倍量であるとよい。サプレッサーtRNAが前記含有量の0.01倍量未満の場合にはYアナログを非天然蛋白質に高い効率で組込ませることができず、逆に10倍量を越える場合には蛋白質合成系の秩序が乱されて破綻しやすくなる。また、インビトロ蛋白質合成系中に含まれるアミノアシルtRNA合成酵素変異体は、同蛋白質合成系中の各アミノアシルtRNA合成酵素(野生型)の含有量よりも多いのが好ましく、より好ましくは前記含有量の0.05〜0.5mg/ml、さらに好ましくは0.1〜0.2mg/mlであるとよい。アミノアシルtRNA合成酵素変異体が前記含有量の0.05mg/ml未満の場合にはYアナログを非天然蛋白質に高い効率で組込ませることができず、逆に0.5mg/mlを越える場合には蛋白質合成系の秩序が乱されて破綻しやすくなる。
【0031】
インビボ蛋白質合成系としては、外来遺伝子としての前記鋳型及びアミノアシルtRNA合成酵素変異体が発現可能となるように形質転換された細胞(形質転換細胞)、又は該細胞を含む生物個体が用いられる。前記形質転換細胞としては、脱核されていない生細胞が用いられ、大腸菌等の原核細胞、酵母等の真核細胞、植物細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞等が好適に用いられる。なお、前記アミノアシルtRNA合成酵素変異体の基質としてのサプレッサーtRNAが前記形質転換細胞中に内在されていない場合には、該サプレッサーtRNAも外来遺伝子として同細胞中に形質転換される必要がある。このインビボ蛋白質合成系では、Yアナログを食餌として摂取させることにより、前記外来遺伝子が発現された形質転換細胞中の蛋白質合成系が非天然蛋白質を継続的かつ大量に生産する。
【0032】
一方、この第1の非天然蛋白質の製造方法に用いられるYアナログとしては、蛋白質合成系に通常含有されていない置換基を有していることから、アジドチロシン又はドーパが好適に用いられる。また、特異性の高い酵素反応を利用して第2の非天然蛋白質を製造することが可能であることから、ドーパが特に好適に用いられる。
【0033】
実施形態の第2の非天然蛋白質の製造方法は、前記第1の非天然蛋白質の製造方法における蛋白質合成工程を行った後、さらに後修飾工程を行うものである。この後修飾工程は、前記Yアナログの側鎖のアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基を修飾してYアナログ修飾体にする工程であり、上記Yアナログ修飾体における化学的反応又は生物化学的反応が行われる。なお、この第2の非天然蛋白質の製造方法において、前記蛋白質合成工程と後修飾工程との間に、蛋白質合成に関与しなかった未反応のYアナログを取り除く操作を行うのが好ましい。
【0034】
実施形態の非天然蛋白質の固定化方法は、前記第1の非天然蛋白質を固定化担体に対して固定化するものである。前記固定化担体は、水又は有機溶媒に不溶な固体からなる支持体と、その支持体に結合した反応基とを備えている。前記反応基は、上記Yアナログ修飾体の置換基と反応するもの(上記反応基と同じもの)が用いられる。そして、この固定化方法では、上記Yアナログ修飾体における化学的反応又は生物化学的反応と同じ反応を行うことにより、固定化担体に第1の非天然蛋白質を固定化させる。この非天然蛋白質が固定化された固定化担体は、例えばアフィニティクロマトグラフィー、プロテインチップ、バイオリアクター等に利用することができる。また、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、エラスチン、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、免疫グロブリンスーパーファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー、リンク蛋白質ファミリー、シアロムチンファミリー等の細胞接着分子を固定化させたインプラント材や再生医療用人工素材にも利用することができる。
【0035】
上記第一実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 第一実施形態の第1の非天然蛋白質は、蛋白質構成アミノ酸としてYアナログが部位特異的に組込まれたものである。第一実施形態の第2の非天然蛋白質は、蛋白質構成アミノ酸としてYアナログ修飾体が部位特異的に組込まれたものでる。即ち、これら非天然蛋白質は、蛋白質構成アミノ酸として非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれていることから、天然蛋白質とは異なる性質を人為的に付与されたものである。
【0036】
このため、これらの非天然蛋白質は、天然蛋白質とは分子構造が明確に区別されていることから、その生体内での局在や挙動を調べるのが容易である。特に、第1の非天然蛋白質では、Yアナログのサイズが標準型アミノ酸とほとんど相違しないことから、生きた生物体に対する悪影響が極めて少ないうえ、該生物体に対して後修飾工程を行ってインサイチュ(in situ)による可視化を行うことが極めて容易である。また、電気泳動後に標識化(可視化)することも容易である。また、これらの非天然蛋白質は、非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれていることから、天然蛋白質の生理活性に関与する蛋白質構成アミノ酸を特定したり、蛋白質の立体構造解析(structurome)に利用したり、情報処理解析技術の開発に利用することができる。また、アフィニティクロマトグラフィー担体、プロテインチップやその解析機器、バイオリアクター、ナノテクノロジー、電子機器、情報解析、精密計測機器等の研究又は工業的な応用が容易である。また、ゲノム情報を活用した画期的な医薬品素材やバイオマーカーの開発等の医療関連分野にも応用することが可能である。特に、第1の非天然蛋白質は蛋白質合成系による生物学的な製造方法により得られ、第2の非天然蛋白質は置換基と反応基との化学反応等が生理的な条件下で行われていることから、その生理活性の変化や立体構造の変化を極めて寡少に止めることが容易であるうえ、人為的に変化させることも容易である。
【0037】
・ 第一実施形態の第1の非天然蛋白質の製造方法では、Yアナログが用いられている。これらのYアナログのアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基は、いずれも標準型アミノ酸に対する分子構造の差を明確化しているうえ、いずれも立体障害をほとんど生じない小さいサイズのものである。このため、これらのYアナログはいずれも、リボソーム上でアミノアシルtRNAがアミノアシルtRNA結合部位(A部位)に結合する反応を行う際の立体障害とはならないサイズであることから、蛋白質合成工程が天然蛋白質の場合とほぼ同様に迅速に進行する。さらに、これらのYアナログはいずれも、セントラルドグマに従った蛋白質合成系を用いた生理的な反応により非天然蛋白質に組込まれることから、該蛋白質の生理活性の低下が著しく効果的に抑えられている。また、トリプレットからなる遺伝コードを利用していることから、公知の天然蛋白質をコードするポリヌクレオチドの翻訳フレームを部位特異的突然変異等により大幅に改変する必要がなく、極めて手軽に製造することが可能である。
【0038】
・ 第一実施形態の第2の非天然蛋白質の製造方法は、蛋白質合成工程を行って第1の非天然蛋白質を製造した後、該蛋白質と修飾物とを混合して生理的条件下で反応(化学反応や酵素反応等)させる後修飾工程を行うことにより、同蛋白質に修飾物を結合させるものである。この製造方法では、蛋白質合成工程及び後修飾工程ともに生理的条件下で行われることから、第2の非天然蛋白質の生理活性の低下を極めて効果的に抑えることができる。さらに、前記後修飾工程における置換基と反応基との反応は、著しく迅速かつ効率的に進行する反応である。一方、実施形態の非天然蛋白質の固定化方法は、前記後修飾工程とほぼ同様な反応を利用していることから、全く同様な効果が奏され得る。
【0039】
(第二実施形態)
以下、この発明の第二実施形態を上記第一実施形態を参照しつつ説明する。
第二実施形態の非天然蛋白質は、Yアナログとしてのブロモチロシン(bromo tyrosine)が部位特異的に組込まれたポリペプチドである。この非天然蛋白質は、X線を好適に散乱させる性質を有するブロモ基(−Br)が部位特異的に組込まれていることから、その非天然蛋白質のX線結晶構造解析に好適に利用される。さらに、この非天然蛋白質は、前記ブロモ基が極めて立体障害の少ない置換基であることから、該非天然蛋白質の立体構造(三次構造、四次構造)と天然蛋白質のそれとの間に相違が生じにくく、極めて好適な構造解析を行うことができる。
【0040】
前記ブロモチロシンは、チロシンの側鎖を構成するフェノール性芳香族環の3(メタ)位又は2(オルト)位に置換基としてのブロモ基を備えたYアナログであり、上記化1に示されるYアナログの置換基R1をブロモ基としたもの又は上記化2に示されるYアナログの置換基R2をブロモ基としたものが挙げられる。なお、このブロモチロシンのブロモ基は、メタ位又はオルト位のいずれに結合されていても構わない。また、このブロモチロシンとしては、L型又はD型のいずれの光学異性体であっても構わないが、蛋白質合成効率が高いことからL型であるのが好ましい。
【0041】
第二実施形態の非天然蛋白質の製造方法は、上記第一実施形態の第1の非天然蛋白質の製造方法と全く同様に行われる。
第二実施形態のキットとしての非天然蛋白質の製造用キットは、少なくともブロモチロシン及び該ブロモチロシンをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体が含有されており、さらにサプレッサーtRNAが含有されているのがより好ましい。また、この製造用キット中には、さらに蛋白質合成系が含有されているのが好ましい。なおこのとき、前記サプレッサーtRNA及びアミノアシルtRNA合成酵素変異体は、該蛋白質合成系の翻訳過程に関与する成分とは異なる種の生物に由来するものであるのが好ましく、一方が真核細胞由来で他方が原核細胞由来であるのがより一層好ましい。また、この製造用キット中に、部位特異的突然変異を行うための遺伝子キットが含有されていてもよい。
【0042】
上記第二実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 第二実施形態の非天然蛋白質は、蛋白質構成アミノ酸としてブロモチロシンが部位特異的に組込まれたものである。このため、この非天然蛋白質は、ブロモチロシンのサイズが標準型アミノ酸とほとんど相違しないことから、非天然蛋白質の三次構造が天然蛋白質のフォールディング様式とほとんど相違することはない。従って、X線結晶構造解析において立体構造を調べるために好適に用いられるうえ、その際にはX線の散乱特性に非常に優れていて好ましい。さらに、ブロモチロシンが部位特異的に組込まれていることから、前記従来のセレノメチオニン置換タンパク質の場合のような種々の不具合の発生がほとんどない。
【0043】
・ 第二実施形態の非天然蛋白質の製造方法では、Yアナログとしてブロモチロシンが用いられている。このYアナログのブロモ基は、立体障害をほとんど生じない小さいサイズのものであることから、上記第一実施形態の第1の非天然蛋白質の製造方法と全く同様の効果を奏する。
【0044】
【実施例】
以下、前記実施形態を具体化した実施例及び比較例について説明する。
<インビトロ蛋白質合成系(大腸菌S30抽出物)の調製>
LB(Luria−Bertani)プレートに生やした大腸菌Q13株(国立遺伝学研究所より分譲)の単一コロニーをLB培地100mlに植菌し、37℃で一晩振盪培養(プレ培養)した。次に、前記プレ培養後の培養液を100倍量の2×YT(Trypton Pepton,Yeast Extract)培地(DIFCO社製)に加え、600nmにおける濁度(OD600)が0.3〜0.4になるまで37℃で振盪培養(本培養)した。続いて、前記本培養後の培養液を氷冷し、すぐに遠心分離して集菌した後、その菌体を、ヘペス緩衝液(Hepes−KOH(pH7.5) 20mM)、酢酸マグネシウム(10mM)、酢酸アンモニウム(20mM)、2−メルカプトエタノール(10mM)を含む溶液40mlに懸濁して菌体懸濁液を得た。前記菌体懸濁液にLysozyme(生化学工業社製)を2mg/mlになるように加え、氷上に約10分間静置した。続いて、前記菌体懸濁液を遠心分離して沈澱を得た後、その沈澱(菌体)の重量を量り、その重量と同量のS30緩衝液(菌体1gに対し1mlのS30緩衝液)で懸濁してS30懸濁液を得た。そのS30懸濁液を細胞破砕した後、遠心分離することにより上清を得た。この上清は、インビトロ蛋白質合成系としての大腸菌S30抽出物であり、小分けして液体窒素で長期間保存することが可能である。
【0045】
<非天然蛋白質の製造>
ヘペス緩衝液(Hepes−KOH(pH7.6) 50mM)、酢酸マグネシウム(7.7mM)、酢酸アンモニウム(27.5mM)、ジチオスレイトール(DTT 1.7mM)、ヌクレオチド三リン酸(ATP 1.25mM,GTP 0.83mM,UTP 0.83mM,CTP 0.83mM)、クレアチンリン酸(80mM)、クレアチンキナーゼ(0.21mg/ml)、T7RNAポリメラーゼ(本発明者らが単離0.1mg/ml)、大腸菌Q13株tRNAミックス(本発明者らが単離 3.4A260unit/ml)、L−チロシン(80μM)、L−チロシン以外の標準型アミノ酸19種(each 160μM)、ホリン酸(50μM)、酢酸カリウム(200mM)、ポリエチレングリコール(wt.8000 4%)、3−アジド−L−チロシン(本発明者らが合成 500μM)、酵母Y43G TyrRS(本発明者らが作製 0.17mg/ml)、酵母サプレッサーtRNATyr(CUA)(本発明者らが単離 0.1A260unit/ml)、鋳型DNA(20μg/ml)、前記大腸菌S30抽出物(30%(v/v))及び脱イオン水を、括弧内に記載された終濃度となるように試験管内に入れて混合した後、30℃で1時間インキュベートした。
【0046】
比較例1は、鋳型DNAとして、野生型の大腸菌ジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase[EC:1.5.1.3];DHFR)遺伝子、即ち配列番号2で表される塩基配列からなる二本鎖DNAが組込まれたプラスミドベクターpET 21−a(+)(NOVAGEN社製)を使用した。比較例2は、鋳型DNAとして、前記プラスミドベクターpET 21−a(+)を使用した。実施例1は、鋳型DNAとして、大腸菌DHFRの37位のAsnに対応するコドンを部位特異的突然変異によりアンバーコドンに改変した遺伝子、即ち配列番号2で表される塩基配列の109〜111番目をtagに改変した二本鎖DNAが組込まれたプラスミドベクターpET 21−a(+)を使用した。また、実施例2は、鋳型DNAとして、大腸菌DHFRの128位のTyrに対応するコドンを部位特異的突然変異によりアンバーコドンに改変した遺伝子、即ち配列番号2で表される塩基配列の382〜384番目をtagに改変した二本鎖DNAが組込まれたプラスミドベクターpET 21−a(+)を使用した。
【0047】
次に、前記インキュベート後の反応液をNi−NTAスピンカラム(Qiagen社製、溶出液はpH7.4のリン酸緩衝液)により蛋白質合成に関与しなかった3−アジド−L−チロシンを除去しつつ精製した後、蛍光標識された修飾物を終濃度250μMとなるように添加して37℃で1時間インキュベートした。続いて、これら実施例1,2、比較例1,2及び予め単離された野生型の大腸菌DHFRをSDSゲル電気泳動した後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色及び蛍光染色を行った。なお、前記修飾物は、本発明者らが合成したトリアリールホスフィン誘導体であり、図1に示されるような構造を有している。
【0048】
その結果、比較例1,2では蛍光が検出されなかったが、改変した鋳型DNAを用いて製造された実施例1,2では、いずれも野生型の大腸菌DHFRと同じ分子量のCBB染色バンドの位置に蛍光バンドが検出された。また、データは示さないが、実施例1,2の非天然蛋白質ではいずれも、野生型の大腸菌DHFRとほぼ同程度のDHFR活性が確認された。
【0049】
<非天然蛋白質の固定化>
アミノコーティングプレート(住友ベークライト社製)の各穴(ウェル)に、トリアリルフォスフィン誘導体(5mg/ml ジメチルスルホキシド溶液)を分注し、37℃で2時間インキュベートして吸着させた。各ウェルをリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、前記実施例1,2、比較例1,2及びリン酸緩衝液(コントロール)を各ウェルに分注し、37℃で6時間インキュベートした。次に、各ウェルをリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、テキサスレッドで標識したメトトレキセートを各ウェルに分注し、37℃で2時間インキュベートした。最後に、各ウェルをリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、イメージングアナライザー(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)で解析したところ、実施例1,2を分注したウェルでは底面及び内壁面にテキサスレッドの色が明確に確認された。一方、比較例1,2及びリン酸緩衝液を分注したウェルでは確認されなかった。
【0050】
<アミノアシルtRNA合成酵素変異体の基質特異性の調査>
Y43G TyrRS、H81V TyrRS、Q186V TyrRS、Q186T TyrRS及びQ186I TyrRSの5種類の酵母TyrRS変異体について、各種Yアナログに対する基質特異性を酸性条件下ポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認した。なお、前記電気泳動は、Nucleic Acids Symposium Series No.35, 285−286(1996) (Oxford University Press, ISSN 0261 3166)の方法に従って行われた。結果を表1に示す。なお、表1において、酵母TyrRSがYアナログを認識したことを実際に確認した場合には◎と表記した。また、酵母TyrRSがYアナログを認識したことを直接確認してはいないが、野生型の酵母チロシルtRNA合成酵素(酵母TyrRS)等の試験結果から、認識する可能性が極めて高い場合には○、認識する可能性が十分にある場合には△、認識する可能性が極めて低い又は認識しない場合には×、認識するか否か全く不明の場合にはNDと表記した。
【0051】
【表1】
Figure 2004261160
その結果、これら5種類の酵母TyrRS変異体については、全ての確認が取れていない状況ではあるが、基質特異性に多少の相違は見られるが概ね上記各実施形態の非天然蛋白質の製造に使用できることが確認された。さらには、これら5種類の酵母TyrRS変異体は、メタ位(3位)に置換基を有するものは表1の通りであるが、野生型の酵母TyrRSがオルト位(2位)に置換基を有するものを基質として認識するという事実から同様に認識する可能性が高い。一方、Y43G TyrRS及びH81V TyrRSについては、D−チロシンを認識しないことからD型のYアナログを認識する可能性は著しく低いが、D−ドーパは認識する可能性は高い。Q186V TyrRS、Q186T TyrRS及びQ186I TyrRSについては、D−チロシンを基質として認識する可能性が高いが、D−ドーパは基質とはなる可能性は極めて低い。
【0052】
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 第一実施形態の第1の非天然蛋白質の製造方法において、まず、Yアナログと、サプレッサーtRNAと、アミノアシルtRNA合成酵素変異体とを予め酵素反応させることにより、Yアナログがアミノアシル化されたサプレッサーtRNA(アミノアシルtRNA)を調製すること。その後、前記調製されたアミノアシルtRNAを蛋白質合成系に添加して蛋白質合成を行うこと。なおこのとき、前記蛋白質合成系にアミノアシルtRNAに加えて、さらにYアナログと、アミノアシルtRNA合成酵素変異体とを加えてもよい。また、第二実施形態の非天然蛋白質の製造方法も全く同様に製造され得る。
【0053】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 請求項1に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質であって、蛋白質構成アミノ酸としてチロシンアナログを備えていることを特徴とする非天然蛋白質。請求項2に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質であって、蛋白質構成アミノ酸としてチロシンアナログ修飾体を備えていることを特徴とする非天然蛋白質。
【0054】
・ 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の非天然蛋白質の製造方法に用いられる非天然蛋白質の製造用のキットであって、チロシンアナログと、そのチロシンアナログをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを備えていることを特徴とするキット。このように構成した場合、生理活性の低下を抑えつつ、蛋白質構成アミノ酸として非天然アミノ酸を高効率で部位特異的に組込むことが容易である。
【0055】
・ 請求項5に記載の非天然蛋白質の固定化方法に用いられる非天然蛋白質の固定化用のキットであって、チロシンアナログと、そのチロシンアナログをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体と、固定化担体とを備えていることを特徴とするキット。このように構成した場合、生理活性の低下を抑えつつ、部位特異的に非天然蛋白質を固定化することが容易である。
【0056】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明によれば、次のような効果を奏する。
請求項1から請求項3に記載の発明の非天然蛋白質の製造方法によれば、生理活性の低下を抑えつつ、蛋白質構成アミノ酸として非天然アミノ酸を高効率で部位特異的に組込むことが容易である。請求項4に記載の発明の非天然蛋白質によれば、蛋白質構成アミノ酸として非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれているうえ、生理活性の低下を抑えることが容易である。請求項5に記載の発明の非天然蛋白質の固定化方法によれば、生理活性の低下を抑えつつ、部位特異的に非天然蛋白質を固定化することが容易である。
【0057】
請求項6に記載の発明の非天然蛋白質の製造方法によれば、X線構造解析に容易に利用することができる非天然蛋白質を容易に製造することができる。請求項7に記載の発明の非天然蛋白質によれば、X線構造解析に容易に利用することができる。請求項8に記載の発明のキットによれば、X線構造解析に容易に利用することができる非天然蛋白質を容易に製造することができる。
【0058】
【配列表】
Figure 2004261160
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【図面の簡単な説明】
【図1】第一実施形態の後修飾工程における反応の一例を示す模式図。

Claims (8)

  1. 非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれた非天然蛋白質を製造する方法であって、
    チロシンアナログと、サプレッサーtRNAと、前記チロシンアナログをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを含有する蛋白質合成系に、鋳型を加えて蛋白質合成させる蛋白質合成工程を含み、
    前記チロシンアナログはアジドチロシン、アセチルチロシン、アミノチロシン又はドーパであり、
    前記鋳型は前記サプレッサーtRNAが認識する終止コドンを翻訳領域に配したポリヌクレオチドであることを特徴とする非天然蛋白質の製造方法。
  2. 前記蛋白質合成工程後に後修飾工程を行うとともに、
    該後修飾工程は、前記チロシンアナログの側鎖のアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基を修飾して修飾物を結合させることにより該チロシンアナログをチロシンアナログ修飾体にする工程であることを特徴とする請求項1に記載の非天然蛋白質の製造方法。
  3. 前記アミノアシルtRNA合成酵素変異体をSaccharomyces cerevisiaeのチロシルtRNA合成酵素変異体とするとともに、
    前記サプレッサーtRNAをSaccharomyces cerevisiaeのナンセンスサプレッサーtRNATyrとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非天然蛋白質の製造方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質。
  5. 請求項1に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質を、支持体とその支持体に結合した反応基とを備えた固定化担体に固定化する方法であって、
    前記チロシンアナログの側鎖のアジド基、アセチル基、アミノ基又は水酸基を前記反応基に対して結合させることを特徴とする非天然蛋白質の固定化方法。
  6. 非天然アミノ酸が部位特異的に組込まれた非天然蛋白質を製造する方法であって、
    ブロモチロシンと、サプレッサーtRNAと、前記ブロモチロシンをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを含有する蛋白質合成系に、鋳型を加えて蛋白質合成させる蛋白質合成工程を含み、
    前記鋳型は前記サプレッサーtRNAが認識する終止コドンを翻訳領域に配したポリヌクレオチドであることを特徴とする非天然蛋白質の製造方法。
  7. 請求項6に記載の非天然蛋白質の製造方法により製造された非天然蛋白質であって、
    蛋白質構成アミノ酸としてブロモチロシンを備えていることを特徴とする非天然蛋白質。
  8. 請求項6に記載の非天然蛋白質の製造方法に用いられる非天然蛋白質の製造用のキットであって、
    ブロモチロシンと、そのブロモチロシンをサプレッサーtRNAに結合させるアミノアシルtRNA合成酵素変異体とを備えていることを特徴とするキット。
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