JP2005348739A - 無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤、及び無細胞タンパク質合成反応用キット - Google Patents

無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤、及び無細胞タンパク質合成反応用キット Download PDF

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Abstract

【課題】室温保存可能であって、該細胞抽出物の生物学的機能を維持した状態の製剤に調製された無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤及びその製造方法の提供。
【解決手段】生物体から、自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除することによって調製した胚芽抽出物について、界面活性剤を含む溶液を用いた超音波処理による洗浄を行い、調製した無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を含む物質を凍結乾燥することからなる、無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有凍結乾燥製剤の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、無細胞タンパク質合成系に使用する細胞・組織からの調製した無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤、及びこの製剤を含む無細胞タンパク質合成反応用キットに関するものである。本発明は、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を安定化し、室温保存・室温輸送を可能とした製剤及び該製剤を含むキットに関するものである。本発明は、要時、水の添加によって合成効率の高い鋳型依存的な無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤を含むキットの提供に関するものである。
細胞内でおこなわれているタンパク質の合成反応は、まず遺伝情報をもつDNAからその情報がmRNAに転写され、そしてリボソームがそのmRNAの情報を翻訳して、タンパク質を合成するという工程で進行している。現在、この細胞内におけるタンパク質合成を試験管等の生体外で行う方法としては、例えばリボソームを生物体から抽出し、これらを用いて試験管内で無細胞タンパク質合成法の研究が盛んに行われている(特開平6−98790、特開平6−225783、特開平7−194、特開平9−291、特開平7−147992)。この方法には、リボソームの原料として、大腸菌、胚芽、家兎網状赤血球などが用いられてきた。
これら無細胞タンパク質合成系に使用する無細胞タンパク質合成用細胞抽出液や翻訳鋳型を除いた他の合成基質やエネルギー源及び、各種イオン等、翻訳反応に不可欠、あるいは同反応効率を高める化学物質を含む無細胞タンパク質合成反応液は常温では不安定であり、−80度摂氏以下の超低温でのみ安定な保存が可能であった。
無細胞タンパク質合成系は、ペプチド合成反応速度と翻訳反応の正確性において生細胞に匹敵する性能を保持し、かつ目的とするタンパク質を複雑な精製工程を実施することなく得ることができる有用な方法である。そのため、該合成系をより有用に産業上に適用するため、合成効率の向上に関するいくつかの発明が開示されてきた。しかし、産業上の有用性向上のためには、合成効率のみならず、合成系に使用する各種の物質を安定に高品質を保持して供給することが必要である。
本発明の目的の一は、無細胞タンパク質合成系に必要な、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物、翻訳鋳型を除いた他の合成基質、エネルギー源及び、各種イオン等、翻訳反応に不可欠、あるいは同反応効率を高める化学物質を含む無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤を、常温下にあっても、安定であり、該製剤の生物学的機能を維持可能にする手段を提供することである。
また、本発明の目的の別の一は、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤を含むキットを安定に保存、供給することによって、無細胞タンパク質合成の作業工程を簡便化する手段を提供することである。
本発明者等は、上記課題を解決すべく検討を行なった結果、その手段の一として、調製した無細胞タンパク質合成用細胞抽出液、または無細胞タンパク質合成用細胞抽出物と無細胞タンパク質合成反応系に関与する物質に対して、凍結乾燥等の処理を導入し、乾燥製剤とすることにより、本発明を完成するに至った。
また、本発明の別の手段の一は、原料である無細胞タンパク質合成用細胞の自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除することにより、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
「 1.生物体から、自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除することによって調製した無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を含む物質を、室温保存可能であって、該細胞抽出物の生物学的機能を維持した状態の製剤に調製されたことを特徴とする無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
2.製剤が、乾燥製剤である前項1に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
3.製剤化が、凍結乾燥処理によっておこなわれる前項2に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
4.細胞抽出物を利用した無細胞タンパク質合成系の合成系反応に不可欠な物質を添加、又は合成系反応に不可欠な物質と合成系反応の効率を高める物質を添加して製剤化をおこなうことを特徴とする前項1〜3のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
5.合成系反応に不可欠な物質が、合成基質およびエネルギー源である前項5に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
6.合成系反応の効率を高める物質が、カリウムイオン化合物、マグネシウムイオン化合物である前項4に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
7.要時、水溶液への溶解性を容易化する物質を添加した前項4〜6のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
8.生物体が、胚芽である前項1〜7のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
9.自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除する方法が、非イオン性界面活性剤を用いて、胚芽抽出物を処理することを特徴とする前項1〜7のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
10.非イオン性界面活性剤を用いて、胚芽抽出物を処理する方法が、超音波処理により、洗浄液が白濁しなくなるまでおこなうことを特徴とする前項9に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
11.胚芽が、コムギ、大麦、いね、コーン、およびほうれん草から選択される前項8〜10のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
12.自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系が、リボソーム不活性化タンパク質である前項1〜11のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
13.リボソーム不活性化タンパク質が、トリチンである前項12に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
14.自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除することが、リボソームの脱アデニン化を制御することである前項1〜11のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
15.自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除するために、リボソームの脱アデニン化を制御する物質を添加する前項14に記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
16.非イオン性界面活性剤と、リボソームの脱アデニン化を制御する物質を添加することによって胚芽を処理する前項9〜11のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤。
17.前項1〜16のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤を調製することからなる無細胞タンパク質合成用細胞抽出物の保存方法。
18.前項1〜16のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤を含む無細胞タンパク質合成反応用キット。
19.前項1〜16のいずれかに記載の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤に水を添加することによって合成反応系の反応液組成を至適化できるように、翻訳鋳型を除いて調製されることを特徴とする鋳型依存的に作動する無細胞タンパク質合成反応用キット。
20.水、合成基質、エネルギ−源、反応効率を高める物質から選ばれる化合物を、要時追加添加可能にセットされた前項18に記載の無細胞タンパク質合成反応用キット。」
本発明の一手段である、原料である無細胞タンパク質合成用細胞の自己のタンパク質合成反応の阻害に関与する系を排除することとは、原料細胞自身が含有する又は保持する自己タンパク質の合成を制御する手段を除くことを意味する。特に、本発明者が見出したこの関与する系を排除することとは、リボソームに作用してその機能を抑制する物質の排除を意味する。
原料細胞自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質とは、例えば種子の胚乳に大量に局在することが知られている、リボソ−ムの機能を抑制するトリチン(Massiah,A.J., and Hartely,M.R.(1995)Planta,197,633−640)、チオニンとよばれるシステインを多く含むタンパク質(Brummer,J., Thole,H. and Kloppstech,K.(1994)Eur.J.Biochem,219,425−433)、リボヌクレアーゼ(Matsushita S.,Mem.Res.Inst.Food Sci.Kyoto Univ.,No.19,1〜)等である。
胚芽の単離段階で混入する、胚乳局在性の胚芽無タンパク質合成抑制(阻害)タンパク質の一群、たとえば、トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等を完全に胚芽試料から排除することによって、タンパク質合成活性の抑制を解除することができる。
つまり本発明の手段の一は、無細胞タンパク質合成用の細胞・組織からの抽出液調製に際し、生体組織や細胞の損傷時に発動する自己タンパク質合成反応阻害機構、すなわち、生理的に備わった対病原自己防御機構としての自己タンパク質合成反応破壊機構を除去する技術、破砕に伴って誘起されるタンパク質合成反応阻害活性を中和する又は除去する技術によって、本発明の手段の一を達成する。
本発明の原料細胞は、無細胞タンパク質合成系に汎用されている胚芽、大腸菌、および網状赤血球やガン細胞等のほか、他の生物由来の無細胞タンパク質合成用細胞にも基本的に適応可能である。好ましい、態様としては、胚芽であり、コムギ・大麦・イネ・コーン・ほうれん草等が例示される。
これら原料細胞から、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物の調製は、既に既知の各種方法(Johnston,F.B.et al.(1957)Nature,179,160−161)と組合せておこなうことができる。本発明の手段の一である、自己タンパク質の合成を制御する手段を除くための有用な手段は、界面活性剤特に非イオン性の界面活性剤をもちいて原料細胞を処理することである。非イオン性の界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができるが、好適なものとしては、ポリオキシエチレン誘導体である、ブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)P40、ツイ−ン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、たとえば0.5%の濃度で使用される。
処理は、原料細胞を、例えばコムギ胚芽を使った場合、既知の手段でミル・浮選・篩の工程によって、胚芽抽出物を回収する。この胚芽抽出物に対して、界面活性剤による洗浄を数回おこない、洗浄液が白濁しなくなるまで、洗浄を行う。この処理は、超音波処理との組合せでおこなうことがより好ましく、より完全な効果をうることができる。
本発明の別の手段は、このようにして調製した無細胞タンパク質合成用細胞抽出物の製剤的安定化手段を導入することである。従来、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物の保存方法は、前記のように−80〜−196度摂氏近辺であったことから、本発明製剤が室温保存可能な技術を達成したことは驚くべきことである。
無細胞タンパク質合成用細胞抽出物の安定化の手段は、製剤を乾燥製剤特に凍結乾燥の手段により製剤化をすることである。凍結乾燥は、自体公知の方法を利用できるが、例えば液体窒素により急速に無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を凍結させる。乾燥は、例えば通来の凍結乾燥機を利用し3時間乾燥する。除水が完成し、得られた粉末状製剤は、真空又は窒素ガス雰囲気下で、封管され、製剤化がなされる。
前記製剤は、無論、前記本発明の手段が施された無細胞タンパク質合成用細胞抽出物単独で製剤化されてもよいが、所望により、無細胞タンパク質合成系に不可欠な物質、例えば合成基質、アミノ酸、エネルギー源等を選択して、添加後製剤化してもよい。
製剤は、さらに所望により、無細胞タンパク質合成系の反応効率を高める物質、例えば各種イオン化合物、好ましくはカリウムイオン化合物、マグネシウムイオン化合物等を添加することができる。
製剤は、さらに、溶解性を高める物質例えば界面活性剤、前記リボソームの脱アデニン化を防御する物質等を、所望により添加することができる。
製剤は、より好ましくは、無細胞タンパク質合成にあたって、単に水を添加することのみによって、反応の至適化が達成できる組成に調整されていることであるが、これは例えば製品をキット化することによって、要時混合して用いてもよい。無論、キット化にあたっては、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物単独、無細胞タンパク質合成系に不可欠な物質、無細胞タンパク質合成系の反応効率を高める物質、さらに反応の至適化に適当な水溶液等を、選択してセット化できる。
以下、本発明をコムギ胚芽を使用した無細胞タンパク質合成用細胞抽出製剤についての実施例によりさらに具体的に説明するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
コムギ胚芽抽出液の調製
ミル、浮選、篩いを用いる種子から無傷(発芽能を有する)の単離方法はJohnstonらの方法(Johnston,F.B.et al.(1957)Nature,179,160−161)を改良して用いた。北海道産のチホクコムギ種子(未消毒)を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製Rotor Speed Mill pulverisette 14型)に添加し、回転数8、000rpmで種子を温和に破砕した。これを再度6、000rpmで破砕し、篩いで粗胚芽画分(メッシュサイズ0.71mm−1.00mm)を得た後、四塩化炭素とシクロヘキサン混液(四塩化炭素:シクロヘキサン=2.5:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を浮上画分から回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した。この胚芽画分に混在する種皮等の不純物をポリエチレン板などの静電気帯電体を用いて吸着除去した。さらに胚芽粒子を篩と静電気帯電体を用いて、小粒(0.71mm〜0.85mm)、中粒(0.85mm〜1mm)、軽粒(0.85mm〜1mmで且つ軽量)の3画分に分別した。小粒画分が最も高いタンパク質合成活性を示した。軽粒は、種子破砕時に胚芽に生じた小傷胚芽が浮選操作中に破壊が進行したものであると推察される。次に、この試料からコムギ胚乳成分を完全に除去するため、非イオン性界面活性剤であるNP40の0.5%溶液に懸濁し、超音波洗浄器を用いて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄を繰り返した。蒸留水の存在下に再度1回の超音波洗浄を行い、コムギ胚芽を純化した。
コムギ胚芽抽出液の調製は常法(Erickson,A.H.et al.(1996)Meth. in Enzymol.,96,38−50)に準じた。以下の操作は4度摂氏で行う。液体窒素で凍結した純化コムギ胚芽を乳鉢中で粉砕し、得た粉体1g当たり、1mlのPattersonらの方法を一部改変した抽出溶液(80mM HEPES−KOH,pH7.8、200mM 酢酸カリウム、2mM 酢酸マグネシウム、4mM 塩化カルシウム、8mM ジチオスレイトール、各0.6mM L型アミノ酸20種類、各1μMのタンパク質分解酵素阻害剤であるFUT、E−64、PMSFを含む)を加えて、泡が発生しないように注意しながら攪拌した。30、000g、15分間の遠心によって得られる上清を胚芽抽出液として回収し、あらかじめ溶液(40mM HEPES−KOH,pH7.8、100mM 酢酸カリウム、5mM 酢酸マグネシウム、4mM ジチオスレイトール)で平衡化しておいたセファデックスG−25カラム(Coarse)でゲル濾過を行った。試料の濃度を、170〜250A260nm(A260/A280=1.5)に調製した。
コムギ胚芽抽出物の製剤化
実施例1に記載した方法で得たコムギ胚芽抽出液を液体窒素で凍結後、通常の凍結乾燥機(Labconc Freeze Dry System Freezone 4.5)を用いて3時間の運転で除水した。調製した粉末状の試料は、その成分が化学変化しないように2種の方法、真空及び窒素ガス充填下に封管して保存した。
タンパク質合成効果の確認
上記の方法で凍結乾燥し製剤化した本発明からなるコムギ胚芽抽出物含有製剤を−80度摂氏で2ヶ月間保存したものと、凍結乾燥していないコムギ胚芽抽出液を液体窒素中(−196度摂氏)で2ヶ月間保存したものとの、タンパク質合成活性の比較を行った。
各コムギ胚芽抽出物に、Ericksonらの方法に準じた成分組成である、30mM HEPES−KOH,pH7.6、95mM 酢酸カリウム、2.65mM 酢酸マグネシウム、2.85mM ジチオスレイトール、0.5mg/ml クレアチンキナーゼ、1.2mM アデノシン−三−リン酸(ATP)、 0.25mM グアノシン−三−リン酸(GTP)、 16mM クレアチンリン酸、0.380mM スペルミジン、20種類のL型アミノ酸(各0.3mM)を加えた。さらに、1、000units/ml リボヌクレアーゼ阻害剤(RNasin)とNP−40(終濃度0.05%)を添加した後、既に発明者が文献報告した方法(Endo,Y.et al.,(1992)J.Biotech.,25,221−230)で調製したCAP付きジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase) mRNA(80μg/ml反応容量)と50μCi(ml反応容量当たり)の[U−14C]−ロイシン(leucine)(166mCi/mmol)を添加し、タンパク質合成活性を[U−14C]−ロイシンのタンパク質への取込を指標に測定した。反応は摂氏20〜30度で行った。
図1に示したように、凍結乾燥したコムギ抽出物含有製剤(■−−■)を室温−80度摂氏で2ヶ月間保存した後においても、従来の液体窒素保存(□−−□)と同等なタンパク質合成活性を保持していた。また、凍結乾燥後における保存温度について検討したところ、保存期間1ヶ月後におけるタンパク質合成活性で比較した場合、−80度摂氏(●−−●)が最も安定であったが、4度摂氏(■−−■)または室温(□−−□)での保存でも、タンパク質合成活性は十分に保持されていた(図2)。
すなわち、本発明の手段を適用して、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を、従来の保存温度より高い温度である−80度摂氏〜室温で、高品質を維持しながら保存および供給することが可能である。
無細胞タンパク質合成コムギ胚芽抽出物含有製剤の調製
反応液は、容量の20〜60%の、参考例1に記載の方法で調製したコムギ胚芽抽出液を含み、上記Ericksonらの方法に準じた以下の成分組成である、30mM HEPES−KOH,pH7.6、95mM 酢酸カリウム、2.65mM 酢酸マグネシウム、2.85mM ジチオスレイトール、0.5mg/ml クレアチンキナーゼ、1.2mM ATP、 0.25mM GTP、 16mM クレアチンリン酸、0.380mM スペルミジン、20種類のL型アミノ酸(各0.3mM)を添加した後、液体窒素で凍結し、通常の凍結乾燥機で除水した。調製した粉末状の試料は、その成分が化学変化しないように真空または窒素ガス充填下に封管して保存した。
タンパク質合成活性の測定
本発明からなる実施例4の方法で調製した無細胞タンパク質合成コムギ胚芽抽出物含有製剤を−80度摂氏で2ヶ月間保存したものと、同期間液体窒素中(−196度摂氏)に保存したコムギ胚芽抽出液に実施例4に記したEricksonらの方法に準じた成分組成の物質を添加した無細胞タンパク質合成コムギ胚芽抽出液との、タンパク質合成活性を比較した。各溶液に、さらに1、000units/ml リボヌクレアーゼ阻害剤(RNasin)とNP−40(終濃度0.05%)を添加した後、タンパク質合成活性の測定を実施例3に記載した方法で行った。図3に示したように、本発明の凍結乾燥した無細胞タンパク質合成コムギ胚芽抽出物含有製剤(□−−□)は、従来法で調製し液体窒素保存(■−−■)したものと同等なタンパク質合成活性を保持していた。
すなわち、本発明の手段を適用することにより、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を含む製剤を、従来の保存温度より高い温度である−80度摂氏〜室温で、高品質を維持しながら安定に保存、供給することができ、さらに無細胞タンパク質合成系の作業工程を簡便化する方法を提供することが可能である。
本発明からなる製剤は、(1)無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の保存に超低温槽やドライアイス等を用いる低温輸送の必要無しに、長期にわたって高品質管理が可能となる。(2)本発明からなる無細胞タンパク質合成用細胞抽出物とアミノ酸やATP等の合成基質、及び各種イオン等、翻訳反応に不可欠、あるいは同反応効率を高める化学物質をあらかじめ混合して調製した無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤をそのまま凍結乾燥することによって、タンパク質合成の高活性を有したままの形で容易に保存・輸送が可能である。
本発明の無細胞タンパク質合成用細胞抽出物含有製剤質は、生体外でのタンパク質合成に当たって反応混液の調製を必要とせず、基本的には水と、目的とする翻訳鋳型(mRNA)を添加するだけで、遺伝子産物の同定やその多量合成やその翻訳機構の解析が手軽にできる手段を提供するものである。
本発明により、無細胞タンパク質合成系に必要な、無細胞タンパク質合成用細胞抽出物、翻訳鋳型を除いた他の合成基質やエネルギー源、及び各種イオン等、の翻訳反応に不可欠、あるいは同反応効率を高める化学物質を含む、無細胞タンパク質合成反応系に関与する物質のように常温では不安定な物質を、安定に保存および供給することが可能になり、これらの物質を長期にわたって高品質管理することが可能になった。また、本発明の凍結乾燥した無細胞タンパク質合成用細胞抽出物を含む製剤を提供することにより、無細胞タンパク質合成系の取り扱いが従来より容易になり、さらに反応液を調製する必要がないため、作業工程が短縮され、該タンパク質合成系の産業上の有用性が向上した。
凍結乾燥したコムギ胚芽抽出物を−80度摂氏で2ヶ月間保存したものと、凍結乾燥していないコムギ胚芽抽出液を液体窒素中で2ヶ月間保存したものとの、タンパク質合成活性を比較した図である。 液体窒素中に従来法で2ヶ月間保存した抽出液(□−−□)、凍結乾燥後、同期間保存したもの(■−−■)。縦軸はタンパク質に取り込まれた放射線(DPM/5μl当たりの反応液)を、横軸は26度摂氏における反応時間を示す。 凍結乾燥抽出液の保存温度のタンパク質合成活性に与える影響を示した図である。 室温1ヶ月間(□−−□)、4度摂氏で同期間(■−−■)、−80度摂氏で同期間(●−−●)。 凍結乾燥したコムギ無細胞タンパク質合成溶液のバッチ反応系におけるタンパク質合成活性を示した図である。 液体窒素中に従来法で2ヶ月間保存した抽出液(■−−■)、凍結乾燥後、同期間保存したもの(□−−□)。

Claims (5)

  1. 無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法、
    1)コムギ胚芽を原料として胚芽抽出物を調製するに際し、胚芽抽出物に対して超音波処理による洗浄を行い、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することにより胚乳を除去する工程、
    2)1)で得られた胚芽抽出物を胚芽抽出液とした後、凍結乾燥する工程。
  2. 超音波処理を、界面活性剤を含む溶液で行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. コムギ胚芽を原料として胚芽抽出物を調製するに際して胚芽抽出物に対して界面活性剤を含む溶液を用いた超音波処理による洗浄を行い、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することにより胚乳を除去し、その後凍結乾燥された無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有製剤。
  4. 請求項1若しくは2に記載の製造方法で得られる無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有製剤又は請求項3に記載の無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有製剤を用いた無細胞タンパク質合成方法。
  5. 請求項1若しくは2に記載の製造方法で得られる無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有製剤又は請求項3に記載の無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有製剤を含む無細胞タンパク質合成反応用キット。
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