JP3745429B2 - ゴキブリ誘引剤およびこれを用いたゴキブリ誘殺剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、有効成分として香気を揮発する植物を含有し、人畜にはきわめて安全なゴキブリ誘引剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来知られているゴキブリ誘引剤は、蜂蜜、魚粉、米糠、ゴマ油粕、粉末飼料などの比較的大量に入手しうる食餌性誘引物質か、あるいはフェロモンである。このようなゴキブリ誘引剤の例としては下記のものが挙げられる。即ち、特開昭53−91140号に記載の「ゴマ油にゴキブリ類の糞を添加した誘引剤」; 特公昭54−11367号に記載の「バニリン、エチルバニリン、イソバニリン等」; 特公昭56−4527号に記載の「メープル樹液濃縮物、白樺樹液濃縮物、カラメル等」; 特開昭61−291505号に記載の「アロエ植物及び抽出液」; 特開昭62−114904号に記載の「ユーカリ葉あるいはその抽出物・炭素数7から9のケトン」; 特開昭62−135403号に記載の「カキツバタ種子油、アヤメ種子油等」; 特公平4−62287号に記載の「ビャクシ、独活、前胡およびその抽出液」; 特開平4−368308号に記載の「ヒノキ科ヒノキ属植物の抽出液等」; 特開平4−368308号に記載の「ハマビシ科ユソウボク属植物の抽出液等」; 特開平4−368309号に記載の「トウダイグサ科グミモドキ属植物の抽出物等」; 特開平5−4904号に記載の「クロゴキブリの性フェロモン」; 特開平7−53321号に記載の「サナギ粉、タマネギ、小麦粉、牛乳、砂糖の配合物」等である。
【0003】
しかしながら、上記のように多くの誘引剤があるのもかかわらず、ゴキブリ個体群は年々増加する傾向にある(日本ペストロジー学会第10回大会、1994年)。このことは、従来の技術は実用上の問題があるか、或いは効力、持続力または使用条件等において必ずしも満足できるものではなかったことを意味するであろう。
【0004】
【発明が解決しょうとしている課題】
人間の歴史と共に家屋内で生息してきたハエやノミは、生活環境の整備に伴って著しく減少し、都会ではめったに見られなくなった。これに反して、家住性ゴキブリは、人間が快適な住環境を求めるに従って増加する傾向にあり、その防除は一段と困難になりつつある。
【0005】
その原因の一つは、ゴキブリが極めて多様な個性を有し、新しい環境に対して短期間に適応するからである。ゴキブリのこの優れた適応性は、誘引物質に対する反応についても同様である。そのため、従来の食餌性誘引剤、嗜好性に個体差の大きいゴキブリに対して、特に種々の食物の匂いが存在する場所で長期に誘引効果を保つことは困難である。
【0006】
また、フェロモンは、一般にゴキブリ発生量をモニターするために好適に利用できるとされている。しかし、ゴキブリは不快害虫としての問題が大きいために、徹底防除が求められることが屡々あり、そのような場合には、雌成虫および幼虫を誘引できない性フェロモンや、近接作用性であるため有効範囲の狭い集合フェロモンでは不都合である。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の課題は、食餌性誘引剤またはフェロモン誘引剤のような問題のない、長期に亘って広範かつ有効な誘引作用を保持するゴキブリ誘引剤を提供することである。
本発明の他の課題は、上記のゴキブリ誘引剤と、ゴキブリに対して有効な殺虫性物質とを併用したゴキブリ誘殺剤を提供すことである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を達成するために、多種の香気植物について誘引効果を検索した結果、人間が広義に食物として利用しているものの中にきわめて優れた誘引効果を示す物質が多数存在していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のゴキブリ誘引剤は、馬芹(クミン)、遏泥子(アニス)、肉豆蒄(ニクズク)、小茴香(フンネル)、月桂樹(ローレル)、ショウズク(カルダモン)、メボウキ(バジル)、メキシカンセージ(オレガノ)、トウガラシ及びパプリカからなる群から選択された少なくとも一種の香気植物の乾燥品、精油、エキストラクトまたはオレオレジンを有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のゴキブリ誘殺剤は、上記のゴキブリ誘引剤と共に、昆虫病原性ウイルス、昆虫病原性微生物および殺虫活性物質からなる群から選択される少なくとも一つを、上記の誘引剤と混合して、または別個の製剤として組み合わせたことを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明において、誘引剤の主成分に用いる各香気植物は、上記の夫々の属の範疇のものであればよく、特に上記の種に限定されるものではない。
本発明における上記の香気植物は、分類学上極めて広い範囲に亘っている。例えば、メボウキ(シソ科)、月桂樹(クスノキ科)、ショウズク(ショウガ科)、ニクズク(ニクズク科)などである。これらの植物はそれぞれ独特の香気成分を含有しているから、それらを組み合わせることによって、広範な適用場所で、長期に亘って最適な誘引活性を発揮させ得る利点がある。
【0012】
また、本発明に用いる香気植物は、何れも長年にわたり香辛料として人間が口にしてきたものであるから、きわめて安全である。
さらに、本発明に用いる香気植物は、永年貯蔵品として実証済みのものであり、使用中の効力の持続性が著しく優れている。
【0013】
なお、本発明のゴキブリ誘引剤の有効成分の一種であるトウガラシは、これまでに誤食防止剤あるいは着色剤として、ゴキブリ誘引剤に少量使われた例がある(特開5−4904)がある。しかし、トウガラシがゴキブリ誘引作用を有することを認識したのは本発明が最初であり、本発明以前にその事実を教示もしくは示唆した従来技術は存在しない。
【0014】
また、ゴキブリ誘引剤と誤食防止剤とでは、有効成分、作用対象および作用機構が異なる。即ち、ゴキブリ誘引剤としての有効成分はゴキブリの臭覚に作用する揮発性成分であるのに対して、誤食防止剤は人間の味覚に作用する不揮発性成分である。従って、例えば人間が感じる辛みの強いトウガラシエッセンスは、誤食合資剤としては有効であっても、ゴキブリ誘引剤としては、加工工程で有効成分が殆ど揮散してしまうため不適格である。これに対して、本願発明のようにトウガラシをそのまま使用する場合は、上記の揮発性成分および不揮発性成分の何れの成分をも含有しているので、適正使用量を用いることによって両者の特性を活用し、二重の利益を得ることができる。
【0015】
本発明において、上記の香気植物体を直接使用する場合には、好ましくは粉砕して用いるが、特定の粒径に限定されるものではない。その場合、上記の香気植物は元来細粉状で市販されているので、本発明のゴキブリ誘引剤の製剤化にあたっては、そのまま混合するだけで目的が達せられる。顆粒にする場合でも、混合物に約70%の水を加えてよく練り、これを所定の径の多孔板に通し、乾燥することにより容易に成形が可能である。
【0016】
本発明に用いる香気植物をエキストラクト(抽出物)として用いる場合、そのエキストラクトの調製は特に制限されないが、例えば、上記の香気植物の幹、枝、葉、根、花、果実等を圧搾するか、或いは、水や有機溶媒を用いて抽出することにより実施される。ここで用いられる有機溶媒としては、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アセタール、ケトン、エステル、アルコール、多価アルコール、フェノール等が挙げられ、これらは単独または二種以上を混合しても、水と共に用いてもよい。水や有機溶媒を用いた抽出の場合のこれらの使用量は特に限定されないが、1植物に対して通常1〜20重量倍程度が好ましい。また、圧搾、抽出は常法により行うことができる。
【0017】
このようにして得られた抽出物は、そのままゴキブリ誘引剤として用いてもよいが、必要により濃縮または希釈して用いてもよい。また、必要に応じて、さらに水蒸気蒸留、乾留、各種有機溶媒による分画、蒸留等により精製、分画したものを用いることもできる。その際、分画された各成分は単独で用いてもよく、或いは二種以上を混合して用いることもできる。
【0018】
本発明のゴキブリ誘引剤の使用量は特に制限されないが、少量で誘引効果を示すため、1植物の抽出物に換算して、10%(w/v)以下の比較的低濃度で用いるのが好ましい。
【0019】
また、本発明のゴキブリ誘引剤は、有効成分である香気植物の抽出物を、適当な坦体又は食物に吸着、混合又は分散して使用してもよく、さらに、必要により殺虫剤、殺菌剤を併用してもよい。
【0020】
本発明の誘引剤は、これにゴキブリ致死剤を加えた毒餌剤、エアゾール剤、くん煙剤、蒸散剤などのゴキブリ誘殺剤として実施することができる。このようなゴキブリ致死剤としては、昆虫病原性生物(例えばウイルスや微生物)、あるいはまたは化学的殺虫物質を用いることができる。昆虫病原性生物の例としては、メタルヒジウム・アニソプリエ(Metarhizium anisopliae)が挙げられる。また、化学的殺虫物質としては、フェニトロチオン、トリクロルホン、ピリダフェンチオン、ダイアジノン、フェンチオン等の有機リン系殺虫剤;セビン、プロポキサー等のカルバメート系殺虫剤;レスメスリン、d−レスメスリン、フェノスリン、d−フェノスリン、パーメスリン、フタルスリン、d−フタルスリン、シフェノスリン、サイパーメスリン、フェンバレレート、エトフェンプロックス、プラレスリン、フェンフルスリン、ペンフルスリン等のピレスロイド系殺虫剤、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系殺虫剤、テトラヒドロ-5,5- ジメチル-2-(1H)-ピリミジノイン[3-[4-( トリフルオロメチル) フェニル]-1-[2-[4-( トリフルオロメチル) フェニル] エテニル]-2-プロペニリデン] ヒドラゾン等のヒドラゾン系殺虫剤、ホウ酸、ホウ酸塩等が挙げられる。
【0021】
本発明の誘引剤および誘殺剤は、ゴキブリの行動範囲と思われる場所では、例えば塗布、噴霧、浸漬、印刷という方法で、あるいは餌物質もしくは他の誘引物質、合成および天然の殺虫剤等の他の活性剤との併用という方法で適用することができる。これらの生物又は物質に十分接近させて用いることもできる。複数の防除法を組み合わせる場合にも同様なことがいえる。また、ゴキブリ捕獲器などとして実施することもできる。
【0022】
本発明に従う誘引剤および誘殺剤は、殺虫剤含有の餌中にまたは粘着トラップ中にいれるか、あるいは餌物質に接近させて適用するのが好ましい。
長期間に亘って活性成分を放出させる、徐放性製剤の形態とすることもできる。この目的のために、例えば本発明の混合物を、重合体物質、パラフィン、トリグリセライド、蝋等に封入するか、またはマイクロカプセル化形態で製剤化することもできる。さらに、トラップや餌物質には慣用のものを使用し、これに常法で誘引剤を加えることができる。
【0023】
本発明に従う誘引物質と誘殺物質との混合物は、それらの特定な物理的および化学的性質に応じて、溶液剤、乳剤、懸濁剤、散剤、泡剤、パスタ剤、粒剤、エアゾ−ル剤、活性化合物を含浸させた天然および合成物質、高分子物質による微細カプセル等の慣用の剤形に製剤化することができる。これらの製剤は、既知の手法によって、例えば活性成分と、液体溶剤、固体坦体、補助剤、増量剤、乳化剤、分散剤、起泡剤等と混合することによって製造する。増量剤として水を用いる場合には、例えば補助溶剤として有機溶媒も用いることができる。液体溶媒として適当なものとしては、主にキシレン、トルエン、アルキルナフタレン等の芳香族化合物;クロロベンゼン、クロロエチレン、塩化メチレン等の塩素化炭化水素;シクロヘキサン、パラフィン等の炭化水素;ブタノ−ル、グリコ−ル等のアルコ−ルおよびそれらのエ−テルおよびエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の強極性溶媒;および水が挙げられる。固体坦体として適当なものは、例えばカオリン、クレ−、タルク、チョ−ク、石英、アタパルジャイト、モンモリロナイト、珪藻土等の天然鉱物;および高度に分散したシリカ、アルミナ、ケイ酸塩等の合成鉱物が挙げられる。粒剤用固体坦体として適当なものとしては、例えば、破砕分別した方解石、大理石、軽石、海泡石、ドロマイト等の天然石;ならびに無機および有機粗びき粉の小粒、および鋸屑、椰子殻、トウモロコシ穂軸、タバコ茎等の有機材料の小粒が挙げられる。乳化および起泡剤として適当なものは、例えばポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコ−ルエ−テル;アルキルアリ−ルポリグリコ−ルエ−テル、アルキルスルホネ−ト等の非イオン性もしくはアニオン性乳化剤;および卵白加水分解生成物が挙げられる。分散剤として適当なものとしては、例えば亜硫酸リグニン廃液およびメチルセルロ−スが挙げられる。
【0024】
カルボキシメチルセルロ−ス等の接着剤;粉末、小粒またはラテックスの形態にあるアラビアゴム、ポリビニルアルコ−ル、ポリ酢酸ビニルなどの天然および合成重合体;ならびにケフアリン、レシチンなどの天然リン脂質、および合成リン脂質を製剤に用いることができる。その他の添加剤として、鉱物油および植物油を挙げることができる。
【0025】
さらに、誘引性のある増量材として丁字、蒔羅、洋辛子、マンネンロウ、タチジャコウソウ、ニガヨモギ、ハナハッカ、ヤラペノ、ショウガ、等を混用することができる。
【0026】
また着色剤、例えば酸化鉄、酸化チタン、紺青等の無機顔料、およびトウガラシオレオレジン等の天然色素、アリザリン染料、アゾ染料、金属フタロシアニン染料等の有機着色剤、ならびに鉄、マンガン、ホウ素、銅、コバルト、モリブデンおよび亜鉛の塩等の微量栄養素を用いることもできる。
【0027】
毒餌として製剤化する場合には、該製剤はさらにゴキブリを引きつけ、あるいはゴキブリが殺虫性物質を摂取し易いように添加剤を含有させてもよい。使用し得る誘引物質および可食物質は慣用されるいかなる調製物であってもよく、例えば天然および合成の芳香性物質、着色剤、またはゴキブリの好食物質、例えば米糠、トウモロコシ粉、砂糖などの穀類または砂糖をベ−スにした生産物が挙げられる。
本発明の誘引剤は、家住性の各種ゴキブリに対して適用できるが、特にクロゴキブリとチャバネゴキブリに対して有効である。
【0028】
【発明の効果】
本発明のゴキブリ誘引剤は、人畜に対して極めて安全で、しかも誘引力が強いため、これを用いることによって、多数の家住性のゴキブリを効果的に誘引し、他の適当な防除手段と組み合わせることにより、捕獲あるいは殺虫することができる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1:
図1に示すように、プラスチック製容器1(縦30cm、横26cm,高さ7cm)の内部に2個の円筒容器2,3(直径8cm,高さ4.5cm)を設置した。これらの円筒形容器2,3は、プラスチック製容器1の外部に設けたサンプル瓶4,5(直径5cm,高さ5cm)に夫々接続してある。サンプル瓶2には試料200mgを入れ、サンプル瓶3は空のままとした。またサンプル瓶2,3は、それぞれ流量計6を介して排気ポンプ7に接続されておいる。ポンプ7は、毎分6リットルの空気を、サンプル瓶2,3を経由して円筒容器2,3に送り込むようになっている。
【0030】
供試虫として、チャバネゴキブリあるいはクロゴキブリの各50頭をプラスチック製容器1内に放ち、暗黒下で20分経過後に、円筒容器2,3内のゴキブリ数を数えた(4回反復)。各試料に対するゴキブリの選択虫比を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示したとおり、本発明の試料側には、選択的に多くのゴキブリが集まった。
実施例2:
縦100cm×横100cm×高さ40cmのプラスチック製大型箱に、あらかじめ30頭のクロゴキブリかあるいはチャバネゴキブリの成虫のいずれかを放飼しておき、1つの壁側に水と餌を入れた容器およびシェルターを配置し、相対する壁側に40cm離して2個の粘着トラップを配置した。この2個のトラップの1つには試作誘引剤を入れ、他には対照として魚粉、ゴマ油粕、トウモロコシ粉で作った誘引剤を使用した。トラップを配置した翌日にそれぞれのトラップを回収し、捕虫数を調べた。各トラップに対するゴキブリの捕獲虫比率を表2、3に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
表2および表3の示すとおり、本発明の誘引剤を配置したトラップには多数のゴキブリが捕獲され、優れた誘引効果のあることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の誘引剤の効力判定試験に用いた装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1…プラスチック製容器、2,3…円筒容器、4,5…サンプル瓶、6…流量計、7…排気ポンプ
Claims (2)
- 馬芹(クミン)、遏泥子(アニス)、肉豆蒄(ニクズク)、小茴香(フンネル)、月桂樹(ローレル)、ショウズク(カルダモン)、メボウキ(バジル)、メキシカンセージ(オレガノ)、及びパプリカからなる群から選択された少なくとも一種の香気植物の乾燥品を有効成分として含有することを特徴とするゴキブリ誘引剤。
- 請求項1のゴキブリ誘引剤と共に、昆虫病原性ウイルス、昆虫病原性微生物および殺虫活性物質からなる群から選択される少なくとも一つを、上記の誘引剤と混合して、または別個の製剤として組み合わせたことを特徴とするゴキブリ誘殺剤。
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