JP3742156B2 - ラックピニオン式ステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラックの動きをタイロッドを介して車輪に伝達することで操舵を行うラックピニオン式ステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
操舵により回転するピニオンに噛み合うラックを覆うラックハウジングと、そのラックの端部に連結されるインナーボールジョイントに連結されるタイロッドと、そのタイロッドに連結されるアウターボールジョイントと、一端においてラックハウジング側の外周に連結され、他端においてタイロッドの外周に連結される筒状の伸縮カバーとを備えるラックピニオン式ステアリング装置が従来から用いられている。
【0003】
そのタイロッドは一般に中実とされていたため、車両重量を増大させる原因となっていた。
【0004】
そこで、そのタイロッドを中空とすることで、車両重量を軽減することが考えられる。しかし、中空のタイロッドを実用化する際の問題について、従来は何らの考慮もなされていなかった。
【0005】
本発明は、中空のタイロッドを実用化する際の問題を解決することのできるラックピニオン式ステアリング装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、操舵により回転するピニオンと、そのピニオンに噛み合うラックと、そのラックを覆うラックハウジングと、そのラックの端部に連結されるインナーボールジョイントと、そのインナーボールジョイントに連結される中空のタイロッドと、そのタイロッドに連結されるアウターボールジョイントと、一端においてラックハウジング側の外周に連結され、他端においてタイロッドの外周に連結される筒状の伸縮カバーとを備え、そのタイロッドの一端側に、インナーボールジョイントの中空ボール状部が一体化され、そのタイロッドの他端側に形成された雄ねじ部に、アウターボールジョイントのボール状部のホルダーに形成された雌ねじ孔がねじ合わされる。
【0007】
本発明における一つの特徴として、そのタイロッドは、インナーボールジョイントのボール状部の中心を通る荷重に基づく曲げモーメントが作用する際に、その伸縮カバーの他端との連結部よりも他端側において最初に塑性変形が生じる形状とされている。
そのタイロッドには、路面からタイヤを介して作用する操舵反力が、インナーボールジョイントのボール状部の中心を通る荷重に基づく曲げモーメントとして作用する。そのような曲げモーメントに対するタイロッドの各部の剛性は、外面形状が同一であれば中実の場合と中空の場合とで異なる。そのため、タイロッドを中空化する際に何らの考慮もしなければ、中実のタイロッドでは最初に塑性変形が生じない部分に、中空のタイロッドでは最初に塑性変形が生じるおそれがある。その塑性変形が、伸縮カバーの他端とタイロッドの外周との連結部において生じた場合、その伸縮カバーの内周とタイロッドの外周との間に隙間が生じる。そのような隙間が生じると、ラックやインナーボールジョイントを覆う伸縮カバー内に泥水等が浸入するという問題がある。
これに対し、本発明の構成によれば、そのタイロッドにおいて最初に塑性変形が生じるのは伸縮カバーの他端との連結部よりも他端側においてであるので、伸縮カバー内に泥水等が浸入するのを防止できる。
【0008】
本発明における一つの特徴として、そのタイロッドとインナーボールジョイントのボール状部とは、両端が開口するパイプ材から一体的に成形される。
そのタイロッドを中空とする場合、そのタイロッドとインナーボールジョイントのボール状部とを、両端が開口するパイプ材から一体的に成形することで、中空にするために材料の機械加工を必要とせず、また、部品点数の削減を図ることができる。
【0009】
そのパイプ材の一端における開口に対応するボール状部における開口が、インナーボールジョイント側閉鎖部材により閉鎖されるのが好ましい。
この構成により、インナーボールジョイントのボール状部と、このボール状部の支持部材との間に封入されるグリス等の潤滑剤が、その開口からボール状部の内部に流入するのを防止できる。また、ボール状部やタイロッドの内部から錆等の異物が、そのボール状部とボール状部の支持部材との間に流出するのを防止できる。これにより、インナーボールジョイントの円滑な動きを確保できる。
【0010】
そのパイプ材の他端における開口に対応するタイロッドの他端側における開口が、タイロッド側閉鎖部材により閉鎖されるのが好ましい。
これにより、そのタイロッドの他端側に形成された雄ねじ部と、この雄ねじ部にねじ合わされるアウターボールジョイントのボール状部のホルダーに形成される雌ねじ孔との間に、泥水等が浸入しても、その泥水等がタイロッドの内部に浸入するのを防止できる。
【0011】
その雌ねじ孔の内面に沿ってホルダーに挿入されることで、その雌ねじ孔の中心軸に対するタイロッドの中心軸の傾きを規制可能なガイド部が、そのタイロッド側閉鎖部材の外周面またはタイロッドの外周面により構成されるのが好ましい。
その雌ねじ孔の中心軸に対するタイロッドの中心軸の傾きが規制されることで、その雌ねじ孔にタイロッドの他端側の雄ねじ部を円滑に案内することができる。これにより、その雄ねじ部を雌ねじ孔にねじ合わせるのが容易になり、組み立てを簡単化できる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1〜図3を参照して本発明の第1実施形態を説明する。
【0013】
図1に示すラックピニオン式油圧パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール(図示省略)に連結される入力軸2と、操舵による入力軸2の回転により回転するピニオン3と、このピニオン3に噛み合うラック4と、このラック4を覆うラックハウジング5とを備えている。
【0014】
そのラック4の各端は、そのラックハウジング5の両端に形成された開口から突出し、その突出端にインナーボールジョイント6が連結される。図2に示すように、各インナーボールジョイント6にタイロッド7が連結され、そのタイロッド7にアウターボールジョイント8が連結される。そのアウターボールジョイント8に図外ナックルアーム等を介して操舵用車輪が取り付けられる。これにより、入力軸2の回転によってピニオン3が回転すると、ラック4が車両幅方向に往復移動して車両の操舵がなされる。
【0015】
図1に示すように、そのラックハウジング5の内周とラック4の外周との間をシールする一対のシール部材12、13が設けられ、このシール部材12、13の間において、ラック4に設けられたピストン14によって仕切られる一対の油室15、16が形成されている。各油室15、16に操舵方向と操舵抵抗に応じた圧油を配管17、18を介し供給するため、前記入力軸2の外周に油圧コントロールバルブ19が設けられている。そのピストン14を介してラック4に油圧を作用させることで操舵補助力を発生することができる。そのコントロールバルブ19は公知のものを用いることができる。
【0016】
そのラックハウジング5の端部とタイロッド7の中間部との間は、合成樹脂製の蛇腹状筒形伸縮カバー20により覆われている。各伸縮カバー20の一端20はラックハウジング5の外周に嵌め合わされ、例えばワイヤ21により締め付けられることで固定される。図2に示すように、各伸縮カバー20の他端20bは、タイロッド7の外周に形成された周溝状の連結部7aに嵌め合わされ、例えばクリップ22により締め付けられることで固定される。これによりラック4の車両幅方向移動に伴って伸縮カバー20は伸縮する。
【0017】
図3に示すように、上記インナーボールジョイント6は、ホルダー6aと、このホルダー6aに保持されるボール状部6bと、このボール状部6bを支持する合成樹脂製シート6cと、そのホルダー6aに一体化される雄ねじ部6dとを有する。そのボール状部6bとシート6cとの間には潤滑剤としてグリスが封入される。その雄ねじ部6dがラック4の端部にねじ合わされ、そのボール状部6bにタイロッド7の一端側が一体化される。
【0018】
そのタイロッド7とインナーボールジョイント6のボール状部6bとは横断面が円環状の中空とされ、両端が開口する真直で肉厚一定の円筒状パイプ材から、鍛造等の加工により一体的に成形される。これにより、そのパイプ材の一端における開口に対応して、インナーボールジョイント6のボール状部6bは開口6b′を有し、そのパイプ材の他端における開口に対応して、タイロッド7は他端側において開口7′を有する。また、タイロッド7の他端側の外周には、転造等により雄ねじ部7bが形成される。
【0019】
そのパイプ材の一端における開口に対応するボール状部6bにおける開口6b′は、インナーボールジョイント側閉鎖部材31により閉鎖される。そのパイプ材の他端における開口に対応するタイロッド7の他端側における開口7′は、タイロッド側閉鎖部材32により閉鎖される。各閉鎖部材31、32として、例えばゴムや合成樹脂等の弾性部材であって、各開口6b′、7′の径より大径の筒状のものが各開口6b′、7′に圧入される。
【0020】
図2に示すように、上記アウターボールジョイント8は、ホルダー8aと、このホルダー8aに保持されるボール状部8bと、このボール状部8bを支持する合成樹脂製シート8cと、そのホルダー8aに形成された雌ねじ孔8dと、ボールスタッド8eとを有する。その雌ねじ孔8dに、タイロッド7の他端側に形成される雄ねじ部7bがねじ合わされ、ロックナット25により固定される。
【0021】
そのアウターボールジョイント8における雌ねじ孔8dの内面に沿ってホルダー8aに挿入されることで、その雌ねじ孔8dの中心軸に対するタイロッド7の中心軸の傾きを規制可能なガイド部が、上記タイロッド側閉鎖部材32の外周面32′により構成されている。すなわち、そのタイロッド側閉鎖部材32は、一部がタイロッド7の他端部から突出する円筒形状とされ、その突出部分の外周面32′が雌ねじ孔8dの内径よりも僅かに小さいガイド部とされている。そのガイド部が雌ねじ孔8dに挿入され、その雌ねじ孔8dの中心軸に対するタイロッド7の中心軸の傾きが規制されることで、その雌ねじ孔8dにタイロッド7の他端側の雄ねじ部7bを円滑に案内することができる。
【0022】
図3に示すように、そのタイロッド7は、路面からタイヤを介して作用する操舵反力により、インナーボールジョイント6のボール状部6bの中心Oを通る荷重に基づく曲げモーメントが作用する際に、その伸縮カバー20の他端20bとの連結部7aよりも他端側(図3において右方側)において最初に塑性変形が生じる形状とされている。本実施形態では、その伸縮カバー20との連結部7a付近における肉厚を他の部分よりも大きくし、雄ねじ部7bの近傍において断面係数が小さくなるように段差部7cを設けることで、その段差部7cおいて最初に塑性変形が生じるものとされている。
【0023】
上記構成によれば、路面からタイヤを介して作用する操舵反力による曲げモーメントが作用した場合に、タイロッド7において最初に塑性変形が生じるのは伸縮カバー20の他端20bとの連結部7aよりも他端側においてであるので、伸縮カバー20内に泥水等が浸入するのを防止できる。そのタイロッド7とインナーボールジョイント6のボール状部6bとを、両端が開口するパイプ材から一体的に成形することで、中空にするために材料の機械加工を必要とせず、また、部品点数の削減を図ることができる。そのパイプ材の一端における開口に対応するボール状部6bの開口6b′を閉鎖部材31により閉鎖することで、そのボール状部6bとシート6cとの間のグリスがボール状部6bの内部に流入するのを防止でき、また、ボール状部6bやタイロッド7の内部から錆等の異物が、そのボール状部6bとシート6cとの間に流出するのを防止できる。これにより、インナーボールジョイント6の円滑な動きを確保できる。そのパイプ材の他端における開口に対応するタイロッド7の開口7′を閉鎖部材32により閉鎖することで、そのタイロッド7の雄ねじ部7bとアウターボールジョイント8のホルダー8aの雌ねじ孔8dとの間に泥水等が浸入しても、その泥水等がタイロッド7の内部に浸入するのを防止できる。そのタイロッド側閉鎖部材32の外周面32′により構成されるガイド部により、その雌ねじ孔8dの中心軸に対するタイロッド7の中心軸の傾きを規制することで、その雌ねじ孔8dにタイロッド7の雄ねじ部7bを円滑に案内して容易にねじ合わせることができ、組み立てを簡単化できる。
【0024】
図4は本発明の第2実施形態のタイロッド7を示す。第1実施形態との相違は、タイロッド7の外周面7dにより、アウターボールジョイント8の雌ねじ孔8dの内面に沿ってホルダー8aに挿入されることで、その雌ねじ孔8dの中心軸に対するタイロッド7の中心軸の傾きを規制可能なガイド部が構成されている点にある。すなわち、そのタイロッド7の雄ねじ部7bの他端側において、外周面7dの径が雌ねじ孔8dの内径よりも僅かに小さくされている。他は第1実施形態と同様で、同一部分は同一符号で示す。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、ラックの一端にのみタイロッドが連結されるラックピニオン式ステアリング装置や、油圧パワーステアリングタイプ以外の電動パワーステアリングタイプやマニュアルタイプのラックピニオン式ステアリング装置にも本発明を適用できる。
【0026】
【発明の効果】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置によれば、タイロッドを中空化して軽量化を図り、この際、ラックやインナーボールジョイントを覆う伸縮カバー内に泥水等が浸入するのを防止し、インナーボールジョイントの円滑な動きを確保し、タイロッド内部に泥水等が浸入するのを防止し、組み立てを簡単化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態のラックピニオン式ステアリング装置の断面図
【図2】本発明の第1実施形態のラックピニオン式ステアリング装置の要部の断面図
【図3】本発明の第1実施形態のラックピニオン式ステアリング装置のタイロッドとボール状部の一部破断側面図
【図4】本発明の第2実施形態のラックピニオン式ステアリング装置のタイロッドとボール状部の一部破断側面図
【符号の説明】
3 ピニオン
4 ラック
5 ラックハウジング
6 インナーボールジョイント
6b ボール状部
6b′ 開口
7 タイロッド
7b 雄ねじ部
7d 外周面
7′ 開口
8 アウターボールジョイント
8a ホルダー
8d 雌ねじ孔
20 伸縮カバー
31 インナーボールジョイント側閉鎖部材
32 タイロッド側閉鎖部材
32′ 外周面

Claims (3)

  1. 操舵により回転するピニオンと、
    そのピニオンに噛み合うラックと、
    そのラックを覆うラックハウジングと、
    そのラックの端部に連結されるインナーボールジョイントと、
    そのインナーボールジョイントに連結される中空のタイロッドと、
    そのタイロッドに連結されるアウターボールジョイントと、
    一端においてラックハウジング側の外周に連結され、他端においてタイロッドの外周に連結される筒状の伸縮カバーとを備え、
    そのタイロッドの一端側に、インナーボールジョイントの中空ボール状部が一体化され、そのタイロッドの他端側に形成された雄ねじ部に、アウターボールジョイントのボール状部のホルダーに形成された雌ねじ孔がねじ合わされるラックピニオン式ステアリング装置であって、
    そのタイロッドとインナーボールジョイントのボール状部とは、両端が開口するパイプ材から一体的に成形され、
    そのパイプ材の他端における開口に対応するタイロッドの他端側における開口が、タイロッド側閉鎖部材により閉鎖され、
    前記タイロッド側閉鎖部材は、前記タイロッドの他端側における開口の径より大径の弾性部材とされると共にその開口に圧入され、
    前記雌ねじ孔の内面に沿って前記ホルダーに挿入されることで、前記雌ねじ孔の中心軸に対する前記タイロッドの中心軸の傾きを規制可能かつ前記雌ねじ孔に前記雄ねじ部を案内可能なガイド部が、前記雌ねじ孔の内径よりも僅かに小さい外径を有する前記タイロッド側閉鎖部材の外周面により構成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
  2. そのパイプ材の一端における開口に対応するボール状部における開口が、インナーボールジョイント側閉鎖部材により閉鎖され、
    前記インナーボールジョイント側閉鎖部材は、前記ボール状部における開口の径より大径の弾性部材とされると共にその開口に圧入されている請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
  3. そのタイロッドは、インナーボールジョイントのボール状部の中心を通る荷重に基づく曲げモーメントが作用する際に、その伸縮カバーの他端との連結部よりも他端側において最初に塑性変形が生じる形状とされる請求項1または2に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
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