JP3737323B2 - 球状化後の冷間鍛造性に優れた鋼線材・棒鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、中炭素鋼や低合金鋼を球状化焼鈍後に冷間鍛造により部品に加工される様な鋼線材に関し、殊に球状化後の冷間鍛造性に優れた鋼線材に関するものである。尚本発明で対象とする鋼線材・棒鋼は、主に熱間圧延によって作られ、通常9.0mmφ以下の断面の丸い鋼材をコイル状にした鋼線材の他、直径9.5mmφ以上の棒鋼をコイル状に巻き取った「バーインコイル」をも含むものである
【0002】
【従来の技術】
鋼材を冷間で加工する冷間鍛造は、生産性が高いことから幅広い分野で利用されている。冷間鍛造に供される素材は、局部的に激しい変形を受けるために、材料割れによる不良の発生や、工具ダイスの破損などの事故が起こりやすい。こうしたことから、比較的高硬度で成形性の悪い中炭素鋼や低合金鋼を素材として冷間鍛造する場合には、冷間加工性を向上させるために鋼中の炭化物を球状化するための球状化焼鈍が行なわれるのが一般的である。
【0003】
上記の様な球状化焼鈍を施すことによって、鋼材の変形能の向上が図れると共に、ダイス寿命の延伸に効果がある変形抵抗低減が達成されるのであるが、球状化焼鈍は長時間を要する処理であることが知られている。こうしたことから、迅速に球状化が可能な素材が求められているのが実状である。またこうした迅速球状化を行なう際には、球状化焼鈍処理における基本的な機能である優れた冷間鍛造性を得ること、特に変形能を劣化させないことが重要な要件である。
【0004】
鋼材の迅速球状化に関する技術はこれまでにも様々開発されており、例えば特開昭47−8503号には、球状化処理前の組織を硬質相のマルテンサイトやベイナイトにする方法が提案されている。この技術によれば、球状化処理前の組織を上記の様な組織とすることによって、セメンタイトの球状化を促進して、迅速球状化を図ろうとするものである。こうした技術によって、比較的短時間に球状化が達成されるのであるが、ベイナイト単相では球状化焼鈍後も鋼材の硬度が低くならずに変形抵抗が高く、工具ダイスの寿命低下という問題は依然として解消されない。
【0005】
尚、マルテンサイトやベイナイトの単相を出発組織として球状化した場合には、旧オーステナイト粒径が小さい方が冷間鍛造性(限界据え込み率:変形能)が良好になるという報告も行なわれているが(「日本鉄鋼協会第22回伸線技術分科会資料」:星野、峰、田畑等、昭和60年11月15日発行)、こうした技術では硬さが依然として硬くなって変形抵抗の点で改善されていない。
【0006】
一方、フェライト・パーライト組織で微細化を図り迅速球状化を狙う手段がいくつか開示されているが、十分な効果が得られているとは言い難い。例えば、熱間圧延時の塑性歪を残したまま変態させて、迅速球状化させる技術が開示されている(特公昭63−45441号、特公平2−6809号、特開昭60−255922号等)。しかしながらこれらの技術では、迅速球状化が達成できても、変態後の組織は圧延方向に展伸されているので、変形能はむしろ劣化している。また、特開昭62−139817号や特開昭63−20419号では、フェライト粒径を5〜6μm以下とすることで迅速球状化を図っている。しかしながら、このように前組織を超微細化するには、冷却速度を0.5℃/秒以下と非常に小さくする必要があり、こうした条件で前組織の微細化を図って硬さを十分に低下させる為には、特別の設備が必要となり、また生産性も非常に悪いという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、球状化処理後における変形能の向上と変形抵抗の低減を達成し、優れた冷間鍛造性を実現できる鋼線材・棒鋼、およびこうした鋼線材・棒鋼を製造する為の有用な方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の鋼線材・棒鋼とは、C:0.2〜0.6%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.2〜1%およびAl:0.01〜0.06%を夫々含有すると共に、Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)およびNi:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含有し、P:0.02%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)およびN:0.01%(0%を含む)を夫々抑制したものであり、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線材、棒鋼において、初析フェライト分率が5〜30面積%であり、残部が、25面積%以下(0%を含む)のパーライトを含むベイナイト組織ベイナイト組織からなり、且つ前記ベイナイト中におけるセメンタイトのラス間隔の平均値が0.3μm以上である点に要旨を有するものである。
【0009】
上記組織における、旧オーステナイト粒径の平均値が15μm以下であることが好ましい。尚、本発明において、「ベイナイト中におけるセメンタイトのラス間隔の平均値」とは、ベイナイト中の、アスペクト比が3以上のセメンタイトで隣り合うセメンタイトの長軸方向の中心位置の長さの平均値の意味である。
【0010】
また本発明の鋼線材・棒鋼においては、必要によって、更にV:0.5%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)、B:0.01%以下(0%を含まない)等を含有させることも有効である。
【0011】
一方、本発明の鋼線材・棒鋼を製造するに当たっては、800〜1000℃の温度で熱間仕上げ圧延した後、5℃/秒以上の冷却速度で700〜800℃まで冷却し、その後0.5〜5℃/秒の冷却速度で500〜600℃まで冷却し、引き続き2℃/秒以下の冷却速度で300℃まで徐冷する様にすれば良い。また、この方法においては、上記熱間仕上げ温度は950℃以下であることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、球状化後における変形抵抗の低減と変形能向上の両方を満足させるための最適な前組織を検討した。その結果、ベイナイトを主体とする組織に、所定量の初析フェライトを析出させ、且つベイナイト中のセメンタイトのラス間隔を一定値以上に広くすることが有効であることが判明した。即ち、初析フェライト分率を5〜30面積%とすると共に、前記ラス間隔の平均値を0.3μm以上とした鋼線材・棒鋼においては、上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明の鋼線材・棒鋼では、ベイナイトを主体とする組織中の初析フェライト分率を5〜30面積%とする必要がある。この初析フェライト分率が少なくなると、球状化後の球状化セメンタイトの分散率が高まって変形能が向上するが、硬さが硬くなってしまうことになる。この理由は、フェライトが少なくなると、球状化時にオーステナイト化しないベイナイトが残り、この部分のセメンタイトが十分に固溶できずに分散強化してしまうからである。また、球状化に時間をかければセメンタイトの固溶が促進されて硬さを低下させることができるが、処理時間が非常に長くなってしまうことになる。こうしたことから、初析セメンタイト分率の下限を5面積%と規定した。
【0014】
一方、初析フェライト分率が高くなると硬さは低下するが、その量が過剰になると球状セメンタイトの分散性が悪化して変形能が低下するので、初析フェライト分率は30面積%以下にする必要がある。即ち、本発明では、ベイナイトを主体とする組織中の初析フェライト分率を、球状化処理時の最高温度での平衡フェライト量と同程度(5〜30面積%)に適正化すること、換言すれば、昇温時してもベイナイトのまま残る量に相当する量をフェライトにすることによって、変形能を阻害することなく硬さ低下が可能となったのである。尚、この初析フェライト分率の好ましい範囲は、10〜25面積%であり、この範囲で本発明の効果が最も発揮される。
【0015】
また、本発明の鋼線材では、上記初析フェライト以外の残余の部分は、ベイナイトを主体とする組織からなるものであるが、この組織には微量であればパーライトが存在していても良い。しかしながら、多量のパーライトが存在すると、球状化焼鈍後も硬さが低下せず、冷間鍛造時の工具寿命が低下することになるので、その量は25面積%以下とすべきである。
【0016】
本発明の鋼線材・棒鋼では、上記の条件を満足させると同時に、ベイナイトのラス間隔を広くすることで、球状化後のセメンタイト粒の平均自由工程が広くなり、硬さをより低くすることができるのである。特に、合金鋼の場合では、パーライトのラメラ間隔が非常に狭いので、同一のフェライト量ではフェライト+パーライトの組織とするよりも、球状化後の硬さを低くすることができるのである。
こうした観点から、本発明の鋼線材・棒鋼におけるベイナイト中におけるセメンタイトのラス間隔の平均値を0.3μm以上と規定した。但し、ラス間隔の狭いベイナイトやパーライトにおいても、球状化時間を長くすれば硬さを低下させることができるが、処理時間が非常に長くなる。
【0017】
本発明の鋼線材・棒鋼においては、旧オーステナイト粒の平均値が15μm以下であることが好ましい。これは、旧オーステナイト粒が大きいと、球状化処理時に球状化が進行しにくくなり、長いセメンタイトが生成して変形能が低下することになるからである。即ち、旧オーステナイト粒径の平均値を15μm以下に小さくすることによって、球状化時のオーステナイト粒を微細化し、再生パーライトの生成を抑制して球状化度を向上して冷間鍛造性(変形能)を向上させることができる。尚、オーステナイト粒の平均値が15μmよりも大きくなっても、球状化時の冷却速度を小さくすれば硬さの低下を図ることができるが、熱処理時間が長時間となる。
【0018】
次に、本発明の製造方法における各要件について説明する。本発明方法では、熱間仕上げ圧延温度(最終圧延温度)を800〜1000℃とする必要がある。この熱間仕上げ圧延温度が1000℃を超えると組織の粗大化が起こって、その後の処理によっても希望する組織を得ることができない。尚、この熱間仕上げ圧延温度の好ましい上限は950℃である。一方、熱間仕上げ圧延温度が800℃未満となると、圧延材組織が過度に微細化するため、球状化後の硬さが低くなる。尚、最終圧延温度は、最終仕上圧延機出側での表面温度で規定したものである。
【0019】
熱間仕上げ圧延した後は、まず5℃/秒以上の冷却速度で700〜800℃まで冷却するものであるが、この冷却工程ではオーステナイトの成長を抑制しつつ微細化に有利に作用する。即ち、冷却速度が5℃/秒未満になると、オーステナイトが粗大になる為に最終的に得られる圧延材組織も粗大になり、球状化し難くなる。このときの冷却最終温度が800℃を超えると、その後の0.5〜5℃/秒の冷却の段階で初析フェライトの析出量が多くなり過ぎ、一方700℃未満では初析フェライトの生成量が少なくなり過ぎてしまう。
【0020】
その後、0.5〜5℃/秒の冷却速度で500〜600℃まで冷却するものであるが、この工程は初析フェライト分率を5〜30面積%に調製しつつ、パーライトの析出を抑制する為のものである。このときの冷却速度が、0.5℃/秒未満となると初析フェライト分率が5面積%未満となり、5℃/秒を超えると初析フェライト分率が30面積%を超えてしまう。また、冷却最終温度が500℃未満では初析フェライト分率が30面積%を超えてしまい、600℃を超えると初析フェライト分率が5面積%未満となるか、またはパーライトの分率が必要以上に多くなってしまう。
【0021】
本発明では、引き続き2℃/秒以下の冷却速度で300℃まで徐冷するものであるが、この工程では十分高い温度でベイナイト変態させると共に、ベイナイト中におけるセメンタイトのラス間隔を広くする。このときの冷却速度が、2℃/秒を超えるとラス間隔が狭くなる。また、冷却最終温度が300℃未満では、オーステナイトが完全に変態せず、その後の冷却でマルテンサイトとなる可能性があり、マルテンサイトが生成すると球状化後の硬さが低下しない。
【0022】
本発明の鋼線材・棒鋼は、基本的にCを0.2〜0.6%含むものであり、また具体的な化学成分組成としては、Si:0.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.2〜1%およびAl:0.01〜0.06%を夫々含有すると共に、P:0.02%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)およびN:0.01%(0%を含む)に夫々抑制したものが挙げられるが、これらの元素の範囲限定理由は下記の通りである。
【0023】
C:0.2〜0.6%
Cは、強度付与元素であり、0.2%未満では必要な強度が得られない。一方、0.6%を超えると冷間加工性の低下、靭性の低下があるので、これを上限とする。
【0024】
Si:0.5%以下(0%を含まない)
Siは、脱酸材として添加されるが、多量に添加すると強度アップが著しく、冷間加工性が低下するので、その上限を0.5%とする。尚、Si含有量の好ましい上限は0.3%である。
【0025】
Mn:0.2〜1%
Mnは、脱酸・脱硫剤および焼入れ性向上元素として添加されるが、その効果を発揮させるためには0.2%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が過剰になると、球状化焼鈍後も硬さの低下が困難になり、冷間鍛造性や靭性の低下を招くので、上限を1%とする。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.3%である。
【0026】
Al:0.01〜0.06%
Alは脱酸剤であると同時に、窒素の固定による冷間鍛造中の動的歪時効を抑制して、変形抵抗の低減を図る働きがある。こうした効果を発揮させる為には、少なくとも0.01%含有させる必要があるが、過剰になると却って靭性を低下させるので、上限を0.06%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.03%である。
【0027】
P:0.02%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)
PとSは、冷間加工性、特に変形能を低下させるので、いずれも0.02%以下に抑制する必要がある。尚、これらの元素は、いずれも0.015%以下に抑制することが好ましい。
【0028】
N:0.01%以下(0%を含む)
Nは、冷間鍛造中の動的歪時効を起こし、変形抵抗上昇と変形能の低下を招くので、上限を0.01%とする。尚、N含有量は0.005%以下に抑制することが好ましい。
【0029】
本発明の鋼線材・棒鋼における基本的な化学成分組成は上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物からなるものであるが、必要によって、Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)およびNi:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含有させることも有効であり、これによって鋼線材・棒鋼の特性を更に向上させることができる。また、これら以外にもV,Ti,B等を含有させることも有効である。これらの元素の範囲限定理由は、下記の通りである。
【0030】
Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)およびNi:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素Cr、MoおよびNiは、焼入れ性確保に有効であるが、過剰に含有させると冷間鍛造性や靭性を劣化させるので、上限をそれぞれ2%、1%、3%とする必要がある。尚これらの元素による上記効果は、上記範囲内でその含有量を増加させるにつれて大きくなるが、上記効果を発揮させる為には、Crで0.1%以上、Moで0.05%以上、Niで0.1%以上含有させることが好ましい。
【0031】
V:0.5%以下(0%を含まない)
Vは、析出強化を目的として添加しても良いが、多量に添加すると冷間鍛造性や靭性を劣化させるので、上限を0.5%とする。
【0032】
Ti:0.1%以下(0%を含まない)
Tiは、固溶Nの固定による動的歪時効抑制効果によって、冷間鍛造時の変形抵抗低減に有効な元素であるので添加して良い。特に、B添加の場合は、冷鍛後の調質時の焼入れ性を安定させるためにN添加が不可欠であり、Ti添加がN固定に効果を発揮する。但し、過剰に含有させると、粗大なTiNが析出して機械的性質を損なうので、上限を0.1%とする。
【0033】
B:0.01%以下(0%を含まない)
Bは、少量でも焼入れ性を上昇させるのに有効な元素であるので、必要により添加しても良い。但し、過剰に含有させると靭性を劣化させるので、上限を0.01%とする。
【0035】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に特徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0036】
【実施例】
下記の実施例1〜3に示す各種の実験を行なった。このとき用いた供試鋼を下記表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例1
まず上記表1の鋼種Aの化学成分組成の鋼材を用い、実験の為に、線材ではなく板の熱間圧延によって試料を作製した。即ち、50×60×150(mm)の鋼塊を板状に圧延し、13×75×500(mm)の試料とした。これは、実験の容易性という理由からである。
【0039】
上記試料を用いて、800〜850℃で熱間圧を延終了した後、空冷、風冷、炉冷を様々組み合わせて処理し、各種組織(圧延組織、旧オーステナイト粒径、フェライト分率およびベイナイトのラス間隔)の試料を得た。このときの熱間仕上げ圧延温度、圧延後冷却条件を下記表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
各試料について、760℃まで1時間で昇温した後、その温度で1時間保持し、その後680℃まで10℃/時で徐冷する条件で球状化処理し、球状化後の特性(据え込み限界、硬さ、および球状化度)についても調査した。圧延後の試料の組織および球状化後特性を、一括して下記表3に示す。尚このときの測定や評価は、夫々下記の方法によった。
【0042】
(旧オーステナイト粒径)
試料断面を鏡面研磨後、ピクリン酸水溶液でエッチングして旧ガンマ粒界を現出し、光学顕微鏡の400倍での観察で180×220(mm)の領域で撮影した写真から測定した。そして測定は、220μmに相当する長さの直線を1視野当たり5本引き、この線で切断される旧オーステナイト粒の切断長さを求め、10視野の平均値をとった。
【0043】
(フェライト分率)
100μm2の視野を100倍の走査型電子顕微鏡写真(SEM)で観察し、面積率からフェライトが占める割合(分率)を求め、10視野の平均をとった。
【0044】
(ベイナイトのラス間隔)
25μm2の視野を2000倍のSEMで観察し、ラスに直角になるように引いた直線がラスによって切断される線分の長さを求めた。そして、1視野当たり20線分を測定し、10視野の平均を平均ラス間隔とした。
【0045】
(据込み限界)
球状化後、8mmφ×12mmの円柱状試料を削り出し、深さ0.3mm、先端R0.03mmのVノッチを、円柱状試料の側面に縦方向に形成して、据込み試験片とした。そして、この試験片を用いて据込み試験を行ない、割れが発生する限界の変形量(%)で、冷間鍛造性のうちの変形能について評価した。尚変形量値が大きいほど変形能は良好となることを示す。
【0046】
(硬さ)
硬さは、荷重5kgでビッカース硬さを測定し、冷間鍛造性のうちの変形抵抗を評価した。
【0047】
(球状化度)
球状化度は、25μm2の視野を2000倍のSEMで観察し、アスペクト比が3以下のセメンタイトを球状化したものとし、全セメンタイト個数に占める割合を求めて、10視野の平均をとって評価した。
【0048】
【表3】
【0049】
この結果から、次のように考察できる。まず実験No.1のものでは、フェライト分率が少な過ぎるので、硬さが硬く、変形能も悪くなっている。実験No.7のものでは、(フェライト+パーライト)組織であり、こうした組織下においてフェライト分率を26%としても、硬さが十分に低くなっていない。実験No.8のものでは、(フェライト+パーライト)組織であり、こうした組織下においてフェライト分率を多くすれば硬さを低くすることができるが、球状化度が悪く、変形能が十分でない。実験No.9のものでは、(フェライト+ベイナイト)を主体とする組織であるが、パーライトが多量に混在していた為に、球状化度が悪くなって変形能が十分でない。実験No.10のものでは、マルテンサイトが混在しており、硬さが硬くなっている。これらに対し、実験No.2〜6のものでは、程度の差こそあれ、変形能(据込み限界),変形抵抗(硬さ)および球状化度のいずれにおいても良好であることが分かる。
【0050】
実施例2
旧オーステナイト粒径を変化させる為に、仕上げ温度を変化させて熱間圧延を終了した後、空冷、風冷、炉冷を様々組み合わせて処理し、各種組織(圧延組織、旧オーステナイト粒径、フェライト分率およびベイナイトのラス間隔)の試料を得た。このときの熱間仕上げ圧延温度、圧延後冷却条件を下記表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
各試料について、実施例1と同様にして球状化処理し、球状化後の特性(据込み限界、硬さ、および球状化度)について、上記と同様にして調査した。圧延後の試料の組織および球状化後特性を、一括して下記表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
この結果から、次の様に考察できる。まず実験No.15のものでは、旧オーステナイト粒径が大きくなっており、アスペクト比の高いセメンタイト粒が多くなって、球状化度が悪いので、据込み限界が悪くなっている。これらに対し、実験No.11〜14のものでは、変形能(据込み限界)、変形抵抗(硬さ)および球状化度のいずれにおいても良好であることが分かる。
【0055】
実施例3
上記表1の鋼種A〜Mに示した各種化学成分組成の鋼材を用い、ビレット加熱、粗圧延、中間圧延を経て仕上げ圧延行なう線材圧延ラインにて各種線材(試料)を作製した。このとき、線径は5〜15mmφの線径に仕上げた。各試料(線材)の線径、熱間仕上げ圧延温度、圧延後冷却条件を下記表6に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
各試料について、実施例1と同様にして球状化処理し、球状化後の特性(据込み限界、硬さ、および球状化度)について、上記と同様にして調査した。圧延後の試料の組織および球状化後特性を、一括して下記表7に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
この結果から、次の様に考察できる。まず実験No.29のものでは、最初の「段階1」における冷却温度が低過ぎるので、殆ど(ベイナイト+マルテンサイト)の組織になっており、硬さが硬くなっている。実験No.30のものでは、最初の「段階1」における冷却温度が高過ぎるので、圧延で一旦微細化したオーステナイト粒が粗大化してしまい、球状化度が悪く、変形能が悪くなっている。
【0060】
実験No.31のものでは、「段階1」における冷却速度が遅いので、これもオーステナイト粒が成長してしまい、実験No.7と同様の理由で変形能(据込み限界)が低くなっている。また実験No.32のものでは、「段階2」における冷却温度が低過ぎるので、ベイナイトのラス間隔が狭くなって硬さが硬くなっている。
【0061】
実験No.33のものでは、「段階2」における冷却温度が高過ぎるので、次の「段階3」での徐冷の間にパーライトが生成してしまい、硬さが十分に下がらず、変形能が悪くなっている。実験No.34のものでは、「段階2」の冷却速度が遅いので、フェライト量の非常に多い(フェライト+パーライト)組織になり、硬さは低いが変形能力が悪くなっている。
【0062】
実験No.35のものでは、「段階2」における冷却速度が速過ぎるので、フェライト生成量が少なくなり、硬さは硬くなっている。実験No.36のものでは、「段階3」における冷却速度が速い過ぎるので、マルテンサイトが生成してしまい、硬さが硬くなっている。
【0063】
実験No.37のものでは、Si含有量が多くなっているので、硬さが硬くなっている。実験No.38のものでは、Mn含有量が多くなっているので、硬さが硬くなっている。実験No.39のものでは、Al含有量が少ない為に、介在物によって変形能が悪くなっている。実験No.40のものでは、N含有量が多くなっているので、硬さが硬くなっている。
【0064】
これらに対し、本発明で規定する要件を満足する実験No.16〜28のものでは、変形能(据込み限界)、変形抵抗(硬さ)および球状化度のいずれにおいても良好であることが分かる。
【0065】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、球状化処理後における変形能の向上と変形抵抗の低減を達成し、優れた冷間鍛造性を発揮する鋼線材・棒鋼が実現できた。
Claims (7)
- C:0.2〜0.6%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.2〜1%およびAl:0.01〜0.06%を夫々含有すると共に、Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)およびNi:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含有し、P:0.02%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)およびN:0.01%(0%を含む)を夫々抑制したものであり、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線材、棒鋼において、初析フェライト分率が5〜30面積%であり、残部が、25面積%以下(0%を含む)のパーライトを含むベイナイト組織からなり、且つ前記ベイナイト中におけるセメンタイトのラス間隔の平均値が0.3μm以上であることを特徴とする球状化後の冷間鍛造性に優れた鋼線材・棒鋼。
- 旧オーステナイト粒径の平均値が15μm以下である請求項1に記載の鋼線材・棒鋼。
- 更に、V:0.5%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の鋼線材・棒鋼。
- 更に、Ti:0.1%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の鋼線材・棒鋼。
- 更に、B:0.01%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の鋼線材・棒鋼。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の鋼線材・棒鋼を製造するに当たり、800〜1000℃の温度で熱間仕上げ圧延した後、5℃/秒以上の冷却速度で700〜800℃まで冷却し、その後0.5〜5℃/秒の冷却速度で500〜600℃まで冷却し、引き続き2℃/秒以下の冷却速度で300℃まで徐冷することを特徴とする球状化後の冷間鍛造性に優れた鋼線材・棒鋼の製造方法。
- 熱間仕上げ温度が950℃以下である請求項6に記載の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP26418599A JP3737323B2 (ja) | 1999-09-17 | 1999-09-17 | 球状化後の冷間鍛造性に優れた鋼線材・棒鋼およびその製造方法 |
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