JP3730762B2 - フェライト系ステンレス鋼線材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間圧延の前工程としての分塊圧延を省略してしわ疵の少ない線材を製造するフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
線材の熱間圧延は通常大型の熱間圧延設備を数基以上連ねた連続熱間圧延ミルによって行われ、大量生産が可能となっている。熱間圧延設備には通常、熱間孔型圧延機が用いられる。また、熱間圧延設備の前後に鋼片加熱設備やインライン焼鈍設備等が設けられ、鋳片から1ラインで製品形状を得る設備となっている。
【0003】
しかしながらステンレス鋼線材の場合、鋼種によってはこの連続熱間圧延ミルで熱間圧延する前に鋳片に熱間分塊圧延等の前処理を施さないと表面疵の少ない良好な製品を得られないことがある。そのような鋼種の一つがフェライト系ステンレス鋼である。フェライト系ステンレス鋼を前記前処理を施さずに直接熱間孔型圧延工程による熱間圧延を行うと、圧延方向に長く延びた深い疵であるいわゆるしわ疵が発生し、伸線や冷間鍛造等の二次加工時に問題となる。そのためしわ疵防止対策として鋳片に前処理としての熱間分塊圧延を施した後中間・仕上げ圧延工程を通すことが通例である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
熱間分塊圧延は高コストを要する上、熱間圧延工程と組み合わせるインライン化は難しく、製造日数の増大にもつながる。更に熱間分塊圧延のためと、中間・仕上げ等の熱間圧延のためと二度の加熱が必要となり、エネルギーコスト高であることも問題である。従って鋳片を直接熱間圧延ラインに通す熱間直圧プロセスによってもフェライト系ステンレス鋼に生じるしわ疵を無害化できる方法が求められてきた。
【0005】
本発明は鋳造ままの鋳片を前処理としての熱間分塊工程を省略して直接中間・仕上げ等の熱間圧延ラインを通しても、しわ疵を無害化できるフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の要旨とするところは下記の通りである。
1) フェライト系ステンレス鋼鋳片を加熱工程で加熱した後に熱間加工し、次いで熱間孔型圧延して線材とするフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法において、鋳片を加熱工程で加熱した直後に熱間加工熱処理を施して、熱間加工の温度および表層加工率が下記(1)式を満足し、かつ熱処理条件の温度及び時間が下記(2)式を満足し、鋼片表層組織の粒径を0.5mm以下とした後に熱間孔型圧延することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法。
【数1】
Figure 0003730762
【数2】
Figure 0003730762
【0008】
2) 熱間加工の方式が傾斜圧延であることを特徴とする前記1)記載のフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法。
【0009】
本発明者は、フェライト系ステンレス鋼線材を製造する際に生じるしわ疵の発生原因について詳細に検討した結果、しわ疵は孔型圧延においてロールで拘束していない自由面の存在により発生するという結論を得た。孔型圧延において、この自由面には周方向に圧縮応力が加わっている。一般にフェライト系ステンレス鋼片の組織は径が数mmにもなる粗大な柱状晶となっているが、この粗大粒組織に前記圧縮応力がかかると、隣接した集合組織の結晶方位が異なることから伸びに異方性があり、従って直径方向の伸びが異なるため、その結果表面に凹凸を生じ、この凹凸がもう一度周方向に圧延され密着し、しわ疵となることが判った。従って、同疵の抑制対策としては、表層を微細再結晶させることにより集合組織をランダム化し、生じる凹凸を低減することが有効であると考えられる。
【0010】
そこで、しわ疵を無害化可能な条件について鋭意検討したところ、確かに熱間孔型圧延前の表層粒径を小さくすることが効果的であることが確認できた。図1にSUS430を供試材として各条件で熱間圧延した成品の目視判定によるしわ疵ランクと表層粒径の関係を示す。このしわ疵ランクは同疵の深さを目視によりA〜Hの8段階にランク付けしたもので、A〜Cが実製品における合格レベルである。この結果より、熱間孔型圧延直前における表層の粒径を0.5mm以下とすれば、製品のしわ疵の少ないことが分かる。なお、この場合の表層粒径とは、等軸晶の場合は通常の粒径であるが、柱状晶の場合は結晶の幅を指す。さらに、孔型圧延を進めていくと結晶粒は加工−再結晶により微細化されていくことから、しわ疵が発生するのが熱間孔型圧延の初期であることは明らかである。
【0011】
表層結晶粒の微細化手段として従来用いられているのは、熱間圧延工程前に行う熱間分塊圧延である。本発明者は、この表層の結晶粒の微細化を熱間圧延ライン内で鋳片加熱を一度だけすることで達成できるよう、鋳片加熱の後に熱間加工を加えることを検討した。しかしながら、単に鋳片加熱の後に熱間加工を加え、そのまま熱間孔型圧延を行うだけではしわ疵を無害化することはできなかった。その理由を鋭意検討したところ、フェライト系ステンレス鋼は再結晶に時間を要するため、そのままでは再結晶されずに熱間孔型圧延にて熱間圧延されるためであることを掴んだ。従って、前記熱間加工の後熱処理を行って、再結晶を促すのが最も有効である。
【0012】
次に、熱間加工温度及び表層加工率について、熱間孔型圧延によってしわ疵が発生しないための必要条件を検討したところ、下記の(1)式によって規定される範囲で行うことが望ましいことを見出した。
【0013】
【数5】
Figure 0003730762
【0014】
この条件範囲を図2に示す。この範囲を満たさない条件で加工を行うと、成分によっては再結晶が完了しても結晶粒径が0.5mmを超えることがある。なお、表層加工率とは表層に実際に投入された加工の度合いを示すものであり、不均一変形の場合全体の減面率が低くとも表層に50%以上の加工が入っていれば条件を満たす。なお、この表層加工率は加工後の鋳片を取り出し、組織のメタルフローを観察し、その傾斜度より算出した。
【0015】
次いで熱間孔型圧延前に再結晶組織を得るための熱処理条件について検討を行ない、保定熱処理温度及び時間を下記の(2)式によって規定される範囲で行えばよいことを見出した。
【0016】
【数6】
Figure 0003730762
【0017】
この条件範囲を図3に示す。この範囲より短時間側で加熱を行うと再結晶が完了しない。
【0018】
前記加工法の一つとして有効なのは傾斜圧延である。なぜなら同法は表層が強加工されるため低減面率でも前記の表層加工率の要件を満たすことが可能な上、後段の熱間孔型圧延と組み合わせたインライン化が容易であり、更にロール未拘束部が非常に小さいため加工そのもので生じるしわ疵をほとんど無視できるからである。
【0019】
傾斜圧延の手法については例えば特公平5−32121号公報や特公昭46−43980号公報に示す方法を使用することが出来るが、特にこれらに限定する必要はない。一方、熱間孔型圧延の減面率については線材として使用される通常の線径範囲ならば特に規定する必要はないが、図4に示すとおり好ましくは99%以上の減面率の圧延を施した方が良好な線材が得られる。
【0020】
【実施例】
SUS430の鋳片から図5に示す工程フローで線材を製造した。各製造条件と熱間孔型圧延直前の鋼片の表層粒径、更に線材の目視によるしわ疵良否判定結果との関係を表1および表2に示す。傾斜圧延機は3ロールのものを用いた。図5,表1および表2における表層加工率は、傾斜圧延後の鋼片のメタルフローより算出した。また、孔型圧延前表層粒径は同一条件で傾斜圧延−熱処理まで行った鋼片を取り出して急冷し、断面を顕微鏡観察することにより求めた。更に、しわ疵ランクはしわ疵の深さを目視によりA〜Hの8段階にランク付けしたもので、A〜Cが実製品における合格レベルである。
【0021】
【表1】
Figure 0003730762
【0022】
【表2】
Figure 0003730762
【0023】
表層粒径としわ疵判定結果の関係を図1に示す。表層粒径が0.5mm以下のものについては熱間圧延後の製品しわ疵判定結果がC以上である。表層加工率,加工温度と熱処理後の結晶粒径との関係を図2に示す。なお、熱処理条件は1000℃×2分である。図の網掛けに示す範囲で結晶粒径0.5mm以下を満たしている。これ以外の条件で加工を行う場合は、鋼材成分にTiを添加する等の処理が必要である。なお、傾斜圧延でなく熱間鍛造で熱間加工を行ったものについても傾斜圧延と同等の効果が得られている。熱処理温度、時間と再結晶完了有無の関係を図3に示す。なお、熱間加工温度は1050℃,表層加工率は65%である。図の網掛けに示す範囲で再結晶が完了している。熱間孔型圧延前表層粒径が0.5mm以下のものにおける熱間孔型圧延の減面率としわ疵ランクとの関係を図4に示す。減面率が99%以上のものはより良好なしわ疵ランクを有する。
【0024】
以上のように、本発明によれば、熱間分塊圧延工程を通さずに直接熱間孔型圧延しても、しわ疵ランクの良好なフェライト系ステンレス鋼線材が得られることが分かる。
【0025】
【発明の効果】
本発明によると、熱間分塊圧延を経ずして直接鋳片を熱間圧延しても従来フェライト系ステンレス鋼に見られたしわ疵が実質上無害化された線材を製造することが出来、熱間分塊圧延に要するコストの皆無化および加熱に要するコストの低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明工程において製造したフェライト系ステンレス鋼の熱間孔型圧延直前の表層粒径と熱間孔型圧延後の成品しわ疵判定結果の関係を示したものである。熱間孔型圧延の減面率は94〜99.5%の範囲である。
【図2】本発明工程において製造したフェライト系ステンレス鋼において、表層加工率、加工温度と熱処理後の結晶粒径の関係および条件範囲を示したものである。
【図3】本発明工程において製造したフェライト系ステンレス鋼において、熱処理温度、時間と再結晶完了有無の関係及び条件範囲を示したものである。
【図4】本発明工程において製造したフェライト系ステンレス鋼の熱間孔型圧延前表層粒径0.5mm以下のものにおける熱間孔型圧延の減面率としわ疵ランクとの関係を示したものである。
【図5】ア)、イ)は本発明における線材圧延の工程フローである。

Claims (2)

  1. フェライト系ステンレス鋼鋳片を加熱工程で加熱した後に熱間加工し、次いで熱間孔型圧延して線材とするフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法において、鋳片を加熱工程で加熱した直後に熱間加工熱処理を施して、該熱間加工の温度および表層加工率が下記(1)式を満足し、かつ該熱処理条件の温度及び時間が下記(2)式を満足し、鋼片表層組織の粒径を0.5mm以下とした後に熱間孔型圧延することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法。
    Figure 0003730762
    Figure 0003730762
  2. 熱間加工の方式が傾斜圧延であることを特徴とする請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼線材の製造方法。
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