JP3721978B2 - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関では、排気ガスを浄化するために排気通路上に排気浄化触媒(三元触媒)を配置し、排気通路に設けた空燃比センサにより空燃比を検出して、混合気が理論空燃比となるようにフィードバック制御を行うことにより、窒素酸化物NOx、一酸化炭素CO、炭化水素HCを同時に低減するようにしている。内燃機関から排出される排気ガスの浄化率をさらに向上させるには、上述したフィードバック制御を精度良く行うことが有効である。また、排気浄化触媒の酸素吸蔵作用に着目して、窒素酸化物NOx、一酸化炭素CO、炭化水素HCの浄化率をより一層向上させることも有効である。
【0003】
この酸素吸蔵作用を効果的に利用するための制御が従来から検討されている。このような酸素吸蔵作用に着目した制御装置としては、特開平5-195842号公報に記載のものなどがある。特開平5-195842号公報に記載の制御装置は、排気浄化触媒の上流側に設けられた酸素センサ(空燃比センサ)の出力に基づくものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、酸素センサには応答性(応答遅れ)があり、内燃機関が過渡状態にあるときなどには空燃比を高精度に検出することが困難であることは一般に知られていることである。このような時の空燃比に基づいて酸素吸蔵量を推定すると、推定精度が低下し、適正な排気浄化性能を得ることができない。そこで、酸素吸蔵量をより正確に推定することができるような改善が望まれていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、排気浄化触媒の酸素吸蔵量を高精度に推定することができ、これによって排気浄化性能を向上させることのできる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、内燃機関の排気通路に配設された排気浄化触媒と、排気浄化触媒の上流側に配設された空燃比センサと、内燃機関の吸入空気量及び内燃機関の燃料挙動をそれぞれ数学的モデルに基づいて算出するモデル化手段と、排気浄化触媒の酸素吸脱量を算出すると共に、算出した酸素吸脱量の履歴から排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定する酸素吸蔵量推定手段と、酸素吸蔵量推定手段によって推定された酸素吸蔵量に基づいて空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃機関の空燃比制御装置であって、酸素吸蔵量推定手段が、少なくとも内燃機関の過渡状態時に、モデル化手段によって算出されるモデル化実空燃比とこのモデル化実空燃比に対して空燃比センサの応答特性を加味して生成したモデル化応答空燃比との差を空燃比センサによって検出された検出排気空燃比に加算した値に基づいて酸素吸脱量を算出し、算出した酸素吸脱量の履歴から排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定することを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、酸素吸蔵量算出手段は、検出された検出排気空燃比と算出されたモデル化応答空燃比との差が所定値以上であるときには、空燃比センサの出力に基づく排気浄化触媒の酸素吸蔵量推定を行わないことを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、空燃比制御手段は、検出された検出排気空燃比と算出されたモデル化応答空燃比との差が所定値以上であるときには、酸素吸蔵量に基づく空燃比制御を行わないことを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の発明は、内燃機関の排気通路に配設された排気浄化触媒と、排気浄化触媒の上流側に配設された空燃比センサと、内燃機関の吸入空気量及び内燃機関の燃料挙動をそれぞれ数学的モデルに基づいて算出するモデル化手段と、排気浄化触媒の酸素吸脱量を算出すると共に、算出した酸素吸脱量の履歴から排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定する酸素吸蔵量推定手段と、酸素吸蔵量推定手段によって推定された酸素吸蔵量に基づいて空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃機関の空燃比制御装置であって、酸素吸蔵量推定手段が、内燃機関の定常状態時に、モデル化手段によって算出されるモデル化実空燃比に対して空燃比センサの応答特性を加味して生成したモデル化応答空燃比と空燃比センサによって検出された検出排気空燃比との差に基づいて空燃比センサの出力誤差を補正する補正成分を算出し、算出された補正成分を用いて検出排気空燃比を補正することを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
実施形態の説明の前に、排気浄化触媒の酸素吸蔵作用について簡単に説明する。
【0011】
以下に説明する実施形態においては、図1に示されるように、排気通路7上に排気浄化触媒19を有している。なお、排気浄化触媒は、排気通路上に複数設けられる場合もある。直列的に複数設けられる場合や、分岐部分に並列的に複数設けられる場合などである。例えば、四気筒のエンジンに対して、そのうちの二気筒の排気管が一つにまとめられた箇所に排気浄化触媒が一つ設置され、残りの二気筒の排気管が一つにまとめられた箇所にもう一つの排気浄化触媒が設置される場合がある。
【0012】
本実施形態においては、各シリンダ3毎の排気管が一つにまとめられらた箇所よりも下流側に一つの排気浄化触媒19が配設されている。排気浄化触媒19としては、酸素吸蔵作用を有する三元触媒が用いられている。この三元触媒は、セリア(CeO2)等の成分を有し、排気ガス中の酸素を吸蔵・放出する性質を有している。
【0013】
この三元触媒の酸素吸蔵放出機能は、排気空燃比がリーンになると排気ガス中に存在する過剰酸素を吸着保持し、排気空燃比がリッチになると吸着保持した酸素を放出するものである。排気空燃比がリーンになったときには過剰な酸素が三元触媒に吸着保持されて窒素酸化物NOxの還元が促進され、排気空燃比がリッチになったときには三元触媒に吸着保持された酸素が放出されて一酸化炭素COや炭化水素HCの酸化が促進され、窒素酸化物NOx、一酸化炭素CO、炭化水素HCの浄化率が向上する。
【0014】
このとき、上述したように、三元触媒がその酸素吸蔵能力の限界まで酸素を吸蔵していれば、入ガスの排気空燃比がリーンとなったときに酸素を吸蔵することができなくなり、排気ガス中の窒素酸化物NOxを充分に浄化できなくなる。一方、三元触媒が酸素を放出しきって酸素を全く吸蔵していなければ、入ガスの排気空燃比がリッチとなったときに酸素を放出することができないので、排気ガス中の一酸化炭素COや炭化水素HCを充分に浄化できなくなる。このため、入ガスの排気空燃比がリーンとなってもリッチとなっても対応できるように酸素吸蔵量を制御する。
【0015】
三元触媒の酸素吸蔵・放出は、上述したように排気空燃比に応じて行われるので、空燃比を制御することによって、酸素吸蔵量を制御し得る。通常の空燃比制御では、吸入空気量などから基本燃料噴射量を算出し、この基本燃料噴射量に対して各種補正係数をかける(あるいは加える)ことによって、最終的な燃料噴射量が決定される。ここでは、酸素吸蔵量を制御するために、酸素吸蔵量に基づく補正係数が一つ決定され、これによって、酸素吸蔵量に基づく空燃比制御が行われる。
【0016】
追って詳述するが、酸素吸蔵量に基づく空燃比制御を行わない場合がある。このような場合であっても空燃比制御自体は行われ得るものであり、酸素吸蔵量に基づく空燃比制御が行われない場合とは、上述した酸素吸蔵量に基づく補正係数が算出されない場合や、酸素吸蔵量に基づく補正係数が算出されても実際の空燃比制御には反映されない場合などである。
【0017】
以下には、本発明の内燃機関の空燃比制御装置の実施形態について説明する。図1に本実施形態の制御装置を有する内燃機関の構成図を示す。
【0018】
本実施形態の制御装置は、内燃機関であるエンジン1を制御するものである。エンジン1は、図1に示されるように、点火プラグ2によって各シリンダ3内の混合気に対して点火を行うことによって駆動力を発生する。エンジン1の燃焼に際して、外部から吸入した空気は吸気通路4を通り、インジェクタ5から噴射された燃料と混合され、混合気としてシリンダ3内に吸気される。シリンダ3の内部と吸気通路4との間は、吸気バルブ6によって開閉される。シリンダ3の内部で燃焼された混合気は、排気ガスとして排気通路7に排気される。シリンダ3の内部と排気通路7との間は、排気バルブ8によって開閉される。
【0019】
吸気通路4上には、シリンダ3内に吸入される吸入空気量を調節するスロットルバルブ9が配設されている。このスロットルバルブ9には、その開度を検出するスロットルポジションセンサ10が接続されている。また、吸気通路4上には、アイドル時(スロットルバルブ9の全閉時)にバイパス通路11を介してシリンダ3に供給される吸入空気量を調節するエアバイパスバルブ12も配されている。さらに、吸気通路4上には、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ13も取り付けられている。
【0020】
エンジン1のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランクポジションセンサ14が取り付けられている。クランクポジションセンサ14の出力からは、シリンダ3内のピストン15の位置や、エンジン回転数NEを求めることもできる。また、エンジン1には、エンジン1のノッキングを検出するノックセンサ16や冷却水温度を検出する水温センサ17も取り付けられている。
【0021】
これらの点火プラグ2、インジェクタ5、スロットルポジションセンサ10、エアバイパスバルブ12、エアフローメータ13、クランクポジションセンサ14、ノックセンサ16、水温センサ17やその他のセンサ類は、エンジン1を総合的に制御する電子制御ユニット(ECU)18と接続されており、ECU18からの信号に基づいて制御され、あるいは、検出結果をECU18に対して送出している。排気通路7上に配設された排気浄化触媒19の温度を測定する触媒温度センサ21、チャコールキャニスタ23によって捕集された燃料タンク内での蒸発燃料を吸気通路4上にパージさせるパージコントロールバルブ24もECU18に接続されている。
【0022】
また、ECU18には、排気浄化触媒19の上流側に取り付けられた上流側空燃比センサ25及び排気浄化触媒19の下流側に取り付けられた下流側空燃比センサ26も接続されている。上流側空燃比センサ25は、その取付位置における排気ガス中の酸素濃度から排気空燃比をリニアに検出するリニア空燃比センサである。下流側空燃比センサ26は、その取付位置における排気ガス中の酸素濃度から排気空燃比をオン−オフ的に検出する酸素センサである。なお、これらの空燃比センサ25,26は、所定の温度(活性化温度)以上とならなければ正確な検出を行えないため、早期に活性化温度に昇温されるように、ECU18を介して供給される電力によって昇温される。
【0023】
ECU18は、内部に演算を行うCPUや演算結果などの各種情報量を記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、各制御プログラムを格納したROM等を有している。ECU18は、空燃比に基づいてエンジン1を制御したり、排気浄化触媒19に吸蔵されている酸素吸蔵量を演算する。また、ECU18は、インジェクタ5によって噴射する燃料噴射量を演算したり、酸素吸蔵量の履歴から排気浄化触媒19の劣化判定も行う。即ち、ECU18は、検出した排気空燃比や算出した酸素吸蔵量などに基づいてエンジン1を制御する。
【0024】
次に、上述した空燃比制御装置によって、酸素吸脱量の履歴を用いて排気浄化触媒19の酸素吸蔵量を推定し、この推定された酸素吸蔵量に基づく空燃比フィードバック制御(制御を停止させる場合も含む)について説明する。
【0025】
酸素吸蔵量O2SUMは、排気浄化触媒19の酸素吸脱量O2ADを推定し、これを積算していくことによって(即ち、履歴を用いることによって)得られる。ここでは、酸素吸脱量O2ADが正の値の時は酸素が排気浄化触媒19に吸蔵され、酸素吸蔵量O2SUMは増加される。一方、酸素吸脱量O2ADが負の値の時は酸素が放出され、酸素吸蔵量O2SUMは減少される。
【0026】
また、排気浄化触媒19が吸蔵し得る最大の酸素吸蔵量を最大吸蔵可能酸素量OSCとする。酸素吸蔵量O2SUMは、ゼロと最大吸蔵可能酸素量OSCとの間の値をとることになる(図2参照)。酸素吸蔵量O2SUMがゼロということは、排気浄化触媒19が酸素を吸蔵していないということであり、酸素吸蔵量O2SUMが最大吸蔵可能酸素量OSCであるということは、排気浄化触媒19がその能力の限界まで酸素を吸蔵しきっているということである。最大吸蔵可能酸素量OSCは、一定ではなく、排気浄化触媒19の状態(温度や劣化度合いなど)により変動し得る。
【0027】
ここでは、最大吸蔵可能酸素量OSCの更新は、下流側空燃比センサ26の検出結果に基づいて行われる。下流側空燃比センサ26によって検出される出ガスの排気空燃比がリーンであれば、排気浄化触媒19がその能力の限界まで酸素を吸蔵しきっているということであり、その時点での酸素吸蔵量O2SUMを最大吸蔵可能酸素量OSCであると判断することができる。また、下流側空燃比センサ26によって検出される出ガスの排気空燃比がリッチであれば、排気浄化触媒19が酸素を吸蔵していないのでリッチな排気ガスを酸化できない状況であると判断でき、そのときの酸素吸蔵量O2SUMはゼロとなっているはずである。
【0028】
なお、酸素吸蔵量O2SUMは、ある時点(例えばイグニションオン時)を基準として算出してもよく、この場合は、基準時の酸素吸蔵量O2SUMをゼロとし、これに対して上側、下側で変動するような制御をしても良い。このような場合は、その時点での排気浄化触媒19の状態に応じて酸素吸蔵量O2SUMが取りうる上限値及び下限値をそれぞれ設定でき、この上下限値の差が上述した最大吸蔵可能酸素量OSCに相当するものとなる(図3参照)。上述した上限値及び下限値は、排気浄化触媒19の状態に応じてそれぞれ変動し得る。
【0029】
これらの上限値及び下限値(即ち、最大吸蔵可能酸素量OSC)の更新は、下流側空燃比センサ26の検出結果の基づいて行われる。下流側空燃比センサ26によって検出される出ガスの排気空燃比がリーンであれば、排気浄化触媒19がその能力の限界まで酸素を吸蔵しきっているということであり、その時点での酸素吸蔵量O2SUMが上限値であると判断することができる。また、下流側空燃比センサ26によって検出される出ガスの排気空燃比がリッチであれば、排気浄化触媒19が酸素を放出しきってリッチな排気ガスを酸化できないということであり、そのときの酸素吸蔵量O2SUMが下限値であると判断できる。
【0030】
本実施形態では、上流側空燃比センサ25やECU18などが、酸素吸脱量O2ADの履歴から酸素吸蔵量O2SUMを推定する酸素吸蔵量推定手段として機能している。また、ECU18や、エアフローメータ13、インジェクタ5などが空燃比制御手段として機能している。また、エンジン1の運転に関するの各種状態量を検出するセンサ類やECU18などが、吸入空気量及び燃料挙動をそれぞれ数学的モデルに基づいて算出するモデル化手段として機能している。モデル化手段について以下に説明する。
【0031】
上述したように、上流側空燃比センサ25には応答性があり、特に、その応答遅れが排気空燃比の検出精度を低下させ、これに伴って酸素吸脱量O2ADの算出精度を低下させる要因となっている。以下に説明する数学的モデルを用いた算出手法によれば、この上流側空燃比センサ25の応答遅れによる影響を抑制し、排気空燃比の算出精度とこれに伴う酸素吸脱量O2AD及び酸素吸蔵量O2SUMの算出精度を向上させることができる。なお、以下に説明する手法は、特に上流側空燃比センサ25の応答遅れによる影響が顕著である過渡状態時に適している。ただし、上流側空燃比センサ25の応答遅れによる影響があまり顕著でない定常状態時にも適用し得ることは言うまでもない。
【0032】
ここでは、エンジン1の吸入空気を数学的モデルによって算出すると共に、エンジン1の燃料挙動を数学的モデルによって算出することによって、排気空燃比を推定する。ここで推定される排気空燃比は、上流側空燃比センサ25の設置位置における真の(実際の)排気空燃比を高精度に推定したものであり、以下、モデル化実空燃比AFcalということとする。モデル化実空燃比AFcalは、モデル化によって得られた真の(実際の)排気空燃比であり、上流側空燃比センサ25の応答遅れは加味されていないものである。
【0033】
さらに、ここでは、算出したモデル化実空燃比AFcalに対して、上流側空燃比センサ25の応答遅れを加味してモデル化応答空燃費AFsmを算出する。このモデル化応答空燃費AFsmは、上流側空燃比センサ25の出力に相当する排気空燃比を、数学的モデルによって高精度に算出したものである。本実施形態では、上流側空燃比センサ25の応答遅れを、一次遅れ系の挙動を示すものとして取り扱っている。このように算出されたモデル化実空燃比AFcalやモデル化応答空燃費AFsmを用いて酸素吸蔵量O2SUMを推定することによって、その推定精度を向上させることができる。以下、上述したモデル化について詳しく説明する。
【0034】
まず、吸入空気についてのモデル化について説明する。スロットル開度TAの変化に対して、実際の吸入空気量は直ぐに変化するわけではなく、スロットル開度TAの変化に対して遅れた挙動を示す。この挙動は、一次遅れ系の挙動を示すことが一般に知られており、ここでは、この特性を利用する。まず、スロットル開度TAやエンジン回転数NE(吸排気バルブ6,8などの開閉タイミングを可変制御できるような場合など、必要であればバルブタイミングVT)に基づいて、上述した一次遅れ挙動を考慮しない吸入空気量KLTAを求める。なお、このKLTAは大気圧補正後の値である。
【0035】
エンジン1が定常運転時であれば、そのときの吸入空気量はスロットル開度TAとエンジン回転数NEで決まる(実質的に応答遅れの影響を受けない)ので、このKLTAは定常時の吸入空気量とも言える。スロットル開度TAとエンジン回転数NEをパラメータとして大気圧補正前の値をマップ化しておき、マップから得られたこの値を大気圧で補正することによってKLTAが得られる。大気圧はエアフィルタ近傍に設置された大気圧センサなどによって検出された値を用いる。次に、実際の吸入空気量はスロットル開度TAに対して一次遅れ系の挙動をとるので、KLTA対して一次遅れ処理を施して、実際の吸入空気量を推定したKLCRTを算出する。上述したTA,KLTA,KLCRTの関係を模式的に示したグラフを図4に示す。
【0036】
次に、燃料挙動についてのモデル化について説明する。単にインジェクタ5から噴射される燃料噴射量をそのまま用いるのではなく、数学的モデルを用いて燃料の挙動を考慮して実際に燃焼に寄与する燃料量の推定精度を向上させる。
【0037】
燃料の吸気通路4の内面への付着燃料や吸気通路4の内面からの剥離燃料などの燃料の挙動を数学的にモデル化したものを燃料挙動モデルと呼ぶ。このような燃料挙動モデルから、実際に燃焼に寄与する燃料量(以下、これを燃焼燃料量Fcrとも言うこととする)を予測することができる。燃焼燃料量Fcrを算出するために、上述した燃料挙動モデルに基づいて、付着燃料の残留率Pと噴射燃料の付着率Rとを求める。なお、燃焼燃料量を予測する際の燃料挙動モデルとしては、付着・剥離燃料以外の燃料の挙動が加味されても良い。
【0038】
上述のパラメータP,Rは、付着・剥離燃料に関するもので、パラメータPは、既に付着している燃料のうちのどの程度の割合の燃料が剥離せずにそのまま付着するかを示している。即ち、パラメータPは、付着燃料の残留率であり、(1-P)が既に付着している燃料のうち剥離して燃焼に寄与する割合を示す。一方、パラメータRは、インジェクタ5によって噴射された燃料のうちのどの程度の割合の燃料がシリンダ3や吸気ポートの内壁に付着するかを示している。即ち、パラメータRは、噴射燃料の付着率であり、(1-R)がシリンダ3や吸気ポートの内壁に付着せずに燃焼に寄与する割合を示す。
【0039】
これらのパラメータP,Rは、エンジン温度Etempと負荷率KLとから求められる。エンジン温度Etempは、シリンダ3や吸気ポートの内壁の温度を代表する温度として用いられている。燃料付着量や燃料剥離量は、シリンダ3や吸気ポートの内壁の温度に大きく依存するからである。エンジン温度Etempは、ここでは水温センサ17の検出結果から判断している。また、負荷率KLは、吸入空気量と最大吸入空気量との比率から判断している。ECU18は、これらのパラメータP,Rに関するマップを有しており、検出されたエンジン温度Etemp及び負荷率KLに基づいて、マップに従ってパラメータP,Rを決定する。
【0040】
次に、算出したパラメータP,Rを用いて、実際にシリンダ3内の燃焼に寄与する燃焼燃料量FcrがECU18によって算出される。なお、算出時には、式〔Fcr=(1-P)・Fw+(1-R)Fi〕が用いられる。ここで、付着燃料量Fwは、それ以前の燃料噴射量Fi及びパラメータR(付着率)を用いて積算しておくことによって得られる。また、ECU18がインジェクタ5を制御しているので、燃料噴射量FiはECU18自体が把握している。このようにして、実際に燃焼に寄与する燃焼燃料量Fcrが算出される。
【0041】
上述したようにモデル化を用いて高精度に推定した吸入空気量KLCRTと燃焼燃料量Fcrとからモデル化実空燃比AFcalが算出される。モデル化実空燃比AFcalは、数学的モデルを用いて吸入空気量と燃料量とを高精度に求め、これから算出された高精度な空燃比である。
【0042】
次に、算出されたモデル化実空燃比AFcalに対して、上流側空燃比センサ25の応答遅れを考慮した一次遅れ処理を施して、上流側空燃比センサ25の出力値に相当するモデル化応答空燃比AFsmを算出する。モデル化応答空燃比AFsmは、モデル化によって高精度に推定された実際の排気空燃比から上流側空燃比センサ25が出力するであろう排気空燃比を推定したものである。
【0043】
ここで、モデル化応答空燃比AFsmの算出に際して、モデル化実空燃比AFcalに対して空燃比センサの応答遅れを反映させる一次遅れ処理の概要について簡単に説明しておく。一次遅れ処理により、モデル化応答空燃比AFsmは次のような式を用いて算出することができる。
AFsm=AFcal×(1-e-(t/T))
ここで、eは自然対数の底数、Tは一次遅れの時定数、tは時間である。
また、モデル化応答空燃比AFsmは、一般になまし処理と呼ばれる手法を用いて算出してもよく、なまし処理も一次遅れの要素を含むものであり、同様な一次遅れ処理と見ることができる。この場合は次のような式となる。
AFsm=AFcal×(1/n)+[AFsmの前回値×(n-1)/n]
ここで、1/nはなまし率である。
【0044】
そして、上流側空燃比センサ25によって検出される空燃比を検出排気空燃比AFdetとすると、酸素吸蔵量O2SUMの算出に用いる排気空燃比AFfwdは、AFfwd=AFdet+(AFcal-AFsm)という式によって求められる。この空燃比AFfwdが、数学的モデルを利用して、上流側空燃比センサ25の位置における排気空燃比を高精度に予測したものである。即ち、数学的モデルを用いて、上流側空燃比センサ25の応答遅れによる誤差分を(AFcal-AFsm)として求め、これを上流側空燃比センサ25によって検出された検出排気空燃比AFdetに加算〔(AFcal-AFsm)の値が負であれば実際は減算になる〕することによって、上流側空燃比センサ25の応答性(応答遅れ)を補償している。
【0045】
なお、AFdetとAFsmとが完全に一致するようであれば、上述した式からも分かるように、AFfwdはモデル化によって得られた実際の排気空燃比であるモデル化実空燃比AFcalと等しくなる。しかし、AFdetとAFsmとの間には、様々な要因によって並行的なズレ(一方が他方に対してシフトした関係)が生じる。そこで、AFdetに対して(AFcal-AFsm)を加算することによって、このようなズレを相殺しつつ、高精度な推定結果を得ている。
【0046】
また、上述したモデル化において、吸入空気量KLCRTや燃焼燃料量Fcrは、「吸気系」に関する値として推定された後に「排気系」に関する値に変換(吸気側の空燃比から燃焼後の排気側の排気空燃比に変換)されても良いし、当初から「排気系」に関する値として推定されても良い。ただし、モデル化実空燃比AFcalは、排気系にある上流側空燃比センサ25の設置位置における真の(実際の)排気空燃比に関する値であ。また、モデル化応答空燃比AFsmは、排気系にある上流側空燃比センサ25の出力相当値である。
【0047】
上述したような制御を行うことによって、過渡状態時であっても排気浄化触媒19に流入する排気ガスの排気空燃比、即ち、高精度に予測することができる。その結果、排気浄化触媒19の酸素吸脱量O2ADの算出精度が向上し、酸素吸蔵量O2SUMの推定精度も向上する。なお、上述した制御は、エンジン1の過渡状態時だけでなく定常状態時に適用しても何ら問題はない(理論的には、定常状態時にはAFcal-AFsmの値はゼロになり、AFfwd=AFdetとなるはずである)。
【0048】
上流側空燃比センサ25が、実際の排気空燃比に対して単純な遅れ時間を持っているのであれば(応答遅れが常に同じ時間分だけ生じるのであれば)、上述したような特別な制御を行わなくても、酸素吸蔵量O2SUMの推定を正確に行うことは可能かもしれない。しかし、実際の応答遅れは様々な挙動を示すため、モデル化によって得た排気空燃比に対して一次遅れ処理を施すことによって、上流側空燃比センサ25の応答遅れを考慮してはじめて酸素吸蔵量O2SUMの正確な推定が可能となる。
【0049】
さらに、上述した制御に加えて、以下のような制御を併用しても良い。即ち、エンジン1の定常状態時に、モデル化応答空燃比AFsmと検出排気空燃比AFdetとの差に基づいて上流側空燃比センサ25の誤差成分AFcを決定しておき、この誤差成分AFcを空燃比AFfwdの算出式にAFfwd=AFdet+(AFcal-AFsm)+AFcのように反映させても良い。このようにすれば、上流側空燃比センサ25の持つ誤差を反映することによって、さらに高精度に空燃比を推定することができる。この結果、酸素吸蔵量O2SUMの推定精度を向上させることができると共に、空燃比制御自体の制御精度も向上させることができる。
【0050】
なお、この誤差成分AFcは、応答遅れによる誤差というものではなく、それ自体が個体差として持つ誤差や経時的性能変化に応じて生じる経時的誤差などである。また、この誤差成分AFcをエンジン1の定常状態に算出するのは、エンジン1が安定した運転状態時であるので高精度に算出できるからである。また、このような誤差成分を、空燃比がリッチ側にあるとき(リッチ定常状態時)とリーン側にあるとき(リーン定常状態時)とストイキ近傍にあるとき(通常の定常状態時)で別々に算出しても良く、あるいは、空燃比に関する関数として算出しても良く、このようにすれば更なる推定精度向上が実現できる。
【0051】
さらに、検出された検出排気空燃比AFdetと算出されたモデル化応答空燃比AFsmとの差(絶対値)が所定値以上であるときには、上流側空燃比センサ25の出力に基づく排気浄化触媒19の酸素吸蔵量推定を行わなくしてもよい。この所定値に、上流側空燃比センサ25に異常が発生したときに、検出排気空燃比AFdetとモデル化応答空燃比AFsmとの差がとると思われる値を設定しておけば、上流側空燃比センサ25の異常を検出することができる。
【0052】
そして、そのような場合には、上流側空燃比センサ25に出力を信用することができないと判断して、上流側空燃比センサ25の出力に基づく酸素吸蔵量O2SUM推定を行わないこととする。これによって、排気浄化触媒19の酸素吸蔵量O2SUMを誤って推定してしまうことが防止でき、排気浄化性能が悪化するのを防止することができる。
【0053】
あるいは、検出された検出排気空燃比AFdetと算出されたモデル化応答空燃比AFsmとの差(絶対値)が所定値以上であるときには、酸素吸蔵量O2SUMに基づく空燃比制御を行わなくしてもよい。上述したように、このような場合に上流側空燃比センサ25の出力に基づく酸素吸蔵量O2SUMの推定を行わなければ、酸素吸蔵量O2SUMに基づく空燃比制御は当然行えない。しかし、酸素吸蔵量O2SUMの推定を行いつつ、その推定結果を空燃比制御に反映させない(酸素吸蔵量O2SUMに基づく空燃比制御を行わない)ことでも、排気浄化性能が悪化するのを防止することができる。
【0054】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態は、エアフローメータ13を用いた、いわゆるLジェトロ方式のエンジン1における空燃比制御装置を例にして説明した。しかし、本発明は、吸気通路上に負圧センサを設置して、この負圧センサの出力から吸入空気量を算出する、いわゆるDジェトロ方式のエンジンにおける空燃比制御装置にも適用し得る。
【0055】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、数学的モデルによって、実際の空燃比と思われる空燃比(モデル化実空燃比)と、それによって空燃比センサ出力が出力すると思われる空燃比(モデル化応答空燃比)とを推定し、この両者の差を空燃比センサによって検出される空燃比(検出排気空燃比)に加算する。これによって、空燃比センサの応答性を補正して空燃比を高精度に推定でき、酸素吸蔵量の推定精度が向上する。この結果、適切な空燃比制御を行うことができ、排気浄化性能を向上させることができる。
【0056】
請求項2に記載の発明によれば、検出排気空燃比とモデル化応答空燃比との差が所定値以上であるときには、空燃比センサの出力に基づく排気浄化触媒の酸素吸蔵量推定を行わない。このようにすることによって、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が誤って推定されることを防止でき、排気浄化性能が悪化するのを防止することができる。
【0057】
請求項3に記載の発明によれば、検出排気空燃比とモデル化応答空燃比との差が所定値以上であるときには、酸素吸蔵量に基づく空燃比制御を行わない。このようにすることによって、誤って推定された可能性のある酸素吸蔵量に基づいて空燃比制御を行うことを防止して、排気浄化性能が悪化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制御装置の一実施形態を有する内燃機関を示す断面図である。
【図2】酸素吸蔵量の時間的変化を示すグラフ(第一例)である。
【図3】酸素吸蔵量の時間的変化を示すグラフ(第二例)である。
【図4】数学的モデル化によって算出される吸入空気量の時間的変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1…エンジン(内燃機関)、4…吸気通路、5…インジェクタ(空燃比制御手段)、7…排気通路、13…エアフローメータ(空燃比制御手段)、18…ECU(酸素吸蔵量推定手段・空燃比制御手段・モデル化手段)、19…排気浄化触媒、25…上流側空燃比センサ(酸素吸蔵量推定手段)、26…下流側空燃比センサ。
Claims (4)
- 内燃機関の排気通路に配設された排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒の上流側に配設された空燃比センサと、
前記内燃機関の吸入空気量及び前記内燃機関の燃料挙動をそれぞれ数学的モデルに基づいて算出するモデル化手段と、
前記排気浄化触媒の酸素吸脱量を算出すると共に、算出した酸素吸脱量の履歴から前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定する酸素吸蔵量推定手段と、
前記酸素吸蔵量推定手段によって推定された酸素吸蔵量に基づいて空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃機関の空燃比制御装置であって、
前記酸素吸蔵量推定手段が、少なくとも前記内燃機関の過渡状態時に、前記モデル化手段によって算出されるモデル化実空燃比とこのモデル化実空燃比に対して前記空燃比センサの応答特性を加味して生成したモデル化応答空燃比との差を前記空燃比センサによって検出された検出排気空燃比に加算した値に基づいて酸素吸脱量を算出し、算出した酸素吸脱量の履歴から前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定することを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。 - 前記酸素吸蔵量算出手段は、検出された検出排気空燃比と算出されたモデル化応答空燃比との差が所定値以上であるときには、前記空燃比センサの出力に基づく前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量推定を行わないことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記空燃比制御手段は、検出された検出排気空燃比と算出されたモデル化応答空燃比との差が所定値以上であるときには、酸素吸蔵量に基づく空燃比制御を行わないことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 内燃機関の排気通路に配設された排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒の上流側に配設された空燃比センサと、
前記内燃機関の吸入空気量及び前記内燃機関の燃料挙動をそれぞれ数学的モデルに基づいて算出するモデル化手段と、
前記排気浄化触媒の酸素吸脱量を算出すると共に、算出した酸素吸脱量の履歴から前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定する酸素吸蔵量推定手段と、
前記酸素吸蔵量推定手段によって推定された酸素吸蔵量に基づいて空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃機関の空燃比制御装置であって、
前記酸素吸蔵量推定手段が、前記内燃機関の定常状態時に、前記モデル化手段によって算出されるモデル化実空燃比に対して前記空燃比センサの応答特性を加味して生成したモデル化応答空燃比と前記空燃比センサによって検出された検出排気空燃比との差に基づいて前記空燃比センサの出力誤差を補正する補正成分を算出し、算出された補正成分を用いて検出排気空燃比を補正することを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
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