JP3721637B2 - 含Caオーステナイト系耐熱鋼の製造方法 - Google Patents
含Caオーステナイト系耐熱鋼の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は含Caオーステナイト系耐熱鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
オーステナイト系耐熱鋼、例えば自動車の排気バルブ材料として用いられているJIS鋼種SUH35の場合、高温での変形抵抗が高く、また延性に乏しいことから圧延加工のしづらい、製造の難しい鋼種の1つとされていた。
【0003】
図8は1000℃でのSUH35の変形抵抗及び延性(絞り値)を他の鋼種との比較において示したものである。
同図からSUH35は変形抵抗が高く、また延性が乏しいことが分かる。
この材料は、上記のように延性が乏しいことからこれを圧延加工したときに割れが発生し易い問題があった。
【0004】
特に連続鋳造によって得た鋳片の場合その傾向が特に顕著であった。
連続鋳造によって得た鋳片の場合、鋳型に連続的に振動を加えながら鋳片を取り出すことから、鋳片の表面形状が図9に示すような小刻みな波打ち形状となり、そしてその波打ち形状の谷部を起点として圧延加工時に特に割れが発生し易いのである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本願の発明の含Caオーステナイト系耐熱鋼の製造方法はこのような課題を解決するために案出されたものである。
而して本願の発明は、重量%で、C:0.05〜0.65%、Si:0.10〜3.0%、Mn:0.10〜11.0%、Ni:3〜40%、Cr:12〜23%、N:≦0.5%、であり、且つ[Ca%]−0.9[O%]で表される有効Ca量が−0.0020以上で残部が不可避的不純物及びFeの含Caオーステナイト系耐熱鋼を、連続鋳造により鋳片を得た後、鋳片自体の温度1200℃以下、保持時間30分以上の条件でソーキング処理を行い、続いて該鋳片自体の温度を該ソーキング処理の際の温度よりも高温度に昇温させる処理を行った上で加熱炉から抽出し、しかる後鋳片自体の最終圧延温度100℃以上の条件下で熱間圧延加工を行うことを特徴とする。
【0006】
請求項2の製造方法は、請求項1において、W,V,Nbの1種若しくは2種以上をそれぞれ、W:0.1〜4.0%、V:0.1〜1.0%、Nb:0.1〜1.0%の量で含有することを特徴とする。
【0007】
【作用及び発明の効果】
上記のように請求項1の発明は、連続鋳造により鋳片を得た後、保持時間30分以上の条件でソーキング処理を行い、しかる後最終圧延温度1000℃以上の条件下で熱間圧延加工を行う。
前述したように連続鋳造によって得た鋳片の場合、表面形状が波打ち形状をなし、熱間圧延加工時にその谷部から割れが発生し易いといった特有の問題がある。
【0008】
しかるに本発明によって熱間圧延加工に先立ち、保持時間30分以上の条件でソーキング処理(均熱処理)を行うことにより、この谷部を起点とする割れの発生を良好に抑制できることが判明した。
【0009】
このようなソーキング処理を行うことにより熱間圧延加工時の割れを抑制できるのは次の理由によるものである。
本発明者は、鋳片を用いて熱間圧延加工を行ったときに谷部から割れが発生する原因を調べるべく、鋳片表層部の断面状態を調査した。図1はその断面状態を図示したものである。
【0010】
図1に示しているように本発明者の調査の結果、鋳片の波打ち形状部における谷部10にはCr等の濃化偏析が認められ、そしてこの濃化偏析による更なる延性の低下が、谷部10のくびれ形状によるノッチ効果と相俟って加工割れを生ぜしめる原因と考えられた。
【0011】
そこで熱間圧延加工に先立って鋳片を保持時間30分以上の条件でソーキング処理したところ、Cr等の成分が拡散して濃化偏析が除かれ、その状態で熱間圧延加工を行ったところ谷部を起点とする割れの発生が良好に抑制されたのである。
本発明においてソーキング処理はこのようなCr等の濃化偏析を拡散消失せしめる処理であることを意味する。
【0012】
本発明者は、また、最終圧延温度(最終圧延終了時の材料温度)が1000℃を下回るような条件で圧延加工を行ったときに、延性不足による割れが発生しやすく、従って最終圧延温度が1000℃以上となるように圧延加工を行うことによって、上記ソーキング処理による効果と相俟って圧延加工時の割れを良好に抑制できる知見を得た。
【0013】
図2はSUH35について本発明者が試験を行った結果得られた最終圧延温度と圧延割れ(コーナー割れ)との関係を示したものである。
但し図2は350mmφの大きさの鋳片を用いて分塊圧延(分塊圧延時のサイズは216mm角)及び引き続く大型圧延加工を行った結果である(全体の減面率は21%)。
この結果から、最終圧延温度を1000℃以上とすることによって圧延割れを良好に抑制できることが分かる。
【0014】
本発明の製造方法ではまた、上記ソーキング処理を1200℃以下の温度で行う。
最終圧延温度1000℃以上を確保するに当たってソーキング温度を高くし、加熱炉から抽出したときの抽出温度を高くするのが有利である。
【0015】
しかしながらソーキング温度を高くすると、ソーキング処理時に結晶粒が粗大化し、圧延加工時にその結晶粒の粗大化による割れ(オーバーヒート割れ)を惹起し易い問題がある。
表1はソーキング条件(温度,保持時間)と結晶粒の粗大化の程度の関係について本発明者が調べた結果を示している(結晶粒が著しく粗大化したものを×,比較的粗大化していないものを○で表している。但し鋼片のサイズは350mmφである)。
【0016】
【表1】
【0017】
この結果では、1210℃×60分以上の条件では結晶粒の粗大化が顕著であり、従ってこの結果からすると一応1210℃×30分の条件も良好である。しかしながら実際の操業において処理の時間が予定より長くなってしまうのが避けられないことを考えると、採用可能な条件は1200℃以下となる。
【0018】
本発明の製造方法では上記に加え、上記ソーキング処理に続いて鋳片をソーキング温度よりも高温度に昇温させる処理を行った上で、これを加熱炉から抽出して熱間圧延加工を行う。
上記のように加熱炉から抽出した鋳片を引き続いて熱間圧延加工するとき、最終の圧延温度1000℃以上を確保するためにはソーキング温度を高くするのが有利である。
しかしながら一方でソーキング温度を高くすると、結晶粒の粗大化によるオーバーヒート割れを生ずる問題が発生する。
【0019】
図3は、上記寸法の鋳片についてソーキング処理したものを加熱炉から抽出してそのまま圧延加工したときの温度降下と抽出温度との関係を表している。
この図は、上記大型の鋳片からの圧延加工の場合、最終圧延温度1000℃以上を確保するためには、抽出温度を1200℃以上とすることが望ましいことを示している。
【0020】
一方において、結晶粒の粗大化を防止する点からはソーキング温度を1200℃以下とすることが望ましい結果が出ており、そこで本発明ではソーキング処理を行った後に一旦鋳片を昇温させる処理を行った上で加熱炉から抽出し、後続の熱間圧延加工を行う。
【0021】
そしてこのようにすることにより、最終圧延温度1000℃以上の確保の問題と、結晶粒の粗大化防止の問題とをともに解決することができる。
尚、このソーキング処理に続く昇温は短時間で完了するのが望ましい。
【0022】
本発明はまた、[Ca%]−0.9[O%]にて表される有効Ca量を−0.0020以上鋼中に含有させることを特徴とするものである。
この有効Caは、鋼中のSと結び付き得るCaのレベルを表している。
本発明者は、かかる有効Ca量を−0.0020以上とした場合において圧延時の割れを良好に抑制できることを確認した。
【0023】
本発明者は、その考察を行うべく高温でのグリーブル試験を実施し、その絞り値を求めるとともに破面を調査したところ、有効Ca量が多くなるにつれて、特に−0.0020を境界として絞り値が高くなること、またその破面の観察の結果、有効Ca量が上記値よりも少ないものは粒界破壊を起こしているのに対して、有効Ca量が−0.0020よりも多いものは粒内破壊を起こしていることを認めた。
即ち、有効Ca量の多いものは粒界が強化されている事実を確認した。
【0024】
これは次の理由によるものと考えられる。
即ち、有効Ca量の少ないものは加工中にSが粒界に析出して粒界を弱くするのに対し、有効Caが−0.0020以上多く含まれているものは、かかるCaがSと結び付き、介在物となってこれを鋼中に固定してSが粒界に析出するのを阻止し、これにより加工性が向上するものと考えられる。
【0025】
従って鋼組成を上記組成とすることによって、圧延加工に際して割れが生じるのを抑制することができ、その加工性を効果的に高めることができる。
尚、本発明においてCや他の各成分の限定理由は以下の如くである。
但し以下に示す組成はJIS SUH31,35,36,37,38,SUH310,330,660,661等で規定された合金或いはそれらの合金に類似するものである。
【0026】
C:0.05〜0.65%
Cは高温強度を得るためには0.05%以上必要である。但し0.65%を超えると合金の靱性が劣化する。
【0027】
Si:0.10〜3.0%
Siは溶解精錬時の脱酸剤として添加される。0.10%未満では効果が少なく、3.0%を超えると合金の靱性が劣化する。
【0028】
Mn:0.10〜11.0%
Mnは脱酸剤並びに使用環境によりNiの代用として添加される。0.10%未満では脱酸の効果は少なく、11.0%を超えると耐酸化性が劣るようになる。
【0029】
Ni:3〜40%
Niはオーステナイト安定化に寄与する元素であり、また合金の高温強度を高める働きがある。
但し3%未満では高温強度が不足し、40%を超えても効果の上昇は少ない。
通常Niが3%程度の場合、オーステナイト安定化のためMnは8〜11%添加される。
【0030】
Cr:12〜23%
Crは耐酸化性,耐食性を高める元素である。
但し12%未満ではこのような効果は小さく、一方23%を超えるとσ(シグマ)相が形成され易くなり、合金の靱性が劣化する。
【0031】
N:≦0.50%
Nは合金の高温強度を高めるため必要により添加される。
特にMnが8〜11%添加された場合有効である。但し0.5%を超えても向上度は小さい。
【0032】
尚、この含Caオーステナイト系耐熱鋼には更に必要に応じてW,V,Nbの1種又は2種以上をそれぞれW:0.1〜4.0%,V,Nb:0.1〜1.0%の量で含有させることができる(請求項2)。
【0033】
ここでW,V,Nbの含有量を上記の量に限定した理由は以下の通りである。
W:0.1〜4.0%
オーステナイトに固溶して強度を高めるので、必要に応じて添加される。
0.1%未満では効果は少なく、4.0%を超えると熱間加工性が劣化する。
【0034】
V:0.1〜1.0%
Nb:0.1〜1.0%
炭化物を形成して合金のクリープ強度を高める。
0.1%未満では効果は少なく、1.0%を超えると合金の靱性が劣化する。
【0035】
【実施例】
次に本発明の実施例を以下に詳述する。
オーステナイト系耐熱鋼SUH35(化学組成は表2)について連続鋳造により鋳片(鋳片のサイズは350mmφ)を得た後、図4に示すプロセスに従って加熱処理を行った。
【0036】
【表2】
【0037】
即ち、炉内雰囲気温度を1205℃で一定に保って鋳片を1190℃で90分間ソーキングした後、炉内雰囲気温度を1235℃に高めて鋳片をすばやく昇温した上で、これを抽出温度1215℃で加熱炉から抽出した。
尚、鋳片のオーバーヒートを防止するため、ソーキング後抽出までの時間を60分以内とした。
【0038】
この後、分塊圧延を行って鋼片を得、外観検査を行ってコーナー割れの程度を調べた。結果が図5に示してある。
但し図5は、コーナー割れなしの場合を指数0とし、また全長に亘って深さ10mm以上の割れがある場合を指数5として多数の鋼片につき各コーナー全部を評価し、その平均をとって評価した結果を示している。
この結果から、有効Ca量を−0.0020以上とすることでコーナー割れを良好に抑制できることが分かる。
【0039】
次に有効Caの量がどのように効いているかを定量的に評価するため、表3に示す化学組成の鋳片の表層よりグリーブル試験片を採取し、そしてこれを図6に示すパターンで加熱して高温でのグリーブル試験を実施した。結果が図7に示してある。
【0040】
【表3】
【0041】
この結果から、有効Ca量が−0.0027と低いものの場合(図7(A))には低温側で絞り値が低くなっており、圧延可能な温度範囲が狭いのに対して、有効Ca量が−0.0012と高いものの場合(図7(B))には、低温側,高温側共に絞り値が高くなっており、圧延可能な温度範囲が広いことが分かる。
【0042】
上記グリーブル試験を行った試験片の破面を調べたところ、有効Ca量の低いものは粒界破壊を起こしていたのに対し、有効Ca量の高いものは粒内破壊を多く起こしていた。
【0043】
そこで次に介在物の分布を調べてみたところ、有効Ca量の低い場合にはSの分布領域とCa又はAlの分布領域とが一致していないのに対して、有効Ca量の高い場合にはSの分布領域とCa若しくはAlの分布領域とがよく一致していることが分かった。
【0044】
これは有効Ca量が高い場合にはSがCa,Alと共存しており、それらが介在物(CaO−Al2O3−CaS)を形成して、その介在物中にSが固定されているのに対し、有効Ca量の低いものの場合にはSがCa若しくはAlと介在物を形成しておらず、単独で存在していることを意味する。
【0045】
熱間加工性の低下は、加工中にSが粒界に析出して粒界を脆化することに起因するものと考えられており、従って有効Ca量を高くすることによって、そのSがCa,Alとともに固定化されて加工中に粒界に析出せず、そのために有効Ca量の高いものは粒界が強化されて熱間加工性が向上したものと考えられる。
【0046】
以上本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において、種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 連続鋳造により得た鋳片の表面形状と表層部の成分の濃化偏析状態を示す図である。
【図2】 最終圧延温度とコーナー割れの程度との関係を表す図である。
【図3】 加熱炉からの抽出温度と最終圧延温度との関係を表す図である。
【図4】 本発明の実施例において行った加熱処理のパターンを表す図である。
【図5】 図4に示すパターンで鋳片を加熱処理して圧延加工したときの有効Ca量とコーナー割れの程度との関係を表す図である。
【図6】 本発明の他の実施例において採用したグリーブル試験片の加熱条件を表す図である。
【図7】 図6に示す加熱条件で加熱を行ってグリーブル試験した結果を表す図である。
【図8】 従来のSUH35の加工性を他の鋼種と比較して示す図である。
【図9】 連続鋳造により得た鋳片の表面の波打ち形状を模式的に表す図である。
Claims (2)
- 重量%で
C :0.05〜0.65%
Si:0.10〜3.0%
Mn:0.10〜11.0%
Ni:3〜40%
Cr:12〜23%
N :≦0.5%
であり、且つ[Ca%]−0.9[O%]で表される有効Ca量が−0.0020以上で残部が不可避的不純物及びFeの含Caオーステナイト系耐熱鋼を、連続鋳造により鋳片を得た後、鋳片自体の温度1200℃以下、保持時間30分以上の条件でソーキング処理を行い、続いて該鋳片自体の温度を該ソーキング処理の際の温度よりも高温度に昇温させる処理を行った上で加熱炉から抽出し、しかる後鋳片自体の最終圧延温度100℃以上の条件下で熱間圧延加工を行うことを特徴とする含Caオーステナイト系耐熱鋼の製造方法。 - 請求項1において、W,V,Nbの1種若しくは2種以上をそれぞれ
W :0.1〜4.0%
V :0.1〜1.0%
Nb:0.1〜1.0%
の量で含有することを特徴とする含Caオーステナイト系耐熱鋼の製造方法。
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