JP3926492B2 - 断続加熱時の高温強度に優れ、断続加熱時にも剥離し難い酸化スケールを有するフェライト系ステンレス鋼板 - Google Patents

断続加熱時の高温強度に優れ、断続加熱時にも剥離し難い酸化スケールを有するフェライト系ステンレス鋼板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車やオートバイのエンジンからの排気ガス用マフラー、センタパイプやエギゾーストマニホールドの排気系部材に使用される際に、断続加熱によって生成した酸化スケールが剥離し難いフェライト系ステンレス鋼板に関するものある。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼板は、耐酸化性、耐食性、高温強度に優れることから、自動車やオートバイのエンジンからの排気系部材としての使用量が増加している。排気系部品は使用部位により、排出ガス温度・部品構造・腐食環境などが異なるため、高温酸化・高温強度のほか、熱疲労特性・高温塩害腐食・湿式腐食などに対する優れた材料特性が要求され、使用部位に応じた鋼材を適用してきた。
さらに排気系材料としてより適切化するため、実際に排気系部材が使用される状態での耐久性、すなわち、断続的に加熱された状態での高温強度の確保や生成酸化スケールが剥離し難い材料が強く望まれていた。
【0003】
この、断続的に加熱された状態での高温強度や生成酸化スケールの剥離に関する従来の知見として、特開平2−175843号公報では、C,Si,Mn,Cr,N,Nbの含有量を特定し、Nb/Cを調整し、更に必要によりMo,Bを1または2種含有させることにより、耐酸化性と高温特性を向上させることが記載されている。
【0004】
また特開平8−120417号公報では、C,Si,Mn,P,S,Cr,Ni,Nb,Ti,N,Al,及び必要によりMo,W,V,Bの内1種または2種以上の含有量を特定することで、排ガス温度600〜650℃にて優れた高温強度、耐熱疲労性を有し、800℃までの耐酸化性と、優れた加工性と溶接部耐食性、靭性を有し、自動車排気系部材に適したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
しかしながらこれらは、断続的に加熱された状態での高温強度の確保や、生成酸化スケールが剥離し難い材料としては改善の必要があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、排気系材料として、断続的に加熱された状態での高温強度の確保と、生成酸化スケールが剥離し難いフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の要旨とするところは次の通りである。
質量%で、
C :0.005〜0.03%、 Si:2.00%以下、
Mn:2.00%以下、 P :0.040%以下、
S :0.030%以下、 Ni:0.50%以下、
Cr:10.5〜20.0%、 N :0.015%以下、
Al:0.005〜0.1%、 Ti:0.23〜1.0%、
B :0.0003〜0.0070%、
及び必要によりMo:0.2〜3.0%を含み、
かつTi/(C+N)≧6を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物から成る断続加熱時の高温強度に優れ、断続加熱時にも剥離し難い酸化スケールを有するフェライト系ステンレス鋼板。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下本発明について、実験に基づき詳細に説明する。
供試材として、C:0.005質量%(以下、成分量を%と略す)、Si:0.10%、Mn:0.09%、P:0.022%、S:0.002%、Ni:0.03%、N:0.0070%、Al:0.020%でCr濃度を変更し、さらにTi:0.23%とB:0.0008%を添加した鋼材を鋳造し、熱間圧延、焼鈍酸洗、冷間圧延、焼鈍酸洗を行って鋼板とした。
【0008】
この鋼板に対し、断続加熱条件としては、950℃で30分間保定した後に常温まで冷却する処理を300回ほど繰り返した。この後0.2%耐力と引張り強さを評価した結果を図1に示す。図1から、Cr濃度が増えるとこれら強度は向上することがわかる。さらにTi:0.23%を加えたり、B:0.0008%まで添加すると、高強度化できる。
【0009】
また図2は、試験前後の重量差を基に酸化増量を評価した結果である。Crが増えると酸化量は軽減する。さらに、Tiを0.23%加えたり、Bを0.0008%まで添加することで、酸化増量を低減できた。
このように、製品の強度をCr量により制御することは可能であるが、鋼種を限定するとCr量はほぼ一定となるので、Cr量によらない向上技術が必要であり、これをTi,Bの添加で有効に作用させることができる。
【0010】
TiとBの添加により、断続的に加熱された状態での高温強度が確保できる理由は、極低C,Nの状態でのステンレス鋼のCとNをTiが固定し、余ったTiが鋼中のP,Feと結合して微細析出物FeTiPを形成し、800℃程度の断続加熱でも安定して存在するため、強度が確保できる。
また、BはTiにより固定されたC,Nに変わり粒界に偏析して、粒界強度を上昇させる効果があるためと考えている。
【0011】
また、TiとBの添加により生成酸化スケールが剥離し難くなる理由は、Tiを添加することでメタル/酸化スケール界面の凹凸が激しく互いに入り組むようになる。このため、保護性皮膜の固着作用を大きくし、800℃と常温を繰り返す熱歪みに耐えるスケールとなる。Bの改善作用は不明確な点もあるが、保護性皮膜に作用して組成を緻密な皮膜化させるものと考えている。
【0012】
本発明鋼の化学成分の限定理由について以下に述べる。
Cは、ステンレス鋼の耐食性が0.03%以下になると著しく向上する。Cは低いほど好ましいが、0.005%未満にすることは溶製コストが高くなる。したがってC含有量を0.005〜0.03%と限定した。
【0013】
Siは、耐酸化性を向上させるのに有用な元素であり多いことが望ましいが、過剰の含有は冷間加工性を低下させるため、その上限を2.00%とした。
Mnは、脱酸剤として、またSの結晶粒界への偏析による粒界脆化を防ぐために必要であるが、あまり多いと鋼板の冷間加工性を低下させるため、その上限を2.00%とした。
【0014】
Pは、0.040%を超えて含有すると結晶粒界へ偏析し粒界脆化を起こしやすく、低減する必要があるが、溶製時に高価な原料を使用したりする必要からコスト高となるので、0.040%以下とした。
Sは、0.030%を超えて含有すると結晶粒界へ偏析し粒界脆化を起こしやすいので、0.030%以下とした。
【0015】
Niは、耐食性を向上させ、局部腐食進展抑制に効果的であるが、0.50%を超えるとその効果は飽和し、また経済的にも高価となる。
Crは、高いほど耐食性、耐酸化性、断熱加熱後の引張り特性、断熱加熱後の耐スケール剥離性が向上する。しかし、20.0%を超えると熱延工程での製造が難しく経済的にも高価となる。また、10.5%未満では優れた耐食性が発揮されないため、その範囲を10.5〜20.0%とした。
【0016】
Nは、多くなると冷間加工性を劣化させると共に、NをTiNとして固定するのに多量のTiを必要とし製造コストの上昇を伴うため、その上限を0.015%とした。
Alは、TiO2 の生成による鋼板の表面疵を避けるため、脱酸剤として0.005%以上必要であるが、多すぎるとAlに起因する疵が問題となるため、上限を0.1%とした。
【0017】
Tiは、本発明鋼において断続的に加熱された状態での高温強度を確保したり、生成酸化スケールが剥離し難い材料とするために重要な成分元素の一つであり、0.23%以上で作用する。また、CおよびNを固定し耐食性を向上させる。耐食性についてはさらにTi/(C+N)≧6とすることで有効に作用するTi量を確保することにより、著しい効果が得られる。しかし、1.0%を超えると熱間加工性を劣化させるため、1.0%以下とした。
【0018】
Bは、本発明鋼において断続的に加熱された状態での高温強度の確保や生成酸化スケールが剥離し難い材料とするために重要な成分元素の一つであり、その効果は0.0003%以上で発揮される。しかし多すぎるとスラブ段階での割れが発生し熱延疵を多発するため上限を0.0070%とした。有効に作用させるためには、好ましくは0.0050〜0.0070%が良い。
【0019】
本発明において、上記のような鋼成分組成で製造された鋼板は耐酸化性・耐食性・高温強度に優れ、尚かつ、断続的に加熱された状態での高温強度や生成酸化スケールが剥離し難い性質が優れている。
【0020】
さらに本発明は、これらの特性を一層改善するため、必要に応じてMo,Nbなど下記の鋼成分を適宜含有させる。
Moは、本発明ステンレス鋼の選択添加成分である。CrやNiと共存の形で添加され、加工性を向上し、またマフラー内に排ガス中の水分が、燃焼排ガス中のCO3 3-,NH4 + ,SO4 2-,NO3 - ,Cl- や微量の有機物を含有し、局部腐食を発生し進展させるのを抑制するために必要な元素である。0.2%以上3.0%以下の添加で、Crおよびその他の特許請求の範囲に記載の各成分との共存で極めて効果的となる。0.2%未満では耐食性は不充分となるが、3.0%を超えても耐食性の改善にそれほど寄与しないし、かつ高価となる。
【0023】
以上のような成分構成をなす鋼は電気炉、転炉で粗溶製したあとVODやAODの仕上げ精錬炉等の通常の製鋼炉で溶製し、連続鋳造法あるいは通常の造塊法で鋼片とした後、熱間圧延−焼鈍酸洗(状況に応じて焼鈍省略)−冷間圧延−焼鈍酸洗、必要に応じて更に冷間圧延−焼鈍酸洗等を繰り返し行うという通常の製造工程を経て製造される。
【0024】
【実施例】
表1に示すような本発明鋼と従来鋼の成分を転炉−VODで溶製し、連続鋳造で鋼片とした後、熱間圧延により板厚4.0mmの熱延コイルとした。次いで熱延板の焼鈍酸洗を行った後、冷間圧延・焼鈍酸洗を1回行い、0.7mmの冷延鋼帯とした。
次いで該鋼帯を950℃で30分間保定した後、常温まで冷却する処理を300回繰り返した後の、材料の950℃での0.2%耐力、引張り強さ、酸化増量および皮膜剥離の有無の評価結果を表2に示す。
表2の結果より、本発明鋼板は従来鋼と比べ、断続的に加熱された状態での高温強度が高く、生成酸化スケールが剥離し難く、これらの特性において非常に優れていることがわかる。
【0025】
【表1】
Figure 0003926492
【0026】
【表2】
Figure 0003926492
【0027】
【発明の効果】
本発明によって、高温酸化,高温強度,熱疲労特性,高温塩害腐食,湿式腐食などへの優れた材料特性に加え、実際に排気系部材が使用される状態での耐久性、すなわち、断続的に加熱された状態での高温強度の確保や生成酸化スケールが剥離し難い材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】950℃に30分間保定した後に常温まで冷却する処理を300回繰り返す断続加熱後の、Cr濃度と引張り特性との関係を示す図。
【図2】950℃に30分間保定した後に常温まで冷却する処理を300回繰り返す断続加熱後の、Cr濃度と酸化増量との関係を示す図。

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C :0.005〜0.03%、
    Si:2.00%以下、
    Mn:2.00%以下、
    P :0.040%以下、
    S :0.030%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Cr:10.5〜20.0%、
    N :0.015%以下、
    Al:0.005〜0.1%、
    Ti:0.23〜1.0%、
    B :0.0003〜0.0070%
    を含み、かつTi/(C+N)≧6を満足し、
    残部がFeおよび不可避的不純物から成ることを特徴とする断続加熱時の高温強度に優れ、断続加熱時にも剥離し難い酸化スケールを有するフェライト系ステンレス鋼板。
  2. 請求項1記載の成分の鋼に、さらに質量%で、
    Mo:0.2〜3.0%
    を含むことを特徴とする断続加熱時の高温強度に優れ、断続加熱時にも剥離し難い酸化スケールを有するフェライト系ステンレス鋼板。
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