JP3718975B2 - 均質性に優れた極薄缶用冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品缶、飲料缶等の缶容器材料としての用途に好適な缶用鋼板に係り、とくに製品コイルの長手方向および幅方向の材質均一性に優れた板厚 0.10 〜 0.30mm の極薄缶用冷延鋼板およびその製造方法に関する。なお、本発明における鋼板は、切板状の形態に加え、鋼帯、コイル状の形態をも含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
C量を0.005 wt%以下に低減した極低炭素鋼は、優れた加工性を有することから、自動車あるいは缶等の各種用途に適用されている。しかし、最近では、材料に要求される加工性も一段と厳しくなっている。このような状況から、極低炭素鋼板の加工性をさらに向上させるために、成分組成や製造方法に各種の工夫がなされている。例えば、特開平3-130323号公報、特開平4-143228号公報、特開平4-116124号公報には、極低炭素鋼のC、Mn、P等の含有量を低減し、さらにTiを添加することにより優れた加工性を有する鋼板が得られることが開示されている。
【0003】
しかしながら、Tiは、鋼板の耐食性を劣化させるため、缶用鋼板においては内容物の保護という観点からTiの添加は好ましくないとされ、添加量の制限がなされている。
そこで、Tiに代わる元素として、例えば、特公平1-52450 号公報、特公平1-52451 号公報、特開平2-118028号公報には、Nbを添加した極低炭素鋼が提案されている。Nbを添加することにより、鋼中のCがNbC として固定され、加工性が向上するのである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、NbC は、TiC に比べ微細に析出するため再結晶・粒成長の障害となりやすいこと、さらに、NbC を十分に析出させるためには、熱延終了後、鋼板を高温で巻取る必要があることなど工程生産上においても問題を残していた。
さらに、鋼板を十分高温で巻き取っても、巻き取り時および巻き取り後に、内巻き部、あるいは外巻き部では、コイル中央部に比べ冷却速度が大きく、高温域での滞留時間が短くなり、実質的な巻取温度が低く析出量が不十分となる、あるいは再結晶焼鈍での再結晶・粒成長の障害となる微細析出物が増加し、再結晶不良や、硬さの上限外れが生じたり、延性、深絞り性が劣化する、という問題があった。とくに、仕上げ板厚の薄い缶用鋼板用熱延鋼板ではその影響は顕著となる。
【0005】
このようなコイル内巻き部、外巻き部の特性不良を解消するために、熱延コイルの内巻き部や外巻き部に相当する先端部、後端部の巻取温度を、局部的に高くする方法が考えられるが、巻取温度を高くすると酸洗性が劣化しスケール残りが生じたり、酸洗ラインの速度を低速として通板する必要が生じ、歩留り低下に繋がる。
【0006】
本発明の主たる目的は、従来技術が抱えていた上記した問題を有利に解決し、熱延鋼板の酸洗性に優れ、かつ製品コイルの長手方向および幅方向の材質均一性、とくに表面硬さ、r値の均一性に優れた、材質ばらつきの少ない極薄缶用冷延鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、熱延後の巻取り時に、熱延コイルの内巻き部、外巻き部が急冷されても、巻取り以前に固溶Cが十分に固定されていれば、コイル内の材質ばらつきが軽減されることに想到し、Nb系炭硫化物の析出を積極的に利用し、固溶CをNb系炭硫化物として析出させることが固溶C減少に効果的であることを思いついた。
【0008】
すなわち、Nb系炭硫化物は、Nb炭化物にくらべ粗大であり、再結晶・結晶粒成長を阻害しないため、焼鈍での再結晶不良を防止できるほか、鋼板の深絞り性を改善することに思い到ったのである。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
Nbを0.002 〜0.1wt %含有する極低炭素鋼について、Mn、S量を変化したスラブを1000〜1400℃の範囲の温度に加熱し、粗・仕上げ熱間圧延により2.0mm 厚の熱延鋼板とし、巻取り温度を変化させてコイルに巻き取った。ついで、酸洗、冷間圧延、焼鈍を施し冷延鋼板(製品コイル)とした。これら冷延鋼板のr値を、もとの熱延コイルの先後端からの距離にして5mの位置で測定した。
【0009】
本発明者らは、冷延鋼板のr値には、熱延鋼板におけるM値=(MnS としてのS量(重量%))/全S量(重量%)、およびN値=(Nb炭硫化物としてのC量(重量%))/全C量(重量%)が大きく影響することを見いだした。具体的には、M値をM値≦0.2 、N値をN値≧0.7 とすることにより、r値が安定して1.5 以上と高くなるという知見を得た。r値におよぼすM値とN値の関係を図1に示す。
【0010】
硫化物の形成傾向は、Ti>Mn>Nb>V>…>Feであるから、Tiを添加しないNb含有極低炭素鋼では、Mnを低減すればNb系硫化物が析出し易い状況となる。すなわち、S量を0.004 wt%以上とし、Mn量を0.2 wt%以下と低減し、全S量のうち、MnS として析出する量をできるだけ低減することで、Nb系炭硫化物の形成が容易となるのである。これにより、仕上げ圧延までに固溶Cの低減が達成できる。
【0011】
さらに、Nb系炭硫化物は、Nb炭化物(NbC )より高温で析出するため、冷間圧延後の焼鈍では再固溶しにくい。なお、MnS も高温で析出するため、焼鈍の影響を受けず、M値、N値はいずれも熱延鋼板とした場合も冷延鋼板とした場合もほぼ同じ値を示す。
なお、Nb系炭硫化物の析出機構の詳細については不明であるが、NbS は、NbC より高温でより安定であるため、NbS が先に析出し、それを核として炭化物が析出しやすくなり、その結果、Nb炭硫化物(Nb XC YS Z)となる、あるいは先に析出したNbS とは別に、単独にNb炭硫化物(Nb XC YS Z)が析出する、と推察できる。本発明において、Nb系炭硫化物は、X,Y,Zの比がX:Y:Z=(4±0.5 ):(2±0.5 ):(2±0.5 )の値をとる炭硫化物を指すものとする。なお、これらの値はSEM-EDX のピーク強度比の測定により求めることができる。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づきさらに検討を重ねて構成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、重量%で、C:0.0005 〜0.0050%、Mn:0.01〜0.20%、S:0.004 〜0.02%、Nb:0.002 〜0.1 %を含有し、さらにSi:0.04%以下、P:0.02%以下、Al:0.005 〜0.1 %、N:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板であって、M値=(MnS としてのS量(重量%))/全S量(重量%)で表されるM値が0.2 以下で、かつN値=(Nb炭硫化物としてのC量(重量%))/全C量(重量%)で表されるN値が0.7 以上であり、製品鋼板の幅方向端部の表面硬さがHR 30Tで平均値±3を満足する部分が、もとの熱延鋼板の側端からの距離にして片側5mm以上の鋼板内側部分で、かつ製品鋼板の平均r値が1.5 以上を満足する部分がもとの熱延鋼板の先後端からの距離にして片側5m以上の鋼板内側部分であることを特徴とする均質性に優れた板厚 0.10 〜 0.30mm の極薄缶用冷延鋼板である。
【0015】
また、本発明は、重量%で、C:0.0005 〜0.0050%、Mn:0.01〜0.20%、S:0.004 〜0.02%、Nb:0.002 〜0.1 %を含有し、さらにSi:0.04%以下、P:0.02%以下、Al:0.005 〜0.1 %、N:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼帯素材を、1100℃〜1350℃に加熱し粗熱間圧延を施したのち、仕上げ圧延前に析出処理を施し、ついで仕上げ圧延温度を( Ar3−100 ℃) 以上とする仕上げ熱間圧延を行い熱延鋼板とし、その後、該熱延鋼板を巻取温度:350 〜700 ℃でコイルに巻き取り、酸洗、ついで圧下率:85%以上の1次冷間圧延を施し、その後焼鈍、2次冷間圧延を順次施すことを特徴とする均質性に優れた板厚 0.10 〜 0.30mm の極薄缶用冷延鋼板の製造方法であり、本発明では、前記析出処理は、1100〜900 ℃の温度範囲で60sec 以上保持する処理とし、前記焼鈍は、再結晶終了温度以上、800 ℃以下の温度で行い、前記2次冷間圧延は、圧下率:1.0 〜5.0 %の冷間圧延とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
まず、本発明鋼板の化学組成の限定理由について説明する。
C:0.0005 〜0.0050%
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、0.0050%を超えて含有すると鋼板の硬質化が著しく延性が低下し、プレス加工性が劣化する。また、C含有量が増加すると、固溶Cが多く残存し、固溶Cを固定するためのNb等の炭化物固定元素量を増加する必要があり、経済的に不利となる。また、C量が多くなると、微細炭化物の析出量が多くなり、結晶粒の成長を阻害したり、焼鈍時の再結晶不良や加工性劣化の原因となる。このため、Cは、0.0050%以下に限定した。一方、C含有量が0.0005%未満となると鋼板が過度に軟質化し缶体としての強度が確保できなくなるため、Cは 0.0005 %以上に限定した。なお、好ましくは 0.0020%以下である。
【0017】
Mn:0.01〜0.20%
本発明では、MnS の析出を抑えNb系炭硫化物を析出させる目的で、Mnをできるだけ低減する。Mn含有量が0.20%、あるいは0.16%を超えると、MnS の析出量が急激に増加する。このため、本発明ではMnを0.20%以下、好ましくは0.16以下に限定した。なお、Mn量を0.01%未満としても格別な効果は得られず製鋼コストの増加を招くため、0.01%をMn量の下限とした。
【0018】
S:0.004 〜0.02%
本発明では、SはNb系炭硫化物を析出させ、固溶Cを減少させるための重要な元素である。しかし、S量が0.004 %未満では、Nb系炭硫化物の析出が不十分であり、一方、0.02%を超えると、熱間割れが発生しやすくなるとともに、MnS の析出が多くなりNb系炭硫化物の析出が抑制され、加工性が劣化する。このため、Sは0.004 〜0.02%の範囲に限定した。
【0019】
Nb:0.002 〜0.1 %
本発明では、NbはNb系炭硫化物を析出させ、固溶Cを減少させるための重要な元素である。さらに、Nbは、結晶粒の粗大化を抑制する効果もある。Nb量が0.002 %未満では、Nb系炭硫化物の析出量が少なく上記した効果が期待できない。一方、0.1 %を超えると、再結晶終了温度を上昇させる。このため、Nbは0.002 〜0.1 %の範囲に限定した。なお好ましくは、0.002 〜0.02%である。
【0020】
Si:0.04%以下
Siは、多量添加すると表面処理時の酸化増量が大きく、缶用材料としては耐食性に有害な元素であり、また鋼板を硬質化する元素であるため、できるだけ低減するのが望ましく、0.04%以下とする。
P:0.02%以下
Pは、鋼板を著しく硬質化し、加工性を劣化させるとともに、耐食性を著しく劣化させる元素であり、できるだけ低減するのが望ましく、0.02%以下とする。
【0021】
Al:0.005 〜0.1 %
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、0.005 %未満では安定した脱酸効果が得られず、介在物含有量が多くなり加工性が劣化する。一方、0.1 %を超えて添加しても、添加量に見合う効果が期待できないうえ、かえって介在物量が増加し加工性の劣化を招く。このため、Alは0.005 〜0.1 %の範囲とするのが好ましい。
【0022】
N:0.01%以下
Nは、Cと同様に鋼板を硬質化する元素であり、0.01%を超えると延性が著しく低下しプレス加工性が劣化する。また、N量が増加すると固溶Nを固定するため窒化物形成元素であるAl等を多量添加する必要が生じ、経済的に不利となる。このようなことから、Nは0.01%以下とする。なお、好ましくは0.005 %以下である。
【0023】
M値:0.2 以下
本発明では、(1)式で定義されるM値を0.2 以下とする。
M値=(MnS としてのS量(重量%))/全S量(重量%)……(1)
(1)式で示されるように、M値は、鋼中の全S量に対するMnS となっているS量の比で表され、M値を0.2 以下とすることによりMnS の形成が抑制され、Nb系炭硫化物を仕上げ圧延後の冷却までの過程で析出させることができる。M値が0.2 を超えると、MnS の析出が優先しNb系硫化物の析出が少なくなり、加工性が劣化する。なお、MnS となっているS量は、MS系電解抽出残渣の析出Mn量を求め、S as MnS =(析出Mn量)×(32.06 /54.94 )から計算により求めた値を用いる。
【0024】
M値は、Mn量、S量とともに、鋼板素材加熱温度に強く影響される。M値とスラブ加熱温度との関係を図2に示す。なお、r値の測定位置は、熱延鋼板の先後端からの距離で5m である。
M値を0.2 以下とするには、Mn、S量の調整に加え、鋼板素材(スラブ)の加熱温度を1100℃以上に調整する必要があり、これにより熱延鋼板の先後端からの距離で5mの位置での製品鋼板のr値が1.5 以上と、r値のばらつきも少なく、加工性が著しく向上する。
【0025】
N値:0.7 以上
本発明では、(2)式で表されるN値を0.7 以上とする。
N値=(Nb炭硫化物としてのC量(重量%))/全C量(重量%)……(2)(2)式で示されるように、N値は、鋼中の全C量に対するNb炭硫化物として析出したC量との比で表される。N値を0.7 以上にすることにより、固溶CがNb系炭硫化物として固定され、加工性が著しく向上する。N値0.7 以上とするには、M値を0.2 以下とし、Nb量を適正値とし、粗熱間圧延後に析出処理を施すことにより達成できる。なお、Nb炭硫化物となっているC量は、▲1▼〜▲6▼の手順で求めた値を用いる。
【0026】
▲1▼MS系電解抽出残渣のS量:析出S量 as (MnS +NbS +Nb4C2S2 )
▲2▼水素還元残渣のS量:S量 as (MnS +Nb4C2S2 )
▲3▼S量 as NbS =▲1▼−▲2▼
▲4▼S量 as MnS =MS系電解抽出残渣のMn量×(32.06 /54.94 )
▲5▼S量 as Nb4C2S2 =▲2▼−▲4▼
▲6▼C量 as Nb4C2S2 ={▲2▼−▲4▼}×(12/32.06 )
M値:0.2 以下で、かつN値:0.7 以上とすることにより、上記した図1に示すように、もとの熱延鋼板の先後端からの距離にして片側5m未満を除く鋼板内側の範囲で、製品鋼板の平均r値が1.5 以上を満足し、さらに、もとの熱延鋼板の側端からの距離にして片側5mm未満、すなわち両側端部5mm未満を除く内側の範囲で、表面硬さの偏差がHR 30Tで±3ポイント以内を満足するという、材質均一性に優れた冷延鋼板となる。
【0027】
つぎに、鋼板の製造条件について、説明する。
鋼板素材加熱温度:1100〜1350℃
本発明では、MnS の析出をできるだけ抑制し、Nb系炭硫化物の析出を促進するために、上記したM値を0.2 以下とする必要がある。M値を0.2 以下とするために、本発明では、鋼板素材(スラブ)の加熱温度を1100℃以上とする。スラブ加熱温度が1100℃以上とすることにより、M値が0.2 以下となり、図1に示すように熱延板の先後端からの距離で5m未満を除き製品鋼板の平均r値が1.5 以上と加工性が著しく改善される。
【0028】
スラブ加熱温度が1100℃未満では、M値が0.2 を超え、製品鋼板のr値が低くなりコイル全域にわたり良好な加工性を確保できなくなる。一方、スラブ加熱温度が1350℃を超えると、最終製品の表面性状が劣化するため、スラブ加熱温度は1350℃以下とする。
加熱後、スラブは粗圧延、仕上げ圧延からなる熱間圧延を施される。
【0029】
粗圧延の条件は、とくに限定されるものではなく、所定の形状寸法が確保できればよい。粗圧延によりスラブはシートバーとされる。
シートバーは、粗圧延後仕上げ圧延までの間に、析出処理を施される。
析出処理は、1100〜 900℃の温度範囲で60sec 以上保持する熱処理とする。1100〜 900℃の温度範囲では、Nb系炭硫化物が著しく析出し、この温度範囲を外れると、Nb系炭硫化物の析出に長時間を要し、能率的でない。
【0030】
なお、析出処理時間の上限は特にないが、上記温度範囲で不必要に長く保持するのは生産能率を低下させるため、120sec以下とするのが望ましい。
ついで、シートバーは仕上げ圧延を施され、熱延鋼板とされる。
仕上げ圧延は、仕上げ圧延温度を(Ar3変態点−100 ℃)以上とする。
仕上げ圧延温度は、冷間圧延、焼鈍後の製品鋼板の加工性を向上させるため、(Ar3変態点−100 ℃)以上とする。仕上げ圧延温度が(Ar3変態点−100 ℃)未満では、組織が粗粒化する傾向にあり、製缶時に肌荒れが生じたり、加工性が劣化したりする。また、仕上げ圧延温度が(Ar3変態点−100 ℃)未満ではリジング現象が発生しやすくなり、外観不良となる危険性が増大する。このようなことから、仕上げ圧延温度は(Ar3変態点−100 ℃)以上に限定した。なお、仕上げ圧延温度の上限は、脱スケール性の向上や、スケール疵の防止の観点から 1000 ℃とするのが好ましい。
【0031】
巻取温度:350 〜700 ℃
熱間圧延を終了した鋼板は、通常、巻き取られコイルとされるが、本発明では、固溶Cはスラブ加熱から仕上げ圧延後の冷却までの過程でNb系炭硫化物として析出するため、巻取温度により材質が顕著に変化することはない。そのため、本発明では、巻取温度は、操業性の観点から選択することができ、酸洗性を重視して通常より低い温度とすることができる。しかし、巻取温度が低すぎると熱延板の形状が劣化し、次工程の酸洗、冷間圧延に支障をきたすため、巻取温度の下限を350 ℃に限定した。一方、巻取温度が高すぎると、熱延板の組織はカーバイトが凝集した組織となるため、製品鋼板の耐食性が劣化する。さらに、また巻取温度が高すぎると、熱延鋼板の表面に形成されるスケールの厚みが増加し酸洗性を劣化させるため、巻取温度の上限を700 ℃に限定した。
【0032】
図3に、熱延鋼板の先後端からの距離が5mの位置でのr値におよぼす巻取温度(CT)とN値の関係を示す。図3から、巻取温度が低くても、0.7 以上の高いN値を有していれば、熱延鋼板の先後端からの距離が5mという鋼板端部においても、平均r値が1.5 以上という高い加工性を保持しており、材質均一性が優れていることがわかる。
【0033】
1次冷間圧延の圧下率:85%以上
1次冷間圧延の圧下率は、2ピース缶等への用途に適応する十分な深絞り性を確保するために、85%以上とする。なお、好ましくは95%以下である。95%を超えるような高圧下を行うとr値が低下し、またr値の異方性が増大するため圧下率の上限は95%とするのが望ましい。
【0034】
焼鈍温度:再結晶終了温度以上、800 ℃以下
焼鈍温度は、再結晶終了温度以上とする。焼鈍温度が再結晶終了温度未満では、未再結晶組織が残存し、製缶時の成形性不良、材質の不均一等の問題が生じる。一方、焼鈍温度が800 ℃を超えると、薄物材ではバックリングや、炉内での板破断の発生の危険度が高くなる。また、焼鈍温度が高すぎるとSi,Mn,P等の表面濃化の増大などで表面処理性の劣化を招く。このようなことから、焼鈍温度は、再結晶終了温度以上、800 ℃以下とする。なお、焼鈍方法は、生産性、材質の均一性から連続焼鈍とするのが望ましい。
【0035】
2次冷間圧延圧下率:1.0 〜5.0 %
調質圧延の圧下率は、鋼板の調質度により適宜決定されるが、ストレッチャーストレインの発生を防止するためには、1.0 %以上の圧下率で調質圧延する。一方、5.0 %を超える圧下率で調質圧延すると、鋼板が過度に硬質化して加工性が劣化するとともに、材質の異方性が増大する。とくに、圧延方向と圧延方向に直角方向の延性が劣化する。このようなことから、2次冷間圧延の圧下率は1.0 〜5.0 %の範囲とする。
【0036】
上記した製造方法により製造された熱延鋼板は酸洗性に優れ、さらに製品冷延鋼板は、もとの熱延鋼板の先後端からの距離にして片側5m 未満を除く鋼板内側の範囲で、製品鋼板の平均r値が1.5 以上を満足し、さらに、もとの熱延鋼板の側端からの距離にして片側5mm未満を除く、すなわち両側端部5mm未満を除く内側の範囲で、表面硬さの偏差がHR 30Tで±3ポイント以内を満足し、コイル内の材質ばらつきの少ない、材質均一性に優れた冷延鋼板となる。
【0037】
なお、本発明は、板厚0.10〜0.30mmの極薄冷延鋼板に適用する。
また、冷延鋼板の母板となる熱延鋼板の板厚は、3mm以下とするのが、冷間圧延に負担がかからず好適である。
【0038】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によりスラブに鋳造した。これらスラブを表2に示す熱間圧延条件で2.5mm 厚の熱延鋼板とした。
【0039】
【表1】
【0040】
その後、熱延鋼板に、酸洗および圧下率90%の1次冷間圧延を施し0.25mmの冷延鋼板とし、ついで表2に示す条件で連続焼鈍、2次冷間圧延(調質圧延)を行い、製品鋼板とした。調質圧延後、ハロゲンタイプの電気錫めっきラインで25番相当の錫めっきを連続的に施してぶりき板に仕上げた。
【0041】
【表2】
【0042】
これら製品鋼板(コイル)について、引張特性、表面硬さを測定した。また、各熱延鋼板について酸洗性を調査した。これらの試験結果を表3に示す。
なお、酸洗性、引張特性、表面硬さの試験方法は次のとおりである。
(1)酸洗性試験
熱延鋼板から切出した20mm角の試験片を、温度50℃の10%HCl 水溶液(酸洗液)中に浸漬し、酸洗液を攪拌しながらスケールが完全に除去されるまでに要する時間を測定し、酸洗性を評価した。
(2)引張特性試験
製品コイルの長手方向および幅方向各位置からJIS 5 号試験片を採取し、引張試験を実施し、降伏強さ(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)およびr値を測定した。r値は次式により平均r値として求めた。
【0043】
平均r値=(r0 +r90+2r45)/4
(r0 :圧延方向(L方向)のr値、r90:圧延方向に直角方向(C方向)のr値、r45:圧延方向に45度方向(D方向)のr値)
なお、r値の測定位置は、次の5ヵ所とした。
ポイント▲1▼:コイル先端から5mの位置でコイル幅側端(O側)から100mm の範囲(標点間の中心位置:側端から15mm(L方向)、50mm(C方向)、35mm(D方向))
ポイント▲2▼:コイル先端から5mの位置でコイル幅側端(D側)から100mm の範囲(標点間の中心位置:側端から15mm(L方向)、50mm(C方向)、35mm(D方向))
ポイント▲3▼:コイル長手方向中央部の位置でコイル幅方向中央部
ポイント▲4▼:コイル後端から5mの位置でコイル幅側端(O側)から100mm の範囲(標点間の中心位置:側端から15mm(L方向)、50mm(C方向)、35mm(D方向))
ポイント▲5▼:コイル後端から5mの位置でコイル幅側端(D側)から100mm の範囲(標点間の中心位置:側端から15mm(L方向)、50mm(C方向)、35mm(D方向))
(3)表面硬さ試験
製品コイルの長手方向および幅方向各位置で表面硬さ(HR 30T)を測定し、表面硬さの偏差を求めた。表面硬さの偏差は、製品コイル先端から5mの範囲と後端から5mの範囲を除いたコイル中央部で、かつもとの熱延鋼板の側端からの距離にして片側5mm未満を除く(両側端部5mm未満)コイル内側の範囲で求めた。なお、コイル長手方向の硬さ測定は、前、後端から50mは5mピッチ、前、後端から50〜100 mは10mピッチ、前、後端から100 m〜中央部は100 mピッチで、かつそれぞれの位置でコイル幅方向に片端部から100mm は5mmピッチ、100mm 〜中央部は10mmピッチで行った。
【0044】
【表3】
【0045】
表3から、本発明例はすべて、熱延鋼板の酸洗性に優れて、かつ本発明例はすべて、もとの熱延鋼板の先後端からの距離にして片側5m未満を除く鋼板内側の範囲で、製品鋼板の平均r値が1.5 以上を満足し、さらに、もとの熱延鋼板の側端からの距離にして片側5mm未満を除く、すなわち両側端部5mm未満を除く内側の範囲で、表面硬さの偏差がHR 30Tで±3ポイント以内を満足している。本発明例はいずれもコイル内の材質ばらつきの少ない、材質均一性に優れた冷延鋼板となっている。本発明の範囲を外れる比較例にくらべ、本発明例のr値、表面硬さのばらつきは著しく低減しており、本発明によれば、熱延後の酸洗性に優れかつ材質の均一性に優れる冷延鋼板が製造できることがわかる。
【0046】
なお、M値、N値は熱延鋼板のみについて記載しているが、製品冷延鋼板での値もほとんど同じ値であったので、代表して熱延鋼板についてのみ記載している。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、熱延後の酸洗性に優れ、かつコイル長手方向および幅方向の材質均一性に優れる缶用冷延鋼板を提供でき、さらに酸洗工程での生産性向上や熱間圧延での燃料費の低減など産業上格段の効果を奏する。また、本発明の冷延鋼板は、食品缶、飲料缶等の金属缶への適用に留まらず、乾電池内装缶や各種家電部品や自動車部品への幅広い適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】平均r値におよぼすM値とN値の関係を示すグラフである。
【図2】平均r値におよぼすスラブ加熱温度の影響を示すグラフである。
【図3】平均r値、酸洗性、形状におよぼすN値とコイル巻取温度との関係を示すグラフである。
Claims (2)
- 重量%で、C:0.0005 〜0.0050%、 Si : 0.04 %以下、Mn:0.01〜0.20%、S:0.004 〜0.02%、P: 0.02 %以下、 Al : 0.005 〜 0.1 %、N: 0.01 %以下、Nb:0.002 〜0.1 %を含み、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成の冷延鋼板であって、下記に示すM値が0.2 以下で、かつ下記に示すN値が0.7 以上であり、製品鋼板の幅方向端部の表面硬さがHR 30Tで平均値±3を満足する部分が、もとの熱延鋼板の側端からの距離にして片側5mm以上の鋼板内側部分で、かつ製品鋼板の平均r値が1.5 以上を満足する部分がもとの熱延鋼板の先後端からの距離にして片側5m以上の鋼板内側部分であることを特徴とする均質性に優れた板厚 0.10 〜 0.30mm の極薄缶用冷延鋼板。
記
M値=(MnS としてのS量(重量%))/全S量(重量%)
N値=(Nb炭硫化物としてのC量(重量%))/全C量(重量%) - 重量%で、C:0.0005 〜0.0050%、 Si : 0.04 %以下、Mn:0.01〜0.20%、S:0.004 〜0.02%、P: 0.02 %以下、 Al : 0.005 〜 0.1 %、N: 0.01 %以下、Nb:0.002 〜0.1 %を含み、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成の鋼板素材を、1100℃〜1350℃に加熱し粗熱間圧延を施したのち、仕上げ圧延前までに1100 〜 900 ℃の温度範囲で 60sec 以上保持する析出処理を施し、ついで仕上げ圧延温度を( Ar3−100 ℃) 以上とする仕上げ熱間圧延を行い熱延鋼板とし、その後、該熱延鋼板を巻取温度:350 〜700 ℃の温度範囲でコイルに巻き取り、酸洗、ついで圧下率:85%以上の1次冷間圧延を施し、その後再結晶終了温度以上、 800 ℃以下の温度で行う焼鈍、圧下率: 1.0 〜 5.0 %の冷間圧延である2次冷間圧延を順次施すことを特徴とする均質性に優れた板厚 0.10 〜 0.30mm の極薄缶用冷延鋼板の製造方法。
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