JP3718739B2 - 弗化硫黄の分解法および分解用反応剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,弗化硫黄の分解法およびそのための分解剤に関する。本明細書において,弗化硫黄はフッ素と硫黄を必須の構成元素とし容易に気化する化合物を言う。弗化硫黄の代表例には6フッ化硫黄(SF6)がある。容易に気化するとは, 常温常圧で気体状のもの,および常温では液体であるが他の不活性ガスが同伴すると0.01容量%以上のその蒸気を含む混合ガスを生成するものを言う。
【0002】
【従来の技術】
弗化硫黄,特に6フッ化硫黄は熱的に安定であるので,例えば半導体製造プロセスにおけるエッチング用或いはクリーニング用のガスとして利用されている。しかし,弗化硫黄は一般にGWP値が大きく,大気中に放出されると分解されないまま大気中に滞留するために地球温暖化への影響が懸念されている物質の一つであり,使用後には分解することが好ましいとされている。したがって,使用済の弗化硫黄は無害物質に分解されることが必要である。
【0003】
しかし,これまでのところ,弗化硫黄例えば6フッ化硫黄(SF6)を効率よく且つ無害物質に完全に分解する方法は知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
したがって,本発明は,高い効率で且つ簡便な操作で弗化硫黄を分解でき,且つ分解した弗素も効率よく回収することができる弗化硫黄の分解法およびそのための分解剤を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記の課題は,単体状炭素とアルカリ土類金属の一種または二種以上を含有する固体状の反応剤に,弗化硫黄を気体状で300℃以上の温度で接触させることからなる弗化硫黄の分解法によって解決できることがわかった。
【0006】
そのさい,該反応剤との接触温度を450℃以上とすると硫黄酸化物例えばSO2の副生を抑制できることがわかった。
【0007】
さらに,単体状炭素およびアルカリ土類金属の一種または二種以上に加えて,さらにアルカリ金属の一種または二種以上を適量含有する固体状の反応剤を使用すると,アルカリ金属を含有しない場合に比べて,低域の温度域から硫黄酸化物の副生を抑制できること,より具体的には350℃以上からSO2の副生を抑制できることがわかった。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に従う弗化硫黄の分解法は,単体状炭素,アルカリ土類金属の一種または二種以上,場合によってはさらに,アルカリ金属の一種または二種以上を含有する固形状の分解用反応剤を使用する点に特徴がある。この分解用反応剤は,単体状炭素,アルカリ土類金属および必要に応じてアルカリ金属を含有した固形物からなり,それら元素の含有割合が,アルカリ土類金属を1.0としたときの原子比で,単体状炭素が0.25〜4.0,アルカリ金属が0〜0.3であるのがよい。原子比で表しているのは,アルカリ土類金属類またはアルカリ金属類が各種の化合物例えば酸化物や炭酸塩等の形態で含有する場合における化合物中の金属成分の含有割合が重要であるからである。
【0009】
このような反応剤に弗化硫黄ガスを適当な温度で接触させると弗化硫黄が分解し,分解によって生成した弗素は反応剤に固定され,また分解によって硫黄酸化物が発生するのを抑制することができる。すなわち,本発明法によると,有害な分解生成ガス例えば弗素ガス,弗化炭素ガス,SOX 等の副生物を発生をさせないで弗化硫黄を効率よく分解することができる。分解ガス中にこのような副生物を発生させないためには,反応条件,例えば反応温度,分解に供する原料ガス中の弗化硫黄濃度や他の成分例えば酸素等の存在の有無,反応剤の形態や反応剤の成分比,ガス供給速度等の条件を適切に調整することが必要となるが,最も重要な条件は,後記の実施例に示すように,反応温度である。
【0010】
すなわち,反応温度を300℃以上とすると弗化硫黄中の弗素が反応剤に完全に固定され,弗素成分は排ガス中に同伴しないようになることがわかった。また反応剤中の炭素と弗素が反応して弗化炭素が発生するようなことも抑制されることがわかった。さらに反応温度を450℃以上とすると被処理ガス中の酸素または反応剤中の酸素と硫黄が反応して硫黄酸化物が発生するようなことも抑制されることがわかった。しかし,後記の実施例に示すように反応条件によっては反応温度が低い領域では若干の硫黄酸化物が発生することもある。
【0011】
排ガスは場合によってはCOを一部含むものとなる。COを含む場合には,酸化処理してから系外に排出すればよい。先述のように反応温度が低い場合,例えばアルカリ金属無しの反応剤では450℃未満,アルカリ金属入りの反応剤では350℃未満では,SO2の発生を見ることもあるが,この場合には脱硫処理して系外に排出すればよい。また,反応剤中の単体状炭素とフッ素が反応して弗化炭素が生成しうることも予想されたが,後記の実施例に示した条件では弗化炭素は実質上発生しないことがわかった。
【0012】
以下に本発明法で用いる反応剤について説明する。
【0013】
反応剤中の単体状炭素は,アルカリ土類金属と併存することにより前記(1) や(2) 式のように弗化硫黄の分解に寄与するものと考えられる。反応剤中の単体状炭素の含有量は分解反応の進行につれて変動することはあるが,少なくとも分解反応初期にはアルカリ土類金属を1.0としたときの原子比で0.25以上含有することが好ましく,この比が0.25未満では,弗化硫黄の分解が十分に進行しないことがある。しかし,該比が4.0より大きくなるような量で単体状炭素が含有されていると,これに伴ってアルカリ土類金属量が低下して分解反応が十分に行われなくなる。したがって,反応剤中の単体状炭素量はアルカリ土類金属を1.0としたときの原子比で0.25〜4.0の範囲であるのがよく,好ましくは0.5〜3.0の範囲,さらに好ましくは1.0〜2.0の範囲であるのがよい。
また,この反応剤中の単体状炭素量は分解反応初期から反応途中も維持されることが望ましい。ここで,単体状炭素とは単体状で存在する固体炭素であり,特定の化合物中の炭素は単体状炭素ではないものとする。特定化合物中の炭素としては例えば炭酸塩中の炭素がある。以下,特に断らない限り,反応剤中の炭素と言えば単体状で配合されている炭素を意味する。
【0014】
反応剤中の単体状炭素はチャー炭,活性炭,カーボンブラックまたはコークス粉の形態で配合することができる。また炭素繊維や黒鉛,更には無機炭素質が主成分として含まれているものであってもよい。反応剤が造粒品の場合には,これらの炭素質の粉体を他の原料(アルカリ土類金属化合物,場合によってはさらにアルカリ金属化合物)と共に造粒すればよい。また,焼成品からなる反応剤を得る場合には,これら炭素質の粉体原料を他の原料(アルカリ土類金属化合物,或いはアルカリ金属土類金属化合物とアルカリ金属化合物)に配合して焼成することができる。
【0015】
反応剤中のアルカリ土類金属は,単体状炭素と共存することにより例えば前記(1) 式や(2) 式のように弗化硫黄を分解する作用を果たし,弗化硫黄中の弗素をCaF2の形で固定する役割を果たす。このようにアルカリ土類金属は本発明の反応剤の基本成分である。このため,本明細書ではアルカリ土類金属の含有量を基準として単体状炭素量,さらにはアルカリ金属量の相対割合を規定しており,したがって,反応剤中の実際のアルカリ土類金属量は,単体状炭素の含有量と,さらにはアルカリ金属の含有量との関係で決まる。その相対量が少な過ぎると反応の経過につれて,分解反応に寄与するアルカリ土類金属の炭素量に対する相対比が低下し,高い分解率を得ることができなくなる。しかし,逆にアルカリ土類金属の相対量が多すぎると,炭素との相対比が高くなりすぎて,やはり高い分解率を得ることができなくなる。
【0016】
アルカリ土類金属としては,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Raであればよく,これらの酸化物,水酸化物または炭酸塩等の塩類として反応剤中に含有させることができる。これらアルカリ土類金属のうち好ましいものはCaとMgであり,また,これらはその原料および分解反応生成物に毒性がないので取り扱いやすい。その原料としては,CaまたはMgの酸化物,水酸化物または炭酸塩などの酸素を含んだ形態の方が安定で取り扱いやすく,これらの原料の具体例としては,生石灰,消石灰,大理石,炭酸マグネシウム,ドロマイト等があり,特に酸化物の形で反応剤中に含有されるのが好ましい。
【0017】
このようにCaまたはMgを酸素含有化合物の形態で反応剤中に含有させる場合には,弗化硫黄の分解反応において,この酸素含有化合物中の酸素がCと反応したり,弗化硫黄中の硫黄と置き変わったり,または気相中の酸素が反応剤中のCと反応したりするときに,反応剤がより活性になることがその原因であろうと推察されるが,酸素含有化合物の形態でCaまたはMgが反応剤中に存在すると一層有利に弗化硫黄を分解することができる。
【0018】
前記の単体状炭素およびアルカリ土類金属に加えてアルカリ金属が反応剤中に共存すると,共存しない場合に比べて分解温度を低下させても,高い分解率で弗化硫黄を分解することができるようになり,また,硫黄酸化物が発生しない反応温度域を低温側に移動させ,同じく弗化炭素類が発生しない反応温度域を低温側に移動させることができるようになる。アルカリ金属としては,Li,Na,K,Rb,Csなどがあるが,Kがこのような作用を顕著に果たすことが判明している。反応剤中のアルカリ金属量としては,アルカリ土類金属を1.0としたときの原子比で0〜0.3の範囲であればよく,この比が0.3より多くなるように含有しても,その効果は飽和すること,また単体状炭素およびアルカリ土類金属の含有量が相対的に低下することから,好ましいことではない。
【0019】
アルカリ金属としての例えばKを反応剤中に含有させるには,水酸化物,炭酸塩,リン酸塩,アルミン酸塩,硝酸塩または硫酸塩等の化合物の形態で配合すればよく,これら化合物を単独で或いは複合して,粉状のものはそのまま,塊状のものは100μm以下に粉砕して配合すればよい。また,これら化合物の水溶液で添加することもできる。
【0020】
これら単体状炭素,アルカリ土類金属,場合によってはさらにアルカリ金属の合計量は反応剤全体の50重量%以上であることが望ましい。この合計量が50重量%未満でも弗化硫黄の分解は可能であるが,効率よく分解するには50重量%以上であるのがよい。残余の成分としては,アルカリ土類金属およびアルカリ金属が化合物として配合されている場合の当該化合物中の成分や化合物があり,この残余の成分の殆んどが酸素であるのが好ましいが,水分,CO2 その他原料から同伴する不純物を含むこともできる。
【0021】
以上のように,本発明の弗化硫黄の反応剤は,単体状炭素とアルカリ土類金属を必須の成分として含有し,任意成分としてアルカリ金属成分を含有することもできる固形物である。この固形状反応剤は分解に供する弗化硫黄ガスとの接触機会を高める上では,粒状であるのが好ましい。粒状品とするには,前記した各原料の粉体を混合し,適量の水と共に,或いは,場合によっては適切なバインダーを加えて造粒し,次いで乾燥して水分を蒸発させるという工程で造粒品とすればよい。
【0022】
最も好ましい粒状品は焼成された粒状物である。すなわち,粉状炭素質原料,粉状アルカリ土類金属化合物,さらに必要に応じて粉状アルカリ金属化合物を混合し,この混合粉体を焼成してなる焼成品,或いは粉状炭素質原料と粉状アルカリ土類金属化合物の混合粉体を焼成してなる焼成品にアルカリ金属化合物の溶液を被着または含浸させ,揮発分(溶媒液)を乾燥除去してなる焼成品である。この焼成品を得るための出発材料とししての各原料は,先に述べたような炭素質原料,アルカリ土類金属化合物,アルカリ金属化合物を使用すればよい。
【0023】
代表的な焼成品としては,炭素質粉体と消石灰(さらにはカリウム化合物)を含む混練物を,炭素が残存しながら消石灰の逆消化反応が進行するに十分な条件で焼成したもの,或いは炭素質粉体と炭酸カルシウム(さらはカリウム化合物)を含む混練物を,炭素が残存しながら炭酸カルシウムの分解反応が進行するに十分な条件で焼成したものがある。混練物中にカリウム化合物を配合するさいにはカリウム化合物は粉状でも水溶液状であってもよい。
【0024】
該混練物はいずれも粒径が100μm以下の原料が均一に混ざり合った造粒物であるのがよく,この造粒物の作製にあたっては,配合原料を秤量し,混練にあたっては適量の水を添加する。この水の添加をアルカリ金属含有の水溶液で置き換えることもできる。混練機としては,混合・造粒が同時に行えるものが便宜であるが,混合と造粒を分けて行うものであってもよい。例えば,ヘンシェルミキサーや縦型ミキサーを用いると混合と造粒を同時に行うことができるが,原料の混合をヘンシェルミキサーやV型混合機で行い,次いで造粒を皿型造粒機やドラムペレタイザーで行ってもよい。
【0025】
混練・造粒にさいしては水または該水溶液の他に適量のバインダーを配合することもできる。バインダーとしてはポリビニールアルコール(PVA)のような有機バインダーが使用できる。また,アルミ酸化物系や珪素酸化物系の無機バインダーも使用できるが,得られる当該分解用反応剤の性能に影響を与えないような量とする必要がある。
【0026】
この混練・造粒物の焼成は,水分や揮発性成分が除去され適度な強度を有する焼成品が得られるような条件で行うのが良いが,配合原料中の炭素の酸化消耗を防止するうえでは不活性雰囲気下で加熱処理するのが好ましく,不活性雰囲気下であれば高温での処理が可能となり,高強度の焼成品が得られる。焼結に使用する設備としてはロータリーキルン等の連続式のものが使用できるが,固定式の炉で行うこともできる。
【0027】
本発明に従う分解用反応剤は含有水分量が少ないもの,また分解反応中に水分が発生しないものが特に好ましく,不活性雰囲気中で800℃に加熱したときの水分放出量が15重量%以下であるものが好ましい。
【0028】
次に前記の反応剤を用いて弗化硫黄を分解処理する方法および装置について説明する。
【0029】
本発明に従う弗化硫黄の分解処理は,前記反応剤を装填した反応容器に被処理ガスである弗化硫黄含有ガスを通気することによって行うことができる。そのさい,反応剤の温度ひいては反応温度を300℃以上に維持すると共に,反応雰囲気としては非酸化性雰囲気或いは弱酸化性雰囲気で行うことができる。アルカリ金属を含有する反応剤では,アルカリ金属を含有しないものに比べて反応剤の活性が高まるので,反応雰囲気としては非酸化性雰囲気であっても目的が達成できる場合もあるが,弱酸化性雰囲気例えば0.01〜25vol.%の酸素を被処理ガス中に含有する雰囲気で処理することもできる。被処理ガス中の弗化硫黄の濃度は特に限定されるものではなく,弗化硫黄ガス100%でも分解できるが,不活性ガス更には酸素含有ガスで希釈されていてもよい。このように,分解に供する被処理ガス中の弗化硫黄の濃度,被処理ガス中の酸素含有ガス濃度,SV(空塔速度),LV(線速度),他のガスとの混合状態,本発明反応剤の成分比や形態,さらには,副生物例えば硫黄酸化物や弗化炭素類の抑制の程度に応じて,好ましい分解温度が設定されることになる。
【0030】
この分解処理は,前記反応剤を装填した反応容器と,この反応容器内に通ずるように設けられた被処理ガス導入口と,該反応容器内から反応後のガスを排出するように設けられたガス排出口と,該反応容器を収容する炉と,この炉内の雰囲気温度を300℃以上に高めるための熱源と,前記の被処理ガス導入口と弗化硫黄含有ガス源とを接続する管路と,所望により,前記のガス排出口に連通するように配管接続された排ガス酸化器と,を備えた弗化炭素類の分解装置によって行うことができる。
【0031】
図1は,本発明法を実施する装置の一例を示したものである。図中の1は金属製の反応容器(管)であり,この中に前記の反応剤からなる反応剤2が装填される。図例のものは管状の反応容器1を縦型にしたものであり,反応剤2は容器内に固定した通気性床3の上に装填されている。反応容器1の金属管としてはステンレス鋼またはニッケル基合金からなる管を使用することができる。
【0032】
反応容器1は加熱炉4内に設置される。図示の加熱炉4は,通電により発熱する発熱体を用いた電気ヒータ5を熱源としたもので,この電気ヒータ5によって炉内雰囲気6の温度が所要の温度に昇温し,この炉内の熱が金属製反応容器壁を介して反応剤2に伝達される。炉内雰囲気6の温度を所要の温度に高めることができるものであれば,熱源としては電気ヒータに限られるものではない。例えば燃焼排ガスなどの高温ガスを熱源とすることもできる。
【0033】
このようにして加熱炉4内に設置される反応容器1には被処理ガス導入口7が設けられ,この被処理ガス導入口7は弗化硫黄を収容する容器8に配管接続される。容器8は必要に応じて加熱手段9により間接加熱できるようにしておき,この加熱により容器8内の弗化硫黄のガス圧を高める。また,容器8からのガス放出管10には流量調整弁11を介装する。図1の実施例では,容器8に加えて,酸素ガスボンベ12と窒素ガスボンベ13を別置きし,これらから,酸素ガスと窒素ガスをそれぞれ流量調整弁14,15を介装したガス放出管16,17を経ていったんガスヘッダー18に導くと共にこのヘッダー18に弗化硫黄を導くことにより,弗化硫黄ガスにキャリヤとしての窒素ガスを混合すると共に必要に応じて酸素ガスを添加できるようにして,ヘッダー18で混合された被処理ガスをガス供給管19を経て反応容器1の被処理ガス導入口7に送り込むようにしてある。
【0034】
なおこの例に限らず,弗化硫黄,窒素および酸素を予め混合してなる混合ガスを一つの容器内に準備し,この混合ガスを直接的に被処理ガス導入口7に送り込むようにしてもよいし,弗化硫黄容器8に窒素ガスを送り込み,この窒素ガスによって弗化硫黄を容器から強制的に送り出し,その放出管路に酸素ガスを添加するようにしてもよい。いずれにしても,必要に応じて酸素ガス導入管を容器8自身または容器8から被処理ガス導入7に至るまでの配管に接続するようにするのがよい。
【0035】
他方,反応容器1のガス排出口20には排ガス管路21が接続され,この排ガス管路21はハロゲン吸収ビン22に接続され,このビン22にガス放出管23が取付けられている。また,排ガス管路21にはサンプリング管24が取付けられ,このサンプリング管24でサンブリングされた排ガスはガス分析器25に送られる。
【0036】
排ガス管路21には分岐管26が設けられ,この分岐管26から,脱硫器27と酸化器28に通ずる管路を設け,これらの機器を通過した後のガスが再び排ガス管路21に戻る戻り管29が必要に応じて設けられる。すなわち,排ガス中にSOX が同伴する場合には,通常のSOX 分解触媒を装填した脱硫器27で分解処理し,また排ガス中にCOが同伴する場合には,白金,パラジウム等のような貴金属触媒或いはホプカライト触媒などを装填した酸化器28でCOをCO2に酸化してから,排ガス管路21に戻すようにする。
【0037】
図1の装置において,反応容器1内の反応剤2には加熱炉4内の雰囲気温度が容器壁を通じて伝達され,反応による熱収支と,導入ガスと排出ガスによって出入する熱容量の収支によって温度が変化するが,図示のように,反応剤2のほぼ中心に挿入された温度センサー(熱電対)31によって,反応帯域の温度を温度測定器32で検出し,この温度が所定の温度に維持されるように,熱源5からの供給熱量を制御する。また,加熱炉4内の炉内雰囲気6の温度も温度センサー33によって検出しその検出値に基づいて加熱炉自体の温度制御も適宜行う。
【0038】
このようにして,被処理ガス中の弗化硫黄はほぼ完全に(100%近い分解率で)分解し,分解したフッ素は反応剤中のアルカリ土類金属と反応してフッ化アルカリ土類金属となり,排ガス中にはこれらの弗化硫黄およびフッ素は実質上残存しなくなる。また,排ガス中にSOX やCOが同伴する場合には,脱硫器27や酸化器28によってこれらを無害処理することができる。
【0039】
図2は,半導体製造工程で使用された使用済弗化硫黄を本発明によって分解処理する場合の例を示したものである。半導体製造工程から出る使用済弗化硫黄37は一般に管路38を経てルーチンな処理工程36に送られている。本発明の適用にさいし,この弗化硫黄供給管38を反応容器1の被処理ガス導入口7に接続する。図示の例では,該供給管38から三方弁39を介して分岐管40を取付け,この分岐管40を被処理ガス導入口7に接続したものである。そして,この分岐管40に窒素ガス供給管41を連結し,窒素ガス源42から窒素ガスを分岐管40内に流量可変に圧送できるようにしてある。これにより,三方弁39を切り換えたさいに,分岐管40の側に原料ガスが流れ難くても,窒素ガス源42から必要量の窒素ガスを送気することにより,原料ガスを被処理ガス導入口7に向けてを実質的に同一流量で搬送することができる。
【0040】
図3と図4は,反応容器1の内部に加熱源を設置して,容器の内部から反応剤2に熱を伝達するようにした本発明例を示したものである。両図において,44は反応容器1を取り巻く耐熱性の炉材,7は容器への被処理ガス導入口,20は容器からのガス排出口である。
【0041】
図3の場合には,反応剤2の充填層の内部に,通電により発熱する発熱体43を配置したものであり,発熱体43は耐食耐熱性のカバーで被覆してある。本例によると,反応剤2の充填層内部から熱が伝達されるので,反応剤を所望の温度まで高めるための昇温速度を高めることができまた熱損失も少なくなる。
【0042】
図4の場合には,反応容器1の内部を,反応剤2の充填層と加熱層に分け,容器1内に導入された被処理ガスは加熱層を経てから反応剤充填層に流れるようにしたものである。加熱層では,通電により発熱する発熱体46を容器蓋45に取付けてある。被処理ガスは加熱層を通過するさいに熱を付与されると共に反応剤2にも熱が伝達される。本例では,容器内に電気ヒーターを入れたので,熱の利用効率が高くなると共に発熱体46が反応剤や反応後のガスに接触しないので劣化が少ないという利点がある。
【0043】
図5は,加熱源をもつ反応容器1に導入する前の被処理ガスと,反応容器2から出た排ガスとを熱交換するための熱交換器48を配置した本発明例を示したものである。この熱交換器48を配置することにより,排ガスが有する顕熱を被処理ガスに付与することにより,熱の回収が図られるので,加熱源の熱消費を低くすることができる。
【0044】
上に説明した本発明装置の場合,装填した反応剤が消耗し尽きると,分解反応は終了する。この反応終点は排ガス中に弗化硫黄が検出され始めた時点をもって知ることができる。反応が終了すれば,装置の稼働を停止し,新たに反応剤を装填して反応を開始するというバッチ方式で,同一装置で順次弗化硫黄の分解を行うことができる。このバッチ方式を連続化するために,複数の同様の装置を並設し,一方の装置が稼働している間に他の装置の反応剤の入れ換えを行ない,一方の装置が停止したときに他方の装置にガス流路を切り替えるという複塔切替方式を採用こともできる。また,反応容器内への反応剤の連続または断続供給と,使用済反応剤の反応容器内からの連続または断続排出ができるようにしたものを使用すれば,同一装置で長時間連続稼働ができる。
【0045】
【実施例】
〔実施例1〕
図1に示したものと同じ原理の装置(脱硫器と酸化器を除く)を使用して本発明法を実施した。すなわち,通電により発熱する発熱体(カンタル合金を使用)を装着した管状炉(電気容量0.4KW)の軸中心に沿って,内径16mm,長さ300mmのインコネル600からなる反応管を貫通させ,この反応管内の炉中心部に,弗化硫黄分解用の反応剤35ccを装填した。
【0046】
この反応剤は,原料としてチャー炭,消石灰および水酸化カリウムを用いて作製した粒状物であり,次のようにして作製した。
【0047】
粒度250μm以下のチャー炭,粒度250μm以下の消石灰,および水酸化カリウム(無添加を含む)の配合比を変えてヘンシエルミキサーで混合し,水を添加して造粒したあと,110℃で4時間の乾燥処理し,窒素雰囲気中で800℃で8時間の熱処理を行って脱水焼成し,得られた焼成品を整粒して粒径が10mm以下の平均粒径約3mmのペレットを得た。
【0048】
原料のチャー炭は,固定炭素78%,揮発分9%,灰分3%,水分10%のものを使用し,原料の消石灰はJIS R9001の規格品を使用し,水酸化カリウムは一級試薬を使用した。製造されたペレットを分析したところ,この反応剤ペレットは単体状炭素(C)と酸化カルシウム(CaO)が主成分であり,カリウムを加えたものは若干のカリウムを含有している。これらのうち,代表的なものとして次のAとBの二種を選んで,本実施例に使用した。反応剤ペレットAおよびB中のC,Ca,Kの原子比と,これら成分の,全体に対する合計重量%は次のとおりである。
【0049】
【0050】
分解に供する弗化硫黄として6弗化硫黄(NF6)を使用し,図1に示したように,この6弗化硫黄に酸素ガスを添加し,窒素ガスをキャリヤとして前記の反応管に導入した。
そのさい
被処理ガスの流量 :0.17 L/min
被処理ガス中の弗化硫黄濃度:5vol.%
被処理ガスの空塔速度 :146または291Hr-1
被処理ガス中の酸素濃度 :0vol.%または5vol.%
の一定とした。ただし一部の試験では,被処理ガス中にCF4 を混在させた。
【0051】
また,いずれの例でも被処理ガスの導入にさいしては,発熱体への通電を開始し,反応剤の中心部の温度が所定の温度になったことを確かめた上で行なった。反応の間は,反応剤の中心部(反応剤の嵩のうち最も高温となる部位)に挿入した熱電対で計測される温度がその温度に維持されるように管状炉の通電量を制御した。反応のあいだ維持したこの温度のことを反応温度と呼ぶ。
【0052】
反応管から排出される排ガスの一部は図1に示したようにサンプリングしてガス分析器に導き,残部は苛性ソーダ溶液を入れたフッ素吸収ビンを通じたあと系外に排出した。排ガスの分析は,弗化硫黄,その他のフッ素化合物,O2,SO2,CO2,COについて行った。
【0053】
反応剤AまたはBを使用し,反応温度と空塔速度を変えて前記の条件で6弗化硫黄の分解を行った結果を表1に示した。表1におけるSF6の分解率は反応開始30分後の分解率であり,反応開始から30分経過した時点の排ガスサンプルから,排ガス中に残存している弗化硫黄を測定し,被処理ガス中の弗化硫黄に対する排ガス中の弗化硫黄の100分率をもって表したものである。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果から,いずれの試験No.のものも反応温度が300℃以上でSF6
が分解しているが,K入り反応剤Aでは350℃以上で分解率99.7%以上となり,Kなし反応剤Bでは450℃以上で分解率95.3%以上となっており,いずれも100%近い分解が生じていることがわかる。
【0056】
反応温度と副生成物との関係を見ると,この反応条件下ではK入り反応剤Aでは350℃以下でSO2の生成が見られ,Kなし反応剤Bでは450℃以下でSO2の生成が見られるが,CF4 の発生はどの試験例でも見られないことがわかる。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明によると弗化硫黄が比較的低温で且つ簡単な処法で効率的に分解することができ,分解したフッ素も無害物として固定できる。すなわち,本発明の弗化硫黄の分解法は簡易な分解装置で実施でき,処理操作が簡易で,分解効率も高く,しかも, 分解生成物がCaF2等の安定した弗化物となり,後処理が容易である。また反応剤の廉価性の点でも,これまでのものにはない効果を奏し,とくに,半導体製造工程で発生する使用済弗化硫黄の分解に多大の貢献ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明法を実施する装置の一例を示した機器配置系統図である。
【図2】本発明法を実施する被処理ガス導入部の他の例を示した機器配置系統図である。
【図3】本発明法に従い反応剤を反応容器内から加熱する例を示す反応容器部の略断面図である。
【図4】本発明法に従い反応剤を反応容器内から加熱する他の例を示す反応容器部の略断面図である。
【図5】本発明の実施にさいし,反応容器に入る前の被処理ガスと反応容器を出た排ガスを熱交換する例を示す図である。
【符号の説明】
1 反応容器
2 反応剤
3 通気性床
4 加熱炉
5 電気ヒーター
6 加熱炉の炉内雰囲気
7 被処理ガス導入口
8 弗化硫黄源
12 酸素ガス源
13,34,42 窒素ガス源
19 40 被処理ガス導入管路
20 ガス排出口
21 排ガス管路
27 脱硫器
27 酸化器
43,46 通電により発熱する発熱体
Claims (9)
- 単体状炭素とアルカリ土類金属の一種または二種以上を含有する固体状の反応剤に、弗化硫黄を気体状で300℃以上の温度で接触させることからなる弗化硫黄の分解法。
- 該反応剤との接触温度を450℃以上として硫黄酸化物の副生を抑制する請求項1に記載の弗化硫黄の分解法。
- 固体状の反応剤は、さらにアルカリ金属の一種または二種以上を含有する請求項1または2記載の弗化硫黄の分解法。
- 該反応剤との接触温度を350℃以上として硫黄酸化物の副生を抑制する請求項3に記載の弗化硫黄の分解法。
- 単体状炭素およびアルカリ土類金属を含有した固形物からなり、これら元素の含有割合が、アルカリ土類金属を1.0としたときの原子比で、単体状炭素が0.25〜4.0である弗化硫黄の分解用反応剤。
- 単体状炭素、アルカリ土類金属およびアルカリ金属を含有した固形物からなり、これら元素の含有割合が、アルカリ土類金属を1.0としたときの原子比で、単体状炭素が0.25〜4.0、アルカリ金属が0.3以下である弗化硫黄の分解用反応剤。
- アルカリ土類金属はカルシウムまたはマグネシウムであり、該固形物中にその酸化物、水酸化物または炭酸塩の形態で配合される請求項5または6に記載の弗化硫黄の分解用反応剤。
- アルカリ金属はカリウムであり、該固形物中にその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩、硝酸塩または硫酸塩の形態で配合される請求項6または7に記載の弗化硫黄の分解用反応剤。
- 単体状炭素は、チャー炭、活性炭、カーボンブラックまたはコークス粉の形態で配合される請求項5〜8のいずれかに記載の弗化硫黄の分解用反応剤。
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