JP3717550B2 - エマルジョンインキを使用する印刷方法及び印刷装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エマルジョンインキを使用して画像を形成する印刷方法の改良に関し、より詳細には、謄写版、簡易孔版印刷装置、謄写印刷装置、デジタル製版印刷装置など、エマルジョンインキを常用する印刷方法及び印刷装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エマルジョンインキを使用して画像形成させるための版形式は、平版、凹版、凸版、孔版など、様々なものがあるが、特に孔版印刷装置においては、ほとんどがエマルジョンインキを使用している。
【0003】
例えば、謄写版や簡易孔版印刷機、デジタル製版印刷装置などの孔版印刷装置に一般に使用されているエマルジョンインキは、不乾性油や不揮発性油に顔料を均一分布させた油相約10〜50%中に、水相約90〜50%を乳化させたもの、所謂、W/O型(油中水型)エマルジョンである。
【0004】
油相中には、必要に応じて溶剤、樹脂、乳化剤などが含まれ、又、水相中には、必要に応じて湿潤剤、水溶性樹脂、電解質、防腐・防黴剤、酸化防止剤などの水溶性添加物が含有されている。水相は、直径が0.1〜10μm程度の粒子状をしている。
【0005】
ところで、このようなエマルジョンインキを用いる孔版印刷装置では、印刷用紙上に形成されたインキ転移像は通常、そのまま放置され所謂、自然乾燥によって印刷物が得られている。
【0006】
これに対し、他の画像形成プロセスを例にとると、オフセット印刷では、オフセットインキの酸化重合によって『セット』、つぎに、ドライヤー室に搬送され『乾燥』が行われている。また、PPC、所謂電子写真を例にとると、トナーの転写が行われた後にヒートローラによって『定着』が行われている。
【0007】
すなわち、印刷用紙にインキ転移像が形成された直後には、インキ転移像の『乾燥』工程、または『定着』工程、が行われるのが普通であって、これらの工程を経て、はじめて固定画像を得ている。また、それぞれの画像形成プロセスにおいては、インキ転移像の『乾燥』または『定着』の工程を含めて、画像担持体への画像形成の一連のプロセスを構成している。
【0008】
ところが、エマルジョンインキを用いている現在の孔版印刷装置では、上記『乾燥』、『定着』などの工程がないため、不完全な画像形成プロセスとなっている。すなわち、インキ転移像が形成された後は、エマルジョンインキ中の油相成分が印刷用紙中に自然に浸透し、水相成分が自然に大気中に蒸発するという、単なる放置状態におき、自然にまかせて印刷画像を得ている。
【0009】
このため、孔版印刷装置には、連続して印刷される複数枚の印刷用紙がトレイ上に重ねて排出された場合、先に排出された印刷用紙上のインキ転移像を構成するインキの一部が、後から排出された印刷用紙の裏面に付着する所謂、『裏移り』を生じてしまう、との問題がある。
【0010】
また、印刷直後のインキ転移像に触れると、インキによって指や衣服が汚れたり、あるいは、インキ転移像が損なわれたりする問題もある。特に、孔版印刷装置によって形成された『形成直後のインキ転移像』では、印刷用紙表面からのインキの盛り上がりが、他の版形式によるインキ転移像に比べて大きく、また、この盛り上がったインキは容易に流動可能な状態にあるので、上記の問題の発生は顕著なものになっている。
【0011】
それというのも、『自然乾燥』の場合、インキ転移像が形成されてから『裏移り』が生じなくなるまでに、1〜5分程度かかるのに対して、前述のデジタル製版印刷装置においては、40〜130(枚/分)の積載を行うので、積載時間間隔が短く、『自然乾燥』を生じる前に『裏移り』を生じるわけである。また、十分に『自然乾燥』した状態になるまでには、1〜8時間程度の時間を要している。
【0012】
このような問題を解決するために、例えば、インキ転移像が形成された印刷用紙を、放熱源からの熱により非接触で連続的に加熱する方法が知られている(実開昭55−159149号公報参照)。
【0013】
しかし、この公開された技術においても、エマルジョンインキは多量の水分を含んでいるために、上記のような加熱乾燥方法では、乾燥の途中で印刷用紙に『波打ち』を生じたり、あるいは、インキ中の顔料の凝集が発生し、『チョーキング性』の悪い画像になるおそれがある。印刷用紙に波打ちが生じると、排紙トレイ上における不揃いが生じやすく、排紙トレイ上に積載される量も少なくなってしまう。
【0014】
また、上記の乾燥方法では、加熱が連続的に行われるため、印刷用紙の搬送不全によって印刷用紙が加熱部に滞って、所謂『ジャム』の状態になったときには、印刷用紙が発火するおそれもあり、また、加熱源の温度を乾燥可能な状態にまで立ち上げるのに、長い準備期間を要するなどの問題もある。
【0015】
一方、乾燥させる意図ではなく、裏移りを生じさせる余剰のインキを剥ぎ取る試みも行われている。連続的にインキ転移像に『転写紙』を押し当てることで、余剰インキを剥ぎ取る方法(特開平2−16053号公報参照)や、表面張力の低い外周面をもつローラをインキ転移像に接触させて上層のインキを剥ぎ取る方法(特開平1−202487号公報参照)が知られている。
【0016】
しかし、これらの技術においても、印刷用紙の表面に盛り上がっているインキの量は非常に多く、その大半を除去しなければ、裏移りを防止することはできず、インキを取り除かれたことによって自然乾燥後の画像濃度が大きく低下してしまう。また、大量印刷においてコスト低減を目的とする孔版印刷装置においては、インキを剥ぎ取るために大量の『転写紙』などを消費することはデメリットでもある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、エマルジョンインキを使用する印刷方法、印刷装置において、印刷用紙の裏移り防止策に起因して生じる諸問題を解消することのできる印刷方法及び印刷装置を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するため、
(1). エマルジョンインキを使用し、印刷胴に巻装された印刷用紙上にインキ転移像を形成し、その後に、インキ転移像固定部にて前記インキ転移像を前記印刷用紙と実質的剛体面との間で押圧し、エマルジョンインキを破壊させて前記印刷用紙上に固定像を得る印刷装置であって、製版された孔版マスタを自身(印刷ドラム)の外周面に巻装し、自身(印刷ドラム)の内周側からエマルジョンインキを供給して、前記マスタ上にインキ転移像を形成する複数の印刷ドラムを有し、前記各印刷ドラムからインキ転移像が転移される印刷用紙の先端を挟持するとともに、前記印刷ドラムと当接する位置であるインキ転移像の転移位置よりも下流に前記インキ転移像固定部を有しかつ、給紙装置より印刷用紙を受け取り、インキ転移像が形成された該印刷用紙を排紙装置へ搬送する印刷胴を有し、前記複数の印刷ドラムは印刷胴へ選択的に接離可能に構成され、前記インキ転移像固定部は、外周面が実質的剛体面であり回転可能に支持されている回転体と、前記印刷胴と同じ周速度で回転体を回転駆動させる駆動装置と、前記回転体を前記印刷胴へ押圧するように付勢する付勢手段と、を有しているように構成した(請求項1)。
(2).(1)記載の印刷装置において、前記回転体の外周面近傍にエマルジョンインキが破壊した後の残留物を回収する回収装置を設けた(請求項2)。
【0033】
【発明の実施の形態】
(1)印刷の手順及び作用
本例は、参考例である。
本例にかかる印刷の手順及び作用を図1を用いて説明する。本例において、エマルジョンインキによるインキ転移像を形成するための版形式は、平版、凹版、凸版、孔版など、どのような版形式を使用してもよいが、図1には、凹版印刷によるインキ転移像の形成の例を模式的に示している。
【0034】
▲1▼.
図1(a)において、凹版11の凹部11aにエマルジョンインキEが充填されている。この凹版11の下方には、受け部材12が配設されていて、この受け部材12の上面には画像担持体Sが配設されている。図中の矢印は、つぎの工程で、凹版11が画像担持体S上へ向けて押圧されるときの向きを示している。
【0035】
▲2▼.
図1(b)において、凹版11が画像担持体S上へ押圧されている。凹部11aの中にあるエマルジョンインキEは、この押圧によって画像担持体Sの表面に接触する。図中の矢印は、つぎの工程で、凹版11への押圧が解除され、凹版11が上方に移動される向きを示している。
【0036】
▲3▼.
図1(c)において、凹版11が受け部材12から退避され、代わって実質的剛体9が画像担持体Sの上方に位置している。ここで、凹部11aに充填されていたエマルジョンインキEは、画像担持体Sの表面への接触付着と凹版11の退避によって、画像担持体S上へインキ転移像Iとなって転移している。すなわち、画像担持体S上にインキ転移像Iが形成された状態となっている。ここまでが、凹版11によるインキ転移像の形成プロセスであるが、本発明においては、前述のように、版形式によらない。図中の矢印は、つぎの工程で、実質的剛体9がインキ転移像Iおよび画像担持体Sへ向けて押圧される向きを示している。
【0037】
▲4▼.
図1(d)において、実質的剛体9がインキ転移像Iおよび画像担持体S上へ押圧されている。画像担持体S上へ盛り上がっていたインキ転移像Iは、画像担持体Sの厚み方向の内部へ強制的に押し込められている。同時に、実質的剛体9に接触している近傍では、押圧によってエマルジョンインキEに作用する剪断力によって、複数の水相粒子同士が融合し拡大した合一水相となっている。水相粒子の融合が生じるということは、いいかえると、本来のエマルジョンの形態ではなく、水相と油相との分離が生じるということであり、エマルジョンの『破壊』が生じるということである。ここで、実質的剛体とは、エマルジョンインキEが押圧により分解する程度の剛体であれば十分である。図中の矢印は、つぎの工程で、実質的剛体9への押圧が解除され、当該実質的剛体9が上方に移動される向きを示している。
【0038】
▲5▼.
図1(e)において、既に平滑な実質的剛体9が退避されて、画像担持体Sが受け部材12から取り出された状態が示されている。画像担持体S上には固定像Fが形成された状態となっている。このように固定像Fに変成されると、画像担持体Sの表面より上方にエマルジョンインキEがないので、この上に別の画像担持体Sが積載されたとしても、『裏移り』を生じないことを意味する。
【0039】
以上が、凹版印刷によるインキ転移像の形成のあらましであるが、前記▲4▼の工程で、実質的剛体9による画像担持体Sへの押圧は実質的に短時間で行われるので、固定像Fが『自然乾燥』よりも非常に短時間で得られることになる。
【0040】
ところで、固定像Fを形成するエマルジョンインキE中の合一水相は、エマルジョンの形態にあるときの水相粒子よりも油相に覆われる面積が減少しているので、大気中への水分の蒸発が容易に行われ易くなっている。
また、油相は、水相粒子の合一により、油相自身、本来の低粘度を回復し、画像担持体Sの厚み方向へ浸透し易くなっている。つまり、油相自身、水相自身は、本来それぞれは低粘度であるがエマルジョンを形成することで粘度が非常に高くなっている。
【0041】
すなわち、画像担持体Sの上層のエマルジョンインキEが『破壊』することによって、油相が下層へ浸透するので、下層のエマルジョンインキEの油相比率が高くなり、低粘度化するので、さらに浸透速度が加速される。エマルジョンインキEの『破壊』により、水相の蒸発と、油相の浸透が加速されるので、『自然乾燥』によって得られる状態になるまでに要する時間(1〜8時間)は、非常に短縮されることになる。
【0042】
(2)第1の例(参考例)
a.インキ転移像の形成
先ず、インキ転移像の形成を行う。インキ転移像の形成は、図2に示す装置を用いて行う。すなわち、製版された孔版印刷用マスタ30の裏側の面にエマルジョンインキEを保持させた後に支持枠3に取付け、画像担持体Sに対向する表側の面が画像担持体Sに接触するよう支持枠3を倒し、マスタ30を画像担持体Sに押圧し、マスタ30の穿孔部からインキを吐出させて、画像担持体Sにインキ転移像Iを形成するのである。この作業は、特開平4−105984号公報に開示されている技術を利用して行うことができる。
【0043】
つぎに、エマルジョンインキを破壊して固定像を得る。その手段としてインキ転移像固定部を用いる。この例は最も基本的なものである。すなわち、孔版によりインキ転移像を形成し、その後、エマルジョンインキを『破壊』させて固定像を得るのである。
【0044】
b.インキ転移像固定部の概要
図3において、インキ転移像固定部は、回転軸15を中心に回転可能に支持されたカム板14と、押圧板17の上面に固設されている押圧棒16の上下動をガイドするガイド部材20と、押圧板17を定位置に保持する緊縮性の戻しばね21と、押圧板17の下方に設けられたステージ19と、ステージ19の上面に設けられた受け板18と、装置本体であるフレーム22とからなる。
【0045】
c.インキ転移像固定部による像固定手順
図3において、インキ転移像Iが形成された直後の画像担持体Sを、受け板18の上に、インキ転移像Iを上にしてセットする。
つぎに、図示していないスイッチをオンにすると、図示していない駆動機構により、回転軸15を中心にカム板14が反時計まわりの向きに回転し、カム板14の凸部により押圧棒16が押し下げられる。ここで、押圧棒16は押圧板17に固定されていて、かつ、押圧板17はフレーム22から吊り下げられた戻しばね21によって上向きに付勢されているので、カム板14の回転により押圧板17は戻しばね21の力に抗して降下することになる。
【0046】
カム板14が符号14’で示す下死点の位置にくると、押圧板17は符号17’で示す位置まで下降させられて、押圧板17の下面がインキ転移像Iを押圧するようになる。インキ転移像Iは、押圧されたことにより、前述のようにエマルジョンインキが破壊され、画像担持体Sの厚み方向の内部に押し込められ、水相粒子が融合される。その後、カム板14は回転を継続して、押圧板17が上昇した位置で、停止する。すると、前述のように急激な水分の蒸発が生じ、固定像が得られる。
【0047】
(3)第2の例(参考例)
a.印刷装置の概要
本発明に関連するデジタル製版印刷装置について、その概要を説明する。
【0048】
図4に示すデジタル製版印刷装置は、符号400で示すインキ転移像形成部と、このインキ転移像形成部400の略中央に位置する印刷ドラム100、印刷ドラム100の右上方に配設された製版装置500、印刷ドラム100の右下方に配設された給紙装置700、印刷ドラム100の左上方に配設された排版装置600、印刷ドラム100の下方に配設されたプレスローラ32、剥がし爪74、印刷ドラム100の左下方に配設された第1のローラ83と第2のローラ84とのニップ部からなるインキ転移像固定部800、さらに、インキ転移像固定部800の左の位置に配置された吸引搬送装置900、排紙トレイ96、インキ転移像形成部400の上方に配設された原稿読取部200および該原稿読取部200の上方に配設されたオートドキュメントフィーダ(以下、ADFという。)300とを具備する。本例で、吸引搬送装置900と排紙トレイ96とで、排紙装置を構成している。
【0049】
b.オートドキュメントフィーダ(ADF装置)
ADF300は、複数枚が積載されている原稿41を順次、一枚ずつ、積載位置から読取位置へ搬送する。ADF300を使用しないときには、これを持ち上げて、コンタクトガラス48の上に直接、原稿41を置くことができるようになっている。
【0050】
c.原稿読取部
原稿読取部200は、原稿41の画像面からの反射光を折り返して反射する走査ミラー43、走査ミラー43の1/2の速度で移動する光路折り返しミラー対44、結像レンズ45、結像レンズ45を通過した画像の反射光を順次、画像信号に変換するCCD46および原稿41の画像面に光を照射する蛍光灯42を有する原稿走査用光学系47とを具備する。
【0051】
d.印刷ドラム
図4に示す印刷ドラム100の主要部を拡大して示した図5に示すように、印刷ドラム100は、内周面を形成する多孔性で円筒状の多孔性薄板28と、その外周面にインキ保持、拡散し、押圧によりインキを吐出する層としての多孔質弾性体層29とからなり、後述するインキ供給軸103のまわりに回転可能に支持されていて、図示しないモータにより回転される。
【0052】
印刷ドラム100の外周面にはマスタ30をクランプするクランプ手段が設けられている。なお、図4には多孔性薄板28と、この多孔質弾性体層29とを一つの実線で表現している。
【0053】
図5に示すように、印刷用紙31が図の左方向へ進行し、印刷ドラム100から剥離され、インキ転移像Iが連続的に形成される。図5では、インキ転移像が形成された直後の状態を示している。エマルジョンインキEが印刷用紙31へ転移した直後は、印刷用紙31の表面上に盛り高となっているので、前述した『裏移り』などが生じる状態である。すなわち、この状態でのインキ転移像Iの上に、つぎに印刷されて排出されてくる印刷用紙31が重なると、この盛り上がっているエマルジョンインキEがその印刷用紙31の裏に付着するわけである。また、盛り上がっているエマルジョンインキEは、容易に流動可能の状態にあるので、手や衣服に付着しやすいわけである。
【0054】
多孔性薄板28は、図5に示すように、ステンレス製の薄板やニッケル電鋳法によって得られる薄板により円筒状に形成され、上述のクランプ手段とその周辺部とを除く他の部分、すなわち、画像領域に、インキを通過させるために多数の開孔28aが穿孔されている。
【0055】
多孔質弾性体層29は、主に、ステンレス繊維などの金属繊維や、ナイロン、ポリエステル繊維などの化学繊維を織ったスクリーンメッシュを使用するが、他に周知である連続気泡を有するスポンジゴム、フェルト、化学繊維の不織布、金属繊維の不織布、ポリビニルアセタール系または、ポリビニルアルコール系の連続気泡を有する多孔質弾性体、硬質粒子とゴムの混和した連続気泡を有する多孔質弾性体、ポリエチレンなどの合成樹脂や金属または無機物の微粉末を焼結した多孔質弾性体、ポリエチレンなどの合成樹脂や金属または無機物の微粉末を焼結した多孔質弾性体、ポリウレタンなどの液状焼結による多孔質弾性体、などを少なくとも1層、多孔性薄板28の外周面に巻装して形成されている。
【0056】
e.製版装置
図4において、製版装置500は、マスタ30をロール状に巻いたマスタロール50aからマスタ30を繰り出し自在に支持するマスタ支持軸50bと、マスタ30をマスタロール50aから引き出しつつ画像情報に応じて加熱穿孔する、サーマルヘッド52と、プラテンローラ51とから主になる製版手段と、プラテンローラ51の下流側に配置され、マスタ30を所定の長さに切断する回転移動刃と固定刃とを備えたロータリーカッタ53とから主に構成されている。
【0057】
プラテンローラ51は、その回転軸51aをデジタル製版印刷装置の図示しない側板に回転自在に支持されており、同側板に固定された図示しないステッピングモータにより回転駆動される。
【0058】
サーマルヘッド52は、プラテンローラ51の回転軸51aと平行に延在して設けられており、図示しない接離機構によってプラテンローラ51に対してマスタ30を介して接離自在となっている。
【0059】
サーマルヘッド52は、上述の原稿読取部200に設けられたCCD46および図示しない画像処理回路で処理されて送出されるデジタル画像信号に基づき、マスタ30を選択的に加熱溶融し穿孔する周知の機能を有する。
【0060】
回転移動刃は、図示しないモータにより図4の奥行き方向を、固定刃に接しながら移動し、マスタ30を切断することができる。ロータリーカッタ53の下流側には、テンションローラ対54、給版ローラ対55が配置されていて、製版手段で穿孔製版されたマスタ30を印刷ドラム100のクランプ手段へ向けて搬送する。
【0061】
f.印刷部の構成および印刷のプロセス
図5に示すように、マスタ30は、楮、椏、マニラ麻、亜麻、などの天然繊維の多孔性薄葉紙や、レーヨン、ビニロン、ポリエステルなどの化学繊維の不織布、または、天然繊維と化学繊維とを混抄した不織布からなる多孔性支持体30aの表面に、ポリエステル系樹脂などの薄い熱可塑性樹脂からなるマスタフィルム30bを張り合わせた積層構造でできている。
【0062】
また、マスタとして多孔性支持体30aを用いずに、薄い延伸ポリエステルフィルムなどに、必要に応じて帯電防止剤層や、サーマルヘッド52の発熱体とのスティックを防止するスティック防止層などを形成した実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタを使用してもよい。
【0063】
マスタ30をクランプする手段は、印刷ドラム100の外周面の母線に沿って設けられたステージと、このステージに対向する部位に配置され、クランパ軸101により揺動可能に支持されたクランパ102とにより構成されている。
【0064】
印刷ドラム100の内部には、図4、図5に示すように、印刷ドラム100の内周面にインキを供給するインキローラ25と、このインキローラ25と僅かな間隙Gをおいて平行に配置され、インキローラ25との間にインキ溜り26を形成するドクターローラ27と、インキ溜り26へインキを供給するディストリビュータ104と、ディストリビュータ104へインキを供給するインキ供給軸103とが配置されている。
【0065】
インキは、適宜の位置に配置されたインキパックからインキポンプにより圧送され、インキ供給軸103を介してディストリビュータ104へ供給され、ディストリビュータ104によって図の奥行き方向へ分配され、インキ溜り26へ供給される。インキ溜り26に供給されるインキは、その量を図示しないインキ量測定手段により測定され、インキポンプによってインキ圧送量をコントロールされる。図4、図5において、符号Eはエマルジョンインキを示している。
【0066】
インキローラ25は、アルミニウムなどの金属またはゴムなどにより形成され、図示しないギヤ列により、印刷ドラム100とともに時計まわりの向きに回転される。インキローラ25と印刷ドラム100との周速度の比は所定の値に設定されている。
【0067】
ドクターローラ27は、鉄やステンレスなどの金属で形成され、図示しないギヤ列により反時計まわりの向きに回転する。ドクターローラ27と印刷ドラム100との周速度の比も所定の値に設定されている。
【0068】
印刷ドラム100の下方近傍には、給紙装置700から搬送された印刷用紙31を印刷ドラム100の外周面に押圧するプレスローラ32および印刷ドラム100の外周面より印刷用紙31を剥離する剥がし爪74が配置されている。剥がし爪74は、図の奥行き方向の略中央に1個設けられている。
【0069】
剥がし爪74の先端部は、ノズルになっていて、印刷用紙31のマスタ30からの剥離を容易にするために、図示しないポンプから印刷用紙31と同期して空気が高速で吐出され、印刷用紙31の先端部に空気が吹き付けられるようになっている。
【0070】
プレスローラ32は、ゴムまたはゴムに準じた弾性材により構成されていて、アーム対73の一端に回転自在に支持されている。アーム対73は、図示しない揺動手段により、その他端に設けられた軸73aを中心として揺動され、プレスローラ32を印刷用紙31を介して印刷ドラム100に接触した位置と、離間した位置をとるように揺動させる。プレスローラ32は、印刷ドラム100に接触した位置を占めたときには、印刷ドラム100と同一周速度で従動回転する。給紙装置700は、給紙トレイ75、給紙ローラ70、分離ローラ対71a、71b、レジストローラ対72a、72bなどから主に構成されている。
【0071】
給紙トレイ75は、その上に印刷用紙31を積載され、給紙装置本体に上下動自在に支持されている。給紙トレイ75は、印刷用紙31の増減と連動して上下動される。給紙ローラ70と分離ローラ対71a,71bとは、最上位の印刷用紙31と当接するように設けられており、各ローラは図示しない駆動手段により回転駆動されるようになっている。
【0072】
分離ローラ対71a,71bの印刷用紙31の搬送方向下流側には、レジストローラ対72a,72bが配設されている。レジストローラ対72a、72bは、搬送された印刷用紙31の先端をくわえ込み、タイミングをとって印刷ドラム100の外周面とプレスローラ32との間に搬送する。
【0073】
インキ転移像固定部800は、一対のガイド板80a,80b、第1の回転体としての第1のローラ83、第2の回転体としての第2のローラ84、ブレード82、回収タンク81、分離爪85、ばねA、などから主に構成されている。
【0074】
第1のローラ83は、回転軸83aが図示しない駆動手段により回転駆動されることにより、印刷ドラム100の周速度に同じ、あるいは、若干遅い周速度で回転する。また、第1のローラ83の外周面は、アルミニウム、ステンレス、鉄、などの金属、または、これらにクロムメッキしたもの、硬質ゴム、硬質プラスチック、ガラスなどの平滑な実質的剛体からできている。
【0075】
第2のローラ84は、回転軸84aのまわりに回転できるように支持され、かつ、第1のローラ83へ向けて付勢手段としての伸張性のばねAにより付勢されている。ここで、ばねAは、第2のローラ84の回転軸84aの軸長手方向の両端側にそれぞれ設けられていて、第1のローラ83を軸方向について均等に付勢する。この第2のローラ84の外周面は、硬度30〜70度のゴムまたはゴムに準じた弾性材からできている。
【0076】
第1のローラ83の下流側の部位には、印刷用紙31の巻き上がりを防止するための分離爪85が装置本体の図示しない側板に設けられている。また、第1のローラ83の右上には、第1のローラ83の外周面が回転移動する向きに逆らう態位で先端が当接するようにしてブレード82が設けられていて、この第1のローラ83の外周面より残留物を回収する。
【0077】
ブレード82は、硬質のゴム、ポリウレタンなどの硬質の樹脂、または、金属の薄板などからなっている。ブレード82の後端は、印刷装置本体から脱着可能に設けられた回収タンク81に接続されている。
【0078】
印刷ドラム100から分離された印刷用紙31は、プレスローラ32の下流に設けられた一対のガイド板80a,80bの間を進行する。また、印刷用紙31は、送風ファン86’の風力によってガイド板80b側へ抑えられる。印刷用紙31がさらに左へ進行すると、第1のローラ83と第2のローラ84のニップ部へ進入する。
【0079】
画像担持体としての印刷用紙31上に形成されたインキ転移像Iは、第1のローラ83と第2のローラ84のニップ部を通過することにより押圧され、図1(e)で説明したように、エマルジョンインキEが破壊して、固定像Fとして形成される。
【0080】
ところで、第1のローラ83がインキ転移像Iを押圧することにより、エマルジョンインキEは『破壊』され、合一水相や油相が第1のローラ83の外周面に付着するが、微量であるため、回転方向の下流側に当接しているブレード82により掻き取られ、常にきれいな面が印刷用紙31に接触できるようになっている。 ブレード82によって掻き取られた合一水相や油相は、順次、回収タンク81に収納される。印刷済みの印刷用紙31は、分離爪85によって第1のローラ83の外周面より剥離され、下流の吸引搬送装置900へ進行する。
【0081】
g.吸引搬送装置
吸引搬送装置900は、送風ファン86、従動ローラ92、駆動ローラ93、ベルト91、ファン94、ジャンプ台95、などから主に構成されている。
【0082】
従動ローラ92と駆動ローラ93とは吸引搬送装置900の本体の側板に回転自在に支持されており、各ローラ間には、表面に複数の開孔を有するベルト91が掛け渡されている。駆動ローラ93は図示しない駆動手段により回転駆動され、この回転力はベルト91を介して従動ローラ92に伝達される。従動ローラ92と駆動ローラ93との間の下部には、ファン94が配設されている。
【0083】
フアン94は、その回転により、図において下向きの空気流を発生させ、ベルト91の開孔を通して空気を吸引し、ベルト91の上面に印刷用紙31を吸引する。駆動ローラ93の上方近傍には、ジャンプ台95が配設されている。
【0084】
このジャンプ台95は、吸引搬送されてくる印刷用紙31の両脇を該ジャンプ台に乗せることにより、印刷用紙31をその進行方向から見て下に凸にわん曲させ、所謂、『腰付け』が行われる。こうして、腰付けされた印刷用紙31は、ジャンプ台95の下流側に設けられた排紙トレイ96に送り出される。
【0085】
h.排版装置
排版装置600は、上部排版搬送部材65、下部排版搬送部材66、排版ボックス64、圧縮板63などから主に構成されている。上部排版搬送部材65は、図示しない駆動手段により回転駆動される駆動ローラ60aと、従動ローラ61aと、これらローラ間に掛けわたされたゴムベルト62aなどから構成されている。
【0086】
下部排版搬送部材66は、駆動ローラ60aから動力を伝達されて駆動される駆動ローラ60bと従動ローラ61bとこれらローラ間に掛けわたされたゴムベルト62bなどから構成されている。
【0087】
下部排版搬送部材66は、駆動ローラ60aの図示しない中心軸を中心にして回動可能になっている。かかる回動動作により、下部排版搬送部材66は図4中、略左右方向に移動して、駆動ローラ60bが印刷ドラム100に接離可能である。この移動は図示しない移動手段により行われる。
【0088】
このように、下部排版搬送部材66を移動する構成としたのは、印刷中は、クランパ102をかわすために、駆動ローラ60bは印刷ドラム100から離間させておき、排版時には、印刷ドラム100に接した状態にして、反時計まわりの向きに逆転する印刷ドラム100に巻装されているマスタ30の後端部を駆動ローラ60a,60b間にくわえ込み、排版するためである。
【0089】
上部排版搬送部材65、下部排版搬送部材66の下流には、排版ボックス64が配設されている。排版ボックス64の上方には、図示しない昇降手段によって上下動される圧縮板63が配設されている。
【0090】
i.印刷装置の動作
この孔版印刷装置の動作について説明する。
排版動作
先ず、オペレータは、ADF300上に原稿41を載置する。然る後、オペレータが製版スタートボタンを押すと、先ず、排版装置600では、印刷ドラム100に巻装されている前版の使用済みであるマスタ30の排版が行われる。
【0091】
外周面に前版のマスタ30を巻装している印刷ドラム100は、印刷ドラム100の版胴駆動手段により反時計まわりの向きに回転を開始する。そして、印刷ドラム100が、その外周面に巻装した前版のマスタ30の後端が駆動ローラ60bと対向する所定の排版位置に到達すると、図示しない排版部移動手段と、排版部駆動手段とが作動し、駆動ローラ60bを回転させると共に、下部排版搬送部材66を印刷ドラム100側に移動させる。
【0092】
駆動ローラ60bの外周面が印刷ドラム100の外周面上のマスタ30と当接したとき、印刷ドラム100は反時計まわりの向きに回転し続けており、駆動ローラ60bは、マスタ30の後端をすくい上げる。
【0093】
すくい上げられたマスタ30は、下部排版搬送部66と上部排版搬送部材65とで挾持され、印刷ドラム100の外周面より剥離される。剥離されたマスタ30は、下部排版搬送部材66と上部排版搬送部材65とで搬送され、排版ボックス64の内部に廃棄された後、圧縮板63によって圧縮される。
【0094】
印刷ドラム100の外周面より前版のマスタ30が全て剥離されると、印刷ドラム100はさらに回転し、クランパ102が給版ローラ対55の近傍の給版位置で停止する。印刷ドラム100が給版位置に停止すると、図示しない開閉手段が作動してクランパ102を時計まわりの向きに回動させ、給版待機状態となり、排版動作が完了する。排版動作が開始するのと並行して、以下のような製版動作が行われている。
【0095】
製版動作
原稿41は、ADF300により積載位置から読取位置へ搬送され、読取位置にて、原稿41の画像面に蛍光灯42からの光が照射され、その光が原稿41の画像面で反射され、さらに、走査ミラー43、光路折り返しミラー対44で反射された後、結像レンズ45を通り、CCD46に入射して、原稿41の画像の読み取りが行われる。読み取られた画像情報は、CCD46により、光電変換され、その電気信号が図示しない画像処理回路に入力される。原稿読取部200で読み取りを終えた原稿41は、原稿トレイ4上に排出される。
【0096】
一方、原稿41の画像の読み取りと並行して、画像処理回路において処理された後に送出されるデジタル信号に応じて、サーマルヘッド52に設けられた複数の発熱体素子が選択的に発熱するとともに、プラテンローラ51、テンションローラ対54、給版ローラ対55がそれぞれ図示しない駆動手段により回転駆動され、マスタ30の製版が行われる。
【0097】
給版動作
マスタ30は、プラテンローラ51で搬送されつつ、サーマルヘッド52で穿孔製版されてテンションローラ対54、給版ローラ対55によって搬送され、マスタ30の先端部が、給版待機状態で拡開しているクランパ102に向けて送出される。
【0098】
ステッピングモータのステップ数が、所定の設定値に達すると、クランパ102とステージとの間に、製版済みのマスタ30の先端部が届いたと判断され、クランパ102が図示しない開閉手段により閉じた状態にさせられる。このクランプ動作が終了すると、印刷ドラム100が時計まわりの向きに回転し、印刷ドラム100の外周面にマスタ30が巻装されていく。
【0099】
印刷ドラム100の外周面にマスタ30が所定長さ、巻装されると、印刷ドラム100、プラテンローラ51、テンションローラ対54、給版ローラ対55の回転が停止する。この停止動作と同時に、回転移動刃が図示しないモータによって図の奥行き方向を移動し、マスタ30が固定刃との間で切断される。そして、印刷ドラム100が再び時計まわりの向きに回転され、切断されたマスタ30の後端が、製版装置500から引き出され、印刷ドラム100の外周面に製版済みのマスタ30が完全に巻き取られ、給版動作が終了する。
【0100】
給版工程終了後、印刷ドラム100は、版胴駆動手段によって時計まわりの向きに回転駆動され、そして、給紙トレイ75上の印刷用紙31が、給紙ローラ70により給紙され、分離ローラ対71a,71bで一枚ずつに分離されて給送される。
【0101】
その後、印刷用紙31は、ガイド板に案内されて給送され、対をなすレジストローラ72a、72bによりタイミングを取られた後、プレスローラ32と印刷ドラム100の外周面との間に給送される。
【0102】
プレスローラ32は、図示しない駆動手段により揺動されて、印刷ドラム100に巻装されたマスタ30に印刷用紙31を押圧する。このとき、エマルジョンインキEは、インキローラ25とドクタ27との間隙Gで計量され、多孔性薄板28の内周面に供給される。
【0103】
多孔性薄板28の内周面に供給されたエマルジョンインキEは、インキローラ25および多孔性薄板28の内周面にて作用するくさび効果によって、多孔性薄板28の開孔28aを通り、多孔質弾性体層29の内部へ拡散する。ここで、くさび効果とは、弾性流体潤滑理論による効果で、傾斜した2平面の移動によって、2平面の間隙が狭くなることで、間に満たされた流体が押圧され、流体に2平面を支える程の大きな圧力が発生するという効果である。
【0104】
図5において、多孔質弾性体層29へ拡散したインキは、さらに、マスタ30の多孔性支持体30aへ拡散し、マスタフィルム30bの穿孔部30cを通過し、印刷用紙31に転移することにより、インキ転移像Iが形成される。
【0105】
インキ転移像Iが形成された印刷用紙31は、剥がし爪74によって印刷ドラム100の外周面から剥離され、下流に位置するインキ転移像固定部800を通過し、前述のようにインキ転移像Iは固定像Fに変成される。
【0106】
インキ転移像固定部800により固定像が形成された印刷用紙31は、該インキ転移像固定部800の下流に位置するベルト91上を送られ、上面から送風ファン86によって送風され、固定像Fからの水分の蒸発が強制的に促進される。また、ファン94によってベルト91上に吸引されつつ駆動ローラ93の回転によって搬送され、ジャンプ台95によって『腰付け』され、排紙トレイ96上に排出される。この時、製版済みマスタ30は、プレスローラ32の押圧によって印刷ドラム100の外周面に密着されて、版付け工程が完了する。
【0107】
その後、印刷枚数などの印刷条件を設定した後に、印刷開始スイッチを押すことにより、図示しない駆動手段によって印刷ドラム100が回転駆動され、印刷用紙31が連続して給送されて前述のように印刷が行われる。このようにして所望の枚数の印刷が得られると、印刷の全工程が終了する。
以上の動作は、印刷装置の図示しない駆動機構および制御手段により行われる。
【0108】
j.裏移りの低減効果
ここで、発明者等は、図4に示した第2の例の印刷装置同様の実験機により、裏移りの低減効果をみる実験を行った。比較対象としての従来の印刷装置としては、(株)リコー製のプリポートVT3500を使用した。エマルジョンインキとしては、特開平6−49401号公報に開示された例6のインキを使用した。
【0109】
第1のローラ83としては、材質がステンレスのものを使用し、外周面の平滑度の異なるものを5種類用意した。平滑度の測定は表面粗さをもって行い、JIS B 0601の十点平均粗さμmRzにより表現した。第2のローラ84としては、材質がゴムまたはゴムに準じた弾性材を使用し、ゴムの硬度は40度(JIS A)のものを使用した。
【0110】
ベタのある画像を製版し、印刷速度80枚/分で印刷した。排紙された印刷物の裏移り状態を目視により従来の印刷装置と比較した結果が表1である。
【0111】
【表1】
【0112】
表1において、押圧力欄の各数値は、第1のローラと第2のローラ間の押圧力を示し、第1のローラと第2のローラのニップ部分の平均値であり、単位はKgf/cm2である。また、表面粗さ欄の各数値は、JIS B 0601の十点平均粗さμmRz値を示す。表1から、表面粗さ3μmRz以下であれば、押圧力に拘らず、裏移りが改善されたことが分かる。
【0113】
また、同時に定着率の測定も行った。その結果を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2において、押圧力、表面粗さの各数値の意味は、表1におけると同じであり、これら各押圧力と表面粗さに応じて定着率の値を示している。この定着率は、画像濃度IDと、クロックメータ(ATLAS ERECTRIC DEYICES CO.)に消しゴムを取付け、10回擦った後の残りの画像濃度ID’とから次の式により求めた値である。
【0116】
定着率=ID’/ID
これら印刷物のベタ部の画像濃度IDおよびID’は反射式光学濃度計(マクベス社製)により測定し、これを上式で計算して求めた。表2中の数値は印刷物10枚の平均値である。
【0117】
従来の印刷装置の定着率は0.73であることより、平滑度が小さくなるほど、すなわち、平滑性がよい程、また、押圧力が大きくなるほど、定着率が向上することがわかる。
【0118】
これは、クロックメータをかけた後でも、従来より画像濃度ID’が低下していないことを意味しており、エマルジョンインキEは油相中に画像濃度を出す顔料を含んでいるため、押圧により画像担持体Sの表層以下の部分にも十分にエマルジョンインキEの油相が回り込んだためと思われる。
【0119】
(4)第3の例(参考例)
a.印刷装置の概要
今までは、画像担持体S上にインキ転移像Iを形成した後に、実質的剛体面により押圧する印刷方法の例を説明したが、つぎに、実質的剛体面上にインキ転移像Iを形成し、これを画像担持体Sとの間で押圧する印刷方法を適用した印刷装置の例を図6とともに説明する。
【0120】
図6で示す印刷装置は、インキ転移像Iの形成を前述の第2の例と同じ方法で行っている。よって、インキ転移像形成部、印刷ドラム100、製版装置500、給紙装置700、排版装置600、吸引搬送装置900、原稿読取部200、オートドキュメントフィーダ300は前記第2の例と同様の構成となっているので、詳細な説明は省略する。但し、マスタ30への製版、すなわち、穿孔の書き込みは、前記第2の例に対して鏡像となっている。また、印刷用紙31の進行方向は逆で、左から右へ進行するようになっている。
【0121】
印刷ドラム100の左下方には、第1の回転体としてのインキ転移胴803が回転軸803aを中心に図示しない駆動手段によって回転可能かつ、印刷ドラム100へ向けて選択的に押圧可能に配設されている。
【0122】
インキ転移胴803の右下方には、第2の回転体としての押圧胴804が回転軸804aを中心に図示しない駆動手段によって回転可能かつ、インキ転移胴803へ向けて選択的に押圧可能に配設されている。
【0123】
印刷ドラム100、インキ転移胴803、押圧胴804は、略同じ直径であり、マスタ30が巻装および排版されるときは選択的に印刷ドラム100だけが回転するが、印刷動作時には図示されていない駆動手段によって三者とも同じ周速度で回転されるようになっている。
【0124】
インキ転移胴803の外周面は、アルミニウム、ステンレス、鉄などの金属、または、それにクロムメッキしたもの、硬質ゴム、硬質プラスチック、ガラスなどの平滑な実質的剛体面からできている。
【0125】
また、第1の回転体としてのインキ転移胴803の外周面の一部は図6に示すように切り欠かかれており、印刷ドラム100と同期して回転する際に印刷ドラム100のクランパ102が、インキ転移胴803の外周面と干渉しないようになっている。
【0126】
インキ転移胴803の右にはブレード82が、インキ転移胴803の回転に逆らって先端が当接するように配設されていて、インキ転移胴803の外周面から離間した位置と、外周面に当接する位置とに選択的に移動することのできる機構(図9により後述)が設けられている。
【0127】
ブレード82は、硬質ゴム、ポリウレタンなどの硬質の樹脂または金属の薄板などからなっている。ブレード82の後端には、印刷装置本体から脱着可能に設けられた回収タンク81が接続されている。
【0128】
押圧胴804の外周面は、硬度30〜70度(JIS A)のゴムまたはゴムに準じた弾性材によりできている。また、また、外周面の一部は図のように切り欠かれており、シートクランパ805が設けられている。シートクランパ805は、給紙装置700から送られてくる印刷用紙31の先端を挾持し、吸引搬送装置900の手前で印刷用紙31の先端を解放する。
【0129】
b.印刷動作
印刷スタートボタンが押されると、印刷ドラム100、インキ転移胴803、押圧胴804が同位相で回転を始める。同時に、インキ転移胴803は離間していた位置から移動し、印刷ドラム100を押圧する。
【0130】
すると、前述の第2の例で述べたように、印刷ドラム100の内側よりエマルジョンインキEが供給され、図5に示したように、印刷ドラム100の外周面に巻装されたマスタ30のマスタフィルム30bの穿孔部30cからエマルジョンインキEが吐出し、前記図5による例では、印刷用紙31(画像担持体S)へ形成されたインキ転移像Iの状態を示していたが、本例では、図5の例とは異なり図6に示すようにインキ転移胴803の外周面にインキ転移像Iが形成される。
【0131】
図6に示すように、インキ転移胴803は、反時計まわりの向きに回転し、インキ転移像Iは、インキ転移胴803と押圧胴804のニップ部より構成されるインキ転移像固定部800へ向かう。一方、押圧胴804も同時に、図の時計まわりの向きに回転し、かつ、離間していた位置からインキ転移胴803へ向け付勢される。この付勢力は、回転軸804aの両端に設けられた付勢手段としての緊縮性のばねBによって与えられる。
【0132】
押圧胴804は、その回転中に給紙装置700から所定のタイミングで送出されてくる印刷用紙31の出口近傍で、シートクランパ805の開動作を行い、印刷用紙31の先端を受け入れ、つぎに、シートクランパ805を閉じて印刷用紙31をインキ転移胴803と押圧胴804のニップ部へ搬送する。
【0133】
つぎに、インキ転移胴803上のインキ転移像Iは、インキ転移胴803と押圧胴804のニップ部で印刷用紙31に押圧される。この押圧によって、インキ転移像Iは、印刷用紙31の厚み方向の内部へ押し込められ、かつ、前述のように、エマルジョンインキE中の水相粒子が合一し、油相と分離することによりインキ転移像Iは印刷用紙31上で固定像Fに変成される。
【0134】
前記ニップ部によるインキ転移像固定部800を通過した印刷用紙31はさらに搬送され、該インキ転移像固定部800の下流に配置された送風ファン86によって上面から風力が加えられる。この送風ファン86は、印刷用紙31の押圧胴804からの浮き上がり防止と、水分の蒸発の強制的促進のために設けられている。
【0135】
さらに、押圧胴804が回転すると、分離爪806の直前で、シートクランパ805が解放され、印刷用紙31の先端を解放する。印刷用紙31は分離爪806によって押圧胴804から剥離され、方向を変えられ、吸引搬送装置900によって搬送され、排紙トレイ96上に排出される。以上の動作を繰り返すことにより、連続印刷される。
【0136】
ところで、インキ転移胴803の外周面のインキ転移像Iは、その殆どが印刷用紙31へ移されているものの、エマルジョンインキEが分離した微量の合一水相や油相が外周面に取り残されている。
【0137】
インキ転移胴803と印刷ドラム100は同位相で回転しているので、インキ転移胴803が、さらに回転し、印刷ドラム100と接触するときは、前回と同じ外周上の位置にインキ転移像Iが形成されることになる。
【0138】
よって、インキ転移胴803の外周面上に微量の合一水相や油相が取り残されていても、その上に新たにインキ転移像Iが形成されるので、連続印刷においては、なんら問題にならない。
【0139】
しかし、つぎに、別の画像を印刷する場合には、マスタ30を製版し、印刷ドラム100へ巻装し直すので、インキ転移胴803の外周上に残留しているインキ転移像Iの跡である合一水相や油相のある場所とは別の場所へ新規のインキ転移像I’(図示せず)が形成されるのが普通である。すると、つぎの印刷が開始された場合、本来のインキ転移像I’の他に、濃度の薄いインキ転移像Iが印刷用紙31に転写されるという不具合を生じる。
【0140】
よって、印刷終了後、または、別の画像を印刷する直前に、ブレード82を当接させ、インキ転移胴803の外周面から余分な合一水相や油相を除去するのが望ましい。もちろん、ブレード82は常時、当接させておいてもかまわない。
【0141】
ブレード82によって掻き取られた合一水相や油相は、順次、回収タンク81に収納される。この収納されたものは、エマルジョンインキとして再使用は困難であるので、廃棄される。以上の動作は、印刷装置の図示しない駆動機構および制御手段により行われる。
【0142】
また、上記例では、押圧胴804を使用して、印刷用紙31の搬送と、インキ転移胴803への付勢を行っているが、前記第2の例と同様に、該インキ転移胴803に代えてプレスローラ32を用いる構成にしても本発明の原理を損なわないので、そのように構成することもできる。
【0143】
(5)第4の例
本例は、請求項1、2に対応する。
a.印刷装置の概要
特開平4−329175号公報には多色刷り印刷装置の例が開示されている。本例は、この開示された印刷装置を使用して実施する場合について説明する。図7に示す印刷装置は、インキ転移像Iの形成を前述の第2の例(図4参照)と同じ方法で行っている。インキ転移像Iの形成に関するインキ転移像形成部400、製版装置500、給紙装置700、排版装置600A,600B、吸引搬送装置900、原稿読取部200、オートドキュメントフィーダ300などについては、その構成が図4において説明した内容あるいは特開平4−329175号公報に開示された内容に準じているので、詳細な説明を省略する。
【0144】
図7に示す印刷装置には、前述の第2の例における印刷ドラム100と同じ構成の第1の印刷ドラム100Aと、第2の印刷ドラム100Bとの、2つが、シートクランパ805を備えた印刷胴810の外周面に選択的に接離可能に配設されていて、印刷用紙31の1回の搬送に対して同時に、2種類の画像または2色の印刷ができるようになっている。
【0145】
例えば、第1の印刷ドラム100Aに赤のエマルジョンインキが供給され、第2の印刷ドラム100Bには黒のエマルジョンインキが供給され、かつ、第2の印刷ドラム100Bには第1の印刷ドラム100Aとは異なる画像のマスタが巻装されていると、1枚の印刷用紙に黒と赤の異なった画像の印刷が同時にできるということである。
【0146】
印刷胴810は、回転軸810aを中心に図示しない駆動機構によって回転可能となっている。印刷胴810の外周面は硬度30〜70度(JIS A)のゴムまたはゴムに準じた弾性材が巻装されていて、一部は図7に示すように、切欠きが設けられ、第1の印刷ドラム100Aおよび第2の印刷ドラム100Bと同期して回転する際に、第1、第2の印刷ドラム100A,100Bのクランパ102A,102Bが干渉しないようにしている。さらに、切欠きの端部に、シートクランパ805が設けられている。
【0147】
印刷胴810の右方には第1の印刷ドラム100Aが、印刷胴810に対して選択的に接離可能にかつ、回転可能に配設されている。この第1の印刷ドラム100Aの構造については、前述の第2の例での図4に示した印刷ドラム100と同様であるので、説明を省略する。
【0148】
印刷胴810の上部には第2の印刷ドラム100Bが、印刷胴810に対して選択的に接離可能かつ、回転可能に配設されている。この第2の印刷ドラム100Bの構造についても、前述の第2の例での図4に示した印刷ドラム100と同様であるので、説明を省略する。
【0149】
印刷胴810と、第1の印刷ドラム100Aと第2の印刷ドラム100Bとは、直径が略同じであり、印刷動作中は、図示しない駆動機構によって、同位相で回転できるようになっている。
【0150】
第1の印刷ドラム100Aと第2の印刷ドラム100Bの間には、回転体としての第1のセットローラ83Aが印刷胴810に対向して設けられている。この第1のセットローラ83Aは、図示しないが、印刷胴810の外周面に向けて選択的に押圧できるように、かつ、印刷胴810と同じ周速度で回転できるようになっている。
【0151】
第1のセットローラ83A上であって、該第1のセットローラ83Aと印刷胴810とのニップ部よりなるインキ転移像固定部よりも該第1のセットローラ83Aの回転方向下流位置には、分離爪85Aが、その先端を第1のセットローラ83Aの外周面に当接するように設けられている。
【0152】
さらに下流位置には、ブレード82Aがその一端を回転体としての第1のセットローラ83Aの外周面の回転方向に逆らって当接するように設けられている。ブレード82Aの他端は、回収タンク81Aに接続されている。これらブレード82A,回収タンク81Aによる回収装置により、エマルジョンインキが破壊した後の残留物が回収される。
【0153】
第2の印刷ドラム100Bと印刷胴810との当接部より下流位置には、回転体としての第2のセットローラ83Bが印刷胴810に対向して設けられている。第2のセットローラ83Bも第1のセットローラ83Aと同様に印刷胴810の外周面に向けて選択的に押圧できるように、かつ、印刷胴810と同じ周速度で回転できるようになっている。
【0154】
また、第2のセットローラ83Bの外周には、前記第1のセットローラ83Aにおけると同じように、分離爪85B、ブレード82B、回収タンク81Bも同様に配設されている。これらブレード82B,回収タンク81Bによる回収装置により、エマルジョンインキが破壊した後の残留物が回収される。
【0155】
第1のセットローラ83Aについては軸の両端側に設けた伸張性のばねCにより、第2のセットローラ83Bについても軸の両端側に設けた伸張性のばねDにより、それぞれ印刷胴810に押圧されるようになっている。
【0156】
第1のセットローラ83A、第2のセットローラ83Bの外周面はともに、第2の例と同様に、アルミニウム、ステンレス、鉄、などの金属、または、これらにクロムメッキしたもの、硬質ゴム、硬質プラスチック、ガラスなどの平滑な実質的剛体からできている。
【0157】
b.印刷方法
印刷スタートボタンが押されると、印刷胴810、第1の印刷ドラム100A、第2の印刷ドラム100Bが同期して回転を開始する。このとき、第1の印刷ドラム100A、第2の印刷ドラム100Bはまだ、印刷胴810から離間した位置にいる。
【0158】
印刷用紙31が給紙装置700から送られると、印刷胴810は所定のタイミングでシートクランパ805を開き、印刷用紙31の先端を挾持する。印刷用紙31が給紙装置700から送られると、印刷胴810は所定のタイミングでシートクランパ805を開き、印刷用紙31の先端を挾持する。
【0159】
印刷用紙31が印刷胴810の回転方向へ搬送され、第1の印刷ドラム100Aとのニップ部に近づくと、第1の印刷ドラム100Aが印刷胴810へ向けて図示しない駆動機構により当接させられ、印刷用紙31上に赤のインキ転移像I(R)を形成する。
【0160】
つぎに、上記赤のインキ転移像I(R)は順次、ばねCの作用による第1のセットローラ83Aの印刷胴810に向けての移動により印刷胴810に向けて押圧され、赤の固定像(図示せず)に変成される。さらに、印刷用紙31が進行し、第2の印刷ドラム100Bのニップ部に近づくと、第2の印刷ドラム100Bが印刷胴810へ向けて図示しない駆動機構により当接され、印刷用紙31上に黒のインキ転移像I(B)を形成する。このとき、赤のインキ転移像I(R)は赤の固定像に変成されているので、第2の印刷ドラム100Bに巻装されているマスタに転写することはない。
【0161】
つぎに、黒のインキ転移像I(B)は順次、ばねDの作用による第2のセットローラ83Bの印刷胴810に向けての移動により印刷胴810に向けて押圧され、黒の固定像(図示せず)に変成される。
【0162】
印刷用紙31の先端が分離爪806に近づくと、印刷用紙31の先端はシートクランパ805が開動作することで解放され、分離爪806によって向きを変えられ、吸引搬送装置900に受け渡され、排紙トレイ96へ排出される。このとき、送風ファン86によって上面から風力が加えられる。この送風ファン86は、印刷用紙31の印刷胴810からの浮き上がり防止と、赤と黒の固定像からの水分の蒸発の強制的促進のために設けられている。
以上のようにして、順次、連続印刷が行われる。また、以上の動作は、印刷装置の図示しない駆動機構、および、制御手段により行われる。
【0163】
(6)第5の例(参考例)
a.印刷装置の概要
前述の第3の例では、実質的剛体面であるインキ転移胴803の外周面上にインキ転移像Iを形成したが、本例では、無端ベルトであるインキ転移ベルト上にインキ転移像Iを形成し、これを画像担持体Sとの間で押圧する印刷方法を適用した印刷装置の例を図8とともに説明する。
【0164】
図8に示す印刷装置は、インキ転移像Iの形成を前述の第2の例(図4参照)と同様の方法で行っている。よって、インキ転移像形成部400、印刷ドラム100、製版装置500、給紙装置700、排版装置600、吸引搬送装置900、原稿読取部200、オートドキュメントフィーダ300は同様の構成となっているので、詳細な説明は省略する。
【0165】
印刷ドラム100の下方には、実質的剛体面を形成する無端ベルトからなるインキ転移ベルト820が第1のベルトローラとしての駆動ローラ822と第2のベルトローラとしての従動ローラ821との間に掛け渡されている。インキ転移ベルト820は、PETシート、ポリイミドシートなどのプラスチックシートからできている。なお、第2のベルトローラとしての従動ローラ821に代えて、駆動源により駆動される駆動ローラを設けることもできる。
【0166】
インキ転移ベルト820の周囲長さは、印刷ドラム100の円周長と同じであるので、印刷ドラム100とインキ転移ベルト820とが当接して回転するときには、常に同じ位置が当接されるようになっている。
【0167】
駆動ローラ822は、硬質ゴム、ポリウレタンなどの硬質プラスチック、金属などからできている。インキ転移ベルト820の線速度は、駆動ローラ822の回転により印刷ドラム100の回転周速度と同じになるようになっている。
【0168】
また、従動ローラ821と駆動ローラ822とは図示しない連結手段により連結されていて、従動ローラ821は、前記連結手段を介して駆動ローラの回転軸822aを中心に揺動可能に支持されている。
【0169】
この従動ローラ821には、その軸821dを印刷ドラム100に向けて引く付勢手段としての緊縮性のばねKと、このばねKの弾性に抗して従動ローラ821を印刷ドラム100から離間させる向きに引くソレノイドSOLが付帯されていて、該ソレノイドSOLの操作により、従動ローラ821を印刷ドラム100の外周面に対して選択的に付勢することができる。
【0170】
これら、ばねK,ソレノイドSOLは、従動ローラ821をインキ転移ベルト820を介して印刷ドラム100へ押圧し、或いは、押圧を解除する付勢手段を構成する。よって、この付勢手段により、印刷ドラム100の外周面上に設けられたクランパ102との干渉を防止することができる。
【0171】
駆動ローラ822の下方にはプレスローラ32が設けられており、図示しない駆動機構によって、印刷用紙31を介してインキ転移ベルト820の外周面に選択的に押圧可能となっている。
【0172】
駆動ローラ822の左方には分離爪85とブレード82と回収タンク81が設けられている。これらは、前述の図4に即して説明した内容と同じであるので、説明を省略する。
【0173】
b.印刷動作
印刷スタートボタンが押されると、印刷ドラム100とインキ転移ベルト820とは、これらの各周面が同じ向きに同じ速度で移動するように、印刷ドラム100については反時計まわりの向きに、インキ転移ベルト820については時計回りの向きにそれぞれ回転を開始する。
【0174】
このとき、従動ローラ821は、ソレノイドSOLがオンにされることにより、印刷ドラム100から離間しているが、印刷ドラム100のクランパ102が従動ローラ821の部位を通り過ぎると、ソレノイドSOLがオフになり、ばねKの弾性で印刷ドラム100を押圧するようになる。
【0175】
すると、前述したように、印刷ドラム100の内側よりエマルジョンインキEが供給され、前述の図5における例のように、マスタフィルム30bの穿孔部30cからエマルジョンインキEが吐出し、インキ転移ベルト820の外周面にインキ転移像Iが形成される。
【0176】
インキ転移ベルト820がさらに回転し、インキ転移像Iがプレスローラ32による押圧位置近傍にくると、所定のタイミングによって印刷装置31が給紙装置700より送出されてくる。
【0177】
つぎに、プレスローラ32は離間していた位置より移動し、駆動ローラ822との間で、印刷用紙31を介してインキ転移ベルト820上のインキ転移像Iを押圧する。この押圧は緊縮性のばねJの弾性力により行われる。すなわち、駆動ローラ822が実質的剛体であり、インキ転移ベルト820が平面を構成しているので、プレスローラ32がインキ転移ベルト820へ押圧された時点でのインキ転移ベルト820の外周面は、実質的剛体面とみなすことができるので、本発明の印刷方法が実施できるわけである。
【0178】
本例におけるベルト回収面の平滑の度合いも、前述の表1で説明した内容に準じ、表面粗さ3μmRzにおいて裏移り防止の効果が顕著であった。
【0179】
この押圧によって、インキ転移像Iは印刷用紙31の厚み方向の内部へ押し込められ、かつ、前述のように、エマルジョンインキEの水相粒子が合一し、油相と分離することにより、インキ転移像Iは印刷用紙31上で固定像F(図示せず)に変成される。
【0180】
インキ転移ベルト820とプレスローラ32の押圧部を通過した印刷用紙31は、さらに、搬送され、上面から送風ファン86によって風力が加えられる。この送風ファン86は、印刷用紙31上の吸引搬送装置900からの浮き上がり防止と、固定像F(図示せず)からの水分の蒸発の強制的促進のために設けられている。
【0181】
印刷用紙31は分離爪85によってインキ転移ベルト820から剥離され、方向を変えられ、吸引搬送装置900によって搬送され、排紙トレイ96上へ排出される。以上の動作を繰り返すことにより、連続印刷される。
【0182】
ところで、インキ転移ベルト820の外周面のインキ転移像Iは、そのほとんどが印刷用紙31へ移されているものの、エマルジョンインキEが『破壊』した微量の合一水相や油相が外周面に取り残されている。
【0183】
インキ転移ベルト820と印刷ドラム100は同位相で回転しているので、インキ転移ベルト820がさらに回転し、印刷ドラム100と接触するときは、前回と同じ外周面上の位置にインキ転移像Iが形成されることになる。
【0184】
よって、インキ転移ベルト820の外周面上に微量の合一水相が取り残されていても、その上に新たにインキ転移像Iが形成されるので、連続印刷においては、なんら問題にはならない。
【0185】
しかし、別の画像を印刷する場合には、マスタ30を製版し印刷ドラム100へ巻装し直すので、インキ転移ベルト820の外周面上に残留しているインキ転移像Iの跡である合一水相や油相のある場所とは別の場所へ新規のインキ転移像I’(図示せず)が形成されるのが普通である。
【0186】
すると、つぎの印刷が開始された場合、本来のインキ転移像I’の他に、濃度の薄いインキ転移像Iが印刷用紙31に転写されるという不具合が生じる。よって、印刷終了後、または、別の画像を印刷する直前に、ブレード82を当接させ、インキ転移ベルト820の外周面からの余分な合一水相や油相を除去するのが望ましい。勿論、常時当接させておいてもかまわない。
【0187】
また、逆に、常時ブレード82を当接させ、常にクリーニングさせることにより、インキ転移ベルト820の周囲長を印刷ドラム100の外周長よりも短く設定し、印刷装置をコンパクトにすることも可能である。
【0188】
ブレード82によって掻き取られた合一水相や油相は、順次、回収タンク81に収納され、エマルジョンインキとして再使用は困難であるので、廃棄される。以上の動作は、印刷装置の図示しない駆動機構および制御手段により行われる。
【0189】
これまで述べた第1から第5の例の説明の中で、画像担持体Sとしては、印刷用紙を例にしてきたが、本発明の印刷方法の主旨により、水相および油相が浸透できるものであればよい。また、図示しない駆動機構および制御手段および画像担持体Sと実質的剛体面との押圧手段などは周知の方式で行われてもよい。
【0190】
(7)回収装置の例
a.第1の例
以上説明した各実施例中で使用される回収装置の例を説明する。図9において、ブレード82は、前述の各例における第1のローラ83(図4参照)、第1のセットローラ83A(図7参照)、第2のセットローラ83B(図7参照),インキ転移胴803(図6参照)、インキ転移ベルト820(図8参照)にそれぞれ当接されているものであるが、向きがそれぞれ異なる。ここでは、第1のローラ83に当接されている状態を例に説明する。
【0191】
第1のローラ83の外周面に付着したエマルジョンインキの破壊後の微量の残留物は、ブレード82の先端部で掻き取られ、ブレード82の上面を通り、回収タンク81に収納される。
【0192】
また、ブレード82は、前述の第3、第5の例で説明したように、新しく製版されたマスタを巻装するときのみ残留物の回収を行うよう構成した装置の場合には、印刷中は回転軸87を中心として第1のローラ83から離間した位置つまり図9に一点鎖線で示す位置に待機しており、回収を行うときのみ第1のローラ83当接した位置、つまり図9に実線で示す位置に移動して残留物の回収を行う。ブレード機構82の移動機構およびその制御は図示しない周知の方法で行われる。
【0193】
b.第2の例
本例の回収装置は、第1のローラ83に当接する第1の掻き取りローラ88、第2の掻き取りローラ89、ブレード82、回収タンク81とからなる。第1の掻き取りローラ88は、回転軸88aのまわりに回転可能かつ、第2の掻き取りローラ89の回転軸89aを中心として、揺動可能となっている。
【0194】
第2の掻き取りローラ89は、所定の圧力で第1の掻き取りローラ88へ接触している。また、ブレード82も、所定の圧力で第2の掻き取りローラ89に当接している。ブレード82の下流には、回収タンク81が設けられている。
【0195】
第1の掻き取りローラ88は前述の第3、第5の例で説明したように、新しく製版されたマスタを巻装するときのみ、残留物の回収を行うように構成した装置の場合、印刷中は回転軸89aを中心として離間した位置つまり図10に一点鎖線で示す位置に保持されて待機しており、回収を行うときのみ、当接した位置つまり、図10に実線で示す位置に移動して残留物の回収を行う。
【0196】
第1のローラ83の外周面上の残留物は、同方向にかつ、第1のローラ83よりも速い周速で回転する第1の掻き取りローラ88に掻き取られる。この第1の掻き取りローラ88の外周面上の残留物は、同方向にかつ、第1の掻き取りローラ88よりも速い周速度で回転する第2の掻き取りローラ89によって掻き取られる。
【0197】
第2の掻き取りローラ89の外周面上の残留物は、ブレード82によって掻き取られ、ブレード82の上面を通って回収タンク81へ収納される。第1の掻き取りローラの回転機構および移動機構、第2の掻き取りローラの回転機構およびその制御は図示しない周知の方式で行われる。
【0198】
【発明の効果】
請求項1記載の発明では、従来の多色刷り印刷装置で発生していた不具合を解消することができる。従来例えば、初めに赤の印刷ドラムで印刷用紙に印刷された赤のインキが、つぎの黒の印刷ドラムのマスタに付着し、そのインキがつぎの回転で、つぎに印刷されてくる赤の印刷画像に重なると、次第に画像がダブってくるという不具合があったがこのような不具合を解消できる。
請求項2記載の発明では、エマルジョンインキが破壊した後の残留物による印刷用紙の画像面への汚れを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 エマルジョンインキを使用した印刷の手順を説明した図である。
【図2】インキ転移像の形成を行う装置例を説明した外観斜視図である。
【図3】インキ転移像を破壊し、固定像を得る装置例を説明した正面図である。
【図4】 参考例としての印刷装置を例示した概略構成図である。
【図5】インキ転移像形成直後における印刷ドラムとプレスローラとの圧接部における状態を拡大して説明した図である。
【図6】 参考例としての印刷装置を例示した概略構成図である。
【図7】本発明を実施するための印刷装置を例示した概略構成図である。
【図8】 印刷装置を例示した概略構成図である。
【図9】回収装置の例を説明した要部正面図である。
【図10】回収装置の他の例を説明した要部正面図である。
【符号の説明】
100A 第1の印刷ドラム
100B 第2の印刷ドラム
810 印刷胴
Claims (2)
- エマルジョンインキを使用し、印刷胴に巻装された印刷用紙上にインキ転移像を形成し、その後に、インキ転移像固定部にて前記インキ転移像を前記印刷用紙と実質的剛体面との間で押圧し、エマルジョンインキを破壊させて前記印刷用紙上に固定像を得る印刷装置であって、
製版された孔版マスタを自身(印刷ドラム)の外周面に巻装し、自身(印刷ドラム)の内周側からエマルジョンインキを供給して、前記マスタ上にインキ転移像を形成する複数の印刷ドラムを有し、
前記各印刷ドラムからインキ転移像が転移される印刷用紙の先端を挟持するとともに、前記印刷ドラムと当接する位置であるインキ転移像の転移位置よりも下流に前記インキ転移像固定部を有しかつ、給紙装置より印刷用紙を受け取り、インキ転移像が形成された該印刷用紙を排紙装置へ搬送する印刷胴を有し、
前記複数の印刷ドラムは印刷胴へ選択的に接離可能に構成され、
前記インキ転移像固定部は、外周面が実質的剛体面であり回転可能に支持されている回転体と、前記印刷胴と同じ周速度で回転体を回転駆動させる駆動装置と、
前記回転体を前記印刷胴へ押圧するように付勢する付勢手段と、を有しているように構成されたことを特徴とする印刷装置。 - 請求項1記載の印刷装置において、前記回転体の外周面近傍にエマルジョンインキが破壊した後の残留物を回収する回収装置を設けたことを特徴とする印刷装置。
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