JP3714595B2 - 芳香族ポリカーボネートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造方法に関し、特に、色相、熱安定性、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネートを提供するものである。
【0002】
【従来技術】
近年、芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性等に優れたエンジニアリングプラスチックスとして、多くの分野において幅広く用いられている。この芳香族ポリカーボネートの製造方法については、従来、種々の研究が行われ、その中で、芳香族ジヒドロキシ化合物、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという。)とホスゲンとの界面重縮合法が工業化されている。
また、炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物を重縮合させてポリカ−ボネ−トを製造する、いわゆるエステル交換法は、上記界面重縮合法に比べて、工程が比較的単純であり、操作、コスト面で優位性が発揮できるだけでなく、毒性の強いホスゲンや、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤を使用しないという点において、環境保全の面からも優れているといった利点があり、将来有望であると考えられる。
しかし、エステル交換法には、界面重縮合法に比べて高温で重合するため、製品の芳香族ポリカーボネートが着色し易いという問題がある。着色する原因は、種々考えられるが、反応器材質中のFe元素や系外からのFe元素の混入がその一因である。
【0003】
この問題を解決するために、例えば、米国特許第4383092号においては、反応混合物と接触する部分を、Ta、Cr、Ni等の非鉄系、非ステンレス系の特殊な材質の反応装置とすることにより、生成ポリマーの着色を抑制する方法が提案されている。しかし、これらの金属は高価であり、加工も簡単ではないという欠点を有している。特開平4−72327号では、反応混合物と接触する部分の材質としてCu及び/又はNiの含有量が85%以上の金属材料を使用する方法が提案されているが、やはり高価な装置となる欠点を有している。
その他にも、反応装置の材質として使用する金属として、Ni及び/又はAlの含有量が60%以上のもの(特開平5−125168号)、Ni及び/又はMoの含有量が60%以上のもの(特開平5−125169号)、Ni及び/又はCの含有量が60%以上のもの(特開平5−125170号)、Ni及び/又はCrの含有量が60%以上のもの(特開平5−125172号)、Cu及び/又はAlの含有量が60%以上のもの(特開平5−125173号)等も提案されている。しかしながら、上記提案は、いずれも、反応装置外部からのFeの混入防止対策については触れていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換法によって芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、外部からのFeの混入が少なく、色相に優れた芳香族ポリカーボネートを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、外部からのFeの混入防止策を鋭意検討する過程で、重合設備に使用する窒素の供給配管からのFeの混入が無視できないこと、また、該供給配管上の適切な位置にフィルターを設置すれば、上記の目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明はエステル交換反応触媒存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との重縮合反応によって芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、該重合設備に使用する窒素の供給配管に絶対濾過精度が0.01μm〜2μmの範囲のフィルターを設置し、該窒素の受給容器である芳香族ジヒドロキシ化合物貯槽、原料混合物調製槽及び重合槽には上記フィルターで濾過した窒素を用いて各受給容器内へのFeの混入を防ぎ、かつ、該フィルターは、上記供給配管上、受給容器への供給口近傍に設置することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法に存する。
【0007】
【発明の実施形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係わる芳香族ポリカーボネートを製造する原料として、炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とが用いられる。
【0008】
炭酸ジエステル化合物
炭酸ジエステル化合物は、下記式(1)で表される。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、A及びA’は、炭素数1〜18の、置換されていてもよい、脂肪族基又は芳香族基であり、AとA’とは、同一でも異なってもよい。)
【0011】
式(1)で表される炭酸ジエステル化合物の具体例としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート(DPCと略称することがある。)及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等があるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートがあり、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステル化合物は、単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
また、上記のような炭酸ジエステル化合物と共に、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量でジカルボン酸、あるいはジカルボン酸エステルを使用してもよい。このようなジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が用いられる。このようなカルボン酸、あるいはカルボン酸エステルを炭酸ジエステル化合物と併用した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0013】
芳香族ジヒドロキシ化合物
もう一つの原料である芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記式(2)で示される。
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、Bは、1〜15の炭素数を有する2価の炭化水素基、ハロゲン置換の2価の炭化水素基、−S−基、−SO2 −基、−SO−基、−O−基又は−CO−基を示し、Xは、ハロゲン原子、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数1〜8のオキシアルキル基又は炭素数6〜18のオキシアリール基を示す。mは、0又は1であり、yは、0〜4の整数である。)
【0016】
式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル等が例示される。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。また、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を混合して、用いることができる。
【0017】
炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率は、所望する芳香族ポリカーボネートの分子量と末端ヒドロキシ基量により決められる。末端ヒドロキシ基量は、製品ポリカーボネートの熱安定性と加水分解安定性に大きな影響を及ぼし、実用的な物性を持たせるためには1000ppm以下にすることが必要となる。従って、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステル化合物を等モル量以上用いるのが一般的であり、1.01〜1.30モル、好ましくは1.01〜1.20モルの量で用いられるのが望ましい。
【0018】
エステル交換触媒
エステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造する際には、通常エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒としては、主として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物あるいはアミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。これらの触媒は、1種類で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
触媒量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜1×10-5モルの範囲で用いられる。この量より少なければ、所定の分子量、末端ヒドロキシ基量のポリカーボネートを製造するのに長時間必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、ゲルの発生による異物量も増大する傾向となる。特に、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、それらの金属量として1×10-8〜2×10-6モルの範囲が好ましく、0.5×10-7〜1×10-6モルの範囲が特に好ましい。
【0020】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、酢酸塩、リン酸水素塩、フェニルリン酸塩等の無機アルカリ金属化合物や、ステアリン酸、安息香酸等の有機酸類、メタノール、エタノール等のアルコール類,石炭酸、ビスフェノールA等のフェノール類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、酢酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物や、有機酸類、アルコール類、フェノール類との塩等の有機アルカリ土類金属化合物等が挙げられる。
【0021】
塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素、等の水素化物、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、或いはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0022】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0023】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0024】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリカーボネート
本発明の芳香族ポリカーボネートは、二段階以上の多段工程で製造される。一般的には反応温度140〜320℃、反応時間0.1〜5時間、反応圧力は常圧より段階を追って減圧度を上げ、副生するモノフェノール化合物をラインから連続的に除去しながら反応を行う。最終的には267Pa以下の減圧下、250〜320℃の温度で重縮合反応を行い、粘度平均分子量10000〜100000、好ましくは12000〜40000に高分子量化する。必要に応じて、窒素等の不活性ガスを流通させることもできる。また、モノフェノール化合物に同伴する原料を重合槽に戻すために、分留塔を重合槽に付設することもできる。
【0026】
反応の方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。使用する装置は、槽型、管型又は塔型のいずれの形式であってもよく、例えば、各種の撹拌翼を具備した竪型重合槽、横型1軸タイプの重合槽及び/又は横型2軸タイプの重合槽等を使用することができる。
【0027】
反応は、実質的に無酸素下で行われることが好ましく、例えば、運転開始前に、原料混合物調製槽、重合槽及びこれらを連結する配管内を、窒素ガス等の不活性ガスで置換しておく。通常、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との溶融原料混合物を、竪型重合槽に供給する。触媒は、原料とは別のラインで第1重合槽に直接供給してもよいし、第1重合槽に入る手前の配管内で、スタティックミキサー等により原料と混合した状態で供給させてもよい。必要に応じて、触媒を溶解あるいは懸濁するための溶媒が用いられる。好ましい溶媒としては、水、アセトン、フェノール等が挙げられる。
【0028】
重合液供給口は、重合槽側壁液相部にあり、抜き出し口は、重合槽底部にあるのが好ましい。また、各重合槽から反応液を連続して抜き出す方法は、落差を利用する方法、圧力差を利用する方法、ギアポンプ等の送液ポンプを用いる方法等、反応液の物性に適応した方法で行うのが好ましい。
【0029】
添加剤
本発明に使用される添加剤として、アルカリ金属化合物等の触媒を用いる場合には、ポリカーボネート中に残存する触媒を中和するために、酸性化合物、特にはイオウ含有酸性化合物を、触媒金属に対して0.5〜10当量、好ましくは1〜5当量を添加することができる。すなわち、通常0.01〜20ppm、好ましくは0.1〜10ppm、さらに好ましくは3〜7ppm添加する。
【0030】
イオウ含有酸性化合物の例としては、スルホン酸、スルフィン酸又はそれらのエステル誘導体であり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸、それらのメチル、エチル、ブチル、t−ブチル、オクチル、ドデシル、フェニル、ベンジル、フェネチル等のエステル類、ベンゼンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。これらの化合物の内、p−トルエンスルホン酸のエステル又はベンゼンスルホン酸のエステルが好ましく、これらの化合物を2種以上使用してもよい。さらに、これらの化合物のアルカリ金属塩を、これらの化合物と併用すると、分散性が向上し失活効果が高まるので好ましい。併用する量としては、非アルカリ金属塩に対してアルカリ金属塩を、重量比で0.3〜3倍程度の量用いることが好ましい。
【0031】
イオウ含有酸性化合物のポリカーボネートへの添加方法は、任意の方法により行うことができる。例えば、イオウ含有酸性化合物を、直接又は希釈剤で希釈して、溶融又は固体状態にあるポリカーボネートに添加し、分散させることができる。具体的には、重縮合反応器中、反応器からの移送ライン中、押出機中に供給して混合することができ、通常は押出機中に供給される。また、ミキサー等で、ポリカーボネートや、他種ポリマーのペレット、フレーク、粉末等と混合後、押出機に供給して混練することもできる。これらのうちポリカーボネートのフレークに、イオウ含有酸性化合物の原液を添加し、ミキサー等で混合後、マスターバッチとして添加することが好ましい。さらに、添加の際には、重量フィーダー等を用いて、添加量を精度良く制御することが好ましい。
【0032】
また押出機で、ベントによる減圧処理を行う場合、又は水添加、熱安定剤、離型剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、有機・無機充填剤等を添加する場合は、これらの添加及び処理は、イオウ含有酸性化合物と同時に行ってもよいが、イオウ含有酸性化合物を最初に添加、混練することが好ましい。
使用する押出機は、脱揮機能を備えたものであれば形式は問わない。具体的には、ベント式の単軸又は多軸押出機が挙げられるが、特に噛み合い型二軸押出機が好ましく、回転方向は同方向回転でも異方向回転でもよい。ベント数に制限はないが、通常2〜10段の多段ベントが用いられる。
【0033】
重合設備に使用する窒素
重合設備に使用する窒素は、主要なものとして、次の三種の態様を挙げることができる。第一は、粉体原料のハンドリングを窒素雰囲気下で行うこと、第二は、重合設備の運転開始に際し、経路となる容器や配管等の内部に存在する空気の窒素置換を行うこと、第三は、重合槽の圧力調整を窒素によって行うことにある。本発明においては、これら重合設備に使用する窒素の供給配管にフィルターを設置し、あらかじめフィルターで濾過した窒素の供給を準備することが必要である。
【0034】
第一の粉体原料は、エステル交換法ポリカーボネートの連続重合プロセスでは、重合槽に供給する原料混合物を調製する際に、通常、融点の高い芳香族ジヒドロキシ化合物は粉体でハンドリングされるが、粉塵爆発の危険性があり、不活性ガス雰囲気下で行われるのが一般的である。芳香族ジヒドロキシ化合物(以下、代表的化合物ビスフェノールAに因んで、BPAと略称することがある。)は、通常タンクローリー又はフレコンバッグで受け入れを行う。タンクローリーで受け入れる際には、タンクローリー内部もあらかじめフィルターで濾過した窒素で置換する必要がある。また、タンクローリーからBPA貯槽にBPAを受け入れるときにも、上記フィルターで濾過した窒素を用いることで、BPA貯槽内へのFeの混入を防ぐことができる。また、BPAをフレコンバッグからBPA貯槽に受け入れる場合も、好ましくはBPA受け入れ前、遅くともBPA受け入れ後に、該貯槽内を上記フィルターで濾過した窒素で置換した後、原料混合物調製槽へ移送することが好ましい。
【0035】
第二の反応雰囲気は、エステル交換法ポリカーボネートの重合プロセスでは、無酸素下が好ましいので、重合設備の運転開始前に、原料混合物調製槽、重合槽及びこれらを連結する配管内を、不活性ガス置換しておく。このような置換操作においても、上記フィルターで濾過した窒素を用いることで、原料混合物調製槽内へのFeの混入を防ぐことができる。
【0036】
第三の重合槽の圧力調整は、エステル交換法ポリカーボネートの連続重合プロセスでは、多段の竪型重合槽と横型重合槽を組み合わせたプロセスが一般的であり、これら重合槽は、それぞれ所定の圧力に維持する必要があり、これを不活性ガスを用いて行うことが一般的である。これらの圧力調整においても、上記フィルターで濾過した窒素を用いることで、重合槽内へのFe混入を防ぐことができる。
【0037】
フィルター及びその設置位置
本発明に使用するフィルターは、絶対濾過精度が大きすぎると十分にFeが除去できず得られるポリカーボネートの着色が悪化する原因となる。また、絶対濾過精度が小さすぎるとFeの目詰まりが多発したりして、長期安定運転の確保が困難になる等の問題がある。従って、絶対濾過精度は、0.01μm〜2μmの範囲から選ばれ、0.2μm〜2μmが特に好ましい。フィルターの形式は、カートリッジタイプ、ポロタイプ等特に制限はない。濾材は、Feを含まない材質であれば、差し支えないが、ニトロアセテート、セルロースアセテート、テフロン(登録商標)等の合成樹脂製のものが一般的である。
【0038】
本発明におけるフィルターの設置位置は、重合設備に使用する窒素の供給配管上、受給容器への供給口近傍であることが必要である。化学工場では、窒素は、発生源から配管で各製造プロセスに供給され、また、配管にはFe主体の材質が、敷設後多年にわたって使用されているのが現状で、窒素の流速によっては、配管内部のFeが窒素に伴われてプロセスに混入する原因になる。従って、少しでも配管からのFeの混入を避けるために、フィルターは、窒素の供給を受ける容器の近傍に設置する。特に、Fe異物の混入を嫌う製品の製造プロセスでは、窒素の受給容器ごとにフィルターを設置することが必要である。
本発明では、プロセス内へのFeの混入を防ぐために、重合設備の種々の受給容器のうち、原料貯槽、特に粉体原料のハンドリングを行うBPA貯槽の窒素ライン、及び重合槽、特にその圧力調整用の窒素ラインに、フィルターを設置することが好ましい。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、得られた芳香族ポリカーボネートの分析は下記の測定方法により行った。
【0040】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
【0041】
(2)色相
ポリカーボネートを、窒素雰囲気下、120℃で6時間以上乾燥した後、(株)日本製鋼所製J−100SS−2射出成形機を用いて、バレル温度280℃、金型温度90℃の条件下にて成形した、厚み3mm、一辺100mm角の射出成形品について、スガ試験機(株)製カラーテスターSC−1−CHで、色の絶対値である三刺激値XYZを測定し、次の関係式により黄色度の指標であるYI値を算出した。
YI=(100/Y)×(1.28X−1.06Z)
このYI値が大きいほど着色していることを示す。
【0042】
実施例1
原料BPAを収容する内容積3m3 のサイロ及び原料DPCを収容する内容積1.2m3 のタンクは、それぞれ、窒素供給配管を備え、該それぞれの配管上、窒素供給口近傍には、絶対濾過精度0.5μmのテフロン製濾材を装備したフィルター(アドバンテック社製、型番TCF−050)を設置した。上記サイロに、BPA1000kgを投入し、上記フィルターで濾過した窒素を0.2m3 /hの流量で導入して10分間以上置換した後、重量式フィーダーを用いて、44.9kg/hの速度で原料混合物調製槽へ供給した。一方、雰囲気を上記フィルターで濾過した窒素で置換した、上記タンクから、DPCを44.9kg/hの速度で原料混合物調製槽へ供給した。
別に、原料混合物調製槽への窒素供給配管上、供給口近傍に設置した、上記と同一の、絶対濾過精度0.5μmのフィルターで濾過した窒素ガス雰囲気下、140℃で、BPAとDPCとを一定のモル比(DPC/BPA=1.065)で溶融混合し、原料混合物を得た。
【0043】
このようにして得た原料混合物を、140℃に加熱した原料導入管を通して、常圧、窒素雰囲気下、210℃に制御した第1竪型撹拌重合槽内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として0.16%水溶液状の炭酸セシウムを、BPA1モルに対し0.5×10-6モルの流量で、同重合槽に連続供給した。
【0044】
第1重合槽底より排出された重合液は、引き続き第2、第3及び第4の竪型重合槽並びに第5の横型重合槽に、逐次連続供給された。これら重合槽では、それぞれ、第2重合槽(210℃、13300Pa)、第3重合槽(240℃、1995Pa)、第4重合槽(260℃、67Pa)、第5重合槽(265℃、67Pa)と、反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるように重合条件を設定した。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するフェノールの留去も行った。芳香族ポリカーボネートの製造速度は50kg/hであった。
【0045】
第1〜5の各重合槽の圧力は、窒素の導入量によって調整した。図1に示すように、重合槽(1)に設置した窒素の供給配管(2)の供給口近傍には、フロート式流量計(3)を挟んで、前記原料混合物調製槽等への窒素供給口近傍に設置したのと同一の、絶対濾過精度0.5μmのフィルター(4)を設置した。また、重合槽の気相部は、圧力調節機構(PC)によって開閉される調節弁(5)を備えた配管(6)を介して、真空ポンプに接続し所定の圧力に調整した。
【0046】
このようにして得られたポリカーボネートの分子量は15000であった。このポリマーを溶融状態のまま、3段ベントを具備し、ベント孔の間に水導入口を具備した2軸押出機(神戸製鋼所(株)製、46mmφ、噛み合いスクリュー、同方向)に導入し、注水脱揮操作後、ペレット化を行った。得られたポリマーの色相を測定したところYI=1.6であった。
【0047】
比較例1
フィルターを設置しない以外は実施例1と同様な方法で、芳香族ポリカーボネートを得た。得られたポリマーの分子量は、15100で、色相はYI=2.5であった。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、製品中へのFe異物の混入を防止し、色相に優れたエステル交換法芳香族ポリカーボネートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】重合槽近傍の窒素供給配管等を示す流路図。
【符号の説明】
1 重合槽
2 窒素の供給配管
3 流量計
4 フィルター
5 調節弁
6 配管
Claims (1)
- エステル交換反応触媒存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との重縮合反応によって芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、該重合設備に使用する窒素の供給配管に絶対濾過精度が0.01μm〜2μmの範囲のフィルターを設置し、該窒素の受給容器である芳香族ジヒドロキシ化合物貯槽、原料混合物調製槽及び重合槽には上記フィルターで濾過した窒素を用いて各受給容器内へのFeの混入を防ぎ、かつ、該フィルターは、上記供給配管上、受給容器への供給口近傍に設置することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
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