JP3713811B2 - 高強度焼結鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部品や家電製品部品を始めとする種々の機械部品に用いられる高強度焼結鋼およびその製造方法に関するものであり、特に、Ni添加焼結鋼(焼結後に熱処理を施す場合と施さない場合の両方を含む)における引張強度や疲労強度を著しく向上させることができる点で非常に有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来より、焼結鋼の機械的特性を改善する為に、鋼中にNiが添加されている。但し、単純に、鉄粉中にNi粉末を添加して混合しただけではNiが偏析し、機械的特性が大きくばらつく為、Niの添加方法として、様々な提案がなされている。
【0003】
第一の方法として、予めNiを鉄粉中に固溶させる所謂プレアロイ型鉄粉を用いる方法がある。この方法は、焼結鋼にした場合、Ni濃度が均一であるという点で優れているが、固溶硬化によって粉末の圧縮性が低下してしまう為、成形体の密度が低くなり、その為機械的特性も低下する;焼入れ性が良好な為、焼入れ後は均一なマルテンサイト組織になることが多く、引張強度に優れる反面、靭性面では、残留γ相とマルテンサイト組織との不均一組織を有する他の方法に比べると劣る、といった問題がある。
【0004】
第二の方法として、Ni、Cu、Moの単体元素、或いはこれらの2種以上の元素を予め合金化した合金微粉を拡散付着させる方法が提案されている(特開平2−145703号公報)。この方法は、前記第一のプレアロイ型鉄粉を用いる方法に比べれば圧縮性に優れるものの、依然としてNiの合金化による圧縮性の低下は避けられず、拡散付着処理による製造コストが上昇するという問題もある。
【0005】
そこで、この様なNi添加による圧縮性の低下を防止することを目的として、特公平7−45683号公報には、粒子の大きさが45μm以下のNi、Cu及びMoの合金元素粉末を、潤滑剤とバインダーとの共溶融物によって付着させる方法が提案されている。同公報によれば、45μm以下のNi粉末(より好ましくは15μm以下)の割合を60%以上にすれば、鉄粉粒子へのNi粉末の付着度が向上する旨記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この様な微細なNi粉末(従って凝集し易い)を使用する場合、潤滑剤とバインダーを混合・加熱し、得られる共溶融物によってNi等の合金元素粉末を鉄粉粉末に付着処理させるという本公報の方法では、Niの凝集をうまく解砕して均一に混合することは困難であり、Niに富む粗大な相が形成されて機械的特性を著しく低下させたり、或いはNi濃度のばらつくに起因して機械的特性も大きくばらつくことが分かった。
【0006】
この様に、焼結鋼の機械的強度を高めることを目的として、微細なNi粉末の使用が有効であることは示唆されているものの、これまでに開示された方法は、いずれもNiの添加効果を有効に発揮させるものとは言えず、逆に機械的強度のばらつきを招くという問題があった。
【0007】
一方、Ni添加焼結鋼における組織と機械的特性の関係については、既に多くの報告がなされている。例えば特開平2−153046号公報には、密度:7.25g/cm3 以上、オーステナイト相:14.0体積%以下であり且つその平均粒径が20μm以下である高強度焼結鋼が開示されており、この様に微細なオーステナイト相を分散させることにより優れた引張強度が得られる旨記載されている。
【0008】
しかしながら、本発明者らが実験により確認したところによれば、オーステナイト相の平均粒径を20μm以下に制御したものは、高い引張強度が得られるものの疲労強度向上作用は不充分であること、更にオーステナイト相は柔らかい為、この様な微細なものでも疲労強度を下げてしまう恐れがあることが分かった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、焼結後に施される熱処理の有無に拘わらず、引張強度および疲労強度に優れた高強度焼結鋼を提供すると共に、その様な焼結鋼を効率よく製造することのできる方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係わる第1の高強度焼結鋼は、
▲1▼Ni:0.2〜8重量%,
▲2▼C :0.20〜1.0重量%,
或いは、上記▲1▼および▲2▼に加えて、
▲3▼Cu:0.5〜4重量%及び/又はMo:0.2〜5重量%
を含有し、残部:鉄及び不可避的不純物
を満足すると共に、
焼結後に熱処理を加えない焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ:400以下である前記白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものであるところに要旨を有するものである。
【0011】
ここで、焼結鋼中に占める残留オーステナイト相の割合(X)が、[Ni]×[C] ×3体積%以下(0%を含まない,[ ]は各元素の含有量(重量%)を夫々意味する)であるものは、残留オーステナイトに基づくマルテンサイト組織の形成を高め、焼結体の強度を向上し得る為、好ましい態様である。
【0012】
この様な焼結体を製造する方法は、平均粒径1.0〜5μmのNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用いて焼結するか、或いは、平均粒径5μm以下のNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用い、溶剤を加えて混合した後、溶剤を蒸発させてから焼結するところに要旨を有するものである。このうち、後者の方法(即ち、溶剤を加えて湿式下で混合する方法)は、特に平均粒径1.0μm未満の微細なNi粉を用いた場合に有効であり、Niの凝集を効率良く防ぐことができる点で推奨される。
【0013】
更に、上記課題を解決することのできた本発明に係わる第2の高強度焼結鋼は、
▲1▼Ni:0.2〜8重量%,
▲2▼C :0.20〜1.0重量%,
或いは、上記▲1▼および▲2▼に加えて、
▲3▼Cu:0.5〜4重量%及び/又はMo:0.2〜5重量%
を含有し、残部:鉄及び不可避的不純物
を満足すると共に、
焼結後に熱処理を加えて得られる焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ:400以下である前記白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものであるところに要旨を有するものである。
ここで、焼結鋼中に占める残留オーステナイト相の割合(X)が、
[Ni]×[C] ×3体積%≦X≦[Ni]×[C] ×8体積%
([ ]は前と同じ意味)
を満足するものは、焼結体の強度を更に向上し得る為、好ましい態様である。
【0014】
この様な焼結体を製造する方法は、平均粒径1.0〜5μmのNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用い、焼結してから更に熱処理するか、或いは、平均粒径5μm以下のNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用い、溶剤を加えて混合し、溶剤を蒸発させてから焼結した後、更に熱処理するところに要旨を有するものである。このうち、後者の方法(即ち、溶剤を加えて湿式下で混合する方法)は、特に平均粒径1.0μm未満の微細なNi粉を用いた場合に有効であり、Niの凝集を効率良く防ぐことができる点で推奨される。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、Ni添加焼結鋼における組織と機械的特性の関係について鋭意研究を重ねた結果、焼結鋼の組織中に現れるNiに富む相[残留オーステナイト相(以下、残留γ相と略記する)主体の白色領域]に着目し、その大きさや硬さ、更には残留γ相の体積率が、引張強度や疲労強度などの機械的特性に及ぼす影響を詳細に検討し、本発明の完成に至ったのである。
【0016】
一般に、Fe粉末中にNi粉末を添加して圧粉・焼結すると、NiはFe粉末中に拡散していき、焼入れ性を向上させて焼結鋼の機械的特性を大きく向上させることが知られている。しかしながら、Fe粉中へのNiの拡散速度はあまり速くない為、通常の焼結条件下では、Ni濃度を完全に均一にすることはできず、多かれ少なかれNiに富む領域が焼結鋼中に形成することになる。このNiに富む領域は、局所的にNiがFeに対して或る割合以上に存在すると形成されるものであるが、焼結したり、或いは焼結してから焼入れ焼戻し等の熱処理を施すと、残留γ相を形成する傾向にある。
【0017】
特開平2−153046号公報では、残留γ相が多量に生成すると強度が低下するが、所定の密度域においてこの残留γ相を微細に分散させると強度が著しく向上するという知見に基づき、残留γ相の平均径を20μm以下に制御した高強度焼結合金鋼を開示している。また、特開平2−254137号公報には、残留γ相は、塑性変形時にマルテンサイト組織に変態することによって焼結鋼の高強度化に寄与する旨記載されており、高強度化に寄与する残留γ相の好ましい体積率が開示されている。この様に、残留γ相に基づく高強度作用を有効に発揮させることを目的として、上記公報には、平均粒径の小さい微細なγ相を形成させたり、所定の体積率に特定する方法が記載されている。但し、これら両公報を通して読み取れるのは、「微細な残留γ相は、焼結体の高強度化に有効であり、その様なγ相を所定の範囲で生成させよう」と言うものであり、微細な残留γ相は、総じて焼結体の高強度化に寄与するといった思想のもとになされたものである。
【0018】
本発明は、上記公報によって得られた知見について更に詳細に検討を進めたものであり、残留γ相を、同じく高強度化に寄与するNiに富む領域との関係でとらえ、残留γ相若しくは残留γ相主体の白色領域のなかでも、単に平均粒径の小さい微細なものが有効であるとは総じて言えず、疲労強度および引張強度を向上させるには、平均粒径ではなく最大粒径(長径)を指標とするのが有効であること、更に長径サイズと硬度の関係によっては、高強度化に寄与するものとしないものがあることを見出し、これらの関係に基づいて、疲労強度および引張強度(これらをまとめて単に強度と呼ぶ場合がある)の向上に寄与しないものは極力生成させない様に、Niに富む領域を規定したところに、その技術的特徴を有するものである。
【0019】
即ち、本発明者らが残留γ相について詳細に検討したところ、前述した様にNiに富む領域は、焼結処理若しくは焼結後の熱処理により残留γ相が形成される(焼結後に熱処理を施lした場合には、残留γ相の生成が更に促進される)が、添加するNi量によっては、マルテンサイトと残留γ相の混在する組織となり、高強度化に大きく寄与することが分かった。但し、この様な混在組織も含め残留γ相主体の白色領域は、そのサイズが長径60μmを超えると、それ自体の強度が低い為に、焼結鋼全体としての強度が低下してしまう恐れがあるが、60μmを超えても強度の高いものは、高強度化に悪影響を及ぼすものではなく、60μm以上で且つ硬度の低いもの(具体的には中心部のヴィッカース硬さが400以下)のみが悪影響を及ぼすことを見出し、この様な領域の個数をできるだけ抑制することにより所期の目的を達成し得たのである。
【0020】
この様に本発明の高強度焼結鋼は、焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ(単に硬さと略記する場合がある):400以下である白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものである点に第1の特徴を有する。長径が60μm以上で且つ硬さが400以下の白色領域が5個超/mm2 になると、焼結鋼の強度が低下し、Ni添加による高強度向上作用が有効に発揮されないからである。従って、本発明ではそれ以外の領域、例えば残留γ相主体の白色領域のうち、長径が60μmを超えるものであっても硬さが400以上のものは、焼結鋼の強度に優れるので、その生成について特に制御する必要はないのである。更には、長径が60μm未満のものは、その硬度によらず、即ち、硬さが400以下であっても或いは400を超えても、全て強度上昇作用を有効に発揮し得るのである。これは、残留γ相主体の白色領域のなかでも、長径が小さいもの(微細なもの)は、硬度に拘わらず、全て疲労強度や引張強度の向上に寄与するのであり、本発明では、この様な微細なものをできるだけ多く生成させると共に、粗大なもの(長径が60μmを超える)のなかでも、硬度の大きいものは強度の低下に影響を及ぼさないが、粗大で且つ硬度の低いものは、本発明の目的達成には悪影響を及ぼすという観点から、その個数を制限したのである。
【0021】
勿論、更なる焼結鋼の向上を目的とする場合には、長径が60μm以上で且つ硬さが400以下の領域は少なければ少ない程良いことは言うまでもない。また、本発明の目的達成の為に悪影響を及ぼさない領域、例えば長径が60μm以上で且つ硬さが400を超える領域についても、その個数はできるだけ抑制することが好ましく、0〜2個/mm2 に制御することが好ましい。その他の微細な領域(長径が60μm未満)は特に制限されないが、その長径はできるだけ小さい方が好ましいことから、長径30μm以下の微細な領域を多数分散させることが望ましい。特に、プレアロイ型の合金鋼粉を用いて焼結する場合には、完全に均一な組織が生成し易くなる反面、逆に靭性が低下してしまう為、上述した様に長径30μm以下の領域を焼結鋼中に分散させることが有効であり、それを超える領域、例えば長径30〜60μmで且つ硬さが400以下の領域は5個/mm2 以下(より好ましくは2個/mm2 以下)に制御することが好ましい。
【0022】
尚、本発明における高強度の指標となる残留γ相主体の白色領域(即ち、Niに富む領域)は、以下の方法によって判別することができる。即ち、基本的には、焼結鋼を研磨した後、ナイタール(硝酸1〜5%のエタノール溶液)でエッチングしてから光学顕微鏡で観察すると、上記相(領域)は白色組織として観察されるのに対し、他の相(即ち、Niに乏しい領域)は黒色組織として観察される為、両者を明瞭且つ容易に判別することができる。ただし、この方法は上記相が焼結鋼中に広く分布している場合には有効であるが、その相が非常に小さい場合には、光学顕微鏡では観察でき難い為、光学顕微鏡の代わりにSEM−EPMA等を用いて分析すれば良い。
【0023】
この様に本発明では、残留γ相主体の白色領域のなかでも長径が大きく且つ硬度の低いものの個数を抑制したところに、最大特徴を有するものであり、この様な要件を満足するものであれば、焼結後の熱処理の有無に拘わらず全ての焼結鋼について、引張強度および疲労強度を著しく高めることができる。即ち、上述した要件は、(a) 焼結後、熱処理を加えない焼結鋼においても、或いは(b) 焼結後、熱処理を加えて得られる焼結鋼においても有効に作用し得るのである。
【0024】
尚、本発明の焼結鋼は、上記(a) および(b) のいずれの場合においても、基本的には下記(1)または(2)の組成を満足することが必要である。
以下、各成分の限定理由について説明する。
【0025】
▲1▼Ni粉末:0.2〜8重量%
前述した様に、鉄粉中にNi粉末を添加して圧粉・焼結すると、Niは鉄粉中に拡散していき、焼結体の機械的特性向上に寄与することが知られている。この様なNi添加による効果は、0.2重量%未満では不十分であり、逆に8重量%を超えると焼結体中に残留γ相が必要以上に増える為、機械的特性が低下する。好ましくは1.0〜4重量%であり、より好ましくは1.5〜3重量%である。
【0026】
▲2▼C:0.20〜1.0重量%
Cは、強度を高めるのに有用であり、その為には0.20重量%以上添加することが必要である。但し、1.0重量%を超えると、過剰なCが遊離炭素として残存したり、結晶粒界にセメンタイトとして析出し、機械的特性が低下する。好ましくは0.4〜0.8重量%であり、より好ましくは0.5〜0.7重量%である。
【0027】
▲3▼Cu:0.5〜4重量%及び/又はMo:0.2〜5重量%
Cu及びはMoは、焼結体の物性を更に改善する為に必要に応じて添加されるものである。
このうちCuは焼結時に液相を生じて焼結を促し、強度を改善する元素である。0.5重量%未満では十分な効果が得られず、一方、4重量%を超えて添加しても向上効果が飽和し、経済的に無駄である。より好ましくは0.8〜2.5重量%である。使用時には、電解銅粉やアトマイズ銅粉を用いることが推奨される。
【0028】
Moは鉄粉中への固溶強化及び焼入れ性を高め、機械的性質の向上に寄与する元素である。0.2重量%未満ではその効果を有効に発揮することができず、一方、5重量%を超えて添加しても効果が飽和してしまう。より好ましくは0.5〜3.0重量%である。使用時には、プレアロイ法により予めMoを合金化させた鉄粉を用いても良いし、或いはMo粉末やFe−Mo合金粉末を用いても良い。
【0029】
残部:鉄および不可避的不純物
本発明に用いられる鉄粉は、純度99重量%以上の純鉄粉であっても良いし、或いは、焼結体の更なる強度向上を目的として、純度99重量%未満の鉄粉であってNi、Mo、Cr、Mn等の合金元素を添加したものや、不純物としてその他の元素を含むものであっても良い。
【0030】
本発明の焼結鋼は、基本的に上記成分組成を有するものであるが、更に、残部:鉄粉において、潤滑剤を0.2〜1.0重量%の範囲で加えることも可能である。潤滑剤は、プレス成形を容易にすると共に、金型成形する際、型かじり等の発生を有効に防止することができるという点で非常に有用であり、焼結鋼を製造する際に、原料粉末の一部として予め添加しておくことにより、この様な効果を有効に発揮させることができる。上記潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ワックス系潤滑剤等といった通常使用される潤滑剤が挙げられる。これらの潤滑剤を用いた場合には、焼結後にZnやCaなどが残留することがある為、それにより、焼結体中に占める不可避的不純物の組成が若干影響を受けることがある。
或いは、焼結体の被削性を高めることを目的として、MnS粉末等を0.05〜1.0重量%の範囲で添加することも可能である。
【0031】
尚、本発明の焼結鋼中に占める残留γ相の好適な割合(Xと略記する)は、焼結後における熱処理の有無によって変化する。
即ち、焼結後に熱処理を加えない焼結鋼の場合は、Xは、以下の範囲を満足することが好ましい。
X≦[Ni]×[C] ×3体積%
{但し、[ ]は各元素の含有量(重量%)を夫々意味する}
前述した様に、残留γ相はそれ自体の硬度が小さく柔らかい為に、多量に生成すると焼結鋼全体としての強度を損ねてしまう。特に、焼結後に熱処理を施さずに使用する(焼結まま)場合には、残留γ相の周囲は柔らかいままであるので、上述した変形時におけるマルテンサイト変態による強度上昇作用を有効に発揮できないことから、残留γ相の生成はできるだけ抑制した方が良い。残留γ相の量は、X線回折を用いて測定できるが、添加したNi量とC量の関係で、[Ni]×[C] ×3体積%以下に抑制することが好ましい。より好ましくは[Ni]×[C] ×2体積%以下である。
【0032】
これに対して、焼結後熱処理を加えて得られる焼結鋼の場合は、残留γ相の割合(X)は、
[Ni]×[C] ×3体積%≦X≦[Ni]×[C] ×8体積%
([ ]は前と同じ意味)
を満足することが好ましい。
【0033】
即ち、残留γ相は、それ自体柔らかいものであるが、熱処理すると、残留γ相の周囲が硬くなり、マルテンサイト変態による強度上昇作用に大きく寄与することから、できるだけ多く生成させた方が良いのである。但し、[Ni]×[C] ×8体積%を超えて生成すると、歪みが加わったときに、マルテンサイト変態しない安定な残留γ層が増加するので強度上昇作用が不十分になる。より好ましくは[Ni]×[C] ×4〜[Ni]×[C] ×6体積%である。
【0034】
次に、上記要件を満足する高強度焼結鋼を製造する方法について説明する。
まず、原料粉末としては、平均粒径5μm以下のNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる粉末を用いる。
【0035】
本発明では、この様に平均粒径5μm以下のNi粉を用いる必要がある。上述した様に、Niの鉄粉中への拡散速度はあまり速くない為、通常の焼結条件では、Ni濃度を完全に均一にすることは困難であり、焼結体中にNiに富む相が形成されてしまう。この様に鉄粉に対してNiが局所的に或る割合以上になると、焼入れ等の熱処理を施した場合、残留γ相が形成される。特開平2−254137号公報によれば、この残留γ相は、歪みが加わった時にマルテンサイト組織に変態するので焼結体の高強度化には有効である旨報告されているが、本発明者らが検討したところ、残留γ相のサイズが大き過ぎると、それ自体の強度が低い為に、焼結体全体としての強度が低下することが分かった。従って、優れた機械的強度を得る為には、できるだけ微細な残留γ相を均一に分散させることが必要であり、その為には、Ni粉末の平均粒径を5μm以下にしなければならない。この様な微細なNi粉末を使用することによって、圧粉体中におけるNi粉末とFe粉末との接触面積が増加し、通常の焼結条件で焼結した場合においても、NiのFe中への拡散がスムーズになり、Niに富む粗大な相の生成を極力抑えることができるのである。好ましくは3μm以下であり、更に高強度を得たい場合は1μm以下にすることが推奨される。
【0036】
但し、Ni粉末の平均粒径によっては、Niの凝集を効率良く防ぐという観点から、混合方法を適宜変更する必要がある。即ち、平均粒径1.0〜5μmのNi粉を用いる場合には、V型ミキサーやダブルコーン型ミキサー、羽根付き高速ミキサーなどで混合すれば良いが、平均粒径1μm未満のNi粉を用いる場合には、原料粉末に溶剤を加え、湿式状態で混合し得る混合機の中に入れ湿式下で混合した後、50〜140℃で加熱する等して溶剤を蒸発させることが必要である。
【0037】
この様にNi粉の平均粒径が1.0μm未満の場合には湿式混合機の使用が必要になる理由は以下の通りである。一般に、Ni粉末の平均粒径が5μm以下になると凝集が激しくなる。その場合、通常のV型混合機やダブルコーン型混合機といった容器回転型の混合機による乾式混合では、十分に均一な混合状態を得ることが比較的難しく、特にこの傾向は、Niの平均粒径が1μm未満の場合に顕著になる。これは、容器回転型の混合機では、粉末に加わる剪断力が不十分である為にNi粉末の凝集を解砕することができないこと、及び微細なNi粉末は容器内に存在するガス中に飛散し易く均一に混合できないこと等が主な原因である。これに対して、上記原料粉末を容器固定型の羽根付きミキサーに入れて湿式下で混合すると、一層大きな剪断が加わってNi粉末の凝集を解砕し得ると共に、ガス中への飛散も防止できるので、微細なNi粉末であっても均一に混合することが一層可能になるのである。
【0038】
本発明に用いられる溶剤としては、ヘキサン,アセトン,トルエン,アルコール類等の如く200℃以下で揮発する有機溶剤であれば特に規定されない。また、溶剤の添加量は原料粉末全体に浸透する量であることが必要であり、その為には、原料粉末全量に対して0.5〜5重量%添加することが好ましい。
湿式混合機としては、例えば容器固定型の羽根付きミキサーの他、同じく容器固定型のスクリュータイプミキサーやリボンタイプミキサーなどが挙げられる。
【0039】
尚、鉄粉末にNi粉末を添加した混合粉末を用いる場合と、予めNiを合金化したプレアロイ型の粉末を用いる場合を比べると、同じ成形圧力で圧粉したとしても、混合粉末を用いた方が、粉末の固溶硬化がない分だけ成形体密度が高くなり、強度が向上するので有用である。
【0040】
ここで、焼結条件は、温度が高い程、また時間が長い程Niの拡散が進行するので好ましい組織が得られると考えられるが、実用上は、通常の焼結条件で充分であり、生産性やコスト等を鑑みれば、1050℃〜1300℃で5分〜3時間の焼結を行うことが推奨される。この様にして得られた焼結鋼中の残留γ相の体積率をX線回折で測定すると、[Ni]×[C]×1.5 〜[Ni]×[C]×2.5 体積%程度であり、残部はフェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の単独組織か或いはこれらの混合組織である。
【0041】
更に、焼結後に焼入れ焼き戻しなどの熱処理を施すことにより、多量のマルテンサイトが生成すると共に残留γ相が増加し、引張強度や疲労強度を著しく改善することができる。尚、熱処理条件は、特に限定されず通常使用し得る範囲を採用することができ、例えば720〜950℃付近から焼入れし、150〜600℃程度で焼戻すことが推奨される。更には、浸炭などを行っても良い。また、上記熱処理は、残留γ相を増加させ、基地組織を強化するために行われるものであるから、同様の効果を得る為に、焼結後の冷却速度をコントロールする等して熱処理を省略することも可能である。
【0042】
以下実施例に基づいて本発明を詳述する。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0043】
【実施例】
以下の実施例1〜5は、焼結した後熱処理を行った焼結鋼についての結果である。
実施例1(Ni粉末の粒径の影響)
まず、粒径の異なるNi粉末を数種類用意し、必要に応じて分級を行って所定の平均粒径を有するNi粉末とした後、更にFSSによる粒度分布測定を行った。次に、V型ミキサー中に、上記のNi粉末・アトマイズ純鉄粉・グラファイト粉末・ステアリン酸亜鉛を表1に示す配合比率で加えた後、30分間混合した。
【0044】
【表1】
【0045】
この様にして得られた各粉末について以下の特性を評価した。
[引張強度]
上記混合粉末を用い、6t/cm2 の圧力下でJPMA(日本粉末冶金工業会)のM04−1992に準拠して引張試験片を成形した後、[N2 +10%H2 ]雰囲気下、1120℃で焼結した。更に、真空中、850℃に加熱してから60℃の油中に焼入れした後、200℃×30分焼戻しを施してから引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0046】
[疲労強度]
上記混合粉末を用い、6t/cm2 の圧力下で12.5mm×12.5mm×100mmに成形した後、[N2 +10%H2 ]雰囲気下、1120℃で焼結してから、更にJIS Z2274の1号試験片に準じて機械加工した。この様にして得られた回転曲げ疲労試験片を真空中、850℃に加熱してから60℃の油中に焼入れした後、200℃×30分の焼戻しを施し、小野式回転曲げの疲労強度を測定した。
【0047】
[残留γ相の測定]
未使用の疲労試験片の断面を研磨し、X線回折による残留γ相の定量分析を行った後、2%ナイタール液でエッチングしてから組織を観察した。組織中に白く現れるNiに富む領域のサイズを測り、マイクロヴィッカース硬度計でその領域の中心部の硬さを測定した。
得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から以下の様に考察することができる。
No.1〜No.4は本発明の範囲を満足する例であり、引張強度と疲労強度に優れている。
これに対して、No.5とNo.6は、添加するNi粉末の粒径が大き過ぎる為、中心部のヴィッカース硬さ400以下の領域が、本発明で規定する量を超えて存在し、その結果、引張強度と疲労強度が低下することが分かる。
【0050】
実施例2(Ni添加量の影響)
平均粒径2.8μmのNi粉末を用い、表3に示す配合比率で各原料粉末を加えた後、1250℃で焼結したこと以外は、実施例1と同様にして各焼結体を製造し、各特性を測定した。その結果を表4に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
No.7〜No.10は、Ni量が本発明の範囲を満足する例であり、優れた機械的特性を示している。
これに対して、No.11はNi量が少ない為、Ni添加による強度上昇効果が十分得られない。また、No.12は、Ni量が多過ぎる為、硬度の小さい領域が多くなり、機械的特性に悪影響を及ぼしていることが分かる。
【0054】
実施例3(C添加量,残留γ相の影響)
平均粒径2.8μmのNi粉末を用い、表5に示す配合比率で各原料粉末を加えたこと以外は、実施例1と同様にして各焼結体を製造し、各特性を測定した。その結果を表6に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
No.13〜No.15は、C量が本発明の範囲を満足する例であり、残留γ相の生成も本発明の好ましい要件を備えている為、優れた機械的特性を示している。これに対してNo.16はC量が少ない為、Cの添加による強度上昇効果が十分得られず、またNo.17は、C量が多過ぎる為、硬度の低い領域が多くなり、残留γ相も好ましい範囲を超える為、機械的特性が低下している。
【0058】
実施例4(CuやMo添加の影響)
平均粒径2.8μmのNi粉末を用い、表7に示す配合比率で各原料粉末を加えた後、1250℃で焼結したこと以外は、実施例1と同様にして各焼結体を製造し、各特性を測定した。その結果を表8に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
No.18〜No.22はCu/Moの添加量が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、従って、優れた機械的特性を示すのに対し、No.23〜No.26は、範囲外である為、CuやMoの添加効果を有効に発揮させることができず、逆に、機械的特性が低下することが分かる。
【0062】
実施例5(混合方法の検討)
まず、粒径の異なるNi粉末を数種類用意し、必要に応じて分級を行って所定の平均粒径を有するNi粉末とした後、更にFSSによる粒度分布測定を行った。次に、容器固定型の羽根付きミキサーの容器中に、上記のNi粉末・表9,10に示す種々の鉄粉・グラファイト粉末、及び溶剤としてトルエン(全粉末に対して4重量%)を表9,10に示す配合比率で加え、湿式下で20分間混合した後、真空引きしながら約100℃に加温してから溶剤を蒸発除去した。更に、ステアリン酸亜鉛を表9に示す配合比率で添加した後、混合粉末を得た。尚、比較の為に、羽根付きミキサーの代わりにV型ミキサーを用いて乾式混合したもの、および羽根付きミキサーを用いて乾式で170℃に加温混合したもの(No.38,共溶融法)も用意した。
【0063】
この様にして得られた各混合粉末について、実施例1と同様にして各焼結鋼を製造した後、機械的特性を同様にして測定した。尚、熱処理については、カーボンポテンシャル0.8のRXガス雰囲気中、920℃×60分間浸炭処理した後、更に850〜60℃油焼入れ・200℃×30分間焼戻しを行ったものも用意した(No.31)。
得られた結果を表11に示す。
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
【表11】
【0067】
No.27〜No.34は湿式法により製造した例であり、Ni粉末が0.5μmと非常に微細なものであっても、凝集を起こすことなく優れた機械的特性を示すことが分かる。
これに対して、No.35,36は、Ni粉末の粒径が1μm未満と凝集の起こり易い微粉末を用いた例であるが、乾式のV型ミキサによる混合方法を採用した為、微細なNi粉末が凝集し、Niに富む粗大な領域が焼結組織中に見られ、機械的特性が著しく低下している。
【0068】
No.37は、湿式下で混合しているが、使用したNi粉末のサイズが大き過ぎる為、ヴィッカース硬さ400以下の粗大な領域が多くなり、機械的特性が低下している。
No.38は、潤滑剤の溶融する温度に加温してから混合するという従来例であるが、前記No.35,36と同様、凝集の起こり易い微細なNi粉末を均一に混合することができず、機械的特性が低下している。
【0069】
No.39はプレアロイ型の鉄粉を用いNi粉末を添加しない例であるが、残留γ量は本発明の好ましい範囲内にあるものの、組織は完全に均一であってNiに富む領域が生成されない為、該領域の形成による機械的特性の向上が得られない。
次に、以下の実施例6〜10は、焼結した後熱処理を加えない焼結鋼についての結果である。
【0070】
実施例6(Ni粉末の粒径の影響)
表1に示す配合比率の原料粉末を用い、実施例1と同様にして各粉末を得た後、以下の特性を評価した。
[引張強度]
上記混合粉末を用い、6t/cm2 の圧力下でJPMA(日本粉末冶金工業会)のM04−1992に準拠して引張試験片を成形した後、[N2 +10%H2 ]雰囲気下、1120℃で焼結してから引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0071】
[疲労強度]
上記混合粉末を用い、6t/cm2 の圧力下で12.5mm×12.5mm×100mmに成形した後、[N2 +10%H2 ]雰囲気下、1120℃で焼結してから、更にJIS Z2274の1号試験片に準じて機械加工した後、小野式回転曲げの疲労強度を測定した。
【0072】
[残留γ相の測定]
未使用の疲労試験片の断面を研磨し、X線回折による残留γ相の定量分析を行った後、2%ナイタール液でエッチングしてから組織を観察した。組織中に白く現れるNiに富む領域のサイズを測り、マイクロヴィッカース硬度計でその領域の中心部の硬さを測定した。
得られた結果を表12に示す。
【0073】
【表12】
【0074】
No.40〜No.43は本発明の範囲を満足する例であり、引張強度と疲労強度に優れている。
これに対して、No.44とNo.45は、添加するNi粉末の粒径が大き過ぎる為、中心部のヴィッカース硬さ400以下の領域が、本発明で規定する量を超えて存在し、その結果、引張強度と疲労強度が低下することが分かる。
【0075】
実施例7(Ni添加量の影響)
平均粒径2.8μmのNi粉末を用い、表3に示す配合比率で各原料粉末を加えた後、1250℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様にして各焼結体を製造し、各特性を測定した。その結果を表13に示す。
【0076】
【表13】
【0077】
No.46〜No.49は、Ni量が本発明の範囲を満足する例であり、優れた機械的特性を示している。
これに対して、No.50はNi量が少ない為、Ni添加による強度上昇効果が十分得られない。また、No.51は、Ni量が多過ぎる為、硬度の小さい領域が多くなり、機械特性に悪影響を及ぼしていることが分かる。
【0078】
実施例8(C添加量,残留γ相の影響)
平均粒径2.8μmのNi粉末を用い、表5に示す配合比率で各原料粉末を加えたこと以外は、実施例6と同様にして各焼結体を製造し、各特性を測定した。その結果を表14に示す。
【0079】
【表14】
【0080】
No.52〜No.54は、C量が本発明の範囲を満足する例であり、残留γ相の生成も本発明の好ましい要件を備えている為、優れた機械的特性を示している。これに対してNo.55はC量が少ない為、Cの添加による強度上昇効果が十分得られず、またNo.56は、C量が多過ぎる為、硬度の低い領域が多くなり残留γ相も好ましい範囲を超える為、機械的特性が低下している。
【0081】
実施例9(CuやMo添加の影響)
平均粒径2.8μmのNi粉末を用い、表7に示す配合比率で各原料粉末を加えた後、1250℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様にして各焼結体を製造し、各特性を測定した。その結果を表15に示す。
【0082】
【表15】
【0083】
No.57〜No.61はCu/Moの添加量が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、従って、優れた機械的特性を示すのに対し、No.62〜No.65は、範囲外である為、CuやMoの添加効果を有効に発揮させることができず、逆に、機械的特性を低下させていることが分かる。
【0084】
実施例10(混合方法の検討)
まず、粒径の異なるNi粉末を数種類用意し、必要に応じて分級を行って所定の平均粒径を有するNi粉末とした後、更にFSSによる粒度分布測定を行った。次に、容器固定型の羽根付きミキサーの容器中に、上記のNi粉末・表16,17(成分組成としては前記表9,10と同じもの)に示す種々の鉄粉・グラファイト粉末、及び溶剤としてトルエン(全粉末に対して4重量%)を表16,17に示す配合比率で加え、湿式下で20分間混合した後、真空引きしながら約100℃に加温してから溶剤を蒸発除去した。更に、ステアリン酸亜鉛を表19に示す配合比率で添加した後、混合粉末を得た。尚、比較の為に、羽根付きミキサーの代わりにV型ミキサーを用いて乾式混合したもの、および羽根付きミキサーを用いて乾式で170℃に加温混合したもの(No.77)も用意した。
この様にして得られた各混合粉末について、実施例6と同様にして各焼結鋼を製造した後、機械的特性を同様にして測定した。
得られた結果を表18に示す。
【0085】
【表16】
【0086】
【表17】
【0087】
【表18】
【0088】
No.66〜No.73は湿式法により製造した例であり、Ni粉末が0.5μmと非常に微細なものであっても、凝集を起こすことなく優れた機械的特性を示すことが分かる。
これに対して、No.74,75は、Ni粉末の粒径が1μm未満と凝集の起こり易い微粉末を用いた例であるが、乾式のV型ミキサによる混合方法を採用した為、微細なNi粉末が凝集し、Niに富む粗大な領域が焼結組織中に見られ、機械的特性が著しく低下している。
【0089】
No.76は、湿式下で混合しているが、使用したNi粉末のサイズが大き過ぎる為、ヴィッカース硬さ400以下の粗大な領域が多くなり、機械的特性が低下している。
No.77は、潤滑剤の溶融する温度に加温して混合するという従来例であるが、前記No.74,75と同様、凝集の起こり易い微細なNi粉末を均一に混合することができず、機械的特性が低下している。
No.78は、プレアロイ型の鉄粉を用いNi粉末を添加しない例であるが、残留γ量は本発明の好ましい範囲内にあるものの、組織は完全に均一であってNiに富む領域が生成されない為、該領域による機械的特性の向上が得られない。
【0090】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されているので、引張強度と疲労強度に著しく優れた焼結鋼が得られる。その結果、焼結機械部品の寿命を著しく改善できるので、新たな用途への適用が可能になる点で非常に有用である。
Claims (10)
- Ni:0.2〜8重量%,
C :0.20〜1.0重量%,
残部:鉄及び不可避的不純物
を満足すると共に、
焼結後に熱処理を加えない焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ:400以下である前記白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものであることを特徴とする高強度焼結鋼。 - Ni:0.2〜8重量%,
C :0.20〜1.0重量%,
Cu:0.5〜4重量%及び/又はMo:0.2〜5重量%,
残部:鉄及び不可避的不純物
を満足すると共に、
焼結後に熱処理を加えない焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ:400以下である前記白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものであることを特徴とする高強度焼結鋼。 - 焼結鋼中に占める残留オーステナイト相の割合(X)は、
[Ni]×[C] ×3体積%以下
{[ ]は各元素の含有量(重量%)を夫々意味する}
を満足するものである請求項1または2に記載の高強度焼結鋼。 - 平均粒径1.0〜5μmのNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用いて焼結することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高強度焼結鋼の製造方法。
- 平均粒径5μm以下のNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用い、溶剤を加えて混合した後、溶剤を蒸発させてから焼結することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高強度焼結鋼の製造方法。
- Ni:0.2〜8重量%,
C :0.20〜1.0重量%,
残部:鉄及び不可避的不純物
を満足すると共に、
焼結後に熱処理を加えて得られる焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ:400以下である前記白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものであることを特徴とする高強度焼結鋼。 - Ni:0.2〜8重量%,
C :0.20〜1.0重量%,
Cu:0.5〜4重量%及び/又はMo:0.2〜5重量%,
残部:鉄及び不可避的不純物
を満足すると共に、
焼結後に熱処理を加えて得られる焼結鋼の断面視野において観察される残留オーステナイト相主体の白色領域のうち、長径:60μm以上であり且つ中心部のヴィッカース硬さ:400以下である前記白色領域が5個以下/mm2 に抑制されたものであることを特徴とする高強度焼結鋼。 - 焼結鋼中に占める残留オーステナイト相の割合(X)は、
[Ni]×[C] ×3体積%≦X≦[Ni]×[C] ×8体積%
([ ]は前と同じ意味)
を満足するものである請求項6または7に記載の高強度焼結鋼。 - 平均粒径1.0〜5μmのNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用いて焼結した後、熱処理することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の高強度焼結鋼の製造方法。
- 平均粒径5μm以下のNi粉,C粉,及び必要によりCu粉及び/又はMo粉,残部:鉄粉よりなる原料粉末を用い、溶剤を加えて混合した後、溶剤を蒸発し、焼結してから更に熱処理することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の高強度焼結鋼の製造方法。
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