JP3712988B2 - 固体高分子型燃料電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポータブル電源、電気自動車用電源、家庭内電源システム等に使用される常温作動型の固体高分子型燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
常温作動型の固体高分子型燃料電池は、水素などの燃料ガスと酸素などの酸化剤ガスを電気化学的に反応させて発電する。また、この反応により同時に発生する熱も利用されている。
固体高分子型燃料電池の基本単位は、以下のようにして構成される。スルホン基を有するフッ素樹脂からなる高分子電解質膜の両面には、白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層が密着して形成されている。さらに各触媒層の外面には、ガス通気性および導電性を備えた電極層が密着して形成されている。一対の電極層の外側には、これらの電極層および電解質の接合体を機械的に固定するとともに、隣接する接合体を互いに電気的に直列に接続するための導電性のセパレータ板が配されている。セパレータ板の電極層に対向する表面には、電極層に均一にガスを供給するための溝状の流路が形成されている。
【0003】
一対の電極層のうち、一方には水素などの燃料ガスが供給され、他方には酸化剤ガスが供給される。以下、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスに酸素を用いた場合について説明する。
外部より供給された水素ガスは、水素ガス供給側の電極、すなわちアノードの表面を通過中に電極層に取り込まれる。その後、水素ガスは、電極層内部を伝搬して触媒層に到達する。触媒層の内部の高分子電解質が存在する領域に水素ガスが達すると、高分子電解質と水素ガスの間で電気化学反応が生起される。水素ガスは、イオン化されて高分子電解質膜の内部に取り込まれる。一方、酸素ガス供給側の電極、すなわちカソード側では、酸素ガスはカソード表面を通過中に電極層に取り込まれ、電極層の内部を通過してカソード側の触媒層に到達する。カソード側の触媒層に達した酸素ガスは、電解質膜を通ってアノード側から供給された水素イオンと反応して水蒸気となる。このとき、電子は外部負荷を通ってアノードからカソードへ移動する。この電子の移動を電力として利用する。また、このような水素と酸素の電気化学的反応により熱が生じることから、電池内部に冷却水を循環させることにより、電池の温度上昇を抑制するとともに、電池で加温された水は熱エネルギー源としても利用されている。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、通常、室温から80℃ぐらいまでの温度範囲で作動する。そのため、カソード側の触媒層で電気化学反応の結果生成された水蒸気の多くは水となって触媒層の近傍に結露する。この結露した水が触媒層近傍に停滞すると、酸素ガスが反応部位である触媒層に届かなくなり、電池性能が低下する。一方、アノード側では、水は生成されないが、カソード側で生成された水が高分子電解質膜を浸透して触媒層に侵入したり、電解質膜を乾燥させないために燃料ガス中にあらかじめ混入させている水蒸気が結露して触媒層に停滞すると、水素ガスが反応部位に供給されなくなって同様に電池性能が低下する。
【0005】
そこで、従来より、反応部位である触媒層の濡れ具合を良好に維持するために、電極層に撥水処理を施したり、電極層の表面を流れるガスの流速を大きくすることによって、電極層に付着した余分な生成水や結露水を排除するなど、様々な努力が積み重ねられてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、撥水処理を施された電極層は、たとえば高電流密度で出力して水が大量に生成されるときや、ガス流量を小さくしたときなど、電池の運転条件によっては、生成あるいは結露した水の除去が困難となり、電池性能の低下を招いていた。さらに甚だしいときは、電極層表面のガス流路自体が閉塞し、電池の出力が全く得られない状況に陥ることもしばしばあった。
本発明は、以上の問題点を解決し、電池の触媒層近傍からの水の排除を促進し、長期間の運転時や大電流の電池出力時における電極層の過剰な水濡れに起因する電池性能の低下を防止することのできる固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明では、電池ユニットに機械的振動を与える。比較的低い周波数の振動の印加は、電極の通気性孔を塞いだ生成水の除去よりも、溢れてガス流路を塞ぐようになった生成水の除去に対して大きな効果が得られるものと考えられる。一方、超音波のような周波数の高い振動の印加は、電極のガス通気孔を塞ぐような生成水の除去に対してより高い効果が得られる
【0008】
前記電極層には、撥水処理を施すことが好ましい。ここでは、撥水性を不均一にし、撥水性を示す部分とそうでない部分を混在させる。これにより、触媒層で生成された水が撥水処理を施されていない部位を通ってガス流路側の面に浸み出やすくなる。また、濡れて水が停滞した部分と、ガスが流れている部分とがランダムに混在することから、ガスの流速が増す。これらの作用により電極内に過剰に停滞した水分が除去されやすくなるものと考えられる。
また、電極層に用いる多孔質材料に、それ自体が有するガス通気性孔とは別に、厚さ方向に貫通した孔を形成する。撥水性の多孔質体では、孔径の大きい部分から水が浸透していくことから、この孔から過剰の水分が浸み出てくる。その結果、ガス流により生成水が除去されやすくなる。特に、孔を複数個、ガス流路に対向する箇所、好ましくはガスの流速が大きいガス流路の中央線にそって列状に配することにより、さらに効率的に水分を除去できる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の固体高分子型燃料電池は、水素イオン伝導性の高分子電解質膜および高分子電解質薄膜の両面に触媒層を挟んでそれぞれ対向して配された一対の電極層からなる接合体と、電極層にガスを供給するためのガス供給流路および電極層からガスを排出するためのガス排出流路を備えた導電性のセパレータが交互に積層して配された発電部、並びに発電部に振動を付加する振動付加手段を具備する。
本発明の固体高分子型燃料電池の好ましい態様において、振動付加手段に、発電部に接して配された超音波振動装置を用いる。
本発明の固体高分子型燃料電池の他の好ましい態様において、超音波振動装置が、間欠的にまたは電池性能に連動させて振動を発生させる。
【0011】
本発明の固体高分子型燃料電池においては、電極層が、撥水性を有する多孔性材料からなる芯材部と、芯材部よりも水透過性の高い浸透部とを具備することが好ましい。本発明の固体高分子型燃料電池のさらに好ましい態様においては、電極層が、芯材部を主体とし、浸透部が、芯材部中に散在している。
【0012】
以上のような芯材部と浸透部は、たとえば、親水性を有する多孔性材料にむらをもたせた撥水処理を施すことにより形成する。電極層表面のうちの大部分は撥水処理を施されてもよいが、撥水処理を施さなれていない箇所、すなわち浸透部を粗に散在させる。撥水処理には、たとえばフッ素樹脂を含む撥水剤を用いる。
浸透部は、電極層を貫通した孔でもよい。また、浸透部は、撥水性を有していても、多孔体で芯材部のそれよりも径の大きい孔を有していれば、水滴は浸透部の孔に浸透することから、同様の効果が得られる。
浸透部は、ガス流路に対向する箇所に形成することにより、より大きな効果が得られる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。
《参考例1》
粒径が数ミクロン以下のカーボン粉末を塩化白金酸水溶液に浸漬し、還元処理によってカーボン粉末表面に白金触媒を担持させた。カーボン粉末とその表面に担持された白金の重量比は1:1であった。ついで、この白金を担持したカーボン粉末を高分子電解質のアルコール溶液中に分散させ、スラリーを調製した。
一方、電極層となる厚さ400ミクロンのカーボン不織布にフッ素樹脂粉末の水性ディスパージョン(ダイキン工業(株)製のネオフロンND−1)を両面から飛沫状にしてかけ、カーボン不織布の表面にフッ素樹脂粉末を不均一に付着させた。このカーボン不織布を乾燥し、ついで400℃で熱処理して、カーボン不織布電極7を得た。
【0014】
得られたカーボン不織布電極7は、水に濡らしたところ、全体的には撥水性を示したものの、少し時間がたつと水が内部に浸透した。顕微鏡による表面および断面の観察において、30ミクロンから数ミリの幅でフッ素樹脂が塗布されていない領域が散在していることが確認された。
【0015】
一方、同様のカーボン不織布に、フッ素樹脂の水性ディスパージョンを均一に塗布し、熱処理した。このカーボン不織布を水に濡らすと、不織布表面に付着した水は大きな水滴となり、部分的にも内部に浸透していくことはなかった。
【0016】
以上のようにして撥水処理を施したカーボン不織布電極7の片面に前記カーボン粉末を含むスラリーを均一に塗布、乾燥して触媒層を形成した。触媒層を備えた2枚のカーボン不織布電極7を、触媒層を備えた面を互いに向かい合わせ、両者の間に、スルホン基を有するフッ素樹脂からなる厚さが50ミクロンの高分子電解質膜1を挟んで重ね合わせた。ついで、これらを乾燥した。ここで、カーボン不織布電極7の長さおよび幅はともに5cmで、高分子電解質膜1の長さおよび幅はともに8cmであった。カーボン不織布電極7は、高分子電解質膜1の中央に配置した。このようにして得られた電極7と高分子電解質膜1の接合体では、高分子電解質膜1とカーボン不織布電極7が、白金を担持したカーボン粉末と高分子電解質からなる触媒層2によって結合されていることが確認された。
【0017】
電極7と高分子電解質膜1の接合体を、その両面から気密性を有するカーボン製のセパレータ板5で挟み込み、単電池を得た。ただし、特性評価用の電池には、図1に示すようにして単電池を3個積層したものを用いた。セパレータ板5は、厚さが4mmで、その表面には切削加工により幅および深さがいずれも1mmのガス流路4が同一方向に多数刻まれている。ここで、セパレータ板5と高分子電解質膜1との間を電気的に絶縁し、かつ内部のガスの漏出を抑制するために、フッ素系樹脂シートからなるシール材8を両者の間に挟み込んだ。
電池の単電池積層方向の両端面に冷却板をかねた端板を配し、積層方向に10kgf/cm2の圧力で加圧し固定した。アノードに燃料ガスとしての水素ガスをその利用率が60%になるように供給した。一方、カソードに酸化剤ガスとしての空気をその利用率が20%となるように供給した。また、それぞれのガス供給部には温度調節装置を設け、供給ガスの温度が、基本的に電池温度と同じになるように設定した。また、ガス供給部には加湿装置を設け、供給ガスの露点温度が電池温度より15〜35℃低くなるように湿度を設定した。
【0018】
本参考例の電池を300mA/cm2の電流密度で出力させたときの特性の経時変化を図2に示す。なお、比較例として、電極に均一な撥水処理を施した従来の電池の特性をあわせて示す。比較例の電池では運転開始後30分で出力が大きく低下し、約60分後には運転不能になった。これに対して、本参考例の電池は、運転開始当初に若干性能が低下するものの、長時間にわたって高い性能が維持された。
【0019】
《参考例2》
本参考例では、電極層に不均一な撥水処理を施す他の方法について説明する。
厚さが0.4mmのカーボン製不織布の表面に、融点が60〜90℃で粒径が0.01〜0.2mmのパラフィン粉末を散布した。ついで、この不織布を120℃に保持された恒温槽中に30分間、放置した。これにより、不織布上に付着したパラフィン粉末は、溶融し、不織布の内部に浸透した。恒温槽から取り出し、室温まで冷却した不織布を観察したところ、不織布を貫通して直径が0.02〜1mmの円筒状にパラフィンが浸透した領域が確認された。
この不織布を参考例1で用いたものと同様のフッ素樹脂粉末の水性ディスパージョンに浸漬し、乾燥した。ついで、この不織布を400℃で約1時間、熱処理した。パラフィンは熱処理の初期段階で気化するため、不織布をフッ素樹脂粉末のディスパージョンに浸漬した際にパラフィン上に付着したフッ素樹脂は、熱処理によって不織布繊維より剥離する。したがって、パラフィンが付着した箇所の繊維は熱処理されてもフッ素樹脂で被覆されない。一方、不織布のパラフィンが付着しなかった箇所の繊維には、ディスパージョンに浸漬した際にフッ素樹脂粉末が直接付着する。繊維に直接付着したフッ素樹脂は、熱処理によって溶融し、繊維を覆う撥水膜が形成される。以上のようにして得られた不織布には、それぞれ厚さ方向に貫通した撥水性を示す領域と塗れ性の高い領域が混在する。
【0020】
実際に、処理された不織布の表面に水を付着させると、塗れ性の高い箇所、すなわちフッ素樹脂で被覆されなかった箇所を通じて水が他方の面に透過することが確認された。
処理された不織布を用いて参考例1と同様の固体高分子型燃料電池を組み立てた。得られた電池を参考例1と同様に300mA/cm2の電流密度で出力させたところ、電池は1000分以上安定した出力を続けた。
【0021】
《参考例3》
本参考例では、撥水処理を施された不織布の粗密により、電極層の水透過性を制御する方法について説明する。
カーボン製の不織布を参考例1で用いたものと同様のフッ素樹脂粉末の水性ディスパージョンに浸漬し、不織布の表面にフッ素樹脂を付着させた。ついで、この不織布を400℃で約1時間熱処理して、不織布繊維の表面をフッ素樹脂で被覆した。
このように均一に撥水加工された不織布を荒くほぐして小片に分解した。ついで、これらを界面活性剤とバインダとしてのカルボキシメチルセルロースを適量加えた水中に投入したのち、水を撹拌した。不織布の繊維の一部は水を撹拌することにより、繊維ごとに分散するものの、繊維の塊が残存した。
このカーボン繊維を用いて再び不織布を作製した。得られた不織布には、先の撹拌によっても分散されなかった繊維からなる密な領域と、一旦分散した後凝結した繊維からなる粗な領域が混在していた。
【0022】
上記の不織布のような撥水性の多孔体においては、水透過性は多孔体表面の開口部の孔径に依存する。すなわち、径が大きい孔は、径が小さい孔と比べて水が内部に浸透しやすい。すなわち、上記不織布においては、粗な領域の水透過性は、密な領域のそれよりも高く、表面に付着した水は粗な領域に集まりやすい。
得られた不織布を用いて実際に参考例1と同様の固体高分子型燃料電池を組み立てた。電池を参考例1と同様に300mA/cm2の電流密度で出力させたところ、電池は1000分以上安定した出力を続けた。すなわち、電極反応で生成された水や凝結した水を、電極層の粗な領域を通じて外部に除去できることが確認された。
【0023】
《参考例4》
本参考例では、触媒層に貫通孔を形成することにより、触媒層で生成された水の除去を容易にする方法について説明する。
参考例1で用いたものと同様のフッ素樹脂の水性ディスパージョンを用いてカーボン不織布に均一な撥水処理を施した。ついで、このカーボン不織布に炭酸ガスレーザを用いて、微細な貫通孔を多数開け、これらを用いて参考例1と同様の燃料電池を組み立てた。ここで、表面にランダムに3〜5ヶ/cm2の割合で直径が50ミクロンの孔が形成されたカーボン不織布を用いて組み立てられた燃料電池を電池A、直径が50ミクロンの孔が対向するセパレータ板のガス流路の中央線に沿って3mm間隔で列状に形成されたカーボン不織布を用いた燃料電池を電池B、直径が100ミクロンの孔が電池Aで用いたカーボン不織布と同様の割合で形成されたカーボン不織布を用いた燃料電池を電池C、および直径が100ミクロンの孔が電池Bで用いたカーボン不織布と同様の割合で形成されたカーボン不織布を用いた燃料電池を電池Dとする。ここで、孔の径は、カーボン不織布に用いられているカーボン繊維の径の10倍程度を目安にしたものである。
【0024】
以上の4種類の電池の特性の経時変化を追跡した。その結果を図3に示す。
図3に示すように、孔を開けていないカーボン不織布を用いた比較例の電池と比べて、参考例の電池はいずれも長時間安定した出力が得られた。図3は、電流密度が300mA/cm2で水素の利用率を60%、空気の利用率を20%としたときの特性を示したものである。電流密度を500mA/cm2とし、水素の利用率を80%、空気の利用率を40%としたときには、対向するセパレータ板のガス流路の中央線に沿って孔を規則的に配列したカーボン不織布を用いた電池Bおよび電池Dの性能が際だって良かった。また、孔の径が50ミクロンの電池Bより、孔の径が100ミクロンの電池Dの方が高い性能を示した。これは、電流密度や利用率を上げると、排除しなければならない水の生成速度に対して、それを運び去るガスの流速が相対的に小さくなるので、孔の径が大きいほうが生成水をより効果的に排除しやすいためと考えられる。
【0025】
《実施例1》
本実施例では、燃料電池に振動を付加することにより、触媒層で生成された水の電池系外への排出を促進する方法について説明する。
参考例1で比較例として用いたものと同様の従来構成の単電池を3セル積層した。この積層体の両端面にそれぞれ金属製の端板を配し、両者間を連結して積層体を加圧するようにした。これにより、電池ユニット(電極面積100cm2)を得た。得られた電池ユニットを機械振動台の上に固定し、電池運転中、連続的にまたは断続的に電池ユニットを1〜50サイクル/秒で振動させた。
一方、より周波数の高い振動を付与するために、同様の電池ユニットの端板に超音波振動子(出力50W)による超音波振動板をネジで取り付けて固定した。
このとき、超音波による生成水の排除効果をより効果的にする目的で、端板と電池との間には音波減衰が少なく軽くて堅い材料であるアクリル樹脂を電気的絶縁板として挟んだ。なお、超音波振動子にはその出力と出力時間を調整できるような電気回路を併設した。
【0026】
電池に、水素ガスおよび空気をアノード側の水素の利用率が60%、カソード側の空気の利用率が20%となるように供給した。また、それぞれのガス供給部には温度調節装置および加湿装置を設け、供給ガスの温度は電池温度と同じ程度に設定し、露点温度は電池温度より15〜35℃低くなるようにした。
【0027】
図4に、これら振動印加手段を備えた燃料電池の電圧の比較的短時間の経時変化を示す。
300mA/cm2の電流密度で出力を続けると、振動を印加されていない比較例の電池では運転開始後30分で電圧が大きく低下し、約60分後には運転不能になった。これに対し、振動を加えられた本実施例の電池は、いずれもその性能が改善されることが分かる。すなわち、比較例である従来の電池は、時間の経過とともに電池特性は低下し続けるが、振動台の上で振動を与えながら運転を続けた実施例の電池では、初期に一旦電池性能が低下するものの、一定の段階で定常状態に達した。この効果は、振動周波数の高いものほど顕著であった。このような機械的振動台の上で比較的低い周波数の振動を与える方式は、電極の通気性孔を塞いだ生成水の除去にはそれほど効果を発揮しないが、溢れてガス流路を塞ぐようになった生成水の除去には効果を有するものと思われる。
【0028】
超音波を印加された電池では、生成水の除去を促進する効果が著しく、特に連続的に超音波を発生させたものでは、電池運転開始直後から性能の低下はほとんど認められなかった。これより、周波数の高い振動は、電極のガス通気孔を塞ぐような生成水の除去に、より効果があると推察される。超音波振動子を断続的にあるいは間欠的に作動させた電池においても、電池性能は超音波振動子の停止時に若干下がるものの、超音波振動の再開直後に急激に復活することもわかった。
したがって、エネルギー効率、騒音、振動による電池の機械的損耗などを考慮すると、実用化に際しては、超音波振動子を間欠的に作動させる方式がより魅力的である。
【0029】
参考
参考例では、電池に供給するガスの圧力を間欠的に高くし、触媒層や電極層近傍に停滞した生成水の排除を促進する方法について説明する。
参考例1で比較例に用いたものと同様の単電池を3個積層した電池ユニット(電極面積100cm2)に対し、アノードガスおよびカソードガスを供給するガス管にガスシリンダ(シリンダ体積1000cm3)を取り付け、それぞれの吸入したガスを瞬時に間欠的にガス管内に放出できるようにした。また、ガスシリンダを取り付けたガス管の上流側にはガスの逆止弁を取り付け、シリンダより放出されたガスが逆流せず、圧力が電池内部に効果的に伝わるようにした。ガス管の電池接続部付近には圧力センサを設け、さらに圧力センサと連動してシリンダを駆動させ供給ガスに圧力を印加できる電気的駆動装置をシリンダに取り付けた。
【0030】
この圧力印加装置を用いた電池の連続試験を行い、その特性の経時変化を追跡した。これによると、圧力印加装置を作動させないときは、従来の電池と同様に300mA/cm2の電流密度で出力を続けると、60分程度で連続運転が不能になるほど電池性能が低下した。しかしながら、5000〜10000パスカルの圧力を10分程度の間隔で0.5秒間、断続的に印加した電池では、パルス圧の印加の度に電池特性が回復した。これは、供給ガスの間欠的加圧によって、一時的に触媒層・電極層を流れるガスの流速が拡大し、停滞していた結露水が除去されることによるものと考えられる。
【0031】
今回の実験では、圧力印加による膜の破損など電池に与える影響を考慮し、アノード側への圧力印加とカソード側への圧力印加は同期させたが、それぞれ別々に圧力を印加してもよい。また、アノード側またはカソード側の一方のみに圧力を印加しても効果を有することは十分に推察される。
圧力を印加する時間については、実験に用いた電池系では0.5秒から1.0秒あれば電池性能の回復に充分であることがわかったが、この時間は電池の内部構造に依存すると考えられる。したがって、異なる構造の電池においては、これらを考慮して任意に決定すればよい。また、印加圧力についても、同様に電池の内部構造等を考慮して決定すればよい。
さらに、今回の参考例では圧力印加の手段としてガスシリンダを用いたが、補助ボンベと電磁弁を用いたシステムなどの他の手段を用いても良い。
【0032】
【発明の効果】
本発明によると、燃料電池の触媒層や電極層の近傍に停滞した水を効果的に電池系外へ除去することができ、酸素の触媒層の反応部へのスムーズな供給が可能になる。したがって、長期間にわたって高い性能を維持する燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例および参考例の固体高分子型燃料電池の要部を示す縦断面図である。
【図2】本発明の参考例の固体高分子型燃料電池の出力電圧の経時変化を示した特性図である。
【図3】本発明の他の参考例の固体高分子型燃料電池の出力電圧の経時変化を示した特性図である。
【図4】本発明の実施例の固体高分子型燃料電池の出力電圧の経時変化を示した特性図である。
【符号の説明】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
4 ガス流路
5 セパレータ板
7 カーボン不織布電極
8 シール材

Claims (3)

  1. 水素イオン伝導性の高分子電解質膜および前記高分子電解質膜の両面に触媒層を挟んでそれぞれ対向して配された一対の電極層からなる接合体と、前記電極層にガスを供給するためのガス供給流路および前記電極層からガスを排出するためのガス排出流路を備えた導電性のセパレータが交互に積層して配された発電部、並びに前記発電部に振動を付加する振動付加手段を具備する固体高分子型燃料電池。
  2. 前記振動付加手段が、前記発電部に接して配された超音波振動装置である請求項1記載の固体高分子型燃料電池。
  3. 前記超音波振動装置が、間欠的にまたは電池性能に連動させて振動を発生させる請求項2記載の固体高分子型燃料電池。
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