JP3709833B2 - フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト系ステンレス冷延鋼板用の素材として好適な熱延鋼板とその製造方法、およびリジング性−深絞り性に優れた冷延フェライト系ステンレス鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フェライト系ステンレス鋼板は、同程度の強度を有する普通鋼の高張力深絞り鋼板に比べて延性−r値のバランスが悪いことが知られている。このため、従来、フェライト系ステンレス鋼板を、自動車用強度部材をはじめ、家電、厨房、建材等の複雑な絞り加工用途に用いる場合には、深絞り性の改善(r値向上)が必要であった。また、フェライト系ステンレス鋼板を加工した場合、製品表面に生じる凹凸(リジング、ローピング)が問題となることがあり、この問題の解決も重要な課題となっていた。
【0003】
深絞り性を改善する方法については、例えば、特開平3-264652号公報には、熱延条件や熱延板焼鈍温度の適正化に加えて、ロール径を100mmφ以上とすることにより、r値を改善する技術が開示されている。また、特開平7-268461号公報には、熱延工程における温度、圧下率および摩擦係数を制限することより、高r値鋼板を得る技術が開示されている。これらは、いずれも熱延条件を適正化して熱延板の特性を改善する技術である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、リジング性や成形性に大きな影響を及ぼすもう一つの重要な要因として、熱延板焼鈍の問題がある。しかし、上記従来技術では、この熱延板焼鈍については詳しく検討はなされておらず、単に温度の適正範囲を決定するに止まり、とくに熱延板焼鈍後の鋼板の特性が、最終冷延板の鋼板特性にどのような影響を及ぼすかということまでは考慮していないのが実情である。
【0005】
本発明の目的は、自動車用強度部材等のリジング性および深絞り性の改善が強く求められているフェライト系ステンレス冷延鋼板の素材として好適な熱延焼鈍板とその製造方法、およびこの熱延焼鈍板を素材としたリジング性−深絞り性バランスの優れたフェライト系ステンレス鋼冷延鋼板の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、年々厳しくなるフェライト系ステンレス鋼板のリジング性、深絞り性等の加工性向上への要求に応えるため、特に熱延板焼鈍技術に着目して研究を行った。その結果、最終冷延板のリジング性および深絞り性(r値)には、熱延焼鈍板の特性、特に熱延焼鈍板の再結晶率と結晶粒径のアスペクト比が大きく影響しており、そして、これらの特性に優れた最終冷延板を得るためにはまた、熱延焼鈍板の特性を制御することが重要になるという知見を得た。
【0007】
すなわち、本発明は、C:0.01mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、Cr:11〜30mass%、Mo:3.0mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Al:1.0mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.8mass%以下および/またはTi:1.0%以下、18≦Nb/(C+N)+2(Ti/(C+N))≦60を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、熱延板焼鈍後における鋼板の再結晶率が95%以上でかつ圧延方向断面の結晶粒のアスペクト比(板厚方向長/圧延方向長)が0.8以下であるフェライト系ステンレス熱延鋼板である。
また、本発明は、上記熱延鋼板に、冷間圧延および仕上焼鈍を施してなるフェライト系ステンレス冷延鋼板である。
【0008】
また、本発明は、C:0.01mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、Cr:11〜30mass%、Mo:3.0mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Al:1.0mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.8mass%以下および/またはTi:1.0%以下、
18≦Nb/(C+N)+2(Ti/(C+N))≦60
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、次いで、鋼板の再結晶率を95%以上かつ圧延方向断面の結晶粒径のアスペクト比(板厚方向長/圧延方向長)を0.8以下とする熱延板焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼熱延鋼板の製造方法である。
【0009】
また、本発明においては、上記熱延板焼鈍を2回以上行い、2回目以降の熱延板焼鈍は1回目の焼鈍の焼鈍温度よりも30℃〜200℃低い温度で行うことが好ましい。
【0010】
さらに、本発明においては、上記の熱延焼鈍板に対し、さらに、1回好ましくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延の後、仕上焼鈍を行い最終冷延板とすることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明において、成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。
C:0.01mass%以下
Cは、侵入型元素であり、多量に含有すると鋼を硬質化し、延性を低下させる。また、Cは、炭化物となって粒界に析出すると、耐二次加工脆性、粒界腐食性を低下させる。とくにC量が0.01mass%を超えると、機械的性質や耐食性の低下が顕著となるので、0.01mass%以下に限定する。なお、C量は、低いほど耐食性や機械的性質の改善には有効であるが、製鋼における精錬コストを考慮すると、下限は0.0002mass%超え、上限は0.008mass%とすることが望ましい。
【0012】
Si:1.0mass%以下
Siは、耐酸化性、耐食性の向上に有効な元素であり、とくに大気環境での耐食性を向上させる。その効果を発揮させるためには、0.2mass%以上の添加が好ましい。しかし、1.0mass%を超えて含有すると、鋼の機械的性質とくに靭性や溶接部の耐二次加工脆性を劣化させ、また製造性も阻害するので、1.0mass%以下に限定する。好ましくは、0.1〜0.6mass%の範囲に限定する。
【0013】
Mn:1.5mass%以下
Mnは、耐酸化性の向上に有効な元素であるが、過剰に含有すると、鋼の靭性を劣化させ、溶接部の耐二次加工脆性を劣化させるので、1.5mass%以下に限定する。好ましくは、0.1〜1.0mass%の範囲に限定する。
【0014】
Cr:11〜30mass%
Crは、耐酸化性および耐食性の向上に有効な元素であり、これらの十分な効果を得るためには、11mass%以上の含有が必要である。さらに、溶接部や隙間部の耐食性を確保するためには14mass%以上の含有が好ましい。一方、Crは、鋼の加工性を低下させる元素であり、特に30mass%を超えて含有すると、たとえr値が高い場合でも、強度の増加や延性の低下のため加工性の劣化が顕著となる。このため、Cr含有量は11〜30mass%の範囲に制限する。好ましくは、11〜23mass%である。
【0015】
Mo:3.0mass%以下
Moは、耐食性、特に耐孔食性の向上に有効な元素である。ただし、3.0mass%を超えて含有すると、熱処理時に析出物を生じて硬質化し、割れ等の加工性の劣化を招く。よって、Mo含有量は3.0mass%以下、好ましくは2.0mass%以下とする。一方、下限値は、耐食性と加工性の観点から、0.3mass%以上の添加が好ましい。しかし、Mo添加は加工性を低下させるので、耐食性が重視されない場合には、必ずしも添加する必要はない。
【0016】
P:0.06mass%以下
Pは、粒界に偏析しやすい元素であるため、Bを含有した場合には、Bの粒界強化作用を低減し、溶接部の耐二次加工脆性を劣化させる。また、加工性や靭性、高温疲労特性も劣化させる傾向があり、耐孔食性の劣化も招くので、できる限り低い方が望ましく、0.06mass%以下、好ましくは0.03mass%以下とする。しかし、過度の低P化は製鋼コストの上昇を招くため、特性との兼ね合いから、下限の値は0.01mass%とするのがよい。
【0017】
S:0.03mass%以下
Sは、耐食性を劣化させるので、低減することが望ましい。しかし、Pと同様、過度の低減は製鋼コストの上昇を招くため、特性との兼ね合いも考慮し、0.03mass%以下、好ましくは0.010mass%以下とする。
【0018】
Al:1.0mass%以下
Alは、製鋼における脱酸剤として添加する必要が、過度の添加は、介在物を生成し、表面外観および耐食性を劣化させるので1.0mass%以下とする。好ましくは、0.001〜0.6mass%の範囲とするのがよい。
【0019】
N:0.04mass%以下
Nは、粒界を強化し靭性を向上させる。しかし、0.04mass%を超えて含有すると、窒化物となって粒界に析出し、耐食性を劣化させるので、0.04mass%以下に限定する。
【0020】
Nb:0.8mass%以下および/またはTi:1.0mass%以下かつ
18≦Nb/(C+N)+2(Ti/(C+N))≦60
Nb,Tiは、固溶C,Nを炭窒化物として固定することにより、耐食性や深絞り性(平均r値)を向上させる効果を有しており、単独もしくは複合して添加する。その効果を得るためには、それぞれ0.01mass%以上を含有させることが望ましい。一方、Nb含有量が、0.8mass%を超えると靭性の劣化を招き、また、Ti含有量が、1.0mass%を超えると、外観および靭性の劣化を招くため、Nbは0.8mass%以下、Tiは1.0mass%以下に限定する。
また、鋼中のC,Nを炭窒化物として固定し、一層優れた加工性を確保するには、18≦Nb/(C+N)+2(Ti/(C+N))≦60の関係を満たすように合金設計する。ここで、C,N,Nb,Tiの各含有量(mass%)を、上記のように限定する理由は、18未満となると、鋼中のC,Nを炭窒化物として充分に固定できないため、加工性、耐食性が著しく低下し、一方、60を超えると、炭窒化物の析出物が増加して、加工性が低下するためである。
【0021】
本発明の鋼板は、上記各成分の他に、Feおよび不可避的不純物を含む鋼である。ただし、Niは、耐食性の向上に有効な元素であるため、必要に応じて2.0mass%以下の範囲で添加してもよい。また、Co,Bは、粒界脆性改善の観点から、それぞれ0.3mass%以下、0.01mass%以下の範囲で含有することができる。さらに、Zr:0.5mass%以下、Ca:0.1mass%以下、Ta:0.3mass%以下、W:0.3mass%以下、Cu:1mass%以下およびSn:0.3mass%以下の範囲内で含有していても、本発明の効果に特に影響を及ぼすものではない。
【0022】
次に、本発明において、最も重要な役割を担う熱延板焼鈍について説明する。熱延焼鈍材は、スラブ加熱、熱間粗圧延、熱間仕上圧延、1回または2回以上の熱延板焼鈍の工程を経て製造される。そして、冷延鋼板は、前記熱延焼鈍板をさらに、酸洗、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延および仕上焼鈍の各工程を経て製造される。以下、本発明に係る熱延板、冷延板の製造条件について、各工程毎に説明する。
【0023】
(1)スラブ加熱
上記の成分組成を有する鋼スラブは、偏析防止の観点から連続鋳造により製造することが好ましい。この鋼スラブは、熱間圧延するに当たり、再加熱される。このスラブ加熱温度が低すぎると、所定の条件での粗圧延が困難となる。一方、加熱温度が高すぎると、熱延板の板厚方向の集合組織が不均一になるとともに、Ti4C2S2析出物が溶解し、最終冷延前の鋼板中の固溶Cが増大する。
このため、スラブの加熱温度は、1000〜1200℃の範囲とするのが好ましい。より好ましい温度範囲は1100〜1200℃である。
【0024】
(2)熱間粗圧延
熱間粗圧延(以下、「粗圧延」と略記する)は、少なくとも1パスを、圧延温度850〜1100℃、圧下率50%以上の条件で行うのが好ましい。
粗圧延の圧延温度が850℃未満では、再結晶が進みにくく、スラブの柱状組織に起因した粗大な(100)コロニーの残存により、仕上焼鈍後の加工性が劣り、また圧延ロールへの負荷が大きくなり、ロール寿命が短くなる。一方、1100℃を超えると、フェライト結晶粒が粗大化し、{111}核発生サイトとなる粒界面積が減少し、仕上焼鈍後の鋼板のr値低下を招くことになる。したがって、粗圧延の圧延温度は850〜1100℃にする。さらに、好ましい温度範囲は900〜1050℃である。また、粗圧延の1パス当たりの圧下率が50%未満では、板厚方向の中心部に、バンド状の未再結晶組織が残存し、深絞り性を劣化させる。しかし、粗圧延の1パス当たりの圧下率が75%を超えると、圧延時にロールと鋼板の焼き付けを起こし、また、圧延ロールへの噛み込み不良を生じる危険がある。このため、圧下率は50〜60%の範囲が好ましい。
【0025】
なお、鋼の高温強度が低い材料では、粗圧延時に鋼板表面に強い剪断歪みが生じて、板厚中心部に未再結晶組織が残り、また、ロールと鋼板の焼き付きを生じることもある。このような場合には、必要に応じて、摩擦係数0.3以下になるような潤滑を施してもよい。
上述した圧延温度と圧下率の条件を満たす粗圧延を、少なくとも1パス行うことにより、深絞り性が向上する。この1パスは、粗圧延のどのパスで行ってもよいが、圧延機の能力からは、最終パスで行うのが最も好ましい。
このような粗圧延に引き続き、下記の条件を満たす仕上圧延を行うことにより、さらに加工性が改善される。
【0026】
(3)熱間仕上圧延
粗圧延に続く熱間仕上圧延(以下、「仕上圧延」と略記する)は、少なくとも1パスを、圧延温度650〜900℃、圧下率20〜40%で行うのが好ましい。
圧延温度が650℃未満では、変形抵抗が大きくなって20%以上の圧下率を確保することが難しくなるとともに、ロール負荷が大きくなる。一方、仕上圧延温度が900℃を超えると、圧延歪の蓄積が小さくなり、次工程以降における加工性の改善効果が小さくなる。このため、仕上圧延温度は650〜900℃、さらに好ましくは、700〜800℃の範囲で行うのがよい。
【0027】
また、仕上圧延時に、650〜900℃での圧下率が20%未満では、加工性の低下やリジングの原因になる(100)//ND、(110)//NDコロニー(横田ら、川崎製鉄技報、30(1998)2,p115)が大きく残存する。一方、40%を超えると、噛み込み不良や鋼板の形状不良を引き起こし、鋼の表面性状の劣化を招く。よって、仕上圧延においては、圧下率20〜40%の圧延を少なくとも1パス以上行うのがよい。より好ましい圧下率範囲は25〜35%である。
上述した圧延温度と圧下率の条件を満たす仕上圧延を、少なくとも1パス行うことにより深絞り性は改善される。その1パスは、どのパスで行ってもよいが、圧延機の能力から、最終パスで行うのが最も好ましい。
【0028】
(4)熱延板焼鈍
熱延板焼鈍は、上述したとおり、本発明の工程の中で最も重要な工程である。最近の熱延技術の発達に伴う制御圧延や潤滑圧延の採用により、熱延鋼板の特性改善が進んでいるが、これら熱延での特性改善効果を最大限に生かすには、その後の焼鈍条件の適正化が重要である。特に、本発明において、リジング性と深絞り性(r値)をバランスよく改善するためには熱延板焼鈍温度の制御が重要である。
【0029】
本発明のステンレス鋼板において、リジングの発生を抑制するためには、熱延板の段階で未再結晶組織を残存させないことが必要である。すなわち、発明者らは、熱延板の特性とリジングとの関係を詳細に調査した結果、リジングの発生を防止するためには、熱延板の状態で、再結晶組織(再結晶率)が95%以上でかつ圧延方向断面における結晶粒のアスペクト比(板厚方向長/圧延方向長)が0.8以下である時に、リジングが最も良好であることを見出した。なお、再結晶率を95%以上としたのは、再結晶率は高いほど好ましいが、熱延条件によっては板厚方向で再結晶挙動が異なるためである。好ましくは98%以上である。また、アスペクト比(板厚方向長/圧延方向長)が0.8を超えて球状に近くなると、r値が低下するので0.8以下とする。しかし、0.4以下となると再結晶率95%以上を確保することが難しくなるので、0.4〜0.6の範囲とするのが好ましい。
【0030】
一方、r値改善のためには、熱延板中の固溶Cを可能な限り低減することが必要である。熱延鋼板中に固溶したCは、冷延後の仕上焼鈍時における{111}集合組織の成長を阻害し、最終冷延板のr値の低下を招くからである。
ところで、上述したように、リジング性を改善するためには再結晶率を上げる必要があり、このためにはできる限り高温で焼鈍を行う必要がある。しかし、焼鈍温度の高温化は、固溶中Cを固定した炭化物を再溶解させ、固溶C量を増加させることになるため好ましくない。
【0031】
そこで、熱延板焼鈍を2回以上に分けて行い、1回目の焼鈍は再結晶を主目的とし、2回目以降の焼鈍は熱延鋼板中の固溶Cを炭化物として析出させ、固溶Cを低減することを主目的とする焼鈍法を採用するのが好ましい。1回目の熱延板焼鈍は、目的とする再結晶率とアスペクト比を確保するため、800〜1100℃、好ましくは、800〜1050℃で焼鈍するのが良い。また、2回目以降の焼鈍は、固溶C量を低減するため、初回の焼鈍温度より30℃から200℃低い温度で焼鈍する必要があり、均熱時間は30秒以上が好ましい。
このような2回以上の熱延板焼鈍は、475℃脆性の観点から巻取温度を450℃以下に制御する必要がある高Cr−Mo含有鋼の熱延板に対し特に効果的である。
【0032】
なお、固溶C量は、時効指数を測定することにより推定することができる。この指数は、JIS 5号引張試験片を引張方向が圧延方向となるように採取し、常温で7.5%予歪後の引張応力と、その試験片をさらに100℃×30分時効後、再度引張試験を行った時の降伏応力との差を云い、r値向上のためには、20MPa以下とすることが好ましい。
【0033】
(5)冷間圧延
冷間圧延は、1回冷延法好ましくは中間焼鈍を挟んだ2回以上の冷延法とする。また、全圧下率は、1回冷延法、2回以上の冷延法の場合とも75%以上とする。全圧下率の増加は、仕上焼鈍板の{111}集積度の向上に寄与し、r値向上に有効である。平均r値1.5以上を満たすためには、全圧下率は75%以上、好ましくは80〜90%未満とするのが好ましい。
なお、2回以上の冷延法の場合には、この全圧下率を2回以上に分けて圧延する。ただし、この場合、(1回目冷延の圧下率)/(最終冷延の圧下率)で表される圧下比を、0.7〜1.3として行う。この圧下比は、最終冷延前の結晶粒径、中間焼鈍板中の{111}集合組織の発達、仕上焼鈍板中の{111}集積度の向上と密接な関係がある。高r値化を達成するには、この圧下比を0.7〜1.3とするのが好ましく、より好ましくは0.8〜1.1の範囲として冷間圧延するのがよい。なお、各回の冷間圧延の圧下率は、いずれも50%以上とし、各回の圧下率の差を30%以下とするのが望ましい。各回の圧下率が50%未満でも、圧下率差が30%超えでも、{111}集積度が低くなり、r値が低下する。
【0034】
さらに、本発明における冷間圧延においては、被圧延材表面の剪断変形を低減し、(222)/(200)のX線積分強度比を高めて、r値の向上を図るためには、ロール径と圧延方向の影響を考慮することが望ましい。すなわち、通常、ステンレス鋼板の最終冷延は、表面光沢を得るために、ロール径が例えば200mmφ以下のワークロールを用いて行われる。しかし、本発明では、ロール径300mmφ以上の大径ワークロールを使用することが好ましい。また、本発明においては、タンデム圧延を採用し、さらに、2回以上の冷間圧延の場合には、いずれの冷間圧延も、1方向に圧延するのが好ましい。上記理由は、ロール径100〜200mmφのリバース圧延に比べ、300mmφ以上のロール径を有するタンデム圧延機による1方向圧延の方が、表面の剪断変形を低減し、{111}組織を増加し、r値を高めるうえで効果的であるからである。
なお、より高r値を安定して得るため、線圧(圧延荷重/板幅)を増大させて板厚方向に均一に歪を与えることも効果的である。このためには、熱延温度の低下、高合金化、熱延速度の増加を適宜組み合わせることが有効である。
【0035】
(6)中間焼鈍
2回以上の冷延法における中間焼鈍は、2回目以降の熱延板焼鈍と同様の理由により、重要な工程である。すなわち、中間焼鈍後の鋼板は、未済結晶組織が残存せず、かつ固溶Cの低減を図る必要がある。
この中間焼鈍の焼鈍温度が750℃に満たない場合には、再結晶が不十分となり、平均r値が低下するとともに、バンド状組織に起因して、リジングが著しくなる。一方、1000℃を超えると、組織が粗大化するとともに、炭化物が再固溶し、鋼中の固溶Cが増大し、深絞り性に好適な集合組織の形成を阻害する。
また、2回冷延法の場合、仕上焼鈍板を微細粒かつ高r値とするためには、最終冷延直前におけるフェライト結晶粒径を50μm以下とすることが好ましい。
これらのことから、中間焼鈍温度は、焼鈍後の固溶Cが低く、結晶粒径50μm以下を満たし、かつ未再結晶組織が残存しない温度範囲で低温ほどよく、750℃〜1000℃の範囲が好ましく、さらには熱延板焼鈍温度より50℃以上低い温度とするのがより好ましい。
【0036】
(7)仕上焼鈍
仕上焼鈍は、高温で焼鈍するほど、{111}粒が選択的に成長し、高い平均r値が得られる。しかし、焼鈍温度が800℃未満では、平均r値1.5以上を確保できないばかりか、鋼板板厚の中央にバンド状の組織が残存し、深絞り性を阻害する。また、平均r値の増大を図るには、高温焼鈍が有効であるが、高温に過ぎると結晶粒が粗大化し、加工後に肌荒れが生じ、成形限界の低下と耐食性の劣化をもたらす。このため、仕上焼鈍温度は、好ましくは結晶粒径50μm以下を確保できる範囲で、高温であるほど良い。本発明の鋼板では、850〜1050℃の温度範囲で仕上焼鈍するのが好ましい。
【0037】
なお、以上説明した本発明の鋼板を溶接する場合には、TIG、MIGを始めとするアーク溶接、電縫溶接、レーザー溶接など、通常の溶接方法はすべて適用可能である。
【0038】
【実施例】
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
なお、以下の実施例においては、表1に示した5種類の成分組成を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により製造したスラブを素材として用いた。
(実施例1)
表1に示した、請求項1の成分組成を満たす鋼3および比較鋼である鋼5の鋼スラブを、1150℃に加熱後、仕上温度を780℃とする熱間圧延を行い、板厚5.0mmの熱延鋼板とした。この鋼板に焼鈍温度を変えて熱延板焼鈍を1回行った後、サンプルを採取し、焼鈍後の再結晶率、アスペクト比および時効指数の測定を行った。なお、時効指数の測定は、前述の方法に従った。
その後、この熱延焼鈍板を、1mmの板厚まで冷間圧延(圧下率80%)し、仕上焼鈍して冷延板とした。この冷延鋼板から、試験片を採取し、リジング性および平均r値を測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
ここで、平均r値とは、JIS 13号B引張試験片を用いて測定した圧延方向のr値(rL)、圧延方向に対して45°方向のr値(rD)および圧延方向に村して90°方向のr値(rC)を基に、次式により求めた値である。
平均r値=(rL+2rD+rC)/4
また、リジング性は、圧延方向を引張方向にして切り出したJIS 5号引張試験片の両面を#600で湿式研磨し、その後、20%の歪を付与し、試験片表面に生じた凹凸のうねり高さを、粗度計を用いて、引張試験片の中央部を引張方向に直角に測定し、この値が15μm以下をランクA、16〜30μmをランクB、31〜45μmをランクC、46〜60μmをランクD、61μm以上をランクEとする5段階に評価した。なお、この評価がランクB以上であれば、成形限界曲線による成形性評価から、実用上問題ないレベルと判断できる。しかし、ランクC以下になると、r値をいくら向上させても成形限界が低下する。
【0041】
表2に、熱延焼鈍板および最終冷延板の特性調査結果を示した。請求項1の成分組成を満たす鋼3(Ti添加極低炭素鋼)では、熱延板焼鈍温度の上昇に従い、再結晶率が増加し、また再結晶率95%以上でアスペクト比の測定が可能となる。そして、再結晶率95%以上の熱延板から製造した冷延板は、平均r値も比較的良好で、かつリジング性もランクB以上であり、r値−リジング性のバランスに優れた鋼板が得られている。一方、比較鋼である鋼5(Nb,Ti無添加の低炭素鋼)では、熱延板焼鈍温度を980℃まで上げないと再結晶率95%以上が得られず、かつ焼鈍後の時効指数も高く、冷延板の平均r値、リジング性も劣ったものしか得られていない。以上のことから、平均r値とリジング性を兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼を得るためには、Nb,Tiを適量添加した極低炭素鋼を素材とし、熱延焼鈍後の鋼板の再結晶率を95%以上とすることが、有効であると言える。
【0042】
【表2】
【0043】
(実施例2)
本発明の成分組成を満たす鋼1,2および4の鋼スラブを、熱延条件を種々変化させて熱延鋼板とした後、再結晶率100%となる1回の熱延板焼鈍を行った。その後、実施例1と同条件で冷延板とした。この鋼板の、熱延焼鈍板のアスペクト比と冷延板の平均r値の関係を図1に示した。この図から、アスペクト比を0.8以下にすることにより、平均r値1.5以上の高r値が得られることがわかる。
【0044】
(実施例3)
本発明の成分組成を満たす鋼3の鋼スラブを、実施例1と同条件で熱間圧延して熱延鋼板とし、実施例1において再結晶率96%、アスペクト比0.55が得られた890℃で1回目の熱延板焼鈍を行った後、さらに2回目の熱延板焼鈍を、焼鈍温度を650〜960℃の範囲に変化させて行った。この熱延焼鈍板を、実施例1と同条件で冷延した後、仕上焼鈍し、冷延板とした。この時、2回目の熱延焼鈍後の鋼板について再結晶率、アスペクト比および時効指数を、また冷延板についてリジング性および平均r値を測定した。結果を表3に示した。
この表より、2回目の熱延板焼鈍温度が、1回目の温度より高くなると、再結晶率は向上するものの、炭化物の再固溶により固溶Cが増加して時効指数が増加し、最終冷延板の平均r値の劣化を招くことがわかる。一方、2回目の熱延板焼鈍温度が、1回目の焼鈍温度に対し200℃よりも下回ると、中間焼鈍後の組織が未再結晶組織になるとともに、炭化物の析出ノーズ以下の温度となり、逆に鋼中の固溶Cが多く残留することとなり、平均r値の劣化を招く。したがって、2回目の熱延板焼鈍温度は、1回目の焼鈍温度に対し、−30℃〜−200℃とすることが好ましい。
【0045】
【表3】
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、リジング性−深絞り性に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼板の素材として好適な熱延焼鈍板を得ることができる。また本発明によれば、自動車用強度部材のほか、家電、厨房、建材用途等、リジング性−深絞り性が必要な用途に好適に用いられるフェライト系ステンレス冷延鋼板の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 熱延焼鈍板のアスペクト比と冷延板の平均r値の関係を示した図である。
Claims (5)
- C:0.01mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、Cr:11〜30mass%、Mo:3.0mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Al:1.0mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.8mass%以下および/またはTi:1.0%以下、18≦Nb/(C+N)+2(Ti/(C+N))≦60を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、熱延板焼鈍後における鋼板の再結晶率が95%以上でかつ圧延方向断面の結晶粒のアスペクト比(板厚方向長/圧延方向長)が0.8以下であるフェライト系ステンレス熱延鋼板。
- 請求項1に記載の熱延鋼板に、冷間圧延および仕上焼鈍を施してなるフェライト系ステンレス冷延鋼板。
- C:0.01mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、Cr:11〜30mass%、Mo:3.0mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Al:1.0mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.8mass%以下および/またはTi:1.0%以下、18≦Nb/(C+N)+2(Ti/(C+N))≦60を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、次いで、鋼板の再結晶率を95%以上かつ圧延方向断面の結晶粒径のアスペクト比(板厚方向長/圧延方向長)を0.8以下とする熱延板焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス熱延鋼板の製造方法。
- 上記熱延板焼鈍は2回以上行い、2回目以降の熱延板焼鈍を、1回目の焼鈍の焼鈍温度よりも30℃〜200℃低い温度で行うことを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス熱延鋼板の製造方法。
- 請求項3または4に記載の熱延板焼鈍後、冷間圧延を行い、さらに、仕上焼鈍を施して冷延鋼板とすることを特徴とするリジング性と深絞り性に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼板の製造方法。
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