JP3709749B2 - At車のエンジン自動始動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、交差点等でAT車のエンジンの自動停止と自動始動とを実行することにより、排気ガスの減少、燃料節約等を実現する装置に関し、特に、自動始動時のショックを低減できるエンジン自動始動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、AT車(オートマチック車)のエンジン始動は、パーキングレンジ(Pレンジ)又はニュートラルレンジ(Nレンジ)で、ドライバーがイグニッションキースイッチをオンし、それに引き続いてスタータを作動させることにより、エンジンへの点火燃料噴射を開始することにより行われている。そして、このエンジン始動時にはエンジンを確実に始動させるために、アイドル時空気量制御装置(ISC)を全開にして空気を吸入するとともに、アイドル運転時の2〜3倍の燃料を噴射するように制御している。このため、エンジンの出力トルク(エンジントルク)は、エンジン始動直後にはクリープトルク以上の大きさとなり、その後徐々にクリープトルクまで減衰していく。
【0003】
このような始動直後のエンジントルクは、上記のように、AT車の始動を車軸が回転しないように固定されているPレンジや、車軸とエンジンの出力軸が接続されていないNレンジで行う場合には問題とならないが、交差点等での車両停止時にエンジンの自動停止・自動始動を行うアイドルストップシステムを搭載したAT車の場合には重大な問題となる。このようなAT車は、ドライブレンジ(Dレンジ)にて自動停止・始動を行うため、始動時のエンジントルクが車軸に伝わって車体の前後Gとなり、車両の飛び出し等の原因となる可能性があるためである。しかも、アイドルストップシステムを搭載した車両は、エンジンの始動が頻繁であるため、ドライバーはその度毎に不快感を感ずるという問題が生じるからである。
【0004】
このような問題を解決すべく、特開平10−47104号公報や特開平11−22520号公報には、アイドルストップシステムを搭載した車両において、エンジン始動時のエンジントルクを低下させる技術が開示されている。これらは、アイドルストップ状態からのエンジンの始動が、例えば一日の最初の始動のようにエンジンが冷えた状態で始動する場合に比べてエンジンの始動性が良好であることから、始動時に燃料噴射量の低減、吸入空気量の低減、あるいは点火時期の遅角制御等を行うことにより、エンジントルクを意図的に低下させるものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば従来技術を用いてエンジントルクを低下させ、上記自動始動時のショックを低下させたとしても、購入直後の新品車両と何年か使用した後の車両との間で比較すると、エンジンコンポーネントの経時変化、すなわち、▲1▼エンジン本体の機械的摩擦損失量の経時変化、▲2▼インジェクタの圧力や圧力−噴射量特性の経時変化、▲3▼燃焼効率(燃料のもつ化学エネルギーに対しクランク軸から取り出せる機械エネルギーの比率)の経時変化、▲4▼トルクコンバータのトルク増幅特性の経時変化等からの影響により、両者は異なったものとなる可能性がある。このため、新品車両ではドライバーにとって不快感のないショックであったとしても、車両を使用するにつれてショックが大きくなり、ドライバーが不快感を持つ可能性がある。
【0006】
本発明は、アイドルストップシステムを搭載したAT車に適用されるエンジン自動始動装置において、エンジンコンポーネントの経時変化にかかわらず、始動時に発生するショックを新車時と同様のショックに保持することができるエンジン自動始動装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み、請求項1に記載のAT車のエンジン自動始動装置は、エンジン始動条件が満たされたときに、Dレンジにてエンジンを始動させるものであるが、始動時に車体に生じる所望のショックが予め設定されており、始動時に検出する実際のショックがこの所望のショックに近づくように適宜制御される。ここで、「所望のショック」としては、AT車両の新車時に、Dレンジにおいてエンジンを始動させた場合に生じるショックとして設定する。この所望のショックであれば、ドライバーの感ずる不快感は許容され得る範囲内であるからである。
【0008】
本装置は、車両の走行速度を検出する車速検出手段と、ブレーキストローク量を検出するブレーキストローク検出手段と、カレントドライブ(現在のレンジ)の設定を検出するシフトポジション検出手段とを備える。そして、まず、始動条件判定手段が、この車速検出手段及びブレーキストローク検出手段により検出された情報により、エンジン始動条件が満たされたか否かを判断する。この始動条件としては、例えば▲1▼車速検出手段により検出された車速がゼロであり、▲2▼ブレーキストローク検出手段によりブレーキストロークが所定値以下であることを条件とすることができる。この条件は、車両を停止状態から発進させようとするドライバーの意志を、車速とブレーキストロークの状態からとらえたものである。そして、この始動条件が満たされ、シフトポジション検出手段によりカレントドライブがDでレンジに設定されていることが検出されると、Dドライブにてクランキングが開始される。
【0009】
そして、始動時の実際のショックが、ショック検出手段により所定の時間間隔で検出される。この所定の時間間隔は、クランキング開始からの経過時間を計時する計時手段により計時される。一方、上記所望のショックも、クランキング開始からの経過時間に応じたものとしてショック記憶手段に記憶されており、上記実際のショックと所望のショックとは、クランキング後の同一経過時点どうしのショックがショック比較手段により比較され、実際のショックが所望のショックより大きいと判断された場合には、エンジントルク制御手段が、次回以降に測定される実際のショックを所望のショックに近づけるようエンジントルクを制御するのである。
【0010】
したがって、始動時に車体に生じるショックは、常にほぼ所望のショックの値に保持される。このため、アイドルストップシステムを搭載した車両が長年使用され、実際にはエンジンコンポーネントの経時劣化が進んでいたとしても、始動時に生じるショックは新車時と同様とすることができる。このようなエンジン自動始動装置によれば、始動時に生じるショックによりドライバーに特に不快感を与えることがなく、また、不意に車両が飛び出す等の危険性もない。
【0011】
また、上記ショック比較手段は、さらに、ショック検出手段により検出されたショックと、ショック記憶手段に記憶された所望のショックとを、それぞれの大きさを表す所定の比較量を用いて比較する。この所定の比較量としては、例えば、(1)クランキング開始時から所定時間経過した時点における各々のショックの値、(2)クランキング開始後所定時間が経過する迄の各々のショックの最大値、(3)クランキング開始後所定時間が経過する迄の時間間隔における各々のショックの勾配、あるいは、(4)クランキング開始後所定時間が経過する迄の時間間隔におけるショックの積分値(面積)等を採用することができる。そして、上記エンジントルク制御手段が、このような所定の比較量で比較された比較値の差がゼロに近づくようにエンジントルクを制御し、次回以降の始動時に反映させるのである。なお、この場合の経過時間及び時間間隔は上記計時手段により計時される。
【0012】
本技術は、月・年といったタイムスパンでのエンジンコンポーネントの経時変化に対処する技術であるので、今回の自動始動時に車体に生じるショックが所望のショックに対してかなり大きかったとしても、今回のショックの大きさのみから次回の自動始動時の実際のショックと所望のショックとを一致させることを狙ってエンジントルクを決定するのは合理的ではない。また、特にエンジンコンポーネントの経時劣化がそれほど進行していない車両については、上記のような制御を頻繁に行う必要がない。このため、請求項記載の装置では、上記エンジントルク制御手段として、ショック検出手段により検出したショックと所望のショックとの差を自動始動毎に徐々にゼロに近づけるべくエンジントルクを制御するものを採用する。
【0013】
例えば、上記所定の比較量で判断した場合に、実際のショックが所望のショックより大きい状態が100回、あるいは1000回以上検出された時をもって、エンジントルク制御を行うように設定してもよい。
また、上記エンジントルク制御手段による制御は、実際のショックが所望のショックよりも大きい場合にこの差を小さくするために行われるものであり、基本的に、エンジンコンポーネントの経時劣化に対応してエンジントルクが小さくなるような制御がなされる。このため、制御の設定によっては始動に最低限必要な出力トルクが得られず、エンジンの始動自体が困難となる場合も起こりうる。
【0014】
そこで、請求項記載の装置では、エンジントルク制御手段が、予め定める条件下において、エンジントルクの制御を初期化するようにしている。この「予め定める条件」は、上記のように、「エンジンが始動しなくなった場合」等とすることができる。ショックの低減よりもエンジンの始動を優先する観点からである。
【0015】
また、上記ショックの記憶、検出態様としては、例えば、請求項に記載のように、上記ショック記憶手段が、所望のショックを車体の前後Gの形式で記憶し、上記ショック検出手段が、車体の前後Gを検出するGセンサであるような態様をとることができる。この場合は、ショック記憶手段から読み込まれた所望の前後Gと、Gセンサにより検出された実際の前後Gとが、上記所定の比較量で比較される。なお、Gセンサにより検出された加速度を積分することにより速度が得られるため、当該Gセンサは車速検出手段として使用することができる。
【0016】
あるいは、請求項に記載のように、上記ショック記憶手段が所望のショックを車体の前後Gの形式で記憶し、上記ショック検出手段として車速検出手段としての車速センサを使用し、この車速センサが検出する車速の微分値(加速度)を実際のショックとして検出する態様をとってもよい。このようにすれば、ショック検出手段として使用する計器は、車両に通常設けられる車速センサのみで足り、あえてGセンサを設ける必要がなくなる。
【0017】
さらに、請求項に記載のように、上記ショック記憶手段として、所望のショックを車体の速度の形式で記憶するものを採用することもできる。この場合、上記のように、ショック検出手段が、車速センサが検出した車速を実際のショックとして検出するようにすれば、車速センサからの出力値をそのまま利用することができる。
【0018】
あるいは、請求項に記載のように、上記ショック記憶手段が、所望のショックを車体の移動距離の形式で記憶し、上記ショック検出手段が、車速センサが検出する車速の積分値(距離)を実際のショックとして検出するものでもよい。また、エンジン回転数の吹き上がり度合いが大きい程、車体の前後Gも大きくなる傾向があることから、ショックを定量的に計るその他の態様として、請求項に記載の装置のように、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段が設けられ、上記ショック記憶手段が、所望のショックをエンジン回転数の吹き上がり度合いの形式で記憶し、上記ショック検出手段が、上記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数の吹き上がり度合いを実際のショックとして検出するものを採用することもできる。
【0019】
あるいは、請求項に記載の装置のように、エンジントルクを、ポンプ、ステータ、及びタービンを介して自動変速機に伝達するトルクコンバータと、このタービンの回転数を検出するタービン回転数検出手段とを備え、上記ショック記憶手段が、所望のショックをタービン回転数の吹き上がり度合いの形式で記憶し、上記ショック検出手段が、上記タービン回転数検出手段により検出されるタービン回転数の吹き上がり度合いを実際のショックとして検出するものを採用することもできる。
【0020】
ところで、上記エンジントルクの制御方法としては、例えば吸入空気量を調整することが考えられる。周知のように、車両にはこの吸入空気量を調整する構成として、▲1▼スロットルとアイドル時空気量制御装置(以下、「ISC」とも称す)とによる構成、▲2▼電子スロットルとISCとによる構成、▲3▼電子スロットルのみの構成等が設けられている。ここで、単に「スロットル」とあるのは、アクセルペダルからワイヤでつながれたスロットルであり、ドライバーのアクセル操作がそのままスロットル開度に反映されるものである。これに対し、「電子スロットル」は、アクセルペダルとスロットルとの間に制御装置を介したものであり、ドライバーのアクセル操作以外にも、所定の設定条件(例えば、車輪のスリップ量に対応したスロットル開度の設定条件等)に応じてスロットル開度を調整できるものである。また、「ISC」は、上記「スロットル」、「電子スロットル」を迂回する吸気経路に設けられたバルブ開閉装置である。
【0021】
そして、請求項10では、エンジントルク制御手段としてISCを採用する。これは、上記(1)(スロットルとISCとによる構成)を想定したものである。この場合、AT車のDレンジでの車両停止状態においては、「スロットル」は全閉状態となっているため、吸入空気は「スロットル」を迂回したバイパス経路を流れてエンジンに流入する。このため、当該経路に設けられたISCの開度を調整することにより吸入空気量を調整し、エンジントルクを制御するようにしたものである。
【0022】
あるいは、請求項11に記載のように、エンジントルク制御手段として電子スロットルを採用してもよい。これは、特に、上記(3)(電子スロットルのみの構成)を想定したものである。この場合は、上記のようなバイパス経路は設けられていない。このため、エンジンアイドル時には電子スロットルは全閉状態とはならず、所定量開いた状態となっている。請求項11記載の構成では、この電子スロットルの開度を調整することにより吸入空気量を調整し、エンジントルクを制御するようにしたものである。
【0023】
なお、上記(2)(電子スロットルとISCとによる構成)については、上記請求項10及び11の組み合わせを採用することができる。また、このエンジントルクの制御としては、上述のように吸入空気量を調整すること以外にも考えられる。つまり、請求項12記載のように、エンジントルク制御手段を燃料噴射装置とすることもできる。この場合、エンジントルクの制御は、燃料噴射量を調整することにより行われる。
【0024】
さらに、請求項13記載のように、エンジントルク制御手段を点火装置とすることもできる。この場合、エンジントルクの制御は、点火時期をエンジントルクが増大する方向である進角方向、あるいはエンジントルクが減少する方向である遅角方向に制御することにより行われる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
本実施例は、本発明にかかるエンジンの自動始動装置を、6気筒エンジンを搭載したAT車に適用したものである。
【0026】
図1に示すように、エンジン1の各気筒には、空気を取り込むための吸気管2が接続されており、この吸気管2には、吸入空気流量を調節する電子スロットル3、電子スロットル3を迂回してアイドル時に空気を取り込むバイパス経路4、バイパス経路4に設けられ吸入空気量を調節するISC5、電子スロットル3及びISC5の上流側に設けられ、吸入空気量を検出する吸入空気量検出センサ6、及び燃料噴射装置7等が設けられている。電子スロットル3は、図示しないアクチュエータでスロットルバルブ3aを駆動し、その開度により吸入空気量を制御するものである。また、ISC5は、図示しないアクチュエータで制御バルブ5aの開度を調節し、アイドル時の吸入空気量を調整するものである。また、エンジン1には点火装置9が設けられており、この点火装置9は、エンジンの気筒数に対応した点火プラグ9aを備えている。
【0027】
また、エンジン1のクランク軸11には、クランク軸11の回転数、すなわち、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出センサ13が取り付けられている。また、このクランク軸11に直結されたトルクコンバータ14は、ポンプ15、タービン16及びステータ17からなり、タービン16の出力軸18には自動変速機20が接続されている。自動変速機20は、複数のソレノイドバルブを有し、各ソレノイドバルブがオン・オフされることにより、各変速ギア位置に応じた油圧回路が形成されて所定のギア位置が選択される。また、自動変速機20は出力軸24に接続されており、この出力軸24の回転数を車速として検出するために車速センサ25が設けられている。また、AT車両には始動時のショックを検出するためのGセンサ26が設けられている。
【0028】
そして、上記各センサ等からの信号は、電子制御装置30(以下、「ECU30」と称す)に入力され、エンジン1、各制御バルブ、及び自動変速機20等を駆動するためのアクチュエータが、このECU30により駆動制御される。
ECU30は、図示しないが、各種機器を制御するCPU、予め各種の数値やプログラムが書き込まれたROM、演算過程の数値やフラグが所定の領域に書き込まれるRAM、アナログ入力信号をディジタル信号に変換するA/Dコンバータ、各種ディジタル信号が入力され、各種ディジタル信号が出力される入出力インターフェース(I/O)、クランキング開始からの経過時間等を計時するタイマ、及びこれら各機器がそれぞれ接続されるバスラインから構成されている。後述するフローチャートに示す制御プログラムは、上記ROMに予め書き込まれている。
【0029】
図2に、本実施例の自動始動装置の制御ブロックの概略構成を示す。
図2に示すように、ECU30は、所定のエンジン自動始動条件が満足されたか否かを判定するエンジン自動始動判定部31、設定された所望のショックを記憶するショック記憶部32、所望のショックと実際のショックとを比較するショック比較部33、ショックの比較値及び各種検出信号から次回以降のショックを所望のショックに近づけるための制御条件を計算し、各種制御信号をエンジンへ出力する出力トルク計算部34等からなる。
【0030】
エンジン自動始動条件判定部31には、上記車速センサ25、現在の設定レンジを検出するシフトポジションセンサ、及び、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキストローク検出センサからの各出力信号が入力される。そして、エンジン始動条件判定部31は、これらの信号から、▲1▼車速検出手段により検出された車速がゼロであり、▲2▼ブレーキストローク検出手段によりブレーキストロークが15〜20%以下であることを条件に、エンジン始動条件が満たされたと判断する。そして、さらにシフトポジション検出手段によりカレントドライブがDでレンジに設定されていると判断されると、ECU30からエンジン1にクランキング信号が出力され、Dドライブにてクランキングが開始される。
【0031】
ショック記憶部32には、新車時において始動時に生じたショックが所望のショックとして記憶されている。具体的には、所望のショックは図3(a)に示すようなタイムチャートで記憶されている。図中実線にて示したものが所望のショック(前後G)であり、その参考として2点鎖線で示されたものは、Dレンジにて停止中のアイドル状態においてブレーキを解除したときに車両に生じるショック(前後G)である。この場合、前者を、後者と同一曲線を描くように制御することが好ましいところではあるが、Dレンジでエンジンを始動させるためには、ある量の前後Gの発生は避けられないため、前者は図中実線にて示されるような態様で変化することになる。なお、図中、一定値となっている部分はクリープ域を示す。
【0032】
ショック比較部33には、ショック記憶手段から読み込まれた所望のショックを表す信号と、Gセンサ等のショック検出手段により検出された実際のショックを表す信号とが入力され、後述する所定の比較量を用いて比較される。
出力トルク計算部34には、ショック比較部33から出力された比較値を表す信号、電子スロットルやISCの現在の開度についての検出信号、及び吸入空気量検出センサ6により検出された検出信号等が入力される。そして、これらの信号に基づいて、CPUにより所定の制御プログラムに従った演算処理が行われ、始動時のショックを所望のショックに近づけるための各種制御信号、すなわち、ISC開度制御信号、電子スロットル開度制御信号、噴射量制御信号、点火時期制御信号等がエンジン側に出力される。
【0033】
次に、上記制御プログラムによって実行される自動始動装置のエンジン始動制御方法について、図3及び図4に沿って詳細に説明する。
本実施例の自動始動装置は、上記制御プログラムに沿ったエンジントルク制御により、Dレンジでのエンジン始動時に生じるショックを所望のショック、すなわち、新車時と同様のショックに保持するものである。
【0034】
図3及び図4には、このエンジントルク制御を、燃料噴射量の調整により制御する態様が示されている。
図3(b)に示すように、クランキングが開始されるとECU30内のタイマが起動され、クランキング開始時からの時間が計時される。そして、このクランキング開始から所定の時間間隔毎(図では5ms毎)にショック検出信号の示す実際のショック値がサンプリングされるとともに、サンプリングされた各時点に相当する所望のショック値との比較が行われる。
【0035】
図3(c)には、この場合の所定の比較量として、クランキング開始時からの所定時間内(例えば、クランキング開始から50ms)における所望のショックのピーク値Aと、検出された実際のショックのピーク値A’とが用いられる例が示されている。
【0036】
この場合、ピーク値Aがピーク値A’よりも大きい状態が続いた場合に、燃料噴射量を低減する制御が行われる。
ところで、一般に燃料噴射量とエンジントルクとの間には、図8(a)に示されるような関係があり、理論空燃比となる燃料噴射量を基準に、燃料噴射量を増加させるとエンジントルクは徐々に大きくなり、燃料噴射量を低減するとエンジントルクは比較的大きく減少し、ある値を下回ると燃焼不能となる。本実施例のように、エンジントルクを燃料噴射量制御により調整する場合には、このような燃料噴射量とエンジントルクとの関係を表すマップを参照しながら、所望のエンジントルクが得られるように燃料噴射量を制御する。
【0037】
本実施例においては、制御量(燃料噴射量)の大小を規定する制御係数λが予め設定されている。この制御係数λとしては、新車における始動時と同等の燃料噴射量でエンジン始動する場合に初期値1が与えられる。そして、エンジンコンポーネントの経時劣化により始動時のショックが大きくなった場合に、この制御係数λを小さくすることにより燃料噴射量を減少させ、エンジントルクを低減できるようになっている。
【0038】
また、本実施例のエンジントルク制御は、実際には1ヶ月、あるいは数ヶ月といった長いスパンで行われ、具体的には、ピーク値Aがピーク値A’よりも大きい状態が100回、あるいは1000回続いた場合に、λをλ−δ(δ=0.001、あるいは0.0001等)として新たな制御係数が設定され、次回の燃料噴射制御に反映される。
【0039】
この具体的内容が図4に示されている。図4(a)には、始動時に生じるショックを所望のショックに近づけるための噴射量制御の一例が示されている。図中、実線で示されたものがλ=1に設定された場合の燃料噴射制御を表し、一点鎖線で示されたものがλ=0.5に設定された場合の燃焼噴射制御を表している。
【0040】
図4(b)には、上記燃料噴射制御、及び実際のショックと所望のショックとの関係が示されている。図中下段に示すように、当該燃料噴射制御の制御係数λは、エンジンコンポーネントが経時劣化の影響を受けていない期間においてはλ=1のままに設定され、経時劣化が進むにつれてλの値を徐々に低減するように制御される。図中上段には、λ=1とλ=0.5の場合の噴射量制御の様子が示され、図中中段には、このように制御することにより、実際のショック(点線)が所望のショック(実線)に沿って制御される様子が示されている。
【0041】
このように制御することにより、始動時に車体に生じるショックは、常にほぼ所望のショックと同等に保たれる。このため、アイドルストップシステムを搭載した車両が長年使用され、実際にはエンジンコンポーネントの経時劣化が進んでいたとしても、始動時に生じるショックは新車と同様であり、ドライバーが特に不快感を覚えることがなく、また、不意に車両が飛び出す等の危険性もない。
【0042】
ただし、制御係数λを小さくするには限界があり、ある値を下回ると燃料噴射量不足によりエンジンの始動自体が困難になることがある。このような場合には、ショックの低減よりも始動性を優先するため、λの値を初期値1に戻すようにする。
【0043】
次に、本実施例にかかる自動始動装置の一連の動作について説明する。
図5は、ECU30で実行されるエンジンの自動始動処理のフローチャートを表している。
まず、AT車両のエンジンが停止された状態において、エンジン始動条件が満足されているか否かが判定される(S110)。この判定は、▲1▼車速センサ25により検出された車速がゼロであり、▲2▼ブレーキストローク検出センサによりブレーキストロークが15〜20%以下であることを条件に、エンジン始動条件が満たされたとされる。そして、シフトポジション検出センサによりカレントドライブがDレンジに設定されているか否かが判断され(S120)、Dレンジに設定されていると判断されると(S120:YES)、エンジントルクの低減制御フラグがオンにされ(S130)、トルク低減パラメータ(制御係数)λが読み込まれる(S150)。そして、ECU30からエンジン1にクランキング信号が出力され、クランキングが開始される(S160)。
【0044】
一方、S120においてカレントドライブがDレンジに設定されていないと判断された場合(S120:NO)、すなわち、PレンジやNレンジで自動始動を行う場合にはエンジントルクの低減制御を行う必要はないため、エンジントルクの低減制御フラグはオフにされ(S140)。クランキングが開始される(S160)。
【0045】
そして、エンジントルクの低減制御フラグがオンに設定されているか否かが判断され(S170)、エンジントルクの低減制御フラグがオンに設定されていると判断された場合には(S170:YES)、前回設定された制御係数λをもってエンジントルクの制御が行われる(S180)。そして、Gセンサにより実際のショックが検出されるとともに、実際のショックと所望のショックとの比較が行われる(S190)。このとき、アクセルが踏み込まれているか否かが判断され(S200)、踏み込まれていないと判断された場合には(S200:NO)、エンジン回転数の安定判別がなされる(S210)。そして、エンジン回転数が安定したと判断された場合には(S210:YES)、エンジントルクの低減制御フラグがオフにされる。これは、クリープトルクを発生させるために、始動後はトルク低減制御を行わないようにするためである。一方、S210において、エンジン回転数が安定でないと判断された場合には(S210:NO)、S180及びS190の処理が繰り返される。この「安定でない」とは、始動後エンジン回転数はまず上昇し、その後ゆっくりと下降していき、その後一定回転数にて安定するが、この安定する前の状態のことである。
【0046】
一方、S200においてアクセルが踏み込まれていると判断された場合には(S200:YES)、エンジントルクの低減制御フラグがオフにされ、上述の制御は中断される。これは、ドライバーがアクセルを踏み込むことは、車両を加速させたいというドライバーの意志の表れであるため、始動時のショック低減よりも加速を重視するためである。
【0047】
そして、次回の始動時に備え、検出された実際のショック(前後G)の値から制御係数λの調整を行い(S230)、通常のエンジン制御に移行する(S240)。
また、S170において、エンジントルクの低減制御フラグがオフに設定されていると判断された場合には(S170:NO)、ショック低減制御は行われず、そのまま通常のエンジン制御が行われる。
【0048】
以上の一連の動作により、エンジンはDレンジにて安定して始動する。
なお、本実施例において、ECU30が始動条件判定手段、計時手段、ショック記憶手段、ショック比較手段、及びエンジントルク制御手段に該当する。また、エンジン回転数検出センサ13がエンジン回転数検出手段、車速センサ25が車速検出手段、シフトポジション検出センサがシフトポジション検出手段、ブレーキストローク検出センサがブレーキストローク検出手段、Gセンサがショック検出手段に、それぞれ該当する。
【0049】
そして、ECU30が実行する処理の内、図5のフローチャートに示したS110及びS120の処理が始動条件判定手段としての処理に該当し、S150、S180、S190、及びS230の処理がショック比較手段及びエンジントルク制御手段としての処理に該当する。
【0050】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
例えば、上記実施例においては、図3(c)に示すように、予め定めた時間内における所望のショック及び実際のショックの各々のピーク値を比較する態様をとったが、所定の比較量として必ずしもこのようなピーク値を用いる必要はない。例えば、図6(a)に示すように、所定の時間間隔における各ショックの勾配を比較量として採用することもできる。この場合、実際のショックの勾配B’が所望のショックの勾配Bよりも大きい状態が所定回数続いた場合に、上記実施例で示したようなエンジントルク低減制御がなされる。あるいは、図6(c)に示すように、所定の時間間隔における各ショックが時間軸との間に形成する面積を比較量として採用することもできる。この場合、実際のショックの面積C’が所望のショックの面積Cよりも大きい状態が所定回数続いた場合に、上記実施例で示したようなトルク低減制御がなされる。
【0051】
また、上記実施例においては、始動時のショックを、図7(a)に示すような車体の前後Gにて比較、制御する態様をとったが、この他にも、図7(b)に示す車速、図7(c)に示す移動距離、又は、図7(d)に示すエンジン回転数の吹き上がり度合い等を始動時のショックとして制御する態様をとってもよい。この場合、上記車速は車速センサ25の出力から、移動距離は車速センサ25から得られる車速の積分値から、エンジン回転数の吹き上がり度合いはエンジン回転数検出センサ13の出力から、それぞれ得ることができる。
【0052】
あるいは、トルクコンバータを構成するタービン16の回転数の吹き上がり度合いをショックとして制御する態様をとることもできる。この場合は、タービン回転数検出手段としてのタービン回転数検出センサが設けられる。
図7(b)、(c)及び(d)には、図7(a)に示すような所望のショック(前後G)を発生させるための所望の車速、移動距離、及びエンジン回転数の制御曲線が、対応する形式で描かれている。また、参考例として、図7(d)には、PレンジやNレンジにてエンジンを始動させたときのエンジン回転数の吹き上がり度合いが一点鎖線にて示されている。この図からも分かるように、Dレンジにて始動する所望のエンジン回転数の吹き上がり度合い(実線)は、PレンジやNレンジにて始動させるときのエンジン回転数の吹き上がり度合い(一点鎖線)よりも小さい度合いとなっている。これは、本技術によるDレンジでの再始動が、イグニッションキーによるPレンジやNレンジでの始動よりも低いエンジントルクで始動するものであることを表す。
【0053】
さらに、上記実施例においては、エンジントルクを低減する手段として燃料噴射量を制御する態様を示したが、この他にも、ISC開度や電子スロットル開度、あるいは、点火時期を制御する態様を採用することも可能である。この場合、ISC開度や電子スロットル開度の制御態様は、燃料噴射量制御と同様の制御態様となり(図4参照)、点火時期を制御する場合には、点火時期を遅角側に制御する度合いを制御係数λにより調整する態様となる。また、これらの場合は、図8(b)、(c)及び(d)に示される各々の制御対象とエンジントルクとの関係を示したマップを参照して制御曲線が設定される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例にかかるエンジン自動始動装置の概要図である。
【図2】 本発明の実施例にかかるエンジン自動始動制御を実現する制御回路の概略構成図である。
【図3】 本発明の実施例にかかるエンジン自動始動制御の説明図である。
【図4】 本発明の実施例にかかるエンジン自動始動制御の説明図である。
【図5】 本発明の実施例にかかるエンジン自動始動処理を示すフローチャートである。
【図6】 変形例にかかるエンジン自動始動制御の説明図である。
【図7】 変形例にかかるエンジン自動始動制御の説明図である。
【図8】 エンジントルク制御の種々の態様を説明する図である。
【符号の説明】
1・・・エンジン、 2・・・吸気管、 3・・・電子スロットル、
3a・・・スロットルバルブ、 4・・・バイパス経路、
5・・・アイドル時空気量制御装置(ISC)、 5a・・・制御バルブ、
6・・・吸入空気量検出センサ、 7・・・燃料噴射装置、
9・・・点火装置、 9a・・・点火プラグ、
11・・・クランク軸、 13・・・エンジン回転数検出センサ、
14・・・トルクコンバータ、 20・・・自動変速機、
25・・・車速センサ、 30・・・電子制御回路(ECU)

Claims (13)

  1. エンジン始動条件が満たされたときに、ドライブレンジにてエンジンを始動させるAT車のエンジン自動始動装置において、
    車両の走行速度を検出する車速検出手段と、
    ブレーキストローク量を検出するブレーキストローク検出手段と、
    カレントドライブの設定を検出するシフトポジション検出手段と、
    前記車速検出手段及びシフトポジション検出手段により検出された情報に基づいて、前記エンジン始動条件が満たされたか否かを判断し、前記シフトポジション検出手段により検出された情報に基づいて、ドライブレンジにて始動するか否かを判断する始動条件判定手段と、
    クランキング開始からの経過時間を計時する計時手段と、
    エンジン始動時に車体に生じさせる所望のショックを記憶するショック記憶手段と、
    前記計時手段に基づき所定の時間間隔で、エンジン始動時に生じた実際のショックを検出するショック検出手段と、
    前記所望のショックと前記実際のショックとを比較するショック比較手段と、
    エンジンの出力トルクを制御するエンジントルク制御手段と、を備え、
    該エンジントルク制御手段は、前記ショック比較手段により、前記実際のショックが前記所望のショックより大きいと判断された場合に、前記実際のショックを前記所望のショックに近づけるようエンジントルクを制御するものであって、
    前記ショック比較手段は、ショックの大きさを表す所定の比較量を用いて、前記ショック検出手段により検出されたショックと、前記ショック記憶手段に記憶された所望のショックの両者を比較し、
    前記エンジントルク制御手段は、該所定の比較量で比較した比較値の差がゼロに近づくように、次回以降の始動時のエンジントルクを制御することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  2. 請求項記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルク制御手段は、前記比較値の差をゼロに近づけるべく、自動始動毎に徐々にエンジントルクを制御することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  3. 請求項記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルク制御手段は、予め定める条件下において、前記エンジントルクの制御を初期化することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  4. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記ショック記憶手段は、前記所望のショックを車体の前後Gの形式で記憶し、
    前記ショック検出手段は、車体の前後Gを検出するGセンサであることを特徴とするエンジン自動始動装置。
  5. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記ショック記憶手段は、前記所望のショックを車体の前後Gの形式で記憶し、
    前記ショック検出手段は、前記車速検出手段としての車速センサが検出する車速の微分値を、前記実際のショックとして検出することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  6. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記ショック記憶手段は、前記所望のショックを車体の速度の形式で記憶し、
    前記ショック検出手段は、前記車速検出手段としての車速センサが検出する車速を、前記実際のショックとして検出することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  7. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記ショック記憶手段は、前記所望のショックを車体の移動距離の形式で記憶し、
    前記ショック検出手段は、前記車速検出手段としての車速センサが検出する車速の積分値を、前記実際のショックとして検出することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  8. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段が設けられ、
    前記ショック記憶手段は、前記所望のショックをエンジン回転数の吹き上がり度合いの形式で記憶し、
    前記ショック検出手段は、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数の吹き上がり度合いを、実際のショックとして検出することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  9. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルクを、ポンプ、ステータ、及びタービンを介して自動変速機に伝達するトルクコンバータと、
    前記タービンの回転数を検出するタービン回転数検出手段と、を備え、
    前記ショック記憶手段は、前記所望のショックを前記タービン回転数の吹き上がり度合いの形式で記憶し、
    前記ショック検出手段は、前記タービン回転数検出手段により検出されるタービン回転数の吹き上がり度合いを、実際のショックとして検出することを特徴とするエンジン自動始動装置。
  10. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルク制御手段が、アイドル時空気量制御装置であることを特徴とするエンジン自動始動装置。
  11. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルク制御手段が、ドライバーのアクセル操作以外にもスロットル開度を電子的に調整できる電子スロットルであることを特徴とするエンジン自動始動装置。
  12. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルク制御手段が、燃料噴射装置であることを特徴とするエンジン自動始動装置。
  13. 請求項1記載のエンジン自動始動装置において、
    前記エンジントルク制御手段が、点火装置であることを特徴とするエンジン自動始動装置。
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