JP3708350B2 - アルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極 - Google Patents

アルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極およびそれを用いたアルカリ蓄電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動工具用途や電気自動車用途などの大電流放電が要求される二次電池としては、焼結式ニッケル正極を用いたニッケルカ−ドミウム蓄電池やニッケル−水素蓄電池などのアルカリ蓄電池が使用されている。
【0003】
これらのアルカリ蓄電池で用いられている焼結式ニッケル正極は、活物質保持体としての多孔性ニッケル焼結基板を、硝酸ニッケルを主成分とした含浸液中に浸漬し、この基板の孔中にニッケル塩を含浸した後、乾燥し、アルカリ中への浸漬を行い、ニッケル塩を水酸化ニッケルに変化させることにより活物質を基板中に充填し、さらに、コバルトや亜鉛の硝酸塩水溶液中に基板を含浸し、乾燥後、アルカリ溶液中に浸漬することにより添加剤であるコバルト化合物や亜鉛化合物を基板中に添加する工程を経て形成される。
【0004】
このようにして形成された焼結式ニッケル正極を負極であるカドミウム電極や水素吸蔵合金電極と組み合わせ、親水化処理を行ったポリプロピレン製やナイロン製のセパレータとからなる電極群を作製し、この電極群を金属ケースに挿入後、苛性カリを主成分とするアルカリ電解液を注入し、ケース上部を封口板で密閉した後、初充放電を施すことにより、アルカリ蓄電池が構成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の焼結式ニッケル正極を用いたアルカリ蓄電池は、その製造工程において、電池ケースに電極群を収納後、アルカリ電解液を注入し、電池を構成した後、初充放電に至るまでに1〜2日程度の放置期間をおく必要があった。電池の出荷に至るまでの生産時間の短縮という観点から放置期間は短い方が望ましいが、放置期間を十分に取らずに初充放電を行うと、正極の活性化が十分になされず、電池の放電容量の低下や出力特性の低下につながるという問題を有していた。
【0006】
これは、粘度の高い高濃度のアルカリ水溶液を電解液として用いるため、焼結式ニッケル正極全体に電解液が均一に浸透するまでには、数十時間程度の放置が必要とされることに起因している。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、アルカリ蓄電池において、焼結式ニッケル正極中への電解液の浸透性を向上させることにより、電池ケース内にアルカリ電解液を注入後、短い放置期間であっても、高容量、高出力を得ることができるアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極およびこれを用いたアルカリ蓄電池を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明のアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極は、多孔性焼結基板をニッケル塩主体の酸性水溶液中に浸漬して含浸する工程と、乾燥工程およびアルカリ浸漬処理工程を経て形成された焼結式ニッケル正極であり、前記正極は細孔を有し、前記細孔は、水銀ポロシメータを用いて測定した細孔径が0.1μm以上である細孔の容積が、総細孔容積の50〜80%であり、かつ微分細孔容積が最大となる細孔径が0.1〜5μmであるものとした。
【0009】
また、この焼結式ニッケル正極と負極と、セパレータおよびアルカリ電解液とからなるアルカリ蓄電池を構成することにより、高率放電特性に優れたアルカリ蓄電池を提供できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、アルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極であり、その細孔分布として、水銀ポロシメータを用いて測定した細孔径が0.1μm以上である細孔の容積が、全細孔容積の50〜80%であり、かつ微分細孔容積が最大となる細孔径が0.1〜5μmの範囲に規定したものである。
【0011】
また、この正極を用いてアルカリ蓄電池を構成することによって、アルカリ蓄電池の製造工程でのアルカリ電解液を電池ケースに注入後の放置期間が短時間であっても、高容量で高出力なアルカリ蓄電池を得ることができる。
【0012】
すなわち、水銀ポロシメータを用いて測定した正極の細孔分布測定において、0.1μm以上の細孔径の容積が、全細孔容積の50%以上を占めており、なおかつ微分細孔容積が最大となる細孔径が5μm以下である正極は、従来の正極よりアルカリ電解液の浸透性に優れるため、アルカリ電解液を注入されると短時間の放置で、アルカリ電解液が正極板の深部に至るまで均一に分散する。
【0013】
さらにこの正極を用いたアルカリ蓄電池は、正極内部に至るまでの電解液の拡散性が高いため、正極活物質と電解液との反応性が高く、高率放電時の電圧の分極が小さい。したがって、大電流放電時における放電電圧、放電容量の低下が小さい、出力特性に優れた電池を得ることができる。
【0014】
なお、この正極では、その細孔径が0.1μm以上である細孔の容積が、全細孔容積に占める割合の上限を80%、微分細孔容積が最大となる細孔径の下限値を0.1μmとしたのは、この範囲を外れるニッケル正極は量産上困難である。
【0015】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0016】
焼結式ニッケル正極を以下に示す方法に従い、作製した。
【0017】
濃度4mol/lの硝酸ニッケルと濃度0.4mol/lの硝酸コバルトを混合した水溶液の温度を80℃にしてさらに硝酸を加えてpHを1.5に調製した。
【0018】
この水溶液中に多孔度80%の焼結式ニッケル多孔体を、一定時間浸漬して含浸した後、乾燥し、苛性ソーダ水溶液中に浸漬することにより、水酸化ニッケルを主体とする活物質粉末をこの多孔体の孔内に析出させ、この焼結式ニッケル多孔体を含浸し、乾燥、苛性ソーダ水溶液中に浸漬する一連の工程を複数回繰り返し、所望とする量の活物質粉末を充填した基板を作製した。
【0019】
この基板を濃度2.0mol/lの硝酸コバルトと濃度1.0mol/lの硝酸亜鉛との混合塩水溶液中に含浸し、乾燥工程、苛性ソーダ水溶液中への浸漬処理工程を複数回繰り返し、添加剤である水酸化コバルトと水酸化亜鉛の所望とする量を基板中に充填し焼結式ニッケル正極1を作製した。
【0020】
上記の正極1を作製する一連の手順において、含浸液中への浸漬時間や含浸後の乾燥温度や苛性ソーダの濃度などを変化させることにより、正極の細孔径分布の異なる様々なニッケル正極である実施例の正極(1a〜1h)8種類と比較例の正極(6a〜6t)20種類を作製した。
【0021】
上記で作製した実施例の正極1a〜1hと比較例の正極6a〜6tのそれぞれを縦20mm×横30mmのサイズに切断し、水銀ポロシメータを用いて正極の細孔分布を測定し、それぞれの細孔径が0.1μm以上の細孔容積の割合並びに微分最大細孔容積が最大となる細孔径を求め、その結果を(表1)に示す。
【0022】
上記の水銀ポロシメータとしては、島津製作所製(ポアサイザ9320)を用いた。
【0023】
【表1】
Figure 0003708350
【0024】
また、図1に本発明の実施例における焼結式ニッケル正極の代表として正極1cの微分細孔分布を示す。図1に示した正極1cにおいては、その細孔径が0.1μm以下の細孔容積の割合が56.1%、微分細孔容積が最大となる細孔径が4μmである。
【0025】
(表1)に示したように本発明の実施例におけるニッケル正極1a〜1hは、水銀ポロシメータより求めた正極の細孔分布において、細孔径が0.1μm以上である細孔の容積が全細孔容積の50%以上80%以下であり、かつ微分細孔容積が最大となる細孔径が0.1μm以上5μm以下である。この範囲以外が比較例のニッケル正極6a〜6tである。
【0026】
次に、合金組成がMmNi4.0Co0.4Al0.3Mn0.3である水素吸蔵合金粉末に、水とCMC(カルボキシメチルセルロース)を加えてペースト状にし、パンチングメタル芯材に塗布し、これを乾燥、プレス圧延、切断することにより水素吸蔵合金負極2を作製した。
【0027】
上記で作製した正極1aと負極2との間に親水化処理を施したポリプロピレン製不織布からなるセパレータ3を介在させて渦巻き状に捲回して電極群を作製した。この電極群を円筒状電池ケース4に挿入して、6NのKOHと1NのLiOHからなるアルカリ電解液を電極群に注入してケースの上部を封口板5で密閉して、理論容量2000mAhでSCサイズの本発明の実施例における円筒型ニッケル−水素蓄電池Aを構成した。この電池Aの半裁断面図を図2に示す。
【0028】
正極1aの代わりに正極1b〜1hのそれぞれを用いた以外は、電池Aと同じ構成とした本発明の実施例におけるニッケル−水素蓄電池B〜Hをそれぞれ作製した。
【0029】
また、正極1aの代わりに正極6a〜6tのそれぞれを用いた以外は、電池Aと同じ構成とした比較例における円筒型ニッケル−水素蓄電池6A〜6Tをそれぞれ作製した。
【0030】
上記で作製した実施例の電池A〜Hと比較例の電池6A〜6Tのそれぞれを、上記のアルカリ電解液注入後24時間放置した後、0.2Aの電流値で15時間充電後、2Aの電流値で電池電圧が1.0Vに至るまで放電することにより初充放電を行った。
【0031】
初充放電後のれぞれの電池を、2Aの電流値で1.5h充電後、2Aの電流値で電池電圧が1.0Vに至るまで放電する充放電を1サイクルとし、この充放電を10サイクル繰り返し、電池の初期活性化を行った。
【0032】
それぞれの電池について、まず25℃の雰囲気下で2Aの電流値で1.2h充電し、1h休止した後、2Aの電流値で電池電圧が1.0Vに至るまで放電させた場合の電池の放電容量(Da)と放電時の平均電池電圧(Va)を算出した。
【0033】
続いて、それぞれの電池を、1h休止して電池電圧を復帰させた後、25℃の雰囲気下で同様に2Aの電流値で1.2h充電し、1h休止した後、10Aの電流値で終止電圧が1.0Vに達するまで放電させた場合の電池の放電容量(Db)と放電時の平均電池電圧(Vb)を算出した。
【0034】
電池の高率放電特性としては、このときの(放電容量の比)=(Db/Da)×100と(平均電圧の差)=Va−Vbの値により評価を行い、放電容量の比が大きく、平均電圧の差が小さいほど、大電流放電時の容量低下や電圧低下の少ない高率放電特性に優れたものである。
【0035】
上記の高率放電特性の評価結果を(表2)に示す。
【0036】
【表2】
Figure 0003708350
【0037】
(表2)に示すように、実施例の電池A〜Hは、比較例の電池6A〜6Tと比べて高率放電特性が優れていることがわかる。
【0038】
次に実施例の電池Cと比較例の電池6Jと6Pについて、上記の電池構成にてアルカリ電解液を注入した後の放置時間を2〜72時間まで変化させた場合の高率放電特性に及ぼす影響について評価を行い、その評価結果を(表3)に示す。
【0039】
【表3】
Figure 0003708350
【0040】
(表3)に示されるとおり、実施例の電池Cはアルカリ電解液を注入後、短時間の放置時間であっても優れた高率放電特性を示すことがわかる。
【0041】
これは、本発明の実施例の正極は、従来の正極よりアルカリ電解液の浸透性に優れるため、アルカリ電解液を注入されると短時間の放置で、アルカリ電解液が正極板の深部に至るまで均一に分散するためである。
【0042】
また、上記の実施例の電池が比較例の電池より高率放電特性が優れているのは、実施例で用いた正極が、その正極内部に至るまでアルカリ電解液の拡散性が高いため、正極活物質と電解液との反応性が高く、高率放電時の電圧の分極が小さいためである。
【0043】
上記実施例の電池では、負極に使用する水素吸蔵合金としてMmNi4.0Co0.4Al0.3Mn0.3の組成で示される負極を用いたが、負極使用する水素吸蔵合金としては、これに限定されるものではない。
【0044】
また上記実施例では、負極として水素吸蔵合金負極を用いたが、カドミウム負極や亜鉛負極を用いてもほぼ同様の効果が得られる。
【0045】
【発明の効果】
以上のように本発明のアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極は細孔を有し、その細孔は、水銀ポロシメータを用いて測定した細孔径が0.1μm以上である細孔の容積が、総細孔容積の50〜80%であり、かつ微分細孔容積が最大となる細孔径が0.1〜5μmに規定したもので、従来の正極よりアルカリ電解液の浸透性に優れるため、アルカリ電解液を注入後、短時間の放置で、アルカリ電解液を正極の深部に至るまで均一に分散させることができる。
【0046】
また、本発明の正極を用いたアルカリ蓄電池は、大電流放電時の放電容量向上と高出力化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における正極1cの細孔分布を示す図
【図2】同ニッケル−水素蓄電池Aの半裁断面図
【符号の説明】
1 焼結式ニッケル正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池ケース
5 封口板

Claims (1)

  1. 多孔性焼結基板をニッケル塩主体の酸性水溶液中に浸漬して含浸する工程と、乾燥工程およびアルカリ浸漬処理工程を経て形成された焼結式ニッケル正極であり、前記正極は細孔を有し、前記細孔は、水銀ポロシメータを用いて測定した細孔径が0.1μm以上である細孔の容積が、総細孔容積の50〜80%であり、かつ微分細孔容積が最大となる細孔径が0.1〜5μmであるアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極。
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