JP3706746B2 - 液体吐出ヘッド、液体吐出方法及び液体吐出装置 - Google Patents

液体吐出ヘッド、液体吐出方法及び液体吐出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱エネルギーを液体に作用させることで起こる気泡の発生によって、所望の液体を吐出する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドを用いたヘッドカートリッジ及び液体吐出装置に関し、特に、気泡の発生を利用して変位する可動部材を有する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドを用いたヘッドカートリッジ及び液体吐出装置に関する。
【0002】
また、本発明は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対し記録を行うプリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置に適用できる発明である。
【0003】
なお、本発明における、「記録」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を付与することをも意味する。
【0004】
【従来の技術】
熱等のエネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行なうインクジェット記録方法、いわゆるバブルジェット記録方法が従来知られている。このバブルジェット記録方法を用いる記録装置には、米国特許第4,723,129号等の公報に開示されているように、インクを吐出するための吐出口と、この吐出口に連通するインク流路と、インク流路内に配されたインクを吐出するためのエネルギー発生手段としての電気熱変換体が一般的に配されている。
【0005】
この様な記録方法によれば、品位の高い画像を高速、低騒音で記録することができると共に、この記録方法を行うヘッドではインクを吐出するための吐出口を高密度に配置することができるため、小型の装置で高解像度の記録画像、さらにカラー画像をも容易に得ることができるという多くの優れた点を有している。このため、このバブルジェット記録方法は近年、プリンター、複写機、ファクシミリ等の多くのオフィス機器に利用されており、さらに、捺染装置等の産業用システムにまで利用されるようになってきている。
【0006】
このようにバブルジェット技術が多方面の製品に利用されるに従って、次のような様々な要求が近年さらにたかまっている。
【0007】
高画質な画像を得るために、インクの吐出スピードが速く、安定した気泡発生に基づく良好なインク吐出を行える液体吐出方法等を与えるための駆動条件が提案されたり、また、高速記録の観点から、吐出された液体の液流路内への充填(リフィル)速度の速い液体吐出ヘッドを得るために流路形状を改良したものも提案されている。
【0008】
このようなヘッドの他にも、気泡の発生に伴って発生するバック波(吐出口へ向かう方向とは逆の方向へ向かう圧力)に着目し、吐出において損失エネルギーになるバック波を防止する構造の発明が特開平6−31918号公報(特に第3図)に開示されている。この公報に記載の発明は、三角形状の板状部材の三角形部分を気泡を発生するヒーターに対して対向させたものである。この発明では、板状部材によってバック波を一時的に且つわずかには抑えられている。しかし、気泡の成長と三角形部分との相関関係については全く触れていないし、その着想もないため、上記の発明は以下の問題点を含んでいる。
【0009】
すなわち、上記公報に記載の発明では、ヒータが凹部の底に位置しており、吐出口との直線的連通状態をとれないため、液滴形成が安定してできず、さらに、気泡の成長は三角形の頂点の部分の周囲から許容されているため、気泡は三角形の板状部材の片側から反対側全体まで成長し、結果的に板状部材が存在していないかのように液中における通常の気泡の成長が完成してしまう。従って、成長した気泡にとって板状部材の存在は何ら関係のないものとなってしまう。逆に、板状部材の全体が気泡に囲まれるために、気泡の収縮段階において、凹部に位置するヒーターへのリフィルは乱流を生じせしめ、その凹部内に微小気泡を蓄積する原因となり、成長気泡に基づいて吐出を行う原理自体を乱すことになってしまう。
【0010】
他方、EP公開公報EP0436047A1は、吐出口近傍域と気泡発生部との間にこれらを遮断する第1弁と、気泡発生部とインク供給部との間にこれらを完全に遮断する第2弁とを交互に開閉させる発明を提案している(EP0436047A1の第4〜9図)。しかし、この発明はこれら3つの部屋を2つづつに区分してしまうために、吐出時には液滴に追従するインクが大きな尾引きとなり、気泡成長・収縮・消泡を行う通常の吐出方式に比べてサテライトドットがかなり多くなってしまう(消泡によるメニスカス後退の効果を使えないと推定される)。また、リフィル時は、気泡発生部に液体が消泡に伴って供給されるが、吐出口近傍域には次の発泡が生じるまで液体は供給できないので、吐出液滴のばらつきが大きいだけでなく、吐出応答周波数が極めて小さく、実用レベルではない。さらに、特開平9−52364号公報には、1つの液流路に対して複数の吐出エネルギー発生素子(電気熱変換体)を備えるとともに、これら電気熱変換体の駆動により発生した気泡の成長方向を制御するための弁部材を、全ての電気熱変換体に共通に、または各電気熱変換体ごとに設けた液体吐出ヘッドが開示されている。このように液流路内に複数の電気熱変換体を設けることにより、液体の吐出量を制御して所望の体積の液体を吐出することが可能となり、また、吐出液量が小さな液滴を安定的、かつ、高周波数で吐出することが可能であるため、高階調記録を高速で行うことができる。特に、複数の電気熱変換体を吐出口に向かう液体の流れ方向に沿って配置することにより、液流路の幅を小さくすることができ、高密度化が可能となる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、発泡から消泡、及び吐出液滴形成工程に直接影響を及ぼし、旧来からの課題であったインクジェット特有のサテライトの発生や連続的に吐出動作を行った際の繰り返しの不安定性などを解決した提案はなされていない。
【0012】
また、液流路中に複数の吐出エネルギー発生素子を配置した液体吐出ヘッドに弁部材を用いた場合においても、実際には以下に示すような、解決しなければならない課題がある。まず、複数の吐出エネルギー発生素子を液体の流れ方向に沿って配置し、これらを1つの弁部材で覆う構成とした場合には、上流側のエネルギー発生素子のみを駆動しようとすると、気泡の成長に伴う圧力はは弁部材の根元部近傍に作用するため吐出特性があまり良好ではなく、上流側の吐出エネルギーのみを駆動するモードでの吐出が行えないものとなる。また、各吐出エネルギー発生素子ごとに弁部材を設けた構成とした場合、上流側の吐出エネルギー発生素子と下流側の吐出エネルギー発生素子とを同時に駆動したとき、吐出エネルギー同士の間隔が狭すぎると、弁部材の変位及び気泡の成長が相互に影響し合い、所望の吐出が得られない。一方、吐出エネルギー発生素子を並列に配置し、それに対応して弁部材を設けた場合、液流路の幅を広くとる必要があり、高密度配列にはあまり適さない。
【0013】
本発明は、基本的に従来の気泡(特に膜沸騰に伴う気泡)を液流路中に形成して液体を吐出する方式の、根本的な吐出特性を、従来では考えられなかった観点から、従来では予測できない水準に高めることを主たる課題とする。
【0014】
発明者達は、液体吐出の原理に立ち返り、従来では得られなかった気泡を利用した新規な液滴吐出方法及びそれに用いられるヘッド等を提供すべく鋭意研究を行った。このとき、液流路中の可動部材の機構の原理を解析するといった液流路と可動部材の動作を起点とする第1技術解析、及び気泡による液滴吐出原理と液滴形成原理を起点とする第2解析技術、さらには、気泡形成用の発熱体の気泡形成領域を起点とする第3解析技術を行うことにした。
【0015】
これらの解析によって、可動部材の自由端と液流路全体が気泡の吐出口側と供給側の部分に影響を及ぼし、吐出滴形状をより安定的に理想形状とするというまったく新規な技術を確立するに至った。すなわち、インクジェットに特有の、印字品位を低下させ、装置自身や記録媒体を汚すサテライトを減少させ、高速リフィルを達成するとともに、メニスカスの変動を高速で収束させることで、連続吐出動作における画像品位の安定性をも両立させるという従来の技術水準に比べきわめて高い水準に至った。
【0016】
本発明の主たる目的は以下のとおりである。
【0017】
本発明の第1の目的は、発生した気泡とその吐出口側の液体及び供給側の液体を可動部材と液流路全体の構造とによって制御することで、極めて新規な液体吐出原理を提供することである。
【0018】
本発明の第2の目的は、吐出滴形成工程を制御することでサテライトの減少を図るとともに、吐出動作においてサテライトを完全になくする液体吐出方法、液体吐出ヘッドを提供することにある。
【0019】
本発明の第3の目的は、液流路内の流れを制御することでメニスカスのスピードを制御し、高速リフィルと振動を収束性を高め、高速印字等における吐出の安定性を実現し、印字品位を向上させる液体吐出方法及び液体吐出ヘッドを提供することにある。
【0020】
本発明の第4の目的は、サテライトやメニスカスの変動による弊害を除去するための記録装置のシステム上の負荷構成を軽減することにある。
【0021】
本発明の第5の目的は、液流路内に複数の発熱体が設けられたヘッドを用いた液体の吐出における、安定的な吐出量変調を実現するとともに、高速印字をも高い印字品位のレベルで実現する液体吐出方法及び液体吐出ヘッドを提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と、
前記吐出口と連通するとともに、液体に気泡を発生させるための複数の気泡発生領域が前記吐出口に向かう液体の流れ方向に沿って備えられた液流路と、
前記気泡発生領域に面して配され、前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して下流側に自由端を有する可動部材とを有し、
前記可動部材は、前記複数の気泡発生領域のうち前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して上流側の気泡発生領域にのみ設けられ
前記複数の気泡発生領域はそれぞれ、気泡の発生によって前記吐出口から液体を吐出させることを特徴とする。
【0023】
また、特に、前記気泡の成長に伴う前記可動部材の変位を規制するための規制部を有し、前記可動部材が変位して前記規制部に接触するものであることが好ましい。
【0024】
上記のとおり構成された本発明の液体吐出ヘッドでは、液流路内に複数の気泡発生領域が、吐出口に向かう液体の流れ方向に沿って備えられているので、各気泡発生領域の大きさを異なったものとすれば、各気泡発生領域で個別に気泡を発生させて吐出口から液体を吐出することで階調記録が可能となる。
【0025】
気泡の発生によって吐出口から液体が吐出された瞬間では、吐出口から吐出した部分と液流路内の液体とが繋がった液柱に近い状態となっているが、本発明では、気泡の成長工程によって可動部材が変位し、この変位した可動部材が規制部に接触したとき、液流路は液体の流れ方向に関して実質的に分断される。このため、気泡の消泡によって可動部材が規制部から離れるまでは、液流路の上流側からは液体は供給されないため、気泡の消泡エネルギーの殆どが吐出口近傍の液体を上流側へ移動させる力として働くことになる。その結果、気泡の消泡開始直後においては、吐出口に形成されたメニスカスが吐出口から液流路内に急速に引き込まれ、上記液柱を形成している尾引き部分が素早く切り離される。これにより、サテライトドットが小さくなり、印字品位を向上させることができる。
【0026】
さらに、尾引き部分が素早く切り離されることにより、吐出速度が低下せず、また、吐出滴とサテライトドットとの距離も短くなるので、吐出滴の後方でいわゆるスリップストリーム現象によりサテライトドットが吐出滴に引き寄せられる。その結果、サテライトドットが吐出滴と合体し、サテライトドットが殆どない液体吐出ヘッドを提供することが可能となる。
【0027】
さらに、可動部材は上流側の気泡発生領域に面して配されているので、複数の気泡発生領域を液体の流れ方向に沿って配置しても可動部材の長さが長くはならない。その結果、可動部材の応答性も低下しない。しかも、可動部材は1つの液流路に対して1つでよいので、可動部材を支持するためのスペースも最小限ですみ、液体吐出ヘッドが大型化することはない。
【0028】
本発明の液体吐出方法は、上記本発明の液体吐出ヘッドを用い、
前記各気泡発生領域のうち前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して下流側の気泡発生領域で気泡を発生させた後、上流側の気泡発生領域で気泡を発生させて、各々の気泡発生領域で発生した気泡により前記吐出口から液体を吐出することを特徴とする。
【0029】
このように、各気泡発生領域での気泡発生のタイミングをずらして吐出口から液体を吐出することで、吐出口への液体の流れが差動的に生じるため、吐出速度を極端に増大させない程度に気泡の成長が持続される。その結果、安定的吐出速度で更なる大液滴の吐出が可能となる。この場合、下流側の気泡発生領域での気泡の収縮中に上流側の気泡発生領域で気泡を発生させることが好ましい。
【0030】
本発明のその他の効果については、各実施形態の記載から理解できよう。
【0031】
なお、本発明の説明で用いる「上流」「下流」とは、液体の供給源から気泡発生領域(又は可動部材)を経て、吐出口へ向かう液体の流れ方向に関して、又はこの構成上の方向に関しての表現として表されている。
【0032】
また、気泡自体に関する「下流側」とは、気泡の中心に対して、上記流れ方向や上記構成上の方向に関する下流側、又は、発熱体の面積中心より下流側の領域で発生する気泡を意味する。同様に、気泡自体に関する「上流側」とは気泡の中心に対して、上記流れ方向や上記構成上の方向に関する上流側、又は、発熱体の面積中心より上流側の領域で発生する気泡を意味する。
【0033】
また、本発明で用いる可動部材と規制部との実質的な「接触」とは、両者の間に数μm程度の液体が介在した近接状態であっても、直接接触した状態であってもよい。
【0034】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0035】
図1及び図2は、本発明の一実施形態の液体吐出ヘッドを液流路方向で切断した断面図で示すとともに、液流路内の特徴的な現象を(a)〜(f)の工程に分けて示したものである。特に、図1は、上流側の発熱体を駆動したときの特徴的な現象を示し、図2は、下流側の発熱体を駆動したときの特徴的な現象を示す。
【0036】
本形態の液体吐出ヘッドでは、液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子として、液体に熱エネルギーを作用させる発熱体2,3が平滑な素子基板1に設けられており、素子基板1上に発熱体2,3に対応して液流路10が配されている。発熱体2,3は、1つの液流路10に対してその長手方向に沿って配置されており、各々独立して発熱可能である。下流側の発熱体3は、上流側の発熱体2よりも面積が小さく、小さな吐出量の液滴を吐出することを目的とし、これら2つの発熱体2,3を適切に駆動することで、吐出量の異なる液滴の吐出を可能としている。
【0037】
液流路10は吐出口18に連通していると共に、複数の液流路10に液体を供給するための共通液室13に連通しており、吐出口18から吐出された液体に見合う量の液体をこの共通液室13から受け取る。符号Mは吐出液が形成するメニスカスを表し、メニスカスMは、吐出口18及びそれに連通する液流路10の内壁によって発生する毛細管力によって通常負圧である共通液室13の内圧に対して、吐出口18近傍でつり合っている。
【0038】
液流路10は、発熱体2,3を備えた素子基板1と天板50が接合されることで構成されており、発熱体2,3と吐出液との接する面の近傍領域には、発熱体2,3が急速に加熱されて吐出液に発泡を生じさせる気泡発生領域11,12が存在する。液流路10には可動部材31が、その少なくとも一部が上流側の気泡発生領域11と対面し、発熱体2,3の発熱により発生する気泡の成長に伴って変位可能に配されている。この可動部材31は吐出口18に向かう下流側に自由端32を有すると共に、上流側に配置された支持部材34に支持されている。特に本形態では、上流側へのバック波及び液体の慣性力に影響する、気泡の上流側半分の成長を抑制するため、自由端32が気泡発生領域11の中央付近に配されている。可動部材31が変位するときの支点33は、支持部材34における可動部材31の支持部となっている。
【0039】
上流側の気泡発生領域11の中央上方にはストッパ(規制部)64が位置していて、上流側の発熱体2の発熱により発生した気泡の上流側半分の成長を抑制するために可動部材31の変位をある範囲で規制している。共通液室13から吐出口18への流れにおいて、ストッパ64を境に上流側に、液流路10と比較して相対的に流路抵抗の低い低流路抵抗領域65が設けられている。この領域65における流路構造は上壁がなかったり流路断面積が大きいことなどで、液の移動に対し流路から受ける抵抗を小さくしている。
【0040】
以上の構成により、変位した可動部材31とストッパ64との接触によって、気泡発生領域11,12を有する液流路10が吐出口18を除いて、実質的に閉じた空間になるという従来にない特徴的なヘッド構造を提案している。
【0041】
以下に、本実施形態の液体吐出ヘッドの吐出動作について詳しく説明する。上記のように、本実施形態の液体吐出ヘッドは1つの液流路10に対して2つの発熱体2,3を備えているので、どちらの発熱体2,3を駆動するかによって複数の吐出モードを有する。
【0042】
まず、上流側の発熱体2を駆動した場合の吐出動作について、図1を参照して説明する。
【0043】
図1(a)では、発熱体2に電気エネルギー等のエネルギーが印加される前の状態であり、発熱体2が熱を発生する前の状態を示す。ここで重要なことは、可動部材31が、発熱体2の発熱によって発生する気泡に対し、この気泡の上流側半分に対面する位置に設けられており、かつ、可動部材31の変位を規制するストッパ64が上流側の気泡発生領域11の中央上方に設けられていることである。つまり、液流路構造と可動部材31の配置位置とによって、気泡の上流側半分が可動部材31に押え込まれるようになっている。
【0044】
図1(b)では、気泡発生領域11内を満たす液体の一部が発熱体2によって加熱され、膜沸騰に伴う気泡40が最大に成長した状態を示す。このとき、気泡40の発生に基づく圧力により液流路10内の液体が下流側及び上流側に移動し、上流側においては気泡40の成長により可動部材31が変位し、下流側においては吐出口18から吐出滴66が飛び出そうとしている。ここで、上流側すなわち共通液室13方向への液体の移動は、低流路抵抗領域65によって大きな流れとなるが、可動部材31はストッパ64に接近または接触するまで変位すると、それ以上の変位が規制されるため、上流方向への液体の移動もそこで大きく制限される。同時に、気泡40の上流側への成長も可動部材31で制限される。しかしながら、上流方向への液体の移動力は大きいため、可動部材31は上流方向へ引っ張られたかたちの応力を大きく受けている。さらに、可動部材31で成長を制限された気泡40の一部は、液流路10を形成する両側壁と可動部材31の側部との僅かな間隙を通り、可動部材31の上面側に隆起している。この隆起した気泡を本明細書では「隆起気泡(41)」と呼ぶこととする。
【0045】
図1(c)では、前述した膜沸騰の後に気泡内部の負圧が液流路内の下流側への液体の移動に打ち勝って、気泡40の収縮が開始された状態を示す。この時点では、気泡成長による液体の上流方向への力が大きく残るため、気泡40の収縮開始後一定の間は可動部材31は未だストッパ64に接触された状態であり、気泡40の収縮の多くは吐出口18から上流方向への液移動を生じさせる。つまり、図1(b)に示した段階の直後は、変位した可動部材31とストッパ64との接触によって、気泡発生領域11を有する液流路10が吐出口18を除いて、実質的に閉じた空間になっているため、気泡40の収縮エネルギーは吐出口18近傍の液体を上流方向へ移動させる力として働く。したがって、メニスカスMはこの時点で吐出口18から液流路10内に大きく引き込まれ、吐出液滴66と繋がっている液柱を強い力ですばやく切り離すことになる。その結果、図1(d)に示すように、吐出口18の外側にとり残される液滴すなわちサテライト(副滴)67が少なくなる。
【0046】
図1(d)では、消泡工程が終了し吐出液滴66とメニスカスMが分断された状態を示す。低流路抵抗領域65では液体の上流方向の移動力に対し可動部材31の反発力が勝り、可動部材31の下方変位とそれに伴う低流路抵抗領域65での下流方向への流れとが開始される。これと同時に、低流路抵抗領域65での下流方向への流れは流路抵抗が小さい為、急速に大きな流れとなってストッパ64部分を介し液流路10へ流れ込む。これにより、メニスカスMを液流路10内へと急速に引き込む流れが急に低下するため、メニスカスMは吐出口18から外側に残った液柱部分を引き込みながら比較的低速で発泡前の位置へ戻り始める。したがって、メニスカスの振動を高速に収束させることができる。
【0047】
一方、吐出滴66とその直後に存在するサテライト67は図1(c)における急速なメニスカス引き込みによって極めて近接しており、吐出滴66の飛翔の後方に生じる空気の渦により吐出滴に引き寄せられる力を受ける現象、いわゆるスリップストリーム現象が発生する。
【0048】
この現象について詳しく説明する。旧来からの液体吐出ヘッドでは吐出口から液体が吐出された瞬間に液滴が球体を形成することはなく、先端に球状部を持つ液柱に近い状態で吐出される。そして、尾引きの部分が主滴とメニスカスの両方に引っ張られてメニスカスより切り離されたときに尾引きの部分からサテライトドットが形成され、主滴と共に被記録体へ飛翔することが知られている。サテライトドットは主滴よりも後から飛翔するため、メニスカスにも引っ張られていた分だけ吐出速度が低く、その着弾位置が主滴とずれて、印字品位が劣化してしまう。本発明による液体吐出ヘッドでは、前述のようにメニスカスを後退させる力が旧来の液体吐出ヘッドよりも大きいため、主滴が吐出した後の尾引き部分を引っ張る力が強く、尾引き部分とメニスカスを切り離す力が強くなってこの切り離すタイミングも早くなる。したがって、尾引き部分から形成されるサテライトドットが小さくなり、また主滴とサテライトドットとの距離が短くなる。さらに、尾引き部分がいつまでもメニスカスに引っ張られ続けないため、吐出速度が低下せず、吐出滴66の後方でいわゆるスリップストリーム現象によりサテライト67が引き寄せられる。
【0049】
図1(e)では図1(d)の状態がさらに進んだ状態を示す。サテライト67はさらに吐出滴66に近接し同時に引き寄せられ、スリップストリーム現象による引き力も増大する。一方、上流側から吐出口18方向への液体移動は、可動部材31の変位オーバーシュートで初期位置より下方に変位することで上流側からの液体の引き込みと吐出口18方向への液体の押し出し現象を生じさせる。しかも、ストッパ64が存在する液流路の断面積拡大によって吐出口18方向への液流れが増大し、メニスカスMの吐出口18への復帰が加速する。この事により、本形態におけるリフィル特性は飛躍的に向上する。
【0050】
図1(f)では、図1(e)の状態がさらに進み、サテライト67が吐出滴66にとり込まれた状態を示す。この吐出滴66とサテライト67の合体は他の実施形態でも吐出毎に必ずしも起きる現象ではなく、条件によって起きる場合と起きない場合がある。しかし、サテライトの量を少なくとも減少または消滅させることで、主滴とサテライトドットとの着弾位置が被記録体上で殆どずれず印字品位に与える影響が極めて小さくなる。すなわち、画像のシャープネスを高め印字品位を向上させるとともに、ミストとなって印字媒体や記録装置内を汚すなどの弊害を低減することができる。
【0051】
一方、可動部材31はそのオーバーシュートの反動で再びストッパ64の方向への変位を生じる。これは可動部材31の形状及びヤング率、液流路内の液体の粘度、比重で決まる減衰振動により収束し、最終的には初期位置で停止する。
【0052】
可動部材31の上方変位によって共通液室13側から吐出口18方向への液体の流れは制御され、メニスカスMの動きは吐出口近傍ですみやかに収束する。よって、メニスカスのオーバーシュート現象などの、吐出状態を不安定にし印字品位を低下する要因を大きく低減することができる。
【0053】
ここで、上流側の発熱体2を駆動した場合の更なる特徴的な効果について説明する。
【0054】
図3は図1(b)に示した一部のヘッドの透視斜視図であり、ノズルを透視して破線で示す以外は基本的に図1(b)と同じ状態を示すものである。本実施形態では、液流路10を構成する壁の両側壁面と可動部材31の両側部には僅かながらにクリアランスが存在し、可動部材31のスムーズな変位を可能にしている。さらに、発熱体2による発泡の成長工程において、気泡40は可動部材31を変位させるとともに、前記クリアランスを介し可動部材31の上面側へ隆起して低流路抵抗領域65に若干侵入する。この侵入した隆起気泡41は可動部材31の背面(気泡発生領域11と反対面)に回り込むことで可動部材31のブレを抑え、吐出特性を安定化する。
【0055】
さらに、気泡40の消泡工程において、隆起気泡41が低流路抵抗領域65から気泡発生領域11への液流を促進させ、前述した、吐出口18側からの高速なメニスカス引き込みと相まって、消泡をすみやかに完了させる。特に、隆起気泡41が引き起こす液流によって可動部材31や液流路10のコーナーに気泡を蓄留させることがほとんどない。
【0056】
次に、下流側の発熱体3を駆動した場合の吐出動作について、図2を参照して説明する。
【0057】
図2(b)では、下流側の発熱体3の駆動によって、気泡発生領域12内の液体の一部が加熱され、膜沸騰に伴う気泡42が最大に成長した状態を示す。この際、下流側では、吐出口18から吐出滴68が飛び出そうとしている。この吐出滴の大きさは、上流側の発熱体2の駆動に伴って吐出される吐出滴66(図1参照)の大きさよりも小さい。一方、上流側では液体の流れが発生するが、その流れで可動部材31がある程度変位するため、上流側への液体の流れは制限される。
【0058】
図2(c)では、気泡42の収縮工程を示す。この際、気泡42から吐出口18までの流路抵抗に対して、気泡42から共通液室13までの流路抵抗は、距離が長い上に、可動部材31とストッパ64による流路断面が小さい領域によってかなり大きくなっているため、気泡42の消泡点は発熱体3の中心よりも上流側にずれる。このことは、メニスカスMの引き込みを大きくすることを意味し、これにより、吐出滴68は十分な吐出速度を保った上に、吐出量を小さく抑えることができる。
【0059】
図2(d)では、消泡工程が終了し、吐出滴68とメニスカスMが分断された状態を示す。この状態では、気泡42の消泡後、可動部材31が下方に変位するため、ここでの流路抵抗も小さく、メニスカスMの復帰が高速で行われる。
【0060】
図2(e)では、可動部材31が反動で上方に変位することで、上流側からの高速液流を抑制し、メニスカスMの動作を急速に収束させている。これは、図1の場合と同様に、メニスカスMの安定による吐出状態の安定化が可能となり、印字品位の向上につながる。
【0061】
以上説明したように、図1で説明した上流側の発熱体2による大液滴と、図2で説明した下流側の発熱体3による小液滴の吐出により、本実施形態の液体吐出ヘッドは、大液滴による高速印字と、小液滴による高画質印字を実現する。
【0062】
特に、大液滴用の発熱体2を小液滴用の発熱体3の上流側に位置させるとともに、発熱体3による気泡40を中央領域でストッパ64と可動部材31とで分断させるため、大液滴及び小液滴を安定的かつ高速に吐出することができ、また、サテライトの低減やメニスカス振動の低減による高品位の印字が得られる。さらに詳しく説明すれば、大小の液滴を安定的に吐出するためには、各々の液滴の吐出速度をあるレベル以上にする必要がある。本発明の場合、小液滴用の発熱体3を吐出口18に近い側に配置し、吐出速度を向上させると同時に、可動部材31の作用でメニスカスMの引き込み速度を高め、吐出量が増大するのを抑えている。また、大液滴用の発熱体2を上流側に配置すると、気泡40が共通液室13側へ大きく成長するのを可動部材31が抑えることで、信頼性の高い吐出状態を維持することができる。
【0063】
さらに、可動部材31は液流路10に対して1つだけ設けられているので、各発熱体2,3ごとに可動部材を設けた場合に比べて、可動部材を支持するために必要な素子基板1上のスペースが最小限ですむ。また、可動部材31の自由端32は上流側の発熱体2の上方に位置しているので可動部材31の長さも長くならず、気泡40,42の成長に伴う可動部材31の変位の際の応答性も良好である。従って、発熱体2,3を高周波数で駆動しても可動部材31は液流路10内の液体及び気泡40,42に対して確実に作用することになる。
【0064】
以上、2つの発熱体2,3を個別に駆動して液体を吐出する場合を説明したが、2つの発熱体2,3を同時に駆動してさらに大液滴を吐出することもできる。
以下に、2つの発熱体2,3を同時に駆動してさらに大液滴を吐出する方法を、図4を参照して説明する。
【0065】
さらに大液滴を吐出しようとして発熱体2,3を同時に駆動すると、吐出量は増大するものの、サテライトの増大などによる印字品位低下を引き起こすが、本発明では、下流側の発熱体3を駆動した後、タイミングをずらして上流側の発熱体3を駆動することで、安定的に吐出量の増大を実現している。
【0066】
まず、図4(a)に示すように、下流側の発熱体3を駆動して気泡42を発生させ、この発熱体3の駆動後、約5〜15μs後に、図4(b)に示すように、上流側の発熱体3により気泡40を発生させる。このとき、下流側の発熱体3により発生した気泡42は収縮工程に移っているが、それよりも大体積の気泡40により、吐出口18への液体の流れは、差動的に生じるため、吐出速度を極端に増大させない程度に後吐出を持続することになり、安定的吐出速度(通常、8〜20m/s、好ましくは10〜18m/s)で、さらなる大液滴の吐出を実現することができる。
【0067】
図4(c)では、気泡40,42の消泡と可動部材31の変位状態により、高速にメニスカスMを引き込み、サテライトの減少をも実現する。図4(d)以降の工程は、基本的に図1(d)以降の工程と同様の作用効果が生じる。
【0068】
(その他の実施の形態)
以下、上述した液体吐出方法を用いたヘッドに適用可能な様々な形態例を説明する。
【0069】
<可動部材>
図5は可動部材31の他の形状を示すものである。同図(a)は長方形の形状であり、(b)は支点側が細くなっている形状で可動部材の動作が容易な形状であり、同図(c)は支点側が広くなっており、可動部材の剛性が向上する形状である。
【0070】
先の実施形態においては、可動部材31は厚さ5μmのニッケルで構成したが、これに限られることなく可動部材を構成する材質としては吐出液に対して耐溶剤性があり、可動部材として良好に動作するための弾性を有しているものであればよい。
【0071】
可動部材31の材料としては、耐久性の高い、銀、ニッケル、金、鉄、チタン、アルミニュウム、白金、タンタル、ステンレス、りん青銅等の金属、およびその合金、または、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン等のニトリル基を有する樹脂、ポリアミド等のアミド基を有する樹脂、ポリカーボネイト等のカルボキシル基を有する樹脂、ポリアセタール等のアルデヒド基を持つ樹脂、ポリサルフォン等のスルホン基を持つ樹脂、そのほか液晶ポリマー等の樹脂およびその化合物、耐インク性の高い、金、タングステン、タンタル、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属、これらの合金および耐インク性に関してはこれらを表面にコーティングしたもの若しくは、ポリアミド等のアミド基を有する樹脂、ポリアセタール等のアルデヒド基を持つ樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン基を有する樹脂、ポリイミド等のイミド基を有する樹脂、フェノール樹脂等の水酸基を有する樹脂、ポリエチレン等のエチル基を有する樹脂、ポリプロピレン等のアルキル基を持つ樹脂、エポキシ樹脂等のエポキシ基を持つ樹脂、メラミン樹脂等のアミノ基を持つ樹脂、キシレン樹脂等のメチロール基を持つ樹脂およびその化合物、さらに二酸化珪素、チッ化珪素等のセラミックおよびその化合物が望ましい。本発明における可動部材31としてはμmオーダーの厚さを対象にしている。
【0072】
次に、発熱体と可動部材の配置関係について説明する。発熱体と可動部材の最適な配置によって、発熱体による発泡時の液の流れを適正し制御して有効に利用することが可能となる。
【0073】
熱等のエネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行うインクジェット記録方法、いわゆるバブルジェット記録方法の従来技術においては、図6に示すように、発熱体面積とインク吐出量は比例関係にあるが、インク吐出に寄与しない非発泡有効領域Sが存在していることがわかる。また、発熱体上のコゲの様子から、この非発泡有効領域Sが発熱体の周囲に存在していることがわかる。これらの結果から、発熱体周囲の約4μm幅は、発泡に関与されていないとされている。
【0074】
したがって、発泡圧を有効利用するためには、発熱体の周囲から約4μm以上内側の発泡有効領域の直上が可動部材に対し有効に作用する領域であるが、本発明の場合、気泡発生領域のほぼ中央領域(実際には中央から液の流れ方向に±約10μmの範囲)の上流側と下流側の気泡の液路内の液流に対する作用を、独立的に作用せしめる段階と総合的に作用せしめる段階とを区分せしめることに着目し、中央領域より上流側が可動部材の可動領域で対面するように、可動部材を配置するのが極めて重要であると、言える。本実施例においては、発泡有効領域を発熱体周囲から約4μm以上内側としたが、発熱体の種類や形成方法によっては、これに限定されるものではない。
【0075】
<素子基板>
次に、素子基板の構成について説明する。
【0076】
図7は、本発明の液体吐出ヘッドの縦断面図を示したもので、図7(a)は後述する保護膜があるヘッド、同図(b)は保護膜がないものである。
【0077】
液流路10、液流路10と連通する吐出口18、低流路抵抗領域65および共通液室13を構成する溝を設けた天板50が素子基板1上に配されている。
【0078】
素子基板1には、シリコン等の基体107に絶縁および蓄熱を目的としたシリコン酸化膜またはチッ化シリコン膜106を成膜し、その上に発熱体2,3を構成するハフニュウムボライド(HfB2)、チッ化タンタル(TaN)、タンタルアルミ(TaAl)等の電気抵抗層105(0.01〜0.2μm厚)とアルミニュウム等の配線電極104(0.2〜1.0μm厚)を図7(a)のようにパターニングしている。この配線電極104から抵抗層105に電圧を印加し、抵抗層に電流を流し発熱させる。配線電極間の抵抗層上には、酸化シリコンやチッ化シリコン等の保護層103を0.1〜2.0μm厚で形成し、さらにそのうえにタンタル等の耐キャビテーション層102(0.1〜0.6μm厚)が成膜されており、インク等の各種の液体から抵抗層105を保護している。
【0079】
特に、気泡の発生、消泡の際に発生する圧力や衝撃波は非常に強く、堅くてもろい酸化膜の耐久性を著しく低下させるため、金属材料のタンタル(Ta)等が耐キャビテーション層102として用いられる。
【0080】
また、液体、液流路構成、抵抗材料の組み合わせにより、上述の抵抗層105に保護層103を必要としない構成でもよくその例を図7(b)に示す。このような保護層103を必要としない抵抗層105の材料としてはイリジュウム−タンタル−アルミ合金等が挙げられる。
【0081】
このように、前述の発熱体の構成としては、前述の電極間の抵抗層(発熱部)だけででもよく、また抵抗層を保護する保護層を含むものでもよい。
【0082】
ここでは、発熱体として電気信号に応じて発熱する抵抗層で構成された発熱部を有するものを用いたが、これに限られることなく、吐出液を吐出させるのに十分な気泡を発泡液に生じさせるものであればよい。例えば、発熱部としてレーザ等の光を受けることで発熱するような光熱変換体や高周波を受けることで発熱するような発熱部を有する発熱体でもよい。
【0083】
なお、前述の素子基板1には、前述の発熱部を構成する抵抗層105とこの抵抗層に電気信号を供給するための配線電極104で構成される電気熱変換体の他に、この電気熱変換素子を選択的に駆動するためのトランジスタ、ダイオード、ラッチ、シフトレジスタ等の機能素子が一体的に半導体製造工程によって作り込まれていてもよい。
【0084】
また、前述のような素子基板1に設けられている電気熱変換体の発熱部を駆動し、液体を吐出するためには、前述の抵抗層105に配線電極104を介して図8で示されるような矩形パルスを印加し、配線電極間の抵抗層105を急峻に発熱させる。前述の各実施形態のヘッドにおいては、それぞれ電圧24V、パルス幅約4μsec、電流約100mA、電気信号を6kHz以上で加えることで発熱体を駆動させ、前述のような動作によって、吐出口から液体であるインクを吐出させた。しかしながら、駆動信号の条件はこれに限られることなく、発泡液を適正に発泡させることができる駆動信号であればよい。
【0085】
<吐出液体>
このような液体の内、記録を行う上で用いる液体(記録液体)としては従来のバブルジェット装置で用いられていた組成のインクを用いることができる。
【0086】
また、従来吐出が困難であった発泡性が低い液体、熱によって変質、劣化しやすい液体や高粘度液体等であっても利用できる。
【0087】
ただし、吐出液の性質として吐出液自身、吐出や発泡また可動部材の動作等を妨げるような液体でないことが望まれる。
【0088】
記録用の吐出液体としては、高粘度インク等をも利用することができる。
【0089】
本発明においては、さらに吐出液に用いることができる記録液体として以下のような組成のインクを用いて記録を行ったが、吐出力の向上によってインクの吐出速度が高くなったため、液滴の着弾精度が向上し非常に良好な記録画像を得ることができる。
【0090】
染料インク(粘度2cP)の組成
(C−1.フードブラック2)染料 3重量%
ジエチレングリコール 10重量%
チオジグリコール 5重量%
エタノール 5重量%
水 77重量%
【0091】
<液体吐出ヘッド構造>
図9は、本発明の液体吐出ヘッドの全体構成を示した分解斜視図である。
【0092】
アルミ等の支持体70上に発熱体2が複数設けられた素子基板1が配されている。この上に各発熱体2の共通液室13側の半分と対面するように可動部材31を支持した支持部材34が設けられている。さらに、この上に液流路10を構成する複数の溝と共通液室13の凹溝とが設けられた天板50が設けられている。
【0093】
<液体吐出装置>
図10は、図1で説明した構造の液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置の概略構成を示している。本実施形態では、特に吐出液体としてインクを用いたインク吐出記録装置を用いて説明する。液体吐出装置のキャリッジHCは、インクを収容する液体タンク部90と、液体吐出ヘッド部200とが着脱可能なヘッドカートリッジを搭載しており、被記録媒体搬送手段で搬送される記録紙等の被記録媒体150の幅方向に往復移動する。
【0094】
不図示の駆動信号供給手段からキャリッジ上の液体吐出手段に駆動信号が供給されると、この信号に応じて液体吐出ヘッドから被記録媒体に対して記録液体が吐出される。
【0095】
また、本実施形態の液体吐出装置においては、被記録媒体搬送手段とキャリッジを駆動するための駆動源としてのモーター111、駆動源からの動力をキャリッジに伝えるためのギア112、113、キャリッジ軸115等を有している。この記録装置およびこの記録装置で行う液体吐出方法によって、各種の被記録媒体に対して液体を吐出することで良好な画像の記録物を得ることができた。
【0096】
図11は、本発明の液体吐出方法および液体吐出ヘッドにおいてインク吐出記録を動作させるための装置全体のブロック図である。
【0097】
記録装置は、ホストコンピュータ300より印字情報を制御信号として受ける。印字情報は印字装置内部の入力インタフェイス301に一時保存されると同時に、記録装置内で処理可能なデータに変換され、ヘッド駆動信号供給手段を兼ねるCPU302に入力される。CPU302はROM303に保存されている制御プログラムに基づき、前記CPU302に入力されたデータをRAM304等の周辺ユニットを用いて処理し、印字するデータ(画像データ)に変換する。
【0098】
また、CPU302は前記画像データを記録用紙上の適当な位置に記録するために、画像データに同期して記録用紙および記録ヘッドを移動する駆動用モータを駆動するための駆動データを作る。画像データおよびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ307と、モータドライバ305を介し、ヘッド200および駆動モータ306に伝達され、それぞれ制御されたタイミングで駆動され画像を形成する。
【0099】
上述のような記録装置に適用でき、インク等の液体の付与が行われる被記録媒体としては、各種の紙やOHPシート、コンパクトディスクや装飾板等に用いられるプラスチック材、布帛、アルミニウムや銅等の金属材、牛皮、豚皮、人工皮革等の皮革材、木、合板等の木材、竹材、タイル等のセラミックス材、スポンジ等の三次元構造体等を対象とすることができる。
【0100】
また、上述の記録装置として、各種の紙やOHPシート等に対して記録を行うプリンタ装置、コンパクトディスク等のプラスチック材に記録を行うプラスチック用記録装置、金属板に記録を行う金属用記録装置、皮革に記録を行う皮革用記録装置、木材に記録を行う木材用記録装置、セラミックス材に記録を行うセラミックス用記録装置、スポンジ等の三次元網状構造体に対して記録を行う記録装置、また布帛に記録を行う捺染装置等をも含むものである。
【0101】
また、これらの液体吐出装置に用いる吐出液としては、それぞれの被記録媒体や記録条件に合わせた液体を用いればよい。
【0102】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の液体吐出ヘッドによれば、気泡の発生により液体を吐出させる複数の気泡発生領域を液流路内での液体の流れ方向に沿って配置し、上流側の気泡発生領域にのみ可動部材を設けることで、液体の吐出量変調を行いつつ、高速印字等における吐出の安定性を実現することができる。また、可動部材は上流側の気泡発生領域に面して自由端を下流側に向けて配されているので、可動部材の応答性も良好なものとなり、しかも、可動部材は1つの液流路に対して1つでよいので、可動部材を支持するためのスペースも最小限ですみ、液体吐出ヘッドが大型化することはない。
さらに、可動部材が変位して規制部に接触する構成とすれば、液流路が、吐出口に向かう液体の流れ方向に関して実質的に分断されるので、各気泡発生領域での気泡の発生に伴う液体の吐出を安定的かつ高速に行うことができ、しかも、サテライトドットの低減やメニスカス振動の低減を達成することができる。
【0103】
本発明の液体吐出方法によれば、上記本発明の液体吐出ヘッドを用い、各気泡発生領域のうち下流側の気泡発生領域で気泡を発生させた後、上流側の気泡発生領域で気泡を発生させて、各々の気泡発生領域で発生した気泡により吐出口から液体を吐出することにより、安定的吐出速度で大液滴の吐出が可能となる。これにより、1つのノズルで異なる吐出量の液滴を安定的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の液体吐出ヘッドを液流路方向で切断した断面図であり、上流側の発熱体を駆動したときの液流路内の特徴的な現象を(a)〜(f)の工程に分けて示したものである。
【図2】図1に示した液体吐出ヘッドにおいて、下流側の発熱体を駆動したときの液流路内の特徴的な現象を(a)〜(e)の工程に分けて示した断面図である。
【図3】図1(b)に示した一部のヘッドの透視斜視図である。
【図4】図1に示した液体吐出ヘッドにおいて、2つの発熱体を駆動したときの液流路内の特徴的な現象を(a)〜(f)の工程に分けて示した断面図である。
【図5】可動部材の他の形状を示す図である。
【図6】発熱体面積とインク吐出量との相対関係を示すグラフである。
【図7】本発明の液体吐出ヘッドの楯断面図であり、(a)は保護膜があるもの、(b)は保護膜がないものを示す。
【図8】本発明に使用する発熱体の駆動波形図である。
【図9】本発明の液体吐出ヘッドの全体構成を示した分解斜視図である。
【図10】図1で説明した構造の液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置の概略構成を示す図である。
【図11】本発明の液体吐出方法及び液体吐出ヘッドにおいてインク吐出動作をさせるための装置全体のブロック図である。
【符号の説明】
1 素子基板
2,3 発熱体
10 液流路
11,12 気泡発生領域
13 共通液室
18 吐出口
31 可動部材
32 自由端
33 支点
34 支持部材
40,42 気泡
41 隆起気泡
50 天板
64 ストッパ
65 低流路抵抗領域
66,68 吐出滴
67 サテライト
70 支持体
90 インクタンク
102 耐キャビテーション層
103 保護層
104 配線電極
105 抵抗層
106 チッ化シリコン膜
107 基体
111 モーター
112,113 ギア
115 キャリッジ軸
150 記録媒体
200 ヘッド
300 ホストコンピュータ
301 入出力インターフェイス
302 CPU
303 ROM
304 RAM
305 モータドライバ
306 駆動用モータ
307 ヘッドドライバ

Claims (11)

  1. 液体を吐出する吐出口と、
    前記吐出口と連通するとともに、液体に気泡を発生させるための複数の気泡発生領域が前記吐出口に向かう液体の流れ方向に沿って備えられた液流路と、
    前記気泡発生領域に面して配され、前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して下流側に自由端を有する可動部材とを有し、
    前記可動部材は、前記複数の気泡発生領域のうち前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して上流側の気泡発生領域にのみ設けられ
    前記複数の気泡発生領域はそれぞれ、気泡の発生によって前記吐出口から液体を吐出させることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  2. 前記気泡の成長に伴う前記可動部材の変位を規制するための規制部を有し、前記可動部材が変位して前記規制部に接触する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  3. 前記可動部材の自由端は、前記上流側の気泡発生領域に位置している請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
  4. 前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して下流側の気泡発生領域の面積が、上流側の気泡発生領域の面積よりも小さい請求項1、2または3に記載の液体吐出ヘッド。
  5. 前記各気泡発生領域には、それぞれ気泡を発生させるための熱を発生する発熱体が設けられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  6. 前記各発熱体は個別に駆動可能である請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用い、
    前記各気泡発生領域のうち前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して下流側の気泡発生領域で気泡を発生させた後、上流側の気泡発生領域で気泡を発生させて、各々の気泡発生領域で発生した気泡により前記吐出口から液体を吐出することを特徴とする液体吐出方法。
  8. 前記下流側の気泡発生領域での気泡の収縮中に前記上流側の気泡発生領域で気泡を発生させる請求項7に記載の液体吐出方法。
  9. 請求項2に記載の液体吐出ヘッドを用い、
    前記各気泡発生領域のうち前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して下流側の気泡発生領域で気泡を発生させた後、上流側の気泡発生領域で気泡を発生させて、各々の気泡発生領域で発生した気泡により前記吐出口から液体を吐出する液体吐出方法であって、
    前記上流側の気泡発生領域での気泡の成長工程において前記可動部材を前記規制部に接近または接触させて、前記吐出口に向かう液体の流れ方向に関して上流方向への液体移動及び気泡成長を制限する段階を有する液体吐出方法。
  10. 請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、該液体吐出ヘッドから吐出された液体を受ける被記録媒体を搬送する被記録媒体搬送手段とを備えた液体吐出装置。
  11. 前記液体吐出ヘッドからインクを吐出し、被記録媒体にインクを付着させることによって記録を行う請求項10に記載の液体吐出装置。
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