JP4137681B2 - 液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドカートリッジ、液体吐出装置およびインクジェット記録装置 - Google Patents
液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドカートリッジ、液体吐出装置およびインクジェット記録装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱エネルギーを液体に作用させて気泡を発生させることによって液体を吐出する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドカートリッジ、液体吐出装置およびインクジェット記録装置に関し、さらに詳しくは、液流路の剛性を大きくすることによって、隣接する流路間の干渉がなく、安定した液吐出を行うことができる液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドカートリッジ、液体吐出装置およびインクジェット記録装置に関する。
【0002】
また、本発明は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対して記録を行うプリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置に適用できる液体吐出ヘッドおよびその応用装置に関する発明である。なお、本発明における「記録」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を被記録媒体に付与することをも意味するものである。
【0003】
【従来の技術】
従来、プリンタ等の記録装置において、インク流路中の液体インクに熱等のエネルギーを与えて気泡を発生させ、それに伴う急峻な体積変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行なうインクジェット記録方法、いわゆるバブルインクジェット記録方法が知られている。このバブルインクジェット記録方法を用いる記録装置には、米国特許第4,723,129号等に開示されているように、インクを吐出するための吐出口と、この吐出口に連通する流路と、流路内に配されたインクを吐出するためのエネルギー発生手段としての電気熱変換体が一般的に使用される。
【0004】
このような記録方法によれば、品位の高い画像を高速、低騒音で記録することができるとともに、この記録方法を行う記録ヘッドではインクを吐出するための吐出口を高密度に配置することができるため、小型の装置で高解像度の記録画像、さらにカラー画像をも容易に得ることができるという多くの優れた点を有している。このため、このバブルインクジェット記録方法は近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の多くのオフィス機器に利用されており、さらに捺染装置などの産業用システムにまで利用されるようになってきている。
【0005】
このように、バブルインクジェット技術が多方面の製品に利用されるに従って様々な要求が高まっており、例えば、高画質な画像を得るために、インクの吐出スピードが速く、安定した気泡発生に基づく良好なインク吐出を行える液体吐出方法を与えるための駆動条件が提案されたり、また高速記録の観点から、吐出された液体の液流路内への充填(リフィル)速度の速い液体吐出ヘッドを得るために流路形状を改良したものも提案されている。
【0006】
このうち、ノズル内において気泡を発生させ、この気泡成長に伴い液体を吐出させるヘッドにおいて、吐出口とは反対方向への気泡成長およびこれによる液流が吐出エネルギー効率およびリフィル特性を低下させる要因として知られており、このような吐出エネルギー効率およびリフィル特性を向上させる構造の発明が特許文献1に提案されている。
【0007】
特許文献1に開示された液体吐出ヘッドは、液流路と共通液体供給室との間にこれらを遮断する可動部材を設けたものである。可動部材を有する構成の液体吐出ヘッドでは、液体吐出の度に、液体の加熱発泡および消泡に伴って可動部材が変位と復帰を繰り返す。ただし、通常の液体吐出のための発泡よりも大きな気泡が発生した場合、可動部材が過度の変形を生じる恐れがある。通常は、流路は吐出口のメニスカス部分以外はほとんどすべて液体で満たされているが、液体吐出ヘッドの吸引回復処理を行った後などに、流路中の液体を排出し過ぎて流路中に液体で満たされていない空間が存在する場合がある。
【0008】
この状態で、液体吐出のための発熱体の加熱が行われると、液体の発泡に伴い可動部材が変位して、可動部材の自由端(先端)が規制部により規制されて所望の位置で停止するが、可動部材の中間部(自由端と支点との間)は規制されておらず上方へ強く引き寄せられる。特に可動部材の上方に液体の存在しない空間がある状態では、液体の圧力もないため上流方向へ引っ張られる応力を大きく受け、上方(天板側)に凸の撓み変形を生じる。この撓み変形により可動部材にクラックや欠陥が発生してしまう恐れがある。さらに、この撓み変形が大きくなったり、度々繰り返されると、可動部材が破断する場合もある。
【0009】
この問題に対し、特許文献2に開示された液体吐出ヘッド、特許文献3に開示された液体吐出ヘッドでは、可動部材の変形を抑制する変位規制部材を設けている。すなわち、特許文献2に開示された液体吐出ヘッドでは、可動部材の自由端部およびそれに連続する両側部で囲まれる領域で可動部材の変形を抑制している。また、特許文献3に開示された液体吐出ヘッドでは、可動部材の自由端部の先端規制部材のほかにも、可動部材の撓みを抑制する撓み規制部を設けている。
【0010】
また、本出願人の出願に係る特許文献4に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、個別電極が形成された電極基板を貫通してインクを供給し、振動板の延長部分によって各液室へのインク供給口に可動部材(逆止弁)を形成している。
【0011】
【特許文献1】
特開2001−38903号公報
【特許文献2】
特開2001−225470号公報
【特許文献3】
特開2002−144578号公報
【特許文献4】
特開2001−18385号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献2に開示された液体吐出ヘッドは、可動部材の自由端部およびそれに連続する両側部で囲まれる領域で可動部材の変形を抑制しているので、それぞれの液流路へ液体の流入する開口は可動部材よりも小さくなっている。近年、液体吐出ヘッドを用いたインクジェットプリンタは、高速化・高画質化が求められ、液流路密度は高くなっている。例えば、600dpiで液流路を並べると、そのピッチは42.3μmとなる。液流路はそれらを仕切る流路側壁分だけ幅が狭くなる。可動部材は液流路よりも幅が狭い必要があるので、高密度に並べたヘッドでは可動部材の幅は非常に狭くなる。
【0013】
図17は、特許文献2に開示された液体吐出ヘッドを示す平断面図で、後述する本発明の実施例1を示す図3に対応する図である。
特許文献2に開示された液体吐出ヘッドでは、図17に示すように液流路103へ液の流入する開口領域Sは、可動部材108の幅より小さくしなければならない。そのため、共通液体供給室から液体供給口105を介して各液流路103へ液を供給する部分の流体抵抗が非常に大きくなってしまい、高速印字のために高周波数駆動した場合には、液流路103への液の供給が追いつかなくなり、印字不良・不能となる不具合が生じる恐れがある。また、普通紙に滲みのない印字を行うには高粘度のインクが有効であるが、高粘度インクになるほど流体抵抗が大きくなり、なおさら問題となる。
【0014】
図18は、特許文献3に開示された液体吐出ヘッドの共通液体供給室を示す断面図である。
特許文献3に開示された液体吐出ヘッドでは、図18(A),(B)に示すように可動部材211の撓み規制部材212a,212bを共通液体供給室203の天井となる天板202に設けている。この構成においては、可動部材211の撓み規制部材212a,212bである柱を共通液体供給室203に液流路と同ピッチで設けている。共通液体供給室の液はこの柱(撓み規制部材212a)あるいは柱と柱(撓み規制部材212b)と流路側壁207の隙間を介して各液流路へ供給されることになる。液流路を高密度にならべたものではこの柱の隙間が非常に狭くなるので、各液流路への液供給は十分行えなくなる恐れがある。また、撓み規制部材である柱は非常に細いものとなるので、ヘッド組立て中に破損して歩留りが低くなったり、あるいはヘッド駆動時に気泡の力により破損し、印字できなくなったりする恐れもある。
【0015】
本発明の目的は、可動部材を有する液体吐出ヘッドにおいて、高密度に液流路を配列した場合にも、各液流路に十分な液を供給でき、製造歩留まりがよく高耐久性とすること、および前記液体吐出ヘッドを用いた液体吐出ヘッドカートリッジ、液体吐出装置及びインクジェット記録装置を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前記した課題を解決するため、請求項1の発明は、液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通し前記液体を供給する液流路と、 隣接する前記液流路を分割する流路隔壁と、前記液流路に充填された前記液体に気泡を発生させる発熱体が備えられた素子基板と、前記液流路を介して前記素子基板の反対側に設けられた天板と、該素子基板上に固定された固定部と、前記吐出口側を自由端とし、前記発熱体に対向する位置に前記素子基板との間に間隙を介して配置されている可動部とを有する可動部材と、前記素子基板上の前記発熱体と対向する位置における前記天板の下面に設けられ、該可動部材の変位量を規制する先端規制部材と、 該先端規制部材から離間した位置に配置されている少なくとも1つの撓み規制部材とを有し、 前記気泡の発生によって生じる圧力によって前記液体を前記吐出口から吐出させ、その際前記可動部材の前記可動部が変位する液体吐出ヘッドであって、前記撓み規制部材は、隣接する前記流路隔壁間を横断して前記流路隔壁に接続して設けられており、前記先端規制部材は、前記撓み規制部材よりも吐出口側に設けられ、前記先端規制部材が設けられた位置から前記吐出口までの前記素子基板から前記天板までの流路高さは、前記撓み規制部材が設けられた位置における前記素子基板から前記天板までの流路高さよりも小さく、前記撓み規制部材は、前記天板と接続されておらず、前記天板と空間を隔てて設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の液滴吐出ヘッドであって、前記先端規制部材と前記撓み規制部材との間隔、あるいは前記撓み規制部材と前記可動部材の固定部との間隔は前記液流路の幅よりも大であることを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1または2の液体吐出ヘッドであって、前記撓み規制部材の少なくとも1つは、複数の前記流路隔壁間に連続的に接続して設けられていることを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1〜3の液体吐出ヘッドと、該液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留する液体容器とを有する液体吐出ヘッドカートリッジであることを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1〜3の液体吐出ヘッドあるいは請求項4の液体吐出ヘッドカートリッジと、前記液体吐出ヘッドから吐出された液体を付着させる被記録媒体を相対的に移動させる移動手段とを備えた液体吐出装置であることを特徴とする。
【0021】
請求項6の発明は、請求項1〜3の液体吐出ヘッドあるいは請求項4の液体吐出ヘッドカートリッジと、該液滴吐出ヘッドから吐出されたインクを付着させる被記録媒体を相対的に移動させる移動手段とを備えたインクジェット記録装置であることを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図1〜図16に示す実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1による液体吐出ヘッドの1つの液流路を液流路方向に沿って断面した模式的側断面図、図2は図1のX−X’線で断面した断面図、図3は図1のY−Y’線で断面した断面図である。
なお、本発明の説明で用いる「上流」「下流」とは、液体の供給源から気泡発生領域(又は可動部材)を経て、吐出口へ向かう液体の流れ方向に関して、またはこの構成上の方向に関しての表現として使用されている。また、気泡自体に関する「下流側」とは、気泡の中心に対して、上記流れ方向や上記構成上の方向に関する下流側、または発熱体の面積中心より下流側の領域で発生する気泡を意味する。
【0023】
図1〜図3に示す複数液流路−共通液体供給室形態の液体吐出ヘッドでは、素子基板1と天板2とが複数の流路隔壁10を介して積層状態で固着され、素子基板1と天板2との間には、一端が吐出口7と常に連通し他端が閉じられた液流路3が形成されている。この液流路3は1個の液体吐出ヘッドに多数設けられている。また、素子基板1には各々の液流路3に対し、液流路3に充填された液体に気泡を発生させる気泡発生手段としての電気熱変換素子等の発熱体4が配置されている。発熱体4と吐出液との接する面の近傍領域には、発熱体4が急速に加熱されて吐出液に発泡が生じる気泡発生領域11が存在する。
【0024】
多数の液流路3の各々は、液体を供給する大容積の共通液体供給室6に連通している。つまり、単一の共通液体供給室6から多数の液流路3に分岐した形状となっており、各液流路3と連通する吐出口7から吐出された液体に見合う量の液体をこの共通液体供給室6から受け取る。
【0025】
共通液体供給室6と液流路3との間には、可動部材8、可動部材8の上方への変位を規制する先端規制部材12a、撓み規制部材12bが設けられている。先端規制部材12aは天板2の下面に接続されており、撓み規制部材12bは流路隔壁10と接続して、複数の液流路3および共通液体供給室6を横断するように設けられている。可動部材8は、一端が固定部材9に支持される片持ち梁状で、他端は素子基板1の発熱体4側に位置する自由端8aであり、上下方向に移動可能である。可動部材8は素子基板1に配設された発熱体4のほぼ中央領域に位置するように設置され、初期状態においては素子基板1との間に隙間を保ちつつ素子基板1に略平行するように設置されている。
【0026】
先端規制部材12aは、可動部材8の自由端8aが先端規制部材12aに接触することで自由端8aの上方への変位量を規制するものである。可動部材8の変位規制時(可動部材接触時)には、液流路3は、可動部材8および先端規制部材12aにより上流側と下流側が実質的に遮断される。また、固定部材9によって液流路3の吐出口7と反対側端が閉じられている。
液流路3の吐出口7は、素子基板1と天板2と吐出口7が形成されたオリフィスプレート13が接合されることによって形成されている。
【0027】
可動部材8は多数の可動部が一体的に形成されており、素子基板1の上流側位置に固定される固定部材9によって、片持ち梁状に支持されている。
ある開口を液体が通過するときの流体抵抗は、開口面積が同じ場合、細長い開口の方が大きくなる。例えば、四角形状の開口の場合、流体抵抗値は開口の長辺、短辺の3乗、に比例する。よって、短辺が小さくなると著しく流体抵抗が大きくなる。本発明の液滴吐出ヘッドでは、撓み規制部材12bが複数の液流路3間および供給液体供給室6間を横断するように流路隔壁10に接続して設けられている。そのため、共通液体供給室6から各液流路3へ流入する部分の幅を小さくすることなく、液流路の幅と同じだけ広くとることができる。その結果、高密度に液流路を並べた液体吐出ヘッドにおいても各液流路3への液流入時の流体抵抗を小さくすることができ、印字速度を上げるために高周波数駆動した場合にも、液供給を十分に行うことができる。
【0028】
また、インクを被記録媒体に付着させるインクジェット記録装置において、普通紙に印字する場合、滲みのない画像を得るためには、例えば4cp以上の高粘度のインクを用いるのが有効となる。高粘度の液体は、低粘度の液体に比べ細い部分を通過するときの流体抵抗が大きくなる。本発明の液体吐出ヘッドによれば、高粘度インクを用いた場合にも、流体抵抗値を小さくすることができるので、普通紙への印字も滲みのない良好な画質を得ることができる。また、撓み規制部材12bは流路隔壁10間を接続しているため、流路隔壁10の剛性が大きくなる。よって、隣り合う液流路間の干渉(クロストーク)を小さくすることができ、安定した液吐出を行うことができる。
【0029】
また、撓み規制部材12bは、細い柱状などのような壊れやすい構造ではないので、製造歩留りが高く、低コスト化が可能である。また、ヘッド駆動時にも気泡の力によって撓み規制部材12bが壊れるといった不良も少なくなる。
【0030】
また、液体の流体抵抗を小さくするには、前記したように開口の短辺を大きくするのが有効である。図3に示すように、開口の一方をなす液流路幅aは、液流路3のピッチと流路隔壁10の幅が決まれば一義的に決まり、大きくすることができない。よって、先端規制部材12aと撓み規制部材12bで決まる開口幅b1、あるいは撓み規制部材12bと可動部材8の固定部材9で決まる開口幅b2を液流路幅aよりも大きくすることにより、流体抵抗値を小さくすることができる。
【0031】
図4は、図2と異なる構成の液体吐出ヘッドを図1のX−X’線で断面した断面図である。
図5は、図3と異なる構成の液体吐出ヘッドを図1のY−Y’線で断面した断面図である。
図5に示すように、撓み規制部材12bは、複数の液流路3の流路隔壁10に対して連続して設けるのが好ましい。図4のように、撓み規制部材12bを各液流路3に個別に設けた場合よりも強度が得られ、製造歩留りがあがり、ヘッド駆動時における撓み規制部材12bの破損による故障なども減少する。また、流路隔壁10の剛性も大きくすることができ、クロストークの低減にも効果がある。
【0032】
また、図2に示す液体吐出ヘッドでは、撓み規制部材12bを1つ設けたが、図5に示すように、第2の撓み規制部材12cを追加して、撓み規制部材を2つ設けた構成、あるいは必要に応じてさらに多数設けた構成とすることもできる。
【0033】
図6(A)〜(C)、図7(D)〜(F)は、図1〜図3に示した液体吐出ヘッドからの液体の吐出過程を説明する図である。
実施例1の液体吐出ヘッドでは、可動部材8の自由端8aが発熱体4のほぼ中央領域に位置するように可動部材8が配設され、可動部材8の自由端8a上方であって、天板2の下面に先端規制部材12aが設けられ、発熱体4の上流側端部よりも上流側に撓み規制部材12bが設けられている。先端規制部材12aは、可動部材8の自由端8aに当接してその上方への移動を規制する。撓み規制部材12bは、可動部材8の撓み変形(自由端8aと支点との間の中間部が上流側に凸状になる変形)を規制する。
【0034】
また、先端規制部材12aから下流側の液流路3の高さは急激に高くなる形状となっている。この構成により、気泡発生領域11の下流側の気泡14は、可動部材8が変位規制部材12aおよび撓み規制部材12bによって規制された際にも十分な流路高さを有しているため、成長が阻害されることなく、液体を吐出口7向かってスムーズに向かわせることができる。さらに、吐出口7の下端から上端までの高さ方向での圧力バランスの不均一が少なくなる。したがって、良好な液体の吐出を行うことができる。
【0035】
なお、実施例1の液体吐出ヘッドにおいては、気泡14の下流側の部分と吐出口7との間は液流に対し真直な流路構造を保っている「直線的連通状態」となっている。これは、気泡14の発生時に生じる圧力波の伝播方向とそれに伴う液体の流動方向と吐出方向とを直線的に一致させることで、後述の吐出滴15の吐出方向や吐出速度等の吐出状態をきわめて高いレベルで安定化させるという理想状態を形成する。実施例1の液体吐出ヘッドでは、この理想状態を達成、または近似させるための一つの構成として、吐出口7と発熱体4、特に気泡14の吐出口7側に影響力を持つ発熱体4の吐出口7側(下流側)とが直接直線で結ばれる構成とすればよく、これは、液流路3内の液体がない状態であれば、吐出口7の外側から見て発熱体4、特に発熱体4の下流側が観察することが可能な状態である。
【0036】
図6(A)は、発熱体4に電気エネルギー等のエネルギーが印加される前の状態であり、発熱体4が熱を発生する前の状態を示す。可動部材8は、後述するように、発熱体4の発熱によって発生する気泡14に対し、この気泡14の上流側半分に対面する領域に位置している。
【0037】
図6(B)は、気泡発生領域11内を満たす液体の一部が発熱体4によって加熱され、膜沸騰に伴う気泡14が発泡し始めた状態を示す。このとき、可動部材8の変位は気泡14の体積変化より遅れて始まる。すなわち、膜沸騰による気泡14の発生に基づく圧力波が液流路3内を伝播し、それに伴い液体は気泡発生領域11の中央領域を境に下流側および上流側に移動し、上流側においては気泡14の成長に伴う液の流れにより可動部材8が変位し始める。また、上流側への液体の移動は、液流路3の流路隔壁10と可動部材8との間を通り共通液体供給室6側に向かう。この時点における先端規制部材12aと可動部材8との間のクリアランスは、可動部材8が変位するにつれ狭くなっていく。この状態で、吐出口7からは吐出滴15が吐出され始める。
【0038】
図6(C)は、気泡14のさらなる成長により、変位した可動部材8の自由端8aが先端規制部材12aに接触した状態を示す。
可動部材変位体積変化率v2は、図6(B)に示す状態から図6(C)に示す状態である可動部材8が先端規制部材12aに接触する前、急激に低下する。これは、可動部材8が先端規制部材12aに接触する直前において、可動部材8と先端規制部材12aとの間の液体の流抵抗が急激に大きくなることによるものである。また、気泡体積変化率v1も急激に低下する。
【0039】
その後、可動部材8は先端規制部材12aにさらに接近し、接触する。そして、可動部材8が先端規制部材12aに接触すると、それ以上の上方への変位が規制されるため、上流方向への液体の移動もそこで大きく制限される。これに伴い気泡14の上流側への成長も可動部材8で制限される。
【0040】
通常発泡状態であれば、ここで可動部材8の上方への変位は規制されるが、流路中のインク量が少なくインクで満たされていない部分が(特に、可動部材8の上方に)存在する状態で加熱発泡すると、通常よりも大きな気泡が発生し、インクに過剰な力が加わる。このため、可動部材8は、さらに上流方向へ引っ張られる大きな応力を受け、上方(天板側)に向かって凸になるように撓み変形しようとする。仮に、このように撓み変形すると、可動部材8に過剰な応力が働いてクラックや欠陥が発生するおそれがあり、さらに変形が大きくなると、可動部材8が破断するという場合がある。
これに対し、実施例1の液体吐出ヘッドでは、発熱体4の上流側端部よりも上流側に撓み規制部材12bが設けられているので、図7(D)に示すように、可動部材8が上方(天板側)に向かって凸になるような撓み変形は防止される。
【0041】
撓み規制部材12bは、可動部材8の上方への撓み変形規制を目的としており、先端規制部材12aのように流路を遮断する(仕切る)必要はないので、できるだけ流路抵抗が大きくならない(リフィルの妨げにならない)ような形状が望ましい。また、このとき気泡14は吐出口7から大気に連通するようにしても良い。気泡14を大気に連通させることにより、発熱体4や発熱体4上に設けられた保護膜への気泡14の消泡によるキャビテーションの影響を小さくすることができる。
【0042】
図7(E)は、前記した膜沸騰の後に気泡14の内部の負圧が、液流路3内の下流側への液体の移動に打ち勝って、気泡14の収縮が開始された状態を示す。
気泡14の収縮に伴い、可動部材8は下方変位するが、可動部材8自身が片持ち梁ばねの応力と前述した上方凸変形の応力を持っており、それにより下方変位する速度を高める。そして、これに伴う、共通液体供給室6と液流路3との間に形成された低流路抵抗領域である可動部材8の上流側での、液体の下流方向への流れは流路抵抗が小さいため、急速に大きな流れとなって液流路3へ流れ込む。
【0043】
これらの動作で、共通液体供給室6側の液体は、液流路3内へと誘導される。液流路3内に導かれた液体は、そのまま先端規制部材12aと下方変位した可動部材8との間を通り、発熱体4の下流側に流れ込むと同時に、まだ消泡しきっていない気泡14に対し消泡を加速するように作用する。この液体の流れは、消泡を助けたあと、吐出口7方向にさらに流れを作りメニスカスの復帰を助け、リフィル速度を向上する。
この段階で、吐出口7から出た吐出滴15からなる液柱は、液滴となり外部へと飛翔する。
【0044】
また、前記した可動部材8と先端規制部材12aとの間の部分を介した液流路3への流れ込みは、天板2側での流速を高めるため、この部分での微少泡などの残留も極めて少なく、吐出の安定性に寄与している。
さらに、消泡によるキャビテーション発生ポイントも気泡発生領域の下流側にずれるため、発熱体4に対するダメージが少なくなる。同時に、同現象によりこの領域での発熱体4へのこげの付着も少なくなるため、吐出安定性が向上する。
【0045】
図7(F)は、気泡14が完全に消泡したあと、可動部材8が初期状態から下方にオーバーシュートして変位した状態を示す。
この可動部材8のオーバーシュートは、可動部材8の剛性や使用する液体の粘度にもよるが、短い時間で減衰収束し、初期状態に戻る。
【0046】
図8は、図1の液体吐出ヘッドの単位ヘッドを示す透視斜視図である。
図8を用いて、特に可動部材8の両側部から隆起する隆起気泡16と、吐出口7での液体のメニスカスに関して詳細に説明する。
実施例1の液体吐出ヘッドでは、液流路3を構成する流路隔壁10の壁面と可動部材8の両側部には僅かながらクリアランスが存在し、可動部材8のスムーズな変位を可能にしている。さらに、発熱体4による発泡の成長工程において、気泡14は可動部材8を変位させるとともに、前記したクリアランスを介し可動部材8の上面側へ隆起して低流路抵抗領域3aに若干侵入する。この侵入した隆起気泡16は、可動部材8の背面(気泡発生領域11と反対面)に回り込むことで、可動部材8のブレを抑え、吐出特性を安定化する。
【0047】
さらに、気泡14の消泡工程において、隆起気泡16が低流路抵抗領域3aから気泡発生領域11への液流を促進させ、前述した吐出口7側からの高速なメニスカス引き込みと相まって、消泡をすみやかに完了させる。特に、隆起気泡16が引き起こす液流によって、可動部材8や液流路3のコーナに気泡14を滞留させることがほとんどない。
【0048】
このように、前記構成の液体吐出ヘッドでは、気泡14の発生によって吐出口7から液体が吐出された瞬間では、吐出滴15は先端に球状部を持つ液柱に近い状態で吐出される。このことは従来の液体吐出ヘッドの構造でも同じであるが、実施例1の液体吐出ヘッドでは、気泡14の成長工程によって可動部材8が変位し、この変位した可動部材8が先端規制部材12aに接触したとき、気泡発生領域11を有する液流路3が吐出口7を除いて、実質的に閉じた空間が形成される。したがって、この状態で気泡14を消泡すれば、消泡によって可動部材8が先端規制部材12aより離れるまでは上述の閉空間が保たれるため、気泡14の消泡エネルギーのほとんどが吐出口7近傍の液体を上流方向へ移動させる力として働くこととなる。その結果、気泡14の消泡開始直後においては、吐出口7からメニスカスが液流路3内に急速に引き込まれ、吐出口7の外側で吐出滴15と繋がって液柱を形成している尾引き部分がメニスカスにより強い力ですばやく切り離される。
これにより、尾引き部分から形成されるサテライトドットが小さくなり、印字品位を向上させることができる。
【0049】
さらに、尾引き部分がいつまでもメニスカスに引っ張られ続けないことで、吐出速度が低下せず、また吐出滴15とサテライトドットとの距離も短くなるので、吐出滴15の後方でいわゆるスリップストリーム現象によりサテライトドットが引き寄せられる。その結果、吐出滴15とサテライトドットの合体も起こり得て、サテライトドットがほとんど無い液体吐出ヘッドを提供することが可能である。
【0050】
さらに、実施例1の液体吐出ヘッドは、可動部材8が、吐出口7に向かう液体の流れに関して上流方向に成長する気泡14のみを抑制するために設けられている。より好ましくは、可動部材8の自由端8aが気泡発生領域11の実質中央部に位置している。この構成によれば、液体の吐出にとって直接関係しない、気泡成長による上流側へのバック波および液体の慣性力を抑えるとともに、気泡14の下流側への成長成分を素直に吐出口7の方向に向けることが可能である。
【0051】
図9は、図2の液体吐出ヘッドにおける撓み規制部材の2種類の変形例を示す断面図である。
図2に示す例では、可動部材8が設置されている高さより高い流路隔壁10の上に撓み規制部材12bを設けたが、図9(A),(B)に示すように、可動部材8が設置されている高さより低い高さの流路隔壁10の場合、撓み規制部材12bを嵩上げした構成にしても良い。また、図9(B)に示すように、撓み規制部材12bの表面に液体の流れ方向に沿った溝を形成することにより、流路断面を大として流路抵抗をより低下することができる。
【0052】
可動部材8の材料としては、窒化シリコンのほか、耐久性の高い、銀、ニッケル、金、鉄、チタン、アルミニウム、白金、タンタル、ステンレス、りん青銅などの金属およびその合金、または、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンなどのニトリル基を有する樹脂、ポリアミドなどのアミド基を有する樹脂、ポリカーボネイトなどのカルボキシル基を有する樹脂、ポリアセタール等のアルデヒド基を持つ樹脂、ポリサルフォン等のスルホン基を持つ樹脂、そのほか液晶ポリマー等の樹脂およびその化合物、耐インク性の高い、金、タングステン、タンタル、ニッケル、ステンレス、チタンなどの金属およびその合金およびこれらを表面にコーティングして耐インク性を向上させたもの、若しくは、ポリアミドなどのアミド基を有する樹脂、ポリアセタールなどのアルデヒド基を持つ樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどのケトン基を有する樹脂、ポリイミドなどのイミド基を有する樹脂、フェノール樹脂などの水酸基を有する樹脂、ポリエチレンなどのエチル基を有する樹脂、ポリプロピレンなどのアルキル基を持つ樹脂、エポキシ樹脂などのエポキシ基を持つ樹脂、メラミン樹脂などのアミノ基を持つ樹脂、キシレン樹脂などのメチロール基を持つ樹脂およびその化合物、さらに二酸化珪素、チッ化珪素などのセラミックおよびその化合物が望ましい。
【0053】
(実施例2)
図10は、本発明の実施例2による液体吐出ヘッドの1つの液流路を液流路方向に沿って断面した模式的側断面図である。
素子基板1上には、前記した液流路3を構成する溝を設けた溝付き天板2が配されている。
素子基板1は、シリコン等の基体18に絶縁および蓄熱を目的としたシリコン酸化膜またはチッ化シリコン膜17を成膜し、その上に発熱体4を構成するハフニウムボライド(HfB2)、チッ化タンタル(TaN)、タンタルアルミニウム(TaAl)などの電気抵抗層19(厚さ0.01〜0.2μm)とアルミニウム等の配線電極20(厚さ0.2〜1.0μm)を図10のようにパターニングしている。この配線電極20から電気抵抗層19に電圧を印加し、電気抵抗層19に電流を流し発熱させる。配線電極20間の電気抵抗層19上には、酸化シリコンやチッ化シリコン等の保護膜21を厚さ0.1〜2.0μm形成し、さらにそのうえにタンタル等の耐キャビテーション層22(厚さ0.1〜0.6μm)が成膜されており、インク等の各種の液体から電気抵抗層19を保護している。
【0054】
特に、気泡の発生、消泡の際に発生する圧力や衝撃波は非常に強く、堅くてもろい酸化膜の耐久性を著しく低下させるため、金属材料のタンタル(Ta)等が耐キャビテーション層22として用いられる。
また、液体、流路構成、抵抗材料の組み合わせにより、上述の電気抵抗層19に保護膜21を必要としない構成でもよい。
【0055】
各実施形態においては、発熱体4として電気信号に応じて発熱する電気抵抗層19で構成された発熱部を有するものを用いたが、これに限られることなく、吐出液を吐出させるのに十分な気泡を発泡液に生じさせるものであればよい。例えば、レーザ等の光を受けることで発熱するような光熱変換体や高周波を受けることで発熱するような発熱部を有する発熱体でもよい。
【0056】
なお、前記した素子基板1には、前記した発熱部を構成する電気抵抗層19とこの電気抵抗層19に電気信号を供給するための配線電極20で構成される発熱体4の他に、この発熱体4(電気熱変換素子)を選択的に駆動するためのトランジスタ、ダイオード、ラッチ、シフトレジスタ等の機能素子が一体的に半導体製造工程によって作り込まれていてもよい。
【0057】
図11は、図10の液体吐出ヘッドの変形例を示す模式的側断面図である。
実施例2の液体吐出ヘッドは、変形例として図11に示すように、可動部材8の固定部材9を用いずに、可動部材8の固定部を素子基板1に支持固定する構成とすることもできる。
【0058】
(実施例3)
実施例1,2の液体吐出ヘッドは、エッジシュータタイプの液体吐出ヘッドの例であったが、サイドシュータタイプの液体吐出ヘッドとすることもできる。
図12は、実施例3のサイドシュータタイプの液体吐出ヘッドを液流路方向に沿って断面した模式的側断面図である。
実施例3のサイドシュータタイプの液体吐出ヘッドは、2つの液流路を互いに突き合わせて、1つの液流路3としており、液流路3の部分の天板2に吐出口7が形成されている。
【0059】
図12(A)は、発熱体4に電気エネルギーが印加され、発熱体4が熱を発生する前の状態を示している。
図12(B)は、気泡発生領域11内を満たす液体の一部が発熱体4によって加熱され、膜沸騰に伴う気泡14が発泡し始めた状態を示す。このとき、可動部材8の変位は気泡14の体積変化より遅れて始まる。この時点における先端規制部材12aと可動部材8との間のクリアランスは、可動部材8が変位するにつれ狭くなっていく。この状態で、吐出口7からは吐出滴15が吐出され始める。
サイドシュータタイプでも前記したエッジシュータタイプと同様の効果を得ることができる。
【0060】
(実施例4)
図13は、実施例4の液体吐出ヘッドカートリッジを示す斜視図である。
実施例1〜3で説明したような液体吐出ヘッド32と、液体吐出ヘッド32に供給する液体を保持する液体容器33とが一体化され、液体吐出ヘッドカートリッジ31が形成される。なお、この液体容器33には、液体消費後に液体を再充填することによって、液体吐出ヘッドカートリッジ31を再使用する可能とすることができる。
【0061】
(実施例5)
図14は、実施例5のインクジェット記録装置を示す斜視図である。
実施例5のインクジェット記録装置は、実施例1〜3の液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例である。液体吐出ヘッドカートリッジ41は、実施例1〜3の液体吐出ヘッドと、その液体吐出ヘッドに供給される液体を保持する液体容器33とを有する。液体吐出ヘッドカートリッジ41は、駆動モータ42の正逆回転に連動して駆動力伝達ギヤ43および44を介して回転するリードスクリュ45の螺旋溝46に係合するキャリッジ47上に搭載されている。駆動モータ42の動力によって、液体吐出ヘッドカートリッジ41がキャリッジ47ともとにガイド48に沿って矢印aおよびbの方向に往復移動される。
【0062】
インクジェット記録装置40には、液体吐出ヘッドカートリッジ41から吐出されたインク等の液体を受ける被記録媒体としてのプリント用紙Pを搬送する被記録媒体搬送手段(不図示)が備えられている。被記録媒体搬送手段によってプラテン49上を搬送されるプリント用紙Pの紙押さえ板50は、キャリッジ47の移動方向にわたってプリント用紙Pをプラテン49に対して押圧する。
【0063】
リードスクリュ45の一端の近傍には、フォトカプラ51,52が配設されている。フォトカプラ51,52は、キャリッジ47のレバー47aの、フォトカプラ51,52の領域での存在を確認して駆動モータ42の回転方向の切り換え等を行うためのホームポジション検知手段である。プラテン49の一端の近傍には、液体吐出ヘッドカートリッジ41の吐出口のある前面を覆うキャップ部材54を支持する支持部材53が備えられている。また、液体吐出ヘッドカートリッジ41から空吐出等されてキャップ部材54の内部に溜まったインクを吸引するインク吸引手段55が備えられている。このインク吸引手段55によりキャップ部材54の開口部を介して液体吐出ヘッドカートリッジ41の吸引回復が行われる。
【0064】
インクジェット記録装置40には本体支持体59が備えられている。この本体支持体59には、移動部材58が前後方向、すなわちキャリッジ47の移動方向に対して直角な方向に移動可能に支持されている。移動部材58には、クリーニングブレード57が取り付けられている。クリーニングブレード57はこの形態に限らず、他の形態の公知のクリーニングブレードであってもよい。さらに、インク吸引手段55による吸引回復操作にあたって、吸引を開始するためのレバー60が備えられており、レバー60は、キャリッジ47と係合するカム61の移動に伴って移動し、駆動モータ42からの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達手段で移動制御される。液体吐出ヘッドカートリッジ41に設けられた発熱体に信号を付与したり、前述した各機構の駆動制御を司ったりするインクジェット記録制御部は記録装置本体側に設けられており、図14では示されていない。
【0065】
前記構成を有するインクジェット記録装置40では、被記録媒体搬送手段によりプラテン49上を搬送されるプリント用紙Pに対して、液体吐出ヘッドカートリッジ41がプリント用紙Pの全幅にわたって往復移動する。この移動時に駆動信号供給手段(不図示)から液体吐出ヘッドカートリッジ41に駆動信号が供給されると、この信号に応じて液体吐出ヘッド部から被記録媒体に対してインク(記録液体)が吐出され、記録が行われる。
【0066】
図15は、本発明の液体吐出装置によりインクジェット式記録を行なうための記録装置全体のブロック図である。
記録装置は、ホストコンピュータ70より印字情報を制御信号として受信する。印字情報は、記録装置内部の入出力インターフェイス71に一時保存されると同時に、記録装置内で処理可能なデータに変換され、ヘッド駆動信号供給手段を兼ねるCPU(中央処理装置)72に入力される。CPU72は、ROM(リード・オンリー・メモリ)73に保存されている制御プログラムに基づき、CPU72に入力されたデータをRAM(ランダム・アクセス・メモリ)74等の周辺ユニットを用いて処理し、印字するデータ(画像データ)に変換する。
【0067】
また、CPU72は前記画像データを記録用紙上の適当な位置に記録するために、画像データに同期して記録用紙および液体吐出ヘッドカートリッジ41を搭載したキャリッジ47を移動する駆動用モータ42を駆動するための駆動データを作る。画像データおよびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ77と、モータドライバ75を介し、液体吐出ヘッドカートリッジ41および駆動用モータ42に伝達され、それぞれ制御されたタイミングで駆動され画像を形成する。
【0068】
このような記録装置に用いられ、インク等の液体の付与が行われる被記録媒体としては、各種の紙やOHPシート、コンパクトディスクや装飾板等に用いられるプラスチック材、布帛、アルミニウムや銅などの金属材、牛皮、豚皮、人工皮革などの皮革材、木、合板などの木材、竹材、タイルなどのセラミックス材、スポンジなどの三次元構造体などを対象とすることができる。
【0069】
また、この記録装置として、各種の紙やOHPシートなどに対して記録を行うプリンタ装置、コンパクトディスクなどのプラスチック材に記録を行うプラスチック用記録装置、金属板に記録を行う金属用記録装置、皮革に記録を行う皮革用記録装置、木材に記録を行う木材用記録装置、セラミックス材に記録を行うセラミックス用記録装置、スポンジなどの三次元網状構造体に対して記録を行う記録装置、または布帛に記録を行う捺染装置などをも含むものである。
また、これらの液体吐出装置に用いる吐出液としては、それぞれの被記録媒体や記録条件に合わせた液体を用いればよい。
【0070】
(実施例6)
図16は、実施例6の液体吐出装置を示す斜視図である。
実施例6の液体吐出装置は、被記録媒体80の記録可能領域の全幅にわたって複数の吐出口が配された、いわゆるフルラインヘッド81を有している。フルラインヘッド81は、搬送ドラム82による、被記録媒体80の搬送経路上に、搬送経路を横切るように配置されており、被記録媒体80の記録可能領域の全幅に一括して記録を行うことができる。
【0071】
フルライン型インクジェット記録装置では、薄い紙や普通紙などでは、インクの浸透により紙が膨潤し皺が発生する、いわゆるコックリング現象により紙がヘッドに接触するといった問題が生じやすい。その場合、高粘度インクを用いて、紙への浸透をおさえてコックリングを起きづらくすることができる。また、フルライン型インクジェット記録装置では、一度のスキャンで印字する必要があるので、それに用いる記録ヘッドは高密度にノズルや液流路を並べたものを用いる必要がある。本発明の液滴吐出ヘッドによれば、高密度に液流路を並べ、かつ高粘度のインクにも対応できるため、フルライン型記録ヘッドあるいはフルライン型装置において特に有効である。
【0072】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば次のような効果を奏する。
請求項1の発明によれば、撓み規制部材が流路隔壁に接続して設けられているので、高密度に液流路を並べた液体吐出ヘッドにおいても各液流路への液流入時の流体抵抗を小さくすることができ、印写速度を上げるために高周波数で駆動した場合にも、液供給を十分に行うことができる。また、撓み規制部材は、流路隔壁間を接続しているため、流路隔壁の剛性が大きくなる。したがって、隣り合う液流路間の干渉(クロストーク)を小さくすることができ、安定した液吐出を行うことができる。また、撓み規制部材は、細い柱状などのような壊れやすい構造ではないので、製造歩留りが高く低コスト化が可能である。また、液体吐出ヘッドの駆動時にも気泡の力によって撓み規制部が壊れるといった不良も少なくすることができる。
更には、先端規制部材でなく、撓み規制部材を流路隔壁間に横断するように形成しているので、先端規制部材は、撓み規制部材よりも吐出口側にあり、発熱体近傍に位置し、発熱体によって発生した気泡のエネルギーを効率よく液体に伝えることができる。更には、撓み規制部材の存在するところは、液体が抵抗なく流入できるように流路高さが高くなっているので、各液流路への液流入時の流体抵抗を小さくすることができ、更に、ヘッド駆動時にも気泡の力によって撓み規制部材が壊れるといった不良を少なくすることができる。
【0073】
請求項2の発明によれば、先端規制部材と撓み規制部材との間隔、あるいは撓み規制部材と可動部材の固定部との間隔を液流路の幅よりも大きくするので、先端規制部材と撓み規制部材との間隔、あるいは撓み規制部材と可動板の固定部で決まる間隔を液流路幅よりも大きくすることにより、流体抵抗値を小さくすることができる。
【0074】
請求項3の発明によれば、撓み規制部材の少なくとも1つは、複数の前記流路隔壁間に連続的に接続して設けられているので、撓み規制部材を各液流路に個別に設けた場合よりも大きな強度が得られ、製造歩留りがあがり、また液体吐出ヘッドの駆動時における撓み規制部材の破損による故障なども減少する。また、流路隔壁の剛性も大きくすることができ、クロストークを低減することができる。
【0075】
請求項4の発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、該液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留する液体容器とを有するヘッドカートリッジであるので、製造歩留りが高く低コスト化が可能である。また、隣り合う液流路間の干渉(クロストーク)を小さくすることができ、安定した液吐出を行うことができる。
【0076】
請求項5の発明によれば、請求項1〜3記載の液体吐出ヘッドと、該液滴吐出ヘッドから吐出された液体を付着させる被記録媒体を相対的に移動させる移動手段とを備えた液体吐出装置であるので、粘性の高い液体を用いた場合にも安定して高周波数で液吐出が可能で、液の粘性自由度が大きく、高速な液体吐出を行うことができる。
【0077】
請求項6の発明によれば、請求項1〜3記載の液体吐出ヘッドあるいは請求項4のヘッドカートリッジと、該液滴吐出ヘッドから吐出されたインクを付着させる被記録媒体を相対的に移動させる移動手段とを備えたインクジェット記録装置であるので、高粘度インクを用いた場合にも、流体抵抗値を小さくすることができ、普通紙への印字も滲みのない良好な画質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1による液体吐出ヘッドの1つの液流路を液流路方向に沿って断面した模式的側断面図である。
【図2】 図1のX−X’線で断面した断面図である。
【図3】 図1のY−Y’線で断面した断面図である。
【図4】 図2と異なる構成の液体吐出ヘッドを図1のX−X’線で断面した断面図である。
【図5】 図3と異なる構成の液体吐出ヘッドを図1のY−Y’線で断面した断面図である。
【図6】 図1〜図3に示した液体吐出ヘッドからの液体の吐出過程を説明する図である。
【図7】 図1〜図3に示した液体吐出ヘッドからの液体の吐出過程を説明する図である。
【図8】 図1の液体吐出ヘッドの単位ヘッドを示す透視斜視図である。
【図9】 図2の液体吐出ヘッドにおける撓み規制部材の2種類の変形例を示す断面図である。
【図10】 実施例2による液体吐出ヘッドの1つの液流路を液流路方向に沿って断面した模式的側断面図である。
【図11】 図10の液体吐出ヘッドの変形例を示す模式的側断面図である。
【図12】 実施例3のサイドシュータタイプの液体吐出ヘッドを液流路方向に沿って断面した模式的側断面図である。
【図13】 実施例4の液体吐出ヘッドカートリッジを示す斜視図である。
【図14】 実施例5のインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図15】 本発明の液体吐出装置によりインクジェット式記録を行なうための記録装置全体のブロック図である。
【図16】 実施例6の液体吐出装置を示す斜視図である。
【図17】 特許文献2に開示された液体吐出ヘッドを示す平断面図で、後述する本発明の実施例1を示す図3に対応する図である。
【図18】 特許文献3に開示された液体吐出ヘッドの共通液体供給室を示す断面図である。
【符号の説明】
1…素子基板、2…天板、3…液流路、4…発熱体、6…共通液体供給室、7…吐出口、8…可動部材、8a…自由端、9…固定部材、10…流路隔壁、11…気泡発生領域、12a…先端規制部材、12b…撓み規制部材、12c…第2の撓み規制部材、13…オリフィスプレート、14…気泡、15…吐出滴、16…隆起気泡、17…シリコン酸化膜(チッ化シリコン膜)、18…シリコン基体、19…電気抵抗層、20…配線電極、21…保護膜、22…耐キャビテーション層、31…液体吐出ヘッドカートリッジ、32…液体吐出ヘッド、33…液体容器、40…インクジェット記録装置、41…液体吐出ヘッドカートリッジ、42…駆動用モータ、45…リードスクリュウ、47…キャリッジ、48…ガイド、49…プラテン、54…キャップ部材、55…インク吸引手段、70…ホストコンピュータ、71…入出力インターフェイス、72…CPU、73…ROM、74…RAM、75…モータドライバ、77…ヘッドドライバ、80…被記録媒体、81…フルラインヘッド、82…搬送ドラム。
Claims (6)
- 液体を吐出する吐出口と、
該吐出口に連通し前記液体を供給する液流路と、
隣接する前記液流路を分割する流路隔壁と、
前記液流路に充填された前記液体に気泡を発生させる発熱体が備えられた素子基板と、
前記液流路を介して前記素子基板の反対側に設けられた天板と、
該素子基板上に固定された固定部と、前記吐出口側を自由端とし、前記発熱体に対向する位置に前記素子基板との間に間隙を介して配置されている可動部とを有する可動部材と、
前記素子基板上の前記発熱体と対向する位置における前記天板の下面に設けられ、該可動部材の変位量を規制する先端規制部材と、
該先端規制部材から離間した位置に配置されている少なくとも1つの撓み規制部材とを有し、
前記気泡の発生によって生じる圧力によって前記液体を前記吐出口から吐出させ、その際前記可動部材の前記可動部が変位する液体吐出ヘッドであって、
前記撓み規制部材は、隣接する前記流路隔壁間を横断して前記流路隔壁に接続して設けられており、
前記先端規制部材は、前記撓み規制部材よりも吐出口側に設けられ、
前記先端規制部材が設けられた位置から前記吐出口までの前記素子基板から前記天板までの流路高さは、前記撓み規制部材が設けられた位置における前記素子基板から前記天板までの流路高さよりも小さく、
前記撓み規制部材は、前記天板と接続されておらず、前記天板と空間を隔てて設けたことを特徴とする液体吐出ヘッド。 - 前記先端規制部材と前記撓み規制部材との間隔、あるいは前記撓み規制部材と前記可動部材の固定部との間隔は前記液流路の幅よりも大であることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
- 前記撓み規制部材の少なくとも1つは、複数の前記流路隔壁間に連続的に接続して設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、該液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留する液体容器とを有することを特徴とする液体吐出ヘッドカートリッジ。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドあるいは請求項4記載の液体吐出ヘッドカートリッジと、前記液体吐出ヘッドから吐出された液体を付着させる被記録媒体を相対的に移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする液体吐出装置。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドあるいは請求項4記載の液体吐出ヘッドカートリッジと、該液滴吐出ヘッドから吐出されたインクを付着させる被記録媒体を相対的に移動させる移動手段とを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
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