JP3472293B2 - 液体吐出ヘッド - Google Patents

液体吐出ヘッド

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JP3472293B2 JP2003112030A JP2003112030A JP3472293B2 JP 3472293 B2 JP3472293 B2 JP 3472293B2 JP 2003112030 A JP2003112030 A JP 2003112030A JP 2003112030 A JP2003112030 A JP 2003112030A JP 3472293 B2 JP3472293 B2 JP 3472293B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱エネルギーを液
体に作用させることで起こる気泡の発生によって、所望
の液体を吐出する液体吐出ヘッド関する。特に本発明
は、気泡の発生を利用して変位する可動部材を用いる液
体吐出ヘッドに関する。
【0002】また、本発明は、紙、糸、繊維、布帛、皮
革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス
等の被記録媒体に対し記録を行う、プリンター、複写
機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を
有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装
置と複合的に組み合わせた産業用記録装置に適用できる
発明である。
【0003】なお、本発明における、「記録」とは、文
字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与
することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像
を付与することをも意味するものである。
【0004】
【従来の技術】熱等のエネルギーをインクに与えること
で、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態
変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって
吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着
させて画像形成を行なうインクジェット記録方法、いわ
ゆるバブルジェット(登録商標)記録方法が従来知られ
ている。このバブルジェット(登録商標)記録方法を用
いる記録装置には、米国特許第4,723,129号等
の公報に開示されているように、インクを吐出するため
の吐出口と、この吐出口に連通するインク流路と、イン
ク流路内に配されたインクを吐出するためのエネルギー
発生手段としての電気熱変換体が一般的に配されてい
る。
【0005】このような記録方法によれば、品位の高い
画像を高速、低騒音で記録することができると共に、こ
の記録方法を行うヘッドではインクを吐出するための吐
出口を高密度に配置することができるため、小型の装置
で高解像度の記録画像、さらにカラー画像をも容易に得
ることができるという多くの優れた点を有している。こ
のため、このバブルジェット(登録商標)記録方法は近
年、プリンター、複写機、ファクシミリ等の多くのオフ
ィス機器に利用されており、さらに、捺染装置等の産業
用システムにまで利用されるようになってきている。
【0006】このようにバブルジェット(登録商標)技
術が多方面に利用されるに従って、次のような様々な要
求が近年さらに高まっている。
【0007】例えば、エネルギー効率の向上の要求に対
する検討としては、保護膜の厚さを調整するといった発
熱体の最適化が挙げられている。この手法は、発生した
熱の液体への伝搬効率を向上させる点で効果がある。
【0008】また、高画質な画像を得るために、インク
の吐出スピードが速く、安定した気泡発生に基づく良好
なインク吐出を行える液体吐出方法等を与えるための駆
動条件が提案されたり、また、高速記録の観点から、吐
出された液体の液流路内への充填(リフィル)速度の速
い液体吐出ヘッドを得るために流路形状を改良したもの
も提案されている。
【0009】この流路形状の内、流路構造として図28
(a),(b)に示すものが、特許文献1等に記載され
ている。これらの特許文献に記載されている流路構造や
ヘッド製造方法は、気泡の発生に伴って発生するバック
波(吐出口へ向かう方向とは逆の方向へ向かう圧力、す
なわち液室12へ向かう圧力)に着目した発明である。
このバック波は、吐出方向へ向かうエネルギーでないた
め損失エネルギーとして知られている。
【0010】図28(a),(b)に示す発明は、発熱
素子2が形成する気泡の発生領域よりも離れ、かつ発熱
素子2に関して吐出口11とは反対側に位置する弁10
を開示する。図28(b)においては、この弁10は、
板材等を利用する製造方法によって、流路3の天井に貼
り付いたように初期位置を持ち、気泡の発生に伴って流
路3内へ垂れ下がるものとして開示されている。この発
明は、上述したバック波の一部を弁10によって抑制す
ることでエネルギー損失を抑制するものとして開示され
ている。
【0011】しかしながら、この構成において、吐出す
べき液体を保持する流路3内部に、気泡が発生した際を
検討するとわかるように、弁10によるバック波の一部
を抑制することは、液体吐出にとっては実用的なもので
ないことがわかる。
【0012】もともとバック波自体は、前述したように
吐出に直接関係しないものである。このバック波が流路
3内に発生した時点では、図28(a)に示すように、
気泡のうち吐出に直接関係する圧力はすでに流路3から
液体を吐出可能状態にしている。従って、バック波のう
ち、しかもその一部を抑制したからといっても、吐出に
大きな影響を与えないことは明らかである。
【0013】他方、バブルジェット(登録商標)記録方
法においては、発熱体がインクに接した状態で加熱を繰
り返すため、発熱体の表面にインクの焦げによる堆積物
が発生するが、インクの種類によってはこの堆積物が多
く発生することで、気泡の発生を不安定にしてしまい、
良好なインクの吐出を行うことが困難な場合があった。
また、吐出すべき液体が熱によって劣化しやすい液体の
場合や十分に気泡が得られにくい液体の場合において
も、吐出すべき液体を変質させず、良好に吐出するため
の方法が望まれていた。
【0014】このような観点から、熱により気泡を発生
させる液体液体(発泡液)と吐出する液体(吐出液)と
を別液体とし、発泡液の発泡による圧力を吐出液に伝達
することで吐出液を吐出する方法が、特許文献2ないし
4等の特許文献に開示されている。これらの特許文献で
は、吐出液であるインクと発泡液とをシリコンゴムなど
の可撓性膜で完全分離し、発熱体に吐出液が直接接しな
いようにすると共に、発泡液の発泡による圧力を可撓性
膜の変形によって吐出液に伝える構成をとっている。こ
のような構成によって、発熱体表面の堆積物の防止や、
吐出液体の選択自由度の向上等を達成している。
【0015】しかしながら、このように吐出液と発泡液
とを完全分離する構成のヘッドにおいては、発泡時の圧
力を可撓性膜の伸縮変形によって吐出液に伝える構成で
あるため、発泡による圧力を可撓性膜がかなり吸収して
しまう。また、可撓性膜の変形量があまり大きくないた
め、吐出液と発泡液とを分離することによる効果を得る
ことはできるものの、かえって吐出効率や吐出力が低下
してしまった。
【0016】
【特許文献1】特開昭63−199972号公報
【特許文献2】特開昭61−69467号公報
【特許文献3】特開昭55−81172号公報
【特許文献4】米国特許第4,480,259号明細書
【0017】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、基本的に従
来の気泡(特に膜沸騰に伴う気泡)を液流路中に形成し
て液体を吐出する方式の、根本的な吐出特性を、従来で
は考えられなかった観点から、従来では予想できない水
準に高めることを主たる背景課題とする。
【0018】発明者らは、液滴吐出の原理に立ち返り、
従来では得られなかった気泡を利用した新規な液滴吐出
方法およびそれに用いられるヘッド等を提供すべく鋭意
研究を行った。このとき、流路中の可動部材の機構の原
理を解析すると言った液流路中の可動部材の動作を起点
とする第1技術解析、および気泡による液滴吐出原理を
起点とする第2技術解析、さらには、気泡形成用の発熱
体の気泡形成領域を起点とする第3解析を行うことにし
た。
【0019】これらの解析によって、可動部材の支点と
自由点の配置関係を吐出口側つまり下流側に自由端が位
置する関係にすること、また可動部材を発熱体もしく
は、気泡発生領域に面して配することで積極的に気泡を
制御する全く新規な技術を確立するに至った。
【0020】次に、気泡自体が吐出量に与えるエネルギ
ーを考慮すると気泡の下流側の成長成分を考慮すること
が吐出特性を格段に向上できる要因として最大であると
の知見に至った。つまり、気泡の下流側の成長成分を吐
出方向へ効率よく変換させることこそ吐出効率、吐出速
度の向上をもたらすことも判明した。このことから、発
明者らは気泡の下流側の成長成分を積極的に可動部材の
自由端側に移動させるという従来の技術水準に比べて高
い技術水準に至った。
【0021】さらに、気泡を形成するための発熱領域例
えば電気熱変換体の液体の流れ方向の面積中心を通る中
心線から下流側、あるいは発泡を司る面における面積中
心等の気泡下流側の成長にかかわる可動部材や液流路等
の構造的要素を勘案することも好ましいということがわ
かった。
【0022】また、一方、可動部材の配置と液供給路の
構造を考慮することで、リフィル速度を大幅に向上させ
ることができることがわかった。
【0023】また、発明者らは、これら3つの技術解析
に加え、さらに第4の技術解析として、可動部材を持つ
液体吐出ヘッドの一連の動作原理の中での、可動部材と
消泡との関連について検討、解析を行うことによって本
発明に至った。
【0024】つまり、可動部材の初期位置より下方(気
泡発生領域側)に可動部材の自由端部が過剰に変位する
ことを規制することで、可動部材の耐久性を飛躍的に向
上させることが可能であることがわかった。
【0025】発明者らは、このように研究で得られた知
見および、特に第4の技術解析の観点から可動部材の耐
久性の向上についての本発明を成すに至った。
【0026】本発明の主たる目的は以下の通りである。
【0027】本発明の第1の目的は、気泡と可動部材を
使って液滴を吐出する方法において、可動部材の変位に
関する新規な構造を提供することにある。
【0028】本発明の第2の目的は、第1の目的に加え
て、発生した気泡を根本的に制御することで極めて新規
な液体吐出原理を提供することにある。
【0029】本発明の第3の目的は、吐出効率、吐出圧
力の向上を図りつつ、発熱体上の液体への蓄熱を大幅に
軽減できると共に、発熱体上の残留気泡の低減を図るこ
とで、良好な液体の吐出を行いうる液体吐出方法、液体
吐出ヘッド等を提供することにある。
【0030】本発明の第4の目的は、バック波による液
体供給方向とは逆方向の慣性力が働くのを抑えると同時
に、可動部材の弁機能によってメニスカス後退量を低減
させることで、リフィル周波数を高め、印字スピード等
を向上させた液体吐出ヘッド等を提供することにある。
【0031】加えて、本発明の第5の目的は、発熱体上
への堆積物を低減すると共に、吐出用液の用途範囲を広
げることができ、吐出効率や吐出力が十分に高い液体吐
出方法、液体吐出ヘッド等を提供することにある。
【0032】また、本発明の第6の目的は、可動部材の
過剰な振動の振幅を所望の範囲で規制することで、可動
部材の耐久性をさらに向上させた液体吐出方法、液体吐
出ヘッドを提供することにある。
【0033】また、本発明の第7の目的は、吐出する液
体の選択自由度を高くできる液体吐出方法、液体吐出ヘ
ッド等を提供することにある。
【0034】
【課題を解決するための手段】上記のような目的を達成
するための本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する
吐出口と、液体に気泡を発生させるための発熱体が配さ
れた気泡発生領域と、前記発熱体と距離を隔てて前記気
泡発生領域に面して配され、自由端と支点を備えた可動
部材と、を有し、前記気泡発生領域での気泡の発生に基
づく圧力によって前記可動部材を変位させ、該可動部材
の変位によって液体を前記吐出口から吐出する液体吐出
ヘッドであって、気泡が発生する前の前記可動部材の位
置を第1の位置としたとき、前記可動部材の少なくとも
自由端領域が接することで、前記可動部材の前記自由端
領域が前記第1の位置を越えて前記気泡発生領域に変位
することを規制する規制手段を有することを特徴とす
る。
【0035】もしくは、本発明の液体吐出ヘッドは、吐
出口に連通した第1の液流路と、液体に熱を加えること
で該液体に気泡を発生させるための発熱体が配された気
泡発生領域を有する第2の液流路と、前記第1の液流路
と前記気泡発生領域との間に前記発熱体と距離を隔てて
配され、吐出口間に自由端を有し、前記気泡発生領域内
での気泡の発生による圧力に基づいて該自由端を前記第
1の液流路側に変位させて前記圧力を前記第1の液流路
の吐出口側に導く可動部材と、前記可動部材の少なくと
も自由端領域が接することで、前記可動部材の前記自由
端領域が前記気泡発生領域に変位することを規制する規
制手段と、を有することを特徴とする。
【0036】以上のような構成の本発明においては、可
動部材の自由端部が第1位置を越えて気泡発生領域側
(発熱体に近い側)へ過剰な変位をすることを抑えるこ
とができるので、可動部材の耐久性の向上を図ることが
できた。
【0037】上述したような、極めて新規な吐出原理に
基づく本発明の液体吐出方法、ヘッド等によると、発生
する気泡とこれによって変位する可動部材との相乗効果
を得ることができ、吐出口近傍の液体を効率よく吐出で
きるため、従来のバブルジェット(登録商標)方式の吐
出方法、ヘッド等に比べて、吐出効率を向上できる。例
えば、本発明の最も好ましい形態においては、2倍以上
という飛躍的な吐出効率の向上を達成できた。
【0038】この発明のさらに特徴的な構成によれば、
低温や低湿で長期放置を行った場合であっても不吐出に
なることを防止でき、仮に不吐出になっても、予備吐出
や吸引回復といった回復処理をわずかに行うだけで正常
状態に即座に復帰できる利点もある。
【0039】具体的には64個の吐出口をもつ従来のバ
ブルジェット(登録商標)方式のヘッドの大半が不吐出
になるような長期放置条件においても、本発明のヘッド
では約半分以下の吐出口が吐出不良になるだけである。
また、これらのヘッドを予備吐出で回復した場合、各吐
出口に対して従来ヘッドで数千発の予備吐出を行う必要
があったが、本発明では100発程度の予備吐出で回復
を行うだけで十分であった。これは、回復時間の短縮や
回復による液体の損失を低減でき、ランニングコストも
大幅に下げることが可能であることを意味する。
【0040】また、特に本発明のリフィル特性を向上し
た構成によれば、連続吐出時の応答性、気泡の安定成
長、液滴の安定化を達成して、高速液体吐出による高速
記録また高画質記録を可能にすることができた。
【0041】本発明のその他の効果については、各実施
例の記載から理解される。
【0042】なお、本発明の説明で用いる「上流」「下
流」とは、液体の供給源から気泡発生領域(又は可動部
材)を経て、吐出口へ向かう液体の流れ方向に関して、
又はこの構成上の方向に関しての表現として表されてい
る。
【0043】また、気泡自体に関する「下流側」とは、
主として液滴の吐出に直接作用するとされる気泡の吐出
口側部分を代表する。より具体的には気泡の中心に対し
て、上記流れ方向や上記構成上の方向に関する下流側、
又は、発熱体の面積中心より下流側の領域で発生する気
泡を意味する。
【0044】また、本発明の説明で用いる「実質的に密
閉」とは、気泡が成長するとき、可動部材が変位する前
に可動部材の周囲の隙間(スリット)から気泡がすり抜
けない程度の状態を意味する。
【0045】さらに、本発明でいう「分離壁」とは、広
義では気泡発生領域と吐出口に直接連通する領域とを区
分するように介在する壁(可動部材を含んでもよい)を
意味し、狭義では気泡発生領域を含む流路を吐出口に直
接連通する液流路とを区分し、それぞれの領域にある液
体の混合を防止するものを意味する。
【0046】さらに、本発明でいう可動部材の「自由端
領域」とは可動部材の下流側端部である自由端自体、あ
るいは自由端側端、自由端と側端を合わせた領域のいず
れかを意味している。
【0047】
【実施例】(原理説明)以下、図面を参照して本発明に
適用可能な吐出原理について説明する。
【0048】図1は、液体吐出ヘッドを液流路方向で切
断した断面模式図を示しており、図2は、この液体吐出
ヘッドの部分破断斜視図を示している。
【0049】図1の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する
ための吐出エネルギ発生素子として、液体に熱エネルギ
を作用させる発熱体2(図2においては、40μm×1
05μmの形状の発熱抵抗体)が素子基板1に設けられ
ており、この素子基板上に発熱体2に対応して液流路1
0が配されている。液流路10は吐出口18に連通して
いると共に、複数の液流路10に液体を供給するための
共通液室13に連通しており、吐出口から吐出された液
体に見合う量の液体をこの共通液室13から受け取る。
【0050】この液流路10の素子基板上には、前述の
発熱体2に対向するように面して、金属等の弾性を有す
る材料で構成され、平面部を有する板状の可動部材31
が片持梁状に設けられている。この可動部材の一端は液
流路10の壁や素子基板上に感光性樹脂などをパターニ
ングして形成した土台(支持部材)34等に固定されて
いる。これによって、可動部材は保持されると共に支点
(支点部分)33を構成している。
【0051】この可動部材31は、液体の吐出動作によ
って共通液室13から可動部材31を経て吐出口18側
へ流れる大きな流れの上流側に支点(支点部分;固定
端)33を持ち、この支点33に対して下流側に自由端
(自由端部分)32を持つように、発熱体2に面した位
置に発熱体2を覆うような状態で発熱体から15μm程
度の距離を隔てて配されている。この発熱体と可動部材
との間が気泡発生領域となる。なお、発熱体、可動部材
の種類や形状および配置はこれに限られることなく、後
述するように気泡の成長や圧力の伝搬を制御しうる形状
および配置であればよい。なお、上述した液流路10
は、後に取り上げる液体の流れの説明のため、可動部材
31を境にして直接吐出口18に連通している部分を第
1の液流路14とし、気泡発生領域11や液体供給路1
2を有する第2の液流路16の2つの領域に分けて説明
する。
【0052】発熱体2を発熱させることで可動部材31
と発熱体2との間の気泡発生領域11の液体に熱を作用
し、液体に米国特許第4,723,129号明細書に記
載されているような膜沸騰現象に基づく気泡を発生させ
る。気泡の発生に基づく圧力と気泡は可動部材に優先的
に作用し、可動部材31は図1(b)、(c)もしくは
図2で示されるように支点33を中心に吐出口側に大き
く開くように変位する。可動部材31の変位若しくは変
位した状態によって気泡の発生に基づく圧力の伝搬や気
泡自身の成長が吐出口側に導かれる。
【0053】ここで、本発明に適用される基本的な吐出
原理の一つを説明する。本発明において最も重要な原理
の一つは、気泡に対面するように配された可動部材が気
泡の圧力あるいは気泡自体に基づいて、定常状態の第1
の位置から変位後の位置である第2の位置へ変位し、こ
の変位する可動部材31によって気泡の発生に伴う圧力
や気泡自身を吐出口18が配された下流側へ導くことで
ある。
【0054】この原理を可動部材を用いない従来の液流
路構造を模式的に示した図3と本発明の図4とを比較し
てさらに詳しく説明する。なお、ここでは吐出口方向へ
の圧力の伝搬方向をVA,上流側への圧力の伝搬方向を
VBとして示した。
【0055】図3で示されるような従来のヘッドにおい
ては、発生した気泡40による圧力の伝搬方向を規制す
る構成はない。このため気泡40の圧力伝搬方向はV1
〜V8のように気泡表面の垂直方向となり様々な方向を
向いていた。このうち、特に液吐出に最も影響を及ぼす
VA方向に圧力伝搬方向の成分を持つものは、V1〜V
4即ち気泡のほぼ半分の位置より吐出口に近い部分の圧
力伝搬の方向成分であり、液吐出効率、液吐出力、吐出
速度等に直接寄与する重要な部分である。さらに、V1
は吐出方向VAの方向に最も近いため効率よく働き、逆
にV4はVAに向かう方向成分は比較的少ない。
【0056】これに対して、図4で示される本発明の場
合には、可動部材31が図3の場合のように様々な方向
を向いていた気泡の圧力伝搬方向V1〜V4を下流側
(吐出口側)へ導き、VAの圧力伝搬方向に変換するも
のであり、これにより気泡40の圧力が直接的効率よく
吐出に寄与することになる。
【0057】そして、気泡の成長方向自体も圧力伝搬方
向V1〜V4と同様に下流方向に導かれ、上流より下流
で大きく成長する。このように、気泡の成長方向自体を
可動部材によって制御し、気泡の圧力伝搬方向を制御す
ることで、吐出効率や吐出力また吐出速度等の根本的な
向上を達成することができる。
【0058】次に、図1に戻って、上述した液体吐出ヘ
ッドの吐出動作について詳しく説明する。
【0059】図1(a)は、発熱体2に電気エネルギ等
のエネルギが印加される前の状態であり、発熱体が熱を
発生する前の状態である。ここで重要なことは、可動部
材31が、発熱体の発熱によって発生した気泡に対し、
この気泡の少なくとも下流側部分に対面する位置に設け
られていることである。つまり、気泡の下流側が可動部
材に作用するように、液流路構造上では少なくとも発熱
体の面積中心3より下流(発熱体の面積中心3を通って
流路の長さ方向に直交する線より下流)の位置まで可動
部材31が配されている。
【0060】図1(b)は、発熱体2に電気エネルギ等
が印加されて発熱体2が発熱し、発生した熱によって気
泡発生領域11内を満たす液体の一部を加熱し、発生し
た熱によって気泡発生領域11内を満たす液体の一部を
加熱し、膜沸騰に伴う気泡を発生させた状態である。
【0061】このとき可動部材31は気泡40の発生に
基づく圧力により、気泡の圧力の伝搬方向を吐出口方向
に導くように第1位置から第2位置へ変位する。ここで
重要なことは前述したように、可動部材31の自由端3
2を下流側(吐出口側)に配置し、支点33を上流側
(共通液室)に位置するように配置して、可動部材の少
なくとも一部を発熱体の下流部分すなわち気泡の下流部
分に対面させることである。
【0062】図1(c)は気泡40がさらに成長した状
態であるが、気泡40発生に伴う圧力に応じて可動部材
31はさらに変位している。発生した気泡は上流より下
流に大きく成長すると共に可動部材の第1の位置(点線
位置)を越えて大きく成長している。
【0063】このように気泡40の成長に応じて可動部
材31が徐々に変位してゆくことで気泡40の圧力伝搬
方向や体積移動のしやすい方向、すなわち自由端側への
気泡の成長方向を吐出口に均一的に向かわせることがで
きることも吐出効率を高めると考えられる。可動部材は
気泡や発泡圧を吐出口方向へ導く際もこの伝達の妨げに
なることはほとんど伝搬する圧力の大きさに応じて効率
よく圧力の伝搬方向や気泡の成長方向を制御することが
できる。
【0064】図1(d)は気泡40が、前述した膜沸騰
後、気泡内部圧力の減少によって収縮し、消滅する状態
を示している。
【0065】第2の位置まで変位していた可動部材31
は、気泡の収縮による負圧と可動部材自身のばね性によ
る復元力によって図1(a)の初期位置(第1の位置)
に復帰する。また、消泡時には、気泡発生領域11での
気泡の収縮体積を補うため、また、吐出された液体の体
積分を補うために上流側(B)、すなわち共通液室側か
ら流れのVD1、VD2のように、また、吐出口側から
流れのVcのように液体が流れ込んでくる。
【0066】以上、気泡の発生に伴う可動部材の動作と
液体の吐出動作について説明したが、以下に本発明に適
用可能な液体吐出ヘッドにおける液体のリフィルについ
て説明する。
【0067】図1(c)の後、気泡40が最大体積の状
態を経て消泡過程に入ったときには、消泡した体積を補
う体積の液体が気泡発生領域に、第1液流路14の吐出
口側と第2液流路16の共通液室13側から流れ込む。
可動部材31を持たない従来の液流路構造においては、
消泡位置に吐出口側から流れ込む液体の量と共通液室か
ら流れ込む液体の量は、気泡発生領域より吐出口に近い
部分と共通液室に近い部分との流抵抗の大きさに起因す
る(流路抵抗と液体の慣性に基づくものである)。
【0068】このため、吐出口に近い側の流抵抗が小さ
い場合には、多くの液体が吐出口側から消泡位置に流れ
込みメニスカスの後退量がおおきくなることになる。特
に、吐出効率を高めるために吐出口に近い側の流抵抗を
小さくして吐出効率を高めようとするほど、消泡時のメ
ニスカスMの後退が大きくなり、リフィル時間が長くな
って高速印字を妨げることとなっていた。
【0069】これに対して本構成は可動部材31を設け
たため、気泡の体積Wを可動部材の第1位置を境に上側
をW1、気泡発生領域11側をW2とした場合、消泡時
に可動部材が元の位置に戻った時点でメニスカスの後退
はとまり、その後残ったW2の体積分の液体供給は主に
第2流路16の流れVD2からの液供給によって成され
る。これにより、従来、気泡Wの体積の半分程度に対応
した量がメニスカスの後退量になっていたのに対して、
それより少ないW1の半分程度のメニスカス後退量に抑
えることが可能になった。
【0070】さらに、W2の体積分の液体供給は消泡時
の圧力を利用して可動部材31の発熱体側の面に沿っ
て、主に第2液流路の上流側(VD2)から強制的に行
うことができるため、より速いリフィルを実現できた。
【0071】ここで特徴的なことは、従来のヘッドで消
泡時の圧力を用いたリフィルを行った場合、メニスカス
の振動が大きくなってしまい画像品位の劣化につながっ
ていたが、本実施例のリフィルにおいては可動部材によ
って吐出口側の第1液流路14の領域と、気泡発生領域
11との吐出口側での液体の流通が抑制されるためメニ
スカスの振動を極めて少なくすることができることであ
る。
【0072】このように本発明に適用される上述した構
成は、第2液流路16の液供給路12を介しての発泡領
域への強制リフィルと、上述したメニスカス後退や振動
の抑制によって高速リフィルを達成することで、吐出の
安定や高速繰り返し吐出、また記録の分野に用いた場
合、画質の向上や高速記録を実現することができる。
【0073】本発明の上述した構成においては、さらに
次のような有効な機能を兼ね備えている。それは、気泡
の発生による圧力の上流側への伝搬(バック波)を抑制
することである。発熱体2上で発生した気泡の内、共通
液室13側(上流側)の気泡による圧力は、その多くが
上流側に向かって液体を押し戻す力(バック波)になっ
ていた。このバック波は、上流側の圧力と、それによる
液移動量、そして液移動に伴う慣性力を引き起こし、こ
れらは液体の液流路内へのリフィルを低下させ高速駆動
の妨げにもなっていた。本構成においては、まず可動部
材31によって上流側へのこれらの作用を抑えることで
もリフィル性の向上をさらに図っている。
【0074】次に、本実施例の更なる特徴的な構造と効
果について、以下に説明する。
【0075】本実施例の第2液流路16は、発熱体2の
上流に発熱体2と実質的に平坦につながる(発熱体表面
が大きく落ち込んでいない)内壁を持つ液体供給路12
を有している。このような場合、気泡発生領域11およ
び発熱体2の表面への液体の供給は、可動部材31の気
泡発生領域11に近い側の面に沿って、VD2のように
行われる。このため、発熱体2の表面上に液体が淀むこ
とが抑制され、液体中に溶存していた気体の析出や、消
泡できずに残った、いわゆる残留気泡が除去され易く、
また、液体への蓄熱が高くなりすぎることもない。従っ
て、より安定した気泡の発生を高速に繰り返し行うこと
ができる。なお、本構成では、実質的に平坦な内壁を持
つ液体供給路12を持つもので説明したが、これに限ら
ず、発熱体表面となだらかに繋がり、なだらかな内壁を
有する液供給路であればよく、発熱体上に液体の淀み
や、液体の供給に大きな乱流を生じない形状であればよ
い。
【0076】また、気泡発生領域への液体の供給は、可
動部材の側部(スリット35)を介してVD1から行わ
れるものもある。しかし、気泡発生時の圧力をさらに有
効に吐出口に導くために図1に示すように気泡発生領域
の全体を覆う(発熱体面を覆う)ように大きな可動部材
を用い、可動部材31が第1の位置への復帰すること
で、気泡発生領域11と第1液流路14の吐出口に近い
領域との液体の流抵抗が大きくなるような形態の場合、
前述のVD1から気泡発生領域11に向かっての液体の
流れが妨げられる。しかし、本構成のヘッド構造におい
ては、気泡発生領域に液体を供給するための流れVD2
があるため、液体の供給性能が非常に高くなり、可動部
材31で気泡発生領域11を覆うような吐出効率向上を
求めた構造を取っても、液体の供給性能を落とすことが
ない。
【0077】ところで、可動部材31の自由端32と支
点の位置は、例えば図5で示されるように、自由端が相
対的に支点より下流側にある。このような構成のため、
前述した発泡の際に気泡の圧力伝搬方向や成長方向を吐
出口側に導く等の機能や効果を効率よく実現できるので
ある。さらに、この位置関係は吐出に対する機能や効果
のみならず、液体の供給の際にも液流路10を流れる液
体に対する流抵抗を小さくでき高速にリフィルできると
いう効果を達成している。これは図5に示すように、吐
出によって後退したメニスカスMが毛管力により吐出口
18へ復帰する際や、消泡に対しての液供給が行われる
場合に、液流路10(第1液流路14、第2液流路16
を含む)内を流れる流れS1、S2,S3に対し、逆ら
わないように自由端と支点33とを配置しているためで
ある。
【0078】補足すれば、本構成においては、前述のよ
うに可動部材31の自由端32が、発熱体2を上流側領
域と下流側領域とに2分する面積中心3(発熱体の面積
中心(中央)を通り液流路の長さ方向に直交する線)よ
り下流側の位置に対向するように発熱体2に対して延在
している。これによって発熱体の面積中心位置3より下
流側で発生する液体の吐出に大きく寄与する圧力、又は
気泡を可動部材31が受け、この圧力および気泡を吐出
口側に導くことができ、吐出効率や吐出力を根本的に向
上させることができる。
【0079】さらに、加えて上記気泡の上流側をも利用
して多くの効果を得ている。また、本構成においては、
可動部材31の自由端が瞬間的に機械的変位を行ってい
ることも、液体の吐出に対して有効に寄与していると考
えられる。
【0080】以下、図面を参照して本発明の実施例につ
いて説明する。 <実施例1>図6に本発明の第1の実施例を示す。図6
において、Aは可動部材が上方に変位している状態を示
し(気泡は図示せず)、Bは可動部材が初期位置(第1
位置)の状態を示し、このBの状態をもって、発泡領域
11を吐出口18に対して実質的に密閉しているとす
る。(ここでは、図示しないていないがA,B間には流
路壁があり流路と流路とを分離している。) 図6における可動部材31は土台34を側部に2点設
け、その間に液供給路12を設けている。これにより、
可動部材の発熱体側の面に沿って、また、発熱体の面と
実質的に平坦もしくは、なだらかにつながる面を持つ液
供給路から液体の供給を成すことができる。
【0081】ここで、可動部材31の初期位置(第1位
置)では、可動部材31は発熱体2の下流側および横方
向に配された発熱体下流壁36と発熱体側壁37に近接
または密着しており、気泡発生領域11の吐出口18側
に実質的に密閉されている。このため、発泡時の気泡の
圧力、特に気泡の下流側の圧力を逃さず、可動部材の自
由端側に集中的に作用させることができる。
【0082】また、消泡時には、可動部材31は第1位
置に戻り、発熱体上への消泡時の液供給は気泡発生領域
11の吐出口側が実質的に密閉状態になるため、メニス
カスの後退抑制等、先の原理説明の欄で説明した種々の
効果を得ることができる。また、リフィルに関する効果
においても先の原理説明と同様の機能、効果を得ること
ができる。
【0083】特に、本実施例においては、可動部材が第
2の位置から第1の位置に復帰する際、可動部材の自由
端領域が第1の位置からさらに気泡発生領域内に入り込
む(発熱体にさらに近づく)ような、下方への変位を抑
制する抑制手段(発熱体下流壁36、発熱体側壁37)
を有している。このため、過剰な可動部材の下方変位が
規制され、可動部材の耐久性をさらに向上させることが
できる。
【0084】ここで、本発明の特徴を図7を用いてさら
に詳しく説明する。
【0085】図7は、図6の液体吐出ヘッドの液流路1
0を気泡発生領域11を通る位置で切断し、動作順に示
した断面模式図である。
【0086】図7(a)は、動作前の状態であり、可動
部材が第1位置(初期位置)にある。このとき可動部材
の自由端領域は、上述の規制手段と接しており、可動部
材の自由端が下方に変位することが物理的に規制されて
いる。
【0087】図7(b)は、発熱体を発熱させ、前述し
たように可動部材31が発生した気泡の圧力によって変
位している状態を示している。ついで、消泡が始まる
と、気泡の収縮に伴う圧力や可動部材自身のバネ性によ
る復帰力によって、図7(c)のように可動部材は第1
位置に復帰する。
【0088】このとき、可動部材の自由端領域は前述規
制手段によって、下方への変位が抑止されるため、可動
部材の自由端領域の下方変位が抑えられる。また、規制
手段を兼ねた発熱体下流壁36や発熱体側壁37と可動
部材31とで気泡発生領域11が液流路の吐出口側の領
域から実質上の密閉の状態に成っているため、引続き生
じる気泡の収縮(図7(d))によって、気泡発生領域
の負圧が高まり、体積減少によってリフィルされるた
め、可動部材の変形が抑えられる。
【0089】また、本実施例においては、図2や図6の
ように、可動部材31を支持固定する土台34を発熱体
2より離れた上流に設けると共に、液流路10より、小
さな幅の土台34とすることで前述のような液供給路1
2への液体の供給を行っている。また土台34の形状の
これに限らず、リフィルをスムースに行えるものであれ
ばよい。
【0090】なお、本実施例においては、可動部材31
と発熱体2の間隔を15μm程度としたが、気泡の発生
に基づく圧力が十分に可動部材に伝わる範囲であればよ
い。
【0091】以上のように、本実施例では、発熱体下流
壁36や発熱体側壁37等の規制手段によって可動部材
31、特に自由端領域が第1位置より下方への変位を規
制することで、前述のように液体のリフィルの効率を高
めるだけでなく、可動部材の自由端領域の変位を主とし
て第1位置より、上方変位のみにすることができる。
【0092】このことで、支点部の曲げ応力による歪み
を一方向成分に集約できるため、可動部材の耐久性を飛
躍的に向上させることが可能となった。 <実施例2>図8は、本実施例の液体吐出ヘッドの流路
の模式的構成を説明するためのもので、(a)は第1の
液流路14、可動部材31、および第2の液流路16と
の配置関係を説明するための平面図、(b)は(a)の
VA−VA1線に沿う断面図、(c)はVB−VB1線
に沿う断面図である。
【0093】第2の液流路16は発熱体2の上流で狭窄
部19を持っており、発泡時の圧力が第2の液流路4を
伝って逃げることを抑制するような室(発泡室)構造と
なっている。従来のように、可動部材のない液体吐出ヘ
ッドで、発熱体より液室側に発生した圧力が共通液室側
に逃げないように狭窄部を設ける場合には、吐出する液
体のリフィルを充分考慮して、狭窄部における流路断面
積があまり小さくならない構成を採る必要があった。
【0094】しかし、本発明の場合、吐出される液体の
ほとんどは第1の液流路14内の液体であり、発熱体2
が設けられた第2の液流路16内の液体はあまり消費さ
れないため、発泡に寄与するだけの液体が第2の液流路
16の気泡発生領域へ充填されれば良い。従って、上述
の狭窄部19における問隔を数μm〜十数μmと非常に
狭くでき、第2の液流路16で発生した発泡時の圧力を
あまり周囲に逃がすことがなく、集中して可動部材31
側に向けることができる。この結果、この圧力を可動部
材31を介して吐出圧力として利用するので、より高い
吐出効率、吐出を得ることができる。
【0095】但し、第2の液流路16の形状は上述の構
造に限られるものではなく、気泡発生に伴う圧力が効果
的に可動部材側に伝えられる形状であればよい。
【0096】この図8(c)では、発熱体2の幅をH
1、第2の液流路16の幅をH2、そして可動部材31
の幅をH3とすると、 H2>H1>H3 の関係であり、図8(c)の位置では可動部材31の下
方変位を規制するものはない。しかし、片持梁状可動部
材31の自由端部の直下にある第2の液流路16の部分
が、先細り(テーパ状)となっているため、可動部材3
1はその自由端32近傍の縁部によって、第1位置に復
帰する際に第2の液流路壁23に接する。
【0097】この規制手段を兼ねた第2の液流路壁23
によって自由端部の下方変位を規制することが可能とな
り、前述した如く、可動部材31の耐久性の向上を図り
つつ、吐出効率やリフィル性を高めることが可能となっ
た。 <実施例3>図9(a)は、上述の第1の液流路14、
可動部材31、および第2の液流路16との配置関係を
説明するための平面図であり、(b)は(a)のIV−IV
1線に沿う断面図である。
【0098】ここで、可動部材31が自然な状態(すな
わち、可動壁の非動作時の状態)にある位置を第1位置
とする。可動部材31が第1位置にある場合、可動部材
31の縁部の少なくとも一部(本実施例では、側部およ
び自由端部の一部)は、各第2の液流路16を構成する
液流路壁23上に接する。そのため、初期位置から矢印
A方向に変位した可動部材が再び初期位置に戻る際、流
路壁23が障害となるため第2の液流路16側に入り込
むことがない。また、この実施例では、可動部材の幅を
ヒータの幅よりも広く設定している。したがって、図に
示すように、発熱体2の幅をH1、第2の液流路の幅を
H2、そして可動部材31の幅をH3とすると、 H3>H2 となっている。またこれに加えてH2>H1とすること
で、組み立て上の位置ズレに対するマージンを向上する
ことができる。
【0099】本実施例は、上記関係を満足することによ
って、可動部材の初期位置への復帰を安定化させるとと
もに、従来のものと比較してより一層安定した吐出状態
が達成可能となり、また吐出効率、耐久面共に従来のも
のよりも顕著にすぐれた液体吐出ヘッドが得られた。 <実施例4>図10、図11は本発明の第4の実施例を
説明するための図である。
【0100】図10(a)は、可動部材31、第2液流
路16、発熱体2の配置関係を示した平面図である。図
10(b)は、図10(a)のA−A´断面図であり、
可動部材31は初期位置にある。
【0101】図11は、図10におけるB−B´方向で
の断面図であり、吐出口位置から共通液室までの断面図
を示している。
【0102】本実施例の液体吐出ヘッドは、液体に気泡
を発生させるための熱エネルギを与える発熱体2が設け
られた素子基板1上に、発泡用の第2液流路16があ
り、その上に吐出口に直接連通した吐出液用の第1液流
路14が配されている。
【0103】第1液流路の上流側は、複数の第1液流路
に吐出液を供給するための第1共通液室15に連通して
おり、第2液流路の上流側は、複数の第2液流路に発泡
液を供給するための第2共通液室17に連通している。
【0104】但し、発泡液と吐出液を同じ液体とする場
合には、共通液室を一つにして共通化させてもよい。
【0105】第1と第2の液流路の間には、金属等の弾
性を有する材料で構成された分離壁30が配されてお
り、第1液流路と第2液流路とを区分している。なお、
発泡液と吐出液とができる限り混ざり合わない方がよい
液体の場合には、この分離壁によってできる限り完全に
第1液流路14と第2液流路16の液体の流通を分離し
た方がよいが、発泡液と吐出液とがある程度混ざり合っ
ても、問題がない場合には、分離壁に完全分離の機能を
持たせなくなくてもよい。
【0106】発熱体の面方向上方への投影空間(以下吐
出圧発生領域という。;図11中のAの領域とBの気泡
発生領域11)に位置する部分の分離壁は、スリット3
5によって吐出口側(液体の流れの下流側)が自由端
で、共通液室(15、17)側に支点33が位置する片
持梁状の可動部材31となっている。この可動部材31
は、気泡発生領域11(B)に面して配されているた
め、発泡液の発泡によって第1液流路側に向けて開口す
るように動作する(図中矢印方向)。図11において
も、発熱体2としての発熱抵抗部と、この発熱抵抗部に
電気信号を印加するための配線電極(不図示)とが配さ
れた素子基板1上に、第2の液流路を構成する空間を介
して分離壁30が配置されている。
【0107】可動部材31の支点33、自由端32の配
置と、発熱体との配置の関係については、先の実施例と
同様である。
【0108】また、先の説明では、液供給路12と発熱
体2との構造の関係について説明したが、本実施例にお
いても第2液流路16と発熱体2との構造の関係を同じ
くしている。
【0109】特に本実施例においては、可動部材の両端
部および自由端部の全てが、可動部材31が初期位置の
とき第2液流路の壁に接する構成となっており、可動部
材が初期位置にあるとき、第2液流路16の気泡発生領
域11と第1の液流路14とが実質的に密閉された状態
になっている。本構成においては、可動部材31の下方
変位が、全領域で規制されるため、支点の曲げ応力を一
方向にさらに集約できるため、可動部材の耐久性を向上
させることが可能となった。
【0110】また、可動部材の全周が第2液流路16を
構成する壁23と接しているため、発泡による圧力を隙
間から第1液流路側に逃がすことなく、より集中して可
動部材に作用させることができる。これにより、吐出効
率や吐出力がさらに高い液体吐出ヘッドを得ることが可
能となった。
【0111】さらに、可動部材を有する分離壁を共通液
室まで延在させ、2つの共通液室15、17に共通液室
を分離した図11のような形態の液体吐出ヘッドにおい
ては、第1液流路14と第2液流路16とに異なる液体
を供給して、主として吐出される液体と、気泡を発生さ
せる液体とを別液体とすることで発泡が困難な液体や熱
に弱い液体等をも良好に吐出することが可能となる。
【0112】本実施例においては、前述のように可動部
材の初期位置で、第1液流路14と第2液流路との液体
の流通を実質的に密閉することができるので、非動作時
における2液の拡散の防止を行うことも可能となった。
【0113】本実施例は、可動部材の変位に伴う発泡圧
力の伝搬、気泡の成長方向、バック波の防止等に関する
主要部分の作用や効果については先の実施例等と同じで
あるが、本実施例のような2流路構成をとることによっ
て、さらに次のような長所がある。
【0114】すなわち、上述の実施例の構成によると、
吐出液と発泡液とを別液体とし、発泡液の発泡で生じた
圧力によって吐出液を吐出することができる。このため
従来、熱を加えても発泡が十分に行われにくく吐出力が
不十分であったポリエチレングリコール等の高粘度の液
体であっても、この液体を第1の液流路3に供給し、発
泡液に発泡が良好に行われる液体(エタノール:水=
4:6の混合液、l 〜2cP程度等)を第2の液流路4
に供給することで良好に吐出させることができる。
【0115】また、発泡液として熱を受けても発熱体の
表面にコゲ等の堆積物を生じない液体を選択すること
で、発泡を安定化し、良好な吐出を行うことができる。
【0116】さらに、本発明のへッドの構造においては
先の実施例で説明したような効果をも生じるため、さら
に高吐出効率、高吐出力で高粘性液体等の液体を吐出す
ることができる。
【0117】また、加熱に弱い液体の場合であっても、
この液体を第1の液流路3に吐出液として供給し、第2
の液流路4で熱的に変質しにくく良好に発泡を生じる液
体を供給すれば、加熱に弱い液体に熱的な害を与えるこ
となく、しかも上述のように高吐出効率、高吐出力で吐
出することができる。 <実施例5>図12は、本実施例の液体吐出ヘッドの流
路の模式的構成を説明するための幅方向断面図で、
(a)は駆動パルスONでもって可動部材が変位する場
合、(b)は駆動パルスOFFでもって可動部材が変位
した位置から自然位置へ復帰する場合を示す。この図に
示すように、可動部材31の幅方向に沿った断面形状
は、逆台形状となっている。また、可動部材31の断面
形状に合わせて、分離壁30に形成されたスリット35
の端部は斜面を有する。すなわち、第2の液流路16側
の幅31aは、第1の液流路14側の幅31bよりも小
さくなっている。一方、第1の液流路14側の幅31b
は、分離壁スリット35の第1の液流路14側の幅35
bよりも小さく、かつ第2の液流路16側の幅35aよ
りも大きい寸法になっている。したがって、31b≧3
5aの関係を持っている。
【0118】可動部材が初期位置に戻る際に、第2流路
内の負圧と可動部材自身の復帰力とによって下方へ変位
しようとするが、本実施例では、可動部材側部の斜面
と、これに対向する分離壁の斜面とが当接することで可
動部材の下方への変位を規制している。本実施例におけ
る下方変位は、可動部材31の厚さの範囲内での変位で
止めるため、可動部材の自由端のストッパを持っていな
い構造に対しても、可動部材の耐久性の向上を図ること
ができる。自由端側も、本実施例と同様に斜面で構成し
た場合でも、同様の効果を得ることができる。また、本
実施例においては可動部材31の第2の液流路16側へ
の侵入を分離壁30自体によって抑えることができるた
め、製造工程の簡略化をも図ることができる。 <参考例>図13は、本発明に関連する参考例としての
液体吐出ヘッドの流路の模式的構成を説明するための幅
方向断面図で、(a)は発熱体2に駆動パルスONが加
えられて可動部材が第1の液流路側に変位し始める場
合、(b)は駆動パルスがOFFとなって可動部材が変
位した位置から第1位置へ復帰した場合を示す。この参
考例の可動部材は、第1の液流路14側の面が平坦で、
第2の液流路16側の面が凸部を有する形状となってい
る。この凸部の高さは、ノズル分離壁30の高さH9よ
りも低く形成されている。
【0119】したがって、凸部を有する可動部材31
は、駆動パルスが加えられることで、ヒーター2上に発
生した気泡により矢印方向に変位する(図13
(a))。
【0120】その後、駆動パルスがOFFされてから気
泡は消滅し、可動部材31が第1位置に復帰してスリッ
ト35を形成する。その際可動部材31は、消泡による
負圧と可動部材自身の復帰で第2の液流路16側に侵入
しようとするが、可動部材31に形成された凸部によっ
て、第2の液流路16側に変位することなく可動部材の
厚みの範囲内で第1位置に下限が規制される(図13
(b))。 <実施例6>図14は、本実施例の液体吐出ヘッドの流
路の模式的構成を説明するための長手方向断面図であ
る。この図では、ヒータ2が発熱して第2の液体に気泡
が生じて該気泡による可動部材31の変位が起こった状
態が示されている。
【0121】この実施例の基本的構成は実施例4と同じ
であるけれども、本実施例では、可動部材の自由端32
が発熱体2より前方に配されていることが特徴で、可動
部材31の自由端側縁部近傍が当接する第2の液流路を
構成する流路壁23の第1の液流路14側の面上に複数
の凸部24が設けられている点が異なる。これらの凸部
24は可動部材31が流路壁23と当接する際に、可動
部材31が流路壁23に張り付くのを防止するためのも
のである。もちろん、このような凸部24は、可動部材
31の自由端側縁部近傍(自由端部)に対向した部分に
限定されることなく、他の部分であってもよく、もちろ
ん可動部材31側に設けてもよい。また、自由端の上方
の流路天井を支点部より高くして、可動部材の変位量を
大きくしつつ、過剰変位を防ぐ構造にした。なお、この
ような流路形状は、本実施例に限られたものではなく、
他の実施例においても、同様に可動部材の耐久性を向上
する効果を得ることができる。 <実施例7>図15は、本実施例の液体吐出ヘッドの流
路の模式的構成を説明するための平面模式図である。図
中、参照符号12は発熱体、16は第2の液流路、23
は流路壁、24は凸部である。
【0122】この実施例では、実施例6と同様に、可動
部材31の自由端側縁部近傍(自由端部)が当接する流
路壁23の第1の液流路14側の面上に複数の凸部24
が設けられている。また、第2の液流路16の形状は流
路壁23によって限定され、狭窄部19が形成され、さ
らに流路壁23の一部分が切欠されており、各液流路1
6間が先端部で連通するための連通口25が形成されて
いる。このように配置された流路壁23および第2の液
流路16上に、可動部材31の先端が流路壁23に当接
するようにして、該可動部材31が形成された分離壁
(Ni板)30が積層される。 <実施例8>図16は、本実施例の液体吐出ヘッドの流
路の模式的構成を説明するための平面模式図である。こ
の実施例では、実施例7の第2流路の連通口25の形状
をV字型とすることによって隣接の流路との距離が長く
なり、クロストークに対し効果が高まる。
【0123】以上の各実施例および参考例から明らかな
ように、本発明は第1位置より気泡発生領域へ(発熱体
側に近い方へ)の可動部材の自由端部の変位(下方変
位)を規制することによって、可動部材の支点部の応力
を一方向成分に集約できるため、可動部材の耐久性が飛
躍的に向上できた。
【0124】また、メニスカス振動を最小限に抑えるこ
とができ、消泡時の気泡発生領域の負圧をリフィルに有
効に作用させることができるので、より高速なリフィル
を達成することができる。
【0125】また、規制手段と第1位置にある可動部材
とが接するか、もしくは、わずかな隙間を持つ位置にあ
るようにして密閉状態としているため、発生した気泡が
可動部材の変位前にスリットから逃げることがなく、集
中して可動部材に作用するため吐出効率や、吐出力の高
い液体吐出ヘッド等を得ることができる。
【0126】また、上記効果に加えさらに、可動部材が
第1の位置にあるとき、可動部材の両側部および自由端
部の全領域を第2液流路の壁に当接させることで、第1
液流路と第2液流路に異なる液体を供給する構成では、
可動部材の下方変位による混液の防止と、非動作時にお
ける拡散防止とを図ることも可能となった。
【0127】また、可動部断面形状をテーパー形状や、
凸部を持つ形状とすることで同様に可動部材の第2の液
流路側への変位を規制することが可能となる。
【0128】さらに、可動部材と第2の液流路の流路壁
との当接面に複数の凸部を設けたり、粗面とすることに
よって可動部材と流路壁とが張り付くことを防止するこ
とができる。
【0129】また、2流路構成で異なる液体を各流路に
供給する形態では、第1の液体(吐出インク)の第2の
液体(発泡液)への混入を防止できるため、ヒーター上
の吐出インクによるこげの発生を防止できるため、吐出
の安定した機能分離吐出ヘッドを提供することが可能と
なる。 (その他の実施例)以上、本発明の液体吐出ヘッドや液
体吐出方法の要部の実施例について説明を行ったが、以
下にこれらの実施例に好ましく適用できる実施態様例に
ついて図面を用いて説明する。但し、以下の説明におい
ては前述の1流路形態の実施例と2流路形態の実施例の
いずれかを取り上げて説明する場合があるが、特に記載
しない限り、両実施例に適用しうるものである。 (液流路の天井形状)図17は本発明に適用されている
液体吐出ヘッドの流路方向断面図であるが、第1液流路
14(もしくは図2における液流路10)を構成するた
めの溝が設けられた溝付き部材50が分離壁30上に設
けられている。本実施例においては可動部材の自由端3
2位置近傍の流路天井の高さが高くなっており、可動部
材の動作角度θをより大きくとれるようにしている。こ
の可動部材の動作範囲は、液流路の構造、可動部材の耐
久性や発泡力等を考慮して決定すればよいが、吐出口の
軸方向の角度を含む角度まで動作することが望ましいと
考えられる。
【0130】また、この図で示されるように吐出口の直
径より可動部材の自由端の変位を高くすることで、より
十分な吐出圧力の伝達が成される。また、この図で示さ
れるように、可動部材の自由端32位置の液流路天井の
高さより可動部材の支点33位置の液流路天井の高さの
方が低くなっているため、可動部材の変位による上流側
への圧力波の逃げがさらに有効に防止できる。 (第2液流路と可動部材との配置関係)図18は、上述
の可動部材31と第2液流路16との配置関係を説明す
るための図であり、同図(a)は分離壁30、可動部材
31近傍を上方から視た図であり、(b)は分離壁30
を外した第2液流路16を上方から視た図である。そし
て、(c)は可動部材31と第2液流路16との配置関
係を、これらの各要素を重ねることで模式的に示した図
である。なお、いずれの図も図面下方が吐出口の配され
ている前面側である。
【0131】本実施例の第2の液流路16は前述のよう
に発熱体2の上流側(ここでの上流側とは第2共通液室
側から発熱体位置、可動部材、第1液流路を経て吐出口
に向かう大きな流れの中の上流側のことである。)に狭
窄部19を持っており、発泡時の圧力が第2液流路16
の上流側に容易に逃げることを抑制するような室(発泡
室)構造となっている。
【0132】なお、図18(c)で示されるように可動
部材31の側方は、第2液流路を構成する壁の一部を覆
っており、このことで、可動部材31の第2液流路への
落ち込みを防止できる。これによって、前述した吐出液
と発泡液との分離性をさらに高めることができる。ま
た、気泡のスリットからの逃げの抑制ができるため、さ
らに吐出圧や吐出効率を高めることができる。さらに、
前述の消泡時の圧力による上流側からのリフィル効果を
高めることができる。
【0133】なお、図17においては、可動部材31の
第1の液流路14側への変位に伴って第2の液流路16
の気泡発生領域で発生した気泡の一部が第1の液流路1
4側に延在しているが、このように気泡が延在するよう
な第2液流路の高さにすることで、気泡が延在しない場
合に比べて更に吐出力を向上させることができる。この
ように気泡が第1の液流路14に延在するようにするた
めには、第2の液流路16の高さを最大気泡の高さより
も低くすることが望ましく、この高さを数μm〜30μ
mとすることが望ましい。なお、本実施例においては、
この高さを15μmとした。
【0134】図19(a)、(b)および(c)は、そ
れぞれ可動部材31の他の形状を示す平面図であり、同
図(a)は長方形の形状であり、(b)は支点側が細く
なっている形状で可動部材の動作が容易な形状であり、
(c)は支点側が広くなっており、可動部材の耐久性が
向上する形状である。動作の容易性と耐久性が良好な形
状として、容易に動作可能な形状で、耐久性に優れた形
状であればよい。
【0135】先の実施例においては、板状可動部材31
およびこの可動部材を有する分離壁30は厚さ5μmの
ニッケルで構成したが、これに限られることなく可動部
材、分離壁を構成する材質としては発泡液と吐出液に対
して耐溶剤性があり、可動部材として良好に動作するた
めの弾性を有し、微細なスリットが形成できるものであ
ればよい。
【0136】可動部材の材料としては、耐久性の高い、
銀、ニッケル、金、鉄、チタン、アルミニウム、白金、
タンタル、ステンレス、りん青銅等の金属、およびその
合金、または、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレ
ン等のニトリル基を有する樹脂、ポリアミド等のアミド
基を有する樹脂、ポリカーボネート等のカルボキシル基
を有する樹脂、ポリアセタール等のアルデヒド基を持つ
樹脂、ポリサルフォン等のスルホン基を持つ樹脂、その
ほか液晶ポリマー等の樹脂およびその化合物、耐インク
性の高い、金、タングステン、タンタル、ニッケル、ス
テンレス、チタン等の金属、これらの合金および耐イン
ク性に関してはこれらを表面にコーティングしたもの若
しくはポリアミド等のアミド基を有する樹脂、ポリアセ
タール等のアルデヒドを持つ樹脂、ポリエーテルエーテ
ルケトン等のケトン基を有する樹脂、ポリイミド等のイ
ミド基を有する樹脂、フェノール樹脂等の水酸基を有す
る樹脂、ポリエチレン等のエチル基を有する樹脂、ポリ
プロピレン等のアルキル基を有する樹脂、エポキシ樹脂
等のエポキシ基を有する樹脂、メラミン樹脂等のアミノ
基を有する樹脂、キシレン樹脂等のメチロール基を有す
る樹脂およびその化合物、さらに二酸化珪素等のセラミ
ックおよびその化合物が望ましい。
【0137】分離壁の材質としては、ポリエチレン、ポ
リプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレー
ト、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポ
リブタジエン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエー
テルサルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリサ
ルフォン、液晶ポリマー(LCP)等の近年のエンジニ
アリングプラスチックに代表される耐熱性、耐溶剤性、
成型性の良好な樹脂、およびその化合物、もしくは、二
酸化珪素、窒化珪素、ニッケル、金、ステンレス等の金
属、合金およびその化合物、もしくは表面にチタンや金
をコーティングしたものが望ましい。
【0138】また、分離壁の厚さは、分離壁としての強
度を達成でき、可動部材として良好に動作する観点から
その材質と形状等を考慮して決定すればよいが、0.5
μm〜10μm程度が望ましい。
【0139】可動部材31を形成するためのスリット3
5の幅は本実施例では2μmとしたが、発泡液と吐出液
とが異なる液体であり、両液体の混液を防止した場合
は、スリット幅を両者の液体間でメニスカスを形成する
程度の間隔とし、各々の液体同士の流通を抑制すればよ
い。例えば、発泡液として2cP(センチポアズ)程度
の液体を用い、吐出液として100cP以上の液体を用
いた場合には、5μm程度のスリットでも混液を防止す
ることができるが、3μm以下にすることが望ましい。
【0140】本発明における可動部材としてはμmオー
ダーの厚さ(tμm)を対象としており、cmオーダー
の厚さの可動部材は意図していない。μmオーダーの厚
さの可動部材にとって、μmオーダーのスリット幅(W
μm)を対象とする場合、製造のバラツキをある程度考
慮することが望ましい。
【0141】スリットを形成する可動部材の自由端ある
いは/かつ側端に対向する部材の厚さが可動部材の厚さ
と同等の場合(図12、図13等)、スリット幅と厚み
の関係を製造のバラツキを考慮して以下のような範囲と
することで発泡液と吐出液の混液を安定的に抑制するこ
とができる。このことは限られた条件ではあるが設計上
の観点として、3cP以上の粘度の発泡液に対して高粘
度(5cP、10cP等)を用いる場合、W/t≦1を
満足するようにすることで、2液の混合を長期にわたっ
て抑制することが可能な構成となった。
【0142】本発明の「実質的な密閉状態」を与えるス
リットとしては、このような数μmオーダーであればよ
り確実である。
【0143】上述のように、発泡液と吐出液とに機能分
離させた場合、可動部材がこれらの実質的な仕切部材と
なる。この可動部材が気泡の生成に伴って移動する際に
吐出液に対して発泡液がわずかに混入することが見られ
る。画像を形成する吐出液は、インクジェット記録の場
合、色材濃度を3%ないし5%程度有するものが一般的
であることを考慮すると、この発泡液が吐出液滴に対し
て20%以下の範囲で含まれても大きな濃度変化をもた
らさない。従って、このような混液としては、吐出液滴
に対して20%以下となるような発泡液と吐出液との混
合を本発明に含むものとする。
【0144】なお、上記構成例の実施では、粘性を変化
させても上限で15%の発泡液の混合であり、5cps
以下の発泡液では、この混合比率は、駆動周波数にもよ
るが、10%程度を上限とするものであった。
【0145】特に、吐出液の粘度を20cps以下にす
ればする程、この混液は低減(例えば5%以下)でき
る。 (素子基板)以下に液体に熱を与えるための発熱体が設
けられた素子基板の構成について説明する。
【0146】図20(a)および(b)は、それぞれ本
発明の液体吐出ヘッドの縦断面図を示したもので、同図
(a)は後述する保護膜があるヘッド、(b)は保護膜
がないものである。
【0147】素子基板1上に第2液流路16、分離壁3
0、第1液流路14、第1液流路を構成する溝を設けた
溝付き部材50が配されている。
【0148】素子基板1上には、シリコン等の基体10
7に絶縁および蓄熱を目的としたシリコン酸化膜または
窒化シリコン膜106を成膜し、その上に発熱体を構成
するハフニュウムボライド(HfB )、窒化タンタ
ル(TaN)、タンタルアルミ(TaAl)等の電気抵
抗層105(0.01〜0.2μm厚)とアルミニウム
の配線電極(0.2〜1.0μm厚)がパターニングさ
れている。この2つの配線電極104から抵抗層105
に電圧を印加し、抵抗層に電流を流し発熱させる。配線
電極間の抵抗層上には、酸化シリコンや窒化シリコン等
の絶縁層103を0.1〜2.0μm厚で形成し、さら
にその上にタンタル等の耐キャビテーション層102
(0.1〜0.6μm厚)が成膜されており、インク等
の各種の液体から抵抗層105を保護している。
【0149】特に、気泡の発生、消泡の際に発生する圧
力や衝撃波は非常に強く、堅くてもろい酸化膜の耐久性
を著しく低下させるため、金属材料のタンタル(Ta)
等の耐キャビテーション層102が保護層として用いら
れる。
【0150】また、液体、液流路構成、抵抗材料の組み
合わせにより上述の保護層を必要としない構成でもよ
く、その例を図20(b)に示す。このような保護層を
必要としない抵抗層の材料としてはインジュウム・タン
タル・アルミ合金等が挙げられる。
【0151】このように、前述の各実施例における発熱
体の構成としては、前述の電極間の抵抗層(発熱部)だ
けででもよく、また抵抗層を保護する保護層を含むもの
でもよい。
【0152】本実施例においては、発熱体として電気信
号に応じて発熱する抵抗層で構成された発熱部を有する
ものを用いたが、これに限られることなく、吐出液を吐
出させるのに十分な気泡を発泡液に生じさせるものであ
ればよい。例えば、発熱部としてレーザ等の光を受ける
ことで発熱するような光熱変換体や高周波を受けること
で発熱するような発熱部を有する発熱体でもよい。
【0153】なお、前述の素子基板1には、前述の発熱
部を構成する抵抗層105と、この抵抗層に電気信号を
供給するための配線電極104で構成される電気熱変換
体の他に、この電気熱変換素子を選択的に駆動するため
のトランジスタ、ダイオード、ラッチ、シフトレジスタ
等の機能素子が一体的に半導体製造工程によって作り込
まれていてもよい。
【0154】また、前述のような素子基板1に設けられ
ている電気熱変換体の発熱部を駆動し、液体を吐出する
ためには、前述の抵抗層105に配線電極104を介し
て図21で示されるような矩形パルスを印加し、配線電
極間の抵抗層105を急峻に発熱させる。前述の各実施
例のヘッドにおいては、それぞれ電圧24V、パルス幅
7μsec、電流10mA、電気信号を6kHzで加え
ることで発熱体を駆動させ、前述のような動作によっ
て、吐出口から液体であるインクを吐出させた。しかし
ながら、駆動信号の条件はこれに限られることなく、発
泡液を適正に発泡させることができる駆動信号であれば
よい。 (吐出液体、発泡液体)先の実施例で説明したように本
発明においては、前述のような可動部材を有する構成に
よって、従来の液体吐出ヘッドよりも高い吐出力や吐出
効率でしかも高速に液体を吐出することができる。本実
施例の内、発泡液と吐出液とに同じ液体を用いる場合に
は、発熱体から加えられる熱によって劣化せずに、また
加熱によって発熱体上に堆積物を生じにくく、熱によっ
て気化、凝縮の可逆的状態変化を行うことが可能であ
り、さらに液流路や可動部材や分離壁等を劣化させない
液体であれば種々の液体を用いることができる。
【0155】このような液体の内、記録を行う上で用い
る液体(記録液体)としては従来のバブルジェット(登
録商標)装置で用いられていた組成のインクを用いるこ
とができる。
【0156】一方、本発明の2流路構成のヘッドを用
い、吐出液と発泡液を別液体とした場合には、発泡液と
して前述のような性質の液体を用いればよく、具体的に
は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ
プロパノール、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オク
タン、トルエン、キシレン、二塩化メチレン、トリクレ
ン、フレオンTF、フレオンBF、エチルエーテル、ジ
オキサン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、
アセトン、メチルエチルケトン、水等およびこれらの混
合物が挙げられる。
【0157】吐出液としては、発泡性の有無、熱的性質
に関係なく様々な液体を用いることができる。また、従
来吐出が困難であった発泡性が低い液体、熱によって変
質、劣化しやすい液体や高粘度液体等であっても利用で
きる。
【0158】ただし、吐出液の性質として吐出液自身、
又は発泡液との反応によって、吐出や発泡また可動部材
の動作等を妨げるような液体でないことが望まれる。
【0159】記録用の吐出液体としては、高粘度インク
等をも利用することができる。その他の吐出液体として
は、熱に弱い医薬品や香水等の液体を利用することもで
きる。
【0160】本発明においては、吐出液と発泡液の両方
に用いることができる記録液体として以下のような組成
のインクを用いて記録を行ったが、吐出力の向上によっ
てインクの吐出速度が高くなったため、液滴の着弾精度
が向上し非常に良好な記録画像をことができる。
【0161】 染料インク(粘度2cP)の組成 (C.I.フードブラック2)染料 3重量% ジエチレングリコール 10重量% チオジグリコール 5重量% エタノール 5重量% 水 77重量% また、発泡液と吐出液に以下で示すような組成の液体を
組み合わせて吐出させて記録を行った。その結果、従来
のヘッドでは吐出が困難であった十数cP粘度の液体は
もちろん150cPという非常に高い粘度の液体で良好
に吐出でき、高画質な記録物を得ることができた。
【0162】 発泡液1の組成 エタノール 40重量% 水 60重量% 発泡液2の組成 水 100重量% 発泡液3の組成 イソプロピルアルコール 10重量% 水 90重量% 吐出液1顔料インク(粘度約15cP)の組成 カーボンブラック 5重量% スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体 1重量% (酸価140、重量平均分子量8000) モノエタノールアミン 0.25重量% グリセリン 69重量% チオジグリコール 5重量% エタノール 3重量% 水 16.75重量% 吐出液2(粘度55cP)の組成 ポリエチレングリコール200 100重量% 吐出液3(粘度150cP)の組成 ポリエチレングリコール600 100重量% ところで、前述したような従来吐出されにくいとされて
いた液体の場合には、吐出速度が低いために、吐出方向
性のバラツキが助長され記録紙上のドットの着弾精度が
悪く、また吐出不安定による吐出量のバラツキが生じ、
これらのことで高品位画像が得られにくかった。しか
し、上述の実施例の構成においては、気泡の発生を発泡
液を用いることで充分に、しかも安定して行うことがで
きる。このことで、液滴の着弾精度の向上とインク吐出
量の安定化を図ることができ、記録画像品位を著しく向
上させることができた。 (2流路構成のヘッド構造)図22は、本発明の液体吐
出ヘッドの内2流路構成のヘッドの全体構造を示した分
解斜視図である。
【0163】アルミ等の支持体70上に前述の素子基板
1が配されている。この上に第2液流路16の壁16a
および第2共通液室17の壁17aが設けられており、
その上に可動部材31を有する分離壁30が設けられて
いる。さらに、この分離壁30の上に第1液流路14を
構成する複数の溝、第1共通液室15、この第1共通液
室15に第1の液体を供給するための供給路20および
第2共通液室17に第2の液体を供給するための供給路
21が設けられた溝付き部材50が設けられており、こ
のような構成によって2流路の液体吐出ヘッドを構成し
ている。 (液体吐出ヘッドカートリッジ)次に、上記実施形態例
に係る液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出ヘッドカート
リッジを概略説明する。
【0164】図23は、前述した液体吐出ヘッドを含む
液体吐出ヘッドカートリッジの模式的分解斜視図であ
り、液体吐出ヘッドカートリッジは、主に液体吐出ヘッ
ド部200と液体容器90とから概略構成されている。
【0165】液体吐出ヘッド部200は、素子基板1、
分離壁30、溝付部材50、押さえバネ60、液体供給
部材80、支持体70等から成っている。素子基板1に
は、前述のように発泡液に熱を与えるための発熱抵抗体
が、複数個、列状に設けられており、また、この発熱抵
抗体を選択的に駆動するための機能素子が複数設けられ
ている。この素子基板1と可動壁を持つ前述の分離壁3
0との間に発泡液路が形成され発泡液が流通する。この
分離壁30と溝付部材50との接合によって、吐出され
る吐出液体が流通する吐出流路(不図示)が形成され
る。
【0166】押さえバネ60は、溝付部材50に素子基
板1方向への付勢力を作用させる部材であり、この付勢
力により素子基板1、分離壁30、溝付部材50と、後
述する支持体70とを良好に一体化させている。
【0167】支持体70は、素子基板1等を支持するた
めのものであり、この支持体70上にはさらに素子基板
1に接続し電気信号を供給するための回路基板71や、
装置側と接続することで装置側と電気信号のやりとりを
行うためのコンタクトパッド72が配置されている。
【0168】液体容器90は、液体吐出ヘッドに供給さ
れる、インク等の吐出液体と気泡を発生させるための発
泡液とを内部に区分収容している。液体容器90の外側
には、液体吐出ヘッドと液体容器との接続を行う接続部
材を配置するための位置決め部94と接続部を固定する
ための固定軸95が設けられている。吐出液体の供給
は、液体容器の吐出液体供給路92から接続部材の供給
路を介して液体供給部材80の吐出液体供給路81に供
給され、各部材の吐出液体供給路83,61,20を介
して第1の共通液室に供給される。発泡液も同様に、液
体容器の供給路93から接続部材の供給路を介して液体
供給部材80の発泡液供給路82に供給され、各部材の
発泡液体供給路84,61,21を介して第2液室に供
給される。
【0169】以上の液体吐出ヘッドカートリッジにおい
ては、発泡液と吐出液が異なる液体である場合も、供給
を行いうる供給形態および液体容器で説明したが、吐出
液体と発泡液体とが同じである場合には、発泡液と吐出
液の供給経路および容器を分けなくてもよい。
【0170】なお、この液体容器には、各液体の消費後
に液体を再充填して使用してもよい。このためには、液
体容器に液体注入口を設けておくことが望ましい。ま
た、液体吐出ヘッドと液体容器とは不可分一体であって
もよく、分離可能としてもよい。 (液体吐出装置)図24は、前述の液体吐出ヘッドを搭
載した液体吐出装置の概略構成を示している。本実施例
では、特に吐出液体としてインクを用いたインク吐出記
録装置を用いて説明する。液体吐出装置のキャリッジH
Cは、インクを収容する液体タンク部90と、液体吐出
ヘッド部200とが着脱可能なヘッドカートリッジを搭
載しており、被記録媒体搬送手段で搬送される記録紙等
の被記録媒体150の幅方向に往復移動する。
【0171】不図示の駆動信号供給手段からキャリッジ
上の液体吐出手段に駆動信号が供給されると、この信号
に応じて液体吐出ヘッドから被記録媒体に対して記録媒
体が吐出される。
【0172】また、本実施例の液体吐出装置において
は、被記録媒体搬送手段とキャリッジを駆動するための
駆動源としてのモータ111、駆動源からの動力をキャ
リッジに伝えるためのギア112、113、キャリッジ
軸115等を有している。この記録装置およびこの記録
装置で行う液体吐出方法によって、各種の被記録媒体に
対して液体を吐出することで良好な画像の記録物を得る
ことができた。
【0173】図25は、本発明の液体吐出方法および液
体吐出ヘッドを適用したインク吐出装置を動作させるた
めの装置全体のブロック図である。
【0174】記録装置は、ホストコンピュータ300よ
り印字情報を制御信号として受ける。印字情報は印字装
置内部の入力インタフェイス301に一時保存されると
同時に、記録装置内で処理可能なデータに変換され、ヘ
ッド駆動信号供給手段を兼ねるCPU302に入力され
る。CPU302はROM303に保存されている制御
プログラムに基づき、前記CPU302に入力されたデ
ータをRAM304等の周辺ユニットを用いて処理し、
印字するデータ(画像データ)に変換する。
【0175】また、CPU302は前記画像データを記
録用紙上の適当な位置に記録するために、画像データに
同期して記録用紙および記録ヘッドを移動する駆動用モ
ータを駆動するための駆動データを作る。画像データお
よびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ307
と、モータドライバ305を介し、ヘッド200および
駆動モータ306に伝達され、それぞれ制御されたタイ
ミングで駆動され画像を形成する。
【0176】上述のような記録装置に適用でき、インク
等の液体の付与が行われる被記録媒体としては、各種の
紙やOHPシート、コンパクトディスクや装飾板等に用
いられるプラスチック材、布帛、アルミニウムや銅等の
金属材、牛皮、豚皮、人工皮革等の皮革材、木、合板等
の木材、竹材、タイル等のセラミックス材、スポンジ等
の三次元構造体等を対象とすることができる。
【0177】また、上述の記録装置として、各種の紙や
OHPシート等に対して記録を行うプリンタ装置、コン
パクトディスク等のプラスチック材に記録を行うプラス
チック用記録装置、金属板に記録を行う金属用記録装
置、皮革に記録を行う皮革用記録装置、木材に記録を行
う木材用記録装置、セラミックス材に記録を行うセラミ
ックス用記録装置、スポンジ等の三次元網状構造体に対
して記録を行う記録装置、また布帛に記録を行う捺染装
置等をも含むものである。
【0178】またこれらの液体吐出装置に用いる吐出液
としては、それぞれの被記録媒体や記録条件に合わせた
液体を用いればよい。 (記録システム)次に、本発明の液体吐出ヘッドを記録
ヘッドとして用い、被記録媒体に対して記録を行う、イ
ンクジェット記録システムの一例を説明する。
【0179】図26は、前述した本発明の液体吐出ヘッ
ド201を用いたインクジェット記録システムの構成を
説明するための模式図である。本実施例における液体吐
出ヘッドは、被記録媒体150の記録可能幅に対応した
長さに360dpiの間隔で吐出口を複数配したフルラ
イン型のヘッドであり、イエロー(Y),マゼンタ
(M),シアン(C),ブラック(Bk)の4色に対応
した4つのヘッドをホルダ1202によりX方向に所定
の間隔を持って互いに平行に固定支持されている。
【0180】これらのヘッドに対してそれぞれ駆動信号
供給手段を構成するヘッドドライバ307から信号が供
給され、この信号に基づいて各ヘッドの駆動が成され
る。
【0181】各ヘッドには、吐出液としてY,M,C,
Bkの4色のインクがそれぞれ204a〜204dのイ
ンク容器から供給されている。なお、符号204eは発
泡液が蓄えられた発泡液容器であり、この容器から各ヘ
ッドに発泡液が供給される構成になっている。
【0182】また、各ヘッドの下方には、内部にスポン
ジ等のインク吸収部材が配されたヘッドキャップ203
a〜203dが設けられており、非記録時に各ヘッドの
吐出口を覆うことでヘッドの保守を成すことができる。
【0183】符号206は、先の各実施例で説明したよ
うな各種、非記録媒体を搬送するための搬送手段を構成
する搬送ベルトである。搬送ベルト206は、各種ロー
ラにより所定の経路に引き回されており、モータドライ
バ305に接続された駆動用ローラにより駆動される。
【0184】本実施例のインクジェット記録システムに
おいては、記録を行う前後に被記録媒体に対して各種の
処理を行う前処理装置251および後処理装置252を
それぞれ被記録媒体搬送経路の上流と下流に設けてい
る。
【0185】前処理と後処理は、記録を行う被記録媒体
の種類やインクの種類に応じて、その処理内容が異なる
が、例えば、金属、プラスチック、セラミックス等の被
記録媒体に対しては、前処理として、紫外線とオゾンの
照射を行い、その表面を活性化することでインクの付着
性の向上を図ることができる。また、プラスチック等の
静電気を生じやすい被記録媒体においては、静電気によ
ってその表面にごみが付着しやすく、このごみによって
良好な記録が妨げられる場合がある。このため、前処理
としてイオナイザ装置を用い被記録媒体の静電気を除去
することで、被記録媒体からごみの除去を行うとよい。
また、被記録媒体として布帛を用いる場合には、滲み防
止、先着率の向上等の観点から布帛にアルカリ性物質、
水溶性物質、合成高分子、水溶性金属塩、尿素およびチ
オ尿素から選択される物質を付与する処理を前処理とし
て行えばよい。前処理としては、これらに限らず、被記
録媒体の温度を記録に適切な温度にする処理等であって
もよい。
【0186】一方、後処理は、インクが付与された被記
録媒体に対して熱処理、紫外線照射等によるインクの定
着を促進する定着処理や、前処理で付与し未反応で残っ
た処理剤を洗浄する処理等を行うものである。
【0187】なお、本実施例では、ヘッドとしてフルラ
インヘッドを用いて説明したが、これに限らず、前述し
たような小型のヘッドを被記録媒体の幅方向に搬送して
記録を行う形態のものであってもよい。 [ヘッドキット]以下に、本発明のインクジェットヘッ
ドを有するインクジェットヘッドキットを説明する。図
27は、このようなインクジェットヘッドキットを示し
た模式図であり、このインクジェットヘッドキットは、
インクを吐出するインク吐出部511を有する本発明の
インクジェットヘッド510と、このヘッドと不可分も
しくは分離可能な液体容器であるインク容器520と、
このインク容器にインクを充填するためのインクを保持
したインク充填手段とを、キット容器501内に納めた
ものである。
【0188】インクを消費し終わった場合には、インク
容器の大気連通口521やインクジェットヘッドとの接
続部や、もしくはインク容器の壁に開けた穴などに、イ
ンク充填手段の挿入部(注射針等)531の一部を挿入
し、この挿入部を介してインク充填手段内のインクをイ
ンク容器内に充填すればよい。
【0189】このように、本発明のインクジェットヘッ
ドと、インク容器やインク充填手段等を一つのキット容
器内に納めてキットにすることで、インクが消費されて
しまっても前述のようにすぐに、また容易にインクをイ
ンク容器内に充填することができ、記録の開始を迅速に
行うことができる。
【0190】なお、本実施例のインクジェットヘッドキ
ットでは、インク充填手段が含まれるもので説明を行っ
たが、インクジェットヘッドキットとしては、インク充
填手段を持たず、インクが充填された分離可能タイプの
インク容器とヘッドとがキット容器510内に納められ
ている形態のものであってもよい。
【0191】また、図27では、インク容器に対してイ
ンクを充填するインク充填手段のみを示しているが、イ
ンク容器の他に発泡液を発泡液容器に充填するための発
泡液充填手段をキット容器内に納めた形態のものであっ
てもよい。
【0192】
【発明の効果】本発明においては、特に可動部材の自由
端領域が第1の位置からさらに気泡発生領域に入り込む
ような下方への変位を抑制する手段を有しているため、
過剰な可動部材の下方変位を規制することができ、可動
部材の耐久性をさらに向上させることができる。また、
吐出液と発泡液とを別液体として用いる場合にも、2つ
の液体の混液をより確実に防止することができる。
【0193】上述したような、可動部材を用いる新規な
吐出原理に基づく本発明の液体吐出方法、ヘッド等によ
ると、発生する気泡とこれによって変位する可動部材と
の相乗効果を得ることができ、吐出口近傍の液体を効率
よく吐出できるため、従来のバブルジェット(登録商
標)方式の吐出方法、ヘッド等に比べて吐出効率を向上
できる。
【0194】また、本発明の特徴的な構成によれば、低
温や低湿で長期放置を行った場合であっても不吐出にな
ることを防止でき、仮に不吐出になっても予備吐出や吸
引回復といった回復処理をわずかに行うだけで正常状態
に即座に復帰できる利点もある。これに伴い、回復時間
の短縮や回復による液体の損失を低減でき、ランニング
コストも大幅に下げることが可能である。
【0195】また、特に本発明のリフィル特性を向上し
た構成によれば、連続吐出時の応答性、気泡の安定成
長、液滴の安定化を達成して、高速液体吐出による高速
記録また高画質記録を可能にすることができた。
【0196】また、2流路構成のヘッドにおいて発泡液
として、発泡しやすい液体や、発熱体上への堆積物(こ
げ等)が生じにくい液体を用いることで、吐出液の選択
の自由度が高くなり、発泡が生じにくい高粘性液体、発
熱体上に堆積物を生じやすい液体、さらに熱に弱い液体
等、従来のバブルジェット(登録商標)吐出方法で吐出
することが困難であった液体についても良好に吐出する
ことができた。
【0197】また、本発明の液体吐出ヘッドを記録用の
液体吐出記録ヘッドとして用いることで、さらに高画質
な記録を達成することができた。
【0198】また、本発明の液体吐出ヘッドを用い、液
体の吐出効率等がさらに向上した液体吐出装置や記録シ
ステム等を提供することができた。
【0199】また、本発明のヘッドカートリッジやヘッ
ドキットを用いることで、ヘッドの利用、再利用を容易
に成すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(d)は、本発明に適用できる液体吐
出ヘッドの一例を用いて吐出原理を説明するための模式
断面図である。
【図2】図1(a)〜(d)に示した液体吐出ヘッドの
部分破断斜視図である。
【図3】従来の液体吐出ヘッドにおける気泡からの圧力
伝搬を示す模式断面図である。
【図4】本発明に適用できる吐出原理における気泡から
の圧力伝搬を示す模式断面図である。
【図5】本発明に適用できる液体の流れを説明するため
の模式断面図である。
【図6】本発明の液体吐出ヘッドの第1の実施例を示す
部分破断斜視図である。
【図7】(a)〜(d)は、図6の液体吐出ヘッドの液
流路を気泡発生領域を通る位置で切断し、それぞれ動作
順に示した断面模式図である。
【図8】(a)〜(c)は、本発明の液体吐出ヘッドの
第2の実施例における流路の模式的構成を説明するため
のもので、(a)は第1の液流路、可動部材、および第
2の液流路との配置関係を説明するための平面図、
(b)は(a)のVA−VA1線に沿う断面図、(c)
は(a)のVB−VB1線に沿う断面図である。
【図9】(a)および(b)は、本発明の液体吐出ヘッ
ドの第3の実施例の図であって、(a)は、上述の第1
の液流路、可動部材、および第2の液流路との配置関係
を説明するための平面図であり、(b)は(a)のIV−
IV1線に沿う断面図である。
【図10】(a)および(b)は、本発明の液体吐出ヘ
ッドの第4の実施例の図であって、(a)は、可動部
材、第2液流路、発熱体の配置関係を示した平面図であ
り、(b)は(a)のA−A´断面図である。
【図11】本発明の液体吐出ヘッドの第4の実施例の図
であって、図10におけるB−B´方向での断面図であ
る。
【図12】(a)および(b)は、本発明の液体吐出ヘ
ッドの第5の実施例における流路の模式的構成を説明す
るための幅方向断面図で、(a)は駆動パルスONでも
って可動部材が変位する場合、(b)は駆動パルスOF
Fでもって可動部材が変位した位置から自然位置へ復帰
する場合を示す。
【図13】(a)および(b)は、本発明の液体吐出ヘ
ッドに係る流路の模式的構成を説明するための参考例と
しての幅方向断面図で、(a)は発熱体2に駆動パルス
ONが加えられて可動部材が第1の液流路側に変位し始
める場合、(b)は駆動パルスがOFFとなって可動部
材が変位した位置から第1位置へ復帰した場合を示す。
【図14】本発明の液体吐出ヘッドの第6の実施例にお
ける流路の模式的構成を説明するための長手方向断面図
である。
【図15】本発明の液体吐出ヘッドの第7の実施例にお
ける流路の模式的構成を説明するための平面模式図であ
る。
【図16】本発明の液体吐出ヘッドの第8の実施例にお
ける流路の模式的構成を説明するための平面模式図であ
る。
【図17】本発明の液体吐出ヘッドの実施例における可
動部材に対する第2液流路のストッパ構造を示す断面図
である。
【図18】(a)〜(c)は、可動部材と第2液流路と
の配置関係を説明するための図であり、同図(a)は分
離壁、可動部材近傍を上方から視た図であり、(b)は
分離壁を外した第2液流路を上方から視た図である。そ
して、(c)は可動部材と第2液流路との配置関係を、
これらの各要素を重ねることで模式的に示した図であ
る。
【図19】(a)〜(c)は、それぞれ可動部材の他の
形状を説明するための平面図である。
【図20】(a)および(b)は、それぞれ本発明の液
体吐出ヘッドの要部を説明するための縦断面図である。
【図21】駆動パルスの形状を示す模式図である。
【図22】本発明の液体吐出ヘッドの主要構成を説明す
るための模式的分解斜視図である。
【図23】本発明の液体吐出ヘッドを搭載したヘッドカ
ートリッジを説明するための模式的分解斜視図である。
【図24】本発明の液体吐出ヘッドを搭載できる液体吐
出装置の一例を示す概略斜視図である。
【図25】本発明の液体吐出ヘッドを搭載できる液体吐
出装置を駆動するための装置ブロック図である。
【図26】本発明の液体吐出ヘッドを用いたインクジェ
ット記録システムの構成を説明するための模式的斜視図
である。
【図27】本発明の液体吐出ヘッドを有するヘッドキッ
トを示す模式図である。
【図28】従来の液体吐出ヘッドの液流路構造を説明す
るための図であって、(a)は斜視図であり、(b)は
断面図である。
【符号の説明】
1 素子基板 2 発熱体 3 面積中心 10 液流路 11 気泡発生領域 12 供給路 13 共通液室 14 第1液流路 15 第1共通液室 16 第2液流路 17 第2共通液室 18 吐出口 19 狭窄部 20 第1供給路 21 第2供給路 22 第1液流路壁 23 第2液流路壁 24 凸部 30 分離壁 31 可動部材 32 自由端 33 支点 34 支持部材 35 スリット 36 気泡発生領域側壁 37 気泡発生領域前壁 40 気泡 45 液滴 50 溝付き部材 51 オリフィスプレート 60 ばね 70 支持体 80 供給部材
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 池田 雅実 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (72)発明者 樫野 俊雄 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (72)発明者 岡崎 猛史 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (72)発明者 吉平 文 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (72)発明者 工藤 清光 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (56)参考文献 特開 平6−71887(JP,A) 特開 平6−210872(JP,A) 特開 平6−31918(JP,A) 特開 平2−113950(JP,A) 特開 平6−246926(JP,A) 実開 平2−133341(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B41J 2/05

Claims (14)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 液体を吐出する吐出口と、液体に気泡を
    発生させるための発熱体が配された気泡発生領域と、前
    記発熱体と距離を隔てて前記気泡発生領域に面して配さ
    れ、自由端と支点を備えた可動部材と、を有し、前記気
    泡発生領域での気泡の発生に基づく圧力によって前記可
    動部材を変位させ、該可動部材の変位によって液体を前
    記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドであって、気泡が
    発生する前の前記可動部材の位置を第1の位置としたと
    き、前記可動部材の少なくとも自由端領域が接すること
    で、前記可動部材の前記自由端領域が前記第1の位置を
    越えて前記気泡発生領域に変位することを規制する規制
    手段を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
  2. 【請求項2】 吐出口に連通した第1の液流路と、液体
    に熱を加えることで該液体に気泡を発生させるための発
    熱体が配された気泡発生領域を有する第2の液流路と、
    前記第1の液流路と前記気泡発生領域との間に前記発熱
    体と距離を隔てて配され、吐出口間に自由端を有し、前
    記気泡発生領域内での気泡の発生による圧力に基づいて
    該自由端を前記第1の液流路側に変位させて前記圧力を
    前記第1の液流路の吐出口側に導く可動部材と、前記可
    動部材の少なくとも自由端領域が接することで、前記可
    動部材の前記自由端領域が前記気泡発生領域に変位する
    ことを規制する規制手段と、を有することを特徴とする
    液体吐出ヘッド。
  3. 【請求項3】 請求項2記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記可動部材は前記第1の液流路と前記第2の液流
    路との間に配された分離壁の一部として構成されてお
    り、前記可動部材以外の分離壁の少なくとも一部が前記
    可動部材の自由端領域の下方変位を規制する規制手段を
    兼ねていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記分離壁の少なくとも一部には前記可動部材の側
    端部が接することを特徴とする液体吐出ヘッド。
  5. 【請求項5】 請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド
    において、前記規制手段は、前記可動部材の気泡発生領
    域への下方変位を、前記可動部材の自由端領域に物理的
    に係合することで行う手段であることを特徴とする液体
    吐出ヘッド。
  6. 【請求項6】 請求項5記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記可動部材の前記自由端領域が密閉状態であるこ
    とを特徴とする液体吐出ヘッド。
  7. 【請求項7】 請求項5記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記可動部材の前記側端部が密閉状態であることを
    特徴とする液体吐出ヘッド。
  8. 【請求項8】 請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド
    において、前記規制手段は、前記可動部材の前記自由端
    を含む自由端領域の移動を規制する手段であることを特
    徴とする液体吐出ヘッド。
  9. 【請求項9】 請求項2記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記規制手段は前記第2の液流路を構成する壁であ
    ることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  10. 【請求項10】 請求項9記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記壁は第2の液流路を構成する側壁であることを
    特徴とする液体吐出ヘッド。
  11. 【請求項11】 請求項9記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記壁の一部もしくは、前記可動部材の前記壁と接
    する少なくとも一部の何れかが粗面になっていることを
    特徴とする液体吐出ヘッド。
  12. 【請求項12】 請求項9記載の液体吐出ヘッドにおい
    て、前記壁の前記可動部材と対向した部分に凸部が形成
    されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  13. 【請求項13】 請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッ
    ドにおいて、前記可動部材の横断面形状は台形であるこ
    とを特徴とする液体吐出ヘッド。
  14. 【請求項14】 請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッ
    ドにおいて、自由端が変位する位置近傍の流抵抗が、前
    記支点近傍の流抵抗より低いことを特徴とする液体吐出
    ヘッド。
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