JP4194230B2 - 液体吐出方法、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置 - Google Patents

液体吐出方法、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱エネルギーを液体に作用させることで起こる気泡の発生によって、所望の液体を吐出する液体吐出方法と、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関し、特に気泡の発生を利用して変位する可動部材を用いた液体吐出方法、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関する。
【0002】
また、本発明は、紙、糸、繊維、布、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対し記録を行うプリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置に適用できる発明である。
【0003】
なお、本発明における記録とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を付与することをも意味する。
【0004】
【従来の技術】
熱等のエネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化を伴う状態変化(気泡の発生)を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行なうインクジェット記録方法、いわゆるバブルジェット記録方法が従来知られている。このバブルジェット記録方法を用いる記録装置には、米国特許第4,723,129号等の公報に開示されているように、インクを吐出するための吐出口と、この吐出口に連通するインク流路と、インク流路内に配されたインクを吐出するためのエネルギー発生手段としての電気熱変換体とが一般的に配されている。
【0005】
この様な記録方法によれば、品位の高い画像を高速、低騒音で記録することができると共に、この記録方法を行うヘッドではインクを吐出するための吐出口を高密度に配置することができるため、小型の装置で高解像度の記録画像、さらにカラー画像をも容易に得ることができるという多くの優れた点を有している。このため、このバブルジェット記録方法は近年、プリンター、複写機、ファクシミリ等の多くのオフィス機器に利用されており、さらに、捺染装置等の建築用システムにまで利用されるようになってきている。
【0006】
このようにバブルジェット技術が多方面の製品に利用されるに従って、次のような様々な要求が近年さらに高まっている。
【0007】
高画質な画像を得るために、インクの吐出スピードが速く、安定した気泡発生に基づく良好なインク吐出を行える液体吐出方法等を与えるための駆動条件が提案されたり、また、高速記録の観点から、吐出された液体の液流路内への充填(リフィル)速度の速い液体吐出ヘッドを得るために流路形状を改良したものが提案されている。
【0008】
このようなヘッドの他にも、気泡の発生に伴って発生するバック波(吐出口へ向かう方向とは逆の方向へ向かう圧力)に着目し、インクを吐出させる過程において損失エネルギーになるバック波の発生を抑える構造の発明が特開平6−31918号公報(特に同公報の第3図)に開示されている。この公報に記載の発明による液体吐出ヘッドは、三角形状の板状部材の三角形部分を気泡を発生するヒーターに対して対向させて配置したものである。この発明の液体吐出ヘッドでは、板状部材によってバック波を一時的に且つわずかには抑えられる。しかし、気泡の成長と三角形部分との相関関係については全く触れていないし、その着想もない。このため、この発明は以下の問題点を含んでいる。
【0009】
すなわち、上記公報に記載の発明による液体吐出ヘッドでは、ヒータが凹部の底に位置しており吐出口との直線的連通状態をとれないため、液滴形が安定せず、さらに三角形の頂点の部分の周辺からの気泡の成長が許容されているため、気泡は三角形の板状部材の片側から反対側全体まで成長し、結果的に板状部材が存在していないかのように液中における通常の気泡の成長が完成してしまう。従って、成長した気泡に対して板状部材の存在はほとんど無意味なものとなってしまう。逆に、板状部材の全体が気泡に囲まれるために、気泡の収縮段階において凹部に位置するヒーターへのリフィル時のインクの流れに板状部材が乱流を生じせしめ、その凹部内に微小気泡を蓄積する原因となり、この気泡が体積変化を吸収してしまうなど、成長気泡に基づいて吐出を行う原理自体を乱すことになってしまう。
【0010】
他方、EP公開公報EP436047Alは、吐出口近傍域と気泡発生部との間にこれらを遮断する第1弁と、気泡発生部とインク供給部との間にこれらを完全に遮断する第2弁とを配し、この2つの弁を交互に開閉させる発明を提案している(EP436047A1の第4〜9図)。しかし、この発明による液体吐出ヘッドは2つの弁によって遮断された3つの部屋を、弁の開閉の各過程でそれぞれ2つづつに区分してしまうために、吐出時には液滴に追従するインクが大きな尾を引くこととなり、気泡成長・収縮・消泡を行う通常の吐出方式に比べてサテライトドット(吐出インクの尾部分の被記録媒体への付着による形成画像)がかなり多くなってしまう(消泡によるメニスカス後退の効果を使えないと推定される)。また、リフィル時は気泡発生部に液体が消泡に伴って供給されるが、吐出口近傍域には次の発泡が生じるまで液体は供拾できないので、吐出液滴の大きさのばらつきが大きいだけでなく、吐出応答周波数が極めて小さく、実用的ではない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述の従来技術とはまったく異なり液滴の吐出に関し有効に貢献できる可動部材(自由端を支点よりも吐出口側に有する板状部材等)を用いた発明が、数多く提案されている。その発明のうち、特開平9−48127号公報は上述した可動部材の挙動がわずかに乱れることを防止すべく、可動部材の変位の上限を規制する発明を開示している。また、特開平9−323420号公報は、上記可動部材に対して、上流における共通液室の位置を、上記可動部材の利点を利用して可動部材の自由端側、つまり下流側にシフトさせてリフィル能力を高める発明を開示している。これらは、発明が生み出される前提の想定に、気泡の成長を可動部材で一時的に包み込んだ状態から一気に吐出口側に開放する形態を採っていたため、気泡全体が液滴形成に関わる個々の要素や、それらの相関関係については注目されていない。
【0012】
次の段階として、特開平10−24588号公報にて、液体吐出に関わる要素として圧力波(音響波)伝播による気泡成長に注目した発明として、気泡発生領域の一部を上記可動部材から開放する発明を開示している。しかしながら、この発明においても液体吐出時の気泡の成長のみに着目しているため、気泡全体が液滴自体の形成に係わる個々の要素や、それらの相関関係について注目されていない。
【0013】
従来から知られているエッジシューター型の液体吐出ヘッド(ヒーター形成面に平行な方向に吐出口が形成されているヘッド)において、膜沸騰による気泡の前方部分(吐出口側の部分)が吐出に大さな影響を与えることは知られているものの、この部分をより効率よく吐出液滴の形成に貢献せしめることについて従来着目したものはなく、本発明はこれらの技術的解明をすべく鋭意研究を行ったものである。
【0014】
また、従来、吐出量を変調したり、多値階調記録を行うとする場合、複数の発熱体を選択的に駆動することによって行うものが主であったが、この場合、複数の発熱体を設けることは各発熱体の位置をそれぞれ最適の位置に設けることが困難であったり、また、ヘッドの小型化を妨げたりしていた。
【0015】
そこで、、本発明は、この吐出液滴形成という観点から、気泡の発生から消泡にいたる経過をより詳細に解析することで、数多くの発明が生まれた中の一つであって、多値階調記録を実現し、連続吐出動作における画像品位の安定性を達成するという従来の技術水準に比べ極めて高い水準に至ったものである。本発明の主たる目的は以下の通りである。
【0016】
本発明の第1の目的は、発生した気泡とその吐出口側の液体及び供給側の液体を可動部材と液流路全体の構造とによって抑制することで、極めて新規な液体吐出原理を提供することにある。
【0017】
本発明の第2の目的は、連続吐出において複数の吐出液滴を合体させて被記録媒体上に着弾させ、これにより、同一ノズルから吐出される液滴の吐出量を制御することを可能とし、多値階調記録を実現することにある。
【0018】
本発明の第3の目的は、高速化と高画質化を両立させた液体記録装置を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、液流路中の液体を加熱して該液体中に気泡を発生させて成長させ、前記液流路中に設けられている一端支持の片持ち梁状の可動部材を前記気泡の成長に伴って初期状態から変位させ、前記液流路の上流側への液体の流れ及び気泡の成長を抑制し、前記気泡の成長に伴う圧力によって前記液流路の下流側に連通する吐出口から前記液体を吐出し、前記液滴吐出後、前記気泡の消泡に伴って、可動部材が変位状態から前記初期状態に復帰する液体吐出方法であって、同一の前記液流路から連続的に液体吐出を行なう場合には、先の液体吐出後に前記変位状態から復帰する前記可動部材の振動が完全に収束してしまう前であって、前記可動部材が前記変位状態に向う方向に変位している最中に、次の液体吐出のための前記液体の加熱を開始し、同一の前記吐出口から連続的に複数の液滴を吐出する場合、2回目以降の発泡開始時点の前記可動部材は変位状態にあり、発泡開始時点の前記可動部材の変位量 ( 初期状態から変位状態に至る前記可動部材の移動量 ) は、前回の発泡開始時点の前記可動部材の変位量よりも大きく、前記複数の液滴は前記被記録媒体上に着弾する以前に合体して一つの液滴を形成することを特徴とする。
【0021】
また、連続的に吐出される液滴において、後の液滴の吐出速度は、前の前記液滴の吐出速度よりも大きいことを特徴とする。前記液流路中に発熱体が設けられており、該発熱体を駆動することにより前記液体の加熱を行なうことが好ましい。そしてこの場合、前記発熱体が電気熱変換体であり、該電気熱変換体に駆動パルスを供給することにより前記液体の加熱を行なってもよい。
【0022】
また、本発明の液体吐出装置は、前記した液体吐出ヘッドと、該液体吐出ヘッドから吐出された液体を受ける被記録媒体を搬送する被記録媒体搬送手段とを備えている。そして、前記液体吐出ヘッドからインクを吐出し、被記録媒体にインクを付着させることで記録を行う。
【0023】
なお、本発明の説明で用いる上流、下流とは、液体の供給源から気泡発生領域(又は可動部材)を経て、吐出口へ向かう液体の流れ方向に関して、又はこの構成上の方向に関しての表現として表されている。
【0024】
また、気泡自体に関する下流側とは、気泡の中心に対して、上記流れ方向や上記構成上の方向に関する下流側、又は、発熱体の面積中心より下流側の領域で発生する気泡を意味する。同様に、気泡自体に関する上流側とは気泡の中心に対して、上記流れ方向や上記構成上の方向に関する上流側、又は、発熱体の面積中心より上流側の領域で発生する気泡を意味する。
【0025】
また本発明で用いる可動部材と規制部との実質約な接触とは両者の間に数μm程度の液体が介在した近接状態であっても、直接接触した状態であってもよい。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1,2は本発明の1つの実施の形態による液体吐出ヘッドを液流路方向で切断した断面図で示すとともに、液流路内の特徴的な現象を図1(a)〜(f)、図2(g)〜(l)の工程に分けて示したものである。
【0028】
本実施形態の液体吐出ヘッドでは、液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子として、液体に熱エネルギーを付与する発熱体2が平滑な素子基板1に設けられており、素子基板1上に発熱体2に対応して液流路10が配されている。液流路10は吐出口18に連通していると共に、複数の液流路10に液体を供給するための共通液室13に連通しており、吐出口18から吐出された液体に見合う量の液体をこの共通液室13から受け取る。液流路10に充填された液体のメニスカスMは、吐出口18及びそれに連通する液流路10の内壁によって発生する毛細管力によって通常負圧である共通液室13の内圧に対して、吐出口18近傍でつり合っている。
【0029】
液流路10は、発熱体2を備えた素子基板1と天板50とが接合されることで構成されており、発熱体2と吐出液との接する面の近傍領域には、発熱体2が急速に加熱された際、吐出液に発泡を生じさせる気泡発生領域が存在する。この気泡発生領域を有する液流路10に、可動部材31が、少なくともその一部が発熱体2と対面するように配されている。この可動部材31は吐出口18に向かう下流側に自由端32を有すると共に、液流路10よりも上流側に配置された支持部材34に支持されている一端支持の片持ち梁状である。特に本実施形態では、上流側へのバック波及び液体の慣性力に影響する、気泡の上流側半分の成長を抑制するため、自由端32が気泡発生領域の(発熱体2の)中央付近に配されている。そして可動部材31は気泡発生領域で発生する気泡の成長に伴い、支持部材34に対して変位可能である。この変位をするときの支点33は、支持部材34における可動部材31の支持部の端部となっている。
【0030】
気泡発生領域の中央上方にはストッパ(規制部)64が位置していて、気泡の上流側半分の成長を抑制するために可動部材31の変位を一定の範囲に規制している。共通液室13から吐出口18への液体の流れにおいて、ストッパ64を境に上流側に、液流路10と比較して相対的に流路抵抗の低い低流路抵抗領域65が設けられている。この低流路抵抗領域65における流路構造は上壁がなかったり流路断面積が大きいことなどで、液の移動に対する流路から受ける抵抗を小さくしている。
【0031】
以上の構成により、変位した可動部材31によって、液流路の上流側への液体の流れ及び上流側への気泡の成長を抑制する特徴的なヘッド構造を提案している。次に、本実施形態の液体吐出ヘッドの吐出動作について詳しく説明する。図1,2には3連続吐出における1発目から3発目までの液体吐出と吐出した後の液滴が被記録媒体上に着弾する様子を示している。また、図3には、この際の気泡40の体積と可動部材31の変位量の変化を示している。
【0032】
図1(a)は、発熱体2に電気エネルギー等のエネルギーが印加される前の状態であり、発熱体2が熱を発生する前の状態を示す。ここで重要なことは、可動部材31が、発熱体2の発熱によって発生する気泡に対し、この気泡の上流側半分に対面する位置(初期状態)に設けられており、かつ、可動部材31の変位を規制するストッパ64が気泡発生領域の(発熱体2の)中央上方に設けられていることである。つまり、液流路構造と可動部材31の配置位置とは、気泡の上流側半分が可動部材31に押え込まれるようになっている。図3に示すように、時間T=0において発熱体2に電気パルスを印加すると、気泡発生領域内を満たす液体の一部が発熱体2によって加熱され、膜沸騰に伴う気泡40が発生し、時間とともに気泡40が成長して体積が大きくなる。なお、この時、可動部材31の反発力により、可動部材31の変位は気泡40の体積変化より遅れて始まる(図3に示すA時点)。
【0033】
気泡40が成長していくと、上流側すなわち共通液室13方向への液体の移動が生じ、この移動は低流路抵抗領域65があることによって大きな流れとなるが、可動部材31がストッパ64に接近または接触するまで変位すると、それ以上の変位が規制される(図3に示すB時点)ため、上流方向への液体の移動もそこで大きく抑制される。すなわち、この可動部材31が変位した状態では、液流路10の上流側(少なくとも気泡発生領域の中心よりも上流側)への流抵抗が増大し、液流路10とその上流に位置する共通液室13との間の液体および気泡の流通が大きく抑制される。これにより気泡40の上流側への成長も可動部材31で抑制される。しかしながら、上流方向への液体の移動力は大きいため、可動部材31は上流方向へ引っ張られる応力を大きく受けて撓んだ状態で保持され、この間に前記の通り気泡40が最大体積に成長する(図3のC時点)。
【0034】
図1(b)は、気泡発生領域11内の気泡が最大に成長した状態を示す。このとき、気泡40の発生に基づく圧力により液流路10内の液体が下流側及び上流側に移動し、上流側においては気泡40の成長により可動部材31が変位し、下流側においては吐出口18から第1の吐出液66aが飛び出そうとしている。
【0035】
本発明においては図4に示すように、気泡40の吐出口側の部分と吐出口との間は液流に対しまっすぐな流路構造を保っている「直線的連通状態」となっている。これは、より好ましくは、気泡の発生時に生じる圧力波の伝播方向とそれに伴う液体の流動方向と吐出方向とを直線的に一致させることで、吐出液滴66の吐出方向や吐出速度等の吐出状態をきわめて高いレベルで安定させるという理想状態を形成することが望ましい。
【0036】
本発明では、この理想状態を達成、または理想状態に近似した状態とするための一つの定義として、吐出口18と発熱体2、特に気泡40の吐出口18側に影響力を持つ発熱体2の吐出口側(下流側)とが直接直線で結ばれる構成としており、これは、液流路10内に液体がない状態であれば、吐出口18の外側から見て発熱体2、特に発熱体2の下流側を観察することが可能な状態である。
【0037】
その後、図1(c)に示すように、前述した膜沸騰の後に気泡40内部の負圧による力が液流路10内の下流側への液体の移動力に打ち勝って、気泡40の収縮が開始される。この時点では、可動部材31を介することによって生じた上流側と下流側の圧力差により、気泡40の成長による液体の上流方向への力が大きく残るため、気泡40の収縮開始後一定の間は可動部材31は未だストッパ64に接触した状態であり、気泡40の収縮の多くは吐出口18から上流方向への液体の移動を生じさせる。つまり、図1(b)に示した段階の直後は、変位した可動部材31とストッパ64との接触によって、液流路10の上流側の流抵抗が増大され、気泡40の収縮エネルギーは吐出口18近傍の液体を上流方向へ移動させる力として働く。したがって、メニスカスMはこの時点で吐出口18から液流路10内に引き込まれ、第1の吐出液滴66aと繋がっている液柱を強い力ですばやく切り離すことになる。その結果、図1(d)に示すように、吐出口18から第1の吐出液滴66aが吐出し、この時に吐出口18の外側にとり残されるもう1つの液滴すなわちサテライト(副滴)67が少なくなる。その直後より、可動部材が下方へ変位し始めると図1(d)のように上流側の液体は急速にリフィルされるため、メニスカスMの液流路10内への引き込みを最小限に抑えることが可能となる。本実施例では、吐出口から吐出された第1の吐出液滴66aの速度は10m/s、吐出量は6plであった。
【0038】
図1(d)には、消泡工程が終了し、発熱体2に第2発目の電気パルス印加が開始される直前の状態を示す。この状態は図3にのグラフに示す時間t=20μs時点での状態であり、可動部材31は図中D点で未だ変位状態にある。
【0039】
図1(e)には、気泡発生領域内で第2発目の気泡が最大に成長した状態を示す。このとき、気泡40の発生に基づく圧力により液流路10内の液体が下流側及び上流側に移動し、上流側においては気泡40の成長により可動部材31が変位し、下流側においては吐出口18から第2の吐出液滴66bが飛び出そうとしている。第2発目は発泡開始時には可動部材31が変位状態にあるため、気泡成長過程での液流路10内の上流側への液体の流れは第1発目の時より抑制され、液体の下流方向(吐出方向)への吐出エネルギーは増大される。本発明者の実験結果より、第2の吐出液滴66bの吐出速度は12.5m/s、吐出量は5plであった。
【0040】
図1(f)は、図1(c)で説明したものと同様の消泡過程を繰り返す様子を示す。
【0041】
図2(g)は、第2発目の消泡工程が終了し、発熱体2に第3発目の電気パルス印加が開始される直前の状態を示す。この時点において、図1(d)と同様に可動部材31が下方へ変位し始めると、上流側の液体は急速にリフィルされるため、メニスカスMの流路10内への引き込みを最小限に抑えることが可能である。この状態は図3のグラフに示す時間t=35μs時点での状態であり、可動部材31は図中のI点で未だ変位状態にある。この時点の可動部材31の変位量は、図3のD点とI点を比べて見て分るとおり、第2発目の発泡開始直前の可動部材31の変位量よりも大きい。
【0042】
図2(h)では、気泡発生領域内の第3発目の気泡が最大に成長した状態を示す。このとき、気泡40の発生に基づく圧力により液流路10内の液体が下流側及び上流側に移動し、上流側においては気泡40の成長により可動部材31が変位し、下流側においては吐出口18から第3の吐出液滴66cが飛び出そうとしている。第3発目の発泡開始時の可動部材31の変位量は第2発目の発泡開始時の可動部材31の変位量よりも大きいため、気泡成長過程での液流路10内の上流側への液体の流れは第2発目の時より更に抑制され、液体の下流方向(吐出方向)への吐出エネルギーは増大される。本発明者の実験結果より、第3の吐出液滴66cの吐出速度は14.5m/s、吐出量は5plであった。
【0043】
図2(i)は、図1(c),(f)で説明したものと同様の消泡過程を繰り返す様子を示す。
【0044】
図2(j)は、図1(d),図2(g)で説明したものと同様のリフィル過程を繰り返す様子を示しており、このリフィルによりメニスカスMの流路10内への引き込みを最小限に抑えることが可能である。
【0045】
図2(k)は、液滴66が3連続吐出された後、被記録媒体150に第1の吐出液滴66aが着弾する以前に、12.5m/sで飛翔する第2の吐出液滴66bが、10m/sで飛翔する第1発目の液滴に到達して合体し、第1と第2の合体吐出液滴66dとなる様子を示す。第1と第2の合体吐出液滴66dの量は11plとなる。
【0046】
図2(l)は、更に14.5m/sで飛翔する第3発目の液滴が図2(k)で合体した合体吐出液滴66dに到達して合体し、第1と第2と第3の合体吐出液滴66eとなる様子を示す。第1と第2と第3の合体吐出液滴66eの量は16plとなる。
【0047】
以上の3連続吐出の過程では、
第1の吐出液滴66aは、吐出速度10.0m/s、吐出量6pl、
第2の吐出液滴66bは、吐出速度12.5m/s、吐出量5pl、
第3の吐出液滴66cは、吐出速度14.5m/s、吐出量5pl、
となり、第2の吐出液滴66bは第1の吐出液滴66aより20μs、第3の吐出液滴66cは第1の吐出液滴66aより35μs遅れて吐出される。したがって、ヘッドの吐出口18先端から被記録媒体150までの距離が1.5mmであれば、第1の吐出液滴66aが被記録媒体150上に着弾する前に第2の吐出液滴66b 、第3の吐出液滴66cが第1の吐出液滴66aと合体することが可能である。
【0048】
ここで、第1の吐出液滴66aの量に比べ、第2の吐出液滴66bの量が少ないのは、第2発目の吐出を開始する際には、メニスカスMが液流路10内に少し引き込まれた状態となっており(図1(c)参照)、したがって、第1発目の吐出を行う際に比べ、第2発目の吐出を行う際には、発熱体2が作用する液体の量が少ないためである。前記のように、第1の吐出液滴66aに比べ、第2の吐出液滴66bに加わる吐出エネルギーが大きいことに加え、このように、第1の吐出液滴66aの量に比べ、第2の吐出液滴66bの量が少ないため、吐出速度は第2の吐出液滴のほうが速くなり、第1の吐出液滴66aに第2の吐出液滴66bが追いつくようにすることができる。
【0049】
これによって、同一吐出口18からの液体吐出で、単発、2連続吐出、3連続吐出のそれぞれに対応して、6pl、11pl、16plの4値の階調表現が可能となる。
【0050】
次に、本実施形態の更なる特徴的な効果について説明する。
【0051】
図5は図1,2に示したヘッドの一部分の透視斜視図であり、ノズルを透視して破線で示す以外は基本的に図1,2と同じヘッドの状態を示すものである。本実施形態では、液流路10を構成する壁の両側壁面と可動部材31の両側部には僅かながらにクリアランスが存在し、可動部材31のスムーズな変位を可能にしている。さらに、発熱体2による発泡の成長工程において、気泡40は可動部材31を変位させるとともに、前記クリアランスを介し可動部材31の上面側へ隆起して低流路抵抗領域65に若干侵入する。この侵入した隆起気泡41は可動部材31の背面(気泡発生領域と反対面)に回り込むことで可動部材31のブレを抑え、吐出特性を安定化する。
【0052】
更に、気泡40の消泡工程において、隆起気泡41が低流路抵抗領域65から気泡発生領域への液流を促進させ、前述した、吐出口18側からの高速なメニスカス引き込みと相まって、消泡をすみやかに完了させる。特に、隆起気泡41が引き起こす液流によって可動部材31や液流路10のコーナーに気泡が蓄留することがほとんどない。
【0053】
尚、本実施形態では、3個の液滴を吐出させて合体させ、4値の階調表現を行う場合について説明したが、2個の液滴を吐出させて3値の階調表現を行うようにしても、また、さらに多数の液滴を吐出させて多値の階調表現を行うようにしても良い。このようにして一つの吐出口から連続して吐出した滴を合体させて記録を行うことにより、吐出量のコントロールがしやすく、吐出方向も滴の量によらず安定し、また、サテライトの影響を低減できる。
【0054】
さらに、前述の実施形態においては、吐出液滴の大きさはすべてほぼ同一であったが、本発明はこれに限られるものではない。最初の滴とそれに連続する滴との量を異ならせて、階調表現を行う場合には、図15に示すように最初の滴の量はほぼ同一で、それに連続する滴の大きさを変えることが望ましい。なお、図15(a)は、最初の滴に連続する滴を可動部材31が下方(発熱体に接近する方向)変位中に発熱体2を駆動させて吐出することにより、最初の滴よりも吐出量を多くしたものであり、図15(b)は、最初の滴に連続する滴を可動部材31が上方(発熱体から離間する方向)変位中に発熱体2を駆動させて吐出することにより、最初の滴よりも吐出量を少なくしたものであり、さらに、図15(c)は、最初の滴に連続する滴を可動部材31が定常位置に戻った時に発熱体2を駆動させて吐出することにより、最初の滴とほぼ同量の吐出量としたものである。このように連続する滴の吐出量は最初の滴に続く滴を吐出するための駆動タイミングを変えることにより行うことが出来る。そして、このように吐出量を変調することにより、各滴を吐出する際の発泡状態を安定化させることが出来るため、滴の吐出量の誤差を少なくすることが出来る。
【0055】
さらに、本発明は、同じ吐出口から異なる吐出量を吐出する階調記録に限らず、例えばインクの種類によって吐出量を異ならせるようにする場合であっても適用可能である。この場合、同一の発熱体や可動部材を用いて吐出量を変えることが出来るため、発熱体基板のレイアウトを変えることなく対応することも出来、吐出量差も自由に設定可能である。
【0056】
以下、上述した液滴吐出方法を用いたヘッドに適用可能な他の実施形態を説明する。
【0057】
(その他の実施の形態)
<サイドシュータタイプ>
以下、本発明のその他の実施形態について図面を参照して説明する。
【0058】
ここでは、図1,2及び図3を用いて説明した液体吐出原理を、発熱体2と吐出口18が平行平面上で対向するサイドシユータタイプのヘッドに適用したものを説明する。図12はこのサイドシユータタイプの液体吐出ヘッドを説明するための図である。図12に示すようのこの液体吐出ヘッドには、素子基板1上の発熱体2と天板50に形成された吐出口18とが相対するように配設されている。吐出口18は発熱体2上を通る液流路10と連通している。発熱体2と液体との接する面の近傍領域には気泡発生領域が存在する。そして素子基板1上に2つの可動部材31が支持されており、各々の可動部材31は発熱体2の中心を通る面に対して面対称となるように形成され、各々の可動部材31の自由端は発熱体2上で向き合うように位置している。また、各々の可動部材31は発熱体2への投影面積が等しくなっており、各々の可動部材31の自由端どうしは所望の寸法で隔てられている。ここで、各可動部材31は、ヘッドを発熱体2の中心を通る分割壁で分割したと仮定した際、それぞれの分割された発熱体2の中心付近に可動部材31の自由端が位置するように設けられている。
【0059】
天板50には各可動部材31の変位をある範囲で規制するストッパ64が設けられている。共通液室13から吐出口18への流れにおいて、ストッパ64を境に上流側に、液流路10と比較して相対的に流路抵抗の低い低流路抵抗領域65が設けられている。この領域65における流路構造は液流路10よりも流路断面積が大きいことで、液体の移動に対する流路から受ける抵抗を小さくしている。
【0060】
次に、本形態の構造による特徴的な作用・効果を説明する。
【0061】
図12(a)では、気泡発生領域内を満たす液体の一部が発熱体2によって加熱され、膜沸騰に伴って発生する気泡40が最大に成長した状態を示す。このとき、気泡40の発生に基づく圧力により液流路10内の液体が吐出口18方向に移動し、気泡40の成長により各可動部材31が変位し、吐出口18から吐出液滴66が飛び出そうとしている。ここで、共通液室13方向への液体の移動は各低流路抵抗領域65があることによって大きな流れとなるが、2つの可動部材31は各々のストッパ64に接近または接触するまで変位すると、それ以上の変位が規制されるため、共通液室13方向への液体の移動もそこで大きく制限される。同時に気泡40の上流側への成長も可動部材31で制限される。しかしながら、上流方向への液体の移動力は大きいため、各可動部材31で成長を制限された気泡40の一部は、液流路10を形成する側壁と可動部材31の側部との間隙を通り、可動部材31の上面側に隆起している。すなわち、隆起気泡41が形成されている。
【0062】
かかる膜沸騰の後に気泡40の収縮が開始された場合、この時点では、可動部材31を介することによって生じた上流側と下流側の圧力差により、液体の上流方向への力が大さく残るため、各可動部材31は未だストッパ64に接触された状態であり、気泡40の収縮の多くは吐出口18から上流方向への液移動を生じさせる。
【0063】
消泡工程がほば終了すると、各低流路抵抗領域65では液体の上流方向の移動力に対し可動部材31の反発力(復元力)が勝り、可動部材31の下方変位とそれに伴う低流路抵抗領域65での下流方向への流れとが開始される。これと同時に、低流路抵抗領域65での下流方向への流れは流路抵抗が小さい為、急速に大きな流れとなってストッパ64部分を介し液流路10へ流れ込む。図12(b)はこの気泡40の消泡工程における液流を矢印A,Bで示したものである。液流Aは共通液室13からの液体が可動部材31の上面(発熱体2と反対側の面)側を通って吐出口18方向に流れる成分を示し、液流Bは可動部材31の両側と発熱体2上を通つて流れる成分を示している。
【0064】
このように本形態では、吐出用液体を低流路抵抗領域65を通して供給することで、リフィルをより高速にしている。また、低流路抵抗領域65に隣接する共通液室13の流路抵抗をさらに小さくしているので、さらに高速なリフィルを可能にしている。
【0065】
さらに、気泡40の消泡工程において、隆起気泡41が各低流路抵抗領域65から気泡発生領域への液流を促進させ、前述した、吐出口18側からの高速なメニスカス引き込みと相まって、消泡をすみやかに完了させる。特に、隆起気泡41が引き起こす液流によって可動部材31や液流路10のコーナーに気泡が蓄留することがほとんどない。
【0066】
さらに、図12に示す液体吐出ヘッドにおいても、図1〜4に示した実施形態と同様に、同一吐出口18から連続約に液体吐出を行なう場合に、先の液体吐出後に、変位状態から初期状態に復帰する可動部材31の振動が減衰してしまう前に、可動部材31が変位方向に向けて(ストッパ64側に)変位している最中に、発熱体2に駆動パルスを印加し気泡40の発生を開始する。それによって、前吐出より吐出方向(下流側)により効率良く次吐出の液滴を飛翔させ、前吐出の液滴が被記録媒体150上に着弾する以前に次吐出の液滴と合体させる事が可能となる。
【0067】
<可動部材>
図6は可動部材31の他の形状を示すものである。同図(a)は長方形の形状であり、(b)は支点側が細くなっている形状で可動部材の動作が容易な形状であり、同図(c)は支点側が広くなっており、可動部材の剛性が向上する形状である。
【0068】
先の実施形態においては、可動部材31は厚さ5μmのSiNで構成したが、これに限られることなく可動部材31を構成する材質は、吐出液に対して耐溶剤性があり、可動部材31として良好に動作するための弾性を有しているものであればよい。
【0069】
可動部材31の材料としては、耐久性の高い、銀、ニッケル、金、鉄、チタン、アルミニュウム、白金、タンタル、ステンレス、りん青銅等の金属、およびその合金、または、アクリロニトリル、ブタジエン、ステレン等のニトリル基を有する樹脂、ポリアミド等のアミド基を有する樹脂、ポリカーボネイト等のカルボキシル基を有する樹脂、ポリアセタール等のアルデヒド基を持つ樹脂、ポリサルフォン等のスルホン基を持つ樹脂、そのほか液晶ポリマ一等の樹脂およびその化合物、耐インク性の高い、金、タングステン、タンタル、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属、これらの合金および耐インク性に関してはこれらを表面にコーティングしたもの若しくは、ポリアミド等のアミド基を有する樹脂、ポリアセターノレ等のアルデヒド基を持つ樹脂、 ポリエーテルエーテルケトン等のケトン基を有する樹脂、ポリイミド等のイミド基を有する樹脂、フェノール樹脂等の水酸基を有する樹脂、ポリエチレン等のエチル基を有する樹脂、ポリプロピレン等のアルキル基を持つ樹脂、エポキシ樹脂等のエポキシ基を持つ樹脂、メラミン樹脂等のアミノ基を持つ樹脂、キシレン樹脂等のメチロール基を持つ樹脂およびその化合物、さらに二酸化珪素、チッ化珪素等のセラミックおよびその化合物が望ましい。本発明における可動部材31としてはμmオーダーの厚さのものを対象にしている。
【0070】
次に、発熱体2と可動部材31の配置関係について説明する。発熱体2と可動部材31の最適な配置によって、発熱体2による発泡時の液体の流れを適正に制御して有効に利用することが可能となる。
【0071】
熱等のエネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化を伴う状態変化(気泡40の発生)を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口18からインクを吐出し、これを被記録媒体150上に付着させて画像形成を行うインクジェット記録方法、いわゆるバブルジェット記録方法の従来技術においては、図8に示すように、発熱体面積とインク吐出量は比例関係にあるが、インク吐出に寄与しない非発泡有効領域Sが存在していることがわかる。また、発熱体2上のコゲの様子から、この非発泡有効領域Sが発熱体2の周囲に存在していることがわかっている。これらの結果から、発熱体周囲の約4μm幅は、発泡に寄与していないとされている。
【0072】
したがって、発泡圧を有効利用するためには、発熱体の周囲から約4μm以上内側の発熱有効領域の直上が可動部材31に対し有効に作用を与える領域であるが、本発明の場合、気泡発生領域のほば中央領域(実際には中央から液の流れ方向に±約10μmの範囲)の上流側と下流側の気泡40の液流路10内の液流に対する作用を、独立的に作用せしめる段階と総合的に作用せしめる段階とに区分し得るところに着目し、該中央領域より上流側部分のみが可動部材31の可動領域で対面するように、可動部材31を配置することが極めて重要であると言える。本実施例においては、発泡有効領域を発熱体2周囲から約4μm以上内側としたが、発熱体2の種類や形成方法によっては、これに限定されるものではない。
【0073】
また図7に示すように、気泡発生領域に近接して、可動部材31に素子基板1側に突出する凸部31a(以下、単に「下側凸部」と称する。)を設けても良い。この下側凸部31aは、気泡発生領域で発生する気泡が後方(上流側)に成長することを抑制するものであり、この凸部31aを設けることにより、比べ気泡の後方成長を少なくすることができる。そして、この下側凸部31aは後方への気泡40の成長を抑制することで、吐出エネルギーが有効にインクの吐出に寄与するようにするものである。
【0074】
下側凸部31aが設けられる位置としては、可動部材31が基板側に変位する際にこの下側凸部31が基板1に当接することがあるため、少なくとも発熱体2周囲の段差部分から離れた位置に設けられることが望ましい。具体的には有効発泡領域から5μm以上離れていることが望ましい。また、あまりに気泡発生領域から離れすぎると、気泡後方成長抑制の効果を発揮できなくなるため、発熱体2の有効発泡領域から略発熱体長の半分までの距離内に設けられていることが望ましい。すなわち、本実施例においては約45μmであり、好ましくは30μm以内、さらに好ましくは20μm以下となる。
【0075】
また、下側凸部31cの高さは可動部材31と素子基板1間の距離とほぼ等しいかそれ以下であり、本実施形態においては、下側凸部31aの先端と素子基板1との間にはわずかにクリアランスを設けている。
【0076】
この下側凸部31aによって、気泡発生領域で発生した気泡40は、可動部材31と素子基板1との間を上流方向へ伸延することが抑制され、上流方向への液体の移動が少なくなり、結果的にさらに良好にリフィルが行われるようにすることができる。
【0077】
また、このような可動部材31を用いて液体を発泡させる場合、気泡40の成長が急速である発泡開始時点では、下側凸部31aによって、気泡発生領域が上流側で実質的に密閉された状態となる。このため、発泡によって発生する圧力波は上流側へは進行せず、圧力波を効率的に下流側へ向かわせ、インク吐出に寄与させることができる。
【0078】
このような可動部材31を用いた液体吐出ヘッドにおいても、同一吐出口18から連続約に液体吐出を行い、複数の吐出液滴を合体させて、多値階調の記録を実現できる。
【0079】
<素子基板>
次に、素子基板1の構成について説明する。図9は本発明の液体吐出ヘッドの縦断面図を示したもので、図9(a)は後述する保護膜があるヘッド、同図(b)は保護膜がないものである。液流路10、液流路10と連通する吐出口18、低流路抵抗領域65および共通液室13を構成する溝を設けた天板50が素子基板1上に配されている。
【0080】
素子基板1には、シリコン等の基体107に絶縁および蓄熱を目的としたシリコン酸化膜またはチッ化シリコン膜106を成膜し、その上に発熱体2を構成するハフニュウムボライド(HfB2)、チッ化タンタル(TaN)、タンタルアルミ(TaAl)等の電気抵抗層105(0.01〜0.2μm厚)とアルミニウム等の配線電極104(0.2〜1.0μm厚)を図9(a)のようにパターニングしている。この配線電極104から抵抗層105に電圧を印加し、抵抗層に電流を流し発熱させる。配線電極104間の抵抗層上には、酸化シリコンやチッ化シリコン等の保護層103を0.1〜2.0μm厚で形成し、さらにそのうえにタンタル等の耐キャビテーション層102(0.1〜0.6μm厚)が成膜されており、インク等の各種の液体から抵抗層105を保護している。
【0081】
特に、気泡40の発生、消泡の際に発生する圧力や衝撃波は非常に強く、堅くてもろい酸化膜の耐久性を著しく低下させるため、金属材料のタンタル(Ta)等が耐キャビテーション層102として用いられる。
【0082】
また、液体、液流路10構成、抵抗材料の組み合わせにより、上述の抵抗層105に保護層103を必要としない構成としても良く、その例を図9(b)に示す。このような保護層103を必要としない抵抗層105の材料としてはイリジュウム-タンタル-アルミ合金等が挙げられる。
【0083】
このように、前述の発熱体2の構成としては、前述の配線電極104間のみに電気抵抗層105(発熱部)を配したものでもよく、また電気抵抗層105を保護する保護層103を含むものでもよい。
【0084】
ここでは、発熱体2としては、電気信号に応じて発熱する電気抵抗層105で構成された発熱部を有するものを用いたが、これに限られることなく、吐出液を吐出させるのに十分な気泡40を発泡液に生じさせるものであればよい。例えば、発熱部としては、レーザ等の光を受けることで発熱するような光熱変換体や高周波を受けることで発熱するような発熱部を有する発熱体でもよい。
【0085】
なお、前述の素子基板1には、前述の発熱部を構成する電気抵抗層105とこの電気抵抗層105に電気信号を供給するための配線電極104で構成される電気熱変換体の他に、この電気熱変換素子を選択的に駆動するためのトランジスタ、ダイオード、ラッチ、シフトレジスタ等の機能素子が一体的に半導体製造工程によって作り込まれていてもよい。
【0086】
また、前述のような素子基板1に設けられている電気熱変換体の発熱部を駆動し、液体を吐出するためには、前述の抵抗層105に配線電極104を介して図10で示されるような矩形パルスを印加し、配線電極104間の電気抵抗層105を急峻に発熱させる。前述の各実施形態のヘッドにおいては、それぞれ電圧24V、パルス幅約4μsec、電流約100mA、駆動周波数を6kH z以上で加えることで発熱体2を駆動し、前述のような動作によって、吐出口から記録液体であるインクを吐出させた。しかしながら、駆動信号の条件はこれに限られることなく、発泡液を適正に発泡させることができる駆動信号であればよい。
【0087】
<吐出液体>
このような液体の内、記録を行う上で用いる液体(記録液体)としては従来のバブルジェット装置で用いられていた組成のインクを用いることができる。
【0088】
また、従来吐出が困難であった発泡性が低い液体、熱によって変質、劣化しやすい液体や高精度液体等であっても利用できる。
【0089】
ただし、吐出液の性質として吐出液白身、吐出や発泡また可動部材31の動作等を妨げるような液体でないことが望まれる。
【0090】
記録用の吐出液体としては、高粘度インク等をも利用することがでさる。
【0091】
本発明においては、さらに吐出液に用いることがでさる記録液体として以下のような組成のインクを用いて記録を行ったが、吐出力の向上によってインクの吐出速度が高くなったため、液滴の着弾精度が向上し非常に良好な記録画像を得ることができる。
【0092】
染料インク(粘度2CP)の組成
(C−1.フードブラック2)染料 3重量%
ジエチレングリコール 10重量%
チオジグリコール 5重量%
エタノール 5重量%
水 77重量%
【0093】
<液体吐出ヘッド構造>
図11は、本発明の液体吐出ヘッドの全体構成を示した分解斜視図である。
【0094】
同図に示すように、この液体吐出ヘッドには、アルミ等の支持体70上に発熱体2が複数設けられた素子基板1が配されている。この上に各発熱体2の共通液室13側の半分と対面するように可動部材31を支持した支持部材34が設けられている。さらに、この上に液流路10を構成する複数の溝と共通液室13の凹溝とが設けられた天板50が設けられている。
【0095】
<液体吐出装置>
図13は、図1,2や図12で説明した構造の液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置の概略構成を示している。本実施形態では、特に吐出液体としてインクを用いたインク吐出記録装置を用いて説明する。液体吐出装置のキャリッジHCは、インクを収容するインクタンク90部分と、液体吐出ヘッド200部分とが着脱可能なヘッドカートリッジを搭載しており、被記録媒体搬送手段で搬送される記録紙等の被記録媒体150の幅方向に往復移動する。
【0096】
不図示の駆動信号供給手段からキャリッジHC上の液体吐出手段に駆動信号が供給されると、この信号に応じて液体吐出ヘッド200から被記録媒体150に対して記録液体が吐出される。
【0097】
また、本実施形態の液体吐出装置においては、被記録媒体搬送手段とキャリッジHCを駆動するための駆動源としてのモーター111、駆動源からの動力をキャリッジに伝えるためのギア112、113、キャリッジ軸115等を有している。この記録装置およびこの記録装置で行う液体吐出方法によって、各種の被記録媒体150に対して液体を吐出することで良好な画像の記録物を得ることができた。
【0098】
図14に、本発明の液体吐出方法を実施可能な液体吐出ヘッドにインク吐出記録を動作させるための装置全体のブロック図を示す。
【0099】
記録装置は、ホストコンピュータ300より印字情報を制御信号として受ける。印字情報は印字装置内部の入出力インタフェイス301に一時保存されると同時に、記録装置内で処理可能なデータに変換され、ヘッド駆動信号供拾手段を兼ねるCPU(制御手段)302に入力される。CPU302はROM303に保存されている制御プログラムに基づき、前記のCPU302に入力されたデータをRAM304等の周辺ユニットを用いて処理し、印字するデータ(画像データ)に変換する。
【0100】
また、CPU302は前記画像データに対応した画像を被記録媒体150上の適当な位置に記録するために、画像データに同期して被記録媒体150および液体吐出ヘッド200をを移動する駆動用モータ306を駆動するための駆動データを作る。画像データおよびモータ駆動データは、各々ヘッドドライバ307と、モータドライバ305を介し、液体吐出ヘッド200および駆動用モータ306に伝達され、これらが制御されたタイミングで駆動され画像を形成する。
【0101】
上述のような記録装置に適用でき、インク等の液体の付与が行われる被記録楳体150としては、各種の紙やOHPシート、コンパクトディスクや装飾板等に用いられるプラスチック材、布帛、アルミニウムや銅等の金属材、牛皮、豚皮、人工皮革等の皮革材、木、合板等の木材、竹材、タイル等のセラミックス材、スポンジ等の三次元構造体等を対象とすることができる。
【0102】
また、上述の記録装置として、各種の紙やOHPシート等に対して記録を行うプリンタ装置、コンパクトディスク等のプラスチック材に記録を行うプラスチック用記録装置、金属板に記録を行う金属用記録装置、皮革に記録を行う皮革用記録装置、木材に記録を行う木材用記録装置、セラミックス材に記録を行うセラミックス用記録装置、スポンジ等の三次元網状構造体に対して記録を行う記録装置、また布帛に記録を行う捺染装置等をも含むものである。
【0103】
また、これらの液体吐出装置に用いる吐出液としては、それぞれの被記録媒体150や記録条件に合わせた液体を用いればよい。
【0104】
【発明の効果】
本発明による液体吐出ヘッドの可動部材の弁機構によれば、バック波すなわち上流方向の圧力波に伴う液体の上流方向への移動を抑制することによって、消泡時の液体の液流路へのリフィルを早めると同時に、多連続吐出において可動部材が変位状態で2発目以降の液体発泡を開始することによって、前液滴よりも効率良く液滴を飛翔させることが出来、複数の液滴を合体させて被記録媒体上に着弾させることが可能となる。
【0105】
これによって、同一ノズルから複数の吐出量の異なる液滴を吐出させることが可能となり、階調記録を実現し、高速かつ高品位な記録が可能な液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの1つの実施の形態を液流路方向で切断した断面図で示し、3連続の液体吐出動作の工程(a)〜(f)を示した図である。
【図2】図1の工程に続く工程(g)〜(l)を示した図である。
【図3】気泡の成長と可動部材の変位との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの直線的連通状態を説明する流路の断面図である。
【図5】図1に示した一例の液体吐出ヘッドの透視斜視図である。
【図6】図1,2に示した液体吐出ヘッドの可動部材の形状の例を示す図である。
【図7】他の可動部材の形状を示す図である。
【図8】発熱体面積とインク吐出量との相対関係を示すグラフである。
【図9】本発明の液体吐出ヘッドの縦断面図であり、(a)は発熱体に保護膜があるもの、(b)は保護膜がないものである。
【図10】本発明に使用する発熱体を駆動する電気パルスの波形図である。
【図11】本発明の液体吐出ヘッドの全体構成を示した分解斜視図である。
【図12】本発明の液体吐出方法を適用したサイドシユータタイプの液体吐出ヘッドを説明するための図である。
【図13】図1,2や図12で説明した構造の液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置の概略構成を示す図である。
【図14】本発明の液体吐出方法を実施可能な液体吐出ヘッドにインク吐出記録を動作させるための装置全体のブロック図である。
【図15】本実施形態の変形例を示す図である。
【符号の説明】
1 素子基板
2 発熱体
10 液流路
13 共通液室
18 吐出口
31 可動部材
31a 下側凸部
32 自由端
33 支点
34 支持部材
40 気泡
41 隆起気泡
50 天板
64 ストッパ
65 低流路抵抗領域
66 吐出液滴
66a 第1の吐出液滴
66b 第2の吐出液滴
66c 第3の吐出液滴
66d 第1と第2の合体吐出液滴
66e 第1と第2と第3の合体吐出液滴
67 サテライト
70 支持体
90 インクタンク
102 耐キャビテーション層
103 保護層
104 配線電極
105 電気抵抗層
106 シリコン酸化膜またはチッ化シリコン膜
107 基体
111 モーター
112,113 ギア
115 キャリッジ軸
150 被記録媒体
200 液体吐出ヘッド
300 ホストコンピュータ
301 入出力インターフェイス
302 CPU
303 ROM
304 RAM
305 モータドライバ
306 駆動用モータ
307 ヘッドドライバ
308 記録装置

Claims (20)

  1. 液体中に気泡を生成させるための熱エネルギーを発生する発熱体と、前記液体を吐出する部分である吐出口と、該吐出口に連通するとともに前記液体に気泡を生成させる気泡発生領域を有する液流路と、前記気泡発生領域に設けられ前記気泡の成長に伴い変位する可動部材と、前記可動部材の変位を所望の範囲に規制する規制部とを備え、前記気泡発生時のエネルギーにより前記吐出口から前記液体を吐出させて液滴を形成し、該液滴を被記録媒体上に着弾させて記録を行う液体吐出ヘッドであって、
    同一の前記吐出口から連続的に複数の液滴を吐出する場合、2回目以降の発泡開始時点の前記可動部材は変位状態にあり、該変位状態の前記可動部材の変位量は前回の発泡開始時点の前記可動部材の変位量よりも大きく、前記複数の液滴は前記被記録媒体上に着弾する以前に合体して一つの液滴を形成することを特徴とする液体吐出ヘッド。
  2. 前記同一の吐出口から連続的に複数の液滴を吐出する場合、2回目以降の前記液滴の吐出速度は、前回の前記液滴の吐出速度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  3. 前記同一の吐出口から連続的に2個の液滴を吐出する場合、1個目の液滴が前記被記録媒体上に着弾する以前に2個目の液滴が前記1個目の液滴と合体し、1個目の液滴の略2倍の量を持つ液滴を形成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  4. 前記同一の吐出口から連続的に3個の液滴を吐出する場合、1個目の液滴が前記被記録媒体上に着弾する以前に2個目と3個目の液滴が前記1個目の液滴と合体し、1個目の液滴の略3倍の量を持つ液滴を形成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  5. 前記可動部材が、変位することによって前記液流路の上流側を実質的に塞ぎ、上流方向への前記液体の移動および前記気泡の成長を抑制する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  6. 前記発熱体が電気熱変換体であり、該電気熱変換体に駆動パルスを供給することにより前記液体の加熱を行う請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  7. 前記気泡の発泡開始時より一定の間、前記可動部材と前記規制部との接触状態が保たれる請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  8. 前記可動部材の非変位時において、前記規制部を境界として上流側の前記液流路の流路抵抗が下流側の液流路の流抵抗より低い請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  9. 前記発熱体と前記吐出口とは直線的連通状態となっていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  10. 前記可動部材は、前記吐出口に向かう液体の流れに関して上流方向に成長する気泡のみを抑制するために設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  11. 前記可動部材は自由端を有しており、該自由端は前記気泡発生領域の実質中央部に位置していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  12. 前記規制部は前記液流路の前記可動部材からの距離を部分的に小さくすることにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  13. 前記吐出口は前記発熱体の上方に設けられることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  14. 前記可動部材は一つの発熱体に対して複数形成されており、該複数の可動部材は前記発熱体の発泡中心に対して対称となるように形成されていることを特徴とする請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
  15. 請求項1から14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、該液体吐出ヘッドから吐出された液体を受ける被記録媒体を搬送する被記録媒体搬送手段とを備えた液体吐出装置。
  16. 前記液体吐出ヘッドからインクを吐出し、被記録媒体にインクを付着させることで記録を行う請求項15に記載の液体吐出装置。
  17. 液体中に気泡を生成させるための熱エネルギーを発生する発熱体と、前記液体を吐出する部分である吐出口と、該吐出口に連通するとともに前記液体に気泡を生成させる気泡発生領域を有する液流路と、前記気泡発生領域に設けられ前記気泡の成長に伴い変位する可動部材と、前記可動部材の変位を所望の範囲に規制する規制部とを備え、前記気泡発生時のエネルギーにより前記吐出口から前記液体を吐出させて液滴を形成し、該液滴を被記録媒体上に着弾させて記録を行う液体吐出ヘッドの液体吐出方法であって、
    同一の前記吐出口から連続的に複数の液滴を吐出する場合、2回目以降の発泡開始時点では前記可動部材が変位状態にあり、該変位状態の前記可動部材の変位量は前回の発泡開始時点の前記可動部材の変位量よりも大きく、前記複数の液滴を前記被記録媒体上に着弾する以前に合体させて一つの液滴を形成する液体吐出方法。
  18. 前記合体された液滴の量を変えることにより階調記録を行う請求項17に記載の液体吐出方法。
  19. 前記連続する液滴の体積がほぼ等しいことを特徴とする請求項17に記載の液体吐出方法。
  20. 前記同一の吐出口から連続的に複数の液滴を吐出する時、第2発目以降の液滴の量を変えることにより階調記録を行う請求項18に記載の液体吐出方法。
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