JP3686747B2 - 摺動部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーとの樹脂複合体からなる耐摩耗性、耐熱性に優れた摺動部材に関し、特に無潤滑下での摺動特性に優れたものであり、具体的には、プーリー、ワッシャ、軸受、あるいはプリンタやファクシミリなど画像形成装置の分離爪、磁気テープなどのテープ状体を案内するテープガイド等に好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、軸受やテープガイド、あるいはプリンタやファクシミリなど画像形成装置の分離爪などの摺動部材として金属が多く使用されていたが、軽量化、生産性等の要求により樹脂への代替えが検討されている。このような摺動部材に使用する樹脂には、耐熱性の外に強度、寸法安定性、耐薬品性等が要求されることが多く、異常発熱時の形状安定性の点から熱硬化性樹脂が使用されており、その中でも特に成形性に優れ、比較的安価に入手可能なフェノール系樹脂が多用されていた。
【0003】
また、樹脂に繊維状フィラーを配合することで、樹脂単体よりも強度、耐熱性、耐摩耗性を高めた樹脂複合体からなる摺動部材も提案されており、例えば、繊維状フィラーとしてアスベスト繊維、セラミック繊維、金属繊維、有機繊維等を用いたものがあった(特公平2−40130号公報参照)。
【0004】
なお、これら樹脂を主体とする摺動部材は、所定形状の金型内に樹脂スラリーを注入して加熱硬化させる射出成形法により一般的に製作されていた。
【0005】
また、耐熱性とともに高速、高負荷荷重下での使用が要求される摺動部材には、アルミナなどのセラミックスからなる摺動部材も使用されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、樹脂単体からなる摺動部材では、耐熱性がそれほど高くないために摺動に伴って発生する摩擦熱により変形したり、強度が大きく低下するといった課題があった。
【0007】
また、アスベスト繊維を配合した樹脂複合体からなる摺動部材では、近年、アスベストの発ガン性が注目され、法規制がますます厳しくなっていくなか、作業環境等の問題により使用が規制され、アスベストフリ−の耐熱性に優れた樹脂複合体からなる摺動部材が望まれていた。
【0008】
さらに、射出成形法により製作された樹脂複合体からなる摺動部材では次のような課題があった。
【0009】
一般的に、熱硬化性樹脂は硬化剤との化学反応により硬化が開始される。例えば、熱硬化性樹脂がフェノールノボラック樹脂の場合、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンが使用され、加熱によりヘキサメチレンテトラミンが分解してアルデヒドを生成し、このアルデヒドがフェノールの水酸基を攻撃して架橋にいたる反応によって重合硬化反応を生じるのであるが、上記ヘキサメチレンテトラミンの分解時にはアルデヒドの他に二酸化炭素、アンモニア、水蒸気等のガスが発生する。そして、射出成形法において、これらのガスが発生すると圧力が伝わらず、成形不良となることから、通常ガス抜き等の処理が施されており、摺動部材を構成する樹脂複合体の内外には気孔が殆ど見当たらないものであった。
【0010】
しかしながら、このような気孔のない樹脂複合体を摺動部材として用いると、摺動面に存在する熱硬化性樹脂の熱伝導特性がそれほど良くないために相手部材との摺動に伴う摩擦熱によって大きく摩耗するといった課題があった。
【0011】
例えば、相手部材がステンレス等の金属であると、摺動面に存在する樹脂成分が摩擦熱により軟化し、相手部材との凝着を生じる結果、摺動面が大きく摩耗し、また、相手部材がアルミナなど熱伝導特性のそれほど良くないセラミックス等であると、摺動面に存在する樹脂成分が摩擦熱によって炭化され、この炭化層が相手部材によって大きく削られて摩耗していた。
【0012】
しかも、樹脂複合体に配合されている繊維状フィラーが、硬質のセラミック繊維や金属繊維であると、相手部材を削って大きく摩耗させるといった恐れもあった。
【0013】
また、射出成形法ではフィラーを多量に配合すると樹脂の流れ性が低下し、成形性が悪くなると同時に、金型の摩耗を引き起こすことから繊維状フィラーの配合量を高めることが難しく、その結果、樹脂複合体の強度や耐熱性を高めることができず、また、装置のランニングコストが高いため、安価に製造することができないといった課題もあった。
【0014】
一方、セラミックス製の摺動部材は、セラミックスの比重が樹脂に比べて大きく、製造コストも高いことから、安価で軽量化が要求される摺動部材には使用できないといった課題があった。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本件発明者等は、上記課題を解決すべく、種々検討を行った結果、熱硬化性樹脂に、炭素繊維又は有機繊維からなる最大糸長200μm以下の繊維状フィラーと、前記熱硬化性樹脂に対して8〜14容量%の硬化剤とを配合した樹脂複合体により摺動部材を形成するとともに、その摺動面に気孔を均一に存在させ、上記気孔の平均径及び占有面積率をある特定範囲とすることで、相手部材との接触面積を減らし、摺動特性を高めることができるとともに、摺動面における表面積を大きくし、放熱特性を高めることができるため、摺動面に存在する樹脂成分の摩耗を抑え、耐摩耗性を大幅に高められることを知見したものであり、従来の摺動部材ではなし得なかった無潤滑状態における高速、高負荷荷重下での摺動においても優れた耐摩耗性と耐熱性を備えた摺動部材が得られることを見出したものである。
【0016】
即ち、本発明の摺動部材は、炭素繊維又は有機繊維からなる繊維状フィラーを30〜70容量%と、70〜30容量%の熱硬化性樹脂からなる樹脂複合体よりなり、摺動面に気孔を均一に存在させるとともに、上記気孔の平均径を15〜80μmでかつその占有面積率を3〜30%としたことを特徴とするものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本発明の摺動部材は、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーの樹脂複合体からなり、上記熱硬化性樹脂の配合量を70〜30容量%とするとともに、繊維状フィラーの配合量を30〜70容量%としたものである。
【0019】
ここで、熱硬化性樹脂の配合量を70〜30容量%、繊維状フィラーの配合量を30〜70容量%としたのは、樹脂の配合量が70容量%より多くなる(繊維状フィラーの配合量が30容量%未満)と加熱硬化時の変形が大きく、高い保形性(寸法精度)が得られなくなるとともに、荷重たわみ温度が低くなるために耐熱性が低下するからであり、逆に、樹脂の配合量が30容量%未満(繊維状フィラーの配合量が70容量%より多く)では粉末加圧成形した後の形状を保持することが難しいからである。
【0020】
このような樹脂複合体を構成する熱硬化性樹脂としては、エポキシ系、フェノール系、メラミン系等の樹脂を使用することができ、これらの中でも耐熱性、寸法安定性、耐薬品性等の観点からフェノール系樹脂が好適である。
【0021】
一方、繊維状フィラーとしては、炭素繊維又は有機繊維を使用することができ、これらを前述した配合量で添加すれば摺動部材の強度、耐熱性、寸法安定性、耐摩耗性を高めることができるとともに、相手部材を傷付けることがない。特に炭素繊維は自己潤滑特性を有することから、摺動特性をより高めることができる。なお、上記有機繊維としては芳香族PA、アラミド繊維、セルロース繊維等を用いることができる。
【0022】
また、繊維状フィラーの最大糸長は200μm以下とすることが良い。繊維状フィラーの最大糸長が200μmより長くなると、樹脂との混合時における分散性が悪いために、樹脂複合体の内部及び表層部において繊維状フィラーの疎な部分と密な部分ができ、繊維状フィラーを配合したことによる強度、耐熱性、耐摩耗性を高めることができず、また、後述する粉末加圧成形後の離型時において欠けが発生し易いからである。ただし、最大糸長が5μmより短くなると、繊維状フィラーを配合したことによる補強効果が得られなくなるため、繊維状フィラーの最大糸長は5〜200μm、好ましくは5〜150μmとすることが良い。
【0023】
なお、繊維状フィラーの糸長とは、前後、左右、上下の寸法を測定した時に最も長い部分の長さのことであるが、図1に摺動部材の摺動面における模式図を示すように、繊維状フィラーは樹脂複合体中においてランダムな方向に存在している。その為、本発明では繊維状フィラーの最大糸長を摺動部材より測定する場合、便宜的に、摺動部材の任意の表面又は断面の5箇所を、金属顕微鏡又は電子顕微鏡(SEM)で拡大して画像解析装置により分析した繊維状フィラーの中で最も長い繊維状フィラーの長さを最大糸長とする。
【0024】
また、配合量を測定する方法としては、摺動部材の任意の表面又は断面を金属顕微鏡又は電子顕微鏡(SEM)で拡大して画像解析装置により樹脂部分と繊維状フィラー部分を区別し、測定した全面積における樹脂部分の面積の割合を樹脂の容量比、繊維状フィラー部分の面積の割合を繊維状フィラーの容量比とする。さらに、本発明の摺動部材を構成する樹脂複合体は、熱硬化性樹脂と繊維状フィラー以外に補強材として、例えば、クレー、タルク、マイカ、カオリン、珪砂、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、グラファイト等を加えれば樹脂複合体の強度をさらに高めることができるとともに、必要に応じて着色剤を加えることも可能である。
【0025】
また、本発明の摺動部材においては、図1のように摺動面に気孔を均一に存在させることが重要である。
【0026】
即ち、樹脂複合体を構成する熱硬化性樹脂は、熱伝導特性がそれほど良くないため、従来のように気孔のない樹脂複合体からなる摺動部材では、相手部材との摺動に伴う摩擦熱によって摺動面に存在する樹脂成分が凝着摩耗したり、あるいは摩擦熱によって樹脂成分が炭化され、相手部材によって大きく削られるなど、摺動面の摩耗が激しく、長期間にわたって安定した摺動特性が得られないのであるが、本発明の摺動部材によれば、摺動面に気孔を均一に存在させてあることから、相手部材との接触面積を減らすことができ、摺動特性を高めることができるとともに、摺動面における表面積を大きくして放熱特性を高めることができるため、摺動面の樹脂成分が凝着摩耗したり炭化されることを防ぎ、摺動面の摩耗を大幅に低減することができる。
【0027】
ただし、このような特性を満足するためには、摺動面に存在させる気孔の平均径を15〜80μmとするとともに、摺動面における気孔の占有面積率を3〜30%とすることが必要である。
【0028】
気孔の平均径が15μm未満であると、放熱特性を高める効果が小さく、逆に80μmより大きくなると、加熱硬化後の外観に膨れ等の不具合を生じ、所望の寸法精度が保てない他、抗折強度が大きく低下するからである。また、気孔の占有面積率が3%未満では、放熱特性を高める効果が小さく、さらに摺動特性を高める効果も小さいからであり、30%より大きくなると、抗折強度が80MPa以下にまで低下することから摺動部材として使用できないからである。
【0029】
なお、上記摺動面における気孔の平均径及び占有面積率を測定する方法としては、摺動面を金属顕微鏡で拡大した画像を画像解析することにより求めることができる。
【0030】
一方、このような本発明の摺動部材を製作するには、まず、熱硬化性樹脂に繊維状フィラーを配合するとともに、加熱時に上記熱硬化性樹脂を硬化させるために硬化剤を配合する。硬化剤としては熱硬化性樹脂がフェノールノボラック樹脂の場合、ヘキサメチレンテトラミンを用いることができ、加熱時にヘキサメチレンテトラミンが分解してアルデヒドを生成し、このアルデヒドがフェノールの水酸基を攻撃して架橋にいたる反応によって樹脂を硬化させることができる。
【0031】
また、配合にあたっては公知の方法を用いて均一に混合すれば良い。例えば、熱硬化性樹脂に繊維状フィラーと硬化剤をミキサーで混合し、ブラベンダーで混練したあと粉砕したり、あるいは繊維状フィラーと硬化剤を配合した熱硬化性樹脂を加熱ロールで溶融混練したあと粉砕する方法等がある。また、必要に応じて、所定の粒度となるように造粒しても良い。
【0032】
ただし、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーの配合は、70〜30容量%の熱硬化性樹脂に対し、糸長が200μm以下の繊維状フィラーを30〜70容量%の範囲で配合することが必要である。このように糸長が200μm以下の繊維状フィラーを用いるとにより、補強効果を得るのに必要な繊維状フィラー同士の絡み合いを維持しながら樹脂との分散性を高めることができるため、均一に分散させることができるとともに、繊維状フィラーのかさ高さを小さくすることで金型中への充填バラツキを少なくすることができ、加熱硬化後の樹脂複合体の寸法安定性、強度、耐熱性、耐摩耗性を高めることができる。
【0033】
また、熱硬化性樹脂を完全に硬化させるとともに、摺動面に気孔を均一に存在させるために添加する硬化剤は、熱硬化性樹脂に対して8〜14容量%の割合で加えることが好ましい。
【0034】
さらに、これらの他に前述したような補強材や着色剤を配合しても良く、必要に応じて、硬化助剤、滑剤、可塑剤、分散剤、着色剤、離型剤等の公知の添加剤を、実用上問題無い程度で加えても良い。
【0035】
また、繊維状フィラーの表面状態や形状によっては、混合時の分散性が悪くなる恐れがあるため、このような時には繊維状フィラーの表面にカップリング剤を被覆することで分散性を高めることができる。
【0036】
次に、それぞれの割合で均一に配合した原料を金型に充填し、常温にて1〜3ton/cm2 の圧力で粉末加圧成形したあと成形体を金型から離型し、しかるのち、熱硬化性樹脂の性状、繊維状フィラーの配合量、製品の寸法等に合わせて80〜250℃の温度で加熱硬化させる。この時、成形体中の硬化剤は分解され、熱硬化性樹脂と反応して樹脂が硬化するとともに、硬化剤の分解に伴って生成されたガスが樹脂複合体の内部から抜け、樹脂複合体の内外に多数の気孔を形成するとともに、表層部では樹脂成分の軟化に伴って気孔が埋められ、表層部には気孔が殆どなく、内部に気孔が均一に存在した樹脂複合体が得られる。
【0037】
そして、上記加熱硬化時の昇温速度、最高温度でのキープ時間、冷却速度等を適宜制御して樹脂複合体の切断面に存在する気孔の平均径を15〜80μm、占有面積率を3〜30%とする。なお、加熱硬化時の温度を80〜250℃とするのは、80℃未満であると樹脂の硬化が不充分となるからであり、逆に、250℃より高くなると樹脂が炭化されるからである。
【0038】
かくして、得られた樹脂複合体を所定の形状に加工するとともに、樹脂複合体の一主面に研磨加工を施し、樹脂複合体の内部に存在していた気孔が露出するまで削って摺動面を形成することにより、摺動面に気孔が均一に分散した本発明の摺動部材を得ることができる。
【0039】
このように、本発明の摺動部材は、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーの樹脂複合体からなり、粉末加圧成形法により製造することで、従来の射出成形法では困難であった繊維状フィラーの配合量を70容量%にまで多量に配合することができ、樹脂複合体の耐熱性、耐摩耗性を高めることができるとともに、摺動面にある特定範囲の平均気孔径、占有面積率を有する気孔を均一に存在させることで、相手部材の材質に関係なく無潤滑状態での高速、高負荷荷重下において、優れた耐摩耗性を有するとともに、荷重たわみ温度が200〜300℃と優れた耐熱性を有する安価な摺動部材を得ることができる。
【0040】
その為、本発明の摺動部材を用いれば、プーリー、ワッシャ、軸受、あるいはプリンタやファクシミリなど画像形成装置の分離爪、磁気テープなどのテープ状体を案内するテープガイドを含む摺動部材として好適に使用することができる。(実施例1)
フェノールノボラック樹脂と炭素繊維の配合量、及び摺動面に存在する気孔の平均径及び占有面積率の異なる樹脂複合体をそれぞれ用意し、曲げ強度、耐熱性、耐摩耗性についてそれぞれ実験を行った。
【0041】
本実験では、フェノールノボラック樹脂と糸長が100μm以下の炭素繊維を表1,2に示す配合量となるようにそれぞれ秤量、混合し、次いで、この配合物を金型中に充填し、常温で1ton/cm2 程度のプレス圧にて粉末加圧成形したあと、150℃程度の温度で加熱硬化させることにより内部に気孔が存在した樹脂複合体を作製し、しかるのち、これらの樹脂複合体に研削加工を施して試料片を形成した。
【0042】
そして、得られた試験片について、JIS K 6911により曲げ強度を測定するとともに、JIS K 7207により荷重たわみ温度を測定し、さらにボールオンディスク試験機を用いて耐摩耗試験を行った。
【0043】
なお、耐摩耗試験の条件は、ディスク材質としてアルミナセラミックスとステンレスの2種類を用意し、ディスクを5m/secの速度で回転させた状態で、該ディスクに1kgの荷重でボール状に形成した試験片(直径:約20mm)を押圧し、15分間摺動させた後の試験片及びディスクの摩耗量を測定した。
【0044】
なお、比較のために、従来の射出成形により摺動面に気孔のない樹脂複合体からなる試料片も用意して同様に実験を行った。
【0045】
それぞれの結果は表1,2に示す通りである。
【0046】
この結果、従来品である試料No.1では、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーの配合量がいずれも30〜70容量%の範囲内にあるため、十分な強度と耐熱性を有していたものの摺動面に気孔がないため、試料片が大きく摩耗するとともに、相手部材の摩耗も見られた。そこで、耐摩耗試験後に各試料片を観察すると、アルミナセラミックスとの摺動においては、摺動面の樹脂成分が炭化され、アルミナセラミックスによって大きく削られており、ステンレスとの摺動においては、摺動面の樹脂成分がステンレスと凝着し、大きく摩耗したことが判った。しかも、摺動面に存在する樹脂成分の摩耗によって繊維状フィラーが摺動面より突出しており、この突出した繊維状フィラーによってディスク材を摩耗させることも判った。
【0047】
また、試料No.2では、試料片の摺動面に気孔があるものの、その平均径及び占有面積率がいずれも小さいために、気孔を設けたことによる効果が小さく、試料No.1と同様に自他共に摩耗が見られた。
【0048】
さらに、試料No.4では、炭素繊維の配合量が20容量%と少なく、また、摺動面に存在する気孔の平均径が80μmより大きく、かつ占有面積率が30%より大きいために、強度が55MPaと小さく、また、耐熱性も200℃未満と低かった。しかも、耐摩耗試験においてはディスクの材質によって異なり、ステンレスに対しては優れた耐摩耗性を示したものの、アルミナセラミックスに対しては摺動面が大きく摩耗した。
【0049】
また、試料No.3では、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーの配合量がいずれも30〜70容量%の範囲内にあるため、耐熱性は200℃以上を満足したものの、摺動面に存在する気孔の占有面積率が30%より大きいために、強度が65MPaと小さかった。また、耐摩耗試験においては、摺動面に気孔を適度に存在させてあることから、高い摺動特性と放熱特性が得られ、試料No.1,2,4と比較して摩耗量を小さくすることができたものの、十分ではなかった。
【0050】
これに対し、試料No.5〜8は、熱硬化性樹脂と繊維状フィラーの配合量がいずれも30〜70容量%の範囲内にあるとともに、摺動面に平均径15〜80μmの気孔を3〜30%の占有面積率で均一に存在させてあることから、気孔のない樹脂複合体と同レベルの強度を有するとともに、耐熱性においても200℃以上を有していた。しかも、ディスクの材質に関係なく、試料片の摺動面における摩耗量を4×10-3mm3 /kg/km以下と、一桁台に抑えることができるとともに、ディスクを摩耗させることがないというように、優れた耐摩耗性を有していた。
【0051】
【表1】
Figure 0003686747
【0052】
【表2】
Figure 0003686747
【0053】
【発明の効果】
以上のように、本発明の摺動部材によれば、炭素繊維又は有機繊維からなる繊維状フィラーを30〜70容量%と、70〜30容量%の熱硬化性樹脂とからなる樹脂複合体よりなり、摺動面に気孔を均一に存在させるとともに、上記気孔の平均径を15〜80μmでかつその占有面積率を3〜30%としたことにより、軽量でかつ荷重たわみ温度が200℃以上と優れた耐熱性と十分な強度を有するとともに、無潤滑条件下における高速、高負荷荷重下において自他共に摩耗の少ない摺動部材を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る摺動部材の摺動面を示す模式図である。

Claims (1)

  1. 一主面を摺動面とする摺動部材であって、該摺動部材は炭素繊維又は有機繊維からなる最大糸長200μm以下の繊維状フィラーを30〜70容量%と、70〜30容量%の熱硬化性樹脂と、該熱硬化性樹脂に対して8〜14容量%の硬化剤とからなる樹脂複合体よりなり、上記摺動面には気孔が均一に存在するとともに、該気孔の平均径が15〜80μmでかつその占有面積率が3〜30%であることを特徴とする摺動部材。
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