JP3686545B2 - 簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材およびそれを用いた溶接方法。 - Google Patents
簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材およびそれを用いた溶接方法。 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は主に造船分野で用いられるいわゆる簡易片面サブマージアーク溶接に関する。簡易片面サブマージアーク溶接は固形耐火性酸化物を主成分とする裏当て材を使用する片面溶接であって、本発明はこれに使用する開先充填材およびそれを用いた溶接方法に係わる。さらに詳しくはLPG船のアッパーデッキ等に用いられる低温用鋼を対象とする片面1層溶接時に、強度および低温靭性に優れた溶接金属が得られる簡易片面サブマージアーク溶接に使用する開先充填材およびそれを用いた低温用鋼の溶接方法に関するものである。
ここでいう低温用鋼とは造船に用いられるJIS G3126で「低温圧力容器用炭素鋼鋼板」として規定されるSLA325、SLA360鋼等やこれらと同等の強度を持ち、シャルピー試験温度で−40〜−60℃における靭性を満足する鋼材を総称したものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、造船等の厚鋼板の溶接では、溶接効率の優れた片面サブマージアーク溶接法が一般に用いられているが、入熱量が大きいため溶接部の靭性が劣化する傾向があった。従って、特に低温靭性の要求が厳しいLPG船等の低温用鋼の溶接では、溶接部の低温靭性を満足させるために、溶接入熱を9kJ/mm程度以下規制しなければならず、また適用できる板厚は約16mm以下であった。
【0003】
しかしながら、近年、材質開発の面から上記LPG船等で低温用厚鋼板を片面サブマージアーク溶接する際の母材熱影響部の靭性向上がなされ、板厚25mmまでの低温用厚鋼板を溶接することが可能となった。これらの片面サブマージアーク溶接用低温用鋼としては、例えばTMCP(Thermo Mechanical Control Process)技術により、炭素当量の低減と共にTi脱酸又はAlとTiの複合脱酸を利用した酸化物制御により母材熱影響部の低温靭性を向上させたものが実用化されている。
【0004】
一般に造船等の長さ20mにもおよぶ大板継ぎ溶接に用いられる片面サブマージアーク溶接法としては、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法と簡易片面サブマージアーク溶接法が用いられている。前者は専用の装置を使用し、これの裏当て銅板上に粒状裏フラックスを散布し、その上に被溶接鋼板を配置した状態で、開先のルートに表フラックスを充填して溶接用ワイヤを用いて溶接する方法である。また、後者は、固形耐火性酸化物を主成分とした裏当材上にSiO2が主成分のガラステープを4〜8枚程度配して、それを被溶接鋼板の開先裏面に当接した状態で、表フラックスと開先のルートギャップが大きい場合には鋼粒の開先充填材を充填して溶接用ワイヤを用いて溶接する方法である。
【0005】
従来、上記片面サブマージアーク溶接法で用いられている開先充填材としては、例えば実公昭43−332号公報及び特開昭60−46895号公報等で提案されている。しかしながら、実公昭43−332号公報の開先充填材は、軟鋼およびHT490には適用できても、−60℃の低温靭性が要求されるLPG船などの低温用鋼の溶接には適用できないものである。また、特開昭60−46895号公報には、ガラステープ系裏当て材を用いた場合の裏ビードのスラグ剥離の向上を目的としてPbやBiをを含有する低温用鋼の片面潜弧溶接用開先充填剤が提案されている。しかしながら、裏当材からの冷却が早い片面サブマージアーク溶接法では、高温割れの発生にとってこれら低融点成分の含有は好ましくない。
【0006】
また、本発明者らも、特開平10−263881号公報にて、低温用鋼を片面サブマージアーク溶接する際の開先充填材として、C、Si、Mn、Ni、Al、N、Oを規定すると共に、粒子径を45μmから180μmにした開先鋼充填材を提案した。
しかしながら、その後、検討を重ねた結果、片面サブマージアーク溶接法の中で、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法には適用できるが、これの方法に比べて裏当材の保持力が低く、冷却速度が遅い簡易片面サブマージアーク溶接法では、開先裏面の裏ビード形状の制御や低温靭性の確保が困難であることが判った。
【0007】
簡易片面サブマージアーク溶接法は、固定された装置を用いるフラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法に比べて、造船等の組み立て現場で容易に実施が可能なため、この簡易片面サブマージアーク溶接法を用いた低温用鋼の溶接法の開発が望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術の課題に鑑みて、低温用鋼の簡易片面サブマージアーク溶接において、低温靭性に優れた溶接金属と共に良好な溶接作業性が得られる開先充填材とそれを用いた溶接方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため種々検討し、良好な裏ビード形状と低温じん性が得られる開先充填材とその開先充填材を用いて特定成分の溶接ワイヤおよびボンドフラックスを用いた溶接方法を見出し、本発明を完成した。その発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0010】
(1)簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材において、重量%で、C:0.07%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.6〜1.5%、Ni:2.4〜3.4%、Al:0.002〜0.4%を含有し、P:0.015%以下、S:0.01%以下、N:0.005%以下とした鋼粒であって、かさ比重が4〜6であることを特徴とする簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材。
(2)鋼粒のAl含有量が0.03超〜0.4%であることを特徴とする(1)記載の簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材
(3)粒径が0.5〜2mmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材。
【0011】
(4)低温用鋼鋼板の開先裏面に耐火性酸化物を主成分とする裏当て材を当接させて、1層溶接する簡易片面サブマージアーク溶接方法において、前記開先内に(1)ないし(3)のいずれかに記載の開先充填材を充填し、重量%で、SiO2:10〜20%、MgO:20〜33%、Al2O3:13〜25%、TiO2:5〜15%、CaF2:6〜12%、CaCO3:5〜8%、B2O3:0.2〜0.5%を含有し、かつ下式で定義されるBnが0.8〜1.5であるボンドフラックスと、重量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.05%以下、Mn:0.6〜1.6%、Ni:2.4〜3.4%、Al:0.002〜0.5%を含有し、P:0.015%以下、S:0.010%以下、N:0.005%以下とし、かつワイヤ径が4.4〜6.6mmである鋼製溶接ワイヤとを用いて、前記開先のルートギャップが6mm以下の状態で溶接することを特徴とする低温用鋼の簡易片面サブマージアーク溶接方法。
Bn=(0.108[CaO]+0.068[MnO]+0.10[MgO])/(0.105[SiO2]+0.002[Al2O3])
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、特開平10−263881号公報にて提案した低温用鋼の片面サブマージアーク溶接用開先充填材を基に簡易片面サブマージアーク溶接時の裏ビード形状と溶接金属の機械的特性をさら詳細に調査検討した。
その結果、簡易片面サブマージアーク溶接法とフラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法とでは、裏当て方式の違いによって裏ビード形成能および溶接金属の成分設計に大きな差が生じることが判った。
【0013】
一般に簡易片面溶接は、裏当材として主に耐火性酸化物を含有する粉末を水ガラスで板状にしたものを用い、その上にSiO2が主成分のガラステープを4〜8枚程度配し、それらを被溶接鋼板の開先裏面に当接して溶接する。これに対し、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法では、裏当て銅板が固定された装置として配置され、その上に散布された粒状裏フラックスを介して被溶接鋼板の溶接を行う。このため、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法では、比較的大きな電流で溶接しても、開先裏面が裏当て銅板で保持されているため、裏フラックスの中で生成する裏ビードの高さは、銅板で規制される。これに対して、簡易片面サブマージアーク溶接は、前記の銅板に比べて耐火性が低いガラステープと主に耐火性酸化物からなる裏当材で開先裏面を保持するため、裏ビードは、ガラステープと裏当材の中で生成し、裏ビードの保持力は非常に小さく、溶接不良を防止するための裏ビードの高さ制御が困難である。
【0014】
また、簡易片面サブマージアーク溶接法で用いられる主に耐火性酸化物からなる裏当材は、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法で用いられる裏当て銅板に比べ、溶接金属の冷却効果が小さいため溶接金属の強度や靭性の劣化が大きい。
以上の発明者らの実験結果から、簡易片面サブマージアーク溶接を用いて低温用鋼を溶接する場合は、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法を用いた溶接に比べて、より厳密な溶接条件の管理が必要であることが判った。
【0015】
そこで、本発明者らは、簡易片面サブマージアーク溶接を用いて低温用鋼を溶接する際の溶接条件を詳細に調査検討した。その結果、フラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法に比べ、裏ビードの高さ制御が難しく、かつ溶接金属の冷却能が小さい簡易片面サブマージアーク溶接においては、下記の対策をとる必要があることがわかった。すなわち開先充填材中の成分においてNiのマトリックスの固溶による靭性を確保した上で、Alを増加することにより溶接金属中の酸化物制御及び酸素量調整を行うことでフェライト生成および組織の微細化を図り、強度を過度に上昇させずに低温靭性の向上を図ると共に、開先充填材のかさ比重を規定することにより溶接不良の問題がない良好な裏ビード形状が得られることが判った。
本発明は、上記の充填材と所定成分のボンドフラックスを開先内に充填し、所定成分の溶接ワイヤによって低温用鋼を溶接することにより、−40〜−60℃において良好な靭性が確保できる溶接金属が得られ、かつ裏ビード形状などの溶接作業性の優れた簡易片面サブマージアーク溶接が可能である。
【0016】
本発明の詳細について、以下に述べる。
本発明の開先充填材は、その基本成分として、低C系で、NiとAlを所定量含有し、さらにSi、Mn、Nを規定するものであり、これにより低温で良好な靭性を得ることができる。また、Niが高いので耐高温割れ性の点からP、Sを制限した。さらに、開先内に充填して溶接したときに良好な裏ビードが得られように開先充填材のかさ比重を特定した。また、本発明では、前記開先充填材を用いて、低温用鋼を簡易片面サブマージアーク溶接する際に、溶接金属の良好な低温靭性と良好な溶接作業性を得るために、前記開先充填材の他に、同様な理由でワイヤの成分組成を規制すると共に、ボンドフラックスの塩基度:Bnを規定するものである。
【0017】
まず、本発明の開先充填材の成分組成についてその限定理由を説明する。
Cは0.07%以下であることが必要である。Cは良好な靭性を得るためには低く設定する必要がある。溶接金属で良好な低温靭性を得るためには溶接金属のC量は0.1%以下程度に低くする必要があり、鋼板は0.12%以下であるため母材希釈を考慮して、開先充填材のC量は、0.07%以下とした。
【0018】
Siは0.05%以下であることが必要である。Siは脱酸元素として有用であるが、0.05%を越えると溶接金属の靭性が劣化するするため、その上限を0.05%とした。
【0019】
Mnは0.6〜1.5%であることが必要である。Mnは溶接金属の焼き入れ性を確保し、粒内フェライトの変態核を生成する上で必要である。このようなMnの効果は、0.6%以上で得られるが、1.5%を越えると溶接金属の焼き入れ性が過大となり靭性が劣化する。
【0020】
Niは2.4〜3.4%であることが必要である。Niは溶接金属のマトリックスに固溶してフェライトそのものを高靭性化する。このようなNiの効果は、本溶接金属では2.4%以上で得られる。一方、3.4%を越えるとPおよびSが粒界に析出しやすく、高温割れが生じやすくなるため、その上限を3.4%とした。
【0021】
Alは0.002〜0.4%であることが必要である。Alは溶接金属の酸素量を低くして変態温度を低下させるとともに、その酸化物は、靭性を改善するアシキュラフェライトの変態核として作用する。このようなAlの効果は、0.002%以上で得られるが、0.4%を越えるとベイナイトが生成し溶接金属の強度が過大となり靭性が劣化する。上記の効果をより高めるためには、Alの添加量の下限を0.03%超とすることが好ましい。
【0022】
Pは0.015%以下、Sは0.01以下であることが必要である。本発明では、溶接金属の靭性向上のためにNiを多量に含有するために、PおよびSは粒界に析出して靭性が劣化しやすいので、それぞれ0.015%以下、0.01%以下に制限する。
【0023】
Nは0.005%以下であることが必要である。Nは靭性を劣化させる元素であり、溶接金属の靭性が劣化するので上限を0.005%とした。
【0024】
次に、本発明の開先充填材のかさ比重の限定理由を説明する。
上記のように成分組成を限定しても、良好な溶接ビードと必要溶着金属量を得るためにはかさ比重は4〜6に規定することが必要である。
図1には、本発明の開先充填材のかさ比重と裏ビード高さの関係を示す。
図に示すようにかさ比重が小さいと裏ビードが出易く、大きくなるに従って出方が少なくなる傾向にあり、開先への充填厚が表面からの深さ4mm以下の範囲では、かさ比重が4未満で裏ビードが過大となり、そのため溶着金属量が不足するが、かさ比重が6を超えると裏ビードが出難く過小となり、溶着金属量が過多となり、裏ビード形状不良及び溶接不良の問題が生ずる。
【0025】
本発明では、裏ビード形状を向上させるためにかさ比重を上記範囲に規制することを要件とするが、充填材の粒径が小さいと溶接時に溶接金属で発生するガスの抜けが悪化し、大きすぎると溶け込み難くなるため、さらに、充填材の粒径を0.5〜2mmに規定することが好ましい。
【0026】
次に、本発明の開先充填材を用いた溶接方法の限定理由について説明する。
本発明が対象とする低温用鋼は、主に造船分野でLPG船用等に用いられるものであって、JIS G3126で規定されるもの、またはこれに準ずるものであり、その組成としては重量%でC:0.05〜0.12%、Si:0.05〜0.3%、Al:0.002〜0.045%、Ti:0.005〜0.02%、N:0.005%以下を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなる鋼である。本発明では、上記の成分組成の鋼板をその開先裏面に耐火性酸化物系裏当て材を当接させて1層溶接する、いわゆる簡易片面サブマージアーク溶接方法を用いることを前提とする。
【0027】
本発明では、上記簡易片面サブマージアーク溶接方法において、上記開先充填材を用い、さらに溶接ワイヤおよびフラックスを規定することを要件とするものであり、その限定理由を以下に説明する。
まず、溶接ワイヤの成分組成の限定理由について説明する。
【0028】
Cは0.01〜0.1%であることが必要である。Cは良好な靭性を得るためには低く設定する必要がある。溶接金属で良好な低温靭性を得るためには溶接金属のC量は0.1%以下に低くする必要があり、0.1%以下とした。しかしながら、0.01%未満では脱酸不足となり、靭性が劣化する。
【0029】
Siは0.05%以下であることが必要である。Siは脱酸元素として有用であるが、本溶接金属では0.05%を越えると靭性が劣化するため、その上限を0.05%とした。
【0030】
Mnは0.6〜1.6%であることが必要である。Mnは溶接金属の焼き入れ性を確保し、粒内フェライトの変態核を生成する上で必要である。このようなMnの効果は、0.6%以上で得られるが、1.6%を越えると溶接金属の焼き入れ性が過大となり靭性が劣化する。
【0031】
Niは2.4〜3.4%であることが必要である。Niは溶接金属のマトリックスに固溶してフェライトそのものを高靭性化する。このようなNiの効果は、本溶接金属では2.4%以上で得られる。一方、3.4%を越えるとPおよびSが粒界に析出しやすく、高温割れが生じやすくなる。
【0032】
Alは0.002〜0.5%であることが必要である。Alは溶接金属の酸素量を低くするとともに、その酸化物は、靭性を改善するアシキュラフェライトの変態核として作用する。このようなAlの効果は、本溶接金属では0.002%以上で得られるが、0.5%を越えるとベイナイトが生成し強度が過大となりじん性が劣化する。
【0033】
Pは0.015%以下、Sは0.01以下であることが必要である。本発明では、溶接金属の靭性向上のためにNiを多量に含有するために、PおよびSは粒界に析出して靭性が劣化しやすいので、それぞれ0.015%以下、0.010以下に制限する。
【0034】
Nは0.0050%以下であることが必要である。Nは靭性を劣化させる元素であり、他の靭性対策を施してもじん性が劣化するので上限を0.0050%とした。
【0035】
また、溶接ワイヤ径は4.4〜6.6mmであることが必要である。被溶接鋼板の板厚が小さい場合は、入熱が小さいため、用いる溶接ワイヤ径は小さい方が有利であり、板厚が大きい場合は、太径ワイヤの方が有利であり、それぞれ被溶接鋼板の板厚によって使い分けるが、溶接ワイヤ径が4.4mm未満であると裏ビードが過大で溶着量が不足し、6.6mmを越えると裏ビードが出にくくなり、電流を上げると溶着量が過多となるため、その範囲を4.4〜6.6mmに規定する。
【0036】
また、本発明の溶接法では、溶接金属の酸素制御による靭性向上のため、フラックスとしてはボンドフラックスを用いる。
サブマージアーク溶接用として一般的に用いられる溶融フラックスは酸化物を主成分とするため、溶接金属の脱酸は溶接ワイヤにより行う必要があるが、本発明の溶接ワイヤは、靭性向上のためにC量を低く制限するため脱酸不足となり、低温での靭性向上は望めない。これに対して、ボンドフラックスはフラックス中にCO2を含有し、フラックスによって溶融金属にCが供給されるので脱酸が良好になる。
【0037】
本発明では、上記ボンドフラックスを採用し、さらに溶接金属の酸素制御の点から、フラックスの下記(1)式で定義される塩基度Bnを0.8〜1.5にする。すなわち、Bnが0.8未満では溶接金属中の酸素量が高くなり良好な靭性が得られない。一方、Bnが1.5を越えると酸素が低くなり過ぎかえって靭性が劣化する。
【0038】
本発明でのフラックスの組成の限定理由を説明する。
SiO2 は10〜20%であることが必要である。SiO2は大入熱溶接において良好な溶接ビードを形成するためにもっとも重要な成分であるが、過多になると靭性を劣化させる。すなわち、10%未満では表ビードの揃いが悪く不良となり、20%を越えると良好な靭性が得られない。
【0039】
MgOは20〜33%であることが必要である。MgOは大入熱溶接における作業性確保のために有用な成分である。20%未満では表ビードの表面が乱れ不良となる。一方、33%を越えると、表ビード表面に断続的に突起状ビードが生じる。
【0040】
Al2O3は13〜25%であることが必要である。Al2O3表ビードのスラグ剥離性を確保するために有用な成分である。13%未満では表ビードの剥離性が劣化し、25%を越えると凸ビードとなる。
【0041】
TiO2は5〜15%であることが必要である。TiO2は表ビードの表面の平滑性を得るのに有用な成分である。しかも、靭性向上にも効果がある。このような効果は5%以上の添加で得られるが、15%を越えると表ビード趾端部の立ち上がり角度が大きくなる。
【0042】
CaF2は6〜12%であることが必要である。CaF2は靭性改善に効果があるが、融点が低いため大入熱溶接では、表ビード表面の平滑性が損なわれる。すなわち6%未満では靭性改善に効果がなく。一方12%を越えると表ビードが不良となる。
【0043】
CaCO3は5〜8%であることが必要である。CaCO3は溶接金属中の拡散性水素量を下げることに効果がある。このような効果は6%以上で得られるが、12%を越えるとポックマークが発生し易くなり、表ビードが不良となる。なおこのCaCO3および前記CaF2は先に述べた塩基度Bnの計算においてCaOに換算される。
【0044】
B2O3は0.2〜0.5%であることが必要である。B2O3は靭性向上に効果がある。このような効果は0.2%以上で得られるが、一方0.5%を越えると溶接金属が硬化しかえって靭性が劣化する。
【0045】
以上が本発明の簡易片面サブマージアーク溶接法において必要とする限定条件であり、その他の条件は特に規定する必要はないが、さらに以下の条件で溶接することがより好ましい。
本発明の簡易片面サブマージアーク溶接で対象とする被溶接鋼板の板厚は、対象となる低温用鋼の熱影響部特性と溶接効率の観点から10〜25mmの鋼板とすることが好ましい。
【0046】
また、被溶接鋼板の開先角度およびルートギャップは、特に規定する必要がないが、被溶接鋼板の開先角度は40〜60°で、ルートギャップは、6mm以下にすることがより好ましい。ルートギャップについては、1.5〜6mmで開先充填材による裏ビード形状の制御効果が得られる。
また、開先充填材の開先への散布厚は鋼板表面より深さが4mmを超えると裏ビードが過大となり、溶着金属量が不足するので4mm以下が好ましい。
【0047】
【実施例】
以下実施例により、本発明の効果をさらに具体的に示す。
表1に示すA1〜A8の8種類の開先充填材を作製した。このうちA1〜A4は本発明例の開先充填材、A4〜A8は本発明の効果を明確にするための比較例の開先充填材である。同様に、表2に示すW1〜W5の5種類の組成のワイヤを作製した。このうちW1〜W3は本発明例のワイヤ、W4、W5は本発明の効果を明確にするための比較例のワイヤである。ワイヤ径は全てのワイヤにおいて6.4mmを作成した。W1においてはさらに4.0、4.8、7.2mmを作成した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
フラックスは表3に示すF1〜F11の11種類の組成のボンドフラックスを作製した。このうちF1〜F3は本発明例のフラックス、F4〜F13は本発明の効果を明確にするための比較例のフラックスである。フラックスは水ガラスで造粒し、500℃で1時間焼成し、12×100メッシュに整粒して供試した。
【0051】
【表3】
【0052】
表4に示す鋼板により図2の開先を構成し、表5に示す開先条件を用いて表1の開先充填鉄合金を開先内に散布し、表2のワイヤと表3のフラックスを用いて表5の条件で溶接した。鋼板はSLA325で低温用鋼である。なお図2において1は固形耐火性酸化物を主成分とする裏当材、2はガラステープである。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
溶接が終了してから表ビードと裏ビードを評価した。その後、機械試験とマクロ試験を実施した。板表面7mm下の溶接部よりJIS A1号引張試験片およびJIS4号Vノッチシャルピー試験片をそれぞれ採取して供試した。また、断面マクロ組織から溶接割れの有無を観察した。それらの結果を表6および表7に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
表6および表7の中で記号B1〜B9は本発明の実施例、記号B10〜B24は本発明の効果を明確にするための比較例である。これらの結果、本発明の実施例B1〜B9は溶接作業性も良好であり、かつ割れの発生もなく、引張強度、−55℃のシャルピー吸収エネルギー値とも良好な値を示した。
【0059】
比較例のうちB10は開先充填材のCおよびMnが過多で引張強度が過大となり、かつNiとAlが不足して靭性が劣化した。
比較例のうちB11は開先充材のかさ比重が過小なため裏ビードが過大となり、かつNiとPが過多のため高温割れが発生した。
比較例のうちB12は開先充填材のMnおよびNが過多で引張強度が過大となり、さらにじん性が劣化した。
【0060】
比較例のうちB13は開先充填鉄合金のかさ比重が過大で裏ビードが出にくく過小となった。
比較例のうちB14はワイヤ径が過大で裏ビードが出にくく過小となった。
比較例のうちB15はワイヤ径が過小で裏ビードが過大となった。
【0061】
比較例のうちB16はワイヤのAlが不足し、またNが過大でじん性が劣化した。
比較例のうちB17はワイヤのNiおよびPが過多で高温割れが発生した。
比較例のうちB18はフラックスのBnが過大で引張強度が過大となり、さらにSiO2が過少で表ビードが不揃いとなり、さらにAl2O3が過多で表ビードが凸となった。
【0062】
比較例のうちB19はフラックスのSiO2が過多で、Bnが過小のためじん性が劣化し、またMgOが過少で表ビード表面が乱れた。
比較例のうちB20はフラックスのMgOが過多で表ビード表面に断続的に突起が発生し、TiO2が過小のため表ビードの平滑性が劣った。
比較例のうちB21はフラックスのCaF2が過少およびBnが過少のためじん性劣化した。
【0063】
比較例のうちB22はフラックスのTiO2が過多で表ビードの趾端部が不揃いで、かつCaF2が過多で表ビードの平滑性が劣った。
比較例のうちB23はフラックスのB2O3が過多で溶接金属が硬化し、引張強度が過大となった。
比較例のうちB24はフラックスのB2O3が過少でじん性が劣化した。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したごとく本発明を用いれば、実施例にも示した通り低温用鋼の簡易片面サブマージアーク溶接方法において溶接作業性及び裏ビード形状が良好で溶接割れもなく低温靭性性も良好な溶接部が得られ、大型構造物の溶接に貢献するところが大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】開先充填鉄合金のかさ比重と裏ヒードの高さの関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例に用いた鋼板の開先形状を示す断面図である。
Claims (4)
- 簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材において、重量%で、C:0.07%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.6〜1.5%、Ni:2.4〜3.4%、Al:0.002〜0.4%を含有し、P:0.015%以下、S:0.01%以下、N:0.005%以下とした鋼粒であって、かさ比重が4〜6であることを特徴とする簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材。
- 鋼粒のAl含有量が0.03超〜0.4%であることを特徴とする請求項1記載の簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材。
- 粒径が0.5〜2mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の簡易片面サブマージアーク溶接用開先充填材。
- 低温用鋼鋼板の開先裏面に耐火性酸化物を主成分とする裏当て材を当接させて、1層溶接する簡易片面サブマージアーク溶接方法において、前記開先内に請求項1ないし3のいずれかに記載の開先充填材を充填し、重量%で、SiO2:10〜20%、MgO:20〜33%、Al2O3:13〜25%、TiO2:5〜15%、CaF2:6〜12%、CaCO3:5〜8%、B2O3:0.2〜0.5%を含有し、かつ下式で定義されるBnが0.8〜1.5であるボンドフラックスと、重量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.05%以下、Mn:0.6〜1.6%、Ni:2.4〜3.4%、Al:0.002〜0.5%を含有し、P:0.015%以下、S:0.010%以下、N:0.005%以下とし、かつワイヤ径が4.4〜6.6mmである鋼製溶接ワイヤとを用いて、前記開先のルートギャップが6mm以下の状態で溶接することを特徴とする低温用鋼の簡易片面サブマージアーク溶接方法。
Bn=(0.108[CaO]+0.068[MnO]+0.10[MgO])/(0.105[SiO2]+0.002[Al2O3])
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