JP3683469B2 - ダイオキシン類の分解剤及び分解方法 - Google Patents

ダイオキシン類の分解剤及び分解方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイオキシン類の分解剤及び分解方法に関し、詳しくは、ごみ焼却炉等の各種焼却炉から排出される飛灰及び焼却灰(以下、これらを併せて「焼却灰」と称する)中に含まれるポリ−塩化−p−ジベンゾダイオキシン類(PCDD)やポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDF)、コプラナ−PCB(co−PCB)などの有機塩素化合物(以下、これらを併せて「ダイオキシン類」と称する)を効率的に分解するための分解剤及び分解方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ごみ焼却炉等の焼却炉では、燃焼中にフェノール、ベンゼン等の有機化合物、クロロフェノール、クロロベンゼン等の塩素化芳香族化合物等のダイオキシン類前駆体が発生する。これらのダイオキシン類前駆体は、飛灰が存在すると、その触媒作用によってダイオキシン類となって焼却灰中に存在する。
【0003】
従来、このようなダイオキシン類含有飛灰の処理方法としては、次のような方法が提案されていた。
【0004】
(1) ダイオキシン類含有飛灰を、窒素ガス等の還元性雰囲気下で、320℃では2時間、340℃では1〜1.5時間保持することによりダイオキシン類を分解する方法(ハーゲンマイヤープロセス:Organohalogen Compound, 27, 147-152 (1996),特開昭64−500320)。
【0005】
(2) ダイオキシン類含有飛灰を、ダイオキシン類生成抑制剤(ピリジン)の存在下で、300〜500℃で熱処理する(特開平4−241880号公報)。
【0006】
ダイオキシン類は、従来より、300℃未満では熱分解しないとされており、上記の方法は、この定説通りに、300℃以上に加熱することによってダイオキシン類を分解するものであり、加熱処理中に、ダイオキシン前駆体からのダイオキシン類の生成を抑制するために、ダイオキシン類分解温度域でダイオキシン類生成抑制剤を飛灰に添加している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来の方法には、以下のような問題点があった。
【0008】
(a) 処理温度が高く、処理時間も長いため、必要とするエネルギーが多く、処理コストも高くなる。
【0009】
(b) 冷却時にダイオキシン類が再合成する可能性がある。
【0010】
(c) 窒素ガス等の還元性雰囲気下で処理する必要があるが、酸素を完全には遮断できないために、ダイオキシン類の分解率が低くなる。
【0011】
(d) 部分的に脱塩素反応が進行するため、より毒性の高いダイオキシン類が生成する。
【0012】
本発明は、これらの従来法の問題点を解決し、従来法ではダイオキシン類を分解できないと考えられていた低温度域でも、短時間でダイオキシン類を分解除去することができ、更には酸素の存在下においても、ダイオキシン類を効率よく分解することのできるダイオキシン類分解剤及び分解方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明は、下式I:
【0014】
【化2】
Figure 0003683469
【0015】
(式中、R1及びR2は、同一でも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基又はアリールアルキル基を表し、又はR1とR2とで環を形成していてもよい)
で示される化合物を含むことを特徴とする、ダイオキシン類の分解剤に関する。また、本発明は、上記のダイオキシン類分解剤を、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と接触させることを特徴とする、ダイオキシン類の分解方法にも関する。
【0016】
上記式Iにおいて、「アルキル」は、好ましくはC1〜C8アルキル、特にC1〜C4アルキルであり、具体例としては、メチル、エチル、プロピル、i-プロピル、ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、2−エチルヘキシルなどが挙げられる。また、シクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられ、アリールアルキル基の具体例としては、ベンジル、フェネチルなどが挙げられる。また、R1とR2とで環を形成する場合の具体例としては、テトラメチレン、ペンタメチレン、オキシジエチレンなどが挙げられる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と式Iの化合物を含むダイオキシン類分解剤とを接触させることによって、ダイオキシン類中の塩素原子と式Iの化合物とが反応し、ダイオキシン類の脱塩素反応又は六員環(ベンゼン環)の開裂反応が迅速に進行して、ダイオキシン類が分解される。
【0018】
本発明に係るダイオキシン類分解剤は、式Iの化合物を1種だけ用いてもよく、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明に係るダイオキシン類分解剤においては、上記式Iの化合物を担体に担持させてもよい。用いることのできる担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、ゼオライト、珪藻土、活性炭などを挙げることができる。このような担体上に式Iの化合物を担持させることにより、かかる担体によるダイオキシン類分解の触媒効果も期待され、より効率よくダイオキシン類を分解することが可能になる。
【0019】
本発明によれば、ダイオキシン類中の塩素と式Iの化合物とが反応することにより、従来法ではダイオキシン類は分解しないとされていた300℃よりも低い温度で、ダイオキシン類の脱塩素反応或いは六員環(ベンゼン環)の開裂反応が迅速に進行して、ダイオキシン類が分解される。
【0020】
また、本発明に係るダイオキシン類分解剤と、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質との接触を、加圧条件下で行うことにより、更に低い温度でダイオキシン類を分解することができる。
【0021】
なお、本発明において、「ダイオキシン類含有物質」とは、ごみ焼却炉又は工場焼却炉等の各種焼却炉から排出される排ガス、ダイオキシン類を吸着した焼却灰、ダイオキシン類を吸着処理するために添加された粉末活性炭や、ダイオキシン類で汚染された土壌等をいう。
【0022】
本発明に係るダイオキシン類分解剤を、焼却灰又は捕集された飛灰と接触させてダイオキシン類を分解する場合には、式Iの化合物を、焼却灰又は捕集された飛灰に対して、0.1〜10重量%、特に1〜5重量%の割合で接触させることが好ましい。
【0023】
捕集された飛灰は、焼却炉排ガス中のダイオキシン類の吸着除去剤として焼却炉の煙道に吹き込まれた粉末活性炭を含むものであってもよい。
【0024】
本発明に係るダイオキシン類分解剤を、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と接触させる際の形態は、ガス状、液状、水溶液状のいずれであってもよい。しかし、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質を、ガス状の本発明に係るダイオキシン類分解剤と接触させた場合に最も効率よくダイオキシン類が分解されるので、式Iの化合物としては、300℃よりも低い温度で十分に高い蒸気圧を有するものが好ましい。また、液状又は水溶液の形態の本発明に係るダイオキシン類分解剤を排ガスに噴霧したり、予め焼却灰等と混練りする場合においても、300℃よりも低い温度で十分にガス状になるような蒸気圧を有するものが好ましい。好ましい式Iの化合物の具体例としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラシクロヘキシルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。
【0025】
ダイオキシン類含有物質が、土壌や焼却灰、捕集された飛灰等である場合、本発明に係るダイオキシン類分解剤とダイオキシン類含有物質とを接触させる方法としては、以下のような方法を採用することができる。
【0026】
A.ダイオキシン類含有物質と本発明に係るダイオキシン類分解剤とを混合し、室温下で接触させる。または、この混合物を、300℃よりも低い温度に加熱して、ダイオキシン類分解剤をガス化して、ダイオキシン類と接触させる。これらの場合、本発明に係るダイオキシン類分解剤は、水又はその他の溶媒中に溶解しておいてもよい。
【0027】
B.本発明に係るダイオキシン類分解剤を、300℃よりも低い温度に加熱してガス化し、このガスを含む気流をダイオキシン類含有物質と接触させる。
【0028】
C.本発明に係るダイオキシン類分解剤を、シリカ、アルミナ、ゼオライト、珪藻土又は活性炭等の担体に担持させ、この担持型分解剤をダイオキシン類含有物質と混合するか、或いはダイオキシン類含有物質の上に載せて、300℃よりも低い温度に加熱する。
【0029】
なお、加圧条件下で加熱する場合には、上記の温度は更に低くてもよい。
【0030】
また、ダイオキシン類やダイオキシン類含有物質が、燃焼排ガス等の気流中に、ガス状又は粒子となって浮遊して存在している場合には、本発明に係るダイオキシン類分解剤とダイオキシン類含有物質とを接触させる方法としては、以下のような方法を採用することができる。
D.ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質を含む気流中に、式Iの化合物の気化物或いは該気化物を含むガスを供給する。
E.ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質を含む気流中に、式Iの化合物を、霧状又は液滴状で供給する。
F.ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質を含む気流中に、式Iの化合物を溶解した液を、霧状又は液滴状で供給する。
【0031】
排ガス中の飛灰を捕集する集塵器が排ガス煙道に設けられている燃焼設備においては、集塵器手前の排ガス煙道又は集塵器中に、ガス状、液状又は水溶液の形態の本発明に係るダイオキシン類分解剤を供給するのが好ましい。通常の場合、電気集塵器の集塵器入口におけるガス温度は200〜230℃程度であり、濾過式集塵器の集塵器入口におけるガス温度は140〜200℃程度であるので、この集塵器又はこれよりも上流の煙道に、本発明に係るダイオキシン類分解剤、特に式Iの化合物がテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラシクロヘキシルチウラムジスルフィドであるダイオキシン類分解剤を供給することが好ましい。
【0032】
通常、ダイオキシン類は300℃よりも低い温度では分解しないとされていた。本発明においては、驚くべきことに、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と、本発明に係るダイオキシン類分解剤とを、300℃よりも低い温度で接触させることによって、ダイオキシン類を分解することができる。本発明に係るダイオキシン類分解剤と、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質とを接触させると、ダイオキシン類中の塩素と、式Iの化合物とが反応して、ダイオキシン類の脱塩素反応又は六員環(ベンゼン環)の開裂反応が迅速に進行し、ダイオキシン類が分解される。この接触時の最低温度は、式Iの化合物の蒸気圧又は気化し易さによって決定される。一般に、200℃以上の温度で本発明に係るダイオキシン類分解剤とダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質とを接触させることにより、高い分解率でダイオキシン類を分解することができる。
【0033】
本発明に係るダイオキシン類分解剤と、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質との接触時間が長い程、ダイオキシン類の分解率は向上するが、長い接触時間ではコストが高くなる。本発明においては、ダイオキシン類分解剤とダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質との接触時間は、3〜60分間、特に5〜30分間が好ましい。
【0034】
本発明に係るダイオキシン類分解剤とダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質とは、還元性雰囲気下で接触させても、或いは酸素存在下、即ち大気中若しくは排ガス中で接触させても、ダイオキシン類を効率よく分解させることができる。したがって、本発明に係る方法を実施する場合、雰囲気調整のための設備や作業は不要である。
【0035】
【実施例】
以下の実施例によって、本発明をより具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好ましい態様の例示であり、本発明を限定するものではない。
【0036】
なお、以下の実施例において、ダイオキシン類の濃度は、ガスクロマトグラフ・質量分析法によって、ダイオキシン類(PCDDs・PCDFs Total)の濃度として測定した。
【0037】
実施例1
テトラメチルチウラムジスルフィド5gと、飛灰100g(ダイオキシン類濃度950ng/g)とをよく混合し、容量500mLの蓋付き角型こう鉢へ移し入れた後、室温(20℃)、50℃、100℃、150℃、200℃の各温度で30分間加熱した。その後、処理物のダイオキシン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例2
シリカに吸着させたテトラオクチルチウラムジスルフィド5gと、飛灰100g(ダイオキシン類濃度950ng/g)とをよく混合し、容量500mLの蓋付き角型こう鉢へ移し入れた後、室温(20℃)、50℃、100℃、150℃、200℃の各温度で30分間加熱した。その後、処理物のダイオキシン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例3
テトラベンジルチウラムジスルフィド5gと、飛灰100g(ダイオキシン類濃度950ng/g)とをよく混合し、容量500mLの蓋付き角型こう鉢へ移し入れた後、室温(20℃)、50℃、100℃、150℃、200℃の各温度で30分間加熱した。その後、処理物のダイオキシン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例4
テトラシクロヘキシルチウラムジスルフィド5gと、飛灰100g(ダイオキシン類濃度950ng/g)とをよく混合し、容量500mLの蓋付き角型こう鉢へ移し入れた後、室温(20℃)、50℃、100℃、150℃、200℃の各温度で30分間加熱した。その後、処理物のダイオキシン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例5
ジペンタメチレンチウラムジスルフィド5gと、飛灰100g(ダイオキシン類濃度950ng/g)とをよく混合し、容量500mLの蓋付き角型こう鉢へ移し入れた後、室温(20℃)、50℃、100℃、150℃、200℃の各温度で30分間加熱した。その後、処理物のダイオキシン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
比較例
シリカ粒子5gと、飛灰100gとをよく混合し、実施例1〜4と同様に熱処理を行った。処理物のダイオキシン類濃度を表1に示す。
【0043】
【表1】
Figure 0003683469
【0044】
表1より、比較例では、飛灰を加熱するとダイオキシン類は増加し、室温〜200℃の温度域においては、ダイオキシン類は分解されずに、逆に生成していることが分かる。一方、本発明の実施例においては、200℃以下の温度でダイオキシン類が効果的に分解されていることが分かる。
【0045】
【発明の効果】
本発明に係るダイオキシン類分解剤及び分解方法によれば、従来ダイオキシン類を分解できないとされていた低温度域でダイオキシン類を短時間に分解除去することができ、処理に必要なエネルギーコストの低減、処理効率の向上などが可能になり、処理コストを大幅に低減することができる。更に、本発明によれば、ダイオキシン類の処理雰囲気を還元性雰囲気とすることなしに、大気中又は排ガス中でダイオキシン類の分解除去を実施することができるので、処理設備が簡便で、容易に実施することができる。

Claims (4)

  1. シリカ、アルミナ、ゼオライト、珪藻土又は活性炭から選択される担体に担持されている下式I:
    Figure 0003683469
    (式中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基又はアリールアルキル基を表し、又はRとRとで環を形成していてもよい)
    で示される化合物を含むことを特徴とする、ダイオキシン類の分解剤。
  2. 請求項1に記載のダイオキシン類の分解剤を、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と接触させることを特徴とする、ダイオキシン類の分解方法。
  3. ダイオキシン類の分解剤を、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と、300℃以下の温度で接触させることを特徴とする、請求項2に記載のダイオキシン類の分解方法。
  4. ダイオキシン類の分解剤を、ダイオキシン類又はダイオキシン類含有物質と、加圧下で接触させることを特徴とする、請求項3に記載のダイオキシン類の分解方法。
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