JP3681169B2 - ポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法 - Google Patents

ポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリカーボネート樹脂基材表面に、耐候性、耐水性、耐汚染性、耐湿性、耐候性、耐酸アルカリ性、耐ガソリン性、可撓性等の特性を有する高硬度のハードコート層を、前処理をすることなく形成させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、耐衝撃性などの機械的強度等に優れていることからガラスに代わる構造部材として建物の採光用や車両等の窓用、計器カバー等種々の用途に用いられている。
しかし、ガラスと比較して耐擦傷性、耐候性などの表面特性に劣ることから、ポリカーボネート樹脂成形品の表面特性を改良することが望まれている。特に、表面硬度が劣るという欠点は、ポリカーボネート樹脂製品の耐久性、美観を損ねる等の点で大きな問題となるため、ポリカーボネート樹脂基材の表面には、これら欠点を改善するための硬化塗装(ハードコート層)が施されることも広く行われている。
【0003】
また、ポリカーボネート樹脂成形品の表面硬度を改良する方法として、例えば、メラミン系熱架橋タイプ、シリカ系熱架橋タイプ、紫外線硬化型架橋タイプ等の塗料などを塗布することが行われている。
【0004】
さらに、ポリカーボネート樹脂成形品の耐候性を改良する手段としては、ポリカーボネート樹脂基材の表面に耐候性に優れたアクリル系樹脂フィルムなどをラミネートする方法や共押出等によりポリカーボネート樹脂基材の表面に紫外線吸収剤を含有した樹脂層を設ける方法が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、メラミン系熱架橋タイプ及びシリカ系熱架橋タイプは、塗膜形成に際して比較的高温度の加熱工程を必要とするため、耐熱性の低いポリカーボネート成形品には使用できないという問題点があり、また、適用できたとしても生産性や作業能率が悪い等の他、メラミン系熱架橋タイプは耐水性に劣り、シリカ系熱架橋タイプは塗膜硬化に長時間を要し、作業性に劣るといった問題点もある。
【0006】
これに対し、紫外線硬化型架橋タイプのハードコート用塗料組成物は、紫外線を照射するだけで短時間に硬化塗膜が形成でき、生産性や作業能率の向上、省エネルギー化、省スペース化が図れる等多くの利点を有しており、種々の産業分野において広く利用されるに至っている。
【0007】
従来、最も一般的な紫外線硬化型架橋タイプのハードコート用塗料組成物は、基本的には、ラジカル重合性不飽和基を有するポリマー、オリゴマーもしくはモノマーからなる樹脂成分と、紫外線照射によってラジカルを発生する光開始剤とによって構成されており、該ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂成分として多価アルコールの誘導体である多官能性ポリマー、オリゴマーもしくはモノマーを用いて架橋密度の高い塗膜を形成させ、これによって表面硬度の向上が図られている。
【0008】
しかしながら、架橋密度の高い紫外線硬化型ハードコート用塗料組成物は、硬化時の塗膜の収縮応力が大きいため、該ハードコートを厚塗りした場合、塗膜剥離や塗膜にクラックが生じ易いといった問題点がある。また、基材となるポリカーボネート樹脂が湾曲した形状を呈している場合や折り曲げ加工した場合には、該ハードコート層の剥離が促進されるという問題がある。
このため、該ハードコート用塗料組成物の塗布は、比較的薄い塗膜厚となるように形成されるのが一般的であるが、塗膜厚が薄いと成形品表面に存在するウェルドライン、型傷等の凹凸状の表面欠陥を充分に補正することがきわめて難しいという問題点がある。
また、一般に、ポリカーボネート樹脂基材は前記塗料との密着性が悪いため、基材上に予めプライマーコート形成やプラズマ処理という前処理を行った後にハートコート層を形成させるという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記のごとき現状に鑑みなされたもので、ポリカーボネート基材表面に、密着性に優れると共に、耐水性、耐汚染性、耐湿性、耐候性、耐酸アルカリ性、耐ガソリン性、可撓性のある高硬度のハードコート層を、予めプライマーコート形成やプラズマ処理という前処理を行うことなく、形成させてなるポリカーボネート樹脂積層体の提供を目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に記載のポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法は、ポリカーボネート樹脂基材表面に、プライマーコート層を塗布したりポリカーボネート樹脂基材表面をプラズマ照射処理を行って活性化させるなどの、前処理を施すことなく(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分及び(C)無機酸化物成分からなるハードコート層を形成させる方法であって、
上記(A)樹脂成分と(B)硬化剤成分の配合割合を、
(B)硬化剤成分がイソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基を1分子中に2個以上含有するポリイソシアネート化合物である場合は、
(A)樹脂成分のヒドロキシル基に対する(B)硬化剤成分中のイソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基のモル比を0.6〜1.6の範囲とし、
(B)硬化剤成分がアミノプラスト樹脂である場合は、
(A)樹脂成分と(B)硬化剤成分の不揮発分重量比を97:3〜60:40の範囲とし、
これに、(C)無機酸化物成分を加え、さらに、沸点が120℃〜160℃のポリカーボネート樹脂を溶解する溶剤を添加して塗料組成物とし、この塗料組成物をポリカーボネート樹脂基材表面にスプレー塗りや浸漬塗りなどの手段により塗布して、加熱硬化させてハードコート層を形成することを特徴とする。
請求項2に記載のポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法は、請求項1において、上記(C)無機酸化物成分が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム及び酸化アンチモンの中から選ばれた少なくとも1種の無機酸化物の分散体を含有するものであることを特徴とする。
請求項3に記載のポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法は、請求項1又は2において、上記溶剤が、グリコール又はフェノール成分を有するものであることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記構成からなる本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、ポリカーボネート樹脂基材表面に、前処理をすることなく(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分、(C)無機酸化物成分からなるハードコート層を形成させてなるものである。以下本発明のポリカーボネート樹脂積層体の構成を説明する。
【0012】
(基材となるポリカーボネート樹脂)
本発明のポリカーボネート樹脂積層体において用いるハードコート用塗料組成物を塗布するポリカーボネート樹脂基材としては、カルボン酸誘導体と、芳香族、脂肪族または両者混合のジオールの反応から誘導される特定のポリエステルであればよく、特にその種類を制限するものではない。ビスフェノールAポリカーボネイトタイプのもの、それ以外のタイプ(例えば、ビスフェノールAとテトラブロモビスフェノールAに基づく共重合ポリカーボネイト)のものを、用いることができる。
また、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が用いられ、その重合体骨格に脂肪酸ジオールに由来する構造単位が含まれていても、エステル結合を持つ構造単位が含まれていても良い。
分子量についても特に限定しないが、押出成形性や機械的強度の観点から、粘度平均分子量で2万〜3万のものが好ましい。
基材となるPC樹脂の形状は特に制限はなく、基材として基板を用いる場合はその厚みについては問わないが、シートとして成形可能な厚みである0.1〜15mm程度が好ましい。さらに好ましくは、1.0〜5.0mmである。
【0013】
次に、本発明方法において、上記ポリカーボネート樹脂基材上に塗布されるハードコート層形成塗料組成物について説明する。本発明に用いるハードコート層形成塗料組成物としては、(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分、(C)無機酸化物成分、からなるものであることが好ましい。
【0014】
以下、本発明に用いるハードコート層形成塗料組成物について詳しく説明する。
(A)樹脂成分としては、(a)炭素数1〜12のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸のエステル:10〜90重量%、(b)重合性二重結合を有するヒドロキシル基含有単量体:10〜50重量%、(c)重合性二重結合を有するカルボキシル基含有単量体:0.1〜10重量%を共重合させて得られるものであることが好ましい。
さらに、上記(a)、(b)、(c)に加えて、(d)スチレン:0〜20重量%、(e)アクリロニトリル:0〜20重量%、(f)重合性二重結合を有するその他の単量体:0〜10重量%、を共重合させて得られるものであることも好ましい。
上記(A)樹脂成分としては、さらに下記要件を具備するものであることが好ましい。ガラス転移温度:50〜120℃、数平均分子量:2,000〜100,000、水酸基価:50〜150mgKOH/g、酸価:1〜25mgKOH/gであることが好ましい。
【0015】
上記(B)硬化剤成分としては、イソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基を1分子中に2個以上含有するポリイソシアネート化合物、及びアミノプラスト樹脂から成る化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有するものであることが好ましい。
【0016】
上記(C)無機酸化物成分としては、酸化アルミニウムゾル、酸化ケイ素ゾル、酸化ジルコニウムゾル及び酸化アンチモンゾルの中から選ばれた少なくとも1種の無機酸化物ゾルの分散体を含有するものであることが好ましい。
また、上記(C)無機酸化物成分の不揮発分は、(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分、(C)無機酸化物成分の全不揮発分の重量に基づき5〜60重量%であることが好ましい。
【0017】
上記(A)樹脂成分は、ガラス転移温度が50〜120℃の範囲であることが好ましい。
ガラス転移温度が50℃未満であると、得られるハードコート層塗膜は可撓性、硬度が不十分で高耐候性のものが得られにくく、120℃を超えると、塗膜を形成する際の作業性が悪くなるとともに、得られる塗膜は鮮映性・光沢などの外観が低下する。したがって、塗膜の可撓性、硬度、外観、汚染物除去性、作業性などの観点から上記範囲が好適である。
【0018】
さらに、上記(A)樹脂成分として用いられる樹脂は、数平均分子量が2,000〜100,000の範囲であることが好ましい。
数平均分子量が3,000未満であると、得られる塗膜の耐候性が不十分である可能性があり、100,000を超えると、塗膜形成時の作業性が低下するおそれがある。
【0019】
また、上記(A)樹脂成分として用いられる樹脂の水酸基価は50〜150mgKOH/gの範囲であることが好ましい。水酸基価が50mgKOH/g未満であると、得られる塗膜は架橋密度が不十分となる可能性があり、可撓性、高耐汚染性・高汚染物除去性のものが得られにくく、150mgKOH/gを超えると、塗膜の構造が緻密になりすぎて塗膜形成時の収縮応力が大きくなり、塗膜にクラックなどが生じ易くなる。したがって、ポリカーボネート樹脂との密着性、塗膜の可撓性、耐汚染性・汚染物除去性・クラック発生の抑制などの面から上記範囲が好適である。
【0020】
さらに、上記(A)樹脂成分として用いられる樹脂の酸価は1〜25mgKOH/gの範囲であることが好ましい。酸価が1mgKOH/g未満であると、無機酸化物分散性が悪くなり、無機酸化物の沈降・凝集などの不都合が生じ易く、25mgKOH/gを超えると、塗料のポットライフなどが極端に低下する傾向が見られる。したがって、無機酸化物分散性・塗料の貯蔵安定性・ポットライフなどの面から、酸価は2〜20mgKOH/gの範囲が好ましい。
【0021】
本発明においては、上記(A)樹脂成分は、必須成分として、(a)炭素数1〜12のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸のエステル、(b)重合性二重結合を有するヒドロキシル基含有単量体、(c)重合性二重結合を有するカルボキシル基含有単量体、を共重合させて得られるものであることが好ましい。上記(a)成分の炭素数1〜12のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸のエステル(以下「アクリル系エステル」ということがある)は、全単量体の重量に基づき10〜90重量%の割合で使用することが好ましい。アクリル系エステルは、塗膜のガラス転移温度を調節するのに必要不可欠な成分であるが、そのアルコール部分のアルキル基の炭素数が12を超えると、得られる樹脂のガラス転移温度が低くなりすぎる傾向が見られるので好ましくない。
【0022】
また、上記アクリル系エステルの使用量が10重量%未満であると、その他の重合性の低い単量体を用いないと得られる樹脂のガラス転移温度を50℃以上にすることができず、仮に重合性の低い単量体を使用すると塗膜の耐候性が著しく低下するので好ましくない。一方、90重量%を超えると、樹脂に所要量のヒドロキシル基やカルボキシル基を導入することができず、高耐候性、高耐汚染性、高汚染除去性を有する塗膜が得られにくくなり好ましくない。したがって、アクリル系エステルの使用量は上記範囲にすることが好ましい。
上記(a)成分のアクリル系エステルを形成する炭素数1〜12のアルキルアルコールは、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基を有するアルコールのいずれであっても差し支えない。上記(a)成分のアクリル系エステルの好適な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシルなどである。これらのうちの1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
次に、必須単量体成分として用いられる(b)成分の重合性二重結合を有するヒドロキシル基含有単量体は、全単量体の重量に基づき10〜50重量%の割合で使用することが好ましい。この使用量が10重量%未満であると、得られる樹脂に必要な架橋点を導入することができず、高耐候性、高耐汚染性、高汚染除去性を有する塗膜が得られず好ましくない。一方、50重量%を超えると塗膜の架橋密度が高く成りすぎたり、あるいは得られる樹脂と(B)硬化剤成分との架橋反応の際に、樹脂中に未反応のヒドロキシル基が残存し、塗膜の耐水性や耐湿性を低下させ、ひいては塗膜の耐候性を低下させる原因となり好ましくない。樹脂に適正な数の架橋点を導入し、所望の好ましい物性を有する塗膜を得るには、この(b)成分の単量体の好ましい使用量は10〜30重量%の範囲とすることが好ましい。(b)成分の重合性二重結合を有するヒドロキシル基含有単量体は、重合性二重結合およびヒドロキシル基をそれぞれ1個以上有するものとすることが好ましい。
(b)成分の単量体の好適な例としては、ヒドロキシエチルメタクリレート、1,4−ブタンジオールモノメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、1,4−ブタンジオールモノアクリレートなどが挙げられる。これらのうちの1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
また、必須単量体成分として用いられる上記(c)成分の重合性二重結合を有するカルボキシル基含有単量体は、全単量体の重量に基づき0.1〜10重量%の割合で使用することが好ましい。この使用量が0.1重量%未満であると、得られる樹脂の酸価が小さくなりすぎ、エナメル塗料系において顔料分散性が悪くなって、塗料貯蔵時に顔料の沈降、凝集などの不都合が生じ好ましくない。一方、10重量%を超えると、塗料の貯蔵安定性、ポットライフなどが著しく低下する傾向がみられ好ましくない。したがって、塗料の分散性・塗料の貯蔵安定性・ポットライフなどの面から、上記範囲が好適である。
【0025】
上記(c)成分の重合性二重結合を有するカルボキシル基含有単量体は、重合性二重結合およびカルボキシル基をそれぞれ1個以上有するものが好ましい。上記(c)成分の単量体の好適な例としては、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げら、これらのうちの1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
次に選択成分(d)、(e)、(f)について説明する。(d)スチレンは、塗膜の鮮映性などの外観を向上させる目的で必要に応じて用いることが好ましい。この場合は、単量体全重量に基づき、20重量%以下の割合で用いることが好ましい。スチレンの使用量が20%を超えると、得られる塗膜の耐候性、耐汚染性、耐染除去性が低下する傾向がみられ、塗膜の鮮映性などの外観も考慮すると、1〜18重量%の範囲がさらに好ましい。
【0027】
(e)アクリロニトリルは、塗膜の密着性や耐衝撃性などを向上させる目的で必要に応じて用いることが好ましい。この場合は、単量体全重量に基づき、20重量%以下の割合で用いることが好ましい。アクリロニトリルの使用量が20%を超えると、得られる塗膜の耐候性、耐汚染性、耐染除去性が低下する傾向がみられ、塗膜の密着性、耐衝撃性なども考慮すると、1〜18重量%の範囲がさらに好ましい。
【0028】
(f)重合性二重結合を有するその他の単量体は、塗膜の設計上用いる成分で必要に応じて用いることが好ましい。この場合は、単量体全重量に基づき、10重量%以下の割合で用いることが好ましい。この使用量が10%を超えると、所望の塗膜物性が得られにくくなる傾向がみられ、バランスなども考慮すると、1〜7重量%の範囲にすることがさらに好ましい。
【0029】
上記単量体を上記割合で公知の方法で共重合させることにより、(A)樹脂成分が得られる。公知の方法としては、有機溶媒中における溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、沈殿重合などの方法を用いることができる。重合形式については、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合のいずれも用いることができる。
【0030】
PC樹脂表面上のハードコート層の形成において、(B)硬化剤成分として、イソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基を1分子中に2個以上含有するポリイソシアネート化合物、アミノプラスト樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。
【0031】
上記ハードコート層を形成する塗料組成物においては、(A)樹脂成分と(B)硬化剤成分の配合割合は、(B)硬化剤成分がイソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基を1分子中に2個以上含有するポリイソシアネート化合物である場合は、(A)樹脂成分のヒドロキシル基に対する(B)硬化剤成分中のイソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基のモル比が0.6〜1.6の範囲であることが好ましい。さらに好ましい範囲は、0.8〜1.2である。
このモル比が0.6未満であると、(B)硬化剤成分のポリイソシアネート化合物と(A)樹脂成分の樹脂との架橋反応に際し、樹脂中のヒドロキシル基が一部未反応で残存することがあり、得られる塗膜の耐水性や耐湿性が低下し、ひいては塗膜の耐候性が悪化する原因となることがあるので好ましくない。一方、モル比が1.6を超えると、イソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基が未反応で残存することがあり、この場合も塗膜の耐水性や耐湿性が低下し、ひいては塗膜の耐候性が悪化する原因となることがあるので好ましくない。
(B)硬化剤成分がアミノプラスト樹脂である場合は、(A)樹脂成分と(B)硬化剤成分との不揮発分重量比が97:3〜60:40の範囲であることが望ましい。アミノプラスト樹脂の割合が、97:3の配合比よりも少ないと塗膜の架橋密度が低く耐溶剤性などが劣ることがあり、60:40の配合比よりも多いと塗膜の可撓性が低下するなどのおそれがある。
【0032】
本発明の樹脂積層体において形成されるハードコート層形成塗料組成物においては、上記(C)無機酸化物成分として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アンチモンの中から選ばれた少なくとも1種の無機酸化物の分散体を含むことが好ましい。(C)無機酸化物成分の分散体としては、スノーテックス(日産化学工業(株)製、商品名)などの無機酸化物ゾルなどを前記樹脂成分中に含有させることが好ましい。(C)無機酸化物成分は、1種用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。その配合量は、ハードコート層形成層の1〜20重量%になるようにすることが好ましい。1重量%未満であると、無機酸化物分散体を添加した効果が十分発揮されず、塗膜の耐汚染性、汚染除去性、耐候性の向上がみられない。一方、20重量%を超えると、塗膜の可撓性が低下する傾向がみられるので好ましくない。また、無機酸化物分散体の平均粒径は、100nm以下とすることがハードコート層の透明性を維持する観点から好ましい。
【0033】
また、ハードコート層には、適切な顔料、染料、光輝剤等を適正量配合させてエナメルとしてもよい。そのため、クリヤー塗料だけでなく、着色顔料を配合して被塗物を着色したりするなどの意匠性を付与することも可能である。
【0034】
本発明の樹脂積層体において用いるハードコート層形成塗料組成物として市販の塗料としては、例えば、日本油脂株式会社製無機酸化物系塗料(商品名「ベルクリーン#5000」)等が好ましく用いられる。本発明の樹脂積層体において用いるハードコート層形成塗料組成物の調製方法については特に制限はなく、各必須成分及び所望の各種添加剤を任意の順序で混合する方法や、その他様々な方法を用いることができる。
【0035】
上記塗料に加えることのできる稀釈剤としての有機溶剤は、沸点が120℃〜160℃の、ポリカーボネート樹脂を溶解する溶剤が挙げられる。ポリカーボネート樹脂を溶解する有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、塩化メチレン、ケトン類、芳香族炭化水素などが挙げられる。また、ポリカーボネート樹脂の原料であるグリコールや2価のフェノール成分を有するものも挙げられる。
【0036】
また、これらの溶剤は、沸点が120℃〜160℃のものであることが必要である。沸点を特定した理由は、ポリカーボネート樹脂との密着性、ハードコート層の可撓性、耐汚染性・汚染物除去性・クラック発生の抑制などの面が劣ることになりことから上記範囲が好適である。沸点が120℃未満であると、急速な乾燥のためハードコート層にクラックが発生しやすくなり、160℃を超えると乾燥に時間を要し塗装作業性が劣ることとなり好ましくない。
【0037】
好適な有機溶剤の一例としては、ジイソブチルケトン、モノクロルベンゼン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチル正アミルケトン、アセトン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチル正ヘキシルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、メジシルオキシド、カルビトール、グリシドール、グリコールエーテル、ベンジン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコール酢酸エーテル、エチレングリコール酢酸メチルエーテル、ジヒドロキシベンゼン、トルエン、キシレン、等が挙げられる。
【0038】
これらの有機溶剤を塗料成分に添加して用いることにより、塗料乾燥までにポリカーボネート基材表面の溶解エッチングが生じ、ハードコート層の密着性が向上するものと考えられる。したがって、本発明において、上記有機溶剤の沸点の特定は、ハードコート層が乾燥するまでの時間と、基材であるポリカーボネートの表面をエッチングするに十分な時間を調和させたものである。
【0039】
本発明においては、上記のような有機溶剤を用いることにより、表面洗浄、脱脂、除電及びエアーブローで基材表面の清浄化をする他は、従来行っていたハードコート層形成前の前処理を行う必要はない。本発明でいうところの前処理とは、基材であるポリカーボネート樹脂の表面にハードコート層を密着させるため行う処理をいい、例えば、基材とハードコート層の間にプライマーコート層(下塗り塗装)を介在させる処理や、基材表面をプラズマ照射処理を行い活性化させる処理などをいい、前記表面洗浄、脱脂、除電及びエアーブローで基材表面の清浄化の処理は含まない。本発明では、この前処理省略により、ハードコート層形成処理の省力化、省資源化が図れ、トータル的な環境改善につなげることができる。
【0040】
上記ハードコート層の形成は、塗料業界で公知の種々の塗装方法、例えば、スプレー塗り、浸漬塗り、ローラーコート、カーテンフローコート、静電塗装等によって行なうことができ、形成されるハードコート層の厚さは、乾燥後の厚さで3〜50μmの範囲にするのが好ましい。3μm未満であると本発明の効果が発揮されず、50μmを超すと可撓性などの点で問題が生ずる恐れが有るが、特にこの数値は絶対的なものではない。また、ハードコート層形成においては70〜100℃で20〜80分間の加熱で硬化させることが望ましい。
【0041】
本発明のポリカーボネート樹脂積層体としては、例えば、電気・電子・OA部品、精密機器、自動車、医療、保安、船舶、鉄道車両、航空機、家具、楽器、建築材料、道路資材、容器、事務用品、スポーツ用品などが挙げられる。特に好ましくは、コンピューター・OA機器やVTR・TV、カメラ・時計等の外装、自動車用ランプ・眼鏡等に用いられるレンズ、ゴーグル、保護めがね、照明器具のカバー、二輪車の風防、盾、ヘルメット、自動車ドアーアウターハンドル、窓、各種カバー、各種板などの建材、フィルム類、玩具、その他室内調度品の部品、等に適用できる。
【0042】
【実施例】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。本発明を、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、実施例中の各成分の配合組成は特にことわりのないかぎり重量部で示した。
【0043】
(実施例1)
表1の実施例1に示すように、(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分、(C)無機酸化物成分割合の塗料組成物に、ジプロピルケトン溶剤にてフォードカップNo.4の20℃における粘度が15秒になるように希釈し、エアスプレー(霧化圧5kg/cm2 )で試験板上に乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、80℃で30分間強制乾燥した。さらに、室温で3日間放置してハードコート層を形成した。
【0044】
(実施例2〜4)
表1の実施例2〜4に示すように、(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分、(C)無機酸化物成分の割合、溶剤種類を代えて、実施例1と同じようにして試験板上に乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、80℃で30分間強制乾燥した。さらに、室温で3日間放置してハードコート層を形成した。
【0045】
(評価)
以上のようにしてポリカーボネート樹脂基材上に形成されたハードコート層(塗膜)の評価については、JISに準拠した方法によって行ったものである。すなわち、塗膜外観、塗膜密着性(JISK 5400、6.15碁盤目試験法」に従う)、耐候性、鉛筆硬度、耐水性、マジック汚染性、耐湿性、耐冷熱繰り返し性、耐酸性、耐アルカリ性、耐ガソリン性、耐衝撃性の項目を評価し、その結果を表2に示した。
なお、この評価はハードコート層について表2の備考に記載した方法により行ったものであるが、耐ガソリン性についての評価は、ハードコート層を23℃、72時間、市販の無鉛ガソリンに浸漬後に行なった。表2に示す結果から、本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、いずれの項目においても優れた結果であった。
【0046】
本発明のポリカーボネート樹脂積層体表面のハードコート層は、無機酸化物成分を有するものであって、可撓性、耐候性、耐汚染性、及び汚染除去性に優れ、かつ良好な外観、耐水性、耐薬品性を有する塗膜を与える上、環境保全性や安全性が高いなど、優れた特徴を有している。
【0047】
【表1】
Figure 0003681169
【0048】
【表2】
Figure 0003681169
【0049】
【発明の効果】
本発明は、プラズマ照射やプライマー塗布などの前処理を特に必要とせず、ポリカーボネート樹脂成形品表面の上に直接ハードコート層を形成せしめるだけの簡単な方法で、ポリカーボネート樹脂成形品表面硬度を改善することができるという優れた効果を有し、さらに、得られたハードコート層は可撓性に優れているので、ハードコート層にクラックなどが形成されにくい。

Claims (3)

  1. ポリカーボネート樹脂基材表面に、プライマーコート層を塗布したりポリカーボネート樹脂基材表面をプラズマ照射処理を行って活性化させるなどの、前処理を施すことなく(A)樹脂成分、(B)硬化剤成分及び(C)無機酸化物成分からなるハードコート層を形成させる方法であって、
    上記(A)樹脂成分と(B)硬化剤成分の配合割合を、
    (B)硬化剤成分がイソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基を1分子中に2個以上含有するポリイソシアネート化合物である場合は、
    (A)樹脂成分のヒドロキシル基に対する(B)硬化剤成分中のイソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基のモル比を0.6〜1.6の範囲とし、
    (B)硬化剤成分がアミノプラスト樹脂である場合は、
    (A)樹脂成分と(B)硬化剤成分の不揮発分重量比を97:3〜60:40の範囲とし、
    これに、(C)無機酸化物成分を加え、
    さらに、沸点が120℃〜160℃のポリカーボネート樹脂を溶解する溶剤を添加して塗料組成物とし、
    この塗料組成物をポリカーボネート樹脂基材表面にスプレー塗りや浸漬塗りなどの手段により塗布して、加熱硬化させてハードコート層を形成することを特徴とするポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法。
  2. 上記(C)無機酸化物成分は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム及び酸化アンチモンの中から選ばれた少なくとも1種の無機酸化物の分散体を含有するものである、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法
  3. 上記溶剤が、グリコール又はフェノール成分を有するものである、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂基材表面にハードコート層を形成させる方法。
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