JP3680805B2 - 探触子ホルダー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、搬送中の被検査材に超音波を照射して被検査材の内部欠陥を検出するための超音波探傷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
レール等の形鋼は1300度以上に加熱した鋼片を、カリバーと呼ばれる上下の圧延ロール間の穴型を通すことによって圧延製造される。圧延されたレールは所定の長さに切断され冷却されるが、レールの形状は一様ではなく部位ごとに冷却速度が異なるため、冷却した時点で曲がりが生じる。この曲がりはロールを千鳥状に配置したローラー矯正機によって修正される。ローラー矯正機で曲がりを修正されたレールは、長さ、形状等の検査を行った後搬送されるが、この搬送途中で表面欠陥と内部欠陥の検査が行われる。そして両端部を切落して所定の長さに揃えられ、さらに曲がり修正の必要があるものはプレス矯正される。
【0003】
以上の一連の製造過程で行われる品質検査の内、内部欠陥の検査に関しては一般的に超音波探傷が用いられており、搬送中のレールの超音波探傷技術としては、次の2つの方法が知られている。
【0004】
その1つの方法は、超音波探触子(以下、「探触子」という)をホルダー内に装着し、該ホルダーを被検査材に接材させて被検査材表面と探触子間の距離を一定に保ちながら探傷する方法である。そして、この方法には、ホルダー内に水を充満させこの水を通して超音波を被検査材に照射する局部水浸法と、ホルダー内には水を用いずに探触子として分割型探触子を用いるギャップ法とがある。
【0005】
他の1つの方法は、水柱超音波法と呼ばれているもので、探触子を装着したホルダーと被検査材との間に一定の間隔を設け、探触子を装着したホルダーから水を噴射させ、ホルダーと被検査材との間に水柱を形成させてこの水柱を通して超音波をレールに照射させ探傷するものである。
【0006】
さらに、特開平10−282069号公報に開示された技術では、探触子ホルダーを被検査材に位置決めする際には、表面反射エコーが最大になるように探触子ホルダーの角度調整が容易に行える機構が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
探触子をホルダーに装着しホルダーを被検査材に密着させて探傷する方法のうち、ギャップ法では探触子と被検査材表面との間隙を0.5mm程度と微小な値に保持することと、分割型探触子の音響分割面である遮蔽板の突起によって超音波発信側から被検査材表面と探触子間での多重反射エコーが受信側に入り込むことを防止することが必要である。
【0008】
ところで、レールでは曲がりを矯正するためのローラー矯正機を通すことによって、圧延時に生じたレール表面のスケールが破壊され密着状態から剥がれ易い状態になっている。そのため、表面のスケールが浮いた状態の表面性状のものを探傷した場合には、遮蔽板の突起が削られて消耗し、また遮蔽板の突起は破損しやすいため長期にわたって健全に保つことが困難となる。そして、遮蔽板の突起に損傷をきたすと超音波発信側からレール表面と探触子間での多重反射エコーが受信側に入り込んでしまいノイズが増加し信頼性の高い探傷ができなくなってしまう。
【0009】
一方、局部水浸法は遮蔽板の損傷といった問題は生じないが、レールのように表面のスケールが浮いた状態の被検査材を探傷した場合、探傷中にレール表面から剥離したスケールがホルダー内の水溜めに侵入し、このスケールと被検査材表面あるいはスケールと探触子の間で超音波が多重反射してノイズが発生する結果、信頼性の高い探傷ができないという問題がある。
【0010】
このように、ホルダーを被検査材に接材させて探傷する方法では、表面のスケールが剥離し易い被検査材を対象として信頼性の高い超音波探傷を行う方法は未だ確立していなかった。
【0011】
水柱超音波法では、上述の剥離スケールの混入に伴うノイズの問題は生じないが、搬送中の被検査材が上下左右に位置変動することによって水柱の形状が変化し、このために超音波が水柱内で反射を起こしてノイズが発生する場合がある。これに対し探触子ホルダーは常に被検査材と所定の距離を保ったまま、被検査材に精度良く追従して動く必要があるが、このための倣い制御装置が必要となり設備コストが高価となる。
【0012】
したがって、簡便な機構で搬送中の被検査材の位置変動に柔軟に追従することのできる倣い機構が望まれていた。
【0013】
さらに、特開平10−282069号公報に開示された技術では、探触子ホルダーを被検査材に対してプリセットする際は、各レールの軌種に対応して表面反射エコーが最大になるように角度調整を行うが、この場合、各プローブに角度調整機構と、その制御を行うための機能が必要となるため機構が複雑なってしまう。そして、レール断面の探傷カバー範囲を広げるためにはこのような機構を備えた多数の探触子を取り付ける必要があり、装置が大掛かりになるばかりか装置の製作費用の高騰を招くこととなる。
【0014】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、ホルダーを被検査材に接材させて探傷する方法を用いて、表面のスケールが剥離し易い被検査材を対象として信頼性の高い超音波探傷を行うことができ、また搬送中の被検査材の位置変動に柔軟に追従することができ、また簡便に探傷領域を拡大することのできる探触子ホルダー、超音波探傷方法及び探傷装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解消するための本発明は、超音波探触子を有する探触子ホルダーの超音波を発射する開口部に音響インピーダンスが前記探触子ホルダー内部に供給される音響媒体とほぼ同一の透過部材を設け、前記探触子ホルダーを被検査材に接材したときの、前記被検査材表面と前記透過部材との間に前記探触子ホルダー内から前記音響媒体を供給して満たすための間隔を、前記透過部材が前記被検査材に接材しないようにして設け、かつ、前記間隔を被検査材中での超音波伝播速度に対する音響媒体中での超音波伝播速度の比率を被検査材表面からの表層不感帯に乗算した値以下とし、この透過部材を通して被検査材に超音波を照射するように構成されることを特徴とする探触子ホルダーである。
【0016】
また本発明は、超音波探触子を有する探触子ホルダーの超音波を発射する開口部に音響インピーダンスが前記探触子ホルダー内部に供給される音響媒体とほぼ同一の透過部材を設け、前記探触子ホルダーを被検査材に接材したときの、前記被検査材表面と前記透過部材との間に前記探触子ホルダー内から前記音響媒体を供給して満たすための間隔を、前記透過部材が前記被検査材に接材しないようにして設け、かつ、前記透過部材と前記被検査材との間隔を、被検査材表面からの表層不感帯の1/4以下とし、この透過部材を通して被検査材に超音波を照射するように構成されることを特徴とする探触子ホルダーである。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る超音波探傷装置の実施の形態を、レールの超音波探傷装置を例として説明する。
【0023】
図1は本発明に係る超音波探傷装置の正面図、図2は側面図である。
【0024】
図1および図2において、基礎面上には、被検査材であるレール1の搬送方向と直交する方向に軌道32a、32bが敷設されており、この軌道32a、32b上を走行する台車3は、下面に設けられた車輪31a、31b、31c、31dによって図1の左右方向に移動可能になっている。
【0025】
以下、台車の進行方向を左右方向として説明する。
【0026】
そして、台車3上にはスライド機構7a、7b、7c、7dが配設され、さらに機構枠2がこのスライド機構7a、7b、7c、7d上を左右方向に移動自在に積載されている。また、台車3上の左右端部にはこの機構枠2を所定の位置に移動させるためのエアーシリンダで構成されるセンタリング装置8a、8bが設けられている。
【0027】
機構枠2は直方体形状で構成され、レール1がこの機構枠2の内部を貫通して搬送されるように少なくともレール1の搬送方向の前後2方向に開口部を有している。
【0028】
以下、レール1の搬送方向を前後方向として説明する。
【0029】
機構枠2の天井にはパルスモータ41を備えた昇降装置4が設けられており、このパルスモータ41の回転軸と図示しない歯車機構を介して歯合するボールネジ42a、42b、42c、42dを立設した昇降フレーム43が機構枠2の内部にボールネジ42a、42b、42c、42dを昇降装置4のネジ孔に螺合して懸架されている。
【0030】
この昇降フレーム43にはエアシリンダ44がロッド45を下向きにして搭載され、昇降フレーム43を貫通するロッド45の先端には上部フレーム5がその面を機構枠2の天井面と平行になるように接続されている。さらにこの上部フレーム5は平行リンク機構51a、51b、51c、51dによって機構枠2の天井に設置されたそれぞれの支点部と接続されている。
【0031】
そして、上部フレーム5の前後端部下面には倣いロール52a、52bが取り付けられると共に、レール1の頭頂用探傷ホルダー9をその1端で回動自在に接続するアーム91、レール1の頭側用探傷ホルダー10、11をその1端で回動自在に接続するアーム101、111及びレール1のウエブ用探傷ホルダー12をその1端で回動自在に接続するアーム121のそれぞれの他端が上部フレーム5に設置された各支点部と回動自在に接続されている。
【0032】
また、機構部2の底面にはレール1の足裏用探傷ホルダー13をその1端で回動自在に接続するアーム131がその他端を底面部に設けられた支点部と回動自在に接続されている。
【0033】
さらに、機構部2の左右の側面の前後端部の合計4箇所にはエアシリンダ61a、61b、61c、61dがロッド軸を機構部2の内面に挿入して取り付けられており、このロッド軸先端にはレール1の足側部に接触して倣うための倣いロール62a、62b、62c、62dが設けられている。そしてこれらのエアシリンダと倣いロールによってレール補足機構6a、6b、6c、6dを構成している。
【0034】
次に、本探傷装置の動作について説明する。
レール1の探傷を開始するための準備動作として、車輪31a、31b、31c、31dを図示しないモーターで駆動することによって、台車3をレール32a、32b上を左右方向に移動し、レール1の搬送テーブル中心が機構枠2の所定位置になるように位置決めする。この動作をライン挿入動作という。尚、この逆の動作をライン抽出動作という。
【0035】
続いて、レール1の種類(軌種)に対するプリセット動作を行う。
図示しない制御装置を介してレール1の軌種設定を行うと、予め制御装置内に記憶した設定値に従って、パルスモータ41が回転しこれによってボールネジ42a、42b、42c、42dが回転する。このボールネジ42a、42b、42c、42dの回転によって昇降フレーム43が昇降するが、上部フレーム5と昇降フレーム43とは昇降フレーム43に搭載したエアーシリンダー44の軸を介して接続されているため、上部フレーム5も同昇降フレーム43と一体となって昇降する。
【0036】
そして、これから探傷を行おうとするレール1の高さ寸法に適合する位置に上部フレーム5が設定される。ここで、上部フレーム5は平行リンク機構51a、51b、51c、51dを介して機構枠2と接続されている。このため、上部フレーム5は昇降機構4で昇降された場合にも水平を保つことができる。
【0037】
次にレール1の探傷動作を開始する。
レール1が図2に示す矢印Aの方向から機構枠2内に搬送された場合、レール1の先端が左右倣いロール62a、62cを通過するタイミングで左右捕捉機構6a、6cのエアーシリンダー61a、61cを動作させ、左右倣いロール62a、62cを前進させてレール1に押付けて捕捉し所定の圧力をかけたまま保持する。
【0038】
もし、レール1の中心が機構枠2の中央から左右方向に移動した場合、例えば、レール1が倣いロール62aの方向に動いた場合は、倣いロール62aに作用する力はレール補足機構61aを介して機構枠2に作用する。この結果、機構枠2がスライド機構7a、7c上を図1の右方向に移動して、レール1の中心と機構枠2の中央が一致する位置で停止する。このようにして、レール1の左右移動に対して機構枠2を倣わせることができる。
【0039】
またこの機構枠2の倣い動作と併せて、エアーシリンダー44を動作させて上部フレーム5を下降して上部倣いロール52aをレール1の頭頂に接触させ、レール1の上下移動に対して前記上部フレーム5を倣わせる。
【0040】
さらにレール1の進行に合わせ、レール1が所定位置を通過するごとに、図示しないエアーシリンダーでそれぞれアーム91、アーム131、アーム121、アーム101、アーム111を動作させて、頭頂用探傷ホルダー9、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11をレール1に接触させる。
【0041】
頭頂用探傷ホルダー9とアーム91、足裏用探傷ホルダー13とアーム131、ウエブ用探傷ホルダー12とアーム121、頭側用探傷ホルダー10とアーム101、頭側用探傷ホルダー11とアーム111はそれぞれジンバル機構で接続され、レール1との接触面の角度変化に追従できるようになっている。
【0042】
本実施の形態では局部水浸法を採用しているため、前記頭頂用探傷ホルダー9、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11には水が供給されレール1との接触面から噴出するようになっている。
【0043】
図3は前述の動作によって頭頂用探傷ホルダー9、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11がレール1に着材した状態をレール1の断面方向で示す図である。
【0044】
こうして、頭頂用探傷ホルダー9、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11のそれぞれのホルダー内に取付けた超音波探触子から発射する超音波がホルダー内に供給される水を介してレール1に照射され、探傷動作が開始される。
【0045】
さらに、レール1が進行して先端が左右倣いロール62b、62dを通過するタイミングで左右捕捉機構6b、6dのエアーシリンダー61b、61dを動作させ、左右倣いロール62b、62dを前進させてレール1に押付けて捕捉し所定の圧力をかけたまま保持する。
【0046】
もし、レール1の中心が機構枠2の中央から左右方向に移動した場合、例えば、レール1が倣いロール62bの方向に動いた場合は、倣いロール62bに作用する力はレール補足機構61bを介して機構枠2に作用する。この結果、機構枠2がスライド機構7b、7d上を図1の右方向に移動して、レール1の中心と機構枠2の中央が一致する位置で停止する。
【0047】
次にレール1の探傷終了動作について説明する。
レール1の後端が左右倣いロール62a、62cを通過するタイミングで左右捕捉機構6a、6cのエアーシリンダー61a、61cを動作させて左右倣いロール62a、62cを後退させる。左右捕捉機構6a、6cが捕捉を解除した場合でも、なお左右捕捉機構6b、6dが左右倣いロール62b、62dでレール1を捕捉しているため機構枠2はレール1の左右移動に追従することができる。
【0048】
さらにレール1の後端が所定の位置を通過するごとにそれぞれアーム91、アーム131、アーム121、アーム101、111を図示しないエアーシリンダーで動作させて、前記頭頂用探傷ホルダー9、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11をレール1から離材させる。
【0049】
そしてレール1の後端が左右倣いロール62b、62dを通過するタイミングで左右捕捉機構6b、6dのエアーシリンダー61b、61dを動作させて左右倣いロール62b、62dを後退させてレール1の捕捉を解除する。
【0050】
その後センタリング装置8a、8bのエアーシリンダーを動作させ機構枠2の位置を台車3の中央、すなわちレール1を搬送するテーブルの幅方向中央に戻し、次材の探傷に備える。
【0051】
以上の動作によってレール1の全長にわたる探傷が行われる。本実施の形態によれば、レール1が搬送中に位置が変化する場合であっても精度良く探触子ホルダーを倣わせることができるため、ローラーテーブルで搬送中の圧延したレールの超音波探傷を安定して行うことができる。さらに、探傷ホルダー毎に倣い機構を設ける必要がないため装置の構成が複雑になることがない。また、超音波探傷を行うレールの軌種が変更されても短時間で探触子ホルダー位置のプリセットができるため軌種変更のための作業効率が向上する。
【0052】
次に、本発明に係る剥離スケールによるノイズ除去方法について説明するに先だち、当該スケールによるノイズ発生機構について説明する。
一般に、金属体の内部欠陥を検査するための超音波探傷は、探触子から発射した超音波を水等の音響媒体を介して金属体に照射して金属体内部に超音波を伝播させ、金属体内部の探傷範囲を超音波が通過する時間の範囲で欠陥ゲートを設定し、金属体内部の欠陥から反射する超音波を欠陥ゲート時間範囲で検出して欠陥の判定を行うものである。
【0053】
図4は、スケールによるノイズ発生機構を説明する図である。
【0054】
探触子201と金属体202の間の音響媒体中に異物203が存在すると、探触子201から発射された超音波Tが異物203で反射しエコーE1となって探触子201に到達する。一方、異物203で反射しなかった超音波Tは、金属体表面で反射して表面エコーSとなって探触子201に到達する。また、表面エコーSの一部は異物203で反射し、さらに金属体表面で反射したエコーE2が探触子201に到達する。
【0055】
図5は、超音波の挙動を探触子201の送受信波形で表す図である。
異物203からの反射エコーE2は金属体表面で反射する表面エコーSを中心にして異物203で直接反射するエコーE1と時間軸上対称的な位置に現れる。この結果、エコーE2が欠陥ゲートの時間範囲の中で検出されてノイズとなるのである。
【0056】
レール1の探傷中においては、頭頂用探傷ホルダー9、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11がレール1に接材しているため、レール1の表面に付着するスケールが剥がれてホルダー内に侵入し、上述の機構によってノイズが発生する。
【0057】
図6は、剥離スケールによるノイズ発生防止方法を説明した図である。
図6はレール1の頭部側面に頭側探傷用ホルダー10が接材した状態を示している。頭側探傷用ホルダー10の内部には音響媒体として給水された水が満たされており、頭側探傷用ホルダー10とレール1の隙間から流れ出るようになっている。
【0058】
この頭側探傷用ホルダー10の内部には、探触子201から発射される超音波を透過させる透過部材205がレール1の表面と微小な間隙で取り付けられている。この透過部材205の材質としては、音響インピーダンスが水と同程度の材質、例えばアクリル樹脂等を用いることが望ましい。
【0059】
一般に音響インピーダンスの異なる材料に超音波を入射しようとした場合、その境界面において超音波の反射が発生する。このため、音響インピーダンスが大きく異なれば入射する超音波のエネルギーが減衰して探傷能力を低下させることとなる。
【0060】
ここで、発明者らの調査した結果によれば、透過部材としてアクリル樹脂を用いた場合には超音波の減衰は特に問題とならず、従来と同程度の探傷能力を発揮することが確認できた。
【0061】
水の音響インピーダンスは約3.7、アクリルの音響インピーダンスは約3.3であることから推定すると、透過部材はその音響インピーダンスが3.0程度までであれば本発明に使用することができると考えられる。水の音響インピーダンスを1とした場合には、透過部材の音響インピーダンスは約0.8に相当する値である。従って、透過部材の音響インピーダンスは、水の音響インピーダンスをIとした場合は、0.8I〜1.2Iの範囲にあることが望ましい。
【0062】
尚、被検査材である鉄の音響インピーダンスが約45.3と音響媒体である水の音響インピーダンスとは十数倍の違いがある場合にも超音波の探傷が可能であることを考えると、上記の透過部材の音響インピーダンスの範囲は音響媒体が水である場合に限定されず通常局部浸水法において使用される音響媒体についても適用できることが推定される。
【0063】
尚、この透過部材205の音場外の位置には頭側探傷用ホルダー10内の水を透過部材205とレール1間に供給させるための貫通孔が適宜設けられている。この結果、探触子201とレール1の間でかつ超音波Tの音場内にレール1から剥がれたスケール203が侵入した場合であっても、このスケール203は、透過部材205とレール1の間にのみ存在することになる。即ち、レール1表面からごく近傍にのみ存在し、頭側探傷用ホルダー10の内部まで侵入することはない。従って、スケール203とレール1の間で超音波が多重反射してエコーE2が発生するが、そのエコーE2は欠陥ゲート開始前の時点で探触子201に入射されるため欠陥ゲート内で検出されずノイズにはならない。
【0064】
尚、本実施の形態では、レール1と透過部材205との間隔dが重要である。一般に、水中での音速は1480m/秒、鋼材中での音速は5960m/秒であるため、鋼材中では音速は水中の約4倍の速度となる。このことは、水中における間隔dを不感帯とするように欠陥ゲートの時間範囲を定めると、被検査材である鋼材の不感帯は4dに拡大されてしまうことを意味する。
【0065】
従って、スケール203侵入の影響を低減するため間隔dを大きくとると、レール1の不感帯も大きくなる。そこで、本実施の形態では、間隔dはレール1の表層不感帯の1/4以下になるように設定している。
【0066】
尚、透過部材205の厚みについては特に制限はない。但し、透過部材205の音響インピーダンスは水と同一値ではないため、超音波の伝播を考えると薄い方が望ましい。従って、ホルダの内と外を、給水圧に抗して遮蔽できるだけの強度が得られる厚さであれば良い。
【0067】
本実施の形態によれば、圧延したレールの探傷のように表面のスケールが剥離する場合であってもそのスケールによるノイズを回避でき、欠陥検出能を向上させることができる。
【0068】
次に、レール断面の探傷カバー範囲の変更、拡大を簡便に実施する方法について説明するが、その前に本実施の形態に用いられる探触子の動作について説明する。
【0069】
図7は、6個の振動子をアレイ状に並べた超音波探触子(以下、「アレイ探触子」)からの超音波の発射方法を説明する図である。
振動子V1、振動子V2、振動子V3、振動子V4、振動子V5、振動子V6を同時に励振した場合は、これらの波面が合成されて超音波探触子の音波発射面に直角方向に超音波が発射されることになる。
【0070】
ここで、振動子V1、振動子V2、振動子V3、振動子V4、振動子V5、振動子V6を順番に微小時間Δt1ずつ遅らせながら励振させると、これらの波面が合成されて超音波探触子の音波発射面に直角方向から角度θ1方向に超音波が発射されることになる。
【0071】
さらに同様に微小時間Δt2ずつ(Δt1<Δt2)遅らせながら励振させると、超音波探触子の音波発射面に直角方向から角度θ2(θ1<θ2)方向に超音波が発射される。
【0072】
また、振動子V6、振動子V5、振動子V4、振動子V3、振動子V2、振動子V1の順番に微小時間Δt1づつ遅らせながら励振させると、超音波探触子の音波発射面に直角方向から角度−θ1方向に超音波が発射される。
【0073】
さらに同様に微小時間Δt2ずつ(Δt1<Δt2)遅らせながら励振させると、超音波探触子の音波発射面に直角方向から角度−θ2(θ1<θ2)方向に超音波が発射される。
【0074】
以上のように振動子V1、振動子V2、振動子V3、振動子V4、振動子V5、振動子V6の振動子を微小時間づつ遅らせながら励振させると、超音波探触子の音波発射面に直角方向から角度を持った超音波が発射でき、その角度は前記微小時間によって変更することができる。
【0075】
従って、アレイ探触子を用い、アレイ探触子の個々の振動子の励振タイミングを微小時間間隔おいてずらしながら振動させることでアレイ探触子の表面に直角方向から角度を持った進行方向の超音波を発生させ、さらに微小時間間隔を超音波の照射一回毎に変更して前回発生させた超音波と重なりを持たせながら超音波の進行方向を高速で変化させることで、探触子を変更することなく任意の探傷範囲を選定することができる。
【0076】
そしてこの振動子をアレイ状に並べた超音波探触子からの超音波の発射方向によって金属体の底面までの距離が変わる場合には、予め超音波の発射方向毎に金属体の底面までの距離に合わせたゲート設定を行えば、金属体断面の探傷カバー範囲を広げることができる。
【0077】
図8は、アレイ探触子を用いたレール1の頭頂の探傷を説明する図である。
図8は、レール1に頭頂探傷用ホルダー9が接材した状態を示している。この頭頂探傷用ホルダー9の内部には音響媒体として給水された水が満たされ、頭頂探傷用ホルダー9とレール1の隙間から流れ出るようになっている。
【0078】
この頭頂探傷用ホルダー9の内部にはアレイ探触子Haとアレイ探触子Hbが組み込まれている。まず、アレイ探触子Haの全ての振動子を同時に励振させると超音波Ta1が発射される。図8では前記超音波Ta1の進行方向でのレール1の断面の探傷範囲に設定された欠陥ゲートの終点まで超音波の照射範囲を表現している。
【0079】
次にアレイ探触子Haの個々の振動子の励振タイミングを微小時間間隔ずらしながら振動させ、超音波Ta1に重なりを持たせた超音波Ta2を発射させる。この場合にも、同様に超音波Ta2の進行方向でのレール1の断面の探傷範囲に欠陥ゲートを設定している。
【0080】
以下同様に、アレイ探触子Haの個々の振動子の励振タイミングの微小時間間隔を変更してずらしながら振動させ、前回照射の超音波に重なりを持たせた超音波Ta3、Ta4、Ta5を発射させる。
【0081】
同様にアレイ探触子Hbの個々の振動子の励振タイミングの微小時間間隔を変更してずらしながら振動させ、前回照射の超音波に重なりを持たせた超音波Tb1、Tb2、Tb3、Tb4、Tb5を発射させる。
【0082】
以上のように前回発生させた超音波と重なりを持たせながら超音波の進行方向を高速で変化させ、一回毎の超音波の照射に対して予めレールの形状に合わせた欠陥ゲートを設定することによってレール1の首部の形状に沿った探傷範囲を設定することができる。
【0083】
尚、本実施の形態では、アレイ探触子をHaとHbの2つを備えているが、アレイ探触子の数は探傷時間とのトレードオフで決定されるものであるため、本発明はこの形態に限定されるものではなく、アレイ探触子を1つで構成しても良くまたアレイ探触子を3つ以上で構成しても良い。
【0084】
また本実施の形態では、頭頂探傷用ホルダー9の内部にアレイ探触子を取り付けてあるが、足裏用探傷ホルダー13、ウエブ用探傷ホルダー12、頭側用探傷ホルダー10,11のいずれに取り付けるものであっても良い。
【0085】
本実施の形態によれば、少ない探触子数でレール断面の探傷カバー範囲を大幅に広げることができるので装置がコンパクトでかつ設備費用を安価にすることができる。また、被検査体毎に探触子の位置調整を行う必要がないため、効率的に作業をすすめることができる。
【0086】
以上述べたように本発明を適用すればレールの内部欠陥検査において、信頼性の高い超音波探傷が可能となるばかりか検査作業の効率化も図ることが可能となる。
【0087】
尚、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0088】
【発明の効果】
本発明により、表面のスケールが剥離し易い被検査材を対象として信頼性の高い超音波探傷を行うことができ、また搬送中の被検査材の位置変動に柔軟に追従することができ、また簡便に探傷領域を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超音波探傷装置の正面図。
【図2】本発明に係る超音波探傷装置の側面図。
【図3】探触子ホルダーがレールに着材した状態をレールの断面方向で示す図。
【図4】スケールによるノイズ発生機構を説明する図。
【図5】超音波の挙動を探触子の送受信波形で表す図。
【図6】剥離スケールによるノイズ発生防止方法を説明する図。
【図7】6個の振動子をアレイ状に並べた超音波探触子からの超音波の発射方法を説明する図。
【図8】アレイ探触子を用いたレールの頭頂の探傷を説明する図。
【符号の説明】
1…レール
2…機構枠
5…上部フレーム
5a…倣いロール
51a…リンク機構
61a…レール捕捉機構
62a…倣いロール
7a…スライド機構
9…頭頂用探傷ホルダー
10…頭側用探傷ホルダー
11…頭側用探傷ホルダー
12…ウエブ用探傷ホルダー
13…足裏用探傷ホルダー
201…探触子
203…スケール
205…透過部材

Claims (2)

  1. 超音波探触子を有する探触子ホルダーの超音波を発射する開口部に音響インピーダンスが前記探触子ホルダー内部に供給される音響媒体とほぼ同一の透過部材を設け、
    前記探触子ホルダーを被検査材に接材したときの、前記被検査材表面と前記透過部材との間に前記探触子ホルダー内から前記音響媒体を供給して満たすための間隔を、前記透過部材が前記被検査材に接材しないようにして設け、かつ、前記間隔を被検査材中での超音波伝播速度に対する音響媒体中での超音波伝播速度の比率を被検査材表面からの表層不感帯に乗算した値以下とし、
    この透過部材を通して被検査材に超音波を照射するように構成されることを特徴とする探触子ホルダー。
  2. 超音波探触子を有する探触子ホルダーの超音波を発射する開口部に音響インピーダンスが前記探触子ホルダー内部に供給される音響媒体とほぼ同一の透過部材を設け、
    前記探触子ホルダーを被検査材に接材したときの、前記被検査材表面と前記透過部材との間に前記探触子ホルダー内から前記音響媒体を供給して満たすための間隔を、前記透過部材が前記被検査材に接材しないようにして設け、かつ、前記透過部材と前記被検査材との間隔が、被検査材表面からの表層不感帯の1/4以下とし、
    この透過部材を通して被検査材に超音波を照射するように構成されることを特徴とする探触子ホルダー。
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