JP3675920B2 - 多孔質ゲル状物の製造方法 - Google Patents

多孔質ゲル状物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、バイオリアクター用担体や排水処理用担体などに用いられる含水ゲル状物に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子含水ゲルは、生体触媒の担体、保水剤、保冷剤、眼・皮膚・関節などの生体ゲルの代替、薬物の徐放材、アクチュエーターの基材として、その研究が盛んである。これらの含水ゲルの原料となる高分子素材としては、寒天、アルギン酸塩、カラギーナン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、光硬化性樹脂などがある。排水処理などに用いる担体としては、含水率が高いこと、酸素や基質の透過性に優れていること、生体との親和性が高いことなどが要求される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
高分子ゲルを微生物担体として用いる場合には、微生物の棲息領域が大きいことが必要である。通常の高分子ゲルはその内部に微生物の棲息できるような領域は見当たらず、表面のみが微生物の棲息領域となる。したがって十分な微生物量を保持することができない。また、ウレタンスポンジなどのように1mm前後の大きな孔をもつものは、排水処理使用中に線虫類などの大きな生物が孔に侵入し、孔を閉鎖してしまうという問題がある。微生物が棲息に適した孔径は微生物の大きさに近いオーダーである1〜50μm程度である。このような孔をもった構造を形成させるために高分子水溶液を冷凍・解凍する方法(特開昭63−105416号)が知られているが、冷凍・解凍に莫大なエネルギーを必要とし、大量生産には適していない。
【0004】
【発明を解決するための手段】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、1〜30重量%の有機高分子および70〜99重量%以上の水からなる有機高分子の水溶液または水分散液に対し、0.1〜30重量%の生分解性を有する水不溶性の固体を添加して、含水ゲルを形成しつつ、または形成した後、該水不溶性の固体を溶解、分解または除去することを特徴とする100μm四方あたりの表面に長径が1〜50μmの開口部を1つ以上有する含水ゲル状物の製造方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
含水ゲル状物に用いる有機高分子は、寒天、アルギン酸塩、カラギーナン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、光硬化性樹脂などが挙げられる。特に排水処理用担体に用いる場合には、耐久性を考慮すると合成高分子が好ましい。さらに、微生物の棲息性の高いポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールが好ましい。またこれらの有機高分子の変性物や架橋体を用いてもよい。
【0006】
含水ゲル状物中の高分子濃度は、強度面からは高い方が好ましく、微生物棲息性の面からは低い方が好ましい。したがって、1〜30重量%であり、2〜20重量%が好ましい。
含水ゲル状物の含水率は、強度面からは低い方が好ましく、微生物棲息性の面からは高い方が好ましい。したがって、60〜99重量%であり、70〜97重量%が好ましい。
【0007】
微生物の棲息領域としての機能を奏する含水ゲル表面の開口部は、小さすぎると微生物が侵入できず、大き過ぎると微生物以外の大きな生物などが侵入し、開口部が閉鎖されたり、含水ゲルが重くなってしまうことから、特定の大きさの開口部が必要であり、100μm四方当たりの表面に長径が1〜50μmの開口部を1つ以上有することが必要である。長径は3〜40μmであることが好ましい。
【0008】
次に、本発明の上記の含水ゲル状物の製造方法について説明する。有機高分子の水溶液または水分散液に対し、0.1〜30重量%の水不溶性の固体を添加し、含水ゲル状物を形成しつつ、または形成した後、該水不溶性の固体を溶解、分解または除去することにより上記の含水ゲル状物を得ることができる。水不溶性の固体の添加量は有機高分子水溶液または水分散液に対して0.1〜30重量%が好ましく、0.5〜15重量%がより好ましい。水不溶性の固体としては、生分解性のもの挙げられる。生分解性の固体を添加すれば、生分解によってその固体が分解されることにより、そこが空洞となり、多孔質の含水ゲル状物を得ることができる。分解性の固体としては、デンプンなどの天然高分子粉末、脂肪族ポリエステルなどの生分解性ポリマー粉末、セルロースパルプ、レーヨンなどの生分解性物質などが挙げられる
【0009】
また、水溶性物質であっても、その物質の飽和溶解度以上の濃度で、有機高分子水溶液に添加すれば、見かけ上、水不溶性の固体と同様な役目を果たすことができ、ゲル形成中あるいは形成後に水に浸漬させて、この物質を抽出することも可能である。
【0010】
本発明の含水ゲル状物には、微生物を後付着させてもよいが、ゲル基材を任意の形状に成形する前に、高分子水溶液に微生物を混合してもよい。微生物の種類は特に限定されるものではなく、細菌、放射菌、カビ、酵母などのいずれでもよく、純粋培養で得られたものでも、混合培養で得られたものでも、活性汚泥のようなものでもよい。微生物としては、たとえば、ムコール(Muccor)属、フザリウム(Fusarium)属、クラドツリックス(Cladothrix)属、スフエロチルス(Sphaerotilus)属、ズーグレア(Zooglea)属、レプトミツス(Leptomitus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アセトバクター(Acetobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、エシエリシア(Escherichia)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属などの属に属する微生物が挙げられ、イオウ細菌、メタン菌、酪酸菌、乳酸菌、枯草菌、変形菌、不全菌、硝酸菌、亜硝酸菌、脱窒菌なども例示される。
【0011】
本発明の含水ゲル状物の形状は、特に限定されるものではなく、球状、繊維状、サイコロ状、フィルム状、円筒状などの任意の形状を適宜選択することができる。
このようにして、得られた含水ゲル状物は、微生物の棲息性が著しく向上し、バイオリアクターや排水処理用担体としての効率も大幅に向上する。
【0012】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0013】
実施例1
(株)クラレ製のPVA(平均重合度1700、ケン化度99.8モル%)を40℃の温水で約1時間洗浄後、PVA濃度が16%となるように、PVAに水を加え、オートクレーブで121℃、30分間処理してPVAを溶解した。この16%PVA水溶液500gと2%アルギン酸ナトリウム水溶液240g、さらに生分解成分として(株)クラレ製の単繊維デニールが2デニールのレーヨン繊維を2mm長にカットしたものを10g加えて、十分に混合した。この混合水溶液を先端に内径2mmのノズルをとりつけた内径3.2mmのシリコンチューブを装着したローラーポンプにより5ミリリットル/分の速度で送液し、スターラーで撹拌した濃度0.1モル/リットルの塩化カルシウム水溶液に滴下した。滴下した液滴は塩化カルシウム水溶液中で球状化して沈降した。この球状成形物を、ホルムアルデヒド30g/リットル、硫酸200g/リットル、硫酸ナトリウム150g/リットルの40℃の水溶液に60分浸漬した後、水洗した。その結果、直径約5mmの柔軟性に富んだ球状の含水ゲルが得られた。製造直後の表面を観察したところ、100μm四方当たり5〜6個の繊維断面(約10μm)が見られた。
この含水ゲルの微生物棲息性および排水処理能力を調べた。含水ゲル500gを(株)クラレ岡山工場の排水処理槽に1カ月浸漬後、2gのゲルを取り出し、普通寒天培地で一般細菌数を測定した。同時に100gのゲルを取り出し、TOC500mg/リットルに調整した排水1リットル中に入れて曝気し、ゲル重量当たりのTOC除去速度を求めた。この時のゲルの表面を観察したところ、繊維は見られず、100μm四方当たり5〜6個の開口部(長径約10μm)が見られ、その部分に微生物が観察された。これらの結果を表1に示す。
【0014】
参考例1
実施例1と同様のPVAを40℃の温水で約1時間洗浄後、PVA濃度が16%となるように、PVAに水を加え、オートクレーブで121℃、30分間処理しPVAを溶解した。この16%PVA水溶液500gと2%アルギン酸ナトリウム水溶液240g、さらに400メッシュパスの水酸化アルミニウム粉末10gを加えて、十分に混合した。この混合水溶液を先端に内径2mmのノズルをとりつけた内径3.2mmのシリコンチューブを装着したローラーポンプにより5ミリリットル/分の速度で送液し、スターラーで撹拌した濃度0.1モル/リットルの塩化カルシウム水溶液に滴下した。滴下した液滴は塩化カルシウム水溶液中で球状化して沈降した。この球状成形物を、ホルムアルデヒド30g/リットル、硫酸200g/リットル、硫酸ナトリウム150g/リットルの40℃の水溶液に60分浸漬した後、水洗した。その結果、直径約5mmの柔軟性に富んだ球状の含水ゲルが得られた。含水ゲルに含まれていた水酸化アルミニウムは硫酸により溶解していた。製造直後の表面を観察したところ、100μm四方当たり8〜10個の開口部(約15μm)が見られた。実施例1と同様に1カ月間排水処理槽に浸漬後、同様の方法で一般細菌数およびTOC除去速度を測定した。この時のゲルの表面を観察したところ、100μm四方当たり8〜10個の開口部(長径約15μm)が見られ、その部分に微生物が観察された。結果を表1に示す。
【0015】
比較例1
実施例1と同様のPVAを40℃の温水で約1時間洗浄後、PVA濃度が16%となるように、PVAに水を加え、オートクレーブで121℃、30分間処理してPVAを溶解した。この16%PVA水溶液500gと2%アルギン酸ナトリウム水溶液250gを十分に混合した。この混合水溶液を先端に内径2mmのノズルを取り付けた内径3.2mmのシリコンチューブを装着したローラーポンプにより5ミリリットル/分の速度で送液し、スターラーで撹拌した濃度0.1モル/リットルの塩化カルシウム水溶液に滴下した。滴下した液滴は塩化カルシウム水溶液中で球状化して沈降した。この球状成形物を、ホルムアルデヒド30g/リットル、硫酸200g/リットル、硫酸ナトリウム150g/リットルの40℃の水溶液に60分浸漬した後、水洗した。その結果、直径約5mmの柔軟性に富んだ球状の含水ゲルが得られた。製造直後の表面を観察したところ、非常に平滑な構造であり1μm以上の開口部は全く見られなかった。
実施例1と同様に1カ月間排水処理槽に浸漬後、同様の方法で一般細菌数およびTOC除去速度を測定した。この時のゲルの表面を観察したところ、平滑な構造は変わらず、1μm以上の開口部は全く見られなかった。微生物はゲル表面に少量観察された。結果を表1に示す。
【0016】
実施例2
アクリルアミドモノマー180gおよびメチレンビスアクリルアミド10gに水を加えて1000gとし、完全に溶解させた。さらに、10gの回収古紙パルプを加えて、十分に混合した。この混合水溶液に重合促進剤としてN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン0.5%、重合開始剤として過硫酸カリウム0.25%を添加して撹拌後、平面上に流延し室温で重合させて厚さ4mmのシート状に成形し、1辺約4mmのサイコロ状に切断した。製造直後の表面を観察したところ、100μm四方当たり5〜6個の繊維断面(約10μm)が見られた。実施例1と同様に1カ月間排水処理槽に浸漬後、同様の方法で一般細菌数およびTOC除去速度を測定した。この時のゲルの表面を観察したところ、繊維は見られず、100μm四方当たり5〜6個の開口部(長径約10μm)が見られ、その部分に微生物が観察された。結果を表1に示す。
【0017】
参考例2
アクリルアミドモノマー180gおよびメチレンビスアクリルアミド10gに水を加えて1000gとし、完全に溶解させた。さらに、ブレーン値3000cm2/gのシリカ粒子を加えて十分に混合した。この混合水溶液に重合促進剤としてN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン0.5%、重合開始剤として過硫酸カリウム0.25%を添加して撹拌後、平面上に流延し室温で重合させて厚さ4mmのシート状に成形し、1辺約4mmのサイコロ状に切断した。これを50g/リットルの水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬させた後、水洗した。含水ゲルに含まれていたシリカ粒子は水酸化ナトリウムにより溶解していた。製造直後の表面を観察したところ、100μm四方当たり8〜10個の開口部(約15μm)が見られた。実施例1と同様に1カ月間排水処理槽に浸漬後、同様の方法で一般細菌数およびTOC除去速度わ測定した。この時のゲルの表面を観察したところ、100μm四方当たり8〜10個の開口部(長径約15μm)が見られ、その部分に微生物が観察された。結果を表1に示す。
【0018】
比較例2
アクリルアミドモノマー180gおよびメチレンビスアクリルアミド10gに水を加えて1000gとし、完全に溶解させた。この混合水溶液に重合促進剤としてN,N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン0.5%、重合開始剤として過硫酸カリウム0.25%を添加し、撹拌後平面上に流延し室温で重合させて厚さ4mmのシート状に成形し、1辺約4mmのサイコロ状に切断した。製造直後の表面を観察したところ、非常に平滑な構造であり1μm以上の開口部は全く見られなかった。
実施例1と同様に1カ月間排水処理槽に浸漬後、同様の方法で一般細菌数およびTOC除去速度を測定した。この時のゲルの表面を観察したところ、平滑な構造は変わらず、1μm以上の開口部は全く見られなかった。微生物はゲル表面に少量観察された。結果を表1に示す。
【0019】
比較例3
市販のウレタンスポンジを約4mmの角状に切断した。その表面を観察したところ、約500〜900μmの孔を有していた。これを実施例と同様に(株)クラレ岡山工場の排水処理槽に1カ月浸漬後、実施例1と同様の方法で一般細菌数およびTOC除去速度を測定した。ただし、重量はスポンジが水を含んだ状態での重量とした。この時のスポンジの表面を観察したところ、約500〜900μmの孔を有するという構造は変わっておらず、その孔には線虫類が多数観察され、孔を閉鎖していた。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0003675920
【0021】
【発明の効果】
以上の実施例からも明らかなとおり、本発明の含水ゲルは、微生物の棲息性が著しく向上し、排水処理用担体としての効率も大幅に向上する。

Claims (5)

  1. 1〜30重量%の有機高分子および70〜99重量%以上の水からなる有機高分子の水溶液または水分散液に対し、0.1〜30重量%の生分解性を有する水不溶性の固体を添加して、含水ゲルを形成しつつ、または形成した後、該水不溶性の固体を溶解、分解または除去することを特徴とする、長径が1〜50μmの開口部を100μm四方あたりの表面に1つ以上有する含水ゲル状物の製造方法。
  2. 開口部の長径が10〜50μmである請求項1記載の含水ゲル状物の製造方法。
  3. 長径が10〜50μmの開口部を100μm四方あたりの表面に5つ以上有する請求項2記載の含水ゲル状物の製造方法。
  4. 有機高分子がポリビニルアルコール系重合体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の含水ゲル状物の製造方法。
  5. 生分解性を有する水不溶性の固体がpH5以下の酸またはpH9以上のアルカリで溶解または分解する請求項1〜4のいずれか一項に記載の含水ゲル状物の製造方法。
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