JP3673409B2 - 高強度極細線用鋼およびその製造方法 - Google Patents

高強度極細線用鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度極細線用鋼およびその製造方法に関する。詳細には、自動車タイヤ等に用いられるスチールコード用鋼において、伸線時の断線原因となるMgO系非金属介在物の量が低減される結果、伸線性および耐疲労特性が高められた高強度極細線用鋼、および該高強度極細線用鋼を効率よく製造することのできる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スチールコードは直径0.1〜0.5mmまで伸線されるが、鋼中に存在するMgO系非金属介在物[主としてMgOを含有する介在物であって、MgO・Al23 (スピネル)介在物、MgOペリクレーヌ系介在物、これらの晶出物を含む]は伸線工程における断線原因となる為、スチールコード用鋼の製造に当たっては、当該MgO系介在物を極力低減することが極めて重要である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、伸線時の断線原因となるMgO系介在物の生成を可及的に抑制することのできる高強度極細線用鋼、および該高強度極細線用鋼を効率よく製造することのできる方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し得た本発明の高強度極細線用鋼は、C:0.4〜1.0%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.15〜0.6%、Mn:0.2〜0.9%、必要に応じてCo:1%以下(0%を含まない)及び/又はCu:1%以下(0%を含まない)を夫々含むと共に、Mg:0.00020%以下、Al:0.0003%以下、O:0.003%以下に夫々抑制し、残部:Fe及び不可避不純物からなり、鋼中非金属介在物中に占めるMgOの比率を3.0%以下に抑制したところに要旨を有するものである。
【0005】
ここで、鋼中非金属介在物中に占めるAl23の比率:25%以下に抑制することは本発明の好ましい実施態様である。
【0007】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る高強度極細線用鋼の製造方法とは、溶鋼中に添加するMg量を溶鋼1t当たり200g以下に制御するところに要旨を有するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
スチールコード用鋼を製造する際、Al23 成分を主体とする耐火物を内張りした溶鋼精錬炉や溶鋼搬送容器を使用し、CaO−SiO2 −Al23 系低融点組成からなる鋼中介在物を生成させることによって該介在物の軟質化を図ろうとする場合、鋼中に占めるスピネル等のMgO系介在物量が増加すると、伸線時における断線の起点となってしまう。そこで本発明者らは、この様なMgO系介在物の生成を低減すべく鋭意検討してきた。その結果、上記スチールコード用鋼線を製造する途中の溶鋼段階で、溶鋼中に混入するMg量をできるだけ抑制すれば、鋼中非金属介在物中の平均的組成でMgO量が著しく低減されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
MgO系介在物を低減する従来法として、例えば▲1▼特公平6−74485号、▲2▼特公平6−74486号の各公報には、MgOやCaO等の硬質非金属介在物を積極的に含有させた平均的組成に制御することにより、該硬質介在物を極めて軟質な介在物とし、伸線時に及ぼす上記介在物の影響を排除する方法が開示されている。また、▲3▼特開平7−316631号には、溶融スラグ中のMgO濃度を所定範囲内に制御することにより鋼中MgO系介在物の生成を抑制する方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、上記▲1▼,▲2▼の方法は、いずれも鋼中非金属介在物中に占めるMgOを所定量積極的に含有させようというものであり、MgO自体を排除する、換言すれば、鋼中非金属介在物中のMgO濃度を可及的に抑制する本発明とは明瞭に差別化されるものである。また、上記▲3▼の方法は、アルミナ系介在物の生成を抑制し、且つスラグ耐火物を保護する為に、溶鋼精練時におけるスラグ中のMgO濃度を5%以上に調整しており、前記▲1▼,▲2▼と同様、MgOを積極的に含有させている点、更に溶鋼精練時のスラグ組成を制御している点で、凝固・圧延後の鋼中非金属介在物のMgO濃度を可及的に抑制する本発明とは全く相違する。
【0011】
この様に本発明の高強度極細線用鋼は、鋼中のMg量が著しく低減されたものであるところに最大の特徴を有する。即ち、本発明の高強度極細線用鋼は、鋼中のMg量を0.00020%以下に抑制したところに最重要ポイントが存在する。Mg量が著しく低減された鋼を使用すれば、鋼材中のMgO系介在物量を大幅に低減することができ、しかも伸線時の断線回数も顕著に低減し得るのである。Mg量は少なければ少ない程良く、好ましくは0.00010%以下である。
【0012】
更に、鋼中のAl量を0.0003%以下(より好ましくは0.0002%以下)、鋼中のO量を0.003%以下(より好ましくは0.002%以下)に抑制したものは、鋼中非金属介在物中に占めるMgOの比率が3.0%以下(より好ましくは2.5%以下)に抑制されるのみならず、鋼中非金属介在物中に占めるAl23 の比率も25%以下に抑制される為、MgO系介在物に加えてAl23 系介在物も低減することができ、伸線時の断線回数も更に低減し得るので極めて有効である。尚、上記非金属介在物組成はSiO2 ,MnO,CaO,MgO,Al23 の和を100%として求めた。
【0013】
上述した様に、本発明鋼の最重要ポイントは鋼中のMg量を上記範囲に著しく抑制させたところに有り、その他の鋼成分については特に限定されず、通常使用されるスチールコード用鋼の極細線鋼の成分組成を適用することができる。具体的には、C:0.4〜1.0%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.15〜0.6%,Mn:0.2〜0.9%を含有し、選択成分としてCo:0.1%以下(0%を含まない)及び/又はCu:1%以下(0%を含まない)を含み、残部:Fe及び不可避的不純物からなる鋼を適用することができる。
【0014】
C:0.4〜1.0%
Cは強度の向上に有用な元素であり、その為には0.4%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.6%以上である。但し、1.0%を超えると脆化してしまう為、その上限を1.0%とすることが好ましい。より好ましくは0.9%以下である。
【0015】
Si:0.15〜0.6%
Siは脱酸作用および介在物制御作用を有し、これらの作用を有効に発揮させる為には、0.15%以上添加することが好ましい。但し、0.6%を超えると脆化してしまうので、その上限を0.6%とすることが好ましい。
【0016】
Mn:0.2〜0.9%
MnもSiと同様、脱酸作用および介在物制御作用を有する。これらの作用を有効に発揮させる為には、0.2%以上添加することが好ましい。但し、0.9%を超えると脆化してしまうので、好ましくは、その上限を0.9%とする。
【0017】
本発明では、上記元素を必須成分とし、残部:Fe及び不可避的不純物からなるが、更に下記元素を選択成分として積極的に添加しても良い。
【0018】
Co:1%以下及び/又はCu:1%以下(いずれの元素も0%を含まない)
これらの元素は鋼の延性を高めるのに有効であり、その為にはCo:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)、Cu:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)添加することが好ましい。但し、Co:1%,Cu:1%を超えて添加しても上記作用は飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCo:0.8%以下、Cu:0.8%以下である。
【0019】
次に、上述した本発明鋼を製造する方法について説明する。
本発明法では、溶鋼中に添加するMg量を溶鋼1t当たり200g以下に制御するところに最大の特徴を有する。ここで、溶鋼中に添加するMg量には、Mgの他、MgO等の様なMg化合物中におけるMgも含まれる。
【0020】
本発明で対象とするMgO系介在物であるMgO・Al23 は、精錬の際、溶鋼中にMg,Al,Oが混入し、相互に反応することによって生成するものである。仮に、溶鋼中にMg、Al、Oのいずれの元素も全く混入しなければ、上記MgO系介在物は生成されず、伸線時の断線回数は極めて少なくなるが、溶鋼精錬に用いる各種媒溶剤、副原料、フラックス、溶鋼精錬搬送容器等は多かれ少なかれMg,Alを或る程度含有する為、溶鋼中にMgやAlが混入するのを皆無とすることは実質上不可能である。また、転炉の如く酸素吹精によって溶鋼精錬を行う場合は、溶鋼中に多量のOを含む為、SiやMnの添加による脱酸処理を実施したとしても、Oを完全に除去することも実質上不可能である。
【0021】
そこで本発明では、精錬時において溶鋼に混入するMg量を溶鋼1トンあたり200g以下に制御することにより、鋼中に固溶する金属Mg量を0.00020%以下に抑制し、ひいては、鋼中非金属介在物の平均的組成でMgO濃度を3%以下に低減せしめたものであり、この様な方法を採用することによって、鋼材中に占めるMgO・Al23 量を大幅に低減することが可能であり、伸線時の断線回数も著しく低減することができたのである。好ましくは、溶鋼中に添加するMg量を溶鋼1t当たり100g以下に制御することが推奨される。
【0022】
尚、本発明法においては、鋼中のMgO濃度をできるだけ低減させるべく、溶鋼精錬に用いる各種媒溶剤、副原料、フラックス等については、できるだけMg含有量の少ないもの(好ましくは1,0%以下)を使用することが推奨される。その他、溶鋼成分調整用合金鉄、加炭材、脱酸材等についても、Mg含有量の少ないものを使用する等し、鋼中Mg量をできるだけ抑制する様、留意することが推奨される。
【0023】
以下実施例に基づいて本発明を詳述する。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0024】
【実施例】
まず、溶銑(240トン)を転炉で一時精錬する。その際、溶銑以外の主原料(例えばススクラップ等)から不可避的に混入するMgを排除する為、該スクラップ等は転炉へ装入しない。また、精錬の際、溶銑に添加する媒溶剤、その他副原料は、Mg含有量が0.5%以下のものを使用すると共に、転炉による一次精錬の後、取鍋加熱精錬装置にてCaO−SiO2 −Al23 系スラグによる二次精錬を実施する際においても、使用する造滓剤は、Mg含有量が0.5%以下のものを使用する。更に、精錬の搬送に用いる容器は、Al23 を主成分とした耐火物を内張りしたものを用いる等し、極力Mgを排除する様にする。
【0025】
上記の方法により製造したスチールコード用鋼の成分、鋼中非金属介在物の組成、鋼中非金属介在物(MgO・Al23 )の個数を表1に示す。また、断線の指標である断線指数も併記する。
【0026】
【表1】
Figure 0003673409
【0027】
表より以下の様に考察することができる。
まず、A1〜A10は、鋼中のMg量が本発明の要件を満足する本発明例であるが、鋼中非金属介在物のMgO濃度も3%以下に抑制される結果、鋼材50g中に存在する大きさ20μm以上のMgO・Al23 の個数を著しく減少させることができると共に、伸線時の断線回数も大幅に減らすことができた。尚、A4〜A5/A9〜A10は夫々、鋼中Al濃度/O濃度が本発明の好ましい範囲を超える例であるが、鋼中Mg濃度を本発明の範囲内に制御しているので、いずれの場合もMgOの生成は抑制することができたものの、A4〜A5では、Al23 の生成が若干増加した。
【0028】
これに対し、B1〜B7はMg量が本発明の範囲を超える比較例であり、いずれの場合も,MgO量が上昇する為、鋼材中のMgO・Al23 の個数が増加し、伸線時の断線回数も増えた。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、伸線時の断線起点となるMgO系介在物(MgO・Al23 )を著しく減少させることができ、断線回数も極めて少ない高強度極細線用鋼を効率よく提供することができた。

Claims (3)

  1. C:0.4〜1.0%(質量%の意味、以下同じ)、
    Si:0.15〜0.6%、
    Mn:0.2〜0.9%、
    必要に応じてCo:1%以下(0%を含まない)及び/又はCu:1%以下(0%を含まない)を夫々含むと共に、
    Mg:0.00020%以下、
    Al:0.0003%以下、
    O:0.003%以下に夫々抑制し、
    残部:Fe及び不可避不純物からなり、
    鋼中非金属介在物中に占めるMgOの比率を3.0%以下に抑制したことを特徴とする高強度極細線用鋼。
  2. 鋼中非金属介在物中に占めるAl23の比率を25%以下に抑制したものである請求項に記載の高強度極細線用鋼。
  3. 請求項1または2に記載の高強度極細線用鋼を製造する方法であって、溶鋼中に添加するMg量を溶鋼1t当たり200g以下に制御することを特徴とする高強度極細線用鋼の製造方法。
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