JP3672519B2 - トリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法 - Google Patents

トリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蒸着により固体表面にトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成するトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法に係り、詳しくは真空蒸着によるトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、固体表面にトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成する薄膜形成方法としては、例えば、特開平5−345769号公報に記載のものがある。ここで示された薄膜形成方法は、浸漬法,電解重合法,トライボ重合法等の湿式方法であり浸漬液や処理液を用いて重合を行なうものである。
これら従来の薄膜形成方法によって形成された薄膜には、薄膜表面に露出する官能基の性質により、非汚染性,非粘着性,離型性,防曇性,潤滑性,接着性,塗装性および氷結防止性等の機能性が付与される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の薄膜形成方法では、湿式方法ゆえに浸漬液や処理液の配水処理等が必要になり薄膜形成処理が煩雑であるという問題があった。
また、従来の薄膜形成方法で得られる薄膜は表面に機能性が付与されるが、得られる薄膜の重合率及び三次元化率が必ずしも満足のいくものではなく薄膜自体の耐久性が十分でないという問題があった。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、薄膜形成を容易に行ない、かつ薄膜表面の機能性を維持しつつ薄膜の耐久性の向上を図ったトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本発明の技術的手段は、
固体表面に蒸着によりトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成するトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法において、
一般式
【0006】
【化2】
Figure 0003672519
【0007】
(式中、R1 ,R2 は、夫々
H,CH3 ,C25 ,C49 ,C613,C817,C1021,C1225
1837,C2041,C2245,C2449
CF364 ,C4954 ,C61354 ,C81764
102164 ,C61164 ,C917CH2 ,C1021CH2
49 CH2 ,C613CH2 CH2 ,C817CH2 CH2
1021CH2 CH2
CH2 =CHCH2 ,CH2 = CH(CH28 ,CH2 =CH(CH2 )9
817CH2 =C816
611,C65 CH2 ,C65 CH2 CH2
CH2 =CH(CH24 COOCH2 CH2
CH2 =CH(CH28 COOCH2 CH2
CH2 =CH(CH29 COOCH2 CH2
49 CH2 =CHCH2 ,C613CH2 =CHCH2
817CH2 =CHCH2 ,C1021CH2 =CHCH2
49 CH2 CH(OH)CH2 ,C613CH2 CH(OH)CH2
817CH2 CH(OH)CH2 ,C1021CH2 CH(OH)CH2
CH2 =CH(CH24 COO(CH2 CH22
CH2 =CH(CH28 COO(CH2 CH22
CH2 =CH(CH29 COO(CH2 CH22
49 COOCH2 CH2 ,C613COOCH2 CH2
817COOCH2 CH2 ,C1021COOCH2 CH2
を示し、同じでも異なってもよい。Mは、Hまたはアルカリ金属を示す。)
で示されるトリアジンチオール誘導体の1種または2種以上を固体表面に真空蒸着して積層薄膜を形成する蒸着工程と、該積層薄膜が形成された固体に光照射して上記トリアジンチオール誘導体を重合する光重合工程とを備え、上記蒸着工程にて上記固体に磁場を印加する構成とした。
薄膜の形成は、浸漬液や処理液を用いない乾式であるので、配水処理等が不要になり薄膜の形成が容易になる。
蒸着工程の際に、固体に磁場を印加することによって固体表面ではトリアジンチオール誘導体の結晶核が規則的に分子配列しながら成長する。これは、トリアジンチオール誘導体の基本骨格であるトリアジン環を飛び回る活性なπ電子の回転運動が外部磁場により内部磁場を誘起するため、内部磁場と外部磁場の反発エネルギーが小さい方向に分子回転が起こるため規則的に分子配列する結晶核が形成されて膜の分子密度が高くなると考察される。膜の分子密度が高くなると、重合距離が短縮するので、重合度や三次元化率を上げ易くなる。
また、蒸着した薄膜に光を照射することによって、薄膜の分子間どうしの化学反応により三次元的な重合反応が生じる。蒸着した薄膜は磁場の印加によって規則的に分子配列されているので、重合度や三次元化率が上がり薄膜の耐久性が向上するものと考えられる。また、規則的に配列された官能基が表面に形成されるので、薄膜表面の機能性も向上する。
【0008】
また、必要に応じ、上記磁場の印加を、上記固体に磁石を付帯して行なう構成とした。
磁場の印加手段として、磁石の磁場を用いれば固体に磁場を容易に印加することができる。
更に、必要に応じ、上記磁場の印加を、超伝導磁石で形成された磁場空間内に上記固体を配置して行なう構成とした。
超伝導磁石を用いれば、固体に容易に強磁場を印加することができる。薄膜の形成においては、磁場が強い程薄膜の分子配列を密にすることができるので、薄膜の分子密度が向上させられる。
更にまた、必要に応じ、上記印加する磁場強度T(テスラ)を、T≧0.05とした構成とした。
磁場の印加条件を少なくとも0.05T(テスラ)以上にすれば、形成する薄膜に規則的な分子配列を与えることが可能になる。
また、必要に応じ、上記印加する磁場強度T(テスラ)を、T≧1とした構成とした。
磁場の印加条件を少なくとも1T(テスラ)以上にすれば、蒸着源から固体までを磁場環境下に置くことができるので、蒸着中においても蒸着物質に磁場が作用して形成する薄膜に規則的な分子配列をより密に与えることが可能になり薄膜の耐久性を高める。
【0009】
そして、本発明においては、上記固体に強磁性体を用いた構成とした。
強磁性体に磁場を印加すれば、強磁性体は磁化されて磁場を生じ、形成する薄膜に規則的な分子配列を与えるように作用する。
更にまた、上記蒸着工程前に、上記固体表面に強磁性材料を真空蒸着した構成とした。
固体表面に強磁性材料を蒸着させると、固体に強磁性体を用いた構成と同様の作用が得られ、特に、固体が非磁性材料の場合に有効になる。
また、必要に応じ、上記光重合工程にて、波長200nm〜450nmの光照射を行なった構成とした。
波長200nm〜450nmの紫外線を薄膜に照射すれば、重合反応を効率よく行なうことができる。
更に、必要に応じ、上記光重合工程にて、上記固体表面温度を10℃〜50℃に保持した構成とした。
10℃未満及び50℃を越えると重合速度が遅くなり薄膜形成に時間を要してしまい実用的ではなくなる。
更にまた、上記光重合工程においても、上記固体に磁場を印加する構成とした。
薄膜を構成する分子の規則性が磁場の印加によって維持された状態で分子間どうしの化学反応により三次元的な重合反応が起こり易くなり三次元化率が上がり薄膜の耐久性が向上する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づいて本発明の第一の実施の形態に係るトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法(以下、薄膜形成方法と記す)について説明する。
図1に示すように、薄膜形成方法は、一般式(1)で示されるトリアジンチオール誘導体の1種または2種以上を固体表面に真空蒸着して積層薄膜を形成する蒸着工程と、積層薄膜が形成された固体に光照射してトリアジンチオール誘導体を重合する光重合工程とがあり、蒸着工程にて固体に磁場を印加している。
固体表面は、鉄,鋳鉄,ステンレス,パーマロイ,銅,黄銅,リン青銅,ニッケル,キュブロニッケル,錫,鉛,コバルト,半田,チタン,アルミニウム,クロム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛等の金属表面及びこれらの酸化物表面、リン酸塩処理金属表面、クロム酸塩処理金属表面、シリコン表面、カーボン表面、化合物半導体表面、酸化アルミナセラミックス表面、陶器表面、ガラス表面、石英ガラス表面、超電導体セラミックス表面、木材表面、紙表面、プラスチックス表面、エンジニアリングプラスチックス表面、熱硬化性樹脂表面等あらゆる固体の表面が薄膜形成の場の対象になる。
また、固体表面には、強磁性材料を真空蒸着して強磁性材料の薄膜を形成しておくことができる。蒸着条件は特に限定されず薄膜が形成できればよい。
【0011】
蒸着工程の真空蒸着には、図2に示す真空蒸着装置Sを用いた。
真空蒸着装置Sは、枠体1内に、被覆対象とする固体(基板)2と、トリアジンチオール誘導体(モノマー)を入れたるつぼ3(2種以上のトリアジンチオール誘導体を蒸着する場合には複数用いる)と、蒸着した薄膜の厚さを計る水晶振動子式膜厚計4と、るつぼ3を覆う開閉自在なシャッタ5(るつぼ3の数分)と、基板2を覆う開閉自在なメインシャッタ6と、基板2に磁場を印加する磁場形成部7と、内部を真空状態にする真空ポンプ(図示省略)とを備えている。磁場形成部7としては磁石を用い、非蒸着側の基板2表面に直接付帯してある。
【0012】
(蒸着工程)
蒸着工程について以下説明する。
真空蒸着装置S内を一定の真空度に調整後、るつぼ3を図示しないヒータで加熱し蒸着源であるトリアジンチオール誘導体を気化あるいは昇華させる。このとき、シャッタ5及びメインシャッタ6は閉じておく。
次いで、シャッタ5を開けて蒸着源が気化あるいは昇華していることを水晶振動子式膜厚計4により確認した後、成膜速度を所定の値に調整してメインシャッタ6を開いて蒸着を開始する。目的の膜厚の膜が水晶振動子式膜厚計4に形成されたならばシャッタ5及びメインシャッタ6を閉じて蒸着源の加熱を止める。
真空蒸着装置S内が充分に冷えたところで大気ベントをおこない薄膜が形成された基板2を取り出す。
具体的な、蒸着条件は次の通りである。
真空蒸着装置S内の真空度は、一般に1.0Pa〜1.0×10-6Paであり、好ましくは1.0×10-1Pa〜1.0×10-4Paである。
るつぼ3のヒータの温度は室温〜250℃、好ましくは50℃〜200℃であるが、トリアジンチオール誘導体の分子量および装置S内の真空度との兼ね合いで最適な温度範囲が決められるため一義的に定めることはできない。
真空蒸着中は、磁石が基板2に磁場を印加している。
磁場の印加条件は、0.05T(テスラ)以上であり、磁場形成部7の種類に応じて適宜選定される。固体表面が強磁性体の場合には基板2の近傍に印加するだけでよく、0.1T程度の低磁場であればよい。固体表面が常磁性体の場合には、蒸着源から基板2までを磁場環境下として薄膜成形する場合には1T以上の磁場強度が有効である。特に、常磁性体表面に強磁性体の薄膜を形成した場合には0.05T以上の磁場を常磁性体表面に印加すれば足りる。
また、2種以上のトリアジンチオール誘導体を同時にまたは別個に蒸着させる場合には、異なったトリアジンチオール誘導体が入った複数のるつぼ3(対応するシャッタ5)を用いて行なう。
【0013】
(光重合工程)
光重合工程について以下説明する。
固体表面上に形成された薄膜に光照射を行ない光重合を行なう。光重合においても、蒸着工程と同様に磁場の印加を行なうことができる。
光重合で用いる光線は、X線,紫外線,赤外線等を用いることができ、200nm〜450nmの波長を有する紫外線が好ましく、特に280nm〜450nmの紫外線がより好ましい。光源としては、キセノンランプや水銀灯を利用することができる。また、光線の照射時間は、0.01秒〜180分が好ましい。0.01秒未満では重合率が不十分になり、180分を越えると重合速度が遅くなり薄膜形成に時間を要してしまい実用的ではない。
光重合の重合雰囲気は、薄膜表面の官能基が酸化可能であればよく、空気中や酸素を供給できる場であればよい。また、重合温度条件は、10℃〜50℃が好ましい。10℃未満及び50℃を越えると重合速度が遅くなり薄膜形成に時間を要してしまい実用的ではない。
磁場の印加条件は、蒸着工程にて磁場を印加した場合と同様である。
【0014】
このような薄膜形成方法によれば、真空蒸着では、真空中で蒸着原料が、加熱蒸発,昇華し「飛ばす」ことによって空間のガス分子と衝突することなく種々の固体表面に堆積する。従って、種々の固体表面に蒸着原料を堆積させて薄膜を形成することができる。固体表面の状態に応じ、真空中で飛ばされた蒸着原料は、固体表面に結晶核を発生させて広がり衝突等し薄膜として成長する。
蒸着工程の際、固体に磁場を印加することによって固体表面ではトリアジンチオール誘導体の結晶核が規則的に分子配列しながら成長する。これは、トリアジンチオール誘導体の基本骨格であるトリアジン環を飛び回る活性なπ電子の回転運動が外部磁場により内部磁場を誘起するため、内部磁場と外部磁場の反発エネルギーが小さい方向に分子回転が起こるため規則的に分子配列する結晶核が形成されるためと考察される。膜の分子密度が高くなると、重合距離が短縮するので、重合度や三次元化率を上げ易くなる。
光重合工程の際、蒸着した薄膜に光を照射することによって、薄膜の分子間どうしの化学反応により三次元的な重合反応が生じる。蒸着した薄膜は磁場の印加によって規則的に分子配列されているので、重合度や三次元化率が向上する。そのため、薄膜の耐久性(特に耐食性)が向上するものと考えられる。
また、規則的に配列された官能基が表面に形成されることによって、薄膜表面の機能性も向上することになる。薄膜表面の機能性とは、R1 ,R2 が有する非汚染性,非粘着性,離型性,防曇性,潤滑性,接着性,塗装性,氷結防止性のことである。
【0015】
次に、本発明の第二の実施の形態に係る薄膜形成方法について説明する。
第二の実施の形態に係る薄膜形成方法は、第一の実施の形態に係る薄膜形成方法とは異なり、磁場形成部7として磁石の代わりに超伝導磁石を用い、図3に示すように、超伝導磁石で形成された磁場空間内に枠体1を配置した真空蒸着装置Sを用いて固体に磁場を印加した。その他は、第一の実施の形態と同様にして薄膜を形成した。
第一の実施の形態に係る薄膜形成方法に比べ固体に強い磁場を印加することができるので、膜の分子密度がより高くなり、三次元化率がより向上して薄膜の耐久性(特に耐食性)が向上するものと考察される。
【0016】
次に、第一の実施の形態に係る薄膜形成方法に係る実施例を比較例とともに説明する。また、各実施例及び各比較例について、重合率(%),三次元化率(%)及び耐食性等についての測定を行ない測定結果を比較した。
(実施例1〜実施例5)
実施例1〜実施例5は、図4の表図に示す種類のトリアジンチオール誘導体(MはH)を用いたもので、図2に示される真空蒸着装置Sを用いて1種類のトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成した。
各実施例において、先ず、トリアジンチオール誘導体をるつぼ3に入れた。基板2には、成膜させる固体として鉄板(0.2cm×3cm×5cm、アセトンで脱脂処理済)を用いた。また、磁場形成部7にはネオジウム合金磁石(直径3cm,厚さ1.5cm,表面磁束密度0.45T)を用い、基板2の裏面に付帯させた。
次いで、真空ポンプを作動させ電離真空計により装置S内の圧力が5×10-3Paに達したら蒸着源ヒータ温度を110℃〜160℃まで上げてシャッタ5を開けて成膜速度が0.02nm/秒であることを確認したらメインシャッタ6を開けて水晶振動子式膜厚計4により計測して膜厚50nmになったところで、メインシャッタ6及びシャッタ5を閉じて、薄膜を形成した。
そして、ヒータを止め原料を蒸発昇華しない温度まで大気ベントした後、薄膜が形成された基板2を磁場形成部7とともに真空蒸着装置Sから取出した。
【0017】
形成した薄膜に、波長切替え型ハンディUVランプ(アズワン(株)製:SLUV−8)を用いて波長280nm〜400nm(出力9W)の紫外線を照射距離60mm、室温(23℃)空気中にて60分間照射して重合処理した薄膜を得た。重合処理は、蒸着時と同様に基板2に磁場形成部7を付帯させた状態で行なった。
こうして得られた薄膜の重合率(%),三次元化率(%)及び耐食性を以下のようにして測定した(他の実施例及び比較例においても同様に測定した)。
重合率は、20℃のアルコールに24時間浸漬して乾燥後の膜厚をエリプソメータで測定して求めた。三次元化率は、20℃のテトラヒドロフラン(THF)に24時間浸漬して乾燥後の膜厚をエリプソメータで測定して求めた。耐食性は、JIS Z 2371の塩水噴霧試験方法により行ない腐食が目視にて確認できるまでの時間(hr)を調べた。得られた重合率,三次元化率及び耐食性を図4に示す。
また、実施例1〜実施例5で得られた各薄膜の表面に付与された機能性を図4に示す。図中において、機能性をa(非汚染性),b(非粘着性),c(離型性),d(防曇性),e(潤滑性),f(接着性),g(塗装性),h(氷結防止性)で示す。
(実施例6〜実施例10)
実施例6〜実施例10は、図4の表図に示すように、トリアジンチオール誘導体として実施例1〜実施例5と同じものを用い、蒸着工程のみに磁場の印加を行ない、光重合工程において磁場の印加を行なわなかった。その他は、実施例1〜実施例5と同様にして薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率,三次元化率,耐食性及び機能性を図4に示す。
【0018】
(比較例1〜比較例5)
比較例1〜比較例5は、図5の表図に示すように、トリアジンチオール誘導体として実施例1〜実施例5と同じものを用い、蒸着工程において磁場の印加を行なわなかった。その他は、実施例1〜実施例5と同様にして薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率,三次元化率及び耐食性を図5に示す。
(比較例6〜比較例10)
比較例6〜比較例10は、図5の表図に示すように、トリアジンチオール誘導体として実施例6〜実施例10と同じものを用い、蒸着工程及び光重合工程において磁場の印加を行なわなかった。その他は、実施例1〜実施例5と同様にして薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率,三次元化率及び耐食性を図5に示す。
【0019】
実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例10で得られた薄膜の重合率,三次元化率及び機能性を比較検討する。
蒸着工程及び光重合工程にて基板2を磁場雰囲気に晒した場合(実施例1〜実施例5)には、得られた薄膜の重合率、特に三次元化率が高い傾向にあることがわかる。
蒸着工程にて基板2を磁場雰囲気に晒した場合(実施例6〜実施例10)には、得られた薄膜の重合率及び三次元化率が高い傾向にあることがわかる。
蒸着工程にて基板2を磁場雰囲気に晒さない場合(比較例1〜比較例5)には、光重合工程にて基板2を磁場雰囲気に晒しても(比較例6〜比較例10)得られた薄膜の重合率及び三次元化率が低いことがわかる。
このように、蒸着工程にて基板2に磁場を印加することによって、薄膜の重合率,三次元化率及び耐食性が向上し、更に光重合工程にて基板2に磁場を印加すれば薄膜の三次元化率及び耐食性がより向上することがわかる。
【0020】
(実施例11〜実施例15)
実施例11〜実施例15は、実施例1〜実施例5で用いた鉄板の代わりにガラス板を用いた。ここでは、蒸着工程前にガラス板表面に強磁性体を予め真空蒸着して50nmの薄膜を形成した。その他は、実施例1〜実施例5と同様にしてトリアジンチオール誘導体の薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率,三次元化率及び機能性を図6に示す。
(比較例11〜比較例15)
比較例11〜比較例15は、トリアジンチオール誘導体として実施例11〜実施例15と同じものを用い、蒸着時及び光重合時に磁場を印加しなかった。その他は、実施例11〜実施例15と同様にしてトリアジンチオール誘導体の薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率及び三次元化率を図6に示す。
ガラス板に蒸着した強磁性体は、実施例1〜実施例10の基板2に用いた鉄板と同じ作用を生じるので、蒸着工程にて基板2に磁場を印加することによって、薄膜の重合率及び三次元化率が向上させられることがわかる。
【0021】
(実施例16,実施例17)
実施例16,実施例17は、図7の表図に示すように、2種類のトリアジンチオール誘導体を積層させた薄膜形成方法である。蒸着に用いた2種類のトリアジンチオール誘導体の組み合わせを図7に示す。組み合わせは、上記実施例で用いたトリアジンチオール誘導体として実施例番号で表わした。
実施例16,実施例17は、図2に示される真空蒸着装置Sを用いて2種類のトリアジンチオール誘導体からなる積層薄膜を形成した。ここで、るつぼ3(シャッタ5)は用いたトリアジンチオール誘導体の数(2個)用いた。
先ず、2種類のトリアジンチオール誘導体を夫々別個のるつぼ3に入れた。基板2には、成膜させる固体として鉄板(0.2cm×3cm×5cm、アセトンで脱脂処理済)を用いた。また、磁場形成部7にはネオジウム合金磁石(直径3cm,厚さ1.5cm,表面磁束密度0.45T)を用い、基板2の裏面に付帯させた。
次に、真空ポンプを作動させ電離真空計により装置S内の圧力が5×10-3Paに達したら蒸着源ヒータ温度を110℃〜160℃まで上げて一方のシャッタ5を開けて成膜速度が0.02nm/秒であることを確認したらメインシャッタ6を開けて水晶振動子式膜厚計4により計測して膜厚25nmになったところで、メインシャッタ6及びシャッタ5を閉じて、1層目の薄膜を形成した。
続けて、他方のシャッタ5を開けて成膜速度が0.02nm/秒であることを確認したらメインシャッタ6を開けて水晶振動子式膜厚計4により計測して膜厚25nmになったところで、メインシャッタ6及びシャッタ5を閉じて、2層目の薄膜を形成した。
このようにして、二層からなる積層薄膜を形成したら、ヒータを止め原料を蒸発昇華しない温度まで大気ベントした後、積層薄膜が形成された基板2を磁場形成部7とともに真空蒸着装置Sから取出した。
実施例1〜実施例5と同様に、得られた薄膜(積層薄膜)に対して光重合工程を施した。得られた薄膜の重合率(%),三次元化率(%)及び耐食性を上記と同様に測定した。
得られた薄膜の重合率,三次元化率,耐食性及び機能性を図7に示す。
(比較例16,比較例17)
比較例16,比較例17は、トリアジンチオール誘導体として実施例16,実施例17と同じものを用い、蒸着時及び光重合時に磁場を印加しなかった。その他は、実施例16,実施例17と同様にしてトリアジンチオール誘導体の薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率,三次元化率及び耐食性を図7に示す。
このように、蒸着工程及び光重合工程にて基板2に磁場を印加することによって、積層薄膜においても重合率,三次元化率及び耐食性が向上させられることがわかる。
【0022】
(比較例18)
比較例18は、トリアジンチオール誘導体として実施例2と同じものを用い、蒸着工程にて得られた薄膜を光重合することなく磁場印加したまま大気中140℃にて60分間加熱(熱重合)した。その他は、実施例2と同様にしてトリアジンチオール誘導体の薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率及び三次元化率を図8に示す。
(比較例19)
比較例19は、トリアジンチオール誘導体として実施例2と同じものを用い、熱重合時に磁場を印加しなかった。その他は、比較例18と同様にしてトリアジンチオール誘導体の薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率及び三次元化率を図8に示す。
(比較例20)
比較例20は、トリアジンチオール誘導体として実施例2と同じものを用い、蒸着工程及び熱重合時に磁場を印加しなかった。その他は、比較例18と同様にしてトリアジンチオール誘導体の薄膜を得た。
得られた薄膜の重合率及び三次元化率を図8に示す。
このように、光重合の代わりに熱重合した場合には、光重合を行なった場合のような重合率及び三次元化率を得ることができないことがわかる。
【0023】
次に、第二の実施の形態に係る薄膜形成方法に係る実施例を比較例とともに説明する。また、各実施例及び各比較例について、重合率(%),三次元化率(%)及び耐食性等についての測定を行ない測定結果を比較した。
(実施例18)
実施例18は、図9の表図に示す種類のトリアジンチオール誘導体(MはH)を用いたもので、図3に示される真空蒸着装置Sを用いて1種類のトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成した。
各実施例において、先ず、トリアジンチオール誘導体をるつぼ3に入れた。基板2には、成膜させる固体としてステンレス板(SUS34 0.2cm×3cm×5cm、アセトンで脱脂処理済)を用いた。超伝導磁石が形成する磁場(5T)に枠体1を置いた。
次いで、真空ポンプを作動させ電離真空計により装置S内の圧力が5×10-3Paに達したら蒸着源ヒータ温度を110℃〜160℃まで上げてシャッタ5を開けて成膜速度が0.02nm/秒であることを確認したらメインシャッタ6を開けて水晶振動子式膜厚計4により計測して膜厚50nmになったところで、メインシャッタ6及びシャッタ5を閉じて、薄膜を形成した。
光重合を行なうため、枠体1内に真空用のドレインから石英製窓ガラスを通して波長切替え型ハンディUVランプ(アズワン(株)製:SLUV−8)を用いて波長280nm〜400nm(出力9W)の紫外線を照射距離60mm、温度(20℃)にて60分間照射して重合処理した薄膜を得た。光重合は、蒸着時と同様の磁場環境下にて行なった。
こうして得られた薄膜の重合率(%),三次元化率(%),耐食性及び機能性を図9に示す。
(実施例19)
実施例19は、図9の表図に示すように、トリアジンチオール誘導体として実施例18と同じものを用い、光重合時に磁場の印加を行なわなかった。その他は、実施例18と同様にして薄膜を得た。
こうして得られた薄膜の重合率(%),三次元化率(%),耐食性及び機能性を図9に示す。
(比較例21)
比較例21は、図9の表図に示すように、トリアジンチオール誘導体として実施例18と同じものを用い、蒸着時及び光重合時に磁場の印加を行なわなかった。その他は、実施例18と同様にして薄膜を得た。
こうして得られた薄膜の重合率(%),三次元化率(%)及び耐食性を図9に示す。
このように、強磁場中にて蒸着工程及び光重合工程を行なって得られる薄膜は、重合率,三次元化率及び耐食性が向上させられることがわかる。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、一般式(1)で示されるトリアジンチオール誘導体の1種または2種以上を固体表面に真空蒸着して積層薄膜を形成する蒸着工程と、積層薄膜が形成された固体に光照射してトリアジンチオール誘導体を重合する光重合工程とを備え、蒸着工程にて固体に磁場を印加する構成としたので、配水処理等が不要な乾式法により容易に薄膜を形成することができる。
また、蒸着工程の際には、固体表面では磁場の影響によりトリアジンチオール誘導体の結晶核が規則的に分子配列しながら成長する。これは、トリアジンチオール誘導体の基本骨格であるトリアジン環を飛び回る活性なπ電子の回転運動が外部磁場により内部磁場を誘起するため、内部磁場と外部磁場の反発エネルギーが小さい方向に分子回転が起こるため規則的に分子配列する結晶核が形成されて膜の分子密度を高くすることができる。
そのため、トリアジンチオール誘導体は、光重合工程の際には、規則的に分子配列されているので、光を照射されることによって、分子間どうしの化学反応により三次元的な重合反応が起こり易くなる。従って、薄膜の三次元化率が上がるので薄膜の耐久性を向上することができる。
また、規則的に配列された官能基が表面に形成されるので、薄膜表面の機能性も向上する。
【0025】
また、磁場の印加を、固体に磁石を付帯して行なう構成とした場合には、固体に磁場を容易に印加して目的とする薄膜を形成することができる。
更に、磁場の印加を、超伝導磁石で形成された磁場空間内に固体を配置して行なう構成とした場合には、形成する薄膜の分子密度を向上させることができる。
更にまた、印加する磁場強度T(テスラ)を、T≧0.05とした場合には、形成する薄膜に規則的な分子配列を与えることができる。
また、印加する磁場強度T(テスラ)を、T≧1とした場合には、昇華または気化している蒸着物質にも磁場を与えることができるので形成する薄膜に規則的な分子配列をより密に与えることができる。
更に、固体に強磁性体を用いた場合には、固体表面に磁場傾斜が生じて膜形成を容易に行なわせることができる。
更にまた、蒸着工程前に、固体表面に強磁性材料を真空蒸着した場合には、固体に強磁性体を用いた構成と同様の効果を得ることができる。
また、光重合工程にて、波長200nm〜450nmの光照射を行なった場合には、重合反応を効率よく行なうことができる。
更に、光重合工程にて、固体表面温度を10℃〜50℃に保持した場合には、薄膜形成の効率を向上させることができる。
更にまた、光重合工程にて、固体に磁場を印加する構成とした場合には、三次元的な重合反応を起こり易くして薄膜の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法を示す工程図である。
【図2】本発明の第一の実施の形態に係るトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法に用いる真空蒸着装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の第二の実施の形態に係るトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法に用いる真空蒸着装置の一例を示す図である。
【図4】本発明の第一の実施の形態に係る実施例及び各種測定結果を示す表図である。
【図5】本発明の第一の実施の形態に係る比較例及び各種測定結果を示す表図である。
【図6】本発明の第一の実施の形態に係る実施例,比較例及び各種測定結果を示す表図である。
【図7】本発明の第一の実施の形態に係る実施例,比較例及び各種測定結果を示す表図である。
【図8】本発明の第一の実施の形態に係る比較例及び各種測定結果を示す表図である。
【図9】本発明の第二の実施の形態に係る実施例,比較例及び各種測定結果を示す表図である。
【符号の説明】
S 真空蒸着装置
1 枠体
2 基板
3 るつぼ
4 水晶振動子式膜厚計
5 シャッタ
6 メインシャッタ
7 磁場形成部

Claims (9)

  1. 固体表面に蒸着によりトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成するトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法において、
    一般式
    Figure 0003672519
    (式中、R1 ,R2 は、夫々
    H,CH3 ,C25 ,C49 ,C613,C817,C1021,C1225,C1837,C2041,C2245,C2449
    CF364 ,C4954 ,C61354 ,C81764
    102164 ,C61164 ,C917CH2 ,C1021CH2
    49 CH2 ,C613CH2 CH2 ,C817CH2 CH2
    1021CH2 CH2
    CH2 =CHCH2 ,CH2 = CH(CH28 ,CH2 =CH(CH2 )9
    817CH2 =C816
    611,C65 CH2 ,C65 CH2 CH2
    CH2 =CH(CH24 COOCH2 CH2
    CH2 =CH(CH28 COOCH2 CH2
    CH2 =CH(CH29 COOCH2 CH2
    49 CH2 =CHCH2 ,C613CH2 =CHCH2
    817CH2 =CHCH2 ,C1021CH2 =CHCH2
    49 CH2 CH(OH)CH2 ,C613CH2 CH(OH)CH2
    817CH2 CH(OH)CH2 ,C1021CH2 CH(OH)CH2
    CH2 =CH(CH24 COO(CH2 CH22
    CH2 =CH(CH28 COO(CH2 CH22
    CH2 =CH(CH29 COO(CH2 CH22
    49 COOCH2 CH2 ,C613COOCH2 CH2
    817COOCH2 CH2 ,C1021COOCH2 CH2
    を示し、同じでも異なってもよい。Mは、Hまたはアルカリ金属を示す。)
    で示されるトリアジンチオール誘導体の1種または2種以上を固体表面に真空蒸着して積層薄膜を形成する蒸着工程と、該積層薄膜が形成された固体に光照射して上記トリアジンチオール誘導体を重合する光重合工程とを備え、上記固体に強磁性体を用い、上記蒸着工程にて上記固体に磁場を印加することを特徴とするトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  2. 固体表面に蒸着によりトリアジンチオール誘導体の薄膜を形成するトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法において、
    一般式
    Figure 0003672519
    (式中、R1 ,R2 は、夫々
    H,CH3 ,C25 ,C49 ,C613,C817,C1021,C1225,C1837,C2041,C2245,C2449
    CF364 ,C4954 ,C61354 ,C81764
    102164 ,C61164 ,C917CH2 ,C1021CH2
    49 CH2 ,C613CH2 CH2 ,C817CH2 CH2
    1021CH2 CH2
    CH2 =CHCH2 ,CH2 = CH(CH28 ,CH2 =CH(CH2 )9
    817CH2 =C816
    611,C65 CH2 ,C65 CH2 CH2
    CH2 =CH(CH24 COOCH2 CH2
    CH2 =CH(CH28 COOCH2 CH2
    CH2 =CH(CH29 COOCH2 CH2
    49 CH2 =CHCH2 ,C613CH2 =CHCH2
    817CH2 =CHCH2 ,C1021CH2 =CHCH2
    49 CH2 CH(OH)CH2 ,C613CH2 CH(OH)CH2
    817CH2 CH(OH)CH2 ,C1021CH2 CH(OH)CH2
    CH2 =CH(CH24 COO(CH2 CH22
    CH2 =CH(CH28 COO(CH2 CH22
    CH2 =CH(CH29 COO(CH2 CH22
    49 COOCH2 CH2 ,C613COOCH2 CH2
    817COOCH2 CH2 ,C1021COOCH2 CH2
    を示し、同じでも異なってもよい。Mは、Hまたはアルカリ金属を示す。)
    で示されるトリアジンチオール誘導体の1種または2種以上を固体表面に真空蒸着して積層薄膜を形成する蒸着工程と、該積層薄膜が形成された固体に光照射して上記トリアジンチオール誘導体を重合する光重合工程とを備え、上記蒸着工程前に、上記固体表面に強磁性材料を真空蒸着し、上記蒸着工程にて上記固体に磁場を印加することを特徴とするトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  3. 上記磁場の印加を、上記固体に磁石を付帯して行なうことを特徴とする請求項1または2記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  4. 上記磁場の印加を、超伝導磁石で形成された磁場空間内に上記固体を配置して行なうことを特徴とする請求項1または2記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  5. 上記印加する磁場強度T(テスラ)を、T≧0.05としたことを特徴とする請求項1,2,3または4記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  6. 上記印加する磁場強度T(テスラ)を、T≧1としたことを特徴とする請求項5記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  7. 上記光重合工程にて、波長200nm〜450nmの光照射を行なったことを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  8. 上記光重合工程にて、上記固体表面温度を10℃〜50℃に保持したことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6または7記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
  9. 上記光重合工程においても、上記固体に磁場を印加することを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7または8記載のトリアジンチオール誘導体の薄膜形成方法。
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