JP3671187B2 - 抄紙機における紙体表面のほつれ防止方法 - Google Patents
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Description
また、旧来からの印刷用紙の分野でも、現在、凸版印刷に代わってオフセット印刷が主流となっており、良好なインキ着肉性や色ムラを生じないカラー多色印刷適性、或いは印刷不透明性や印刷作業性等、高い印刷適性が要求されるに至っている。
より具体的に言えば、刷版(PS版)の画線部に付着したインキを一旦ブランケットと呼ばれるゴム版に転写させ、更にブランケットから紙に転移させることにより印刷用紙に印刷する。
そのため、印刷用紙の表面強度が弱いと、インキのタックで用紙の表面が細かく剥けるなどして、用紙の印刷適性に種々の問題を引き起こす。
また、遊離した微細繊維や填料等は、ブランケット等の上で紙粉を形成して堆積し(ブランケットパイリング)、そのまま印刷すると、用紙の印刷面にドーナツ状の白抜け(ヒッキー)や不定形の白抜け(スポット)等を発生させてしまうこともある。
そのため、ブランケット等の頻繁な洗浄等が必要となるが、印刷作業性が著しく阻害される。
ベッセルは、他の原料パルプとの結合性に乏しいため、印刷用紙の表面強度が弱いとオフセット印刷のインキの粘性で紙表面から容易に剥離され、印刷画像中に白抜け(ベッセルピック)が生じてしまう(例えば特許文献1等参照)。
そのため、例えば、オフセット印刷による多色印刷では、第1色の印刷で湿し水が印刷用紙を濡らし、用紙の表面強度が低下する。
そこに第2色の印刷が行われると、第2色のインキが十分に紙に転移しなかったり、第1色のインキを剥ぎ取ったりしてインキ着肉性が悪化するウェットピックの問題が発生することもある。
上記のようなオフセット印刷時のトラブルを防止するためには、用紙の表面強度を増し、用紙に耐水性を持たせることが必要である。
そのため、例えば、新聞用紙の分野などでは、用紙表面に澱粉やポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAM)等が塗布されることが多い。
また、ポリアクリルアミド(PAM)等の比較的耐水性の乏しい表面処理剤は、それ自体がオフセット印刷時の湿し水に溶け出し、ブランケット等に紙粉と共に堆積してしまうこともあった(例えば特許文献2等参照)。
また、他にも多くの表面処理剤が開発されているが、上記の問題点をすべて解消し、しかも低コストで環境への負荷も小さい表面処理剤は、少なくとも現時点では、見出されていない。
また、例えばコート紙の場合でも、コート原紙自体の表面強度が弱いと、たとえ原紙表面にコート層を形成しても、オフセット印刷の粘性の高いインキに負けて、コート層と共に原紙表面が剥けてしまうこともある。
オフセット印刷との関連で印刷用紙の製造方法について述べたものとしては、用紙の平滑性及びそれに起因するインキ着肉性についての表裏差を解消するために、抄紙工程とソフトカレンダー処理を連携させる印刷用紙の製造方法がいくつか提案されている(特許文献3及び4参照)。
同文献では、その理由として、湿紙がフェルト等で搾水されると、搾水された側の面では原料パルプの繊維間の結合性が強固になり、ベッセルの剥離を有効に抑制するためであると推定されている。
湿紙がフェルト等で搾水されると原料パルプの繊維間結合が強固となり表面強度が向上することは一つの知見であるが、ワイヤ面がプレスロールに直接押圧された際の影響については何ら示されていない。
また、抄紙機のドライパートでドライヤロールに加熱されて乾燥される際の表面強度に与える影響については、まったく考慮されていない。
すなわち、本発明の目的は、抄紙機における抄紙工程、特にプレスパートやドライパートにおいて紙体表面のほつれ(即ち表面強度の低下)を防止する方法を提供することである。
また、本発明の紙体表面のほつれ防止方法を、プレスパートとドライパートの両方で同時並行的に行えば、紙体の表面強度の低下をより確実に防止することができる。
また、離型剤としてエチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体との混合物を付加重合してなる両性電解質高分子を使うことにより、更に優れたほつれ防止効果が期待できる。
先述したように、紙体の表面強度は原料パルプの繊維間の結合性に依存し、繊維同士が緊密に結合しあえば表面強度は強くなり、結合が緩めば(即ちほつれれば)表面強度は弱くなる。
因みに、紙体の乾燥が相当進んだ抄紙機のドライパートの最終段階では、ドライヤロールに紙粉等が付着して粘着性が非常に強くなったような場合を除けば、もはや紙体表面にほつれが生じることはない。
また、本発明の紙体表面のほつれ防止方法を、プレスパートとドライパートの両方で同時並行的に行えば、紙体の表面強度の低下をより確実に防止することができ、好ましい。
そうした場合には、以下に述べる本発明の紙体表面のほつれ防止方法を、表面強度が弱い方の面(紙体表面がほつれ易い方の面)に重点的に適用し、その面に直接接触するプレスロールやドライヤロール等に離型剤を付与することで、上記表裏差を解消することも可能である。
抄紙機では、通常、紙体はワイヤーパートで脱水された後、プレスパートにてプレスロールにより圧搾脱水され、更にドライパートに送られて加熱乾燥される。
図1は、抄紙機のプレスパート、及びドライパートの構成例を示す概略図である。
図1において、紙体Wのワイヤ面は紙体Wの下側の面であり、フェルト面は上側の面である。
また、ドライパートDの第1群はいわゆるダブルカンバス方式であり、上下に並設されたドライヤロールD1〜D8、及びカンバスK1、K2等より構成される。
因みに、抄紙される紙の種類等により、図2に示すようにドライパートDの第1群にいわゆるシングルカンバス方式が採用される場合もある。
次に、フェルトF2により搬送され、フェルトF2と共にプレスロールP2及びセンターロールCにより圧搾される。
紙体Wは、更にセンターロールCに接触した状態で、フェルトF3と共にプレスロールP3及びセンターロールCにより圧搾される。
従って、この構成例のプレスパートPでは、紙体Wのワイヤ面はセンターロールCに直接圧接され、フェルト面はプレスロールP4tに直接圧接される。
従って、この構成例のドライパートDにおいては、紙体Wのワイヤ面は上段のドライヤロールD2、D4、D6、D8、及び下段のカンバスK2に直接圧接され、フェルト面は下段のドライヤロールD1、D3、D5、D7、及び上段のカンバスK1に直接圧接される。
次に、プレスパートにおける紙体表面のほつれの発生メカニズムについて説明する。
図3は、図1に示した抄紙機のプレスパートの一部の拡大図である(紙体W及びフェルトF2、F3を便宜的に実際より強調して描いた。以下図5も同じ)。
プレスパートPでは、先述したように、紙体Wが各プレスロール間のニップ圧で強い締め付けを受けることにより、紙体W内部の水分がフェルトに吸い取られて脱水され、それと同時に、紙体W内部の繊維同士の結合が強固となる。
紙体W内部の水分は、フェルトF2により紙体Wのフェルト面W1側から吸い取られるため、紙体W中のフェルト面W1付近は脱水が進み、繊維組織が引き締まる。
逆に、紙体Wは、ワイヤ面W2付近に比較的多量の水分を含み、ワイヤ面W2付近の繊維間結合が弛緩したまま、センターロールCに強く押圧されるため、ある程度の強さでセンターロールCに粘着する。
そのため、紙体Wは、ワイヤ面W2側が比較的多量の水分を含んで繊維間結合が強化されないまま、センターロールCに比較的強く粘着する。
その際、紙体Wのワイヤ面W2付近の繊維がセンターロールCに引っ張られてワイヤ面W2がほつれ、そのためにワイヤ面W2の表面強度が低下してしまうのである。
このような状態になると、ワイヤ面W2の表面強度は非常に弱くなる。
因みに、図4(a)は、紙体WがセンターロールCから理想的に離れ、毛羽立ちを生じていない状態を示す。
この構成例では、紙体Wのフェルト面W1は、プレスロールP1とP2、プレスロールP2とセンターロールC、及びプレスロールP3とセンターロールCの各ニップ圧である程度脱水が進んでいる。
そして、紙体Wが紙離れ位置2でプレスロールP4tから離れる際、フェルト面W1付近の繊維がプレスロールP4tに引っ張られて、フェルト面W1にほつれが生じ、ワイヤ面の場合と同様に表面強度が低下してしまうのである。
またプレスパートに入った紙体Wは、フェルトF2、F3、F4に粘着する場合もある。
そうした場合には、上記のプレスロールC、P4tの場合と同様に、紙体Wが紙離れ位置5(図5参照)においてフェルトF4から離れる際に、紙体Wのワイヤ面W2を引っ張り、ワイヤ面W2にほつれを生じさせ、表面強度を低下させてしまう。
紙体表面のほつれは、ドライパートにおいても生じる可能性がある。
ここで、それを簡単に説明する。
図6は、図1に示した抄紙機のドライヤロールD1付近を拡大した図である(紙体W及びカンバスK2を便宜的に実際より強調して描いた)。
しかし、プレスパートで搾水されドライパートに入ったばかりの紙体Wは、まだ多量の水分を含んでいるため、カンバスK2により加熱されたドライヤロールD1に押圧されると、いわば瞬間的な焼き付きが生じ、ドライヤロールD1にある程度の強さで粘着する。
そのため、先述したプレスロールの場合と同様に、紙体Wが紙離れ位置3においてドライヤロールD1及びカンバスK2から離れる際に、紙体Wのフェルト面W1を引っ張り、フェルト面W1にほつれを生じさせ、表面強度を低下させてしまうのである。
そうした場合には、上記のドライヤロールD1の場合と同様に、紙体Wが紙離れ位置4(図6参照)においてカンバスK2から離れる際に、紙体Wのワイヤ面W2を引っ張り、ワイヤ面W2にほつれを生じさせ、表面強度を低下させてしまう。
そのため、ピッチ等の粘着物質が次々にドライヤロールD1やカンバスK2に転移し、それらの表面上に堆積する場合がある。
特に、ドライヤロールD1の熱によってその表面に堆積した粘着物質が粘着性を増すため、ドライヤロールD1に直接接触するフェルト面W1はほつれ易くなり、極端な場合は表面が細かく毛羽立ってしまう場合もある〔図4(b)参照〕。
また、上段のドライヤロールD2、D4、D6、D8では、ドライヤロールとカンバスK1に対する紙体Wのフェルト面W1とワイヤ面W2の位置関係が上記とは逆になるが、同様のメカニズムでほつれや毛羽立ちを生じる可能性がある。
更に、カンバスK1でも同様にほつれ等が生じる場合がある。
以上のように、本発明者らの研究から、抄紙機においては、特に、まだ紙体に水分が多量に含まれているプレスパートやドライパートにおいて、紙体が直接圧接されていたプレスロールやドライヤロール、カンバスから離れる際の紙離れ位置で、紙体のフェルト面やワイヤ面付近の繊維がプレスロール等の部材に引っ張られて紙体表面にほつれが生じ、表面強度が低下する可能性があることが分かった。
より具体的には、抄紙機のプレスパートにおいて紙体に直接接触するプレスロールに離型剤を付与して、紙体が各部材に粘着して該紙体が前記各部材から離れる際に該紙体の表面がほつれて表面強度が低下するのを防止する。
尚、この際、ドライヤロールとカンバスのどちらか一方にのみ離型剤を付与するか、或いはその両方に付与するかの選択は、実際の抄紙機における紙体表面のほつれの発生の度合い(紙体の表面強度の低下の度合い)に応じて判断されることは言うまでもない。
即ち、抄紙機のプレスパートにおいて紙体に直接接触するプレスロールに離型剤を付与し、且つ抄紙機のドライパートにおいて紙体に直接接触するドライヤロール及び/又はカンバスに離型剤を付与して、紙体が各部材に粘着して該紙体が前記各部材から離れる際に該紙体の表面がほつれて表面強度が低下するのを防止すれば、より好ましい。
即ち、ある抄紙機で抄紙する際、紙体のフェルト面及びワイヤ面のうちどちらか一方の面の表面強度が他方の面より弱くなってしまう場合には、表面強度が弱くなる方の面が直接接触するプレスロールやドライヤロール、カンバスに離型剤を付与することで、表裏差を解消することも可能である。
具体的には、例えば、図1に示したような抄紙機で紙体のワイヤ面の表面強度が弱くなる場合には、ワイヤ面が直接接触するセンターロールCや上段のドライヤロールD2、D4、D6、D8、カンバスK2に離型剤を付与すればよい。
以上のようにして本発明の紙体表面のほつれ防止方法を適宜用いることで、総合的に紙体表面のほつれ防止を図ることができ、更には抄紙機が本来持つ紙体表面の形成能力を十分に発揮させて紙体が本来的に有する表面強度を得ることができる。
このような抄紙機では、紙体のフェルト面に比べてワイヤ面の表面強度が著しく弱くなることが多いが、本発明の紙体表面のほつれ防止方法は、上記のようにドライパートのみにも適用可能であり、表裏差の軽減或いは解消のために有効にその効果を発揮し得る。
離型剤としては、ワックス又はオイルのエマルジョン、ポリマーの水溶液、固体潤滑剤等、又はこれらを混合したものが好ましく用いられる。
プレスロールに付与する離型剤としては、ポリマー水溶液やシリコーンオイルエマルジョン、ワックス等を主成分とする水溶液やエマルジョンが好ましく用いられる。
エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体としては、アミノ基、アンモニウム塩基、又は4級アンモニウム塩基とエチレン性二重結合を有する単量体が挙げられる。
尚、これらの中から選ばれた1つ以上が採用される。
効果的な面から、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメチルクロリド塩、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルベンジルクロリド塩がより好ましい。
具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、コハク酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル、等が採用される。
尚、これらの中から選ばれた1つ以上が採用される。
効果的な面から、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。
更に好ましくは、炭素原子の数が10〜40である物がより高い効果を示す。
なお、本発明における両性電解質高分子としては、カチオン単量体が4割以上の重量割合を示すものが好ましいものとされる。
シリコーンオイルにも種々の種類のものがあるが、側鎖型アミノ変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイルは、プレスロールやカンバスへの定着性が強く好ましい。
ワックスは、ドライヤロールの表面温度より融点が低いものが好ましい。
また、カンバスに付与する離型剤としては、上記のようなシリコーンオイルや植物油等を主成分とするエマルジョンが有効である。
離型剤の付与方法は、プレスロールやドライヤロール、カンバスのレイアウト等にもよるが、図1に示した構成例においては、例えば、図3の散布ノズルS1や図6の散布ノズルS2、図1の散布ノズルS3、S4等の位置で、それぞれの部材に対して離型剤を直接散布するのが好ましい。
抄紙機の抄速や紙体の幅、部材の材質等の諸条件を考慮して、離型剤の種類や散布量、散布ノズルの種類、散布方法等が適宜選択される。
散布ノズルの種類は、散布量等に合わせて1流体ノズルや2流体ノズル等の種々のノズルタイプの中から適宜選択される。
この方法によれば、プレスロールP4tとドクターDRとの間隙から離型剤Tが僅かずつ漏れ出すようにすることができ、プレスロールP4tの表面に離型剤Tを均一に塗布することができる。
紙体表面のほつれの発生メカニズムを調べるための上記実験の中で、更に以下のことが観察された。
例えば、図1に示したドライパートDでは、紙体Wのフェルト面が直接接触するドライヤロールD1及びワイヤ面が直接接触するドライヤロールD2の汚染が最も激しい。
そして、後続のドライヤロールは、汚染されてはいたものの、ドライヤロールD1やD2から遠くなるほど汚染の程度が小さくなっていた。
この場合、紙体のフェルト面やワイヤ面が最初に直接接触する加熱されたドライヤロールが最も汚染された。
また、この加熱されたドライヤロールの上流側の加熱されていないドライヤロールは、抄紙機によって汚れる場合もあり、汚れない場合もあった。
また、後続のドライヤロールも汚染されたが、ドライヤロールD5やD6から遠ざかるにつれて汚染の程度が小さくなった。
更に、非加熱のドライヤロールD1〜D4は、抄紙機によって汚れる場合もあり、汚れない場合もあった。
また、紙体表面のほつれた繊維の一部がピッチ等の粘着物質と共にロールの表面上に堆積し、加熱されたドライヤロール上で粘着性を増し、そのために紙体の表面付近の繊維を更に強く引っ張り、紙体の表面強度を低下させると考えられる。
まず第一に、紙体のフェルト面が最初に直接接触するドライヤロールD1又は紙体のワイヤ面が最初に直接接触するドライヤロールD2(共に図1参照)、或いはその両方に離型剤を付与すれば、本発明の作用効果が十分に発揮される。
例えば、離型剤をドライヤロールD1に付与すると、ドライヤロールD1に付与した離型剤の一部が紙体Wのフェルト面に転移して運ばれ、紙体Wを介して後続のドライヤロールD3、D5、D7に付与される。
また、離型剤をドライヤロールD2に付与すれば、その一部が紙体Wのワイヤ面を介して後続のドライヤロールD4、D6、D8に運ばれて付与されるのである。
また、このように紙体が最初に直接接触するドライヤロールにのみ離型剤を付与すれば、離型剤の少量付与で効率的に紙体表面のほつれを防止でき、コスト等の観点からも現実的な付与方法であり、好ましい。
更に、この場合は、紙体の表面が最も激しく焼き付き易い最初の加熱されたドライヤロールでの紙体表面のほつれの発生を確実に防止でき、しかもその加熱で紙体表面の繊維組織がある程度引き締まるため、それ以降のドライヤロールでも焼き付き難くなるのである。
そのため、図1に示した抄紙機のドライパート第1群のカンバスK1やK2以外にも、更に下流の図示しない第2群、第3群等のカンバスにも離型剤を付与すれば、より確実にほつれを防止できる。
従って、本発明の紙体表面のほつれ防止方法を適用する際にカンバスに離型剤を付与する場合には、紙体が最初に直接接触するカンバスに離型剤を付与すればその効果が十分に発揮される。
先述したように、本発明は、主に、オフセット印刷におけるブランケットパイリングやドライピック、ウェットピックの問題を解消するためには、紙体の表面強度を強化する必要があるという認識の下になされたものである。
そのため、当然のことながら、本発明の紙体表面のほつれ防止方法は、抄紙される紙体がオフセット印刷用印刷用紙である場合には非常に有効にその効果を発揮する。
また、紙体の強い表面強度は、上記のようなオフセット印刷用印刷用紙のみならず、紙製品全般に必要とされる品質特性である。
以上のように、本発明の紙体表面のほつれ防止方法は、紙体の抄紙工程に適用することで、紙体表面のほつれや毛羽立ちを非常に有効に防止することを可能にする。
そのため、本発明によれば、紙体のほつれや毛羽立ちに起因する紙体の平滑性の悪化をも防止することができ、逆に更に向上させることができる。
また、紙体の平滑性の表裏差を解消し、また平滑性の表裏差に起因するインキ着肉性等についての表裏差をも解消することが可能となる。
例えば、本発明で列挙したプレスロールやドライヤロール、カンバス以外にも、例えば、プレスパートにおける紙体に直接接触するフェルトや紙体を誘導するペーパーロールや、ドライパートにおける(ソフト)カレンダー等に離型剤を付与することも当然可能である。
また、図3や図6に示さないが、散布ノズル(S1やS2)の前後に1本又は複数本のドクターを配設することも当然可能であり、必要に応じて適宜行われることは言うまでもない。
以下、実施例について述べる。
本発明は、これらの実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
抄造品種:下級印刷紙(DIP100%)
紙幅:3500mm
抄速:650m/分
坪量:50g/m2
日産:170t
尚、抄紙を行った抄紙機のプレスパートは、図1に示したものと概略同型である。
プレスロールに対する離型剤は、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体とを必須成分とする混合物を付加重合してなる両性電解質高分子に相当する離型剤を用いた。
すなわち、具体的にはカチオン性単量体として(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルベンジルクロリド塩、またアニオン性単量体としてアクリル酸を使った両性電解質高分子を主成分とする水溶性ポリマーの2重量%水溶液を用いた。
ドライヤロールに対する離型剤は、鉱物油、及びワックスの計10重量%エマルジョン(ダスクリーンR507NA、株式会社メンテック製)を用いた。
尚、上記エマルジョン(ドライヤロールとカンバスに対する離型剤)は共に水をベースとするものであり、上記主成分の他に2重量%の乳化剤を含む。
プレスパートのセンターロールCに対する離型剤の付与は、図3に示した散布ノズルS1により上記離型剤をシャワー水に希釈した状態で散布し、原液(上記2重量%水溶液)ベースで毎分9cm3の割合で散布した。
プレスパートのプレスロールP4tに対する離型剤の付与は、図5に示した方法により上記離型剤をシャワー水に希釈した状態で供給し、原液ベースで毎分3cm3の割合で塗布した。
カンバスに対する離型剤は、図1に示したS3及びS4の位置でカンバスのアウトロールに対して上記離型剤を原液(上記10重量%エマルジョン)の状態で摺動型スプレー装置により毎分5cm3の割合で散布し、それぞれのアウトロールを介して上下のカンバスK1及びK2にそれぞれ転移させて付与した。
以下の実施例1〜3及び比較例に示す離型剤の付与条件で抄紙した下級印刷紙にオフセット印刷を施した場合のブランケットの清掃周期(単位は巻取り本数)を、図7に折れ線グラフで示す。
尚、図7において、○印は下級印刷紙のフェルト面にオフセット印刷した場合、×印はワイヤ面にオフセット印刷した場合を示す。
上記離型剤を、プレスロールCとP4t、ドライヤロールD1とD2、及びカンバスK1とK2に付与する。
(実施例2)
上記離型剤を、プレスロールCとP4tに付与し、ドライヤロールD1とD2及びカンバスK1とK2には付与しない。
(実施例3)
上記離型剤を、ドライヤロールD1とD2及びカンバスK1とK2に付与し、プレスロールCとP4tには付与しない。
(比較例)
(ブランク)上記離型剤を、プレスロール、ドライヤロール、及びカンバスのいずれにも付与しない。
フェルト面にオフセット印刷した場合のブランケットの清掃周期の結果(図7の○印参照)を見ると、本実験に用いた抄紙機では、紙体のフェルト面に殆どほつれを生じず、表面強度を良好に保つことが分かる。
これは、プレスパートにおけるフェルト面の脱水が有効に行われたため、フェルト面付近の繊維組織が効果的に引き締まったからであると考えられる。
因みに、比較例の条件で抄紙を行った場合、抄紙機のプレスロール(図1のセンターロールC)や上段のドライヤロール(D2等)の微細繊維やピッチ等による汚染が観察された。
このことから、プレスパートやドライパートの段階で、既にワイヤ面の表面強度は低下しており、ほつれが始まっていたことが分かる。
即ち、プレスパート又はドライパートのどちらか一方に本発明の紙体表面のほつれ防止方法を適用するだけで、紙体の表面強度がある程度高められる(表面強度の低下の度合いを小さくできる)ことが分かる。
使用した抄造品種は下級印刷紙(DIP100%)、また抄紙条件、すなわち、紙幅、抄速、坪量、日産等は、実施例1〜3と同じとした。
抄紙を行った抄紙機(図1に示したものと概略同型)のプレスパートのプレスロールCに対して離型剤A、離型剤B、及び離型剤Cの3種類の離型剤を付与する実験を行った。
なお、他のプレスロール、ドライロール、カンバスにおいては、実施例1のように付与した。
離型剤Eはカチオン性単量体の重合体を主成分とする水溶性ポリマーの2重量%水溶液である。
カチオン性単量体;(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチ
ルベンジルクロリド塩
アニオン性単量体;メタクリル酸
ノニオン性単量体;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート
このプレスロール対するこれらの離型剤の付与方法としては、図3に示した散布ノズルS1により、上記各離型剤をシャワー水に希釈した状態で散布し、原液ベースで毎分9cm3の割合で塗布した。
この場合、付着物であるベッセル(繊維異物)の100cm2当たりの個数を観察した。
なお、この値が小さい程、ほつれ防止効果が顕著であることを示す。
ここで、ベッセルの個数はプレスロールCに離型剤を全く付与しなかった場合(実施例3に相当)を1として指標表示した。
また発明者らは、プレスーパートにてフェルトに対して離型剤を付与する実験を別に行ったが同様な知見を得ている。
更にまた、発明者らは、ワイヤーパートにてワイヤーに対して離型剤を付与する実験を別に行ったが同様な知見を得ている。
参考までにいうと、ワイヤーパートは、図9に示すようにプレスーパートの前方に位置する領域である。
そしてワイヤーwが案内ロールによって張架されており、このワイヤーwの上にヘッドボックスHから供給されたスラリー状のパルプが、薄膜状に載ってプレスーパートに運ばれる。
その際、スラリー状のパルプに含まれる水分が脱水される。
C…センターロール
D…ドライパート
D1〜D17…ドライヤロール
DR…ドクター
DS…ドクターシャワー
DP…ポンド
F…繊維
F2〜F4…フェルト
H…ヘッドボックス
K1〜K3…カンバス
P…プレスパート
P1〜P3、P4t、P4b…プレスロール
S1〜S4…散布ノズル
T…離型剤
W…紙体(湿紙)
W1…フェルト面
W2…ワイヤ面
w…ワイヤー
Claims (8)
- 抄紙機のプレスパートにおいて紙体に直接接触する部材に、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体とを必須成分とする混合物を付加重合してなる両性電解質高分子であるポリマーを付与して、
該紙体が該部材から離れる際に該紙体の表面がほつれて表面強度が低下するのを防止することを特徴とする紙体表面のほつれ防止方法。 - 抄紙機のワイヤーパートにおいて紙体に直接接触する部材に、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体とを必須成分とする混合物を付加重合してなる両性電解質高分子であるポリマーを付与して、
該紙体が該部材から離れる際に該紙体の表面がほつれて表面強度が低下するのを防止することを特徴とする紙体表面のほつれ防止方法。 - 抄紙機のプレスパートにおいて紙体に直接接触するプレスロールに、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体とを必須成分とする混合物を付加重合してなる両性電解質高分子であるポリマーを付与して、
該紙体が該プレスロールから離れる際に該紙体の表面がほつれて表面強度が低下するのを防止することを特徴とする紙体表面のほつれ防止方法。 - 抄紙機のプレスパートにおいて紙体に直接接触するプレスロールに、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体とを必須成分とする混合物を付加重合してなる両性電解質高分子であるポリマーを付与し、且つ抄紙機のドライパートにおいて紙体に直接接触するドライヤロール及び/又はカンバスにワックス又はオイルのエマルジョンを付与して、該紙体が前記各部材から離れる際に該紙体の表面がほつれて表面強度が低下するのを防止することを特徴とする紙体表面のほつれ防止方法。
- 前記ドライヤロールは、紙体が最初に直接接触するドライヤロールであることを特徴とする請求項4記載の紙体表面のほつれ防止方法。
- 前記ドライヤロールは、紙体が最初に直接接触する加熱されたドライヤロールであることを特徴とする請求項4記載の紙体表面のほつれ防止方法。
- 前記カンバスは、紙体が最初に直接接触するカンバスであることを特徴とする請求項4記載の紙体表面のほつれ防止方法。
- 前記紙体は、オフセット印刷用印刷用紙であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の紙体表面のほつれ防止方法。
Priority Applications (1)
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