JP5175631B2 - 印刷用紙の抄紙方法 - Google Patents

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Description

本発明は、トランスファーベルトを用いて湿紙を脱水する印刷用紙の抄紙方法であって、カチオン性ポリマーを含有する剥離剤をトランスファーベルト表面に塗布又は噴霧することを特徴とする抄紙方法に関する。さらに詳しくは、抄紙速度1500m/分以上の高速塗工において、紙紛トラブルが少なく、プレス後に湿紙の再湿潤が少なく生産性に優れた抄紙方法に関する。
抄紙機のプレスパートにおいては、湿紙からの搾水性を向上させるため、搾水性の良好なフェルトが一般的に用いられてきた。しかし、近年では、断紙低減のため、オープンドローをなくしたプレスパートが広く用いられるようになり、搾水後にフェルトと湿紙とが接した状態が多く、一度搾水した水が湿紙に戻る再湿潤の問題が重要視されている。
再湿潤が発生すると、充分な搾水性が得られないだけでなく、断紙などの操業トラブルが発生する。この再湿潤を防止するため、フェルトに代わり不透水性が高いトランスファーベルト(搬送用ベルト)やトランスファーフェルト(搬送用フェルト)を使用した抄紙方法が開発されている(特許文献1)。
しかしながら、トランスファーベルトやトランスファーフェルトは、湿紙の剥離性を向上させるために、表面に一定の粗さを付与しており、得られる紙の印刷適性は不十分であった。トランスファーベルト表面の粗さを低減する(平滑性を高める)と、湿紙の剥離性が低下して湿紙表面の一部がトランスファーベルトに付着し、湿紙表面が傷つくことになる。すると、プレスパート後段のドライヤーパートの先頭部分において、湿紙表面の微細繊維がドライヤーによって乾燥、脱離する結果、紙紛が発生する。
トランスファーベルトからの湿紙の剥離性を向上させるために、トランスファーベルトの湿紙と接する表面の表面粗さを規定する技術も開発されているが(特許文献2)、充分な剥離性が得られず、紙紛の発生を防止できるものではなかった。また、特許文献2に開示されている技術は、ティッシュペーパー用途であり、得られる紙は表面性に劣り印刷適性が低く、印刷用紙には適さないものであった。
紙紛の発生を防止するためには、トランスファーベルトからの湿紙の剥離性を向上させる必要があり、一般的に剥離剤を塗布する方法が知られている(特許文献3)。しかし、剥離剤を塗布すると、トランスファーベルト上に水分を塗布することとなり、湿紙の再湿潤が避けられない。その結果、断紙が発生しやすくなり生産性が低下するという問題が発生する。
トランスファーベルトから余剰の剥離剤を除去する方法としては、エアーやブレードを用いることが一般的だが、剥離剤を完全には除去することはできず、湿紙の再湿潤は避けられない。
最近では、抄紙速度1500m/分以上の高速抄紙機も登場し、わずかな湿紙の再湿潤であってもドローが悪化して断紙するなど、安定操業が難しいのが現状である。特に、米坪が100g/m2以下の塗工紙においては、その傾向が顕著である。
このように、トランスファーベルトを使用する抄紙機を用いた抄紙方法において、紙紛トラブルを防止し、かつ、再湿潤に起因する断紙などの操業性の低下を防止することは困難であった。
特表2003−513179号公報 特表2002−507672号公報 特開2004−58031号公報
本発明は、トランスファーベルトを使用する抄紙機を用いる抄紙方法であって、高速抄紙時にも湿紙の再湿潤が少なく、操業性の高い印刷用紙の抄紙方法を提供することを目的とする。
本発明者は、抄紙機のプレスパートにトランスファーベルトを使用する抄紙方法において、トランスファーベルトの湿紙と接する面にカチオン性ポリマーを含有する剥離剤を塗布することにより、湿紙の再湿潤を防止しつつ、湿紙とトランスファーベルトとの剥離性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的に、本発明は、
抄紙機を使用する抄紙方法であって、
抄紙機のプレスパートにはトランスファーベルトが使用されており、
前記トランスファーベルトの湿紙と接する面における表面の中心線平均粗さRa(JIS B0601)が1.0μm以上6.0μm以下であり、
前記トランスファーベルトの湿紙と接する面にカチオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤及びホスホン酸性化合物を含有する剥離剤を塗布し、
前記剥離剤全体に占める前記カチオン性ポリマーの割合は、25質量%以上70質量%以下であり
前記剥離剤全体に占める前記ノニオン性界面活性剤の割合は、25質量%以上70質量%以下であり、
前記剥離剤全体に占める前記ホスホン酸化合物の割合が5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする印刷用紙の抄紙方法に関する。
トランスファーベルトの湿紙と接する面にカチオン性ポリマーを含有する剥離剤を塗布することにより、湿紙の再湿潤を防止しつつ、トランスファーベルト表面の汚れを除去することができる。また、湿紙とトランスファーベルトとの剥離性も向上する。
前記トランスファーベルトは、材質がナイロン又はポリウレタンであることが好ましい。
前記剥離剤の塗布量は、トランスファーベルトの湿紙と接する面1000m2あたり、0.5mL以上50mL以下であることが好ましい。
前記トランスファーベルトの湿紙と接する面に接するようポリエチレン製ブレードを設け、前記ブレードの押し付け圧を100N/m 以上300N/m以下に調整し、余剰な前記剥離剤を前記トランスファーベルト表面から除去することが好ましい。トランスファーベルト上から余剰な剥離剤及び汚れを物理的に除去することにより、湿紙の再湿潤がより防止され、かつ、湿紙とトランスファーベルト表面との剥離性をより向上させることが可能となるためである。
本発明の抄紙方法は、トランスファーベルトを用いた印刷用紙の抄紙方法として、1500m/分以上の高速抄紙において、紙紛トラブルが少なく、再湿潤も少なく、生産性に優れる。
本発明の実施の形態について、適宜図面を参酌しながら説明する。なお、本発明は、以下に限定されない。
本発明の抄紙方法を使用しうる抄紙機のワイヤーパート〜プレドライヤーパートの設備構成を、図1に基づいて説明する。なお、図1においては、湿紙は左から右へと移動する。
<ワイヤーパート>
それぞれループをなす2枚のワイヤー(第1ワイヤー1及び第2ワイヤー2)間にヘッドボックス3から紙料を噴出して紙層を形成するギャップフォーマ10で抄紙する抄紙機が設置されている。紙料は、サクション(フォーミング)ロール4Aと対向するロール4Bとの間のワイヤー1及び2の間に吐出される。その結果、紙層が形成され、その紙層はサクションロール4A、ブレード5、サクションクーチロール6、サクションボックス7などを通りながら、例えば原料濃度20質量%程度まで脱水される。
ここで、脱水機構として、図1ではロール脱水手段及びブレード脱水手段の併用形態を示した。ロール脱水手段及びブレード脱水手段の両方を使用することが好ましいが、どちらか一方のみとすることもできる。ワイヤーパートでの脱水を、ヘッドボックス3から吐出させた紙料をサクションロール4Aにて緩やかに行うことで微細繊維を湿紙中に留め、さらに、ブレード5による脱水手段にて脱水を進めることでインターナルボンドの低下を防ぐことができる。
ワイヤーパートとしては、長網フォーマや、長網フォーマにオントップフォーマを組み合わせたもの、あるいはツインワイヤーフォーマなど、特に限定されないが、ヘッドボックスから噴出された紙料ジェットを2枚のワイヤーで直ちに挟み込むギャップタイプのギャップフォーマが、両面から脱水するため表裏差が少なく、塗工ムラ、印刷ムラに表裏差が発生し難いため好ましい。
<プレスパート>
ワイヤーパートでの紙層は、プレスパートに移行され、さらに脱水が行われる。図1に示す形態のプレスパートは、第1プレス21及び第2プレス22のそれぞれがシュープレス21a及び22aを有し、オープンドローを無くし断紙を防止するために、紙層をストレートにニップする形態(ストレートスルー型プレス)となっている。また、ダブルフェルトの第1プレス21に対し、第2プレス22はボトム側にベルトを採用し、再湿防止による脱水の向上を図っている。原紙坪量が60g/m2以上と高くなり、脱水量が多くなる場合には、ダブルフェルトとすることが望ましい。
プレス機としては、ストレートスルー型、インバー型、リバース型のいずれであってもよく、またこれらの組み合わせも使用することができるが、オープンドローを無くしたストレートスルー型が、紙を保持しやすく、断紙などの操業トラブルが少ないため、好ましい。脱水方式としては、通常行われているサクションロール方式やグルーブドプレス方式等の方法を使用することができるが、シュープレスは脱水性と平滑性とを向上できるため、より好ましい。
プレスパートで用いられるトランスファーベルトの設置場所や段数は特に限定されず、No.1プレス、No.2プレス、No.3プレス以降のいずれのプレスにも使用することができる。また、トップ及びボトムのいずれにも使用でき、これらを組み合わせ、2箇所以上に併用することもできる。湿紙のドライネスを更に向上させる事ができるNo.2プレス以降が好ましく、脱水により微細繊維の抜けが多いボトム側が特に好ましい。
トランスファーベルトの材質は、不透水性及び強度の観点から、ナイロン又はポリウレタンが好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
トランスファーベルトの表面粗さは、JIS B0601に準拠して測定した中心線平均粗さ(Ra)が、1.0μm以上6.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上4.5μm以下であることがより好ましい。1.0μmを下回ると、湿紙のベルトからの剥離性が低下するため、剥離時に紙表面が荒れ、紙の表面強度が低下して紙紛が発生したり、断紙などの操業トラブルが発生する可能性がある。一方、6.0μmを超過すると、紙の表面性が低下し印刷ムラが発生しやすくなる。
<プレドライヤーパート>
プレスパートを通った水分率50%程度の湿紙(湿紙層)は、シングルデッキ方式のプレドライヤーパートに移行し、乾燥が図られる。図1に示すプレドライヤーパートは、ノーオープンドロー形式のシングルデッキドライヤーで、上側が加熱ロール31、下側が真空ロール32とされた任意本数のロール構成である。
<剥離剤>
トランスファーベルトに塗布する剥離剤は、カチオン性ポリマーを主成分として含有する剥離剤である。カチオン性ポリマーとしては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDADMAC)、ポリ(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(PAPTAC)、ポリ(3-メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド(PMAPTAC)、ポリジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩(PDMAEA.MCQ)、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩(PDMAEM.MCQ)及びポリジメチルアミノエチルアクリレート塩化ベンジル4級塩(PDMAEA.BCQ)などが挙げられる。この中でもポリジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩又はポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドは、トランスファーベルトの汚れ防止効果が高く、添加することにより紙紛がトランスファーベルト上に堆積することを効果的に防止することができる点で好ましい。
また、ベルトの材質としてウレタン又はナイロンを用いる場合には、カチオン性ポリマーとの親和性が低いためベルト上に剥離剤が残り難く、湿紙の再湿潤による操業性の低下が発生しにくい。
剥離剤は、上記カチオン性ポリマーに加えて、ノニオン性界面活性剤を併用することが好ましい。ノニオン性界面活性剤を併用することで、トランスファーベルト上に付着したピッチをも除去することができ、トランスファーベルト上に付着するピッチが更に低下するため、印刷ムラが発生し難くなるためである。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンソルビタンアルキルエステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。このうち、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、特にポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ピッチの除去能力が高いために好ましい。
また、剥離剤は、上記カチオン性ポリマー及びノニオン性界面活性剤に加えて、ホスホン酸性化合物をさらに併用することが好ましい。ホスホン酸性化合物を併用することで、トランスファーベルト上に付着したスケールをも除去することができ、トランスファーベルト上に付着するスケールがさらに低下するため、印刷ムラが発生し難くなるためである。
ホスホン酸性化合物としては、アミノトリメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、1-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、及びこれらの塩等が挙げられる。このうち、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及びこれらの塩は、抄紙機系内において、内添填料や古紙由来の填料成分である、無機塩由来のスケールを効率的に除去することができ、トランスファーベルト上に付着するスケールが少なく、印刷ムラが発生し難くなる点で、特に好ましい。
これらカチオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤、ホスホン酸性化合物の3成分を併用することで、トランスファーベルト上に付着する紙紛や汚れ、ピッチ、スケール等の異物を総じて低減でき、紙紛の防止と印刷適性の向上が得られるため、特に好ましい。
剥離剤全体に占めるカチオン性ポリマーの割合は、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。25質量%を下回ると、汚れ防止効果が得られにくく、トランスファーベルトからの湿紙の剥離性が悪化して紙紛が発生しやすくなる問題がある。一方、70質量部を超過すると、ノニオン性界面活性剤由来のピッチ除去性能が低下し、紙紛が発生しやすくなるとの問題がある。
剥離剤全体に占めるノニオン性界面活性剤の割合は、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。25質量%を下回ると、ピッチ由来の異物が除去し難く、紙紛が発生しやすくなる問題がある。一方、70質量%を超過すると、カチオン性ポリマーの汚れ防止効果が低下するという問題がある。
剥離剤全体に占めるホスホン酸性化合物の割合は、5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、5質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。5質量%を下回ると、異物であるスケールを除去し難く、紙紛が発生しやすい問題がある。一方。10質量%を超過すると、カチオン性ポリマーの汚れ防止効果が低下するという問題がある。
なお、カチオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤及びホスホン酸性化合物は、混合して剥離剤として使用してもよいが、塗布した状態(トランスファーベルト上)で上記割合範囲となるのであれば、別々にトランスファーベルトに塗布してもよい。トランスファーベルト表面への塗布方法としては、スプレーで噴霧したり、少量ずつトランスファーベルト上に滴下する等、公知の方法を採用することができる。
カチオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤及びホスホン酸性化合物は、トランスファーベルトの材質であるナイロン又はポリウレタンとの親和性が低く、トランスファーベルト走行中に飛散してベルト上に残存し難いため、これら3成分を含有する剥離剤を用いると、プレス部分における剥離剤に起因する再湿潤が防止できる点で好ましい。
上記3成分を含む剥離剤又は3種類の剥離剤をトランスファーベルトに塗布する際は、均一な塗布性能を得るため、水などで適宜希釈して塗布することが好ましい。希釈後の濃度は、上記3成分の固形分の合計で、10ppm以上200ppm以下とするのが好ましく、50ppm以上150ppm以下とするのがより好ましい。10ppmを下回ると、剥離性が悪化して紙紛が発生しやすくなり、200ppmを超過しても、剥離性が向上しないだけでなく、剥離剤の粘性が上昇するためトランスファーベルトからの剥離性が低下し、紙紛が発生し易くなるため好ましくない。
希釈した剥離剤のトランスファーベルト表面への塗布量は、トランスファーベルトの湿紙と接する面1m2あたり50mL以上250mL以下とすることが好ましく、100mL以上150mL以下とすることがさらに好ましい。50mLを下回ると、剥離性の向上効果が得られず、紙紛が発生しやすくなる。一方、250mLを超過しても、効果が頭打ちになるだけでなく、トランスファーベルト上に剥離剤が残存しやすくなり、再湿潤が発生して操業性が低下するため、好ましくない。
剥離剤は、上記濃度で上記塗布量とすることで、湿紙の再湿潤を防止しつつ、トランスファーベルトの汚れ防止及び湿紙の剥離性を向上できる。特に抄速が1500m/分以上の抄紙方法においては、上記の如く剥離剤の成分及び配合割合、濃度、塗布量を規定することで、余分な剥離剤を効果的にトランスファーベルト上から除去できるため、湿紙の再湿潤を防止する効果が高く、紙紛トラブルが発生しにくいため好ましい。
なお、本発明の抄紙方法は、湿紙の米坪が40g/m2以上100 g/m2以下である場合に、効果が高い。
剥離剤の塗布位置は、特に限定されないが、各種ロール(クーチロール、ブレストロール、プレスロール、サクションロール、ガイドロール等)の間で、ロールによって支持されていない状態のベルト上、又はロール近傍のベルト上に塗布するよりも、ロールに支持された状態のベルト上に接するように塗布装置(例えば、スプレー装置、シャワー装置)を設けると、ベルトのバタツキに起因する剥離剤の塗布ムラが発生しにくいため好ましい。なお、図1では、塗布装置40(スプレー装置)は、ロール45の近傍に設置されており、ロール45上のトランスファーベルト44に向けて剥離液41を塗布(噴霧)している。
材質としてナイロン又はポリウレタンを用い、中心線表面粗さを1.0μm以上6.0μm以下の範囲としたトランスファーベルトの表面に、カチオン性ポリマーを主成分とし、ノニオン性界面活性剤及びホスホン酸性化合物を併用した剥離剤を、トランスファーベルトの湿紙と接する面のロールに支持されている部分に対して、1000m2あたり0.5mL以上2.5mL以下の塗布量で塗布することにより、湿紙の再湿潤が発生せず、湿紙とトランスファーベルトとの剥離性が非常に良好となる。また、異物による湿紙の取られに起因する紙紛の発生が少なく、かつ、表面の平滑性が非常に良好で、印刷適性が高い良質紙が得られる。
<ブレード>
トランスファーベルト表面に剥離剤を塗布した後は、剥離剤とベルトとの親和性が低く、ベルトの移動中に剥離剤が飛散してベルト上から除去されるため、ブレードやエアーによる物理的な剥離剤の除去は必須とはならない。しかし、余剰剥離剤の除去率を上げて湿紙の再湿をさらに防止するため、トランスファーベルト表面に接するよう、ブレードを設けてもよい。ブレードの取り付け位置は特に限定されないが、各種ロール(クーチロール、ブレストロール、プレスロール、サクションロール、ガイドロール等)の間で、ロールによって支持されていない状態のトランスファーベルト、又はロール近傍のトランスファーベルトに接するように設けるよりも、ロールに支持された状態のベルトに接するよう設けると、剥離剤を均一に除去できるため、湿紙の再湿を有効に防止しやすく、また印刷適性も低下しにくいため好ましい。なお、図1では、剥離剤用ブレード43はロール45上でトランスファーベルト44と接するように設置されている。
ここで、剥離剤用ブレード43の形態を、図2及び図3に例示する。また、剥離用ブレード43の取り付け状態を、図4にします。図4は、剥離用ブレード43とトランスファーベルト44とが接触する部分の拡大図であり、左図は側面図、右図は上面図である。なお、図4中の矢印は、トランスファーベルト44の動く方向を示している。
トランスファーベルト44に対する剥離剤用ブレード43の押し付け圧は、100N/m 以上300N/m以下とすることが好ましく、150N/m以上250N/m以下とすることがより好ましい。100 N/mを下回ると,余剰剥離剤の除去効果が低く、湿紙の再湿潤を防止しにくい。一方、300 N/mを超過すると、ブレードの押付けによりベルト表面が荒れ、紙紛が発生しやすくなるだけでなく、印刷ムラが発生しやすいため好ましくない。
上述の如く、材質としてナイロン又はポリウレタンを用い、中心線表面粗さを1.0μm以上6.0μm以下の範囲としたトランスファーベルトの表面に、カチオン性ポリマーを主成分とし、ノニオン性界面活性剤及びホスホン酸性化合物を併用した剥離剤を、トランスファーベルトの湿紙と接する面のロールに支持されている部分に対して、1000m2あたり0.5mL以上2.5mL以下の塗布量で塗布し、さらに100 N/m 以上300N/m以下でブレードを押し付けることで、余剰剥離剤の除去効果が低く、湿紙の再湿潤を防止しにくくなり、湿紙とトランスファーベルトとの剥離性が非常に良好となる。
剥離剤の塗布位置は、ベルトランにおいて剥離剤が充分に飛散するよう、湿紙がトランスファーベルトから離れた後、できるだけ早い段階で塗布することが好ましい。また、剥離剤用ブレードの位置も同様であり、剥離剤の塗布後、なるべく早い段階でトランスファーベルトに接するような位置に設置することが好ましい。
また、ブレードの材質に金属を用いるとベルトが劣化及び破損しやすいため、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン等の高分子系材料とすることが好ましい。高分子系材料のうちではポリエチレンが特に好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)を用いると、ベルトの材質であるウレタンやナイロンから効率的に剥離剤を除去できるため最も好ましい。
<プレドライヤーパート>
プレスパートを通った湿紙は、シングルデッキ方式のプレドライヤーパートに移行し、乾燥が図られる。プレドライヤーパートは、断紙が少なく、嵩を落とすことなく高効率に乾燥を行える、ノーオープンドロー形式のシングルデッキドライヤーが好ましい。ダブルデッキ方式にて乾燥する方式も可能だが、キャンバスマーク、断紙、シワ、紙継ぎ等の操業性の面で、シングルデッキ方式に劣るため好ましくない。
本発明の抄紙方法によって得られる紙は、そのまま非塗工紙として使用してもよく、また、紙上に高分子化合物を主体とするクリア塗工層を設けてもよく、顔料と接着剤を主成分とする顔料塗工層を設けてもよい。
塗工層を設ける場合、塗工方法は特に限定されず、一般に製紙用途に用いられる方法で塗工すればよい。例えば、2ロールサイズプレスコーターやゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、又はシムサイザーやJFサイザー等のフィルム転写型ロールコーター、ブレードコーターやエアーナイフコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、ダイコーター等が挙げられる。
塗工層には、光沢や平滑性、印刷適性を向上させる目的で、マシンカレンダーやスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等、対向するロールを組み合わせた平坦化設備によって、さらに平坦化処理を施すこともできる。
以下、本発明の抄紙方法によって得られる紙の実施例について、詳細に説明する。
原料パルプとして広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を80:20の質量割合で配合し、このパルプ(絶乾量)に対して、各々固形分で、内添サイズ剤(品番:AK-720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT-2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量%を添加してパルプスラリーを得た。
このパルプスラリーを、ギャップフォーマからなるワイヤーパートで脱水した後、ストレートスルータイプのプレスパートで脱水し、シングルデッキ方式のプレドライヤーパートで乾燥させ、実施例及び比較例の原紙を抄紙した。なお、プレスパートは2段とし、2段目ボトム側に表1及び表2に記載のトランスファーベルトを使用した。また、他のパートは市販のフェルトを使用した。
米坪40g/m2の原紙上に市販のクレー50部、重質炭酸カルシウム50部、スチレン−ブタジエンラテックス8部を混合した塗料を、片面あたり10g/m2塗工し、米坪70g/m2の実施例及び比較例の塗工紙を、表1の抄造速度で製造した。各実施例及び各比較例の抄紙に使用したトランスファーベルト、剥離剤の成分、濃度及び塗布量、ブレードの材質及び押し付け圧は、表1及び表2に示すとおりである。ブレードの材質である「HDPE」は、「高密度ポリエチレン」を意味している。
なお、使用したブレードは、図2及び図3に示した形態であり、図2に示す刃部51の角度θは45度、基部50の厚みtは8mmであった。
剥離剤の成分としては、以下のものを使用した。
1)カチオン性ポリマー:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(品番:PRP4520、SNF社製)
2)ノニオン性界面活性剤:ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(品番:エマノーン4110(ポリエチレングリコールモノオレエート)、花王(株)製)
3)ホスホン酸系化合物:アミノトリメチレンホスホン酸(常州姚氏同徳化工有限公司製)
4)ワックス系エマルジョン:(品番:オンプレス、メンテック社製)
5)アルカリ性洗浄剤:(品番:サンデットAL、三洋化成社製)
トランスファーベルト表面(湿紙と接する面)の表面粗さは、表面粗度計(品番:SURFCOM 3000A-3DF、東京精密社製)を用いて、JIS B0601に準拠して測定した中心線平均粗さ(Ra)である。
各実施例及び各比較例の塗工紙について、(a)紙粉の発生、(b)抄紙機の操業性及び(c)印刷適性の3項目を評価した。評価方法及び評価基準は、以下に示すとおりである。
(a)紙紛の発生
プレスパート直後に設置している一群ドライヤー下部に堆積した紙紛の程度を、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:紙紛が堆積していない
○:紙紛の堆積が僅かに発生した
△:紙紛の堆積が若干発生した
×:紙紛の堆積が発生し、実使用不可能
(b)抄紙機の操業性
3日間連続操業時の断紙の発生回数を、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:断紙が発生しない
○:断紙が1回発生したが、実使用可能
△:断紙が2回発生したが、実使用可能
×:断紙が3回以上発生し、実使用不可能
(c)印刷適性
オフセット印刷機(型番:リソピアL-BT3-1100、三菱重工業(株)製)を使用し、カラーインク(品番:ADVAN、大日本インキ化学工業(株)製)でカラー4色印刷を5000部行った。この印刷面10cm×10cmについて、目視及びルーペ(10倍)にて、0.5mm2以上の印刷物の白抜けを観察し、その程度を以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:白抜けがなく、印刷適性に優れる
○:白抜けが1〜2個発生したが、実使用可能
△:白抜けが3〜4個発生したが、実使用可能
×:白抜けが5個以上発生し、実使用不可能
各実施例及び各比較例の評価結果は、表1及び表2に示すとおりであった。なお、表1及び表2における「ポリマー」、「界面活性剤」、「ホスホン酸」、「ワックス」及び「洗浄剤」は、それぞれ「カチオン性ポリマー」、「ノニオン性界面活性剤」、「ホスホン酸系化合物」、「ワックス系エマルジョン」及び「アルカリ性洗浄剤」を意味する。
表2において、比較例2のノニオン性界面活性剤及びホスホン酸系化合物の添加量は、ワックス系エマルジョンを100質量部として算出した。また、比較例3のノニオン性界面活性剤、ホスホン酸系化合物の添加量は、アルカリ性洗浄剤を100質量部として算出した。
Figure 0005175631
Figure 0005175631
表1及び表2より、実施例1〜39では、トランスファーベルトに25質量%以上70質量%以下のカチオン性ポリマー、25質量%以上70質量%以下のノニオン性界面活性剤、及び5質量%以上10質量%以下のホスホン酸性化合物を含有する剥離剤を塗布しているため、1500m/分という高速抄紙においても、断紙が発生し難く、紙紛トラブルが少なく、抄紙機の操業性が高く、印刷適性の良好な塗工紙が得られた。これに対して、比較例1〜3では、紙粉の堆積及び印刷の白抜け発生のため、実使用不可能な塗工紙であった。
本発明の抄紙方法は、例えば、包装用紙、情報記録用紙、新聞用紙等の印刷用紙の抄紙方法として好適である。
本発明の抄紙方法を適用しうる抄紙機の一例(一部分)を示す概略構造図である。 本発明の抄紙方法で使用しうる剥離剤用ブレードの一例を示す図(上面図)である。 図2のA−A’断面図である。 剥離用ブレード43とトランスファーベルト44とが接触する部分の拡大図であり、右図が上面図、左図が同じ位置の側面図である。
符号の説明
1:第1ワイヤー
2:第2ワイヤー
3:ヘッドボックス
4A:サクション(フォーミング)ロール
4B:対向ロール
5:ブレード
6:サクションクーチロール
7:サクションボックス
10:ツインワイヤーフォーマ
21:第1プレス
21a:第1シュープレス
22:第2プレス
22a:第2シュープレス
31:加熱ロール
32:真空ロール
33:サクションボックス
40:塗布装置(スプレー装置)
41:剥離液
42:余剰な剥離液
43:剥離剤用ブレード
44:トランスファーベルト
45:ロール
50:基部
51:刃部
52:刃先

Claims (5)

  1. 抄紙機を使用する抄紙方法であって、
    抄紙機のプレスパートにはトランスファーベルトが使用されており、
    前記トランスファーベルトの湿紙と接する面における表面の中心線平均粗さRa(JIS B0601)が1.0μm以上6.0μm以下であり、
    前記トランスファーベルトの湿紙と接する面にカチオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤及びホスホン酸性化合物を含有する剥離剤を塗布し、
    前記剥離剤全体に占める前記カチオン性ポリマーの割合は、25質量%以上70質量%以下であり
    前記剥離剤全体に占める前記ノニオン性界面活性剤の割合は、25質量%以上70質量%以下であり、
    前記剥離剤全体に占める前記ホスホン酸化合物の割合が5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする印刷用紙の抄紙方法。
  2. 前記トランスファーベルトは、材質がナイロン又はポリウレタンであることを特徴とする、請求項1に記載の印刷用紙の抄紙方法。
  3. 前記剥離剤の塗布量が、トランスファーベルトの湿紙と接する面1000m2あたり0.5mL以上50mL以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の印刷用紙の抄紙方法。
  4. 前記トランスファーベルトの湿紙と接する面に接するようポリエチレン製ブレードを設け、前記ブレードの押し付け圧を100N/m以上300N/m以下に調整し、余剰な前記剥離剤を前記トランスファーベルト表面から除去することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷用紙の抄紙方法。
  5. 前記湿紙の米坪が40g/m 2 以上100g/m 2 以下であり、抄速が1500m/分以上であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の印刷用紙の抄紙方法。
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