JP6982514B2 - 紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法 - Google Patents
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凝集・粗大化したピッチは、その粘着性により、ファンポンプ、流送配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備に付着し、装置の汚れの原因となり、さらに、この付着物が大きくなった後に剥離し、パルプや紙に再付着することによって、紙欠点や断紙の原因となる。また、ワイヤー、フェルト等に付着した場合は、目詰りによって窄水性が低下し、湿紙含水率の上昇によって、断紙や乾燥工程における紙の乾燥負荷の上昇を引き起こす。
このように、ピッチは、紙の製品品質や生産性の低下を引き起こす原因物質であり、従来から、パルプまたは紙の製造時におけるピッチの凝集や紙の製造設備へのピッチの付着を防止することを目的として、ピッチ抑制剤が使用されている。
内添型ピッチ抑制剤はパルプスラリー全量に含まれているピッチを処理するのに対して、外添型ピッチ抑制剤はワイヤー、フェルト、ロール等の任意の製造設備表面に散布、噴霧、浸漬等により直接接触させ、設備表面近傍に存在するピッチを選択的に処理する。
このことから、外添型ピッチ抑制剤は、内添型ピッチ抑制剤と比べて、パルプスラリーや紙製品の品質に対して影響を与えず、さらに少ない薬品使用量で任意の設備表面へのピッチ付着を防止することができるといった利点がある。
カチオン性ポリマーと界面活性剤の2成分を有効成分とするピッチ抑制剤として、特開平2−182995号公報(特許文献1)には、エピクロロヒドリンージメチルアミン共重合体と非イオン界面活性剤の2成分を有効成分とするピッチ抑制剤を用いる方法が開示されている。
特許文献1の方法で用いられているピッチ抑制剤には、ピッチや設備表面を親水化することでピッチ付着防止作用を示すカチオン性ポリマーが使用されている。さらに、非イオン界面活性剤を併用することで、ピッチ付着防止効果をさらに高めるとともに、設備表面へのカチオン性ポリマー自体に起因する析出物の蓄積も防止することができる。
例えば、特開2004−044067号公報(特許文献2)には、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩あるいはエピクロロヒドリン−ジアルキルアミン共重合体から選択されるカチオン性ポリマー(分子量20,000〜100,000)と高級脂肪族アミンにエチレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させた非イオン界面活性剤と1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)とを有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を用いる方法が開示されている。
(1)
質量平均分子量10,000以上100,000以下のエピクロロヒドリン−アンモニア−ジアルキルアミン共重合体のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物を有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(2)
(1)において、前記エピクロロヒドリン−アンモニア−ジアルキルアミン共重合体の質量平均分子量が、10,000以上25,000以下である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(3)
(1)または(2)において、前記エピクロロヒドリン−アンモニア−ジアルキルアミン共重合体が、エピクロロヒドリン−アンモニア−ジメチルアミン共重合体である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(4)
(1)から(3)のいずれかの発明において、前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルアミンである紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(5)
(1)から(4)のいずれかの発明において、前記ホスホン酸化合物が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及び1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸から選択される少なくとも一種である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(6)
(1)から(5)のいずれかの発明の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を、紙・パルプ製造工程水に添加・希釈してから紙製造装置に接触させる紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
(7)
(6)の発明において、前記紙・パルプ製造工程の紙の原料が古紙パルプを含有する紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
付加するアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、これらの混合物等が挙げられる。分子中に含まれるオキシアルキレン基が2種以上であるアルキレンオキサイド付加物においては、ブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
これらの中で、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましく、ピッチ付着防止効果の点から、炭素数10〜20の飽和または不飽和の脂肪族アミンに、エチレンオキサイドを5〜30モル付加させたもの、プロピレンオキサイドを0〜15モル付加させたものが特に好ましい。
炭素数10〜20の飽和または不飽和の脂肪族アミンの具体例としては、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等を挙げることができる。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの中で、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)、1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸(PBTC)、ならびに、これらのアルカリ金属塩が好ましい。
アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩およびカリウム塩などが挙げられる。これらのホスホン酸化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明のピッチ抑制剤における各成分の配合比率において、好ましくは本発明のカチオン性ポリマーと非イオン界面活性剤の合計量100質量部に対してホスホン酸化合物1〜500質量部、より好ましくは5〜50質量部である。
本発明のピッチ抑制剤は、紙の製造に際して用いられる、濾水性向上剤、歩留り向上剤、凝結剤、サイズ剤、他のピッチ抑制剤、潤滑剤、剥離性向上剤、洗浄剤、スライム防止剤、スケール防止剤、酸及びアルカリなどの添加剤と併用することもできる。
本発明のピッチ付着防止効果が顕著に表れるのは古紙パルプを使用する場合であり、特に効果が顕著に表れるのは古紙パルプを10質量%以上含有する原料を使用する場合である。
本発明のピッチ抑制剤は、酸性、中性及びアルカリ性条件下で行われる紙の製造に適用することができ、製造される紙の種類に制限はない。この紙としては、例えば新聞用紙、上質紙やコート紙などの印刷用紙、PPC用紙や感熱紙原紙などの情報用紙、純白ロール紙や晒クラフト紙などの包装用紙、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生用紙、食品容器原紙や塗工印刷用原紙などの雑種紙、ライナーや中しん原紙などの段ボール原紙、白板紙や色板紙などの紙器用板紙、石膏ボードや紙管原紙などの雑板紙などが挙げられる。
DMA:ジメチルアミン
Am:アンモニア
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
AA:アクリルアミド
pDADMAC:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド
POASA:ポリオキシアルキレンステアリルアミン(エチレンオキサイド20モ
ル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミン)
HEDP:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
(1)クラフトパルプのみを原料とするクラフト紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(クラフト紙マシン・フェルト)、または、古紙を原料(古紙パルプ含有率90%以上)とする板紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(板紙マシン・フェルト)をエタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)の混合溶媒で抽出。得られたピッチ成分を再度、エタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)に溶解し、10%(w/v)のピッチ溶解液を調製した。
(2)200mlトールビーカーに、上記実施例および比較例の各ピッチ抑制剤を100mg/Lとなるように水道水で希釈した試験水(150ml)を作成した。試験水に60メッシュ・ポリエステル網(20mm×60mm×0.28mm、目開き0.273mm、糸径0.150mm)を浸漬し、室温、600rpmで攪拌した。
(3)試験水に10%(w/v)のピッチ溶解液を100mg/Lとなるように添加し、室温、600rpmで2時間撹拌した。
(4)ポリエステル網を取り出し、純水で十分水洗した後、スダンブラックB染色液(スダンブラックBを0.5%(w/v)となるように70%(v/v)エタノールに溶解したもの)に20分間浸漬し、50%(v/v)エタノールに浸漬後、純水で水洗し、自然乾燥した。
(5)ハンディ色彩計NR−11A(日本電色工業株式会社製)を用いて、染色したポリエステル網のピッチ付着面について、左半面3箇所(上部、中部、下部)、右半面3箇所(上部、中部、下部)の計6箇所の色差ΔE(ab)を測定し、平均値を算出した。
(6)ピッチ抑制剤無添加の場合での色差ΔE(ab)の平均値をピッチ相対付着量10として、各ピッチ抑制剤添加時のピッチ相対付着量を次式から算出した。
薬剤添加時のピッチ相対付着量
=薬剤添加時のΔE(ab)平均値÷薬剤無添加時のΔE(ab)平均値×10
評価は、数値が大きい方がよりピッチ相対付着量が大きいことを示す。
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、カチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン−アンモニア−ジメチルアミン(ECH/Am/DMA)共重合体(質量平均分子量80,000、30,000、20,000、または10,000)を配合したピッチ抑制剤(実施例1〜4)は、ECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量130,000)配合品(比較例3)やDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例4)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量30,000または20,000)配合品(比較例1、比較例2)とはほぼ同等の効果を示した。
一方、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例1〜4のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量30,000または20,000)配合品(比較例1、比較例2)、ECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量130,000)配合品(比較例3)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例4)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
尚、実施例2において、カチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン−アンモニア−ジメチルアミン(ECH/Am/DMA)共重合体に代えて同じく質量平均分子量が30,000であるエピクロロヒドリン−ジメチルアミン(ECH/DMA)を用いた点以外は同様の条件で評価した結果、2種類のピッチに対するピッチ付着防止効果は比較例4のDADMAC/AA共重合体を用いた場合と同等の効果を示したが、実施例2よりも効果は低かった。
実施例3よりも非イオン界面活性剤の含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例5)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例5は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例6)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例5)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例5のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例5)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例6)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
実施例3よりも非イオン界面活性剤の含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例6)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例6は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例8)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例7)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例6のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例7)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例8)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
実施例3よりもHEDPの含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例7)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例7は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例10)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例9)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例7のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例9)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例10)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
実施例3よりもHEDPの含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例8)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例8は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例11)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例8のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例11)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
その結果、ATMPまたはPBTCを配合したピッチ抑制剤においても、HEDPを配合したピッチ抑制剤(実施例1〜4および比較例1〜4)と同様のピッチ付着防止効果が得られた。
しかし、pDADMACはポリマー内にカチオン電荷しか持っていないのに対して、ECH/Am/DMA共重合体はポリマー内にカチオン電荷以外に、水酸基といった水素結合部を有しており、pDADMACと比べて親水性が高いので水中でのポリマーの分散性が良く、微小ピッチやワイヤー、フェルト等の疎水表面と接触しやすい。
これらのことから、質量平均分子量10,000以上100,000以下のECH/Am/DMA共重合体は、質量平均分子量20,000または30,000のpDADMAC、質量平均分子量130,000のECH/Am/DMA共重合体、質量平均分子量30,000のDADMAC/AA共重合体と比べて、微小ピッチを親水化して、水中に分散させる効果が高く、さらにワイヤー、フェルト等の疎水性表面の親水化効果も高いことから、より優れたピッチ付着抑制効果を示すものと考えられる。
本発明者らが原因を検討した結果、これら3成分をシャワー水等の製造工程水に添加・希釈した場合、ピッチ抑制剤の成分が希釈水中の鉄分等と反応し、析出物が発生することが障害の原因であると推測した。
析出物を分析した結果、析出物はカチオン性ポリマーとホスホン酸化合物と鉄分から構成されるピッチ抑制剤由来物であった。
このことから、本発明のピッチ抑制剤はピッチ付着防止効果に優れているだけでなく、ピッチ抑制剤由来析出物の発生を効果的に抑制できることも確認された。
Claims (7)
- 質量平均分子量10,000以上100,000以下のエピクロロヒドリン−アンモニア−ジアルキルアミン共重合体のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物を有効成分として含有することを特徴とする紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
- 前記エピクロロヒドリン−アンモニア−ジアルキルアミン共重合体の質量平均分子量が、10,000以上25,000以下である請求項1に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
- 前記エピクロロヒドリン−アンモニア−ジアルキルアミン共重合体が、エピクロロヒドリン−アンモニア−ジメチルアミン共重合体である
請求項1または請求項2に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。 - 前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルアミンである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
- 前記ホスホン酸化合物が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及び1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸から選択される少なくとも一種である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
- 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を、紙・パルプ製造工程水に添加・希釈してから紙製造装置に接触させることを特徴とする紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
- 前記紙・パルプ製造工程の紙の原料中に古紙パルプを含有する請求項6に記載の紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
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