JP3663306B2 - 窒化アルミニウム質焼結体およびそれを用いた静電チャック - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性、耐食性、耐プラズマ性に優れた抵抗体、主に半導体装置や液晶基板などの製造工程において、半導体ウエハやガラス基板などの被固定物を保持し、特に、被固定物を静電気力によって吸着保持する静電チャック等に使用される、高い静電気力を有する窒化アルミニウム質焼結体とそれを用いた静電チャックに関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、半導体製造工程において、半導体ウエハ(以下、ウエハと称す。)に微細加工を施すためのエッチング工程や、薄膜を形成するための成膜工程、あるいはフォトレジストを行うための露光処理工程等においては、ウエハを保持するために静電チャックが使用されている。
【0003】
この種の静電チャックとしては、静電吸着用の電極板上にアルミナ、サファイアなどからなる誘電体層を形成したもの(特開昭60−261377号公報)や、絶縁基体の上に静電吸着用電極を形成し、その上に誘電体層を形成したもの(特開平4−34953号公報)、さらには誘電体材料からなる基体の内部に静電吸着用電極を埋設したもの(特開昭62−94953号公報)等誘電体層の上面を吸着面としたものが提案されている。
【0004】
上記構造の静電チャックにおいては、吸着面にウエハを載置して静電吸着用電極とウエハとの間に電圧を印加することで誘電分極によるクーロン力やジョンソン・ラーベック力等の静電気力を発現させてウエハを吸着保持するものである。また、静電吸着用電極を複数個に分割し、各電極間に電圧を印加することにより吸着面に載置したウエハを吸着保持する双極型の構造の静電チャックも提案されている。
【0005】
一方、近年、半導体素子における集積回路の集積度が向上し、半導体製造工程に過酷な条件が負荷されるに伴って、吸着面を構成する誘電体層には、ウエハの脱着に対する耐摩耗性と、各種処理工程で使用される腐食性ガスに対する耐食性に加え、耐プラズマ性に優れるとともに、高い熱伝導率を有する材料が望まれるようになり、このような材料として高純度の窒化アルミニウム質焼結体や、焼結助剤として主にY2 O3 やEr2 O3 を含有した窒化アルミニウム質焼結体を用いることが提案されている。
【0006】
ウエハを吸着させる静電気力には、前述したように、クーロン力とジョンソン・ラーベック力の2種類があり、クーロン力は、誘電体層を構成する材質の誘電率に依存し、ジョンソン・ラーベック力は、誘電体層を構成する材質の体積固有抵抗値に依存する。具体的には、誘電体層の体積固有抵抗値が1015Ω・cmより大きい時の吸着力はクーロン力により支配され、誘電体層の体積固有抵抗値が低下するにしたがってジョンソン・ラーベック力が発現し、誘電体層の体積固有抵抗値が1012Ω・cm未満となると吸着力はクーロン力に比べて大きな吸着力が得られるジョンソン・ラーベック力により支配されることが知られている。
【0007】
上記高純度の窒化アルミニウム質焼結体や焼結助剤として主にY2 O3 やEr2 O3 を含有した窒化アルミニウム質焼結体は、250℃以上の高温下においては高い吸着力が得られるものの、200℃以下の温度下で行われる成膜工程や露光処理工程、あるいはエッチング工程などでは十分な吸着力が得られないといった課題があった。
【0008】
すなわち、上記窒化アルミニウム質焼結体の体積固有抵抗値は温度が上昇するに伴って低下し、300℃以上の温度下では1011Ω・cm程度であることからジョンソン・ラーベック力による高い吸着力が得られるものの、200℃以下の温度下では1016Ω・cm以上と絶縁性が高いためにクーロン力による吸着力しか得られず、また、誘電率もそれほど高くないことからクーロン力による吸着力も小さく、十分な吸着力を得ることができなかった。
【0009】
そのため、歪みをもったウエハを吸着した時には、静電チャックの吸着力が小さいためにウエハの全面を吸着面に当接させることができず、成膜面でのウエハの平坦化さらには均熱化等が損なわれ、成膜工程ではウエハ上に均一な厚みをもった薄膜を形成することができず、露光処理工程やエッチング工程では精度の高い処理を施すことができないといった課題があり、高温下でしか使用できなかった。
【0010】
そこで、本出願人は、特開平10−154746号において、窒化アルミニウムに窒化チタンを10〜30モル%と、CeをCeO2 換算で2〜10モル%の範囲で含有させることにより、200℃以下での体積固有抵抗値をジョンソン・ラーベック力を発現させることができる抵抗値にまで小さくできることを提案した。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平10−154746によれば、200℃以下での体積固有抵抗値をジョンソン・ラーベック力を発現させることができる抵抗値にまで小さくできるものの、AlNまたはAl2 O3 と、CeO2 から焼成により形成されるCeAlO3 の含有割合が少ないため、焼結体中に存在する導電性の高い物質間を焼結により接触させるためには多量の液相の生成が必要であった。
【0012】
しかも、焼成温度が高いために、多量の液相成分が生成し、それが固化するに伴って焼結体中にボイドが発生した。これにより、焼結体の強度が著しく低下するとともに、耐食性および耐磨耗性が低下するという問題があった。
【0013】
さらに、焼結体中での導電性を示す物質間の接続が不充分であったり、ボイドが生成するために部分的な偏りが生じ、焼結体として安定した抵抗値を得ることが難しかった。
【0014】
そのため、ボイドのない焼結体を得るためには組成や焼成条件を制御する必要があるが、焼成可能な温度領域が狭く、安定した特性の焼結体を再現性良く得ることができないという問題があった。
【0015】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者は、上記課題に対し、窒化アルミニウム質焼結体について、200℃以下の低温領域における吸着力を高める組成について検討を重ねた結果、焼結体中にTiNを特定範囲で含有させるとともに、原料中のCeO2 およびAl2 O3 の添加量を増やすことにより、焼結体中にCeAlO3 相の析出量を増加させ、焼結体中に存在する導電性の高いTiN相、CeAlO3 相間の接触点を増加させることができることから、比較的低い温度での焼成が可能であるとともに、安定した抵抗特性を有する焼結体の作製が可能となることを知見した。
【0016】
即ち、本発明の窒化アルミニウム質焼結体は、窒化アルミニウムを主成分とし、窒化チタンを10〜30モル%と、セリウムを酸化物(CeO2)換算で6〜20モル%と、全酸素量からCeにCeO2として結合している酸素量を差し引いた残りの酸素量をAl2O3換算して0.3〜10モル%との割合で含有してなり、CeAlO 3 を生成せしめるために必要なAl 2 O 3 よりも過剰のAl 2 O 3 を含有せしめてなることを特徴とするものである。特に、窒化アルミニウム粉末と、窒化チタン粉末と、CeO 2 粉末と、Al 2 O 3 粉末とを含む粉末成形体を1700〜1950℃で焼成して得られることが好ましい。
【0017】
また、本発明の静電チャックは、被固定物を静電気力によって吸着保持するものであって、被固定物を吸着保持する吸着面を、上記本発明の窒化アルミニウム質焼結体により形成したことを特徴とするものである。
【0018】
【作用】
窒化チタンは、絶縁材料である窒化アルミニウム粒子の粒界に存在し、焼結体の抵抗値を下げる効果を示す。窒化アルミニウム質焼結体中に特定量の窒化チタンを含有させることにより、焼結体の体積固有抵抗値を所望の範囲に制御することができる。
【0019】
また、セリウム(Ce)は難焼結材である窒化アルミニウムの焼結性を高めるために加える焼結助剤成分であるが、セリウム(Ce)は焼成により窒化アルミニウムまたはアルミナと化1または化2のように反応し、粒界にCeAlO3 相として存在する。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
セリウム(Ce)は酸化物を構成する場合、その価数は通常4価であるが、CeAlO3 相を構成する際には3価と価数変化する結果、結晶中に空孔が生成し導電性を示す。
【0023】
そして、絶縁材料である窒化アルミニウム粒子間、すなわち粒界に、これらの導電性を示すTiN相およびCeAlO3 相を連続的に存在させることにより、粒界を介して導通を図ることができ、窒化アルミニウム質焼結体の抵抗値を下げることができる。
【0024】
本発明によれば、原料中のCeO2 およびAl2 O3 の添加量を増し、焼結体中にCeAlO3 相の含有量を増加させるとともに、焼結体中にTiNを特定範囲で含有させることにより、焼結体中に存在する導電性の高いTiN結晶相、CeAlO3 結晶相間の接触点を増加させることができる。これにより、安定した抵抗特性を有する焼結体の作製が可能となる。
【0025】
本発明によれば、CeAlO3 を生成せしめるために必要なAl2 O3 よりも過剰のAl2 O3 を含有せしめることから、液相生成が可能となり、磁器の焼成温度を低下させることができる。また、導電粒子が多いために、導電粒子間を結合させるための液相量が少なくてすみ、多量の液相の生成および固化がないことから、ボイドの発生を抑制することができ、焼結体の強度、耐食性および耐磨耗性を高めることができる。
【0026】
さらに、CeAlO3 相を粒界に介在させることで温度変化に対する抵抗値の変化率を小さくできる(抵抗温度係数が小さい)といった効果も有することから、広範囲の温度領域において使用可能な静電チャックを提供することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の窒化アルミニウム質抵抗体は、窒化アルミニウムを主成分とし、窒化チタンを10〜30モル%と、セリウムを酸化物(CeO2 )換算で5〜20モル%と、全酸素量からCeにCeO2 として結合している酸素量を差し引いた残りの酸素量をAl2 O3 換算して0.3〜10モル%との割合で含有してなるものである。
【0028】
−50℃〜200℃の温度域でジョンソン・ラーベック力による吸着力を得るためには、0℃から50℃の温度域における体積固有抵抗値が108 〜1012Ω・cmであることが必要であり、焼結体中の各元素を上記の含有割合とすることにより、0℃から50℃の温度域における体積固有抵抗値を108 〜1012Ω・cm、特に109 〜1011Ω・cmとすることができ、ジョンソン・ラーベック力による吸着力を得ることができるため、かかる焼結体の吸着力が飛躍的に向上する。
【0029】
即ち、窒化チタンの含有量が上記範囲から逸脱すると、焼結体の体積固有抵抗値を108 〜1012Ω・cmの範囲に制御することができない。窒化チタンの含有量としては、特に、15〜25モル%が望ましい。また、セリウム(Ce)の含有量が酸化物(CeO2 )換算で5モル%未満であると、粒界に生成されるCeAlO3 相の量が少なくなり、前述したとおり、焼結体の体積固有抵抗値の再現性が悪くなる。逆に20モル%より多いと、CeAlO3 の生成量が多いのため、焼結体の強度および熱伝導率等が低下する。含有されるセリウム(Ce)の酸化物(CeO2 )換算量としては、特に、8〜15モル%が望ましい。
【0030】
さらに、全酸素量からCeにCeO2 として結合している酸素量を差し引いた残りの酸素量がAl2 O3 換算して0.3モル%よりも少ないと、液相量が少なくなり、導電粒子の結合状態が悪いために抵抗が高くなり、目標の特性が得られず、また、逆に全酸素量からCeにCeO2 として結合している酸素量を差し引いた残りの酸素量がAl2 O3 換算して10モル%よりも多いと、液相量が多くなりすぎて液相の固化収縮によるボイドの発生が顕著となる。前記酸素量のAl2 O3 換算量としては、特に3〜7モル%が望ましい。
【0031】
なお、窒化アルミニウムの平均結晶粒子径は0.5〜50μm、特に3〜30μmが望ましい。これは、窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が50μmより大きくなると焼結体の強度や硬度等が大きく低下するため、被固定物との脱着に伴う摺動によって吸着面が摩耗したり、成膜工程やエッチング工程等におけるプラズマや腐食性ガスによって腐食摩耗し易くなるために、静電チャックの寿命が短くなるとともに、被固定物にパーティクルが付着するからであり、逆に、窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を0.5μmより小さくすることは製造上難しいからである。
【0032】
また、耐食性および耐摩耗性を高める上で、焼結体の相対密度は95%以上、特に98%以上であることが望ましく、また、熱伝導率は15w/mK以上、特に30w/mK以上であることが望ましい。さらに、強度は、薄層化に伴う機械的信頼性の点で100MPa以上、特に200MPa以上であることが望ましい。
【0033】
また、本発明のセラミック抵抗体では、緻密化を促進させるために焼結助剤としてセリウム(Ce)化合物以外にイットリウム(Y)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)等の希土類元素酸化物を2モル%以下の範囲で含有してもよい。これにより、セラミックスの緻密化がさらに促進されるため、耐食性および耐摩耗性が向上し、静電チャックとして用いた場合、セラミックス表面から発生する脱粒等によるパーティクルの発生を低減でき、静電チャックとしての信頼性が向上する。
【0034】
以下に本発明のセラミック焼結体の製造方法について説明する。
まず、出発原料である窒化アルミニウム粉末(純度99%以上、平均粒径0.4μm〜5.5μm)に対し、TiN粉末(純度99%以上、平均粒径1.5〜2.5μm)、酸化セリウム(CeO2 )粉末(純度99%以上、平均粒径0.5μm〜18μm)をセリウムの酸化物(CeO2 )換算量で5〜20モル%の範囲で添加混合する。
【0035】
また、アルミナ粉末( 純度99%以上、平均粒径0.5〜1.5μm)を窒化アルミニウム原料粉末中に含まれる不可避的酸素との酸素をアルミナ換算した量との合量で0.3〜10モル%となるように添加する。
【0036】
この時、CeAlO3 相の生成率を高めるために、予め、酸化アルミニウム(Al2 O3 )と酸化セリウム(CeO2 )とを反応させて、CeAlO3 の粉末を作製しておき、これを窒化アルミニウムの粉末と所定の割合で均一に混合してもよい。
【0037】
また、本発明においては、セリウム(Ce)以外の焼結助剤としてイットリウム(Y)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)等の希土類酸化物を2モル%以下の範囲で添加してもよく、これにより焼結体の密度をさらに向上させることができる。
【0038】
上記混合粉末に対し、所望により有機バインダを添加した後、所定形状に周知の成形手段、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、ドクターブレード法、圧延法等のテープ成形法、押し出し成形等により成形する。その後、この成形体を所望により真空中または窒素中で脱脂した後、窒素等の非酸化性雰囲気中、1700℃〜1950℃、特に1750℃〜1900℃で1〜数時間焼成することにより窒化アルミニウム質焼結体を作製することができる。
【0039】
焼成方法としては、常圧焼成、ホットプレス法あるいはガス圧焼成法等が用いられる。さらに、焼結体の密度を高めるために、焼結体に対してHIP処理を施すこともできる。
【0040】
図1(a)、(b)は本発明に係る静電チャック1を示す斜視図およびX−X線断面図であり、絶縁性を有するセラミック基体2の表面に静電吸着用電極4を備え、この静電吸着用電極4を覆うように上記セラミック基体2の表面に誘電体層3が設けられており、誘電体層3の上面が被固定物10を吸着する吸着面5を形成している。さらに、吸着面5の反対の面に静電吸着用電極4と電気的に接続された給電端子6が埋設されている。
【0041】
吸着面5を構成する誘電体層3の抵抗値は吸着力と密接な関係にあるが、本発明の静電チャック1によれば、誘電体層3を上述の窒化アルミニウム質焼結体によって形成する、すなわち誘電体層3を形成する上述した窒化アルミニウム質セラミックスの0〜50℃の体積固有抵抗値が108 〜1012Ω・cmの範囲となるように適宜調整することができるため、静電チャック1の静電吸着用電極4と吸着面5に載置した被固定物10との間に電圧を印加することで、被固定物10と静電吸着用電極4との間に微弱な漏れ電流が流れることからジョンソン・ラーベック力による吸着力を発現させることができ、被固定物10を吸着面5に強固に吸着保持することができる。
【0042】
また、耐食性および耐摩耗性を高める上で、誘電体層3の相対密度は95%以上、特に98%以上であることが望ましく、また、熱伝導率は、15w/mK以上、特に30w/mK以上であることが望ましい。さらに、誘電体層3の強度については、薄層化に伴う機械的な信頼性の観点から100MPa以上であることが望ましい。
【0043】
セラミック基体2は、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム等の絶縁性を有するセラミックスで形成すればよいが、特に窒化アルミニウム質焼結体で形成することにより、誘電体層3を構成する窒化アルミニウム質焼結体と同時焼成が可能で、両者間の熱膨張係数差を無くすことができるため、焼成時における反りや歪み等を生じることがなく信頼性の高い静電チャックを得ることができる。
【0044】
静電吸着用電極4および給電端子6は、焼成時及び加熱時におけるセラミック基体2との密着性を高めるために、セラミック基体2を構成する窒化アルミニウム質焼結体と熱膨張係数が近似したタングステン、モリブデン、白金等の耐熱性金属により形成する。また、給電端子6が腐食性ガスに曝されるような時には鉄−コバルト−クロム合金により形成することが良い。
【0045】
また、静電吸着用電極4が耐熱性に優れたセラミック基体2内に完全に埋設された構造であることから、比較的高温の200℃付近においても使用可能であり、さらに、静電チャック1は優れた耐プラズマ性、耐食性を有する窒化アルミニウム質焼結体からなるため、成膜工程やエッチング工程などにおいてプラズマや腐食性ガスに曝されたとしても腐食が少なく、長期使用が可能である。しかも、静電吸着用電極4への通電をOFFにすれば、ただちに吸着力を除去することができるため、離脱応答性にも優れている。
【0046】
なお、図1に示す静電チャック1では、セラミック基体2の内部に静電吸着用電極4のみを備えた例を示したが、例えば、上記静電吸着用電極4以外にヒータ電極を埋設しても良く、この場合、ヒータ電極により静電チャック1を直接発熱させることができるため、間接加熱方式のものに比べて熱損失を大幅に押さえることができる。
【0047】
また、セラミック基体2を窒化アルミニウム質セラミックスにより形成した場合、熱伝導特性がよいために、吸着面5に保持した被固定物10をムラなく均一に加熱することができる。また、静電吸着用電極4以外にプラズマ発生用電極をセラミック基体2内に埋設すれば、装置の構造を簡略化することができる。また、本発明の静電チャック1は主に200℃以下の温度域で使用されるものであるが、200℃より高い温度域でももちろん使用可能である。
【0048】
ところで、このような静電チャック1を作製するには、セラミック基体2を形成する原料として、例えば、純度99%以上、平均粒径3μm以下の窒化アルミニウム(AlN)あるいはこの窒化アルミニウム(AlN)粉末にイットリウム(Y)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)等の希土類酸化物を添加した粉末に適宜有機バインダを用い、また誘電体層3を形成する原料として、前述した組成の混合粉末を用いて、所定形状に周知の成形方法、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、ドクターブレード法や圧延法等のテープ成形法、押し出し成形等により任意の形状に成形する。
【0049】
例えば、テープ成形法を用いる場合、セラミック基体2を形成するグリーンシートを複数枚成形し、このうちの1枚上に導体ペーストを印刷して静電吸着用電極4をす電極パターンを形成した後、各グリーンシートを積層する。
【0050】
一方、誘電体層3を形成する前述した本発明による組成物からなるグリーンシートを成形し、前記のグリーンシート積層体上に積層し、該積層体に切削加工を施して所望の形状とする。
【0051】
また、金型プレスを用いる場合には、金型内に上記粉末を充填するとともに板状または粉末状の静電吸着用電極4を粉末中に埋設してプレス成形することにより、静電吸着用電極4を埋設したセラミック成形体を作製することも可能である。
【0052】
得られた成形体を所望により真空または窒素中で脱脂した後、非酸化性雰囲気下において1700〜1950℃、特に1750〜1900℃で1〜数時間焼成する。焼成方法としては、常圧焼成、ホットプレス法あるいはガス圧焼成法等が用いられる。さらに、焼結体の密度を高めるために、焼結体に対してHIP処理を施すこともできる。
【0053】
そして、誘電体層3の表面に研磨加工を施して吸着面5を形成するとともに、吸着面5と反対側の面に静電吸着用電極4と連通する穴を穿孔し、該穴に給電端子6をロウ付け等の方法により接合することにより、図1に示す静電チャック1を得ることができる。
【0054】
次に、図2は本発明に係る静電チャック11の他の実施形態を示す図で、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のY−Y線断面図である。
この静電チャック11は、窒化アルミニウム質焼結体からなる円盤状をした誘電板12と、該誘電板12の下面に敷設した静電吸着用電極14と、該静電吸着用電極14を覆うベース基体15とからなり、上記誘電板12とベース基体15とはガラス、ロウ材、あるいは接着剤などの接合剤16を介して接合し、静電吸着用電極14を誘電板12とベース基体15との間に内蔵するとともに、前記誘電板12の上面を吸着面13としてある。なお、ベース基体15の裏面には上記静電吸着用電極14と電気的に接続された給電端子17を埋設してある。
【0055】
上記ベース基体15は、サファイアあるいはアルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの各種セラミックス、あるいは樹脂などの絶縁材料により形成してある。また、静電吸着用電極14は銅、チタンなどの金属やTiN、TaN、WCなどの材質からなり、誘電板12の下面に蒸着、メタライズ、メッキ、PVD、CD等の方法により形成してある。
【0056】
また、静電チャック11の吸着面13を構成する誘電板12は、セリウムを酸化物(CeO2 )換算で5〜20モル%の範囲で含み、かつCeAlO3 相を含有する窒化アルミニウム質焼結体により形成してある。そして、この窒化アルミニウム質焼結体は、0〜50℃の温度域において108 〜1012Ω・cmの体積固有抵抗値を有することから、静電チャック11の静電吸着用電極14と吸着面13に載置した被固定物10との間に電圧を印加すれば、被固定物10と静電吸着用電極14との間に微小な漏れ電流が流れ、ジョンソン・ラーベック力による吸着力を発現させることができるため、−50℃から200℃の温度域において被固定物10を吸着面13に強固に吸着保持することができる。
【0057】
そのため、被固定物10が反りをもった半導体ウエハなどの基板であっても吸着面13の精度に倣わせて保持することができるために、例えば、露光処理工程において精度の良い露光処理を施すことができる。
【0058】
また、静電吸着用電極14への通電をOFFにすれば、ただちに吸着力を除去することができるため、離脱応答性にも優れている。
【0059】
しかも、この静電チャック11は、誘電板12及びベース基体15をそれぞれ別々に作製しておき、接合剤16により接合するだけで良いため簡単に製造することができる。
【0060】
なお、本実施形態では単極型の静電チャックの例を示したが、双極型の静電チャックにも適用できることは言うまでもない。
【0061】
【実施例】
図1に示す本発明の静電チャック1を試作し、室温(25℃)における吸着特性について測定を行った。
【0062】
まず、純度99%、平均粒径1.2μmのAlN粉末にバインダと溶媒を加えて泥漿を作製した後、ドクターブレード法により厚さ0.5mm程度のグリーンシートを複数枚成形してそれらを積層し、セラミック基体2を構成するための成形体とした。そして、その一主面にAlN粉末を5モル%混合したタングステンペーストをスクリーン印刷法により印刷塗布して静電吸着用電極4をなす電極パターンを形成した。
【0063】
一方、純度99%、平均粒径1.2μmのAlN粉末と、平均粒径1.6μmのTiNと、平均粒径0.9μmのCeO2 と、平均粒径0.7μmのAl2 O3 とを焼結体の組成がICP分析により表1となるように添加混合し、さらにバインダと溶媒を加えて泥漿を作製した後、ドクターブレード法により厚さ0.5mm程度のグリーンシートを成形し、誘電体層3用の成形体とした。なお、Al2 O3 量は窒化アルミニウム粉末中の不純物酸素のAl2 O3 換算量と添加したAl2 O3 との合計量である。
【0064】
そして、静電吸着用電極4をなす金属膜を備えたセラミック基体2用成形体の金属膜の表面に、誘電体層3用の成形体を積層して、80℃、50kg/cm2 の圧力で熱圧着した。しかる後に、上記積層体に切削加工を施して円板状とし、真空脱脂した後、窒素雰囲気下、1850℃程度の温度で3時間程度焼成することにより、外径200mm、厚み8mmで、かつ内部に膜厚15μmの静電吸着用電極4を備えた板状体を形成した。
【0065】
その後、誘電体層3をなす窒化アルミニム質焼結体の表面に研磨加工を施して吸着面5を形成するとともに、吸着面5と反対側の面に、前記静電吸着用電極4と連通する穴を穿孔し、該穴に鉄−コバルト−ニッケル合金からなる給電端子をロウ付けして静電チャック1を形成した。
【0066】
得られた静電チャックについて、25℃にて、静電チャック1の吸着面5に8インチ径のシリコンウエハを載置し、静電吸着用電極4との間に300Vの電圧を印加することによりウエハを吸着面に吸着保持させ、この状態でシリコンウエハを剥がすのに必要な力を吸着力として測定した。結果は表1に示した。
【0067】
また、誘電体層3と同じ組成のセラミックスを上記同様に作製し、25℃における体積固有抵抗値を測定した。また、アルキメデス法により焼結体の密度を測定し、理論密度に対する比率である相対密度(%)を算出した。さらに、厚み2mmの試料について、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。さらに、JISR1601に従い、室温における4点曲げ強度を測定した。また、リークチェックにより多量のボイド発生の有無を確認した。結果は、表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から明らかなように、窒化チタン(TiN)の含有量が10モル%より少ない試料No.8では、200℃以下の温度における体積固有抵抗値を1012Ω・cm以下とすることができず、逆に、窒化チタン(TiN)の含有量が30モル%より多い試料No.9では、200℃以下の温度において体積固有抵抗値が108 Ω・cmより小さくなり、吸着力が低下した。
【0070】
また、CeO2 の含有量が5モル%未満である試料No.10では、多量のボイド生成がみられ、強度が低下した。また、逆に、CeO2 の含有量が20モル%より多い試料No.11でも、ボイドの生成がみられ、強度が低下した。
【0071】
さらに、全酸素量からCeにCeO2 として結合している酸素量を差し引いた残りの酸素量のAl2 O3 換算量が0.3モル%未満である試料No.1では、ボイドの生成がみられ、強度が低下した。逆に、Al2 O3 の含有量が10モル%より多い試料No.5では、200℃以下の温度において体積固有抵抗値が108 Ω・cmよりも小さくなった。
【0072】
これに対し、本発明の範囲内である試料No.2〜4及び6、7、13、14では、200℃以下の温度において体積固有抵抗値を各々108 〜1012Ω・cmの範囲に設定することができ、吸着力350g/cm2 以上、強度200MPa以上、熱伝導率50W/mK以上の優れた特性を示した。
【0073】
このことから、本発明に係る静電チャックを用いれば、200℃以下の温度で行われる各種処理工程においてジョンソン・ラーベック力による吸着力が得られ、被固定物を高い吸着力でもって保持できることがわかる。
【0074】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明のセラミック抵抗体およびそれを用いた静電チャックは、0〜50℃における体積固有抵抗値が108 〜1012Ω・cmであることから、200℃以下の温度下においてもジョンソン・ラーベック力による吸着力を発現させることができるため、広範囲な温度領域で使用可能であり、また高い吸着力でもって被固定物を強固に保持することができる。
【0075】
そのため、例えば、本発明の静電チャックを成膜処理工程に用いれば、被固定物上に均一な厚みをもった薄膜を被覆することができ、露光処理工程やエッチング処理工程に用いれば、被固定物に精度の良い露光や加工を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る静電チャックの一実施形態を示す図で、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のX−X線断面図である。
【図2】本発明に係る静電チャックの他の実施形態を示す図で、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のY−Y線断面図である。
【符号の説明】
1・・・静電チャック 2・・・セラミック基体 3・・・誘電体層
4・・・静電吸着用電極 5・・・吸着面 6・・・給電端子
10・・・被固定物
11・・・静電チャック 12・・・誘電板 13・・・吸着面
14・・・静電吸着用電極 15・・・ベース基体 16・・・接合剤
17・・・給電端子
Claims (3)
- 窒化アルミニウムを主成分とし、窒化チタンを10〜30モル%と、セリウムを酸化物(CeO2)換算で6〜20モル%と、全酸素量からCeにCeO2として結合している酸素量を差し引いた残りの酸素量をAl2O3換算して0.3〜10モル%との割合で含有してなり、CeAlO 3 を生成せしめるために必要なAl 2 O 3 よりも過剰のAl 2 O 3 を含有せしめてなることを特徴とする窒化アルミニウム質焼結体。
- 窒化アルミニウム粉末と、窒化チタン粉末と、CeO 2 粉末と、Al 2 O 3 粉末とを含む粉末成形体を1700〜1950℃で焼成して得られることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム質焼結体。
- 被固定物を静電気力によって吸着保持する静電チャックであって、被固定物を吸着保持する吸着面が、請求項1又は2記載の窒化アルミニウム質焼結体からなることを特徴とする静電チャック。
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