JP3661643B2 - 燃料電池システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は燃料電池システム、特に氷点下からのシステム起動性を改良する燃料電池システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の固体高分子型燃料電池においては、水素イオン(H+)が固体高分子電解質膜を透過するためには、その電解質膜が常に湿潤状態を維持することが必要となる。しかしながら、電解質膜を湿潤状態に維持するために水分を補給する構成を燃料電池システム中に有すると、氷点下の温度域で水分が凍結し、この状態から燃料電池システムを起動するには、まず凍結した水分を解凍する必要が生じ、時間が掛かり始動性が著しく悪い。
【0003】
このような起動性の課題を解決する技術として、特開2000−315514号公報には、外部から高温のガスを燃料電池システムに供給し、凍結した水分を解凍する技術が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この従来技術においても特に氷点下20℃以下の気温では、供給された高温のガスが電解質膜と触媒と電極から構成される膜電極接合体、いわゆるMEAに到達するまでに、そのガスの熱を配管やセパレータを加熱することに消費され、熱効率が悪く、また熱量が減少するためにMEAの解凍に時間が掛かり、起動時間が長いということになる。
【0005】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、電圧を燃料電池スタックに印加して電力を供給することによりMEA、ガス拡散層、セパレータを直接的に解凍することで、起動性を向上し、課題を解決するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜を狭持するように配置された燃料極と酸化剤極を備えた単セルを積層して形成される第1燃料電池スタックを備えた燃料電池システムにおいて、前記第1燃料電池スタックは、燃料電池スタック内の温度が氷点下からの燃料電池システム起動時に、前記各単セルの燃料極をプラス極、酸化剤極をマイナス極として電極間に電圧を印加して加熱することを特徴とする。
【0007】
また、前記各単セルの電極間に印加する電圧は、水の電気分解に必要な電圧と、前記単セル内の抵抗や触媒の分散度合いに応じて必要となる過電圧を加算した電圧とすることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記各単セルの電極間に電圧を印加することにより、燃料極に生成された酸素が燃料極に供給された水素と反応して水を生じるときの反応熱と、酸化剤極に生成された水素が酸化剤極に供給された酸素と反応して水を生じるときの反応熱の少なくとも一方を用いて前記第1燃料電池スタックを加熱することを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第1または2の発明において、前記各単セルの電極間に電圧を印加する2次電池を備えたことを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第1から3のいずれか一つの発明において、前記各単セルの電極間に電圧が印加される前記第1の燃料電池スタックに接続される第2燃料電池スタックを備え、この第2燃料電池スタックは、前記第1燃料電池スタックによって発電された電気によって加熱されることを特徴とする。
【0011】
【発明の効果】
第1の発明は、氷点下に置かれた第1燃料電池スタックを起動するときに、前記第1燃料電池スタックの各単セルの燃料極をプラス極、酸化剤極をマイナス極として電極間に電圧を印加して加熱するようにしたので、単セル内に熱を発生させ、第1燃料電池スタック内の氷を解凍し、燃料電池システムの起動性を向上することができる。
【0012】
また、前記各単セルの電極間に印加する電圧は、水の電気分解に必要な電圧と、前記単セル内の抵抗や触媒の分散度合いに応じて必要となる過電圧を加算した電圧としたので、過電圧によるジュール熱や触媒部で発生する熱によって燃料電池スタック内の氷を解凍することができる。
【0013】
第2の発明は、前記各単セルの電極間に電圧を印加することにより、燃料極に生成された酸素が燃料極に供給された水素と反応して水を生じるときの反応熱と、酸化剤極に生成された水素が酸化剤極に供給された酸素と反応して水を生じるときの反応熱の少なくとも一方を用いて前記第1燃料電池スタックを加熱するので、水の生成時に生じる反応熱を氷の解凍に用いることにより氷の解凍を一層促進できる。
【0014】
第3の発明は、前記各単セルの電極間に電圧を印加する2次電池を備えたので氷点下でも確実に単セルに確実に電圧を印加することができる。
【0015】
第4の発明は、前記各単セルの電極間に電圧が印加される前記第1の燃料電池スタックに接続される第2燃料電池スタックを備え、この第2燃料電池スタックは、前記第1燃料電池スタックによって発電された電気によって加熱されるので、バッテリ等の外部電源の負荷を低減することができ、システムの効率向上を図ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1に本発明の燃料電池システムの構成の一例を示す。
【0017】
単セル1が積層して構成される燃料電池スタック2には、コンプレッサ3から酸化剤(酸素)が圧力調整弁4を介して供給されるとともに、水素ボンベ5から圧力調整弁6を介して燃料としての水素が各セルに供給される。また水素の圧力を調整する圧力調整弁6と燃料電池スタック2との間にはエゼクタ7が設けられている。
【0018】
燃料電池スタック2では発電のための電気化学反応に供せられた水素と酸素は、排ガスとして大気中に放出されるが、排水素ガスの一部はエゼクタ7の作用によって燃料電池スタック2に再供給される。
【0019】
燃料電池スタック2を構成する単セル1は、固体高分子電解質膜(以下、単に高分子膜という。)8と、高分子膜8を両側から狭持するようにガス拡散層と触媒を担持した電極(水素極と酸素極)とさらに高分子膜8と触媒と燃料ガス(水素または酸素)とで形成される3層界面とが混在する層9と、その層9の外側に燃料ガスが流通する流路10を形成したセパレータ11とから形成されている。
【0020】
高分子膜8は、パーフルオロスルホン酸イオン交換膜、たとえば、DuPont社製Nafion112を用いて形成され、ガス拡散層はカーボンペーパを用い、各電極は触媒としてPtを担持したカーボンブラックを前記Nafionと混合してカーボンペーパに塗布して形成する。したがって、化学反応サイトである3相界面を高分子膜8近傍に形成することができる。
【0021】
燃料電池スタック2には、制御回路12が接続されており、制御回路12は2次電池(バッテリ)を電源13として燃料電池スタック2の単セルの各電極間に氷点下時でも確実に電圧を印加する。このとき水素極をプラス極、酸素極をマイナス極とする。電流を一定化するための定電流回路14が、制御回路12と燃料電池スタック2との間に設置される。例えば、この実施例での高分子膜の発電面積を25cm2とすると高分子膜8内を流れる電流が1A/cm2となるようにするには、電極間に流れる電流は、25Aの電流が必要とされる。各電極間に電圧を印加することにより、水素極には酸素が、酸素極には水素が発生する。この状態で水素極に水素を、酸素極に酸素を供給することで、発生した水素と供給された酸素または酸素と供給された水素とが反応を生じ、水を生成される。この水を生成する際に生じる反応熱の少なくとも一方は、後述するように氷点下時に凍結した燃料電池スタック2内の氷を解凍するために使用することができる。この状態を模式的に示したのが図2である。
【0022】
制御回路12は電源13の他に、通常運転時に接続する負荷(例えば、モータ)15と始動時に接続可能な他の燃料電池スタック16と接続可能に構成される。制御回路12とこれら構成との接続の切り換えは、制御装置17によって制御される。更に制御装置17には図示しないが、燃料電池スタック2内の温度を検出するための温度センサからの出力が入力される。
【0023】
このように構成される燃料電池システムが氷点下30℃の環境に設置された場合を考える。この環境下では、高分子膜8のイオン導電率は約0.005S/cmであるので、高分子膜8の電圧降下は約0.6Vである。また触媒活性過電圧は約0.3V、ガス拡散層とセパレータ11との接触抵抗は約0.2Vであり、水の電気分解電圧である約1.2Vと合わせると各電極に印加する電圧は約2.3V必要となる。
【0024】
印加した2.3Vのうち、高分子膜8の電圧降下分(抵抗分)の約0.6Vと触媒活性化抵抗分の約0.3Vとガス拡散層とセパレータ11との接触抵抗分の約0.2Vを合わせた約1.1Vが熱に変換されて、凍結した水の解凍に用いられる。この電圧による発熱量は、単セル1に1A/cm2の電流を流すようにすると、1.2W/cm2程度の発熱量となる。この発熱量を用いることで、氷点下30度という極寒の環境においても燃料電池スタック2の凍結を短時間に解凍することができ、システムの起動性を向上することができる。
【0025】
さらに水の電気分解電圧である約1.2Vについても、この電圧による水の分解により生成された酸素と水素とが外部より供給された水素と酸素と反応する際に生じる反応熱を解凍に用いることが可能である。
【0026】
つまり、電圧の印加の開始直後は、水素または酸素を供給するためのガス拡散層等が凍結しており、外部から水素または酸素を単セル1内に供給することはできないが、電圧の印加が継続され、氷の解凍が進むに連れて、外部からの酸素または水素が単セル1内に供給されるようになると、前述したように、また図2に示したように水の分解電圧分による反応熱により解凍が可能となり、解凍を一層促進することができる。
【0027】
次に燃料電池スタックの単セルの各電極間への電圧の印加により生じる熱について説明する。
【0028】
一定以上の電圧を印加すると次の化学式で表される電気分解が生じる。
【0029】
【数1】
【0030】
印加下電圧から下記式2で示されるネルンスト平衡電圧式より算出される約1.23V(大気圧時)を差し引いた電圧の差から生じるエネルギ差の大半が熱に変換され、凍結した水を解凍することになる。この熱の内訳としては、主に高分子膜、ガス拡散層、セパレータ内部で発生するジュール熱と、ガス拡散層とセパレータとの接触面で発生する熱、触媒付近で発生する熱がある。
【0031】
【数2】
【0032】
ここで、Er:平衡電圧、R:気体定数、F:ファラデー定数、T:温度、p:それぞれのガスの分圧を示す。
【0033】
まずジュール熱については、各電極に電圧を印加することで単セル1の構成である高分子膜8、セパレータ11、ガス拡散層内で単位面積当たりi×R2(ここでi=電流密度、R=それぞれの抵抗、とする)の発熱が生じる。またガス拡散層とセパレータとの接触面では、一般に両者の内部よりも電子が通過可能な面積が小さくなるために抵抗が大きくなる。触媒付近では、式1で示す化学反応を促進するために必要な過電圧に相当するエネルギの大半が熱になる。これらの熱を凍結した水の解凍に用いることができる。
【0034】
さらに水の電気分解によって水素極に生成された酸素と、酸素極に生成された水素とが外部から供給された水素または酸素と化学反応し、水を生成するときに生じる反応熱が氷の解凍に用いられることは前述した通りである。
【0035】
図3は、凍結した燃料電池スタック2を本発明を用いて実際に解凍したときの単セルの温度変化を示す図である。
【0036】
まず燃料電池スタック2内の温度が氷点下30度の状態で各セルの電極間に電圧の印加を開始する。電圧の印加により単セル内でジュール熱が発生し、単セルの温度が上昇する。氷点下20℃で温度の上昇が一次的に停止するが、これは、高分子膜8中に存在する半結合水が解凍していることを示している。
【0037】
ここで高分子膜8中に存在する水について説明すると、高分子膜8中にはスルホン酸基に結合した凍結しない結合水と、結合せずに約0℃で凍結する自由水と、氷点下約20℃で凍結する半結合水とが混在している。氷点下20℃で温度の上昇が停止しているのは、半結合水の解凍に熱が消費されていることを示している。
【0038】
半結合水の解凍が電圧印加後、約50秒で終了し、再び単セル1内の温度が上昇する。ついで0℃で今度は自由水の解凍に熱が消費されるために単セルの温度上昇が一次的に停止する。自由水の解凍が終了することで、セパレータやガス拡散層を遮蔽していた氷が解凍され、外部から供給される水素と酸素が各電極に供給可能となる。したがって、前述のように各電極で生成された水素と酸素と反応して反応熱が生じ、単セルの加熱に用いられ、単セルの昇温度合が大きくなる(傾きが大きくなる)ことが図からも読み取れる。また各電極に印加する電圧は、単セルの昇温とともに減少していくことになる。
【0039】
本実験結果によれば、単セルの電極に電圧を印加後、約2分で氷の解凍が終了し、燃料電池スタック2の発電が可能な状態となることが確認できた。燃料電池スタック2に加熱した水素や酸素、あるいは加湿した水素や酸素を供給すれば一層燃料電池スタック2の起動時間を短縮できることはいうまでもない。
【0040】
図1において、燃料電池スタック(第1燃料電池スタック)2が他の(第2の)燃料電池スタック16に制御回路12を介して接続される構成について説明する。これは、まず第1燃料電池スタック2が解凍されて、十分な発電が行える状態となったときに、制御回路12を切り換え、第1燃料電池スタック2と第2燃料電池スタック16を接続し、第1燃料電池スタック2で発電された電気を第2の燃料電池スタック16に供給することで第2の燃料電池スタック16の解凍を行うための構成である。この構成を備えることで、バッテリ等の外部電源の負荷を低減することができ、システムの効率向上を図ることができる。
【0041】
以上説明したように本発明では、燃料電池スタック内の水分が凍結した氷点下状態において、スタック各単セルの電極間に電圧を印加することにより、単セル内に熱(ジュール熱と化学反応熱)を発生させ、燃料電池スタック内の氷を解凍し、燃料電池システムの起動性を向上することができる。
【0042】
各セルの電極間に印加する電圧は、水の電気分解のための電圧と、高分子膜の抵抗、ガス拡散層とセパレータの接触抵抗、触媒活性化に伴う抵抗等の単セル内の抵抗に応じた過電圧とを加えた電圧としたので、ジュール熱など過電圧に相当するエネルギによって氷を解凍することができる。
【0043】
また電圧を印加することで、水の電気分解が生じ、水素極には酸素が、酸素極には水素が生成される。したがって、外部から各電極に水素極には水素が、酸素極には酸素が供給されると、電気分解によって生成された酸素、水素と反応して各極で水が生成され、この水の生成時に生じる反応熱を氷の解凍に用いることにより氷の解凍を一層促進できる。
【0044】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内でさまざまな変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図2】燃料電池セル内での化学反応熱の発生を模式的に説明するための図である。
【図3】燃料電池セルに電圧を印加した場合の燃料電池セルの氷点下からの温度変化を示す図である。
【符号の説明】
1 単セル
2 燃料電池スタック
8 高分子膜
10 流路
11 セパレータ
12 制御回路
14 定電流回路
17 制御装置
Claims (4)
- 固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜を狭持するように配置された燃料極と酸化剤極を備えた単セルを積層して形成される第1燃料電池スタックを備えた燃料電池システムにおいて、
前記第1燃料電池スタックは、燃料電池スタック内の温度が氷点下からの燃料電池システム起動時に、前記各単セルの燃料極をプラス極、酸化剤極をマイナス極として電極間に水の電気分解に必要な電圧と、前記単セル内の抵抗や触媒の分散度合いに応じて必要となる過電圧を加算した電圧を印加して加熱することを特徴とする燃料電池システム。 - 前記各単セルの電極間に電圧を印加することにより、燃料極に生成された酸素が燃料極に供給された水素と反応して水を生じるときの反応熱と、酸化剤極に生成された水素が酸化剤極に供給された酸素と反応して水を生じるときの反応熱の少なくとも一方を用いて前記第1燃料電池スタックを加熱することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
- 前記各単セルの電極間に電圧を印加する2次電池を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
- 前記各単セルの電極間に電圧が印加される前記第1の燃料電池スタックに接続される第2燃料電池スタックを備え、
この第2燃料電池スタックは、前記第1燃料電池スタックによって発電された電気によって加熱されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の燃料電池システム。
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