JP3661181B2 - 不織布、布筒及び内張り材を管内部に形成する方法 - Google Patents

不織布、布筒及び内張り材を管内部に形成する方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、製織工程を経ずに作製される不織布、布筒及び内張り材を管内部に形成する方法に関し、特に、FRP(繊維強化プラスチック)等の繊維強化複合材に用いられる不織布、布筒及び内張り材を管内部に形成する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
地中に埋設された下水管、ガス管、石油パイプライン等の各種管は、長年の使用により老朽化したり、通行車両による振動や地震等の影響でクラックが発生したり、また、硫化水素などの影響で腐食してしまう。このようにして下水管等が破損すると、漏水、浸水等の問題が生じるため、近年、かかる問題に対する対策が講じられている。
【0003】
対策手法として最も着目されているのは、たとえば特開平1−93339号公報に掲載されているように、織布を筒状に巻いた繊維層をもとに作製したパイプ状の内張り材(繊維強化複合材)を用いる技術である。この技術は、まず、筒状の繊維層に反応硬化型接着剤を含浸させておき、これを水圧で裏返しながら下水管等の内部に挿通し、その後、裏返された内張り材を水圧で径方向に膨張させて管内面に圧着し、さらに上記反応硬化型接着剤を硬化させることで、下水管等の内部にパイプ状の内張り材を形成するものである。そして、地中に埋設された下水管等が破損した場合でも、下水管の内部に形成された当該内張り材によって、漏水、侵水等をある程度防止することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記公報に掲載された内張り材には、次のような問題があった。すなわち、従来の内張り材を構成する筒状の繊維層は、経糸と緯糸とが上下に交差しているいわゆる織布によって形成されているため、管内面に圧着させるために水圧などで径方向に膨張させようとしても、糸の動きが制限を受けて、筒状の繊維層を径方向に膨張させることは困難である。筒状にされた内張り材が径方向に膨張しないと、下水管等の内面と内張り材の外面との間に隙間ができて、内張り材を下水管等に固定し難くなってしまう。なお、同公報には、緯糸を予め屈曲させておくことで径膨張を確保する旨が記載されているが、このような構成を採用したとしても、経糸と緯糸とが上下に交差しているため、結局、内張り材を径方向にスムースに膨張させることはできず、下水管等の内面に内張り材を隙間なく密着させることは困難である。
【0005】
また、織布は、経糸と緯糸とが互いに締め付けられていることから各糸が互いに圧縮し合い、当該織布をパイプ形状に硬化させるための反応硬化型樹脂(接着剤)を内部に含浸させにくいという問題もある。織布の内部に樹脂を含浸させにくくなると、樹脂の各糸への含浸量が少なくなったり、樹脂が各糸の内部に均一に染み込まなくなり、曲げ強さ、圧縮強さ等の機械的性質が低下し、破損しやすくなってしまう。さらに、内張り材に織布を用いる場合は、その製造過程において製織工程を必要とするため、生産スピードが遅くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、各種管の内張り材として径方向に容易に膨張させることができ、且つ、内張り材としての強度を高くすることのでき、さらに、生産性の高い不織布、布筒及び管内部に形成する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明に係る不織布は、第1の繊維糸が複数並列されて成る第1繊維糸層と、第1の繊維糸と斜交する第2の繊維糸が複数並列されて成る第2繊維糸層と、第2の繊維糸と反対方向から第1の繊維糸に斜交する第3の繊維糸が複数並列されて成る第3繊維糸層と、を備え、第1の繊維糸は、可延性の有機繊維から形成され、第2の繊維糸及び第3の繊維糸は、強化繊維を含んで形成され、第1繊維糸層が第2の繊維糸及び第3の繊維糸よりも延伸することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る不織布によれば、第1の繊維糸が下水管、ガス管等の各種管の略円周方向に沿うように当該不織布を巻いて円筒状の内張り材を形成すると、第1繊維糸層を形成する各第1の繊維糸がポリエステル等の可延性の有機繊維から形成されているため、内張り材の内部から圧力を加えることで、第1の繊維糸が延びて当該内張り材を容易に径方向に膨張させることができる。これにより、内張り材が管の内面に隙間なく密着する。
【0009】
また、本発明の不織布は、経糸と緯糸とが上下に交差した織布とは異なり、第1の繊維糸(たとえば経糸)と第2の繊維糸とは上下に交差していないため、各糸同士が圧縮し合うことはなく、当該不織布を所望の形状に硬化させるために含浸する樹脂の量を増加させるとともに、当該樹脂を各糸の内部に均一に染み込ませることができる。これにより、本発明の不織布を内張り材に適用した場合に、外力に対する強度を向上することができる。
【0010】
さらに、第1の繊維糸と交わる第2の繊維糸が、第1の繊維糸に対して斜めにされているため、詳しくは、第1の繊維糸の巻回方向が下水管等の円周方向と略一致するように不織布を巻いて円筒状の内張り材を形成した場合に、各第2の繊維糸の延在方向が下水管の長手方向と一致しないようにされているため、第2の繊維糸の延在方向がこれらの方向と一致する場合と比較して、外力に対する強度が一層高められる。すなわち、各第2の繊維糸の延在方向が下水管の円周方向と一致すると、曲げに対する抵抗力が低下し、長手方向と一致すると潰しに対する抵抗力が低下するが、本発明によれば、これらの抵抗力を高めることができる。またさらに、第2の繊維糸が第1の繊維糸と同方向に延在する場合、すなわち下水管等の円周方向と略一致する場合と比較して、円筒状の内張り材を径方向に広げやすくなる。
【0011】
またさらに、本発明は、製織工程が必要な織布と異なり第1の繊維糸と第2の繊維糸とを上下に交差させる必要がないため、織布と比較して生産速度を格段に向上することができる。
【0012】
また、本発明に係る不織布、上記第2の繊維糸と反対方向から第1の繊維糸に斜交する第3の繊維糸が複数並列されて成る第3繊維糸層を備えている
【0013】
これにより、不織布はいわゆる3軸不織布となり、筒状の内張り材とした場合に、外力に対する強度を向上することができる。
【0014】
また、本発明に係る不織布において、第1の繊維糸に直交する第4の繊維糸が複数並列されて成る第4繊維糸層をさらに備え、第4の繊維糸が強化繊維を含んで形成され、第1の繊維糸が第4の繊維糸よりも延伸することが好ましい。
【0015】
このような構成を採用した場合、上述の第3繊維糸層を備えていれば、いわゆる4軸不織布となり、筒状の内張り材とした場合に、外力に対する強度をさらに向上させることができる。また、不織布が第3繊維糸層を備えていない場合でも、第4の繊維糸(たとえば緯糸)から成る第4繊維糸層が備えられていない場合と比較して、外力に対する強度を向上させることができる。
【0016】
また、本発明に係る不織布において、重なり合う各繊維糸層は、紫外線硬化性樹脂などの熱融着樹脂によって接着することができる。また、第2の繊維糸は、強化繊維と熱融着樹脂繊維とから成るようにすることも好ましい。このように構成した場合、各繊維糸層を重ね合わせた後、加熱加圧することにより容易に熱有着樹脂によって各繊維糸層同士が接着され、不織布が形成されることになる。
【0017】
さらに、本発明に係る不織布は、ニードリング処理が施されていることが好ましい。このような構成を採用した場合、各繊維糸を形成する繊維がばらけて不織布が嵩高まりになるため、不織布を所望の形状に硬化させるために含浸させる樹脂の量を増加させることができる。
また、本発明に係る布筒は、上記の不織布を円筒状に巻いて形成された布筒であって、第1の繊維糸の巻回方向が当該布筒の周方向に沿っていることを特徴とする。
本発明に係る布筒によれば、周方向に巻かれた第1の繊維糸が可延性であるため、この布筒を管内部に挿入して布筒の内部から圧力を加えることで、第1の繊維糸が延びて当該布筒を容易に径方向に膨張させることができる。
一方、本発明に係る内張り材を管内部に形成する方法は、上記の布筒を用意し、布筒に反応性硬化樹脂を含浸させ、布筒を管の内部に挿入し、布筒を径方向に膨張させて管の内面に圧着し、布筒に含浸させた反応硬化型樹脂を硬化させることを特徴とする。
本発明に係る内張り材を管内部に形成する方法によれば、周方向に沿って巻かれた第1の繊維糸が可延性であるため、布筒に圧力を加える際に、第1の繊維糸が延びて布筒が容易に径方向に膨張する。これにより、布筒の外周面を管の内面に隙間なく密着させることができ、布筒に含浸させた反応性硬化樹脂を硬化させることで管内部に内張り材が形成され、内張り材を管に対して強固に固定することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る不織布の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の不織布1を示す平面図であり、図2は、不織布1を示す斜視図である。本実施形態の不織布1は、紫外線硬化性樹脂などの反応硬化型樹脂を含浸させることで、FRP(繊維強化プラスチック)の強化材として機能するものである。なお、本実施形態でいう「不織布」とは、長繊維を複数配列したいわゆる連続繊維不織布を意味し、チョップドストランドマットのようにチョップドストランドを2次元的にランダムに分散させたようなものは含まない意である。
【0020】
不織布1は、いわゆる4軸不織布であり、図2に示すように上から順に、縦方向(図中のX方向)に延在する経糸(第1の繊維糸)2が複数並列されて成る第一経糸層(第1繊維糸層)4と、横方向(図中のY方向)に延在して経糸2と直交する緯糸(第4の繊維糸)6が複数並列されて成る第一緯糸層(第4繊維糸層)8と、経糸2と斜交する斜交糸(第2の繊維糸)10が複数並列されて成る第一斜交糸層(第2繊維糸層)12と、斜交糸10とは反対方向から経糸2に斜交する斜交糸(第3の繊維糸)14が複数並列されて成る第二斜交糸層(第3繊維糸層)16と、経糸2と直交する緯糸18が複数並列されて成る第二緯糸層20と、上記経糸2と平行に延在する経糸22が複数並列されて成る第二経糸層24と、が備えられている。なお、図1においては、第二緯糸層20および第二経糸層24の図示を省略する。
【0021】
また、本実施形態では、斜交糸10は、縦方向(X方向)に対して+45度の傾きを有し、斜交糸14は、縦方向に対して−45度の傾きを有しているが、この他、斜交糸10を縦方向に対して+30度、+60度傾かせて、斜交糸14を縦方向に対して−30度、−60度傾かせるようにしてもよい。
【0022】
次に、各繊維糸層を形成する糸について詳説する。斜交糸10,14および緯糸6,18は、ともに強化繊維であるガラス繊維を束ねて形成されたガラス繊維束である。ガラス繊維の径は、約3μm〜約25μmの範囲にあることが好ましく、好適には、10μm〜13μmのものが使用される。一本の糸を形成するガラス繊維の集束本数は、約1000本〜約8000本である。また、繊維束の太さ(番手)は、約280g/1000m〜約4400g/1000mにあることが好ましく、好適には、570g/1000m〜2200g/1000mのものが使用される。
【0023】
また、斜交糸10,14および緯糸6,18は、ガラス繊維を撚らずに引き揃えたロービングとされているため、FRPとして使用する場合に紫外線硬化性樹脂等を含浸させやすい。さらに、ガラス繊維束に有機シラン化合物で表面処理を施せば、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることができる。また、ガラス繊維は、耐酸性の強いものを使用することが好ましい。なお、斜交糸10,14および緯糸6,18を形成する強化繊維は、ガラス繊維束のほか、炭素繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維などのマルチフィラメント糸としてもよい。
【0024】
続いて、本実施形態の特徴である経糸2,22について説明する。経糸2,22は、引張り荷重を加えることによって延伸するポリエステルによって形成されている。本実施形態の経糸2,22は、約0.3kg/cm2〜約0.5kg/cm2の引張り荷重を加えると、約4%延伸する。また、経糸2,22の番手は、約100g/9000m〜約3000g/9000mであり、好適には、300g/9000m〜1500g/9000mのものが使用される。なお、経糸2,22としては、ポリエステルの他、適度な延伸性を示すビニロン、ナイロン6、ナイロン6−6、アクリル、ポリプロピレン、アセテート、レーヨン等によって形成することができる。
【0025】
また、上下に重なり合う各層4〜24は、熱融着樹脂によって接着されている。図3は、斜交糸10を示す拡大図であり、同図に示されるように、斜交糸10は、ガラス繊維とこのガラス繊維に沿って延在する熱融着樹脂繊維26(破線で示す)とから成っている。なお、斜交糸14および緯糸6,18についても、同様に熱融着樹脂繊維がガラス繊維に沿うように延在している。熱融着樹脂繊維26は、熱融着樹脂を繊維化したものであり、たとえば共重合ナイロンや共重合ポリエステル、共重合アクリル酸エステルなどが挙げられ、共重合ナイロンとしては、ナイロン6やナイロン12などの各種共重合体を使用することができる。また、熱融着樹脂繊維としては、番手が約10g/1000m〜約50g/1000mのものが好ましい。さらに、熱融着樹脂繊維は、融点が約60℃〜170℃のものが好ましい。
【0026】
次に、図4を参照して、本実施形態の不織布1を、下水管等の破損時の浸水、漏水などを防止するための内張り材に適用した場合の作用を説明する。なお、同図において、緯糸18および斜交糸22の図示は省略する。
【0027】
不織布1を下水管の破損対策用の内張り材に適用するには、まず、不織布1を螺旋状に巻いて図4に示すような布筒1aを形成した後に、紫外線硬化性樹脂を含浸させる。この際、経糸2の巻回方向が布筒1aの円周方向と略一致するようにする。なお、布筒1aは、必ずしも不織布1をずらしながら螺旋状に巻いて形成する必要はなく、ずらさずに巻回するようにしてもよい。次いで、これを水圧で裏返しながら下水管の内部に挿入する。この際、布筒1aが水で浸されないように、布筒1aの外周面および内周面にフィルムを貼着する。その後、裏返された布筒1aの内部から径方向に空気圧を加えることで布筒1aを径方向に膨張させて下水管の内面に圧着させ、さらに紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射して硬化させることで、下水管の内部に筒状の内張り材を形成することができる。
【0028】
そして、このようにして形成された内張り材によれば、下水管の略円周方向に沿って巻かれた糸が、外力が付与されることで延伸するポリエステル製の経糸2であるため、空気圧を加えた際に、経糸2が延びて布筒1aが容易に径方向に膨張する。これにより、内張り材の外周面を下水管の内面に隙間なく密着させることができ、内張り材を下水管に対して強固に固定することができる。
【0029】
また、本実施形態の不織布1は、いわゆる織布とは異なって経糸2と緯糸6とが上下に交差していないため、各糸2,6同士が締め付け合うことはなく、大量の紫外線硬化性樹脂を含浸させることができる。これにより、布筒1aを用いて形成された内張り材は、外力に対する強度が高いものとなる。さらに、不織布1はいわゆる4軸不織布であるため、2軸不織布や3軸不織布を用いる場合と比較して、内張り材の強度が高くなる。なお、経糸2と交差する各斜交糸10,14が、経糸2に対して斜めにされているため、経糸2の巻回方向が下水管等の円周方向と略一致するように不織布1を巻いて布筒1aを形成した場合に、図4に示されているように、各斜交糸10,14の延在方向は下水管の長手方向とは一致しない。この場合、各斜交糸10,14が下水管の円周方向および長手方向と一致する場合と比較して、外力に対する強度が高められる。
【0030】
また、本実施形態の不織布1は、製織工程が必要な織布とは異なり、経糸と緯糸とを上下に交差させる必要がないため、織布と比較して生産速度を格段に向上することができる。
【0031】
次に、図5および図6を用いて、本実施形態の不織布1の製造方法を説明する。図5は、斜交糸および緯糸を形成している状態の不織布製造装置30を示す平面図であり、図6は、経糸を形成している不織布製造装置30の側面図である。
【0032】
不織布製造装置30は、主として、図5中のX方向に循環するコンベア34と、このコンベア34の進行方向に対して角度αの傾きをもってコンベア34の上方に架設された2本1組のガイド36a,36bと、コンベア34の進行方向に対して角度(180−α)の傾きをもって架設されたガイド38a,38bと、X方向と平行な状態を保ちながらガイド36a,36bおよびガイド38a,38bに沿って各々往復動するトラバース具40,42と、から構成されている。
【0033】
コンベア34の進行方向に向かって左端(図5中上縁)には、複数の糸掛け用ピン32aが立設された第1ピン配列ライン33aが設けられ、コンベア34の進行方向に向かって右端(図5中下端)には、複数の糸掛け用ピン32bが立設された第2ピン配列ライン33bが設けられている。さらに、トラバース具40,42には、斜交糸10,14および緯糸6,18とされるガラス繊維束と熱融着樹脂繊維とが挿通される複数のガイド管44,46が、コンベア34の糸掛け用ピン32a,32bと等ピッチで複数配列されている。
【0034】
図6に示されているように、コンベア34の図中左方には、コンベア34に供給するためのポリエステル製の経糸2,22がそれぞれ巻回された経糸用ローラ48,50が配置されている。また、ガイド38a,38bの図中右方には、熱ローラ52およびプレスローラ54が設けられている。
【0035】
かかる構成の不織布製造装置30によって不織布1を製造するには、まず、コンベア34上に斜交糸10,14および緯糸6,18から成る集合体56を作製する。詳しくは、コンベア34を図5のX方向に循環させ始めるとともに、ガラス繊維束をトラバース具40,42のガイド管44,46に挿通して、当該トラバース具40,42の往復動を開始させる。トラバース具40,42が方向転換する際に、各ガラス繊維束を糸掛け用ピン32a,32bに引っ掛ける。これにより、コンベア34上に斜交糸10,14および緯糸6,18を張架することができる。なお、ガラス繊維束に混ぜて熱融着樹脂繊維をガイド管44,46に挿通させることで、斜交糸10,14および緯糸6,18に当該熱融着樹脂繊維26を含ませることができる。
【0036】
以下、斜交糸10,14および緯糸6,18から成る集合体56の形成過程をより詳細に説明する。任意の糸掛け用ピン32aに所定のガイド管44を通されたガラス繊維束を掛け終えたトラバース具40が、第2ピン配列ライン33bの上方まで到達したときに、上記任意の糸掛け用ピン32aと対向する位置にある糸掛け用ピン32bが、上記所定のガイド管44の下方に位置するようにコンベア34およびトラバース具40の移動速度を制御することで、コンベア34上に緯糸18を張架することができる。その後、トラバース具40を第1ピン配列ライン33a側に移動させることで、斜交糸14をコンベア34上に張架することができる。この際、斜交糸14が図5中のX方向に対して−45度傾くように、コンベア34およびトラバース具40の移動速度ならびに角度αを調整する。なお、角度αを調整することで、X方向に対する斜交糸10の角度を−60度等に適宜変更することができる。
【0037】
一方、緯糸6を張架するには、任意の糸掛け用ピン32bに所定のガイド管46を通されたガラス繊維束を掛け終えたトラバース具42が、第1ピン配列ライン33aの上方まで到達したときに、上記任意の糸掛け用ピン32bと対向する位置にある糸掛け用ピン32aが、上記所定のガイド管46の下方に位置するようにコンベア34およびトラバース具42の移動速度を制御する。その後、トラバース具42を第2ピン配列ライン33b側に移動させることで、斜交糸10をコンベア34上に張架することができる。この際、斜交糸10が図5中のX方向に対して45度傾くように、コンベア34およびトラバース具42の移動速度ならびに角度αを調整する。そして、以上の動作を繰り返すことにより、コンベア34上に集合体56を形成することができる。
【0038】
以上のようにして集合体56を形成した後、図6に示すように、集合体56を上下から挟み込むように、経糸用ローラ48,50からコンベア34側にそれぞれポリエステル製の経糸2,22を供給して、集合体56と経糸2,22とから成る組合体60を形成する。その後、組合体60は、熱ローラ52に密着して各糸掛け用ピン32a,32bから外され、熱ローラ52によって所定の温度に加熱される。この際、斜交糸10,14および緯糸6,18に含まれる熱融着樹脂繊維が溶融する。そして、組合体60がプレスローラ54によって熱ローラ52に押さえ付けられることによって各糸同士が圧着され、本実施形態の不織布1が完成する。なお、経糸2,22は、熱融着樹脂が溶融する温度でも溶けない糸とする。
【0039】
また、以上のようにして不織布1を製造した後に、返し付きの針等によって、いわゆるニードリング処理を施すことが好ましい。このような処理を施した場合、各糸を形成する繊維がばらけて嵩高まりとなり、不織布1に含浸させる紫外線硬化性樹脂の量を増加させることができる。これにより、不織布1を用いて作製する円筒状の内張り材の厚みが高まり、漏水をより確実に防止することができる。
【0040】
また、斜交糸10,14および緯糸6,18に含まれる熱融着樹脂繊維26によって重なり合う各層同士を接着するのではなく、各糸の交点に別途塗布した熱融着樹脂によって各層を接着してもよい。
【0041】
[第2実施形態]
次に、図7を参照して、本発明に係る不織布の第2実施形態を説明する。本実施形態の不織布61は、第一経糸層4、第一斜交糸層12、第二斜交糸層16、および第二経糸層24から構成されており、第1実施形態の不織布1と異なり緯糸層は設けられていない。すなわち、本実施形態の不織布61は、いわゆる3軸不織布とされている。かかる3軸不織布は、上述した不織布製造装置30のガイド36a,36bおよびガイド38a,38bの角度αを調節することで製造することができる。また、ガイド36a,36bまたはガイド38a,38bの一方のみを使用し、そのガイドの角度αを90度にしても、3軸不織布を形成することができる。
【0042】
なお、経糸層4,24の経糸2,22は、第1実施形態と同様にポリエステルによって形成されている。このため、本実施形態の不織布61によって第1実施形態と同様に布筒を形成すれば、内部から空気圧等を加えた際に、経糸2,22が延びて当該布筒が容易に径方向に膨張する。これにより、布筒に紫外線硬化性樹脂を含浸させて形成した筒状の内張り材は、下水管等の内面に隙間なく密着し、内張り材を下水管に対して強固に固定することができる。
【0043】
また、このような3軸不織布である不織布61によれば、2軸不織布と比較して、紫外線硬化性樹脂等の含浸量を増加させることができるため、FRP等の強化材として使用した場合にその強度を高くすることができる。また、下水管等の破損対策用の内張り材として用いる場合は、2軸不織布と異なり、斜交糸10および斜交糸14の2本の斜交糸があるため、外力に対する強度を高めることができる。
【0044】
[第3実施形態]
次に、図8を参照して、本発明に係る不織布の第3実施形態を説明する。本実施形態の不織布71は、第一経糸層4および第一斜交糸層12から構成されており、第1実施形態と異なって斜交糸層は一層のみ設けられ、緯糸層は設けられていない。すなわち、本実施形態の不織布71は、いわゆる2軸不織布とされている。かかる2軸不織布は、上述した不織布製造装置30のガイド36a,36bに沿って摺動するトラバース具40を用いず、ガイド38a,38bに沿って摺動するトラバース具42のみを用いることで製造することができる。より詳しくは、トラバース具42が図5中上側から下側に移動して第2ピン配列ライン33b上へ到達するたびに斜交糸10を切断し、切断後にトラバース具42を第1ピン配列ライン33a側に戻すという作業を繰り返せばよい。
【0045】
なお、第一経糸層4の経糸2は、第1実施形態および第2実施形態と同様にポリエステルによって形成されている。このため、本実施形態の不織布61によって上記各実施形態と同様に布筒を形成すれば、内部から空気圧等を加えた際に、経糸2が延びて当該布筒が容易に径方向に膨張する。これにより、布筒に紫外線硬化性樹脂を含浸させて形成したパイプは、下水管等の内面に隙間なく密着し、パイプを下水管に対して強固に固定することができる。
【0046】
【実施例】
本発明の不織布について、さらに具体的な実施例を用いて説明する。なお、各実施例および比較例では経糸方向の伸びを測定し、その結果を表1に示した。
【0047】
[実施例1]
実施例1では、第1実施形態に対応する4軸不織布を作製した。経糸2,22には、番手が1000デニール(d)で、可延性のポリエステル繊維を使用した。また、経糸2,22はそれぞれピッチ10.6mmで配列し、さらに、経糸2と経糸22とは半ピッチづつずらした。また、緯糸6,18および斜交糸10,14には、番手が1100テックス(Tex)の耐酸性ガラス繊維を使用した。また、緯糸6,18および斜交糸10,14はそれぞれピッチ10.6mmで配列し、さらに、緯糸6と緯糸18はそれぞれ半ピッチづつずらし、斜交糸10と斜交糸14もそれぞれ半ピッチづつずらした。さらに、各糸を接着させて不織布を形成した後に、ニードリング処理を施して繊維をばらけさせた。
【0048】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同様に4軸不織布を作製した。本実施例が実施例1と異なるのは、経糸2および経糸22の番手であり、ともに500デニールとした。
【0049】
[実施例3]
実施例3では、第2実施形態に対応する3軸不織布を作製した。経糸2,22には、番手が1000デニール(d)で、可延性のポリビニルアルコール繊維を使用した。また、経糸2,22はそれぞれピッチ10.6mmで配列し、さらに、経糸2と経糸22とは半ピッチづつずらした。また、斜交糸10,14には、番手が1100テックス(Tex)の耐酸性ガラス繊維を使用した。また、斜交糸10,14はそれぞれピッチ10.6mmで配列し、さらに、斜交糸10と斜交糸14はそれぞれ半ピッチづつずらした。さらに、各糸を接着させて不織布を形成した後に、ニードリング処理を施して繊維をばらけさせた。
【0050】
[比較例]
比較例では、ガラス繊維の織物を作製し、経糸には、番手1100テックスのガラス繊維を使用し、緯糸には番手570テックスのガラス繊維を2本纏めて使用した。また、経糸および緯糸は、ともに6本/25mmのピッチで配列させた。
【0051】
[実施例と比較例の対比]
表1は、各実施例の不織布および比較例の織物について、経糸方向に引張り荷重(1kg/25mm)を加えた際の伸びを示している。
【0052】
【表1】
Figure 0003661181
【0053】
この表から分かるように、ガラス繊維の織物である比較例では、0.15%しか経糸方向に伸びなかったが、実施例1〜3では、0.80%以上伸びた。これにより、経糸が下水管等の円周方向に沿うように実施例1〜3の不織布を巻いて円筒状の内張り材を形成すれば、内張り材の内部から圧力を加える際に、内張り材が径方向に容易に膨張することが分かる。この結果、内張り材が下水管等の内面に隙間なく密着することになる。一方、比較例のガラス繊維の織物を使用して同様に内張り材を形成しても、縦方向の伸びが小さいため、内張り材は径方向に殆ど膨張しないことになる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の不織布、布筒及び内張り材を形成する方法によれば、各種管の内張り材として径方向に容易に膨張させることができ、且つ、内張り材としての強度を高くすることができ、さらに、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る不織布の第1実施形態を示す図である。
【図2】図1に示す不織布の斜視図である。
【図3】第1実施形態の不織布の斜交糸および熱融着樹脂繊維を示す斜視図である。
【図4】第1実施形態の不織布を巻回して作製した布筒を示す斜視図である。
【図5】不織布製造装置を示す平面図である。
【図6】図5に示す不織布製造装置の側面図である。
【図7】本発明に係る不織布の第2実施形態を示す図である。
【図8】本発明に係る不織布の第3実施形態を示す図である。
【符号の説明】
1,61,71…不織布、1a…布筒、2…経糸(第1の繊維糸)、4…第一経糸層(第1繊維糸層)、6…緯糸(第4の繊維糸)、8…第一緯糸層(第4繊維糸層)、10…斜交糸(第2の繊維糸)、12…第一斜交糸層(第2繊維糸層)、14…斜交糸(第3の繊維糸)、16…第二斜交糸層(第3繊維糸層)、18…緯糸、20…第二緯糸層、22…経糸、24…第二経糸層、26…熱融着樹脂繊維、30…不織布製造装置、33a,33b…ピン配列ライン、34…コンベア、40,42…トラバース具、44,46…ガイド管、48,50…経糸用ローラ、52…熱ローラ、54…プレスローラ、56…集合体、60…組合体。

Claims (7)

  1. 第1の繊維糸が複数並列されて成る第1繊維糸層と、
    前記第1の繊維糸と斜交する第2の繊維糸が複数並列されて成る第2繊維糸層と、
    前記第2の繊維糸と反対方向から前記第1の繊維糸に斜交する第3の繊維糸が複数並列されて成る第3繊維糸層と、を備え、
    前記第1の繊維糸は、可延性の有機繊維から形成され、
    前記第2の繊維糸及び前記第3の繊維糸は、強化繊維を含んで形成され
    前記第1の繊維糸が前記第2の繊維糸及び前記第3の繊維糸よりも延伸することを特徴とする不織布。
  2. 前記第1の繊維糸に直交する第4の繊維糸が複数並列されて成る第4繊維糸層をさらに備え
    前記第4の繊維糸は、強化繊維を含んで形成され、
    前記第1の繊維糸が前記第4の繊維糸よりも延伸することを特徴とする請求項記載の不織布。
  3. 重なり合う前記各繊維糸層は、熱融着樹脂によって接着されていることを特徴とする請求項1又は2記載の不織布。
  4. 前記第2の繊維糸は、強化繊維と熱融着樹脂繊維とから成ることを特徴とする請求項1記載の不織布。
  5. ニードリング処理が施されていることを特徴とする請求項1〜のうち何れか1項記載の不織布。
  6. 請求項1〜5のうち何れか1項に記載の不織布を円筒状に巻いて形成された布筒であって、
    前記第1の繊維糸の巻回方向が当該布筒の周方向に沿っていることを特徴とする布筒。
  7. 内張り材を管内部に形成する方法であって、
    請求項6に記載の布筒を用意し、
    前記布筒に反応性硬化樹脂を含浸させ、
    前記布筒を前記管の内部に挿入し、
    前記布筒を径方向に膨張させて前記管の内面に圧着し、
    前記布筒に含浸させた前記反応硬化型樹脂を硬化させることを特徴とする方法。
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