JP3659158B2 - 遊星歯車減速装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遊星歯車減速装置に係わり、特に遊星歯車の軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、エンジン始動用のスタータに用いられる遊星歯車減速装置では、軸受を介してキャリアピンに回転自在に支持された遊星歯車を具備し、その遊星歯車が太陽歯車と内歯歯車とに噛み合い、太陽歯車の回転を受けて回転(自転)しながら太陽歯車の周囲を公転している。従って、遊星歯車の軸受は、遊星歯車の回転(自転)によってキャリアピンに対し高速回転し、且つ遊星歯車の公転運動による遠心力を受けている。このため、軸受には、耐荷重性と潤滑性の保持が要求される。
この軸受として、従来からオイルレスベアリングとかニードルベアリングが使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、オイルレスベアリングは、遊星歯車の公転運動によってオイルやグリスが飛散してしまい、潤滑保持が困難である。
そこで、オイルレスベアリングのオイル切れを延ばすために保油フェルトを具備した軸受装置(実開昭63−164621号参照)が提案されているが、この軸受装置では、軸受部材以外に保油フェルトを使用するために部品点数が増加し、更に軸受ケーシングに保油フェルトを保持するための保油部を設ける必要があり、構造が複雑になるため、コストが増大する。
一方、ニードルベアリングは、オイルレスベアリングと比較して高価である。
【0004】
なお、遊星ギヤの組付け性を向上させるために、オイルレスベアリングの端部に面取りを施したものもあるが、面取りがテーパ形状であることから、遠心力でオイルやグリスが飛散してしまうため、面取りを設けることでは潤滑保持の効果は得られない。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、構造が簡単であり、低コストで潤滑保持できる軸受構造を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
(請求項1の手段)
遊星歯車の軸受は、すべり軸受であり、少なくとも軸方向他端側端部の内周面に凹部が設けられ、この凹部がキャリアピンの外周面との間にグリス溜まりを形成している。
この構成によれば、軸受に設けられた凹部の内周面(キャリアピンの外周面と対向する面)がグリスの飛散を防止する防御壁として機能する。その結果、遊星歯車の回転時(公転及び自転)に、グリス溜まりに充填されているグリスが飛散することなく、軸受とキャリアピンとの間、及び軸受の軸方向他端側端面とスラスト受け面を形成するカバーとの間に入り込んで潤滑することができる。
また、軸受は、前記凹部の軸方向寸法が、キャリアピンの他端側端面とカバーとの間に確保される軸方向隙間より大きく設けられている。これにより、軸受がスラスト隙間分だけカバー側へ移動した時でも、軸受の内周面全体がキャリアピンの外周面に摺接できる。つまり、軸受の内周面の一部がキャリアピンの外周面から外れることがないので、キャリアピンに対する軸受の片当たりを防止でき、軸受の内周面及びキャリアピンの局部的な摩耗を回避できる効果もある。
【0006】
(請求項2の手段)
遊星歯車の軸受は、すべり軸受であり、軸方向端部の内周面に凹部が設けられ、この凹部がキャリアピンの外周面との間にグリス溜まりを形成している。
この構成によれば、軸受に設けられた凹部の内周面(キャリアピンの外周面と対向する面)がグリスの飛散を防止する防御壁として機能する。その結果、遊星歯車の回転時(公転及び自転)に、グリス溜まりに充填されているグリスが飛散することなく、軸受とキャリアピンとの間、及び軸受の軸方向端面とスラスト受け面との間に入り込んで潤滑することができる。
また、軸受は、遊星歯車に圧入された後、遊星歯車からの抜け止めのために端部がかしめられることにより、凹部の内周面が内径側へ変形している。この場合、凹部の内周面とキャリアピンの外周面との間隔(半径方向の隙間)が、凹部の内部から出口へ向かって次第に小さくなる(凹部の出口が狭くなる)ため、グリスの飛散を防止できる効果が高くなる。
【0007】
(請求項3の手段)
請求項1または2に記載した遊星歯車減速装置において、
軸受は、軸方向両端部の内周面にそれぞれ凹部が設けられている。この場合、軸受の両側の凹部にそれぞれグリスを保持できるので、片側の端部のみに凹部を設けた場合より潤滑保持の効果が大きいと言える。
また、遊星ギヤの組付け時に、軸受の組付け方向を特定する必要がないので、片方の端部のみに凹部を設けた軸受と比較して組付け性の点で有利である。
【0008】
(請求項4の手段)
請求項1〜3に記載した何れかの遊星歯車減速装置は、エンジンを始動するためのスタータに用いられ、駆動軸であるアーマチャシャフトの回転を減速して、被駆動軸であるピニオンシャフトに伝達することを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の遊星歯車減速装置をスタータに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は遊星歯車減速装置の断面図、図2はスタータの半断面図である。
スタータ1は、図2に示す様に、回転力を発生する始動モータ2と、この始動モータ2の通電回路に設けられたモータ接点(図示しない)を開閉するマグネットスイッチ3と、始動モータ2の回転を減速する遊星歯車減速装置(後述する)と、この減速装置を介して始動モータ2の回転が伝達されるピニオンシャフト4と、このピニオンシャフト4の回転が一方向クラッチ5を介して伝達されるピニオンギヤ6等より構成される。
【0010】
始動モータ2は、アーマチャ7、固定磁極(永久磁石)8、ヨーク9、及びブラシ10等から構成される周知の直流電動機であり、キースイッチ(図示しない)がONされてマグネットスイッチ3のモータ接点が閉じると、ブラシ10を通じてアーマチャ7に通電されてアーマチャ7が回転する。
マグネットスイッチ3は、内蔵するプランジャ(図示しない)の移動に伴って前記モータ接点の開閉を行うとともに、プランジャを移動させる吸引力がレバー11を介して一方向クラッチ5に伝達される。
【0011】
減速装置は、図1に示す様に、アーマチャシャフト7aに設けられる太陽歯車12と、この太陽歯車12の径方向外周に設けられるリング状の内歯歯車13と、太陽歯車12と内歯歯車13とに噛み合い、軸受14を介してキャリアピン15に回転自在に支持される遊星歯車16と、キャリアピン15を具備するプラネットキャリア17等から構成される。なお、遊星歯車16は、周方向に複数個(例えば3個)配置されている。また、内歯歯車13は、ヨーク9の前端部に組み合わされるセンタハウジング18の内側に組み込まれ、そのセンタハウジング18に回転規制されている。但し、減速装置に過大トルクが加わった時に、内歯歯車13を回転させることで過大トルクを吸収する緩衝装置を設けても良い。
【0012】
この減速装置は、アーマチャ7が回転すると、遊星歯車16が太陽歯車12の回転を受けて回転(自転)しながら太陽歯車12の周囲を公転し、その公転運動がプラネットキャリア17を介してピニオンシャフト4に伝達される。
減速装置とアーマチャ7との間には、両者間を仕切る隔壁としてプレート状のカバー19が配設され、このカバー19が遊星歯車16の軸後方(図1の右方向)への移動を規制するスラスト受け面となる。
【0013】
ピニオンシャフト4は、図2に示す様に、アーマチャシャフト7aと同軸に設けられ、軸受20及び軸受21を介してフロントハウジング22とセンタハウジング18に回転自在に支持されている。また、ピニオンシャフト4の後端部には、前記のプラネットキャリア17が一体に設けられ、このプラネットキャリア17に複数本のキャリアピン15が圧入固定されている。このプラネットキャリア17は、遊星歯車16の軸前方(図1の左方向)への移動を規制するスラスト受け面となる。
【0014】
一方向クラッチ5は、ピニオンシャフト4の外周にヘリカルスプラインによって嵌合し、ピニオンシャフト4の回転をピニオンギヤ6に伝達するとともに、エンジンの始動によってピニオンギヤ6の回転速度がピニオンシャフト4の回転速度を上回ると、ピニオンシャフト4とピニオンギヤ6との間で動力の伝達を遮断する。
ピニオンギヤ6は、ピニオンシャフト4の外周に回転自在に、且つ摺動自在に嵌合し、一方向クラッチ5と共にピニオンシャフト4上を移動可能に設けられている。
【0015】
ここで、遊星歯車16の軸受14について説明する。
遊星歯車16の軸受14は、例えば焼結金属から成るすべり軸受で、内部にオイルが含浸され、遊星歯車16の内周面に圧入されている。
また、この軸受14には、図3(a)に示す様に、軸方向の両端内周面に凹部23が形成されている。この凹部23は、軸方向の端面から軸方向内部へ向かって所定の寸法Lだけ内径を拡大して設けられ、キャリアピン15の外周面との間にグリス溜まりを形成している。
【0016】
なお、上記の寸法Lは、キャリアピン15の端面とカバー19との隙間より大きく設けられ、軸受14がスラスト隙間分だけカバー19側へ移動しても、軸受14の内周面全体がキャリアピン15の外周面に摺接できる寸法に設定されている。
また、この軸受14は、遊星歯車16の内周面に圧入された後、遊星歯車16からの抜け止めとして両端部がかしめられており、その結果、図3(b)に示す様に、凹部23の内周面23aが出口側で内径側へ変形している。
【0017】
次に、スタータ1の作動を説明する。
キースイッチがONされると、マグネットスイッチ3のモータ接点が閉じてアーマチャ7に通電され、アーマチャ7が回転を始める。アーマチャ7の回転は、減速装置で減速されてピニオンシャフト4に伝達され、更にピニオンシャフト4から一方向クラッチ5を介してピニオンギヤ6に伝達される。
一方、マグネットスイッチ3の吸引力がレバー11を介して一方向クラッチ5に伝達されると、一方向クラッチ5と一体にピニオンギヤ6がピニオンシャフト4上を移動し、前方(図2の左方向)へ押し出される。
【0018】
押し出されたピニオンギヤ6は、エンジンのリングギヤ(図示しない)と噛み合ってリングギヤを回転させ、エンジンをクランキングさせる。
エンジンが始動した後、キースイッチがOFFされると、マグネットスイッチ3の吸引力が消滅するため、ピニオンギヤ6がリングギヤから離脱して一方向クラッチ5と一体にピニオンシャフト4上を移動し、静止位置(図2に示す位置)まで引き戻される。また、マグネットスイッチ3のモータ接点が開くことにより、アーマチャ7への電流が遮断されて、アーマチャ7の回転が停止する。
【0019】
(本実施例の作用及び効果)
本スタータ1に用いられる減速装置は、軸受14を支持するキャリアピン15と軸受14との間に潤滑性が要求されることは言うまでもなく、プラネットキャリア17とカバー19とが遊星歯車16の軸方向移動を規制するスラスト受け面となっているため、軸受14とプラネットキャリア17及びカバー19との間に相対回転が発生し、両者間(軸受14の両端面とプラネットキャリア17及びカバー19との間)にも潤滑性が要求される。
これに対し、遊星歯車16の軸受14にグリス溜まりとなる凹部23を設けているので、その凹部23に充填されているグリスが、軸受14とキャリアピン15との間に入り込んで両者間の潤滑を行い、且つ軸受14の両端面とプラネットキャリア17及びカバー19との間に入り込んで、それぞれの間の潤滑を行うことができる。
【0020】
ここで、軸受14に設けられた凹部23は、自身の内周面23aがグリスの飛散を防止する防御壁として機能する。その結果、遊星歯車16の回転時に、グリス溜まりに充填されているグリスの飛散を防止でき、グリス切れを抑制できるので、長期にわたり潤滑性を確保できる。
また、図3(b)に示した様に、遊星歯車16からの抜け止めとして軸受14の両端部をかしめることにより、凹部23の内周面23aが出口側で内径側へ変形しているので、凹部23の内周面23aとキャリアピン15の外周面との間隔が、凹部23の内部から出口へ向かって次第に小さくなり、グリスの飛散を防止できる効果がより高くなる。
【0021】
更に、本実施例の軸受14は、凹部23の寸法Lをキャリアピン15とカバー19との隙間より大きくし、軸受14がスラスト隙間分だけカバー19側へ移動した時(図1に示す状態)でも、軸受14の内周面全体がキャリアピン15の外周面に摺接できる様に設定されている。この場合、軸受14の内周面14a(図3参照)の一部がキャリアピン15の外周面から外れることがないので、キャリアピン15に対する軸受14の片当たりを防止でき、軸受14の内周面14a及びキャリアピン15の局部的な摩耗を回避できる効果もある。
なお、上記の実施例では、軸受14の両端部内周面にそれぞれ凹部23を設けているが、必ずしも軸方向の両側に凹部23を設ける必要はなく、軸方向の片側内周面のみに凹部23を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】減速装置の構造を示す拡大断面図である。
【図2】スタータの半断面図である。
【図3】遊星歯車と軸受の断面図であり、(a)はかしめ前の状態、(b)はかしめ後の状態を示す図面である。
【符号の説明】
1 スタータ
4 ピニオンシャフト(被駆動軸)
7a アーマチャシャフト(駆動軸)
12 太陽歯車
13 内歯歯車
14 軸受
15 キャリアピン
16 遊星歯車
17 プラネットキャリア
23 凹部
23a 凹部の内周面

Claims (4)

  1. 駆動軸の回転を受けて回転する太陽歯車と、
    この太陽歯車の外周に配される内歯歯車と、
    キャリアピンに軸受を介して回転自在に支持されると共に、前記太陽歯車と内歯歯車とに噛み合って、前記太陽歯車の回転を受けて回転しながら前記太陽歯車の周囲を公転する遊星歯車と、
    前記軸受の軸方向一端側より突き出る前記キャリアピンの一端側が固定されて、前記遊星歯車の公転運動を被駆動軸に伝達するプラネットキャリアと
    前記キャリアピンの他端側端面との間に所定の軸方向隙間を保って配置され、前記プラネットキャリアと共に、前記遊星歯車の軸方向移動を規制するスラスト受け面を形成するカバーとを備えた遊星歯車減速装置において、
    前記軸受は、前記キャリアピンに対して軸方向に移動可能に嵌合するすべり軸受であり、少なくとも軸方向他端側端部の内周面に凹部が設けられ、この凹部が前記キャリアピンの外周面との間にグリス溜まりを形成すると共に、前記凹部の軸方向寸法が、前記キャリアピンの他端側端面と前記カバーとの間に確保される前記軸方向隙間より大きく設けられていることを特徴とする遊星歯車減速装置。
  2. 駆動軸の回転を受けて回転する太陽歯車と、
    この太陽歯車の外周に配される内歯歯車と、
    前記太陽歯車と内歯歯車とに噛み合って、前記太陽歯車の回転を受けて回転しながら前記太陽歯車の周囲を公転する遊星歯車と、
    軸受を介して前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアピンを具備し、前記遊星歯車の公転運動を被駆動軸に伝達するプラネットキャリアと
    を備えた遊星歯車減速装置において、
    前記軸受は、すべり軸受であり、軸方向端部の内周面に凹部が設けられ、この凹部が前記キャリアピンの外周面との間にグリス溜まりを形成すると共に、前記遊星歯車に圧入された後、前記遊星歯車からの抜け止めのために端部がかしめられることにより、前記凹部の内周面が内径側へ変形していることを特徴とする遊星歯車減速装置。
  3. 請求項1または2に記載した遊星歯車減速装置において、
    前記軸受は、軸方向両端部の内周面にそれぞれ前記凹部が設けられていることを特徴とする遊星歯車減速装置。
  4. 請求項1〜3に記載した何れかの遊星歯車減速装置は、エンジンを始動するためのスタータに用いられ、前記駆動軸であるアーマチャシャフトの回転を減速して、前記被駆動軸であるピニオンシャフトに伝達することを特徴とする遊星歯車減速装置。
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