JP3654939B2 - ドライバジャイナ治療剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体及びその酸付加塩を有効成分とするドライバジャイナ治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、膣口及び外陰部には各種の脂腺、汗腺、バルトリン腺等があり、脂、汗、粘液等が分泌されることにより湿潤が保たれている。ところが、膣あるいは外陰部において異常乾燥を呈することがあり、その状態によって引き起こされる種々の病態をドライバジャイナ(dry vagina)と称している。一般的に、膣の乾燥の原因はエストロゲンの低下に基づくものである。すなわち、閉経あるいは卵巣の外科的削除による卵巣欠落症候群である。さらに、近年、子宮内膜症に対して用いられるようになったゴナドトロピン放出ホルモンアナログの長期にわたる使用によってもエストロゲンの低下が認められている。また、膣の感染症あるいは外陰部の炎症性病変も、しばしば膣の違和感の原因となる。そして、これらの病因とは別に、原因不明あるいはシェーグレン症候群による膣の乾燥もある。
【0003】
ドライバジャイナは膣の乾燥感を訴えるものであるが、実際の症状としては性交時痛、または外陰部違和感、すなわち外陰部掻痒、外陰部痛などが見られる。他覚所見としては、外陰部、特に膣前庭から会陰部にかけての発赤、会陰部表面の裂創などが認められる。膣部においては、粘膜が菲薄化し、軽度充血し、器具などの擦過で容易に出血する。膣の乾燥において、外陰部あるいは会陰部の性交時痛に対しては、症状が少しでも見られた場合、できるだけ早く治療することが必要とされている。すなわち、乾燥を放置したまま性交を繰り返すことにより、外陰部の裂傷などを悪化させる場合があるばかりでなく、いわゆる性交障害、膣痙の原因にもなるためである。
【0004】
このドライバジャイナの治療法としては、エストロゲンの低下による場合、エストロゲンの投与が行われるが、ホルモン剤特有の副作用が問題となる。また、原因が不明の場合、乾燥症状を和らげる目的で、ステロイド軟膏や各種の潤滑剤が用いられているが、ステロイド軟膏は皮膚萎縮や真菌誘発をもたらすことがあるので限られた条件でしか用いることができず、また、潤滑剤も頻繁な適用が必要であり、膣の自浄作用を損なったり、アレルギーの発生が見られるなどの問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、副交感神経系、すなわち、コリン作働系受容体研究の最近の進歩を利用して、外分泌腺に作用し、特にムスカリン性M3 型受容体を刺激することによって膣及び外陰部での各種分泌液の分泌を促進することにより、広範囲な副作用を持たず、極めて毒性が少ないドライバジャイナ治療剤を提供し、ドライバジャイナ患者の苦痛を改善することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、種々の化合物を合成し検討したところ、一般式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体またはその酸付加塩が優れた効力を現わすことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、次の一般式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体またはその酸付加塩を有効成分とするドライバジャイナ治療剤に関する。
【0007】
【化3】
(式中、R1 及びR2 は、同一であっても異なるものであってもよく、各々水素、アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリール又はジアリールメチロール、又は1つ以上のアリール基で置換されたアルキルである。)
【0008】
本発明の前記式(I)で表される化合物中のアルキルには、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが用いられ、アリールには、フェニルなどが用いられる。なお、これらの化合物は、特開昭 61-280497号公報に開示されており、公知の化合物である。そして、これらの化合物のうち、本発明で使用されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体としては、次のような化合物を例示することができる。
【0009】
2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′) キヌクリジン
2−ジフェニルメチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′) キヌクリジン
2−メチル−2−フェニルスピロ (1,3−オキサチオラン−5.3′)キヌクリジン
【0010】
これらの化合物は、幾何学的異性体、鏡像体、ジアステレオマー、あるいはラセミ体を持つ。本発明では、これらの化合物を全て含むものである。また、酸付加塩には、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸などの無機酸あるいは有機酸との酸付加塩がある。
【0011】
本発明のスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体の製造は、前記した特開昭 61-280497号公報に記載されている方法、例えば、3−ヒドロキシ−3−メルカプトメチルキヌクリジンを、式R1 −CO−R2 (R1 及びR2 は前記と同様の基を示す)で表されるカルボニル化合物と反応させ、反応混合物から目的化合物を単離することによって容易に製造することができる。また、これらの化合物から光学異性体あるいはその他の異性体を単離するには、同公報あるいは特開平 2-22280号公報に記載される方法によって行うことができる。
【0012】
本発明におけるキヌクリジン誘導体のうち、次の化学式(II)で示される2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′)キヌクリジン塩酸付加塩、特に、シス体あるいはシス体及びトランス体の混合物であって、そのシス体含量を多く含む化合物が治療効果が高いので好ましい。
【0013】
【化4】
【0014】
本発明のドライバジャイナ治療剤を病態の治療のために投与する場合、前記式(I)で表される化合物を主成分とし、単独あるいは薬理的に許容される医薬製剤担体などと配合し、経口的、非経口的、局所的又は直腸的な使用に適した製剤組成物、例えば、カプセル剤、錠剤、粉末包装剤、顆粒剤、注射剤、軟膏、坐剤などの形態で投与される。
【0015】
経口的使用に適した製剤としては、例えば、カプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、トローチのような固形組成物、シロップ、懸濁液のような液状組成物などが挙げられる。なお、カプセル剤、錠剤、顆粒剤などの経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などを用いて常法に従い製造される。また、この種の製剤には、適宜、前記した賦形剤の他に、以下に例示したような結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを使用することができる。
【0016】
〔結合剤〕デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール(商品名)。
【0017】
〔崩壊剤〕デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース。
【0018】
〔界面活性剤〕ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80(商品名)。
【0019】
〔滑沢剤〕タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール。
【0020】
〔流動性促進剤〕軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム。
【0021】
また、前記式(I)で表される化合物は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができるし、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。そして、これらの製剤については、有効成分として前記式(I)で表される化合物を1〜95重量%含むことが望ましい。
【0022】
非経口的使用に適した製剤としては、例えば、注射剤などが挙げられる。この非経口剤は常法に従い製造される。なお、希釈剤として、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを用いることができるし、必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤などを加えてもよい。注射剤は、安定性の点を考慮するとバイアルなどに充填した後、冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製する形態のものが望ましく、その場合、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤などを加えてもよい。また、注射剤として、例えば、前記式(I)で表される化合物を塩の形で通常の注射用蒸留水などに溶かしてもよいし、医学上許容される油又は液体の混合物中で懸濁液又はエマルジョンのような注射可能な形態にしてもよく、その場合、ベンジルアルコールのような抗菌剤、アスコルビン酸のような抗酸化剤、緩衝剤、浸透圧調節用試薬、溶解補助剤などを含有させてもよい。そして、この注射剤については、前記式(I)で表される化合物を 0.1〜5重量%含むことが望ましい。この注射剤は、静注、動注、筋注、あるいは皮下注射の形で用いることができる。
【0023】
局所的又は直腸的使用に適した製剤としては、例えば、軟膏や坐剤などが挙げられる。軟膏は、通常使用される基剤などを添加し、常法に従い調製される。そして、前記式(I)で表される化合物を 0.5〜30重量%含むことが望ましい。また、坐剤も常法に従い調製され、通常使用される製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ油脂、脂肪酸トリグリセライドなどを含有させてもよい。そして、前記式(I)で表される化合物を1〜95重量%含むことが望ましい。
【0024】
上記の経口的、非経口的、局所的又は直腸的使用に適した製剤組成物については、公知の方法により、患者に投与後、活性成分が急速に放出されるように、徐放的に放出されるように、あるいは遅れて放出されるように、それぞれ製剤化することができる。
【0025】
本発明のドライバジャイナ治療剤の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的及びこの治療剤を適用する患者の年齢、体重、病状に応じて、適宜、設定され一定ではないが、一般的に製剤中に含有される有効成分の量が成人一人当たり、約1mg〜約1gの範囲が適当である。製剤中に含有される有効成分の量は、この投与量に従って、適宜、設定される。なお、この治療剤の投与については、必要に応じて、一日数回に分けて行うことも可能である。
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【試験例】
卵巣摘出ラットの膣口及び外陰部での分泌促進作用
前記式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体の効果について、ウイスター(Wister)系雌性ラット、1群5匹を用い薬理活性試験を実施した。試験に用いるラットの両側の卵巣を予め摘出し、卵巣摘出3カ月後のラットに、前記式(II)で表されるシス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′) キヌクリジン塩酸付加塩を0mg/kg、1mg/kg、5mg/kg及び25mg/kg の割合で経口的に投与した。なお、投与直前に各ラットの膣内、膣口及び外陰部の分泌液を綿棒で取り除いておいた。投与30分後及び60分後に、ペントベルピタールナトリウム麻酔下にて各ラットを保定器に固定し、予め重量を測定しておいた綿棒を膣内に挿入して1分間保持した。そして、1分後、膣内、膣口及び外陰部の分泌液を採取した綿棒の重量を直ちに測定し、分泌液の重量を算出した。併せて、卵巣を摘出しない無処置群についても同様の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
この結果、前記式(II)で表されるシス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′) キヌクリジン塩酸付加塩を投与することにより、卵巣摘出ラットの膣、膣口及び外陰部での分泌液量が増加することが判った。
【0029】
【実施例】
製剤例1 カプセル剤
シス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′)キヌクリジン塩酸付加塩10g、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)20g、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(架橋CMC−Na)5g及びステアリン酸マグネシウム2gに乳糖を加えて全量を 100gとした。これを均一になるよう混合し、カプセル充填機を用い3号カプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0030】
製剤例2 錠剤
シス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′)キヌクリジン塩酸付加塩20g、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)10g、結晶性セルロース15g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)10g及びステアリン酸マグネシウム1gに乳糖を加えて全量を 100gとした。これを常法に従い、打錠して1錠150mg の錠剤を製造した。
【0031】
製剤例3 注射剤
シス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′)キヌクリジン塩酸付加塩1g及びブドウ糖10gに注射用蒸留水を加えて全量を 200mlとし、加熱殺菌し、2ml容のアンプルに充填して注射剤を製造した。
【0032】
【発明の効果】
シス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′)キヌクリジン塩酸付加塩などのスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体またはその酸付加塩を用いることにより、閉経または卵巣の外科的切除による卵巣欠落症候群、薬剤投与などによるエストロゲンの低下、膣の感染症、外陰部の炎症性病変及びシェーグレン症候群などに起因するドライバジャイナを治療することができる。さらに、原因不明のドライバジャイナの病態を改善ないし治療することも可能である。
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- 2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3′) キヌクリジン塩酸付加塩がシス体である請求項2記載の治療剤。
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