JP3653184B2 - 生分解性射出成形ヘルメット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械特性・耐衝撃性などが改善され、かつ廃棄性に優れた生分解性射出成形ヘルメットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性樹脂からなる成形品が求められ、脂肪族ポリエステルなどの自然分解性樹脂による研究が活発に行われている。
その一例として、ポリ乳酸がある。ポリ乳酸は、融点が150〜180℃と比較的高く、しかも透明性に優れる為、成形用材料として期待されている。しかし、ポリ乳酸は、その剛直な分子構造の為に、強度は高い一方、耐衝撃性に劣り脆いという欠点がある。
【0003】
又、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルは、一般に柔軟性・耐衝撃性に優れているが、ポリ乳酸に比べ低く融点60〜110℃、ガラス転移温度も室温以下で結晶性も高い為不透明であり、強度も低い。
このように、現在市販されているいずれの生分解性樹脂も、単独ではそれぞれ欠点を有し、機械特性のバランスに優れた成形品が得られていないのが現状であり、改良が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、機械特性・耐衝撃性などが改善され、かつ廃棄性に優れ、十分な強度をもち合わせた生分解性射出成形ヘルメットを提供する事にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討の結果、ポリ乳酸とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル及び/又は脂肪族ポリエステルカーボネートを用いる事により、生分解性を保持しつつ、強度・耐衝撃性を有する、特にヘルメットの帽体材料として使用し得る十分な強度をもち合わせた生分解性射出成形品が得られる事を見いだした。
すなわち、本発明は、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)及び/又は脂肪族ポリエステルカーボネート(C)からなる生分解性射出成形ヘルメットである。
【0006】
本発明において、ポリ乳酸(A)とは、実質的にL−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位のみで構成されるポリマーである。ここで「実質的に」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸またはD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良いという意味である。
【0007】
ポリ乳酸(A)の製造方法としては、既知の任意の重合方法を採用する事ができる。最も代表的に知られているのは、乳酸の無水環状二量体であるラクチドを開環重合する方法(ラクチド法)であるが、乳酸を直接縮合重合しても構わない。また、分子量としては、重量平均分子量で、50, 000〜1, 000, 000の範囲が好ましい。かかる範囲を下回ると機械物性等が十分発現されず、上回る場合は加工性に劣る。
ポリ乳酸(A)が、L−乳酸及び/又はD−乳酸に由来するモノマー単位だけからなる場合には、重合体は結晶性で高融点を有する。しかも、L−乳酸、D−乳酸由来のモノマー単位の比率(L/D比と略称する)を変化させることにより、結晶性・融点を自在に調節する事ができるので、用途に応じ、実用特性を制御する事を可能にする。
【0008】
本発明において、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)とは、例えば脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分からなるポリマーである。
脂肪族ポリエステル(B)の製造方法としては、これらを直接重合して高分子量物を得る方法と、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤等で高分子量物を得る間接的な方法がある。本発明に使用される脂肪族ポリエステル(B)は、ジカルボン酸とジオールからなる事が好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸などの化合物、又はこれらの無水物や誘導体が挙げられる。一方、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコール系化合物、及びこれらの誘導体が一般的である。いずれも炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基をもつ化合物で、縮重合により製造される。カルボン酸成分或いはアルコール成分のいずれにおいても、2種以上用いても構わない。
【0009】
又、溶融粘度の向上の為ポリマー中に分岐を設ける目的で3官能以上のカルボン酸、アルコール或いはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。
これらの成分は、多量に用いると得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性でなくなったり、熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造をもったミクロゲルを生じる場合がある。従って、これら3官能以上の成分は、ポリマー中に含まれる割合はごくわずかで、ポリマーの化学的性質、物理的性質を大きく左右するものではない程度に含まれる。
多官能成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸或いはペンタエリスリットやトリメチロールプロパンなどを用いる事が出来る。製造方法のうち、直接重合法は、上記の化合物を選択して化合物中に含まれる、あるいは重合中に発生する水分を除去しながら高分子量物を得る方法である。又、間接重合法としては、上記化合物を選択してオリゴマー程度に重合した後、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を使用して高分子量化する。
【0010】
本発明における脂肪族ポリエステルカーボネート(C)とは、脂肪族2塩基酸および/またはその誘導体、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/またはヒドロキシカルボン酸化合物を反応させて得られる数平均分子量10,000以下の脂肪族ポリエステルオリゴマーと、カーボネート化合物とを反応させて得られるカーボネート単位含有量が少なくとも5モル%以上であり、重量平均分子量が少なくとも100,000で、温度190℃、荷重60kgにおける溶融粘度が2,000〜50,000ポイズで、融点が70〜180℃であることを特徴とする。
【0011】
本発明による脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の製造方法は、脂肪族2塩基酸および/またはその誘導体と脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/またはヒドロキシカルボン酸化合物とから脂肪族ポリエステルオリゴマーを得る第1工程、および脂肪族ポリエステルオリゴマーとカーボネート化合物を反応させ脂肪族ポリエステルカーボネート(C)を得る第2工程より構成される。
第1工程は、触媒の存在下、温度100〜250℃で、反応に伴って副生する水及び過剰のジヒドロキシ化合物を除去しながら、数平均分子量10,000以下のポリエステルオリゴマーを製造する工程である。反応を促進する目的で300mmHg以下の減圧とすることが好ましい。
第2工程は、第1工程で得られたポリエステルオリゴマーとカーボネート化合物を反応させて高分子量体とする工程であり、触媒の存在下、通常150〜250℃で行われ、反応に伴って副成するヒドロキシ化合物が除去される様に減圧度を調節して最終的には3mmHg以下の減圧とすることが好ましい。
【0012】
脂肪族ポリエステルカーボネート(C)中のカーボネート単位含有量は、脂肪族ポリエステルオリゴマーの末端水酸基量を制御することにより所望の割合とすることができる。カーボネート単位含有量が多すぎると、得られる脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の融点が低くなり、実用的耐熱性を有するポリマーが得られない。一方、カーボネート単位含有量が多くなると微生物による分解性が高くなる。従って、カーボネート単位含有量は、適度の生分解性を有し、かつ実用的な耐熱性を実現し得る量とすることが好ましく、本発明においては脂肪族ポリエステルカーボネート中のカーボネート単位含有量を、少なくとも5モル%以上、通常5〜30モル%とすることが好ましい。
【0013】
本発明の脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の製造に用いられる脂肪族2塩基酸としては、コハク酸が必須成分として使用され、それ以外に例えば、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、アゼライン酸等を適宜併用することができる。なお上記の脂肪族2塩基酸はそれらのエステルあるいは酸無水物であってもよい。
【0014】
本発明の脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の製造に用いられる脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1,4−ブタンジオールが必須成分として使用され、それ以外に例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等を適宜併用することができる。
【0015】
本発明で使用されるヒドロキシカルボン酸化合物としては、乳酸、グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等が例示され、これらはエステル、環状エステル等の誘導体でも使用できる。
これらの脂肪族2塩基酸、脂肪族ジヒドロキシ化合物およびヒドロキシカルボン酸化合物は、それぞれ単独であるいは混合物として用いることができ所望の組合せが可能であるが、本発明においては適度の生分解性を有し、かつ実用的な耐熱性を実現し得る程度の高い融点のものが好ましい。従って、本発明においては、脂肪族ジヒドロキシ化合物として1,4−ブタンジオール、脂肪族2塩基酸としてコハク酸を、それぞれ50モル%以上含むことが必要である。
【0016】
また、本発明の脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の製造に用いられるカーボネート化合物の具体的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネートなどのジアリールカーボネートを、また、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジアミルカーボネート、ジオクチルカーボネート等の脂肪族カーボネート化合物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、上記の同種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物の他に、異種のヒドロキシ化合物からなる非対称カーボネート化合物も使用できる。
【0017】
本発明の射出成形ヘルメットの製造方法を説明する。まず、ポリ乳酸(A)と脂肪族ポリエステル(B)及び/又は脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の混合方法や混合装置は、特に限定されないが、連続的に処理できるものが工業的に有利で好ましい。例えば、2種類以上のペレットを所定比率で混合し、そのまま射出成形機のホッパー内に投入し、溶融させ、直ちに成形しても良い。又、両成分を溶融混合した後、一旦ペレット化し、その後で必要に応じて溶融成形しても良い。同じく、ポリマーをそれぞれ別に押出機などで溶融し、所定比率で静止混合機及び/又は機械的撹拌装置で混合し、直ちに成形しても良く、一旦ペレット化しても良い。押出機などの機械的撹拌による混合と、静止混合機とを組み合わせても良い。均一に混合させるには、一旦ペレット化する方法が好ましいが、溶融混合法の場合は、ポリマーの劣化、変質、エステル交換反応による共重合体化反応を実質的に防ぐことが必要で、出来るだけ低温で短時間内に混合することが好ましい。溶融押出温度としては、使用する生分解性樹脂の融点及び混合比率を考慮して、適宜選択するが、通常100〜250℃の範囲である。
【0018】
上記の方法で混合されたポリマーを、通常の射出成形機のホッパーに投入し、溶融後、射出成形を行う事で、本発明の射出成形ヘルメットは容易に得られる。
本発明の上記射出成形材料は、容器、文房具など、通常の射出成形機で成形できるものすべてに適用できるが、特に強度が要求されるヘルメット帽体材料として適している。本発明の射出成形ヘルメットは曲げ強度が30MPa以上、またはアイゾット衝撃強度が3kJ/m 2 以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の生分解性射出成形ヘルメットは、ポリ乳酸(A)及びポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)及び/又は脂肪族ポリエステルカーボネート(C)からなり、自然環境中で分解する。一般的に、脂肪族ポリエステル(B)及び脂肪族ポリエステルカーボネートは、ポリ乳酸と比べ分解速度は速いので、これらの混合比を適宜選択する事で、分解速度を調整することができる。
【0020】
さらに、溶融混合時あるいは射出成形時に、副次的添加剤を加えていろいろな改質も可能である。副次的添加剤の例としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、静電気防止剤、離型剤、可塑剤、香料、抗菌剤、核形成剤等その他の類似の物が挙げられる。
【0021】
本発明及び以下の実施例において、重合体の重量平均分子量(Mw)はGPC分析によるポリスチレン換算値である。又、曲げ試験は、JIS−K7203、引張試験はJIS−K7113、アイゾット衝撃強度はJIS−K7110に準じて測定した。
【0022】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
本実施例では、以下に示す4種類の生分解性樹脂を使用し実験を行った。
<ポリ乳酸(A)>
島津製作所製 ラクティ#5000
重量平均分子量 200,000
<脂肪族ポリエステル(B)>
昭和高分子製 ビオノーレ#3010
重量平均分子量 140,000
<脂肪族ポリエステルカーボネート(C)>
三菱ガス化学製 ポリエステルカーボネート(PEC)
重量平均分子量 136,000
【0023】
(実施例1)
あらかじめ予備乾燥により絶乾状態にしたポリ乳酸(A)と脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の各ペレットを40対60の重量比で混合・投入し、射出成形機にて曲げ試験片、引張試験片(JIS−2号試験片)、アイゾット衝撃試験片及び平板(150mm×50mm×3mmt)を作成し、物性試験を行った。又、得られた平板を用いてJIS−T8131(産業用安全帽)の9.1耐貫通試験;9.1.2耐貫通性試験方法IIを行った。
【0024】
(実施例2)
あらかじめ予備乾燥により絶乾状態にしたポリ乳酸(A)と脂肪族ポリエステルカーボネート(C)の各ペレットを45対55の重量比で混合し、220℃の2軸押出機で平均4分間溶融混合し、直径2mmのノズルにより押出し、水冷し切断する事で、ペレット(P1)を得た。ペレット(P1)を85℃で真空乾燥し絶乾状態にした後、射出成形機にて曲げ試験片、引張試験片(JIS−2号試験片)、アイゾット衝撃試験片及び平板(150mm×50mm×3mmt)を作成し、物性試験を行った。得られた平板を用いてJIS−T8131(産業用安全帽)の9.1耐貫通試験;9.1.2耐貫通性試験方法IIを行った。
【0025】
(実施例3)
あらかじめ予備乾燥により絶乾状態にしたポリ乳酸(A)と脂肪族ポリエステル(B)の各ペレットを50対50の重量比で混合・投入し、射出成形機にて曲げ試験片、引張試験片(JIS−2号試験片)、アイゾット衝撃試験片及び平板(150mm×50mm×3mmt)を作成し、物性試験を行った。又、得られた平板を用いてJIS−T8131(産業用安全帽)の9.1耐貫通試験;9.1.2耐貫通性試験方法IIを行った。
【0026】
(比較例1)
あらかじめ予備乾燥により絶乾状態にしたポリ乳酸(A)を用い、射出成形機にて曲げ試験片、引張試験片(JIS−2号試験片)、アイゾット衝撃試験片及び平板(150mm×50mm×3mmt)を作成し、物性試験を行った。又、得られた平板を用いてJIS−T8131(産業用安全帽)の9.1耐貫通試験;9.1.2耐貫通性試験方法IIを行った。
【0027】
(比較例2)
あらかじめ予備乾燥により絶乾状態にした脂肪族ポリエステル(B)を用い、射出成形機にて曲げ試験片、引張試験片(JIS−2号試験片)、アイゾット衝撃試験片及び平板(150mm×50mm×3mmt)を作成し、物性試験を行った。又、得られた平板を用いてJIS−T8131(産業用安全帽)の9.1耐貫通試験;9.1.2耐貫通性試験方法IIを行った。
【0028】
実施例1〜3及び比較例1〜2の結果を、表1に示す。
比較例1のポリマーでは、強度は高い反面耐衝撃性が低く、耐貫通試験では試験片が破壊された。
比較例2のポリマーでは、耐衝撃性は高い反面強度が低く、耐貫通試験ではストライカが貫通した。
実施例1〜3のポリマー組成物は、いずれも機械特性のバランスに優れており耐貫通試験においても、くぼみの最降下点も鋼製ストライカも油粘土との接触はなく、ヘルメットJIS規格に合格し得る物性を兼ね備えている事が確認された。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】
本発明者によれば、上述のようにポリ乳酸と脂肪族ポリエステル及び/又は脂肪族ポリエステルカーボネートを用いる事により、生分解性を保持しつつ、強度・耐衝撃性を有する、特にヘルメットの帽体材料として使用し得る十分な強度をもち合わせた生分解性射出成形品を提供する事が可能となる。
Claims (3)
- ポリ乳酸(A)とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(B)及び/又は脂肪族ポリエステルカーボネート(C)からなる生分解性射出成形ヘルメット。
- 曲げ強度が、30MPa以上である請求項1記載の射出成形ヘルメット。
- アイゾット衝撃強度が、3kJ/m2以上である請求項1または2に記載の射出成形ヘルメット。
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