JP3651992B2 - 抗菌剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は抗菌剤に関し、特に耐光性、耐熱性、抗菌効果の持続性に優れた抗菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
抗菌剤として有機系抗菌剤と無機系抗菌剤が知られており、これまで即効性に優れた有機系抗菌剤が広く利用されていた。しかしながら、有機系抗菌剤は一般に毒性が強く安全性の面で大きな問題を有していた。一方、無機系抗菌剤は有機系抗菌剤に比べ即効性の面でやや劣るものの、安全性が高く、しかも抗菌作用の持続性、耐熱性に優れるため、最近の無機系抗菌剤使用量は大巾に増加してきている。
【0003】
従来より、金、銀、銅、亜鉛等の金属が抗菌作用を有することは知られており、無機系抗菌剤として、これらの金属(抗菌性金属と呼ぶ。)を利用したものが主として用いられている。これらの抗菌性金属がどのようなメカニズムによって抗菌作用を発現するかは完全には理解されていないが、▲1▼金属イオンの触媒作用により発生する活性酸素が細菌を死滅させる、▲2▼金属イオンが細菌の代謝系の酵素を阻害したり、細胞膜に付着して物質移動を阻害することで細胞分裂を不可能とし細菌を死滅させる、▲3▼金属イオンがマイナスのイオン性を有する細菌を引き寄せ、細菌の細胞膜を破壊し死滅させる、等の考えが示されている。
【0004】
抗菌性金属の抗菌剤への応用例としては、例えば硝酸銀溶液の消毒液、点眼剤等としての利用が知られている。しかしながら、液状の硝酸銀溶液は利用範囲が限られ、また高濃度にすると毒性が強く取扱いが難しいという問題がある。一方、抗菌性金属を固体状の無機物担体に担持させた抗菌剤としては例えば、シリカゲルや活性炭等の多孔質物質を担体とし、これに銀等を担持させたもの、ゼオライトを担体として銀等を担持させたもの(特許第128654号、特開昭60−181002号等)、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の無機オキソ酸塩を担体とし、銀等の抗菌性金属イオンを担体の金属イオンとイオン交換して担持させたもの(特開平3−275627号)等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記固体状の無機物担体に担持させた従来の抗菌剤も、種々の問題を有していた。例えば、多孔質物質を担体とするものは、金属保持力が弱いために水に添加使用した場合、担持されていた金属の水中への溶出速度が速く、短期間で抗菌効果が低下してしまうという問題があった。またアメリカ公衆衛生局では、安全性の見地から水中の銀イオンの濃度を50ppb以下と規制しているが、上記多孔質物質を担体とする抗菌剤を水に添加使用した場合には、この安全基準値を超える量の銀イオンが溶出する虞れがあった。
【0006】
一方、ゼオライトや無機オキソ酸塩を担体とする抗菌剤は、多孔質物質を担体とする抗菌剤に比べて水中への金属溶出速度は小さいものの、抗菌効果の持続性はかならずしも十分とは言えなかった。またゼオライトを担体とする抗菌剤の場合、金属が酸化されて経時的に褐色に変色するという問題があり、特に光の照射により変色は著しくなり(耐光性が低い)、樹脂製品の抗菌処理に用いたり、塗料等に抗菌性を付与するために添加して用いた場合、抗菌剤の変色が原因で樹脂製品が変色するという問題があった。一方、無機オキソ酸塩を担体とする抗菌剤の場合、ゼオライトを担体とする抗菌剤よりは耐光性が高いが、必ずしも十分な耐光性を有するとは言い難かった。また樹脂製品を抗菌処理する場合、樹脂原料を軟化温度以上の温度に加熱して抗菌剤を練り込む方法が採用されることがあるが、抗菌剤の耐熱性が低いと抗菌剤を樹脂に練り込む時の熱によって抗菌剤が変色し、製品価値を低下させる虞れがある。このため耐熱性が優れることも抗菌剤に必要とされる要件の一つである。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、耐光性、耐熱性、安全性に優れ、しかも抗菌効果の持続性に優れた抗菌剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明の抗菌剤は、塩素を担持したアニオン交換性無機イオン交換体を担体とし、この担体に担持された塩素と直接結合させて抗菌性金属を担持せしめたことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において抗菌性金属としては、金、銀、銅、亜鉛、水銀、ビスマス、カドミウム、コバルト、ニッケル等が挙げられるが、なかでも銀、銅、水銀が好ましく、特に銀、銅が好ましい。無機イオン交換体としては、アニオン交換性のみを有するアニオン交換性無機イオン交換体が用いられ、例えばアルミン酸やアルミン酸塩類等が挙げられる。
【0010】
本発明の抗菌剤は、上記アニオン交換性無機イオン交換体に、塩素イオンを担持させた後、抗菌性金属を担持せしめたものであり、アニオン性無機イオン交換体に担持された塩素に直接結合して抗菌性金属が担持されている点が大きな特徴である。抗菌性金属と塩素との直接結合割合が高いほど、抗菌効果の持続性に優れている。
【0011】
本発明抗菌剤は、塩素イオンを含む溶液と無機イオン交換体とを接触させて無機イオン交換体に塩素を担持させ、次いで抗菌性金属イオンを含む溶液と接触させて抗菌性金属を担持させる方法によって得ることができる。無機イオン交換体と抗菌性金属イオンや塩素イオンを含む溶液(以下、処理液と呼ぶ。)とを接触させるには、無機イオン交換体を処理液中に浸漬するか、無機イオン交換体を充填したカラムに処理液を通液する方法が採用できる。前者を採用した場合、抗菌性金属イオンを含む処理液と塩素イオンを含む処理液を別々に用意して処理を行っても、一方のイオンを含む処理液で処理した後、該処理液中に他方のイオンを添加する方法で処理を行っても良い。
【0012】
無機イオン交換体としてアニオン交換性のみを有するアニオン交換性無機イオン交換体を用いた場合、無機イオン交換体に担持させた塩素に抗菌性金属が直接結合した構造の抗菌剤を製造するのに好適である。
【0015】
本発明の抗菌剤において、抗菌性金属は無機イオン交換体中に、0.01〜30重量%担持されていることが好ましい。また塩素は、無機イオン交換体に担持される抗菌性金属1モル当たりに対し、0.5〜5倍モル担持されていることが好ましい。
【0016】
無機イオン交換体に抗菌性金属や塩素を導入するために用いる抗菌性金属イオンや塩素イオンを含む処理液は、抗菌性金属の水溶性塩や水溶性の塩素化合物を水に溶解させることにより調整することができる。抗菌性金属の水溶性塩としては、金、銀、銅、水銀、ビスマス、カドミウム、コバルト、ニッケル等の金属の硫酸塩、硝酸塩、塩化物、次塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩等が挙げられる。また水溶性の塩素化合物としては、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
上記のようにして、無機イオン交換体に塩素イオンを担持させた後、抗菌性金属を担持させ脱イオン水で洗浄後、乾燥することによって本発明の抗菌剤が得られるが、必要により乾燥後に焼成することもできる。しかしながら本発明の抗菌剤は抗菌性金属とともに塩素が担持されていることにより、抗菌性金属のみを無機イオン交換体に担持させた従来の抗菌剤のように抗菌性金属が容易に溶出する虞れがないため、必ずしも焼成を行わなくても良い。
【0018】
本発明の抗菌剤が水と接触すると、抗菌剤中から水中に極めて微量の抗菌性金属イオンが溶出し、この溶出した抗菌性金属イオンによって水中の細菌が死滅し、また水中には微量の抗菌性金属イオンが残存するため、その後の細菌の繁殖も妨げられる。また本発明の抗菌剤が含水している場合、含水水分中に抗菌性金属イオンが溶出しているため、抗菌剤と接触した細菌は死滅する。また本発明の抗菌剤を無水状態で使用した場合でも、細菌の細胞中には水分が含まれるため、細菌が本発明抗菌剤と接触すると、細菌の細胞中に抗菌性金属イオンが溶出して細菌を死滅させる。
【0019】
本発明の抗菌剤は、例えば飲料水の殺菌消毒、水中の藻の増殖抑制、樹脂製品へのカビ等の発生防止、船底へのフジツボ付着防止、犬猫の糞尿による汚染防止等を目的として、水や樹脂製品を抗菌処理したり、船底塗料等の塗料へ添加したり、犬猫の糞尿によって汚染される虞れのある砂へ添加する等の方法で使用するとができ、細菌、バクテリア、カビ、微生物の死滅、発生、増殖の抑止等を図ることができるが、これらの用途のみに限定されるものではない。
【0020】
本発明抗菌剤により水の抗菌処理を行う方法としては、本発明抗菌剤を充填したカラムに水を通液したり、水中に本発明抗菌剤を浸漬する方法等が挙げられる。また樹脂製品の抗菌処理に利用する場合には、例えば原料樹脂中に本発明抗菌剤を練り込む方法を採用することができる。抗菌剤を練り込むための樹脂としては、可塑性のあるものであれば良く、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、MMA樹脂等が挙げられる。抗菌剤の樹脂中への添加量は任意であり、練り込み効率、抗菌性能、樹脂強度等を考慮して決定する。
【0021】
抗菌剤を練り込んだ樹脂は、球状、ペレット状、板状、シート状、繊維状等の任意の形態に成形することができる。例えば板状、シート状、繊維状等に成形する場合、抗菌剤と樹脂とを予備混合し、エクストリューダー等の混練機中で樹脂の軟化温度以上の温度で混練し、次いでダイ等からシート状、板状、繊維状等に押出成形することで抗菌性の樹脂製品が得られる。また抗菌剤を練り込んだ球状、ペレット状樹脂は、射出成形によって所定形状の抗菌性樹脂製品とすることができる。
【0022】
また本発明抗菌剤を樹脂製品表面に塗布した後、塗布表面をヒートプレスする方法によって、抗菌性樹脂製品を得ることもできる。
【0023】
本発明抗菌剤を船底塗料等の塗料中に添加する場合、塗料は油性でも水性でも良く、顔料と同様にして配合し、また水性塗料には薄め水に本発明抗菌剤を分散させて配合すれば良い。
【0024】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の実施例、比較例において使用した抗菌剤の種類は、以下の通りである。これらの抗菌剤の調整には、次の操作方法(1)〜操作方法(2)のいずれかの方法を採用した。
【0026】
操作方法(1):無機イオン交換体及び水溶性の塩素化合物を、脱イオン水1000重量部に加え、40℃にて6時間攪拌後、濾過する。濾過残物を脱イオン水1000重量部に添加し、1時間攪拌洗浄した後、濾過して濾過液のカチオン濃度が100ppb以下になるまで同様の洗浄、濾過を繰り返し、無機イオン交換体の塩素担持物を得る。次いで、これを抗菌性金属の水溶性塩を溶解した処理液に加え、40℃で1時間攪拌後、上記と同様に脱イオン水1000重量部による洗浄・濾過をアニオン濃度が100ppb以下になるまで繰り返す。その後、120℃のオーブン中で、水分が0.1重量%以下となるまで乾燥する。
【0027】
操作方法(2):無機イオン交換体及び抗菌性金属の水溶性塩を、脱イオン水1000重量部に加え、40℃にて6時間攪拌後、濾過する。濾過残物を脱イオン水1000重量部に添加し、1時間攪拌洗浄した後、濾過して濾過液のアニオン濃度が100ppb以下になるまで同様の洗浄、濾過を繰り返し、無機イオン交換体の抗菌性金属担持物を得る。120℃のオーブン中で、水分が0.1重量%以下となるまで乾燥する。
【0032】
(1)抗菌剤A(本発明品)
下記示性式(a)で示されるアニオン交換性の無機イオン交換体100重量部、塩化ナトリウム3.5重量部、硫酸銀3.0重量部を用い、操作方法(1)により得た抗菌剤。
【0033】
(化1)
Mg9Al4(OH)26CO6・7H2O ・・・・(a)
【0034】
(2)抗菌剤B(本発明品)
下記示性式(a)で示されるアニオン交換性の無機イオン交換体100重量部、塩化マグネシウム7.0重量部、硝酸銅3水和物8.0重量部を用い、操作方法(1)により得た抗菌剤。
【0035】
(化2)
Mg9Al4(OH)26CO6・7H2O ・・・・(a)
【0040】
(3)抗菌剤C(従来品)
下記示性式(b)で示されるカチオン交換性の無機イオン交換体100重量部、硝酸銀3.5重量部を用い、操作方法(2)により得た抗菌剤。
【0041】
(化3)
Al2O3・9SiO2・H2O ・・・(b)
【0042】
(4)抗菌D(従来品)
下記示性式(c)で示されるカチオン交換性の無機イオン交換体100重量部、硝酸銀3.5重量部を用い、操作方法(2)により得た抗菌剤。
【0043】
(化4)
Al2O3 ・・・・(c)
【0044】
実施例1〜2、比較例1〜2
表1に示す抗菌剤10gを、内径2cmのステンレスカラムに充填し、このカラムに水道水200mlを連続して通水し、10日後、50日後、100日後の通水液中の金属イオン濃度(銀イオン濃度又は銅イオン濃度)を原子吸光分析法により測定した。また通水前の抗菌剤を濃硝酸で処理し、硝酸中に溶出した金属イオン濃度を原子吸光分析法によって測定し、通水前の抗菌剤中の金属含有量(重量%)を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
また上記抗菌剤2gを、ABS樹脂100gに対して練り込んだ後、厚さ1mmのシート状に成形し、このシートから30mm×50mmのサンプルを作成した。このサンプルをフェードメーターにセットし、カーボンアークランプの光を24時間照射し、サンプルの色の変化(耐光性)を肉眼で観察した。またサンプルをギャーオーブン内に吊り下げ、200℃で10時間加熱した際のサンプルの色の変化(耐熱性)を肉眼で観察した。結果を表1にあわせて示す。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の抗菌剤は担持されている抗菌性金属が極微量ずつ溶出して抗菌作用を発現するため、抗菌性金属が多量に溶出して安全性の問題が生じたりする虞れがなく、しかも長期間に亘って抗菌作用が発現され、抗菌作用の持続性に優れている。また本発明の抗菌剤は耐光性、耐熱性に優れ、樹脂等に練り込んで用いる場合の熱や、光等によって変色する虞れが少ないため、樹脂製品や塗料の抗菌剤として用いた場合、樹脂製品や塗料の色が変色することがなく、樹脂製品や塗料の商品価値が高められる効果がある。
Claims (1)
- 塩素を担持したアニオン交換性無機イオン交換体を担体とし、この担体に担持された塩素と直接結合させて抗菌性金属を担持せしめたことを特徴とする抗菌剤。
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