JP3651698B2 - プラスチックレンズの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、眼鏡用レンズ、サングラスレンズ、カメラ用レンズ等の光学用に適した光学的に均質なプラスチックレンズの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比較して、軽量、割れ難さなどの特徴を持つことから、近年、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学機器に広く用いられるようになった。特に、眼鏡用プラスチックレンズは、素材樹脂の高屈折率化、低比重化により急速にシェアを伸ばしている。素材樹脂としては、長年にわたり、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂が用いられてきたが、近年さらに高屈折率を目指した樹脂として、ポリイソシアネート化合物とポリオールまたはポリチオール化合物の反応により得られるウレタン系樹脂が開発された。ポリウレタンレンズの製造方法としては、例えば、特開昭57−136601号公報にて提案されているポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応、特開昭58−164615号公報にて提案されているポリイソシアネート化合物とハロゲン原子含有ポリオール化合物との反応、特開昭60−194401号公報にて提案されているポリイソシアネート化合物とジフェニルスルフィド骨格を含有するポリオール化合物との反応、特開昭60−217229号公報にて提案されているポリイソシアネート化合物と硫黄原子を含有するポリオール化合物との反応、特開昭60−199016号公報、特開昭62−267316号公報、特開昭63−46213号公報、特開平5−320301号公報などにて提案されているポリイソシアネート化合物とポリオールの水酸基をメルカプト基に置換したポリチオールとの反応を利用して注型重合を行ってポリウレタンレンズを得る方法が提案されている。
【0003】
従来、注型重合においては図5に示すように、モールド4及び4−1とガスケット5を用いて形成体8(以後シェルと呼ぶ)を構成し、スプリング6で挟んだのち、内部空間に樹脂前駆体7(以後モノマーと呼ぶ)を注入して、加熱炉内に静置した状態で重合が行われている。
【0004】
注型重合によりプラスチックレンズを製造する際に特開平5−212732号公報には、ポリイソシアネートと、ポリオールそれぞれ別々に各種添加剤を入れ、別々に均一な混合液を得、それぞれ別々に脱気を行い、連続的に混合しながらレンズ製造用成形型内に注入し、注型重合させて気泡のない、光学性能の良いレンズを製造する方法が提案されている。
【0005】
また、注型重合によりプラスチックレンズを製造する際に、重合温度と、重合時間は重要であり、例えば、特開平5−212732号公報には、初期温度は5〜50℃が好ましく5〜50時間をかけ100〜140℃に昇温するとよく、初期温度が5℃より低いと重合時間が長くなり、初期温度が50℃より高いと得られたレンズは光学的に不均質になりやすいことが記述されている。
【0006】
しかしながら、従来の注型重合によるプラスチックレンズ製造法では、脈理と称する光学ひずみを完全に無くすことは難しく、歩留まりの向上を妨げており、製造コストの低減を難しくしている。
【0007】
重合過程において、光学ひずみが発生する原因は明らかではないが、外部からの熱などによって重合が行われていく際に、シェル内部のモノマーは徐々に反応が起こり、これら反応前後のモノマーに比重差を生じることによってモノマーの移動が起こり、その形跡が脈理原因の一つの要因と考えられる。
【0008】
本発明者らは、上記の考えに基づいて、モノマーの移動を防止することを研究し、光学ひずみの無いあるいは極めて少ないプラスチックレンズの製造方法に至った。
【0009】
【本発明が解決しようとする課題】
解決しようとする課題は、注型重合法によるプラスチックレンズにおける光学ひずみの発生を防止する事である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、注型重合法による樹脂レンズの製造において、シェルに注入されたモノマーの任意の微小部分に対する重力の作用方向が変化するようになした重合方法を行うことである。
【0011】
上記の注型重合法について、モノマーの注入されたシェルをほぼ水平方向の回転軸に沿って回転移動させながら加熱重合すると効果的である。
【0012】
本発明においては、特にポリウレタン系樹脂について述べているが、他の樹脂系、例えば、アクリル、CR−39など光学レンズに用いられる樹脂系にも応用できる。
【0013】
注型重合は、単官能性または多官能性の単量体の単独あるいは混合物を、モールドとガスケットを組み合わせたシェルに充填したものを、熱や光で硬化し、シェルの形状に成形したものである。
【0014】
本発明においてポリウレタンレンズを製造するための単量体として使用されるポリイソシアネート化合物は、特に限定はないが、トルイレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチキシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)ジスルフィド、2,5−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチル=イソシアナート)、2,6−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチル=イソシアナート)などが挙げられる。
【0015】
本発明においてポリウレタンレンズを製造するためにポリイソシアネートとの反応に使用されるポリオールも特に限定されるものではない。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ペンタンジオール、ヘキサントリオールなどが挙げられるが、これらのポリオールの水酸基の一部あるいは全てをメルカプト基に置換したテトラキス(メルカプトメチル)メタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−3,6−ジチオ−1,8−オクタンジチオール、等の硫黄原子含有化合物がレンズ用樹脂としての屈折率の点から好ましく用いられる。
【0016】
ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の混合割合は、NCO/OHあるいはSH(官能基)モル比が通常の場合0.5〜3.0、好ましくは、0.5〜1.5の範囲である。
【0017】
また、目的に応じて、各種の添加剤を添加することも出来る。例えば、内部離型剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、顔料、香料などが加えられる。
【0018】
ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物からポリウレタンレンズを製造する方法は、通常、注型重合法により行われる。注型重合法は、ガラス、金属あるいはセラミック製のモールドとEVA、EEP、PEなどのガスケットを組み合わせたシェルの空隙に、ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物の混合物を注入することにより行われる。ガスケットの代わりに、PE、PET、PTFEなどの粘着テープあるいはシールテープを使用してもよい。重合は通常、低温から高温に徐々に昇温しながら行う。反応速度を調整するため、ウレタン化反応において使用される公知の反応触媒を添加することも出来る。
【0019】
本発明において、注型重合過程に与える特定方向の回転とは以下に述べるとおりである。
【0020】
調整されたモノマー液をガラスモールド及びガスケットよりなるシェルに注入し、注入口に栓をしてモノマー液が漏れないようにしたのち、垂直方向に回転させる。垂直方向の回転とは、モノマーの注入されたシェルを、ほぼ水平方向の回転軸に添って回転させることを云う。
【0021】
回転数は0.1〜60rpm、好ましくは0.5〜40rpmであり、これらの範囲以外では光学ひずみの改善は達成されない。
【0022】
【モノマー液の調整方法】
三井東圧化学製MR−6A液15kgを40lタンク(アドバンテック製DV−40−JA型)に装入して、減圧下に5時間脱泡を行う。次いで、MR−6B液19.5kgを装入して冷却(10℃)かくはんしながら脱泡を続ける。さらに触媒としてジブチルスズジクロライドを添加して冷却・攪拌・脱泡を3時間続け、モノマー液を調製した。
【0023】
【脈理の検査方法】
100W超高圧水銀灯照射装置(ウシオ電気製UI−100型)より発せられる平行光線にレンズをかざし、白色スクリーンに投影されたレンズの像を検査した。脈理のあるものは投影像に陰影が現れるので、不良と判断する。
【0024】
【作用】
上記のようにシェルを回転重合させることにより、シェル内部のモノマーの任意の微小部分に対する重力の作用方向が逐次変化することで、注入されたモノマーの移動をほぼ防止することができる。
【0025】
光学ひずみの無いプラスチックレンズを製造するためには、温度、回転速度等も必要条件となってくるため、適切な重合温度、回転速度等の条件下で重合を行うことによって、光学ひずみの無いプラスチックレンズを得ることができる。
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0027】
【実施例1】
図1は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸である。前記の調製方法により得られたモノマー液を2枚のガラスモールドおよびガスケットよりなるシェルに注入し、注入口に栓をしてモノマーが漏れないようにしたのち、ほぼ水平に回転軸を有する回転装置に、回転軸がガラスモールド面の中心付近をほぼ垂直に通過するように装着し、回転により、シェルが落下しないように緊縛した後、回転数1rpm、温度40℃で、10時間回転を続けた。その後、回転を止め、120℃に昇温し、モノマーを硬化させた。ガスケットおよびガラスモールドを取り去り、固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0028】
【実施例2】
図1は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸である。実施例1において、回転数25rpm、温度20℃で42時間回転を続けた。以後の操作は全く同様にして固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0029】
【実施例3】
図2は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸である。前記の調整方法により得られたモノマー液を2枚のガラスモールドおよびガスケットよりなるシェルに注入し、注入口に栓をしてモノマーが漏れないようにしたのち、ほぼ水平に回転軸を有する回転装置に、回転軸がシェルの中心付近をガラスモールド面にほぼ平行に通過するように装着し、回転により、形成体が落下しないように緊縛した後、回転数10rpm、温度20℃で42時間回転を続けた。その後回転を止め、120℃まで昇温し、モノマーを硬化させた。ガスケットおよびガラスモールドを取り去り、固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0030】
【実施例4】
図1は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸である。実施例1において、回転数25rpm、温度35℃で12時間回転を続けた。以後の操作は全く同様にして固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0031】
【実施例5】
図3は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸、3はシェルと回転軸を接続するジグである。前記の調整方法により得られたモノマー液を2枚のガラスモールドおよびガスケットよりなるシェルに注入し、注入口に栓をしてモノマーが漏れないようにしたのち、ほぼ水平に回転軸を有する回転装置に、回転軸がガラスモールド面に垂直に通るように、且つシェルの外にくるように装着し、回転により、シェルが落下しないように緊縛したのち、回転数1rpm、温度30℃で16時間回転を続けた。その後も回転を止めず、120℃に昇温し、モノマーを硬化させた。ガスケットおよびガラスモールドを取り去り、固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0032】
【比較例1】
前記の調整方法により得られたモノマー液を2枚のガラスモールドおよびガスケットよりなるシェルに注入し、注入口に栓をしてモノマーが漏れないようにしたのち、回転させずに、温度30℃で16時間重合した。その後、120℃に昇温し、モノマーを硬化させた。ガスケットおよびガラスモールドを取り去り、固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0033】
【比較例2】
図4は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸である。前記の調整方法により得られたモノマー液を2枚のガラスモールドおよびガスケットよりなるシェルに注入し、注入口に栓をしてモノマーが漏れないようにしたのち、ほぼ垂直に回転軸を有する回転装置に、回転軸がガラスモールド面の中心付近をほぼ垂直に通過するように装着し、回転により、シェルが落下しないように緊縛した後、回転数10rpm、温度20℃で42時間回転を続けた。その後、回転を止め、120℃に昇温し、モノマーを硬化させた。ガスケットおよびガラスモールドを取り去り、固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0034】
【比較例3】
図1は本実施例の説明図であって、1はシェル、2は回転軸である。実施例1において、回転数100rpm、温度20℃で42時間回転を続けた。以後の操作は全く同様にして、固体のレンズを得た。脈理検査結果を表1に示した。
【0035】
【表1】
Figure 0003651698
【0036】
上記の仮説に基づいて実験を行ってきたが、表1を見ても分かるように、シェルを回転させる回転軸の位置、所定の範囲内での重合温度、重合回転速度などの必要条件を満たすことによって脈理不良が飛躍的に改善されることが判った。
【0037】
【発明の効果】
本発明により得られたレンズでは、従来のプラスチックレンズ製造方法が有する脈理問題を解消すると共に、重合時間も短縮できるので、モールド在庫量の少量化も可能となる。この他に、現状ではガスケットとモノマーとの反応で、製造されたレンズ内部に濁りが発生することもあるが、本発明によればシェル内部のモノマーの移動を防止しながら重合するため、その濁りが周辺部で止まることでレンズ内部の濁りを防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1,2,4及び比較例3についての回転軸の位置及び回転方向を示した説明図である。
【図2】本発明の実施例3についての回転軸の位置及び回転方向を示した説明図である。
【図3】本発明の実施例5についての回転軸の位置及び回転方向を示した説明図である。
【図4】本発明の比較例2についての回転軸の位置及び回転方向を示した説明図である。
【図5】従来法での形成体の構造を示した断面図である。
【符号の説明】
1 シェル
2 回転軸
3 形成体と回転軸を接続するジグ
4 モールド
5 ガスケット
6 スプリング
7 モノマー(樹脂前駆体)
8 シェル(形成体)

Claims (2)

  1. 対向する2枚のモールドを有するレンズ製造用のシェルを用い、このシェルの両モールド間の内部空間に樹脂前駆体を注入し充満させて、これを加温して重合する注型重合法によるプラスチックレンズの製造方法において、重合を行う間、前記シェルを、ほぼ水平に保持した回転軸の周りに、0.1〜60rpmの範囲の回転速度で回転運動させて、シェルを基準としたときのシェルに対する重力の方向を連続的に変化させ、これにより、シェル内の前記樹脂前駆体のどのような微小部分においても、これに対する重力の作用方向が変化することで、その影響を受けないようにすることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
  2. シェルに注入されるものが、ポリウレタン系樹脂前駆体であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
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