JP3651336B2 - 補強用繊維シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は補強用繊維シートに関し、さらに詳細には道路の床盤や橋脚、建物などのコンクリート構造物、及び灯台や煙突など石や煉瓦による建造物の高耐力二方向補強用繊維シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般道路や高速道路などコンクリート製の構造物は多数存在するが、地震による破壊に対する耐震補強や、交通量の増加による耐久性の改善などの必要性が生じている。
【0003】
また、歴史的建造物である石造りの灯台や煉瓦製の建物、さらにコンクリートや煉瓦製の煙突など、寿命の延長や耐震補強の必要な構造物がある。
【0004】
それらの補強方法は、たとえば鉄道高架などコンクリート柱の補強にはコンクリート面を鉄板で覆う方法や、アラミド繊維や炭素繊維などの補強繊維シートを構造物の壁面に樹脂で貼り付け、もしくは巻き付けて補強、補修する方法などがある。
【0005】
鋼板で覆う方法は、重い鋼板を扱うために施工には重機や、頑丈な足場が必要で大がかりな工事となる。アラミド繊維や炭素繊維などの補強繊維シートを巻き付ける方法は、重量物を扱う必要が無いので、重機や大がかりな足場の必要が無く施工が簡単で、また狭いところでの施工も容易にできる利点がある。
【0006】
特開平5−332031号公報には、多数本の炭素繊維に樹脂含浸させることにより一方向に配列した繊維補強シートを、柱に一層ずつ巻き付ける方法が提案されている。
【0007】
壁面や床盤などで二方向の補強をこのような一方向シートで行う場合、少なくともたて方向とよこ方向の二回の貼り付け作業が必要で効率的でない。
【0008】
特開平8−218645号公報には、長さ方向にコンクリートより引っ張り強度が大きい繊維を、幅方向に長さ方向より引っ張り弾性率の高い繊維を用いて編織した補強用テープが提案されている。
【0009】
特開平6−288099号公報には、炭素繊維などの補強用繊維を平織組織で長尺の布状に製織してこれをコンクリート構造物に巻き付け、含浸させた樹脂を硬化して補強する方法が提案されている。
【0010】
これらの、たておよびよこ方向に補強繊維を用いた二方向シートによる補強方法は、一方向シートに比べ作業が効率的であり、一方向シートを用いるより優れている。しかし、同公報には補強シートの耐力(引っ張り強さ)や積層枚数、及び補強用繊維シートとして重要な樹脂含浸性については何ら述べられていない。また平織りの高耐力の織物は、太い繊度の糸を用いるため構成する糸の拘束割合が高く樹脂の含浸性が劣り、高強度の補強シートとして適していない。
【0011】
特開平10−37051号公報には、補強繊維が並列に配列された繊維群を一単位として、それが間隔を持ってたて、よこに配列され、それらを補助繊維によって結束した、いわゆる経て編み組織による二方向補強繊維シートが提案されている。この方法は、たて・よこに配列された補強繊維を補助繊維によって結束しているのみであり、たて・よこ糸が互いに交錯していないので、たて・よこ糸間の層間の結合が十分でなく、道路床盤のような高耐力の必要とされる用途には問題がある。
【0012】
一般に道路の床盤や柱、灯台などの補強用繊維シートは、高強度の補強が必要である。その補強は、低い耐力の繊維シートを用いる場合は何層にも積層することによって達成されるが、二方向繊維シートであっても、何層もの繊維シートを貼り付けることは作業性において効率的でないし、積層シート毎のシートの積層状態や樹脂の含浸性などにバラツキが生じるおそれがある。また、多くの作業時間が必要になる。
【0013】
高耐力の繊維シートを用いることによってこれらの作業性や作業効率を改善することができる。
【0014】
特に高架道路の床盤補強のように、自動車の走行面ではなく床盤の下面に繊維補強シートを樹脂で積層するような場合は、足場を組んで作業者はその上に乗り上を向いて積層作業をせねばならない。すなわち下から上を向いて天井面に積層作業をする作業内容になる。このような困難な作業においては、1枚の繊維シートで補強が完了することが望ましいが、そのためには高耐力の補強用繊維シートが必要である。
【0015】
高耐力補強用繊維シートは、それに用いる繊維の単位幅あたりの繊維密度を高くすることによって得られるが、単位幅あたりの繊維密度を多くすると繊維間の空間が少なくなり樹脂の含浸性が損なわれ、繊維シートと補強される構造物の積層面との接着力が低下し十分な補強がされないことになる。特に平織りのように、たて・よこ糸の交錯点の多い織物は、高耐力シートにおいては樹脂の含浸性に問題を生じる。
【0016】
例えば高架道路の床盤補強においては、耐力35トン/m以上の繊維補強層を必要とするが、一層の補強で目的を達成できる高耐力で樹脂含浸性の良い二方向補強用繊維シートは無かった。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記従来技術の有する問題点を解消し、コンクリートや石、煉瓦製の橋梁、道路、灯台、煙突、建物などの建造物の床盤や壁面の補強をするために、補強耐力が高く、樹脂含浸性が良好であり、施工時の取り扱い性の良い高耐力二軸補強用繊維シートを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明はつぎの手段を用いることにより上記問題を解決したものである。
【0019】
(1)引っ張り強度が16cN/dtex以上の高強度繊維からなる織物からなり、下記式(a)で示す織物カバーファクター(Cf)が800〜1500であり、下記式(b)で示す交錯率(Ct)が10〜30(%)であり、かつ通気性が5〜20(cm3/cm2・Sec)であり、たて方向およびよこ方向の耐力がそれぞれ少なくとも35(トン/m)であることを特徴とする補強用繊維シート。
【0020】
Cf=(Dw)1/2×Nw+(Df)1/2×Nf −−−−(a)
Cf:織物カバーファクター
Dw:たて糸繊度(dtex)
Df:よこ糸繊度(dtex)
Nw:たて糸密度(本/cm)
Nf:よこ糸密度(本/cm)
Ct=(i×100)/(i+y) −−−−−−−−−(b)
Ct:交錯率(%)
i :完全組織のたて・よこ交錯数
y :完全組織のたて糸本数
(2)下記式(c)で示すたて糸およびよこ糸の撚り係数が4000以下であることを特徴とする前記(1)に記載の補強用繊維シート。
【0021】
K=T(D)1/2 −−−−−−−−−−−−−−−(c)
K;撚り係数
T:ヨリ数 (回/m)
D:繊度(dtex)
(3)たて糸およびよこ糸の繊度がそれぞれ1500〜5000(dtex)であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の補強用繊維シート。
【0022】
(4)高強度繊維がパラ系アラミド繊維であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の補強用繊維シート。
【0023】
(5)パラ系アラミド繊維がポリパラフェニレンテレフタルアミドであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の補強用繊維シート。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明は、たて糸とよこ糸が交錯している織物であるので、構造的にたて、よこ糸が一体となっており、たて・よこ糸間での剥離のない高強度の補強用繊維シートである。
【0025】
本発明の補強用繊維シートに用いる高強度繊維は、高耐力繊維シートを得る上で、引っ張り強度16cN/dtex以上の繊維を採用する。
【0026】
本発明で使用する高強度繊維は、有機繊維では、パラ系アラミド繊維、高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリベンゾビスオキサゾール)繊維、などがあげられる。パラ系アラミド繊維には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維やコポリパラフェニレン−3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などがある。無機繊維では、炭素繊維やステンレス繊維、ガラス繊維などがあるが、しなやかさ、軽さ、摩擦などによる繊維破損が起きにくく、また補強用繊維シートからちぎれた繊維毛羽による皮膚への刺激が無いなど、施工現場での取り扱いのし易さから、有機繊維が望ましい。
【0027】
特に単糸繊度0.5dtexから5dtexのパラ系アラミド繊維が、樹脂含浸のし易さ、施工現場での裁断などの取り扱いのし易さにおいて望ましい。中でもポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製商品名”ケブラー”)が、強度だけでなく高弾性率である点で特に好ましい。
【0028】
糸または繊維の太さをdtex(デシテックス)で表す。長さL(m)の糸または繊維の重量をW(g)とすると、糸または繊維の太さD(dtex)は、D=(W/L)x10000である。数値が大きいほど糸が太いことを示す。
【0029】
織物カバーファクター(Cf)はつぎの式(a)で計算され、織物を構成するたて糸とよこ糸がその投影面をカバーしている程度をあらわす。
【0030】
Cf=(Dw)1/2×Nw+(Df)1/2×Nf −−−−(a)
Cf:織物カバーファクター
Dw:たて糸繊度(dtex)
Df:よこ糸繊度(dtex)
Nw:たて糸密度(本/cm)
Nf:よこ糸密度(本/cm)
織物カバーファクター(Cf)が高い程、織物を構成する繊維密度は高い。従って、同じ太さの糸の織物で比較した場合、織物カバーファクターが高いほど高耐力の補強用繊維シートが得られる。繊維工学IV(日本繊維機械学会1988年12月発行)P168によれば、一般にフィラメント織物のカバーファクターは、繊度がデニール表示の場合において、300〜700の範囲にあるものが多い。繊度をdtexに換算すると、同カバーファクターは316〜738の範囲となる。
【0031】
本発明では、高耐力の織物を得るために繊維密度を高くすることが必要であり、通常の織物と異なり織物カバーファクターは800以上であり通常のフィラメント織物とは異なる。
【0032】
樹脂を含浸させて構造物を補強する補強用繊維シートにおいては、樹脂の含浸のし易さは補強の効果において、また施工作業の効率において重要である。
【0033】
樹脂の含浸性は、織物を構成するたて・よこ糸の密度と、たて・よこ糸が互いに相手を拘束する割合に影響される。たて・よこ糸の密度が少ないほど糸−糸間の空間が多く樹脂の含浸性は良い。しかしながら、高い織物引っ張り強度を得るためには、たて・よこ糸密度を高くしなければならないが、それは樹脂含浸性の向上とは相反する。本発明では織物カバーファクターは800以上である。ここで、たて・よこ糸の拘束割合を少なくする織物組織を工夫することによって高い耐力を持ち、より良好な樹脂含浸性を備えた補強用繊維シートが得られるのである。
【0034】
単位織物幅あたりの、製織可能なたて、よこ糸の最大本数を最大織り密度という。
【0035】
織物の最大織り密度は、糸の太さと織物組織によって異なる。糸繊度が細いほど、多くの糸を配列することができるので最大織り密度は大きくなる。しかしながら糸繊度が細いと織物としての強力を高くすることはできないので、本発明の補強用繊維シートの糸繊度は、細さにおいて限度があり、1500(dtex)以上が望ましい。
【0036】
たて・よこ糸の交錯割合の少ない織物組織ほど、たて・よこ糸を互いに拘束しないので、織物の単位幅あたりのたて・よこ糸を多く配列することができ、最大織り密度を高くすることができる。従って、たて・よこ糸の交錯割合の少ない織物組織は、織物のカバーファクターを高くできる。
【0037】
本発明の補強用繊維シートの織物カバーファクターは、800〜1600であり、望ましくは、900〜1500である。織物カバーファクターが800未満では高耐力繊維シートが得られないし、1600を越えるとたて・よこ糸の交錯数が極端に少ない織物組織となり現実的でない。
【0038】
つぎに織物組織と、たて・よこ糸が互いに拘束する割合について説明する。
【0039】
前記、繊維工学(IV)P142、1.5”織物組織と種類”に織物の組織と種類及び織物組織の最小単位である完全組織と、その表し方である意匠図について説明されている。ここでは織物の完全組織と意匠図の表し方を前記文献に従う。織物はたて糸とよこ糸が交錯して形成される。よこ糸の上にたて糸が配置されることを”浮き”という。方眼紙(意匠紙)を用い、つぎのように織物組織を表す。縦線の間は一本のたて糸を、横線間は一本のよこ糸を表し、方眼の一目はたてよこ糸の交錯点になる。たて糸がよこ糸の上に浮いているところを、意匠紙の方眼の一目をぬりつぶして表現し、織物組織を表す。
【0040】
図1はたて糸とよこ糸が交錯して平織りの織物組織を構成していることを示す。
よこ糸の上にたて糸が配置されることを”浮き”という。よこ糸の下にたて糸が配置されることを”沈み”という。平織り組織は、浮きと沈みが交互に配置されて作られる。図2は平織りの組織図である。ます目の中に浮きの部分を黒く塗りつぶすことによって織物組織を表している。図3は平織りの組織の最小単位を示す。織物はこの最小単位の繰り返しであり、これを完全組織という。
【0041】
図4は図1のA−A’断面の一部を示し、図3のよこ糸1がたて糸a,bと交錯しているありさまを示す。図4の中のx印はたて糸とよこ糸の交錯点を表す。ここで、タテ糸とよこ糸の交錯している部分の割合を交錯率(%)とし次式で計算する。
【0042】
Ct=(i×100)/(i+y)
Ct:交錯率(%)
i :完全組織のたて・よこ交錯数
y :完全組織のたて糸本数
交錯率Ctの数値が小さいほど、たて糸とよこ糸が交錯する割合が少ないので、織物の単位幅あたりの糸本数(糸密度)を多くすることができる。
【0043】
平織りの場合は、Ct=(2×100)/(2+2)=50(%)となる。
【0044】
図5、図6は4枚朱子の組織図及びたて糸よこ糸の交錯しているありさまを示す。
【0045】
4枚朱子の交錯率Ct=(2×100)/(2+4)=33.3(%)である。
【0046】
図7、図8は2/2綾織りの組織図及びたて糸よこ糸の交錯しているありさまを示す。
【0047】
2/2綾織りの交錯率Ct=(2×100)/(2+4)=33.3(%)である。
【0048】
複数の糸を一体となって組織させると、交錯率が少なくなり最大織り密度を大きくすることができる。
【0049】
図9は4x4バスケット組織である。たて糸及びよこ糸のそれぞれ4本が一体となって平織りと同じ組織を形作っている。図10は4x4バスケットのよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す。
【0050】
4x4バスケットの交錯率Ct=(2×100)/(2+8)=20(%)である。
【0051】
図11はたて糸及びよこ糸のそれぞれ2本が一体となって図5と同じ様な4枚朱子を組織している。これを「4枚朱子(2×2)」と表すことにする。図12は4枚朱子(2×2)のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す。
【0052】
4枚朱子(2×2)の交錯率はCt=(2×100)/(2+8)=20%である。
【0053】
図13は、たて糸よこ糸それぞれ4本が一体となって図5と同じ様な4枚朱子を組織している。これを「4枚朱子(4×4)」と表すことにする。図14は、4枚朱子(4×4)のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す。
【0054】
同組織の交錯率は、Ct=(2×100)/(2+16)=11.1(%)である。
【0055】
図15はたて糸よこ糸それぞれ4本が一体となって図7と同じような2/2綾織りを組織している。これを「2/2綾織り(4×4)」と表すことにする。
【0056】
図16は、2/2綾織り(4×4)のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す。
【0057】
同組織の交錯率は、Ct=(2×100)/(2+16)=11.1(%)である。
【0058】
同じ織物密度の織物で比較した場合、交錯率(Ct)が低いほどたて・よこ糸の交錯する割合が少なく、たて糸よこ糸が互いに拘束する割合が少ないので樹脂の含浸性は良い。
【0059】
本発明の高耐力補強用繊維シートの交錯率(Ct)は、10〜30(%)が望ましい。30(%)を越えるとたて・よこ糸の交錯する割合が多く、高密度織物が得られないし、樹脂含浸性が劣る。交錯率10(%)未満では、たて・よこ糸の交錯する割合が極端に少なく、そのため補強用繊維シートの取り扱いにおいてたて・よこ糸がずれる「目ずれ」がおこりやすく本発明に用いる織物組織として実用的でない。
【0060】
樹脂の含浸性は後述の方法で実際に補強用繊維シートに樹脂を含浸させて、樹脂の含浸状態を観察して判定する。また、通気性を測定して判断することもできる。すなわち、通気性の高い補強用繊維シートは、織物内の空隙が多いので樹脂含浸性も高い。
【0061】
補強用繊維シートとしては、JIS L−1096 6.27A法による通気性が、5(cm3/cm2・Sec)以上とするものであるが、6(cm3/cm2・Sec)以上が望ましい。通気性が5(cm3/cm2・Sec)未満の場合は、糸−糸間の空間が少ないために樹脂の含浸性が悪く、補強面と補強用繊維シートの間で十分な接着力が得られないし、補強面と補強用繊維シートの間に気泡が残り補強効果を低下させることがある。
【0062】
本発明の補強用繊維シートは、樹脂含浸性が良く、耐力35トン/m以上の二方向補強用繊維シートである。それ未満では、高い耐力を要求される道路の床盤補強などにおいて、積層枚数が多くなり効率的でない。
【0063】
たて・よこ糸の繊度は1500〜5000(dtex)が好ましい。1500dtex以下では、目的とする樹脂含浸性が良好でかつ高耐力の織物を得ることができない。5000dtexを越える糸は、この種の太い糸で高い目付の織物を製織する場合使用されるレピア織機などの織機においても、よこ糸カットミスや、レピアによるよこ糸の把持が不十分でよこ糸が糸割れし、よこ糸を構成する繊維の一部がよこ糸挿入途上で折り返し状態となって、織物として不具合を生じることがある。
【0064】
糸の太さに関係なく、撚りの程度を表す数値として、撚り係数(K)を用いる。
【0065】
樹脂含浸性の面からは、たて糸およびよこ糸に撚りを加えない方が望ましいが、製織性を考慮するとたて糸に撚りを若干加えた方が、織物準備工程の整経や製織時においてたて糸の毛羽立ちが少なく製織性が良い。一方、糸に撚りを加えると、糸を構成する繊維の繊維−繊維間の空間が減少し樹脂の含浸性を阻害し、織物への樹脂含浸性を損なう。本発明の繊維補強シートは、撚りの程度は少ない方が望ましいが、製織性を考慮して、たて糸およびよこ糸に次式で示す撚り係数K=4000以下の撚りをかけることが望ましく、K=300〜3000がより好ましい。ただし、製織可能であるならば、タテ糸のより数は0であってもよい。よこ糸のより数はK=0〜4000が好ましく、より好ましくはK=0〜3000である。
【0066】
K=T(D)1/2
K:撚り係数
T:ヨリ数 (回/m)
D:繊度(dtex)
【0067】
【実施例】
以下実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。なお、補強用繊維シートの特性の評価は、つぎの方法によって行った。
(1)繊維シートの耐力
つぎの方法により試験片を調整し、JIS K7073「炭素繊維強化プラスチックの試験方法」に準拠して測定した。測定値は、繊維シート幅1mの引っ張り強さに換算し、繊維シートの耐力とした。
【0068】
住友ゴム工業(株)のグリップボンドGB−35(エポキシ系樹脂)を、主剤と硬化剤を仕様書に従って混合し、離型フィルムの上に繊維シート目付量と同重量の樹脂を下塗りし、その上に繊維シートを貼り付けて繊維シートに樹脂を良く含浸させた後、繊維シートの目付の4割の樹脂で上塗りして樹脂含浸試験片を作成する。室温で数日放置し、樹脂の硬化を確認後フィルムより樹脂含浸した繊維シートを取り出す。これを幅12.5mm、長さ200mmの試験片にカットし、つかみ間隔100mmで引っ張り試験をする。
(2)樹脂含浸性
住友ゴム工業(株)のグリップボンドGB−35(エポキシ系樹脂)を、主剤と硬化剤を仕様書に従って混合し、離型フィルムの上に繊維シート目付量の1.4倍の重量の樹脂を塗る。その上に20x20cmの繊維シートをのせ、幅10cmの金属ローラを用い、2kgの荷重下で3回往復させた後、放置する。樹脂は、繊維シート下側から表面に向かって浸み出し、シート表面が濡れたようになる。5分後にシート表面への樹脂含浸を観察し、つぎのように判定する。
【0069】
良 : シート表面への樹脂の浸み出しがシート表面の80%以上
不可: シート表面への樹脂の浸み出しがシート表面の80%以下
(3)通気性 JIS L−1096 6.27A法によった。
【0070】
実施例1〜3
東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(引っ張り強度20.3cN/dtex、引っ張り弾性率500cN/dtex、単糸繊維2.13dtex、商品名;ケブラー)の糸条3160dtexに50(回/m)の撚りを加えて、たて糸及びよこ糸とした。この撚り糸の撚り係数は、K=2810である。レピア織機によって、織物組織4×4バスケットと4枚朱子(2×2)及び4枚朱子(4×4)を製織した。
【0071】
これらの織物の通気性はそれぞれ7.0,5.3,10.3(cm3/cm2・Sec)で樹脂含浸性が良く、高耐力の二方向繊維シートとして申し分の無いものであった。
【0072】
比較例1〜3
実施例1と同じ仕様の糸を用い、平織り、2×2バスケット、4枚朱子の織物組織で最大織物密度によって製織した。これらの織物組織の交錯率は30%以上で、通気性はそれぞれ0.7,1.5,1,7と低く、樹脂含浸性は悪かった。
【0073】
実施例4 実施例1と同じ仕様の糸を用い、2/2綾織り(4×4)を最大織物密度で製織した。織物カバーファクターが1417と高く、58トン/mの高い耐力の繊維補強シートが得られた。通気性は10.5で樹脂含浸性も良好であった。
【0074】
比較例4
実施例4と同じ仕様のたて・よこ糸を用い、2/2綾織り(5×5)を製織した。樹脂含浸性が良好な60トン/mの高耐力の繊維シートが得られた。しかし、交錯率が9.1(%)で織物構造がルーズなため、最大織物密度で製織したにも拘わらず、取り扱い中に織物のたて・よこ糸がずれる目ずれが生じるので、施工作業に支障をきたし、また補強ムラとなるので樹脂補強繊維シートとしては不適当であった。
【0075】
実施例5
実施例1と同じ糸を用い、撚り係数のみ高い、K=5620(撚り数100回/m)のたて・よこ糸を用いて4×4バスケットを最大織り密度で製織した。通気性は9.0で良好であったが、たて・よこ糸の撚りの程度が高いため、樹脂含浸性はよくなかった。
【0076】
実施例6
引っ張り強度と、引っ張り弾性率は実施例1と同じで、単糸の繊度が1.58dtexのケブラー繊維糸条1580dtexに70(回/m)の撚りを加えて、たて糸及びよこ糸とした。この撚り糸の撚り係数は、K=2782である。織物組織4枚朱子(4x4)で、最大織り密度で製織した。樹脂含浸性は良好で、耐力は40トン/mであった。
【0077】
比較例
実施例5と同じ仕様の糸条で8×8バスケットを最大織り密度で製織した。耐力は35トン/mで、繊維補強シートとして使用できるレベルであったが、通気性は3.73で樹脂含浸性が悪く、繊維補強シートとして不適当であった。
この場合、織物密度を下げることにより樹脂含浸性は、向上にすると考えられるが、同時に耐力も下がるので繊維補強シートとして不適当なものになる。
【0078】
比較例6
実施例1で使用する原糸糸条を2本合わせて6320dtexとし、35.5(回/m)の撚りを加えてたて・よこ糸とした。このときの撚り係数はK=2822である。織物組織3×3バスケットで耐力70トン/mの繊維シートの製織を試みた。
【0079】
しかし、よこ糸が太いため、レピア製織におけるステ耳のカットが正常でなく房耳の形状が著しく不揃いであった。また、太いよこ糸全部をレピアがつかむことができず、一部の繊維がレピアで把持されずよこ糸挿入時に糸割れが発生し、その部分のよこ糸が一部折り返し状態となり、製織できなかったので、通気性は測定できなかった。
【0080】
以上の結果を表1〜表4に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【発明の効果】
本発明の高耐力二方向補強用繊維シートは、高強力繊維をたて・よこ糸に用いた織物であり樹脂含浸性に優れまた、耐力が高いので道路の床盤や橋脚、建物などのコンクリート構造物、及び灯台や煙突など石や煉瓦による建造物の補強に有用であり、効率的な補強が行えるとともに施工時の取り扱い、軽量性にすぐれた工業的価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】たて糸とよこ糸が交錯して平織りの織物組織を構成していることを示す説明図である。
【図2】平織りの組織図である。
【図3】平織りの組織の完全組織図である。
【図4】図3の平織り組織の、よこ糸1がたて糸a,bと交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【図5】4枚朱子の完全組織図である。
【図6】図5の4枚朱子のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【図7】2/2綾織りの完全組織図である。
【図8】図7の2/2綾織りの組織のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【図9】4x4バスケットの完全組織図である。
【図10】図9の4x4バスケットのよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【図11】4枚朱子(2×2)の完全組織図である。
【図12】図11の4枚朱子(2×2)のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【図13】4枚朱子(4x4)の完全組織図である。
【図14】図13の4枚朱子(4×4)のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【図15】2/2綾織り(4×4)の完全組織図である。
【図16】図16の2/2綾織り(4×4)のよこ糸1がたて糸と交錯しているありさまを示す織物断面概略図である。
【符号の説明】
1,2,3・・組織図中のよこ糸
a,b,c・・組織図中のたて糸
x・・たて糸とよこ糸の交錯点
Claims (5)
- 引っ張り強度が16cN/dtex以上の高強度繊維からなる織物からなり、下記式(a)で示す織物カバーファクター(Cf)が800〜1500であり、下記式(b)で示す交錯率(Ct)が10〜30(%)であり、かつ通気性が5〜20(cm3/cm2・Sec)であり、たて方向およびよこ方向の耐力がそれぞれ少なくとも35(トン/m)であることを特徴とする補強用繊維シート。
Cf=(Dw)1/2×Nw+(Df)1/2×Nf −−−−(a)
Cf:織物カバーファクター
Dw:たて糸繊度(dtex)
Df:よこ糸繊度(dtex)
Nw:たて糸密度(本/cm)
Nf:よこ糸密度(本/cm)
Ct=(i×100)/(i+y) −−−−−−−−−(b)
Ct:交錯率(%)
i :完全組織のたて・よこ交錯数
y :完全組織のたて糸本数 - 下記式(c)で示すたて糸およびよこ糸の撚り係数が4000以下であることを特徴とする請求項1に記載の補強用繊維シート。
K=T(D)1/2 −−−−−−−−−−−−−−−(c)
K;撚り係数
T:ヨリ数 (回/m)
D:繊度(dtex) - たて糸およびよこ糸の繊度がそれぞれ1500〜5000(dtex)であることを特徴とする請求項1または2に記載の補強用繊維シート。
- 高強度繊維がパラ系アラミド繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の補強用繊維シート。
- パラ系アラミド繊維がポリパラフェニレンテレフタルアミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の補強用繊維シート。
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