JP3649870B2 - 連続鋳造用鋳型 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶射によって長片、及び短片の内面を硬くし、長寿命化が図れる連続鋳造用鋳型に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、溶鋼を連続鋳造する連続鋳造機の一形態として、図16に示す湾曲型連続鋳造機Gが広汎に使用されている。この湾曲型連続鋳造機Gは、平行に支持された一対のバックフレーム80間に、2つの連続鋳造用鋳型Hを配置してなる2ストランドタイプの連続鋳造機である。なお、それぞれの鋳型Hは、図17に示すように、一対の長片81、81aと、この一対の長片81、81aの間に配置された一対の短片82、82aとを備えたものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の鋳型Hにおいては、溶鋼を連続鋳造する際、この鋳型Hの内面と鋳片83との間にパウダーを介在させているが、それでも、鋳片殻が厚くなる鋳型Hの下部では、この厚くて硬い鋳片殻によって、軟質な鋳型Hの内面が摩耗する。このため、鋳型Hの寸法が変わって、鋳片83の寸法精度が低下するほか、鋳型Hと鋳片83との間にエアーギャップが生じて、鋳片殻の厚みが不均一となり、鋳片83に縦割れが生じ易くなる。
また、溶鋼を連続鋳造する際、この鋳型Hの長片81、81a、及び短片82、82aはそれぞれ熱膨張する(特に、溶鋼のメニスカス近傍部位で顕著である(図18(e)参照))。この際、例えば、図18(a)に示すように、各短片82、82aの両端部の内側部分が中に張り出す、コーナー張り出し部84が生じ、連続鋳造終了後、このコーナー張り出し部84を“コーキングハンマー”等で叩いて、元に戻す作業が必要となる。
【0004】
また、図18(b)に示すように、それぞれの短片82、82aが熱膨張して、その両端部の内側部分が、各長片81、81aの内面に食い込んで、押し疵85が生じると、連続鋳造終了時、又は連連鋳の取鍋交換期など、鋳型H内の溶鋼量が少なくなって、各短片82、82aが熱収縮したとき、図18(c)に示すように、コーナーギャップgが生じる。このため、次の連続鋳造の際、このコーナーギャップgに溶鋼等が差し込んで、安定操業ができなくなる。
即ち、各長片81、81aの両側内部に冷却水を通すスリットを設けなかった場合、鋳型内コーナー部での冷却能が低くなって、前記コーナーギャップgに差し込んだ溶鋼が凝固し難くなり、鋳片殻を厚く形成することができなくなって、拘束性ブレークアウトが発生し易くなる。
【0005】
また、最近では、それぞれの短片82、82aを、各長片81、81aの長手方向に沿ってスライドさせる、幅可変の鋳型が主流となってきている。ところが、この場合、図18(d)に示すように、それぞれの長片81、81aの内面に擦り疵hが発生する。このため、上述したパウダーが下方へ流れようとしても、この擦り疵h内に入り込んでしまい、鋳型Hと鋳片83との間に満遍なく介在させることができない。
従って、鋳型内面に鋳片殻が溶着してブレークアウトが発生するほか、鋳型Hの冷却能が不均一となって、鋳片83に縦割れが発生するなど、鋳片品質が低下する。また、上述したようなコーナーギャップg、擦り疵hによって、鋳型内面の摩耗が著しくなるという問題もある。
そこで、本発明者等は、図19(a)、(b)に示すように、それぞれの長片86の母材87の内面全面にNiめっき88を形成すると共に、このNiめっき88の上面全面にCrめっき89を形成した鋳型を提案した。
【0006】
また、特公昭60−39454号公報には、長片の母材において、各短片が摺動当接する両内側側部、及び、鋳片殻が触れる内側下部に、それぞれNiめっきを形成すると共に、このNiめっきを覆って、母材の内面全面にNi合金めっきを形成し、更に、このNi合金めっきの上面全面にCrめっきを形成した鋳型が提案されている。
ところが、この場合、図19(a)、(b)に示すように、Crめっき89に局部的な剥離jが生じると、この表層のCrめっき89と、その下地層であるNiめっき88との間、また、前記公報記載の鋳型においては、表層のCrめっきと、その下地層のNi合金めっきとの間に電位差が生じて、局部電池が構成され(図19(c)参照)、孔食pが進む(図19(d)、(e)参照)という問題がある。
そこで、本発明者等は、更に、図20、図21に示す鋳型を提案した。
【0007】
即ち、この鋳型は、上述した表層のCrめっきを除いたものであり、長片93においては、図20に示すように、その母材90の内面全面にNiめっき91を形成すると共に、このNiめっき91の上面で、鋳片殻が触れる内側下部91a、及び、その両内側側部分で、上側部分を除く部分91bに、それぞれ、Ni−Coめっき92、92aを形成し、短片97においては、図21に示すように、その母材94の内面全面にNiめっき95を形成すると共に、その内側下部95aにNi−Coめっき96を形成したものである。
ところが、この場合、前記孔食の問題は解決されるものの、上述したコーナーギャップgや、擦り疵h、更に、これらに起因する鋳型の短命化の問題を解決することができず、約500チャージ程度で交換する必要があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、長片や短片の内面に硬くて緻密な溶射皮膜層を形成して、長寿命化が図れる連続鋳造用鋳型を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う請求項1記載の連続鋳造用鋳型は、一対の長片と、該一対の長片間に配置された一対の短片とを有する連続鋳造用鋳型であって、
前記各短片が摺動当接する前記長片の両内側側部、及び、凝固した鋳片殻が触れる前記長片の内側下部に、自溶性合金の第1の溶射皮膜層がそれぞれ形成されていると共に、前記鋳片殻が触れる前記短片の内側下部にも、自溶性合金の第2の溶射皮膜層がそれぞれ形成され、前記長片の内側上部で、少なくとも前記第1の溶射皮膜層に隣接する部分、及び前記短片の内側上部で少なくとも前記第2の溶射皮膜層に隣接する部分に、Ni又はNi合金めっきがそれぞれ形成されており、
しかも、前記長片及び短片の内側下部にそれぞれ前記第1、第2の溶射皮膜層が形成される領域は、その全高の2/5〜3/5であって、
前記第1、第2の溶射皮膜層に隣接する部分に形成される厚みが0.1〜2mmの前記Ni又はNi合金めっきの表面硬度は、それぞれ前記長片及び短片の母材の表面硬度と前記第1、第2の溶射皮膜層の表面硬度の中間の表面硬度であって、
更に、前記第1、第2の溶射皮膜層は、10〜50μmの自溶性合金粉末を原料として、高温及び高速のガスジェットを用いる高速火炎溶射によって形成された表面硬度Hv600以上の溶射皮膜からなる。なお、長片の両内側側部と内側下部だけ第1の溶射皮膜層を形成したり、逆に、短片の内側下部だけ第2の溶射皮膜層を形成することも可能である。
【0009】
また、長片の内側上部で、少なくとも第1の溶射皮膜層に隣接する部分だけNi又はNi合金めっきを形成したり、逆に、短片の内側上部で、少なくとも第2の溶射皮膜層に隣接する部分だけNi又はNi合金めっきを形成することも可能である。また、前記Ni合金めっきには、Ni−Coめっき、Ni−Feめっき等が含まれる。
【0010】
更に、請求項記載の連続鋳造用鋳型は、請求項記載の連続鋳造用鋳型において、前記長片の内側上部、及び、前記短片の内側上部の表層には、Crめっきがそれぞれ形成されている。なお、長片の内側上部の表層だけCrめっきを形成したり、逆に、短片の内側上部の表層だけCrめっきを形成することも可能である。また、前記Crめっきは、鋳型の母材表面に直接形成したり、この母材表面に形成されたNi又はNi合金めっき上に形成してもよい。
【0011】
ここで、長片の両内側側部とは、(1)幅固定の鋳型において短片が当接する部位、(2)幅可変の鋳型において短片が摺動当接する部位をいう。また、溶鋼を連続鋳造する際、短片両端部の内側部分が中に張り出す場合(図18(a)参照)を考慮して、若干広め(例えば、10〜20mm程度)にすることも可能である。
また、長片や短片の内側下部とは、溶鋼を連続鋳造する際、鋳片殻(鋳片であってもよい)が触れる部位であれば、特に、規定されるものではない。もちろん、この内側下部の範囲を、溶鋼の連続鋳造の際、この鋳型内に貯溜される溶鋼のメニスカスより下側にすると、最も高温となるメニスカス近傍の熱の影響を受けて、第1、第2の溶射皮膜層にヒートクラックが生じたり、最悪の場合、第1、第2の溶射皮膜層が剥離したりするのを防止できる。
【0012】
具体的には、長片や短片の下端より、その全高(L1 )の約2/5〜3/5程度とする。これは、前記「内側下部」の範囲が、前記下端より、全高の2/5未満になると、第1、第2の溶射皮膜層による鋳型の摩耗防止効果が低下し、特に、全高の1/5未満になると、その傾向が著しくなり、逆に、全高の3/5を超えると、製造コストが高騰すると共に、上述した如く、第1、第2の溶射皮膜層にヒートクラックが生じ易くなるからである。
なお、上述した部位に第1、第2の溶射皮膜層を形成する方法としては、高速火炎溶射法を適用する。高速火炎溶射の火炎(フレーム)速度が通常の火炎溶射(約300m/秒)やプラズマ溶射(約800m/秒)に比較して大きい(約2000〜2700m/秒)ので、上述した部位に硬くて、しかも、緻密な溶射皮膜層を形成することができ、長寿命化が図れるからである。
【0013】
また、Ni又はNi合金めっきは、長片の内側上部で、しかも、内側下部との隣接部分、また、短片の内側上部で、しかも、内側下部との隣接部分だけでなく、前記長片の内側上部、また、短片の内側上部全域に形成してもよい。
この際、前記隣接部分にNi又はNi合金めっきを形成すると、長片や短片の内側上部と溶射皮膜層との境界部分で、硬さの相違に依る局部的な摩耗が生じるのを防止することができ、また、前記内側上部全域にNi又はNi合金めっきを形成すると、銅製又は銅合金製の母材が酸化して脆くなるのを防止できる。
なお、前記隣接部分に形成されたNi又はNi合金めっきの上にCrめっきを形成することも可能である。また、前記溶射皮膜層やNi又はNi合金めっきの厚みを、長片や短片の上部より下部にかけて厚くしていくと、鋳片に対する耐摩耗性を向上できる。
【0014】
従って、請求項1、2記載の連続鋳造用鋳型においては、長片の内側下部や、短片の内側下部に、緻密で硬い自溶性合金の第1、第2の溶射皮膜層を形成したので、鋳片に依る摩耗を防止して、鋳型の長寿命化が図れると共に、前記摩耗に依る鋳片の寸法精度の低下、鋳片品質の低下を防止して歩留りを向上できる。
また、長片の両内側側部にも、緻密で硬い自溶性合金の第1の溶射皮膜層を形成したので、連続鋳造時の短片の膨張・収縮に依る押し疵や擦り疵の発生を防止できると共に、この押し疵や擦り疵に依る拘束性ブレークアウト等の発生を防止して、安定操業を可能にできるほか、鋳片品質が低下して歩留りが低下するのを防止できる。また、上述した部位に、予め適当な粗面化処理を施すと、付着が良く、脱落の生じ難い第1、第2の溶射皮膜層となることはいうまでもない。
【0015】
特に、請求項記載の連続鋳造用鋳型においては、長片の内側上部で、しかも、第1の溶射皮膜層(即ち、両内側側部、及び内側下部)に隣接する部分や、短片の内側上部で、しかも、第2の溶射皮膜層(即ち、内側下部)に隣接する部分に、前記長片や短片の母材の表面硬度と、前記第1、第2の溶射皮膜層の表面硬度の中間の表面硬度を有するNi又はNi合金めっきを形成したので、溶鋼を連続鋳造する際、凝固した鋳片殻を連続的に下方に引き抜くとき、母材と第1、第2の溶射皮膜層の硬さの違いにより、上述した隣接部分に局部摩耗が発生するのを防止することができる。
更に、請求項記載の連続鋳造用鋳型においては、長片や短片の内側上部の表層に、Crめっきを形成したので、母材が酸化して脆くなるのを防止することができ、更に、長寿命化を図ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。なお、各実施の形態につき同様な構成については同一の符号を付して説明を省略する。
(第1の実施の形態)
まず、図1〜図3を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Aについて説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Aが、従来の連続鋳造用鋳型Hと異なるのは、図示するように、それぞれの短片15、15aが摺動当接する各長片11、11aの両内側側部12aと、凝固した鋳片殻(図示せず)が摺動当接する内側下部12bに、それぞれ、Ni、Cr、Si、B等の一種又は二種以上の自溶性合金粉末を溶射してなる厚み(t3 、t4 )0.1〜2mm、表面硬度Hv600以上の第1の溶射皮膜層13、14をそれぞれ形成した点と、各短片15、15aの内側下部16aにも、Ni、Cr、Si、B等の一種又は二種以上の自溶性合金粉末を溶射してなる厚み(t7 )0.1〜2mm、表面硬度Hv600以上の第2の溶射皮膜層17をそれぞれ形成した点である。
なお、本実施の形態では、第1の溶射皮膜層13の横幅(L4 )は、それぞれ、各短片15、15aの摺動範囲とし、第1、第2の溶射皮膜層14、17の縦幅(L5 、L6 )は、各長片11、11a、及び、各短片15、15aの全高(L1 )の1/5〜3/5とした。
【0017】
次に、図1、図2、図3を参照して、上述した構成を有する連続鋳造用鋳型Aの製造方法について説明する。初めに、長片11の製造方法について説明する。
まず、銅製又は銅合金製の母材12の両内側側部12a、及び、内側下部12bを、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、有機溶剤を用いて脱脂し、その後、ブラスト処理による粗面化処理を行う。
この際、表面粗度Rzは50〜150μmの範囲で選択する。これは、表面粗度Rzを50μm未満とすると、表面が滑らか過ぎて溶射皮膜の密着力が10kg/cm2 以下と小さくなり、表面粗度Rzが150μmを超えると、溶射皮膜の表面粗度が大きくなって離型性が悪くなるからである。
また、この場合、ブラスト材(グリッド)としては、アルミナ、スチール、サンド等が使用できるが、中でもアルミナがよい。溶射皮膜の投錨効果を大きくできるからである。そして、上述した粗面化処理を行った部位に、図4に示すように、自溶性合金粉末を好ましくは高速火炎溶射機18を用いて、内側上部12cと面一になるよう、第1の溶射皮膜層13、14を形成する。
【0018】
この際、前記高速火炎溶射は、灯油(ケロシン)を燃料とし、酸素を用いて化合させて2400〜2700℃の高温で、2500〜2700m/秒の高速ガスジェットを作り、これに自溶性合金粉末を乗せて溶融させて、高速度(例えば、約750m/秒)で溶射材料を母材12の両内側側部12a、内側下部12bに吹き付けて凝固・接合させる。
この場合、溶射する自溶性合金粉末の粒度は、10〜50μmの範囲で選定する。これは、例えば、自溶性合金粉末の粒度が10μm未満の場合には、製造価格が高騰すると共に、溶射される自溶性合金粉末の運動量が小さくなって、自溶性合金粉末が気流に流され易くなり、逆に、50μmを超えると、溶射皮膜が粗くなって実質的強度が落ちる傾向が現れるからである。
また、短片15を製造する場合は、まず、母材16の内側下部16aを、前記と同様、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、この研削した内側下部16aに粗面化処理を行う。
そして、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、内側上部16bと面一になるよう、前記と同じ溶射条件で、第2の溶射皮膜層17を形成する。なお、長片11a、短片15aの製造方法は、前記長片11、短片15と同様なものなので、説明を省略する。
【0019】
以上のように本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Aによれば、長片11、11aの両内側側部12aと内側下部12bに、それぞれ、自溶性合金の第1の溶射皮膜層13、14を形成すると共に、短片15、15aの内側下部16aにも、自溶性合金の第2の溶射皮膜層17を形成したので、押し疵や擦り疵の発生を防止することができ、連続鋳造用鋳型Aの長寿命化を図ることができる。
また、例えば、プラズマ溶射等に比べ、火炎速度の速い高速火炎溶射を適用した場合は、上述した部位に形成された第1、第2の溶射皮膜層13、14、17の密度を高めることができ、更に長寿命化を図ることができる。
【0020】
(第2の実施の形態)
次に、図1、図5、図6を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Bについて説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Bが、前記連続鋳造用鋳型Aと異なるのは、図示するように、各長片20、20aの内側上部12cで、しかも第1の溶射皮膜層14に隣接する帯状部分12eに、母材21の表面硬度(約Hv100程度)と第1の溶射皮膜層13、14の表面硬度(Hv600以上)の中間の表面硬度(本実施の形態ではHv200程度)を有する厚み(t8 、t5 )0.1〜2mmのNiめっき22をそれぞれ形成した点と、各短片23、23aの内側上部16bで、しかも第2の溶射皮膜層17と隣接する帯状部分16cにも、母材24の表面硬度(約Hv100程度)と第2の溶射皮膜層17の表面硬度(Hv600以上)の中間の表面硬度(本実施の形態では約Hv200程度)を有する厚み(t9 )0.1〜2mmのNiめっき25をそれぞれ形成した点である。
なお、本実施の形態では、各Niめっき22、25の縦幅(L7 、L8 )は、各長片20、20a、及び、各短片23、23aの内側上部12c、16bの縦幅(L20、L21)の1/10〜3/10とした。
【0021】
次に、図1、図5、図6を参照して、上述した構成を有する連続鋳造用鋳型Bの製造方法について説明する。初めに、長片20の製造方法について説明する。
まず、母材21の両内側側部12a、内側下部12b、及び帯状部分12eを、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、12eの部位に、非研削部位(内側上部)と面一になるよう、Niめっきを形成する。この際のめっき条件としては例えば、水1リットル中に、S−Ni(スルファミン酸Ni)を350g、塩化Niを5g、硼酸を30g溶かした電解液を使用し、液温45〜60℃、電流密度3A/dm2 で行うことができる。
そして、両内側側部12a、及び、内側下部12bのNiめっき22との境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき22と後述の溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、内側上部12cと面一になるよう、前記と同じ溶射条件で、第1の溶射皮膜層13、14を形成する。そして、最後に溶射後は12a、12b、12c、12eを含む全面を面一に研削加工する。
また、短片23を製造する場合は、まず、母材24の内側下部16a、及び帯状部分16cを、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、16cの部位に、非研削部位(内側上部)と面一になるよう、前記と同じめっき条件で、Niめっきを形成する。
【0022】
そして、内側下部16aのNiめっき25との境界部分又は全部を、前記と同様、平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき25と後述の溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、内側上部16bと面一になるよう、前記と同じ溶射条件で、第2の溶射皮膜層17を形成する。溶射後に16a、16b、16cを含む全面を面一に研削加工する。なお、長片20a、短片23aの製造方法も、前記長片20、短片23と同様なものなので、説明を省略する。
以上のように本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Bによれば、本発明の第1の実施の形態と同様の効果が得られる他、長片20、20aの内側上部12cで、しかも、第1の溶射皮膜層14に隣接する帯状部分12eや、短片23、23aの内側上部16bで、しかも、第2の溶射皮膜層17と隣接する帯状部分16cに、それぞれ、母材21、24と第1、第2の溶射皮膜層13、14、17の中間の表面硬度を有するNiめっき22、25を形成したので、長片20、20aや短片23、23aの内側上部12c、16bより、内側下部12b、16aに亘って、硬さの不連続性に起因する局部摩耗の発生を防止することができる。
【0023】
(第3の実施の形態)
次に、図1、図7を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Cについて説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Cが、前記連続鋳造用鋳型Aと異なるのは、図示するように、各長片26、26aの内側上部12cで、しかも、第1の溶射皮膜層13に隣接するI字状部分12fに、それぞれ、母材27の表面硬度(約Hv100程度)と第1の溶射皮膜層13、14の表面硬度(Hv600以上)の中間の表面硬度(本実施の形態ではHv200程度)を有する厚み(t10、t5 )0.1〜2mmのNiめっき28をそれぞれ形成した点である。
なお、本実施の形態では、各Niめっき28の横幅(L9 )は、各長片26、26aの内側上部12cの横幅(L22)の1/10〜3/10とした。また、短片は、前記連続鋳造用鋳型Bの短片23、23aと同様なものなので説明を省略する。
【0024】
次に、図7を参照して、上述した構成を有する連続鋳造用鋳型Cの長片26の製造方法について説明する。
まず、母材27の両内側側部12a、内側下部12b、及びI字状部分12fを、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、12fの部位に、非研削部位(内側上部)と面一になるよう、前記と同じめっき条件で、Niめっきを形成する。そして、両内側側部12a、及び、内側下部12bのNiめっき28との境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき28と、後述の溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、内側上部12cと面一になるよう、前記と同じ溶射条件で、第1の溶射皮膜層13、14を形成する。そして、最後に溶射後は12a、12b、12c、12fを含む全面を面一に研削加工する。なお、長片26aの製造方法は前記と同様なものなので説明を省略する。
【0025】
以上のように本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Cによれば、本発明の第1の実施の形態と同様の効果が得られる他、長片26、26aの内側上部12cで、しかも、両内側側部12aに隣接するI字状部分12fに、それぞれ、母材27と第1の溶射皮膜層13、14の中間の表面硬度を有するNiめっき28を形成したので、前記内側上部12cと前記両内側側部12aの境界部分すなわちI字状部分12fに、母材27と第1の溶射皮膜層13の熱伝導率の差に起因するヒートクラック、及び第1の溶射皮膜層13の剥離が生じるを防止できる。
【0026】
(第4の実施の形態)
次に、図1、図8を参照して、本発明の第4の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Dについて説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Dが、前記連続鋳造用鋳型Aと異なるのは、図示するように、各長片30、30aの内側上部12cで、しかも、第1の溶射皮膜層13、14に隣接するU字状部分12dに、母材31の表面硬度(約Hv100程度)と第1の溶射皮膜層13、14の表面硬度(Hv600以上)の中間の表面硬度(本実施の形態ではHv200程度)を有する厚み(t8 、t10、t5 )0.1〜2mmのNiめっき32をそれぞれ形成した点である。
なお、本実施の形態では、各Niめっき32の縦幅(L7 )は、各長片30、30aの内側上部12cの縦幅(L20)の1/10〜3/10、各Niめっき32の横幅(L9 )は、各長片30、30aの内側上部12cの横幅(L22)の1/10〜3/10とした。また、短片は、前記連続鋳造用鋳型Bの短片23、23aと同様なものなので、説明を省略する。
【0027】
次に、図8を参照して、上述した構成を有する連続鋳造用鋳型Dの長片30の製造方法について説明する。
まず、母材31の両内側側部12a、内側下部12b、及びU字状部分12dを、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、12dの部位に、非研削部位(内側上部)と面一になるよう、前記と同じめっき条件で、Niめっきを形成する。そして、両内側側部12a、及び、内側下部12bのNiめっき32との境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき32と、後述する溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、内側上部12cと面一になるよう、前記と同じ溶射条件で、第1の溶射皮膜層13、14を形成する。そして、最後に溶射後は12a、12b、12c、12dを含む全面を面一に研削加工する。なお、長片30aの製造方法は前記と同様なものなので説明を省略する。
【0028】
以上のように本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Dによれば、本発明の第1の実施の形態と同様の効果が得られる他、長片30、30aの内側上部12cで、しかも、第1の溶射皮膜層13、14に隣接するU字状部分12dに、それぞれ、Niめっき32を形成したので、本発明の第2、第3の実施の形態と同様、長片30、30aの内側上部12cより、内側下部12bに亘って、硬さの不連続性に起因する局部摩耗の発生を防止できると共に、母材31と第1の溶射皮膜層13の熱伝導率の差に起因するヒートクラック、及び第1の溶射皮膜層13の剥離の発生を防止できる。
【0029】
(第5の実施の形態)
次に、図1、図9、図10を参照して、本発明の第5の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Eについて説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Eが、前記連続鋳造用鋳型Aと異なるのは、図示するように、各長片34、34aの内側上部12c全面に厚み(t11、t5 )0.1〜2mmのNiめっき36をそれぞれ形成すると共に、各短片37、37aの内側上部16b全面にも厚み(t12)0.1〜2mmのNiめっき39をそれぞれ形成した点である。
【0030】
次に、図9、図10を参照して、上述した構成を有する連続鋳造用鋳型Eの製造方法について説明する。始めに、長片34の製造方法について説明する。
まず、母材35の内側全面を、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、12cの部位全面に、前記と同じめっき条件で、厚み約0.1〜2mm程度のNiめっきを形成する。そして、両内側側部12a、及び、内側下部12bのNiめっき36との境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき36と、後述する溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、内側上部12cと面一になるよう、前記と同じ溶射条件で、第1の溶射皮膜層13、14を形成する。そして、最後に溶射後は12a、12b、12cを含む全面を面一に研削加工する。
【0031】
また、短片37を製造する場合は、まず、母材38の内側全面を、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、16bの部位に、前記と同じめっき条件で、厚み約0.1〜2mm程度のNiめっきを形成する。そして、内側下部16aのNiめっき39との境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき39と、後述する溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、前記と同じ溶射条件で、第2の溶射皮膜層17を形成する。そして、最後に溶射後は16a、16bを含む全面を面一に研削加工する。なお、長片34a、短片37aの製造方法も、前記と同様なものなので、説明を省略する。
【0032】
以上のように本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Eによれば、本発明の第1の実施の形態と同様の効果が得られる他、長片34、34aの内側上部12c、及び、短片37、37aの内側上部16bに、それぞれ、Niめっき36、39を形成したので、母材35、38が酸化して脆くなるのを防止することができ、更に、長寿命化を図ることができる。
【0033】
(第6の実施の形態)
次に、図1、図11、図12を参照して、本発明の第6の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Fについて説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Fが、前記連続鋳造用鋳型Aと異なるのは、図示するように、各長片40、40aの内側上部12cに、Niめっき42(厚み(t13、t14)0.1〜2mm)、及びCrめっき43(厚み(t15)0.02〜0.1mm)を積層すると共に、各短片44、44aの内側上部16bにも、Niめっき46(厚み(t16)0.1〜2mm)、及びCrめっき47(厚み(t17)0.02〜0.1mm)を積層した点である。
【0034】
次に、図11、図12を参照して、上述した構成を有する連続鋳造用鋳型Fの製造方法について説明する。初めに、長片40の製造方法について説明する。
まず、母材41の内側全面を、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、12cの部位に、前記と同じめっき条件で、厚み約0.1〜2mm程度のNiめっきを形成する。そして、両内側側部12a、及び、内側下部12bのNiめっき42との境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき42と、後述する溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、前記と同じ溶射条件で、第1の溶射皮膜層13、14を形成する。溶射後は13、14、12cのNiめっき面を含む全面を面一に研削加工する。そして、最後に、Niめっき42の上面を、更に表面仕上げした後、その上面に、公知の方法によりCrめっき43を形成する。
【0035】
また、短片44を製造する場合は、まず、母材45の内側全面を、図示しない平面研削機で約0.1〜2mm程度削り取った後、16bの部位に、前記と同じめっき条件で、厚み約0.1〜2mm程度のNiめっきを形成する。そして、内側下部16aのNiめっきとの境界部分又は全部を、前記と同様、図示しない平面研削機で表面から約0.1〜2mm程度研削する。これによりNiめっき46と、後述する溶射皮膜の境界面が形成される。次に、この研削部位を粗面化した後、前記と同様、好ましくは高速火炎溶射機18(図4参照)を用いて、前記と同じ溶射条件で、第2の溶射皮膜層17を形成する。溶射後は17、16bのNiめっき面を含む全面を面一に研削加工する。そして、最後に、Niめっき46の上面を更に表面仕上げした後、その上面に、前記と同じめっき条件で、Crめっき47を形成する。なお、長片40a、短片44aの製造方法も前記と同様なものなので説明を省略する。
【0036】
以上のように本実施の形態に係る連続鋳造用鋳型Fによれば、本発明の第1の実施の形態と同様の効果が得られるほか、長片40、40aや短片44、44aの内側上部12c、16bの表層に硬いCrめっき43、47を形成したので、本発明の第5の実施の形態に比較して、更に耐摩耗性を向上できる。
【0037】
【実施例】
次に、図1〜図12を参照して、本実施の形態に係る連続鋳造様鋳型A〜Fの耐摩耗性の確認試験を行った結果について説明する。
(実施例1〜7、比較例1〜3)
まず、図1〜図12に示す連続鋳造用鋳型A〜F(実施例1〜6)を準備する。この際、長片と短片の縦幅(L1 )、長片の横幅(L2 )、短片の横幅(L3 )、長片と短片の最大厚み(t1 、t2 )は表1、表2に示す通りとし、また、長片の内面と短片の両側面の曲率半径(φ)は10500mmとした。
【0038】
また、長片の第1の溶射皮膜層13の横幅(L4 )、その上、下端の厚み(t3 、t4 )、また、第1の溶射皮膜層14の縦幅(L5 )、その上、下端の厚み(t5 、t6 )、更に、短片の第2の溶射皮膜層17の縦幅(L6 )、その上、下端に亘って一様な厚み(t7 )も、表1、表2に示す通りとした。
【0039】
なお、長片と短片の第1、第2の溶射皮膜層13、14、17の化学組成は、表3に示す通りとする。
【0040】
【表1】
Figure 0003649870
【0041】
【表2】
Figure 0003649870
【0042】
【表3】
Figure 0003649870
【0043】
また、図1、図5、図6に示す連続鋳造用鋳型B(実施例2)においては、長片20、20aのNiめっき22の縦幅(L7 )は50mm、その上、下端の厚み(t8 、t5 )は、それぞれ、0.5mm、0.5mm(表2参照)、また、短片23、23aのNiめっき25の縦幅(L8 )は50mm、その上、下端に亘って一様な厚み(t9 )は0.5mmとした。
【0044】
また、図1、図6、図7に示す連続鋳造用鋳型C(実施例3)においては、長片26、26aのNiめっき28の横幅(L9 )は50mm、その上、下端の厚み(t10、t5 )は、それぞれ、0.5mm、0.5mm(表2参照)とした。なお、短片23、23aのNiめっき25の縦幅(L8 )、その厚み(t9 )は、前記と同様、50mm、0.5mmとした。
【0045】
また、図1、図6、図8に示す連続鋳造用鋳型D(実施例4)においては、長片30、30aのNiめっき32の縦幅(L7 )、横幅(L9 )、その上、下端厚み(t8 、t10、t5 )は、前記と同様、50mm、50mm、0.5mm、0.5mm、0.5mm(表2参照)とした。なお、この場合も、短片23、23aのNiめっき25の縦幅(L8 )、その厚み(t9 )は、前記と同様、50mm、0.5mmとした。
【0046】
また、図1、図9、図10に示す連続鋳造用鋳型E(実施例5)においては、長片34、34aのNiめっき36の上、下端の厚み(t11、t5 )は0.5mm、0.5mm(表2参照)、また、短片37、37aのNiめっき39の上、下端に亘って一様な厚み(t12)は0.5mmとした。
【0047】
また、図1、図11、図12に示す連続鋳造用鋳型F(実施例6)においては、長片40、40aのNiめっき42の上、下端の厚み(t13、t14)は、それぞれ、0.3mm、0.5mm、Crめっき43の上、下端に亘って一様な厚み(t15)は0.03mm、また、短片44、44aのNiめっき46の上、下端に亘って一様な厚み(t16)は1.0mm、Crめっき47の上、下端に亘って一様な厚み(t17)は0.03mmとした。
【0048】
また、図1、図6、図11に示す長片40、40aと短片23、23aを有する連続鋳造用鋳型(実施例7)も準備した。この際、長片40、40aのNiめっき42の上、下端の厚み(t13、t14)、Crめっき43の厚み(t15)は、前記と同様、0.3mm、0.5mm、0.03mmとし、また、短片23、23aのNiめっき25の縦幅(L8 )、その厚み(t9 )は前記と同様、50mm、0.5mmとした。
【0049】
更に、比較例として、図13に示す長片50と短片52を有する連続鋳造用鋳型(比較例1)、図14に示す長片55と短片60を有する連続鋳造用鋳型(比較例2)、図15に示す長片65と短片67を有する連続鋳造用鋳型(比較例3)を準備した。
【0050】
なお、図13に示す連続鋳造用鋳型(比較例1)は、長片50の内側下部50aにNiめっき51を形成すると共に、短片52の内側下部52aにNiめっき53を形成したもので、長片50と短片52の各寸法(L1 〜L3 、L5 、L6 、t1 、t2 、t5 〜t7 )は表1、表2に示す通りとした。また、長片50の内面と短片52の両側面の曲率半径(φ)も前記と同様10500mmとした。
【0051】
また、図14に示す連続鋳造用鋳型(比較例2)は、長片55の内側下部55aにNi−Coめっき(Ni:Co=1:9)56を形成すると共に、その内側上部55bにNiめっき57とCrめっき58を積層する一方、短片60の内側下部60aにNi−Coめっき(Ni:Co=1:9)61を形成すると共に、その内側上部60bにNiめっき62とCrめっき63を積層したものである。
【0052】
そして、この場合、長片55のNiめっき57の上、下端の厚み(t13、t14)、Crめっき58の上、下端に亘って一様な厚み(t15)は、それぞれ、0.3mm、0.5mm、0.03mm、また、短片60のNiめっき62の上、下端に亘って一様な厚み(t16)、Crめっき63の上、下端に亘って一様な厚み厚み(t17)は、それぞれ1.0mm、0.03mmとした。
【0053】
なお、この場合も、長片55と短片60の各寸法(L1 〜L3 、L5 、L6 、t1 、t2 、t5 〜t7 )は表1、表2に示す通りとし、また、長片55の内面と短片60の両側面の曲率半径(φ)も前記と同様10500mmとした。
【0054】
また、図15に示す連続鋳造用鋳型(比較例3)は、長片65の内側下部65aに表3に示す化学組成の自溶性合金粉末をプラズマ溶射して溶射皮膜層66を形成すると共に、短片67の内側下部67aに表3に示す化学組成の自溶性合金粉末をプラズマ溶射して溶射皮膜層68を形成したものである。
【0055】
そして、この場合も、長片65と短片67の各寸法(L1 〜L3 、L5 、L6 、t1 、t2 、t5 〜t7 )は表1、表2に示す通り、また、長片65の内面と短片67の両側面の曲率半径(φ)も前記と同様10500mmとした。
【0056】
そして、各連続鋳造用鋳型A〜Fを実機に搭載して使用したところ、表4に示すように、比較例1の寿命を1とした(約100チャージ程度)とき、比較例2、3では、多少寿命を延長できたが、実施例1〜7では、遙に(約3000チャージ程度)寿命延長できることが確認された。
【0057】
【表4】
Figure 0003649870
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、本発明の第1〜第6の実施の形態では、幅可変の鋳型A〜Fについて説明したが、幅固定の鋳型であってもよい。この場合、各短片が当接する長片の両内側側部にそれぞれ第1の溶射皮膜層を設ければよい。
また、本発明の第1〜第6の実施の形態は、湾曲型連続鋳造機に適用したが、垂直型連続鋳造機に適用してもよい。この場合、長片の内面と短片の両側面を平面状にすればよい。
また、本発明の第1〜第6の実施の形態では、ブルームを連続鋳造する鋳型A〜Fについて説明したが、スラブを連続鋳造する鋳型であってもよい。この場合、長片や短片のサイズを大きくすればよい。
【0059】
また、本発明の第1〜第6の実施の形態では、2ストランドタイプの連続鋳造機に適用したが、1ストランドタイプ、3ストランドタイプ等の連続鋳造機に適用してもよい。
また、本発明の第2〜第6の実施の形態では、Niめっき22、25、28、32、36、39、42、46を形成したが、Ni−Co等のNi合金めっきを形成してもよい。
また、本発明の第1〜第6の実施の形態では、第1の溶射皮膜層13、14の厚みを、その上端から下端まで徐々に厚くしたが、上端から下端まで一様にしてもよい。逆に、第2の溶射皮膜層17の厚みを、その上端から下端まで徐々に厚くしてもよい。
【0060】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1、2記載の連続鋳造用鋳型においては、長片の両内側側部と内側下部、更に、短片の内側下部に、第1、第2の溶射皮膜層を形成したので、鋳片殻(又は鋳片、溶鋼)に対する耐摩耗性を向上することができ、長寿命を有する連続鋳造用鋳型を提供することができる。
そして、長片や短片の上端より下端に亘って硬さを傾斜的に変化させることができ、隣接部分での剥離や局部摩耗を防止することができる。
請求項記載の連続鋳造用鋳型においては、母材の酸化を防止することができ、更に長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1〜第3の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の斜視図である。
【図2】(a)は本発明の第1の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
(b)は図2(a)の矢視W−W断面図である。
【図3】(a)は同連続鋳造用鋳型の短片の平面図である。
(b)は同短片の正面図である。
(c)は図3(b)の矢視X−X断面図である。
【図4】溶射状況の説明図である。
【図5】(a)は本発明の第2の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
(b)は図5(a)の矢視Q−Q断面図である。
【図6】(a)は同連続鋳造用鋳型の短片の平面図である。
(b)は同短片の正面図である。
(c)は図6(b)の矢視K−K断面図である。
【図7】(a)は本発明の第3の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
(b)は図7(a)の矢視R−R断面図である。
(c)は図7(a)の矢視S−S断面図である。
【図8】(a)は本発明の第4の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
(b)は図8(a)の矢視Y−Y断面図である。
(c)は図8(a)の矢視J−J断面図である。
【図9】(a)は本発明の第5の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
(b)は図9(a)の矢視N−N断面図である。
【図10】(a)は同連続鋳造用鋳型の短片の平面図である。
(b)は同短片の正面図である。
(c)は図10(b)の矢視P−P断面図である。
【図11】(a)は本発明の第6の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
(b)は図11(a)の矢視L−L断面図である。
【図12】(a)は同連続鋳造用鋳型の短片の平面図である。
(b)は同短片の正面図である。
(c)は図12(b)の矢視M−M断面図である。
【図13】(a)、(b)はそれぞれ本発明の第1〜第6の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の比較例の長片と短片の斜視図である。
【図14】(a)、(b)はそれぞれ本発明の第1〜第6の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の比較例の長片と短片の斜視図である。
【図15】(a)、(b)はそれぞれ本発明の第1〜第6の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型の比較例の長片と短片の斜視図である。
【図16】従来の湾曲型連続鋳造機の要部説明図である。
【図17】(a)は従来の湾曲型連続鋳造機に用いる連続鋳造用鋳型の斜視図である。
(b)は同連続鋳造用鋳型の分解斜視図である。
【図18】(a)〜(c)は同連続鋳造用鋳型のメニスカス近傍部位の不具合の要部拡大斜視図である。
(d)は同連続鋳造用鋳型の長片の不具合を説明する正面図である。
(e)は同連続鋳造用鋳型のメニスカス近傍部位の不具合の要部斜視図である。
【図19】(a)は同連続鋳造用鋳型の長片の不具合の説明図である。
(b)は図19(a)の矢視T−T断面図である。
(c)は連続鋳造用鋳型の長片の不具合の説明図である。
(d)は同長片の不具合の説明図である。
(e)は図19(d)の矢視U−U断面図である。
【図20】従来の連続鋳造用鋳型の長片の斜視図である。
【図21】(a)は従来の連続鋳造用鋳型の短片の平面図である。
(b)は同短片の正面図である。
(c)は図21(b)の矢視V−V断面図である。
【符号の説明】
A 連続鋳造用鋳型 B 連続鋳造用鋳型
C 連続鋳造用鋳型 D 連続鋳造用鋳型
E 連続鋳造用鋳型 F 連続鋳造用鋳型
11 長片 11a 長片
12 母材 12a 内側側部
12b 内側下部 12c 内側上部
12d U字状部分 12e 帯状部分
12f I字状部分 13 第1の溶射皮膜層
14 第1の溶射皮膜層 15 短片
15a 短片 16 母材
16a 内側下部 16b 内側上部
16c 帯状部分 17 第2の溶射皮膜層
18 高速火炎溶射機 20 長片
20a 長片 21 母材
22 Niめっき 23 短片
23a 短片 24 母材
25 Niめっき 26 長片
26a 長片 27 母材
28 Niめっき 30 長片
30a 長片 31 母材
32 Niめっき 34 長片
34a 長片 35 母材
36 Niめっき 37 短片
37a 短片 38 母材
39 Niめっき 40 長片
40a 長片 41 母材
42 Niめっき 43 Crめっき
44 短片 44a 短片
45 母材 46 Niめっき
47 Crめっき

Claims (2)

  1. 一対の長片と、該一対の長片間に配置された一対の短片とを有する連続鋳造用鋳型であって、
    前記各短片が摺動当接する前記長片の両内側側部、及び、凝固した鋳片殻が触れる前記長片の内側下部に、自溶性合金の第1の溶射皮膜層がそれぞれ形成されていると共に、前記鋳片殻が触れる前記短片の内側下部にも、自溶性合金の第2の溶射皮膜層がそれぞれ形成され、前記長片の内側上部で、少なくとも前記第1の溶射皮膜層に隣接する部分、及び前記短片の内側上部で少なくとも前記第2の溶射皮膜層に隣接する部分に、Ni又はNi合金めっきがそれぞれ形成されており、
    しかも、前記長片及び短片の内側下部にそれぞれ前記第1、第2の溶射皮膜層が形成される領域は、その全高の2/5〜3/5であって、
    前記第1、第2の溶射皮膜層に隣接する部分に形成される厚みが0.1〜2mmの前記Ni又はNi合金めっきの表面硬度は、それぞれ前記長片及び短片の母材の表面硬度と前記第1、第2の溶射皮膜層の表面硬度の中間の表面硬度であって、
    更に、前記第1、第2の溶射皮膜層は、10〜50μmの自溶性合金粉末を原料として、高温及び高速のガスジェットを用いる高速火炎溶射によって形成された表面硬度Hv600以上の溶射皮膜からなることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
  2. 前記長片の内側上部、及び、前記短片の内側上部の表層には、Crめっきがそれぞれ形成されている請求項記載の連続鋳造用鋳型。
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