JP3649136B2 - 中性抄造の製紙工程におけるスライム抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抄紙機の一連続操業期間内に四級アンモニウム塩系界面活性剤を有効成分として含有するスライムコントロール剤、またはブロム酢酸エステル化合物を有効成分として含有し溶媒を含まないかもしくは疎水性溶媒で製剤化されたスライムコントロール剤と、これら以外の別のスライムコントロール剤とを切り替えて使用する中性抄造の製紙工程におけるスライム抑制方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
製紙工程において同一のスライムコントロール剤で長期間処理を継続していると、対象系内の微生物相は次第にそのスライムコントロール剤に対して抵抗性をもつ菌種群に遷移すると考えられ、その結果処理効果が次第に悪化するものと考えられている。しかし、このような考え方は製紙工程水中の微生物相を詳しく同定して調べた研究結果に基づくものではなく、食品の腐敗や抗菌性医薬品における微生物の遷移現象から類推されたものであるが、製紙業界および当業者において上記の考え方は現在では広く信じられている。
【0003】
従来、こうした製紙工程内における遷移現象に対するスライム抑制の対策として、複数のスライムコントロール剤を抄紙機の一連続操業期間が替わる毎に交互に切り替えて使用する、いわゆる交互使用方法が現在では広く普及している。従来の交互使用方法は、同一連続操業期間内は単一のスライムコントロール剤で処理するのが一般的である。この交互使用方法により、あるスライムコントロール剤の存在下で優勢に生育できる細菌を、別のスライムコントロール剤を薬注することによって死滅させ、この操作を繰り返すことにより、スライムの付着・成長を遅延させることができると考えられている。
【0004】
しかし、上記のような従来の交互使用においては、個々のスライムコントロール剤に対してどのような微生物が優占種として現れるかについて、抄紙系内の細菌の生態学的検討はほとんどなされておらず全く不明であり、選定するスライムコントロール剤に何らかの科学的根拠があるわけではなく、全くの試行錯誤によっているのが現状である。このため、適切なスライムコントロール剤が選定されていない場合があるほか、微生物相が遷移するとの前提でスライムコントロール剤を選定すると必ずしも的確な処理効果が得られない場合がある。またスライムコントロール剤の切り替えによって微生物相の遷移が起こっているかどうかを正確に把握することができず、処理の評価もシャットダウン時の汚染状況や白水中の細菌数の増減等で経験的に評価することしかできない。
したがって従来の交互使用によるスライムの抑制方法では、適切なスライムコントロール剤が選定されているのか、また意図した効果が実現できているのか、という点が明確ではないという問題点がある。
【0005】
こうした状況に至った原因のひとつに、製紙工程水系の微生物相解析が極めて困難であることがあげられる。
従来、微生物相の解析はいろいろな方法で行われているが、いずれも水系から試料を採取し、微生物を培地で純粋分離し、得られた分離菌株の表現形質を多項目にわたって調べる方法である。この方法は微生物同定の専門家でなければ正しい結果が得られない項目があること、試験結果を得るまでに長期間を要すること、ある種の微生物は培地に生育せず(従って分離することができない)微生物相を特定できないなど多くの問題を抱えた方法であり、実用的ではない。これらの理由から、多くの関心がある現象でありながら、製紙工程のスライム抑制において微生物相の遷移については実証がなされないまま推移してきている。
【0006】
ところで、現代の製紙工程は用水を節減し、廃水処理の負荷を軽減するために用水の循環、再利用が進んでいる。この循環には滞留時間が数分間以内の最小循環である1次循環から、滞留時間が数時間〜24時間にわたる3〜4次の高次循環まであって、こうした製紙工程におけるスライム抑制は滞留時間が短い一次循環または二次循環されている各種工程に対して行われることが多い。
【0007】
このように滞留時間の短い製紙工程に対するスライム抑制は、通常1種、稀には2種のスライムコントロール剤を1日に2〜3回15分間〜9時間水系に間欠添加して実施されている。また多くのスライムコントロール剤は、定量ポンプを用いて自動注入する便利さを求め、さらに添加してから系内全体に迅速かつ均等に混合されるよう、溶液状態に製剤化されていることが多い。有効成分が水に不溶性または難溶性のスライムコントロール剤の場合も有機溶媒や分散剤を用いて液剤化されるのが通例である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、製紙工程の微生物生態学的解析および優占的細菌に対する各種スライムコントロール剤の効果を明らかにすることにより最適なスライムコントロール剤の組み合わせとそれらの交互処理仕様を決定し、これにより経験的判断に頼ることなく簡単に、効果よく、長期間にわたってスライムの発生を抑制することができる中性抄造の製紙工程におけるスライム抑制方法を提案することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、最近急速に発達した細菌の16S rDNA、または糸状菌の18S rDNAの塩基配列によって菌種を判別する方法を用い、中性抄造の製紙工場を中心に製紙工程内の微生物相を調べた。塩基配列によって菌種を判別する方法は短期間で微生物相を調査できること、方法を選べば培地に生育できないnon-culturableな微生物の存在とその種類を特定できること、とりあえず少量の試料を採取して凍結保存しておき、必要が生じた際に試験に供することができることなど、従来法に比べて優れた方法である。
【0010】
すなわち本発明者は、現在市販されている多くのスライムコントロール剤(有効成分が1種のものから複数の有効成分が配合されたものまで多種類がある)が使用されている製紙工程の用水中の微生物相およびスライム中の微生物相をDNAの塩基配列によって調べた結果、少数のスライムコントロール剤で例外があったが、使用されているスライムコントロール剤の種類に関わらず上記微生物相は大きな相違がないことが明らかとなった。調査した製紙系は日本の全域に分布し、各系の温度は季節によってある範囲内で変動していたにも関わらず、微生物相の優占微生物として後述するRiemerella様細菌が検出された。この結果は、多種類の微生物を予想していた試験前の予想とは異なる意外な結果であった。またRiemerella様細菌が水系およびスライム構成菌の優占種である場合に随伴して出現する菌種にも想像していた以上に多様性がなく、微生物相は比較的単純であった。
【0011】
微生物生態学の知見に照らせば、これらの微生物相はもっと多様性に富むものと想像されるにも関わらず、なぜRiemerella様細菌が優占種になっているかは未だ不明である。
【0012】
スライムコントロール剤が添加されている時間内はRiemerella様細菌などの感受性菌を主体とする水中の微生物もスライム中の微生物もスライムコントロール剤と接触して一時的に殺菌または増殖阻害を受けるが、添加が中止されるとスライムコントロール剤を含む用水は短時間で次工程に流れ去り、替わってスライムコントロール剤を含まない用水が、未接触のRiemerella様細菌を含んだ状態で製紙工程に流入してくる。このため水中の微生物相は添加が中止されるとたちまち回復する。スライム中でも優占菌種であったRiemerella様細菌はスライムコントロール剤と接触して一旦は殺菌され、抵抗性菌種だけが生残したであろうが、スライムコントロール剤の添加が終わり流失すると、元気なRiemerella様細菌が水中から新たに連続供給されて増殖速度の小さい抵抗性菌種を抑えて再びスライム中で優占菌になっているものと考えられる。
【0013】
このような考えに基づいて、安価で安定した処理効果を維持する新たなスライム抑制方法について検討した。そのひとつとして新たなタイプのスライムコントロール剤を用いてスライム中の優占菌種を変化させることができれば、抵抗性菌種がスライム内で優占菌種になるまでに時間がかかり、おそらくは増殖速度の小さい菌種になるであろうから、従来のスライムコントロール剤と間隔を置いて交互に使用することによって目的が達せられるであろうと考えた。そこで発明者は、製紙工程のスライム内のRiemerella様細菌を主体とする微生物相を変化させる薬剤をスクリーニングした結果、四級アンモニウム塩系界面活性剤およびブロム酢酸エステル化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は次の中性抄造の製紙工程におけるスライム抑制方法である。
(1) スライムコントロール剤を適用する対象系から、定期的または任意の時点でスライムを採取し、このスライムの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析し、その微生物相の優占微生物が、16S rDNAの塩基配列を分類指標としたときFlexibacter-Cytophaga-Bacteroidesグループに分類され、かつRiemerella属細菌に近縁のグラム陰性細菌であり、その16S rDNAの塩基配列中に、配列表の配列番号1に示す塩基配列と98%以上の相同性を有する塩基配列を有する細菌である場合、またはこのグラム陰性細菌に増加傾向が認められる場合に、四級アンモニウム塩系界面活性剤を有効成分として含有するスライムコントロール剤、またはブロム酢酸エステル化合物を有効成分として含有し溶媒を含まないかもしくは疎水性溶媒で製剤化されたスライムコントロール剤を使用し、それ以外の場合に前記以外の別のスライムコントロール剤を使用するようにスライムコントロール剤を切り替えて使用するスライム抑制方法。
(2) 優占微生物が、16S rDNAの塩基配列を分類指標としたときFlexibacter-Cytophaga-Bacteroidesグループに分類され、Riemerella属細菌に近縁のグラム陰性細菌であり、その16S rDNAの塩基配列中に、配列表の配列番号1に示す塩基配列と99%以上の相同性を有する塩基配列を有する細菌である上記(1)記載のスライム抑制方法。
(3) 四級アンモニウム塩系界面活性剤がジデシルジメチルアンモニウムクロリドである上記(1)または(2)記載のスライム抑制方法。
(4) ブロム酢酸エステル化合物が1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のスライム抑制方法。
【0015】
本明細書において、「微生物」は細菌、酵母、糸状菌(カビ)、藻類およびアーキア(古細菌)等を含む。
また「スライムコントロール剤」は上記微生物に対する殺生物作用および/または増殖抑制作用を有する薬剤を意味する。
また「抗菌」は上記微生物を死滅させることおよび/または増殖を抑制することを意味する。
また「微生物相」は対象系または試料中の個々の微生物の種類と構成比および含有量(微生物数または微生物量の割合)を示す意味で用いられているが、優占微生物の種類と構成比および含有量、または特定微生物の種類と構成比および含有量を示す意味で用いられる場合もある。
【0016】
また「中性抄造」はパルプスラリーをpH6.5〜8.5の中性〜弱アルカリ性とし、アルキルケテンダイマー(AKD)や無水コハク酸系サイズ剤(ASA)のような中性サイズ剤(反応性サイズ剤とも言う)を用いて洋紙を製造する抄造方法を意味する。これら洋紙の主要パルプ原料には通常バージンパルプとDIP(脱墨パルプ)が使用されるという共通性がある。洋紙としては通常上質紙または中質紙が製造される。
【0017】
また「一連続操業期間」は、洗浄した抄紙機で抄紙を開始してから抄紙機の運転を停止するまでの期間を意味し、製造する製品の紙質やプロセスによって数日から30日程度の幅がある。
【0018】
通常の抄紙機は一連続操業期間が終了すると、抄紙機の運転を止め(シャットダウン)水洗後、苛性ソーダで全体を洗浄し、さらに多くの場合は機械の主要部分を開放して手洗浄を行ってから運転を再開する。従来は交互使用するスライムコントロール剤の切り替えは、このシャットダウン時に行うのが普通であった。これに対し、本発明の方法は一連続操業期間内で種類の異なるスライムコントロール剤を交互使用する方法である。
【0019】
本発明のスライム抑制方法が適用できる対象系は、抄紙機により中性抄造で紙を製造する製紙工程においてスライムコントロール剤を使用してスライムを抑制する処理系であれば特に制限されない。製紙工程は、通常、パルプに填料や薬品を添加して紙の原料をつくる調成工程、抄紙機で紙を抄く抄紙工程、および紙の表面を塗料等で覆って印刷適性をよくする塗工工程などの工程にさらに分類されるが、このいずれの工程でもよい。具体的には、白水のスライムの抑制処理などがあげられる。
【0020】
本発明で使用する四級アンモニウム塩系界面活性剤としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(以下、DDACと略記する場合がある)などがあげられる。
本発明で使用するブロム酢酸エステル化合物としては1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン(以下、BBABと略記する場合がある)などがあげられる。
【0021】
本発明では第一のスライムコントロール剤として、四級アンモニウム塩系界面活性剤またはブロム酢酸エステル化合物を有効成分として含有する薬剤が使用でき、これらを単独で使用することもできるし、他の薬剤や化合物が含有されていてもよく、製剤化されていてもよい。ただし、ブロム酢酸エステル化合物を有効成分として含有するスライムコントロール剤としては、溶媒を含まない無溶媒のスライムコントロール剤か、もしくは公地の疎水性溶媒で製剤化されたスライムコントロール剤を使用する。
【0022】
上記第一のスライムコントロール剤は、Riemerella様細菌に対して抗菌作用を有し、かつ中性抄造の製紙工程に間欠注入した場合でもスライム内のRiemerella様細菌を主体とする微生物相を変化させることができる。なおブロム酢酸エステル化合物が親水性溶媒で製剤化されたスライムコントロール剤では、スライム内のRiemerella様細菌を主体とする微生物相を変化させない場合が多いので、第一のスライムコントロールとしては使用しない。
【0023】
本発明で使用する第二のスライムコントロール剤(別のスライムコントロール剤)としては、前記第一のスライムコントロール剤以外の公知のスライムコントロール剤が使用できる。具体的には次の無機系化合物および有機系抗菌剤などが例示される。
【0024】
(1)無機系スライムコントロール剤
例えば、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、塩素化シアヌル酸、塩素化ヒダントイン、臭素、臭素イオンと次亜塩素酸塩との反応生成物など。
【0025】
(2)有機系スライムコントロール剤
1)イソチアゾロン類:例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、およびこれらの金属錯塩など。
2)チオシアネート類:例えば、メチレンビスチオシアネートなど。
3)親水性溶媒で製剤化されたブロム酢酸エステル類:例えば、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、ビス(ブロモアセトキシ)プロパンなど。
4)ブロモシアノ化合物:例えば、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタンなど。
5)ブロモニトロ化合物:例えば、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1―エタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、β−ブロモニトロスチレン、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(以下、DBNPAと略記する場合がある)など。
6)オキシム類:例えば、モノクロログリオキシム、ジクロログリオキシム、2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシヒドロキシモイルクロライド、α−クロロベンズアルドキシム、α−クロロベンズアルドキシムアセテートなど。
7)アルデヒド類:例えば、オルトフタルアルデヒド、グルタルデヒド、ホルムアルデヒドなど。
8)その他:例えば、2,2−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、3,3,4,4−テトラクロロヒドロキシチオフェン−1,1−ジオキシドなど。
【0026】
第二のスライムコントロール剤としては、有機系スライムコントロール剤が好ましく、その中でもブロモニトロ化合物が好ましい。
上記化合物は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。また第二のスライムコントロール剤を使用する期間内において、種類を代えて使用することもできる。
第一および第二のスライムコントロール剤はそのまま使用することもできるし、適当な媒体で希釈して使用することもできる。
【0027】
国内の製紙工場において、どういった微生物がスライムの主要構成微生物であるかこれまで知られていなかった。発明者らは国内の様々な抄紙系の微生物を調査した結果、中性抄造の抄紙系スライムからは、特定の16S rDNAの塩基配列を有する細菌が共通の優占種として存在することを明らかにした。この細菌は16S rDNAの塩基配列を分類指標としたときFlexibacter-Cytophaga-Bacteroidesグループに分類され、Riemerella属細菌の最も近縁とされる新種のグラム陰性細菌であり、本明細書においては、Riemerella様細菌と呼ぶ。国内のある製紙工場から分離されたこの細菌の16S rDNAの塩基配列を配列表の配列番号1に示すが、本発明で述べるRiemerella様細菌は、この配列と全体を通じてあるいは部分塩基配列において98%以上の相同性を有する16S rDNAを持つことで特徴づけられる細菌群である。
【0028】
このRiemerella様細菌は、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(以下、DBNPAと略記する場合がある)等の有機系スライムコントロール剤に対して極めて感受性が高く、たとえばDBNPAに対するMKCは0.3ppm以下である。しかし、このRiemerella様細菌は紙原料のパルプスラリー内で活発に増殖し、スラリーとともに白水系に連続的に供給される。間欠式の薬注仕様では一時的に死滅するものの薬効が消失すると菌数は元に戻り、白水系内のスライム発生および成長に大きく関与している。有機スライムコントロール剤(有機ブロム系、有機窒素系、有機硫黄系を含む)や、次亜塩素酸ソーダや過酸化水素などの無機系殺菌剤を間欠的に投与しても白水およびスライムの微生物相はほとんど変化することがない。
【0029】
Riemerella様細菌はDDACおよびBBABに対する感受性を懸濁細菌を用いて測定すると、別のスライムコントロール剤と同様に感受性である。
【0030】
第二のスライムコントロール剤の存在下ではRiemerella様細菌を主体とするスライムが形成されるが、第一のスライムコントロール剤の存在によりスライム内のRiemerella様細菌は死滅し、代わって別の細菌が優占的に生育してくる。この細菌が優占となったところで、第二のスライムコントロール剤に戻す(切り替える)ことでこの細菌を死滅させることができる。このような切替処理を連続して行うことによって、スライムの成長を長期間にわたり抑制することが可能である。
【0031】
第一のスライムコントロール剤と第二のスライムコントロール剤とを交互に使用するが、第一のスライムコントロール剤および第二のスライムコントロール剤は2種類以上の抗菌剤を含有するものであってもかまわない。これらのスライムコントロール剤は最適な薬剤濃度、薬注時間、およびインターバル時間を設定して使用することができる。例えば、スライムコントロール剤は1日に2〜3回、15分間〜9時間水系に間欠添加することができる。交互のインターバル時間は、一連続操業期間内に第一のスライムコントロール剤と第二のスライムコントロール剤を最低一度ずつ注入すればよく、好ましくは3日〜7日間ごとにスライムコントロール剤を交互注入するのが望ましい。
【0032】
本発明においては、スライムコントロール剤の切替時期をスライムの微生物相から決定することができる。すなわち、スライムコントロール剤を適用する対象系から、定期的または任意の時点でスライムを採取し、このスライムの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析し、その微生物相の優占微生物が、16S rDNAの塩基配列を分類指標としたときFlexibacter-Cytophaga-Bacteroidesグループに分類され、かつRiemerella属細菌に最も近縁のグラム陰性細菌(Riemerella様細菌)である場合、またはこのグラム陰性細菌に増加傾向が認められる場合に、第一のスライムコントロール剤を使用し、それ以外の場合に第二のスライムコントロール剤を使用するようにスライムコントロール剤を切り替える。Riemerella様細菌が増加傾向にあるかないかは、微生物相におけるこの細菌の存在比率と前回またはそれ以前に解析された存在比率とを比較することにより行うことができる。
【0033】
このように、スライムの微生物相からスライムコントロール剤の切り替え時点を判断することにより、最も適切なスライムコントロール剤を使用してスライムの抑制を行うことができる。また万一、期待通りの処理効果が得られなかった場合でも、微生物DNAの塩基配列による微生物相解析によって原因を解明し、改善策を検討することができる。
【0034】
DNAの塩基配列による微生物相の解析方法としては公知の方法が制限なく使用できる。なお微生物相の解析は、微生物のDNAの塩基配列から微生物名を決定(同定)することは必ずしも必須ではなく、他の微生物と区別できる番号(以下、微生物番号という)を独自に付与し、この微生物番号を微生物名の代わり用いることもできる。例えば、微生物検索データベースにおいて高い相同性を有する微生物が検索されない場合は、その微生物に独自の微生物番号を付与して他の微生物と区別することができる。ただし、微生物相を他者に説明する場合には微生物名(学名)を用いるのが便利であるので、塩基配列に基づく微生物名を同定しておくのが好ましい。
【0035】
例えば、微生物の同定(判定)には、DNAの塩基配列と微生物との関係が蓄積されている公知の微生物系統分類のデータベース(以下、微生物検索データベースという場合がある)を利用することができ、この微生物検索データベースをパソコン等のコンピュータを用いて検索することにより微生物を同定することができる。後述する具体的な微生物検索データベースにはインターネットを介してアクセスすることができるので、迅速にデータを検索できる。後述する微生物検索データベースには、リボゾームRNA(以下、rRNAという)をエンコードするDNA(rDNA)の塩基配列のデータが蓄積されているので、微生物の同定には試料から分離したrDNAの塩基配列を用いることができる。rDNAは微生物の種類、サブユニットの大きさによって数種類に分類されるが(16S rDNA、18S rDNAなど)、どの分子を用いても差し支えない。また本発明はrDNAだけに限定されず、rRNAのスペーサー配列またはgyrEなど他のDNA画分を利用した方法であってもよい。したがって、どのような微生物検索データベースを用いてもよいし、どれか単一のものに統一して用いることもできる。またさらに複数の微生物検索データベースを併用することもできる。
【0036】
前記微生物検索データベースとしては、GenBank、EMBL、DDBJなどの公的DNAデータベースや、ミシガン大学に設置されているRibosomal Database Projectなどがあげられる。検索操作はFASTA、BLAST等の既存のプログラムによって短時間に効率的に行うことができる。また、MicroSeq 16S rDNA Sequense Database(PEバイオシステムズ社)などの商用の微生物検索データベースを、MicroSeq Analysis Software(PEバイオシステムズ社、商標)などの市販のソフトウェアにより検索することもできる。なお微生物検索データベースを自身で構築してもよい。例えば、塩基配列データから、それに対応する微生物名または微生物を区別するための微生物番号が検索できるデータベースを公知のデータベースソフトウェアなどを用いて構築し、他の微生物検索データベースと併用することもできる。
【0037】
対象系から採取した試料から微生物コロニーを単離して分離株の該当DNAの塩基配列を決定し、得られた結果を微生物検索データベースと照合して微生物を同定することができる。rDNAは大腸菌等の宿主ベクター系を用い古典的クローニング操作によって単離・増幅することもできるが、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)などの試験管内DNA増幅方法によって増幅させる方が簡便である。
【0038】
また、微生物群を培養分離せず混合状態のまま微生物DNAを抽出し、対象とする大多数の微生物に共通性の高い塩基配列によって構成されるプライマーを用いて各微生物のrDNAだけをPCR法などの試験管内DNA増幅方法によって増幅し、さらにゲル電気泳動などによって個々の微生物由来のrDNAを分離し、得られた結果を微生物検索データベースと照合して微生物を同定することもできる。
【0039】
複数の微生物を同定する場合、塩基配列の決定に先だって、RFLP法(Restriction Fragment Polymorphism:Moyerら、Applied and Environmental Microbiology誌、62巻、2501〜2507ページ、1996年))によっておおまかに相違を調べることもできる。すなわち、各微生物のrDNAを各種の制限酵素で完全に消化し、ポリアクリルアミドまたはアガロースゲル電気泳動で分離電気泳動し、DNA染色後のパターンの違いから区別することができる。
【0040】
微生物群からコロニーを分離してから調べる方法では、培地で分離培養できない(non-culturableな)微生物が存在している場合、この微生物は検出できない。また、培養可能な微生物であっても1種類の培地や培養条件だけで全ての分離培養可能な微生物が検出されるという保証はない。一方、微生物群を分離せずに微生物混合体から微生物DNAを抽出して調べる方法では、培地で分離培養できない微生物が存在する系であってもそれらを検出できる利点があるが、微生物によるDNA抽出率の差、細胞あたりの該当遺伝子のコピー数の差、PCR時の増幅効率の差、プライマーの選び方によって異なる検出微生物群の感度差などがあるから、これらの特性と対象系に出現する微生物の特性を理解した上でならば上記方法を単独で用いてもよいし、適宜併用することもできる。
【0041】
混合rDNAから個々の微生物のrDNAを分離する方法には一般に電気泳動が用いられるが、これにはいくつかの方法が提案されている。例えば、DGGE法(Denatured Gradient Gel Electrophoresis:Muyzerら、Applied and Environmental Microbiology誌、59巻、695〜700ページ、1993年)、TGGE法(Temperature Gradient Gel Electrophoresis:Eichnerら、Applied and Environmental Microbiology誌、65巻、102〜109ページ、1999年)、SSCP法(Single Strand Conformational Polymorphism:Schwiegerら、Applied and Environmental Microbiology誌、64巻、4870〜4876ページ、1998年)、TRFLP法(Terminal Restriction Fragment Polymorphism:Liuら、Applied and Environmental Microbiology誌、63巻、4516〜4522ページ、1997年)、またはランダムクローニング法(Dunbarら、Applied and Environmental Microbiology誌、65巻、1662〜1669ぺージ、1999年)などがあるが、本発明の抗菌処理方法はこれらに限定されるものではない。
【0042】
また目的によって混合微生物系内の特定の微生物を調べるリアルタイムPCR法(Wittwerら、BioTechnique誌、22巻、130〜138ページ、1997年)、FISH法(Fluorescence In Situ Hybridization:Ammanら、Applied and Environmental Microbiology誌、58巻、614〜623ページ、1992年)、古典的ハイブリダイゼーション法(Williamら、Microbiology誌、141巻、2793〜2800ページ、1995年)なども本発明の抗菌処理方法に利用することができる。これらの方法に使用される制限酵素やプライマーにも各種のものがあるが、公知の任意のものを使用することができる。
【0043】
分離・増幅したrDNAは実験的操作により直接その塩基配列を決定することができる。これら一連の操作には、各種の試薬キット、例えばAutoRead Sequencing Kit(アマシャム・ファルマシア・バイオテク株式会社、商標)やMicroSeq 500 16S rDNA Kit(PEバイオシステムズ社、商標)などが市販されているので、これらを用いることができる。もちろん、DNAポリメラーゼ等の試薬を独自に調合してジデオキシ法等の方法によって操作を行うこともできる。また、解析機器としては、塩基配列解析装置、例えばALFexpressII DNA Analysis System(アマシャム・ファルマシア・バイオテク株式会社、商標)やABI PRISM 310(PEバイオシステムズ社、商標)が市販されているので、これらを用いることができる。もちろん、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、オートラジオグラフィー等によりバンド(シークエンシングラダー)の位置を解読することもできる。混合rDNAを試料とした場合には、電気泳動して得たバンドを染色後、該当するバンドをゲルごと切り出し、ゲルからDNAを抽出・精製後、再びPCRを行い、増幅されたDNAを塩基配列決定に用いることができる。
【0044】
既存の微生物検索データベースを用いて検索する場合、使用する試験方法には各々のデータベースに指定された範囲の方法が公開されているので、それに従えばよい。
【0045】
試料から採取した微生物のDNAの塩基配列と、微生物検索データベースに登録されている塩基配列とを比較し、データベース上で最も相同性の高い塩基配列を有する微生物を最も近縁の微生物であると判断することができる。
全く同一の微生物同士であれば、ある種の例外(例えばゲノム上の複数のコピーにおける多型性)を除いて、指標とする遺伝子の塩基配列には100%の相同性が認められる。また同属同種の近縁微生物同士の場合は遺伝子の種類にもよるが100%に近い相同性が認められ、例えば16S rDNAの場合であればおおむね98%以上の相同性が得られる。したがって、該当する塩基配列を比較して98%以上、好ましくは99%以上の相同性が認められる場合は、通常同属同種の微生物と判定することができる。相同性が98%に満たない場合は、同属同種の微生物とは判断せず、独自の微生物番号などを付与し、この番号を微生物名の代わりに用いることができる。
【0046】
また同定した微生物の構成比は、コロニーの割合、DNAの割合などから定量することができる。コロニーを分離して調べる方法であれば、統計的に信頼できる数のコロニーをアトランダムに選択し、これらのコロニーの同定を全て行うことによって、試料中の各種微生物の構成比を算出することができる。また微生物群から直接DNAを評価する方法では、DGGE法やTGGE法で観察されるDNAバンドの量がもとの微生物量を反映していると解釈されるので、DNAバンドの積算濃度に対する個々のDNAバンドの濃度の比を構成比として捕らえることができる。このようなバンド濃度を測定するためには、市販のデンシトメーターやスキャナーに連動した画像解析装置(例えば、ImageMaster(アマシャムファルマシアバイオテク(株)製、商標)など)を用いることができる。また蛍光試薬を結合したDNAプライマーを用いたり、泳動後の染色に蛍光物質を利用した場合は、その蛍光量をFluorImager(アマシャムファルマシアバイオテク(株)製、商標)などの蛍光イメージアナライザーで直接測定することもできる。またFISH法であれば、全微生物数に対する染色された微生物数を顕微鏡下に直接計測して構成比を算出することができる。
【0047】
微生物の絶対量は公知の方法、例えば平板培地を用いたコロニー計測法、MPN(Most Probable Number)法、またはDAPI(4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)、アクリジンオレンジやCFDA(Carboxyfluoresceindiacetate)等の蛍光物質による染色後の微生物細胞を顕微鏡下で定量計測するなどの方法によって、単位容量または単位重量あたりの微生物数を算出することができる。各種微生物の構成比と絶対量を積算することにより、試料中の該当微生物の含有量を算出することもできる。リアルタイムPCR法や古典的ハイブリダイゼーション法であれば、あらかじめ既知濃度の微生物細胞またはDNAを標準物質として試料を同条件で反応させることにより、試料中の初発の細胞数またはDNA量を推測することが可能である。
【0048】
第一のスライムコントロール剤に限ってスライム中の微生物相が変化する理由は明らかではないが、第一のスライムコントロール剤が水系に添加された時、別のスライムコントロール剤と違って水中固体表面に吸着または付着して、添加が中止された後も長く固体表面、例えば水に浸った抄紙機の機壁や配管などの固体表面に留まる傾向があるためと推測される。
【0049】
固体表面に第一のスライムコントロール剤が残留していれば、例え新たに流入したRiemerella様細菌などの細菌が固体表面に付着し、増殖を開始しようとしても残留している第一のスライムコントロール剤の阻害作用を受けて直ちには増殖できない。そこで占有率が非常に小さかったDDACなどに抵抗性のある菌種が生態学的に競合相手がいない間隙をぬって徐々に増殖し、やがて優占菌種になるものと考えられる。このように固体表面に付着する第一のスライムコントロール剤が淘汰因子として作用し、スライム中の微生物相が遷移するのではないかと推測される。
【0050】
したがって、第一のスライムコントロール剤が固体表面に残留している期間は優占菌種の増殖が阻害されること、抵抗性菌種が徐々に増加するにしても、これらは増殖速度が小さく優占菌種になるまでには長時間がかかり、この期間は実質的にスライム成長が遅れることなどの要素が複合してスライム抑制効果が向上するものと推測される。
【0051】
しかしDDACのような固体表面付着性の第一のスライムコントロール剤を使用し続けると、やがてスライム構成菌が抵抗性菌種にとってかわるから、その時にはDDACの処理効果は低下する。そこで菌種が遷移した頃を見計らって第二のスライムコントロール剤に切り替えるとスライム構成菌種は急速にRiemerella様細菌主体の優占菌種に戻り、抵抗性菌種が増加し続けるのを防止することができる。このような切替え操作を繰り返すことにより、長期間にわたってスライムの増殖を抑制することができる。
【0052】
【発明の効果】
本発明の中性抄造の製紙工程におけるスライム抑制方法は、スライムコントロール剤を適用する対象系から、定期的または任意の時点でスライムを採取し、このスライムの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析し、その微生物相の優占微生物がRiemerella様細菌に近縁のグラム陰性細菌である場合、またはこの細菌に増加傾向が認められる場合に、スライム内のRiemerella様細菌を主体とする微生物相を変化させることができる第一のスライムコントロール剤を使用し、それ以外の場合に前記以外の別のスライムコントロール剤を使用するようにスライムコントロール剤を切り替えて使用するようにしているので、経験的判断に頼ることなく簡単に、効果よく、長期間にわたってスライムの発生を抑制することができる。
【0053】
【発明の実施の形態】
実施例1
A工場Z抄紙機の白水を連続的に採取し300 liter容量のリザーバーに保持した。抄紙機の薬注期間中は持ち込みの薬剤の影響をなくすために取水を停止した。リザーバーから白水を一定流量(0.15L/mm)で3連のスライムモニターに供給した。このスライムモニターは特開平9−75065号に記載されたトルク式スライム試験装置、すなわち静止した外部シリンダと、この外部シリンダ内に同軸的に設置された内部シリンダとを有し、外部シリンダと内部シリンダとの間に水を流通させるとともに内部シリンダを回転させて内部シリンダ表面にスライムを成長させるようにしたスライム試験装置を並列に3個設けた装置である。それぞれのモニターカップ(保有水量:4.15 liter)に、次のスライムコントロール剤をそれぞれ注入した。薬注は15分間×4回/日の間欠注入で行った。
第一系:DBNPA(接触濃度15ppm)
第二系:DDAC(接触濃度15ppm)
第三系:コントロール(無薬注)
【0054】
ローター部分に付着するスライム量をトルク変化で評価した。トルクの経日変化を図1に示す。
図1の結果からわかるように、第三系では開始2日目からトルクの上昇が起こり、5日目には著量のスライムの付着が認められた。しかし、第一系では開始12日目、第二系では14日目からトルクの上昇が見られた。
【0055】
また試験終了時(25日目)に、付着したスライムの微生物相評価を行った。すなわち、スライムを緩衝液に懸濁してホモジナイズ後、寒天平板に塗布し、形成されたコロニー48個の16S rDNA塩基配列を指標にして微生物を同定し、菌種と構成比を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
表1の略号
DBNPA:2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド
DDAC:ジデシルジメチルアンモニウムクロリド
【0057】
表1の結果からわかるように、第一系および第三系ではRiemerella様細菌が優占種であったが、第二系ではKlebsiella sp.が優占種になっていた。
【0058】
実施例2
実施例1と同じスライムモニターを用いて試験を実施した。それぞれのモニターカップに、次のスライムコントロール剤をそれぞれ注入した。薬注は15分間×4回/日の間欠注入で行った。
第一系:DBNPA(接触濃度15ppm)
第二系:DDAC(接触濃度15ppm)
第三系:DBNPA(接触濃度15ppm)とDDAC(接触濃度15ppm)との交互切替処理。まずDBNPAの注入からはじめ、5日間毎にスライムコントロール剤を切り替えた。
【0059】
ローター部分に付着するスライム量をトルク変化で評価した。結果を図2に示す。
図2の結果からわかるように、第一系では開始15目目、第二系では14日目からトルクの上昇がみられたが、第三系では開始25日目からトルクの上昇が見られた。
【0060】
また試験終了時(28日目)に、付着したスライムの微生物相評価を実施例1と同じ方法で行った。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
表2の略号
DBNPA:2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド
DDAC:ジデシルジメチルアンモニウムクロリド
【0062】
表2の結果からわかるように、第一系ではRiemerella様細菌が優占種であったが、第二系ではKlebsiella sp.とAcinetobacter sp.が優占種であった。第三系では、Klebsiella sp.が優占種であったが比較的複数種の細菌によってスライムが構成されていた。
【0063】
実施例3
実施例1と同じスライムモニターを用いて試験を実施した。それぞれのモニターカップに、有効成分としてDBNPAを20%およびBBABを30%含む混合薬剤と、DDACとを交互に切り替えて薬注した。切替条件は、次の通りである。薬注は15分間×4回/日の間欠注入で行った。
第一系:6時間毎(薬注の度)に切り替え
第二系:3日目毎に切り替え
第三系:7日目毎に切り替え。
【0064】
ローター部分に付着するスライム量をトルク変化で評価した。結果を図3に示す。
図3の結果からわかるように、第一系では20日目からトルク上昇が観察された。第二系および第三系ではどちらも23日目からトルク上昇が観察された。
【0065】
試験例1
中性抄造により紙を製造している4箇所の製紙工場の製紙工程から分離したRiemerella様細菌、Pseudomonas、Echerichiaについて、各種スライムコントロール剤を用いて、90%を殺菌するのに必要な最少濃度(MKC)を調べた。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
スライムコントロール剤の略号
DDAC:ジデシルジメチルアンモニウムクロリド
DBNPA:2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド
ジチオール:4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オン
OPA:オルトフタルアルデヒド
DBNE:2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール
HPGHC:2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシヒドロキシモイルクロリド
無機ハロゲン系化合物:臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとを反応させて得られる化合物
【0068】
試験例2
中性抄造により紙を製造している5箇所の製紙工場の製紙工程から白水およびスライムを採取し、実施例1と同じ方法により微生物相を解析した。結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
表4の結果からわかるように、白水とスライムとで微生物相に大きな差はない。また製紙工場間にも微生物相に大きな差は認められない。
【0071】
比較例1
中性抄造により紙を製造するとともに、複数のスライムコントロール剤を抄紙機の連続操業期間が替わる毎に交互に切り替えて使用している、いわゆる従来型の交互使用方法でスライムの抑制処理を行っている3箇所の製紙工場の白水およびスライムの微生物相を実施例1と同じ方法で解析した。各製紙工場の処理方法は次の通りである。結果を表5〜表7に示す。
【0072】
C製紙工場:DBNPAおよびジチオール(4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オン)を有効成分とするスライムコントロール剤と、DBNPAおよびBBABを有効成分とし、親水性溶媒ジエチレングリコールモノメチルエーテルで製剤化されたスライムコントロール剤とを連続操業期間が替わる毎に交互に切り替え。
D製紙工場:DBNPAおよびBBABを有効成分とし、親水性溶媒ジエチレングリコールモノメチルエーテルで製剤化されたスライムコントロール剤と、DBNPAおよびCIMIT(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物)を有効成分とするスライムコントロール剤とを連続操業期間が替わる毎に交互に切り替え。
E製紙工場:DBNPAおよびBBABを有効成分とし、親水性溶媒ジエチレングリコールモノメチルエーテルで製剤化されたスライムコントロール剤と、DBNPAおよびCIMITを有効成分とするスライムコントロール剤とを連続操業期間が替わる毎に交互に切り替え。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
表5〜表7の結果からわかるように、3箇所の製紙工場の白水およびスライムのすべての試料において、Riemerella様細菌が優占微生物であり、微生物相に大きな違いは認められなかった。
【0077】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の結果を示すグラフである。
【図2】実施例2の結果を示すグラフである。
【図3】実施例3の結果を示すグラフである。
Claims (4)
- スライムコントロール剤を適用する対象系から、定期的または任意の時点でスライムを採取し、このスライムの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析し、その微生物相の優占微生物が、16S rDNAの塩基配列を分類指標としたときFlexibacter-Cytophaga-Bacteroidesグループに分類され、かつRiemerella属細菌に近縁のグラム陰性細菌であり、その16S rDNAの塩基配列中に、配列表の配列番号1に示す塩基配列と98%以上の相同性を有する塩基配列を有する細菌である場合、またはこのグラム陰性細菌に増加傾向が認められる場合に、四級アンモニウム塩系界面活性剤を有効成分として含有するスライムコントロール剤、またはブロム酢酸エステル化合物を有効成分として含有し溶媒を含まないかもしくは疎水性溶媒で製剤化されたスライムコントロール剤を使用し、それ以外の場合に前記以外の別のスライムコントロール剤を使用するようにスライムコントロール剤を切り替えて使用するスライム抑制方法。
- 優占微生物が、16S rDNAの塩基配列を分類指標としたときFlexibacter-Cytophaga-Bacteroidesグループに分類され、Riemerella属細菌に近縁のグラム陰性細菌であり、その16S rDNAの塩基配列中に、配列表の配列番号1に示す塩基配列と99%以上の相同性を有する塩基配列を有する細菌である請求項1記載のスライム抑制方法。
- 四級アンモニウム塩系界面活性剤がジデシルジメチルアンモニウムクロリドである請求項1または2記載のスライム抑制方法。
- ブロム酢酸エステル化合物が1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンである請求項1ないし3のいずれかに記載のスライム抑制方法。
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