JP3778019B2 - 製紙工程のスライム抑制方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、製紙工程のスライム抑制方法に関する。さらに詳しくは、白水循環系のスライムコントロールのために使用中のスライムコントロール剤に抵抗性を示す微生物種およびその発生源を特定し、この特定微生物が感受性である別のスライムコントロール剤を発生源に対しても添加することにより、白水循環系のスライムコントロール効果をより安定なものとする、または少ない薬剤使用量によってスライムを抑制する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
製紙工場の製紙プロセスは、パルプを水に分散懸濁させ、所望する大きさとパルプ濃度に調製後、各種製紙薬品を加えて抄紙機で抄紙するものであり、パルプ原料調製系、損紙系、製紙薬品調製系、調成系、白水循環系および白水回収系などから構成されている。抄紙機で分離された水は白水と呼ばれ、パルプの分散懸濁、濃度調製その他の用途に再利用される。白水中には製紙薬品として加えられたデンプンやその他有機物が含まれており、水温が通常30〜40℃であることから、微生物の生息には好条件であり、何らのスライムコントロールが行われない場合は105〜107個/mL程度の微生物が含まれている。
【0003】
これらの微生物は抄紙機白水循環系の水中壁面において付着増殖し、さらに白水中の非生物的固形物をも取り込んでスライムと呼ばれる付着物を形成する。このようなスライムが抄紙機運転中に剥離すると、紙製品に斑点、目玉を形成し、製品品質を低下させたり、断紙により抄紙機の連続操業を停止させるなど、様々な障害をもたらす。
このようなスライム障害を防止するために、現在は白水循環系にスライムコントロール剤を添加してスライムの発生を抑制する方法が広く実施されており、各種のスライムコントロール剤が市場に出回っている。
【0004】
製紙工程に生息する微生物は、原料パルプ、各種製紙薬品、工業用水または空気中などから持ち込まれ、各製紙工程で増殖して各環境条件に適合した微生物相が形成される。これらの微生物は工程の流れに沿っていずれも抄紙原料中に集合するので、白水循環系にはあらゆる製紙工程で増殖した微生物が含まれることになる。このうち白水循環系の環境に適合し、壁面で付着増殖しやすいものがスライムの主構成菌をなしている。
【0005】
以上の状況から白水循環系の微生物相は複雑であることが想像されており、用いられるスライムコントロール剤は抗菌スペクトルの広いものが好まれる傾向がある。しかし抗菌スペクトルが広く、効力の高いスライムコントロール剤は一方で毒性が高かったり、取り扱いが危険であったりして、現実にはそれほど理想的な効能をもったスライムコントロール剤はなく、複数のスライムコントロール剤成分を配合する方法が広く行われている。
【0006】
仮に、白水やスライムの微生物相を容易に解析でき、各微生物が主としてどこで増殖したかという発生源が分かれば、必ずしも抗菌スペクトルが理想的に広くなくても合理的な使用方法を工夫すればスライムの抑制が可能であり、白水循環系には優占菌種に対して有効なスライムコントロール剤を添加し、そのスライムコントロール剤に抵抗性を示す微生物だけはその発生源に対して該当する微生物に有効な別のスライムコントロール剤を添加することにより、安定したスライムコントロール効果が達成できるはずである。
【0007】
このような考え方は従来からあり、損紙チェストなどの特に微生物増殖が激しい場所にもスライムコントロール剤を添加する方法が試みられている。しかしこれら従来の方法における微生物発生源を特定する方法は、製紙工程各所から試料を採取して寒天平板法などにより生菌数測定を行い、生菌数の高い場所が微生物発生源であるとする方法であった。
従来の生菌数測定法では微生物の種類が分からないから、従来の方法では白水循環系で使用中のスライムコントロール剤(白水処理剤)に抵抗性の微生物が増殖しているのか、感受性の微生物なのか判断できない。そこで改めて生菌数の高かった複数の場所から試料を採取し直し、種々のスライムコントロール剤による抗菌試験を実施して発生源に適用するスライムコントロール剤(発生源処理剤)を選定しなければならなかった。
【0008】
発生源で増殖した微生物相において白水処理剤に抵抗性の微生物が優占菌種である場合は、操作が煩雑であることを我慢すれば上記従来の方法によっても適切な発生源処理剤を選定することができる。しかし、白水処理剤に対して感受性菌種が優占種であるが抵抗性菌種も同時に増殖している場合には、上記従来の方法では好適な発生源処理剤を特定しにくいか、特定が不可能であるという問題点がある。
【0009】
また製紙工程は、最近節水対策のために白水の再利用が進み、あらゆる工程に繰り返し循環使用されるようになってきた。このように白水再利用が進んだ製紙工程では各所の生菌数が白水生菌数と変わらなくなり、生菌数測定によっては微生物発生源を特定できなくなっている。一方、このように白水再利用の激しい系の方が一般にスライム障害も激しいので、より合理的なスライム抑制方法が強く求められている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の生菌数測定法に代わって白水処理剤に対する抵抗性微生物の種類および発生源を、微生物DNAの塩基配列による微生物相解析とその存在比率から特定し、予め集積した薬剤検索データベースによって選定した発生源処理剤を発生源に対して添加することによってスライム抑制方法を合理的なものにするとともに、白水循環系におけるスライム抑制効果を安定化しようとするものである。また、白水中の優占微生物に対して有効なスライムコントロール剤を選定して最も流量が多い、したがって使用量が高くなる白水循環系の白水処理剤とし、抵抗性微生物に対しては、その発生源を特定し、これらに有効な別のスライムコントロール剤を発生源処理剤として選定して発生源だけに適用することにより、スライムコントロール剤の合計使用量を低減しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、微生物DNAの塩基配列による微生物相の解析が、従来の古典的な方法に比べて正確性および迅速性においてはるかに優れており、製紙工程における微生物相の比較や、抵抗性微生物の発生源を特定するのに有効なことを見出し、鋭意研究の結果本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は次の製紙工程のスライム抑制方法である。
(1) 製紙工程で発生するスライムをスライムコントロール剤を用いて抑制する方法において、
スライムコントロール剤を用いてスライムを抑制している製紙工程の2箇所以上から試料を採取し、各試料ごとの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析する微生物解析工程と、
微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有するか否かを判定する抵抗性判定工程と、
抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所を抵抗性微生物の発生源と判定する発生源判定工程と、
抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出し、この中から新しいスライムコントロール剤を選定するスライムコントロール剤選定工程と、
発生源判定工程で判定した抵抗性微生物の発生源に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤を添加する発生源処理剤添加工程と
を有する製紙工程のスライム抑制方法。
(2) 製紙工程で発生するスライムをスライムコントロール剤を用いて抑制する方法において、
スライムコントロール剤を用いてスライムを抑制している製紙工程の2箇所以上から試料を採取し、各試料中の微生物をDNAの塩基配列に基づいて解析する微生物解析工程と、
微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有するか否かを判定する抵抗性判定工程と、
抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率を、前記各試料ごとに求め、抵抗性微生物の存在比率の高い試料の採取場所を抵抗性微生物の発生源と判定する発生源判定工程と、
抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出し、この中から新しいスライムコントロール剤を選定するスライムコントロール剤選定工程と、
発生源判定工程で判定した抵抗性微生物の発生源に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤を添加する発生源処理剤添加工程と
を有する製紙工程のスライム抑制方法。
(3) 製紙工程で発生するスライムをスライムコントロール剤を用いて抑制する方法において、
スライムコントロール剤を用いてスライムを抑制している製紙工程の2箇所以上から試料を採取し、各試料ごとの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析する微生物解析工程と、
微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有するか否かを判定する抵抗性判定工程と、
抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出し、この中から新しいスライムコントロール剤を選定するスライムコントロール剤選定工程と、
抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤を添加する発生源処理剤添加工程と
を有する製紙工程のスライム抑制方法。
(4) 抵抗性判定工程において、微生物解析工程で検出された微生物または現在使用しているスライムコントロール剤を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、検索対象の微生物に対して現在使用しているスライムコントロール剤の有効濃度が記録されている場合は、検索対象の微生物は現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有さず、有効濃度が記載されていない場合は抵抗性を有すると判定する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のスライム抑制方法。
(5) 微生物解析工程において試料を採取する場所が、パルプ原料調製系、損紙系、製紙薬品調製系、調成系、白水循環系および白水回収系からなる群から選ばれる2箇所以上である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のスライム抑制方法。
【0013】
本明細書において、「微生物」は細菌、酵母、糸状菌(カビ)、藻類およびアーキア(古細菌)等を含む。
また「抗菌」は上記微生物を死滅させることおよび/または増殖を抑制することを意味する。
また「白水処理剤」は白水循環系で使用中のスライムコントロール剤を意味し、「発生源処理剤」は抵抗性微生物の発生源に添加するスライムコントロール剤を意味する。
また「微生物相」は試料中の個々の微生物の種類と構成比および含有量(微生物数または微生物量の割合)を示す意味で用いられているが、優占微生物の種類と構成比および含有量、または特定微生物の種類と構成比および含有量を示す意味で用いられる場合もある。
【0014】
また「処理実績の結果」および「処理効果」はともに製紙工程にスライムコントロール剤を使用した場合の効果を意味する。この効果は、一定期間内におけるスライム成長量(微生物量でもスライム厚さでも可)の差で表してもよい。ある一定の成長量に達するまでの期間で表してもよい。またスライムが製紙工程で発生することによって生じる障害内容の程度によって示すことも含まれる。
【0015】
本発明の方法を適用する対象は、紙を製造する製紙工程であり、紙の種類、製造方法などに制限はない。製紙工場では2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(以下、DBNPAと略記する場合がある)を主成分とするスライムコントロール剤を白水処理剤として使用し、スライム抑制処理が広く行われているが、このような製紙工場の製紙工程に対して本発明の方法は好適に適用することができる。
【0016】
本発明に用いられるスライムコントロール剤は特に制限されず、公知のスライムコントロール剤が使用でき、各々の製紙工程に好適な薬剤を選定し、白水処理剤および発生源処理剤として用いることができる。白水処理剤および発生源処理剤はその薬剤成分が無機化合物からなるものであっても、有機化合物からなるものであってもよい。またこれらスライムコントロール剤成分は単一の薬剤からなるものであっても、複数の薬剤成分を配合したいわゆる複合剤であってもよい。さらにスライムコントロール剤の剤型にも制限はなく、液剤、フロアブル剤、水和剤などを用いることができる。さらに白水処理剤と発生源処理剤との組合せは制限されず、必ずしも相乗効果を奏する組合せでなくてもよい。
【0017】
スライムコントロール剤の具体的なものとしては次の無機系化合物および有機系スライムコントロール剤などが例示される。
(1)無機系スライムコントロール剤
例えば、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、塩素化シアヌル酸、塩素化ヒダントイン、臭素、臭素イオンと次亜塩素酸塩との反応生成物など。
【0018】
(2)有機系スライムコントロール剤
1)四級アンモニウム塩系界面活性剤:例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(以下、DDACと略記する場合がある)など。
2)イソチアゾロン類:例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、およびこれらの金属錯塩など。
3)チオシアネート類:例えば、メチレンビスチオシアネートなど。
4)ブロム酢酸エステル類:例えば、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、ビス(ブロモアセトキシ)プロパンなど。
5)ブロモシアノ化合物:例えば、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタンなど。
6)ブロモニトロ化合物:例えば、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1―エタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、β−ブロモニトロスチレン、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)など。
7)オキシム類:例えば、モノクロログリオキシム、ジクロログリオキシム、2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシヒドロキシモイルクロライド、α−クロロベンズアルドキシム、α−クロロベンズアルドキシムアセテートなど。
8)アルデヒド類:例えば、オルトフタルアルデヒド、グルタルデヒド、ホルムアルデヒドなど。
9)その他:例えば、2,2−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、3,3,4,4−テトラクロロヒドロキシチオフェン−1,1−ジオキシドなど。
【0019】
抵抗性微生物の発生源が複数存在する製紙工程においては、それぞれの発生源に対して好適な発生源処理剤を選定して使用することが好ましい。また白水処理剤に抵抗性を有する抵抗性微生物が複数存在する場合は、それぞれの抵抗性微生物に対して抗菌作用を有する発生源処理剤を選定して使用するのが好ましい。また、製紙薬品として用いるデンプン調製系や染料系などに防腐目的あるいは変質防止のため既にスライムコントロール剤が使用されている場合であっても、そこがなお白水処理剤の抵抗性微生物の発生源である場合には、発生源処理剤を選定し、追加添加するのが好ましい。
【0020】
DNAの塩基配列による微生物相の解析方法としては公知の方法が制限なく使用できる。なお微生物相の解析は、微生物のDNAの塩基配列から微生物名を決定(同定)することは必ずしも必須ではなく、他の微生物と区別できる番号(以下、微生物番号という)を独自に付与し、この微生物番号を微生物名の代わり用いることもできる。例えば、微生物検索データベースにおいて高い相同性を有する微生物が検索されない場合は、その微生物に独自の微生物番号を付与して他の微生物と区別することができる。ただし、微生物相を他者に説明する場合には微生物名(学名)を用いるのが便利であるので、塩基配列に基づく微生物名を同定しておくのが好ましい。
【0021】
例えば、微生物の同定(判定)には、DNAの塩基配列と微生物との関係が蓄積されている公知の微生物系統分類のデータベース(以下、微生物検索データベースという場合がある)を利用することができ、この微生物検索データベースをパソコン等のコンピュータを用いて検索することにより微生物を同定することができる。後述する具体的な微生物検索データベースにはインターネットを介してアクセスすることができるので、迅速にデータを検索できる。後述する微生物検索データベースには、リボゾームRNA(以下、rRNAという)をエンコードするDNA(rDNA)の塩基配列のデータが蓄積されているので、微生物の同定には試料から分離したrDNAの塩基配列を用いることができる。rDNAは微生物の種類、サブユニットの大きさによって数種類に分類されるが(16S rDNA、18S rDNAなど)、どの分子を用いても差し支えない。また本発明はrDNAだけに限定されず、rRNAのスペーサー配列またはgyrEなど他のDNA画分を利用した方法であってもよい。したがって、どのような微生物検索データベースを用いてもよいし、どれか単一のものに統一して用いることもできる。またさらに複数の微生物検索データベースを併用することもできる。
【0022】
前記微生物検索データベースとしては、GenBank、EMBL、DDBJなどの公的DNAデータベースや、ミシガン大学に設置されているRibosomal Database Projectなどがあげられる。検索操作はFASTA、BLAST等の既存のプログラムによって短時間に効率的に行うことができる。また、MicroSeq 16S rDNA Sequense Database(PEバイオシステムズ社)などの商用の微生物検索データベースを、MicroSeq Analysis Software(PEバイオシステムズ社、商標)などの市販のソフトウェアにより検索することもできる。なお微生物検索データベースを自身で構築してもよい。例えば、塩基配列データから、それに対応する微生物名または微生物を区別するための微生物番号が検索できるデータベースを公知のデータベースソフトウェアなどを用いて構築し、他の微生物検索データベースと併用することもできる。
【0023】
製紙工程から採取した試料から微生物コロニーを単離して分離株の該当DNAの塩基配列を決定し、得られた結果を微生物検索データベースと照合して微生物を同定することができる。rDNAは大腸菌等の宿主ベクター系を用い古典的クローニング操作によって単離・増幅することもできるが、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)などの試験管内DNA増幅方法によって増幅させる方が簡便である。
【0024】
また、微生物群を培養分離せず混合状態のまま微生物DNAを抽出し、対象とする大多数の微生物に共通性の高い塩基配列によって構成されるプライマーを用いて各微生物のrDNAだけをPCR法などの試験管内DNA増幅方法によって増幅し、さらにゲル電気泳動などによって個々の微生物由来のrDNAを分離し、得られた結果を微生物検索データベースと照合して微生物を同定することもできる。
【0025】
複数の微生物を同定する場合、塩基配列の決定に先だって、RFLP法(Restriction Fragment Length Polymorphism:Moyerら、Applied and Environmental Microbiology誌、62巻、2501〜2507ページ、1996年))によっておおまかに相違を調べることもできる。すなわち、各微生物のrDNAを各種の制限酵素で完全に消化し、ポリアクリルアミドまたはアガロースゲル電気泳動で分離電気泳動し、DNA染色後のパターンの違いから区別することができる。
【0026】
微生物群からコロニーを分離してから調べる方法では、培地で分離培養できない(non-culturableな)微生物が存在している場合、この微生物は検出できない。また、培養可能な微生物であっても1種類の培地や培養条件だけで全ての分離培養可能な微生物が検出されるという保証はない。一方、微生物群を分離せずに微生物混合体から微生物DNAを抽出して調べる方法では、培地で分離培養できない微生物が存在する系であってもそれらを検出できる利点があるが、微生物によるDNA抽出率の差、細胞あたりの該当遺伝子のコピー数の差、PCR時の増幅効率の差、プライマーの選び方によって異なる検出微生物群の感度差などがあるから、これらの特性と製紙工程に出現する微生物の特性を理解した上でならば上記方法を単独で用いてもよいし、適宜併用することもできる。
【0027】
混合rDNAから個々の微生物のrDNAを分離する方法には一般に電気泳動が用いられるが、これにはいくつかの方法が提案されている。例えば、DGGE法(Denatured Gradient Gel Electrophoresis:Muyzerら、Applied and Environmental Microbiology誌、59巻、695〜700ページ、1993年)、TGGE法(Temperature Gradient Gel Electrophoresis:Eichnerら、Applied and Environmental Microbiology誌、65巻、102〜109ページ、1999年)、SSCP法(Single Strand Conformational Polymorphism:Schwiegerら、Applied andEnvironmental Microbiology誌、64巻、4870〜4876ページ、1998年)、TRFLP法(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism:Liuら、Applied and Environmental Microbiology誌、63巻、4516〜4522ページ、1997年)、またはランダムクローニング法(Dunbarら、Applied and Environmental Microbiology誌、65巻、1662〜1669ぺージ、1999年)などがあるが、本発明のスライム抑制方法はこれらに限定されるものではない。
【0028】
また目的によって混合微生物系内の特定の微生物を調べるリアルタイムPCR法(Wittwerら、BioTechnique誌、22巻、130〜138ページ、1997年)、FISH法(Fluorescence In Situ Hybridization:Ammanら、Applied and Environmental Microbiology誌、58巻、614〜623ページ、1992年)、古典的ハイブリダイゼーション法(Williamら、Microbiology誌、141巻、2793〜2800ページ、1995年)なども本発明のスライム抑制方法に利用することができる。これらの方法に使用される制限酵素やプライマーにも各種のものがあるが、公知の任意のものを使用することができる。
【0029】
分離・増幅したrDNAは実験的操作により直接その塩基配列を決定することができる。これら一連の操作には、各種の試薬キット、例えばAutoRead Sequencing Kit(アマシャム・ファルマシア・バイオテク株式会社、商標)やMicroSeq 500 16S rDNA Kit(PEバイオシステムズ社、商標)などが市販されているので、これらを用いることができる。もちろん、DNAポリメラーゼ等の試薬を独自に調合してジデオキシ法等の方法によって操作を行うこともできる。また、解析機器としては、塩基配列解析装置、例えばALFexpressII DNA Analysis System(アマシャム・ファルマシア・バイオテク株式会社、商標)やABI PRISM 310(PEバイオシステムズ社、商標)が市販されているので、これらを用いることができる。もちろん、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、オートラジオグラフィー等によりバンド(シークエンシングラダー)の位置を解読することもできる。混合rDNAを試料とした場合には、電気泳動して得たバンドを染色後、該当するバンドをゲルごと切り出し、ゲルからDNAを抽出・精製後、再びPCRを行い、増幅されたDNAを塩基配列決定に用いることができる。
【0030】
既存の微生物検索データベースを用いて検索する場合、使用する試験方法には各々のデータベースに指定された範囲の方法が公開されているので、それに従えばよい。
【0031】
試料から採取した微生物のDNAの塩基配列と、微生物検索データベースに登録されている塩基配列とを比較し、データベース上で最も相同性の高い塩基配列を有する微生物を最も近縁の微生物であると判断することができる。
全く同一の微生物同士であれば、ある種の例外(例えばゲノム上の複数のコピーにおける多型性)を除いて、指標とする遺伝子の塩基配列には100%の相同性が認められる。また同属同種の近縁微生物同士の場合は遺伝子の種類にもよるが100%に近い相同性が認められ、例えば16S rDNAの場合であればおおむね98%以上の相同性が得られる。したがって、該当する塩基配列を比較して98%以上、好ましくは99%以上の相同性が認められる場合は、通常同属同種の微生物と判定することができる。相同性が98%に満たない場合は、同属同種の微生物とは判断せず、独自の微生物番号などを付与し、この番号を微生物名の代わりに用いることができる。
【0032】
また同定した微生物の構成比は、コロニーの割合、DNAの割合などから定量することができる。コロニーを分離して調べる方法であれば、統計的に信頼できる数のコロニーをアトランダムに選択し、これらのコロニーの同定を全て行うことによって、試料中の各種微生物の構成比を算出することができる。また微生物群から直接DNAを評価する方法では、DGGE法やTGGE法で観察されるDNAバンドの量がもとの微生物量を反映していると解釈されるので、DNAバンドの積算濃度に対する個々のDNAバンドの濃度の比を構成比として捕らえることができる。このようなバンド濃度を測定するためには、市販のデンシトメーターやスキャナーに連動した画像解析装置(例えば、ImageMaster(アマシャムファルマシアバイオテク(株)製、商標)など)を用いることができる。また蛍光試薬を結合したDNAプライマーを用いたり、泳動後の染色に蛍光物質を利用した場合は、その蛍光量をFluorImager(アマシャムファルマシアバイオテク(株)製、商標)などの蛍光イメージアナライザーで直接測定することもできる。またFISH法であれば、全微生物数に対する染色された微生物数を顕微鏡下に直接計測して構成比を算出することができる。
【0033】
微生物の絶対量は公知の方法、例えば平板培地を用いたコロニー計測法、MPN(Most Probable Number)法、またはDAPI(4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)、アクリジンオレンジやCFDA(Carboxyfluoresceindiacetate)等の蛍光物質による染色後の微生物細胞を顕微鏡下で定量計測するなどの方法によって、単位容量または単位重量あたりの微生物数を算出することができる。各種微生物の構成比と絶対量を積算することにより、試料中の該当微生物の含有量を算出することもできる。リアルタイムPCR法や古典的ハイブリダイゼーション法であれば、あらかじめ既知濃度の微生物細胞またはDNAを標準物質として試料を同条件で反応させることにより、試料中の初発の細胞数またはDNA量を推測することが可能である。
【0034】
本発明においてスライムコントロール剤選定工程で用いるデータベース(以下、薬剤検索データベースという場合がある)は、少なくとも微生物とその各々に対応した各種スライムコントロール剤の有効濃度が蓄積されており、微生物を検索キーにして、有効濃度が記録されているスライムコントロール剤を検索、抽出できるものであれば、どのような形式のものでもよい。検索キーとなる微生物としては微生物検索データベースから得られた微生物名、アクセッションナンバーまたは微生物番号などが利用できる。微生物名は学名で表記することもできるし(例えば、Escherichia coli HB101など)、アクセッションナンバーで表記することもできる。また学名を決定できない微生物や塩基配列に対しては独自に付与した微生物番号による表記を用いてもよい。検索キーはキーボードなどの入力装置から入力できる。有効濃度のデータは、微生物毎に培養試験から得られた有効濃度、処理実績から得られた有効濃度、または文献から得られた有効濃度のいずれでもよい。
【0035】
有効濃度が入力されているということは、検索対象の微生物に対してその濃度で抗菌作用があることを意味するが、スライムコントロール剤の濃度を複数設けて、その濃度における抗菌作用の有無または程度が入力されていてもよい。この場合、抗菌作用が認められる濃度においてスライムコントロール剤を抽出する。
【0036】
薬剤検索データベースは、未登録の微生物または塩基配列が発生するつど、これらの微生物に対応する各種スライムコントロール剤の有効濃度などのデータが追加登録され、蓄積できるものが好ましい。
また薬剤検索データベースは、微生物の生育に及ぼす環境条件ごとに微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されており、この環境条件を指定すると、指定された環境条件の中からスライムコントロール剤を抽出するものであるのが好ましい。環境条件の具体的なものとしてはpH、温度、対象系の種類と分類、基質の種類と濃度、ならびにスライムコントロール剤効力に影響を与える物質、例えば還元物質の濃度などがあげられる。上記対象系の種類と分類としては、抄紙の種類、抄造条件、サイズ剤、歩留向上剤、紙力向上剤など各種内添剤の種類と添加濃度、過去に使用していたスライムコントロール剤の種類などがあげられる。なお、薬剤検索データベースに入力されているスライムコントロール剤の有効濃度が培養試験から得られたデータである場合上記pH、温度などは培養条件に相当し、処理実績から得られたデータの場合上記pH、温度などは対象系の環境条件に相当する。
【0037】
環境条件がpHの場合、複数のpH条件における有効濃度が蓄積されているのが好ましい。例えば、pH5、pH6、pH7・・・におけるデータが蓄積されているのが好ましい。温度などの場合も、pHの場合と同様に複数の条件における有効濃度が蓄積されているのが好ましい。このように有効濃度に関するデータが環境条件ごとに蓄積されている場合、例えばpH6かつ温度20℃を選定条件とし、これらを検索キーにしてスライムコントロール剤を絞り込むことができる。
【0038】
また薬剤検索データベースは、製紙工程に使用したスライムコントロール剤の濃度およびスライムコントロール剤使用前後の微生物相の解析結果、ならびに処理実績の結果を入力すると、スライムコントロール剤使用前後の微生物相の各微生物の量の差を演算して記録し、この演算結果から各微生物に対してスライムコントロール剤の濃度が有効であったか否かを判定して追加、蓄積および修正できるものが好ましい。このような薬剤検索データベースを用いることにより、より適切なスライムコントロール剤を選定することができる。
【0039】
また薬剤検索データベースは、製紙工程に使用したスライムコントロール剤の濃度およびスライムコントロール剤使用前後の微生物相の解析結果、ならびに処理実績の結果を入力すると、スライムコントロール剤使用前後の微生物相の各微生物の量の差を演算し、この演算結果から各微生物に対してスライムコントロール剤の濃度が有効であったか否かを判定し、この処理実績から得られる判定結果と、試料に含まれる培養可能微生物について培養試験した結果から得られる判定結果とを比較し、処理実績におけるスライムコントロール剤の効力は培養試験における効力に比べて過大、正常範囲内または過小のいずれかであるかを判定して追加、蓄積および修正できるものが好ましい。このような薬剤検索データベースを用いることにより、実際の製紙工程の環境下におけるスライムコントロール剤の効果を正確に評価することが可能であり、このためより適切なスライムコントロール剤を選定することができるので好ましい。
【0040】
また薬剤検索データベースは、文献等に記載されているスライムコントロール剤の特性や抗菌効力、スライムコントロール剤の価格などのデータが入力されているのが好ましい。さらに薬剤検索データベースは、処理実績のデータ、試験結果のデータ、文献データなどの新しいデータが追加、蓄積できるものが好ましい。
上記のようなデータがより多く蓄積された薬剤検索データベースはより適切なスライムコントロール剤を選定することができる。
【0041】
培地で分離培養できない微生物に対するスライムコントロール剤の抗菌スペクトルを純粋菌株を用いて室内試験で測定することは不可能なので、このような微生物に対応する有効濃度などのデータは実績データを蓄積する必要がある。
例えば、あるスライムコントロール剤をある製紙工程に適用した場合、適用前後の微生物相の解析結果とその時のスライムコントロール剤処理効果、およびスライムコントロール剤の系内維持濃度(添加濃度から計算によって求めた維持濃度でも可)、その他好ましくは微生物の生育とスライムコントロール剤効力に影響を与える環境条件が逐次追加入力され、記録できるようにした薬剤検索データベースのフォーマットを作成しておく。使用前には存在し、スライムコントロール剤使用後に消失した微生物は、適用したスライムコントロール剤で駆逐されたものとみなし、スライムコントロール剤使用前の微生物相とスライムコントロール剤使用後の微生物相の差を演算結果として記憶するカラムを薬剤検索データベース内に設ける。このようにすると消失した微生物は適用したスライムコントロール剤の系内維持濃度に対して感受性であることが分かり、逆に占有率が変わらなかったり増大した微生物は適用したスライムコントロール剤の維持濃度において非感受性であるか、または抵抗性であるかを区分できる。
【0042】
このようにして求めた一連の微生物に対するスライムコントロール剤効力の妥当性を評価するための方法としては、例えば以下のような方法がある。すなわち、製紙工程から採取した試料中には少なくとも1〜2種の培養可能な微生物が存在しているので、その微生物に対して室内実験で求めた抗菌性を薬剤検索データベースから呼び出して照合し、スライムコントロール剤維持濃度において感受性の範囲にあるか否かを判断し、室内試験の結果と許容範囲内(任意に設定可)で矛盾がなければ、該適用例で計算によって求めた一連の微生物群に対する抗菌効力データは正常範囲にあると判断する。そしてこの判断結果を表示できるカラムを薬剤検索データベースに用意し、その旨入力しておく。もし室内試験データがなければ、その時に分離された微生物を用いて室内試験を追加すればよい。
【0043】
製紙工程に還元性物質などのスライムコントロール剤効力を阻害する物質が含まれている場合には、上記のようにして求めた抗菌効力データは室内試験によって測定した抗菌効力よりも悪くなるはずである。すなわち求めた抗菌効力の値は共存していた系内物質の影響を受けて過小評価されているので、このように判断された1群のデータには過小評価と前記カラムに表示する。また、製紙工程の前工程で使用され、残留したスライムコントロール剤が製紙工程に流下するような場合には、使用したスライムコントロール剤の効力が過大評価されている可能性がある。こうした場合は、同様に前記カラムに過大評価を表示する。
【0044】
以上のような記入カラムをもつ薬剤検索データベースのフォーマットを設計して、多くの適用例のデータを集積しておけば、ある種の培地で分離培養できない微生物に対してスライムコントロール剤を検索する際には正常範囲のデータ群から有効なスライムコントロール剤を選定することができる。
【0045】
また新たに、ある製紙工程に適用するスライムコントロール剤を選定しようとする時に、製紙工程に抗菌効力を阻害したり、増大させる物質の共存がある場合は、上記薬剤検索データベースに集積され、過大評価または過小評価と判定されたデータ群はスライムコントロール剤選定の重要な要素になり得るのでこれらも削除せずに集積することが好ましい。
【0046】
本発明で使用する薬剤検索データベースを構築するコンピューターソフトウェアとしては、Microsoft社製のMicrosoft ExelやMicrosoft Access(いずれも商標)などの市販のソフトウェアを使用できるが、これらに限定されるものではなく、目的にそったものであればどのようなものでも使用することができる。該当する微生物名やアクセッションナンバーから各スライムコントロール剤の効力、環境条件など、目的とする内容を検索する機能は、上記ソフトウェアに通常付随しているので、それらを利用することができ、不足するプログラムがある場合は、公知の方法を組み合わせて追加することもできる。
【0047】
本発明のスライム抑制方法は、まず微生物解析工程として、スライムコントロール剤(白水処理剤)を用いてスライムを抑制している製紙工程から試料を採取する。そして各試料について、DNAの塩基配列による微生物相解析によって、微生物相を解析する。この場合微生物相を構成する微生物を微生物名またはアクセッションナンバー(微生物名に相当する)毎に前記方法で調べる。通常これら一連の試験操作は2〜7日間で終了する。なお、微生物解析工程では、試料中に含まれる微生物の種類を同定し、含有量の定量は省略することもできる。
【0048】
試料を採取する場所は限定されず、製紙工程の任意の場所から試料を採取することができるが、2箇所以上、好ましくは5〜20箇所から試料を採取する。試料の採取場所が多いほど、抵抗性微生物の発生源を正確に判定することができる。
具体的には、CGP(Chemical Ground Pulp)パルパー、CGPチェスト、LBKP(Laubholz Bleached Kraft Pulp)パルパー、LBKPチェストなどから構成されるパルプ原料調製系;ウェット損紙パルパー、ウェット損紙チェスト、ドライ損紙パルパー、ドライ損紙チェストなどから構成される損紙系;サイズ剤タンク、硫酸バンドタンク、染料タンク、スライムコントロール剤タンク、内添デンプン糊液タンクなどから構成される製紙薬剤調製系;ミキシングチェスト、マシンチェスト、種箱などから構成される調成系;抄紙機、スクリーン装置、インレット、セーブオール、白水サイロなどから構成される白水循環系;脱水機、クリア白水ピットなどから構成される白水回収系等から、スライム、白水、槽内液などを試料として採取することができる。
【0049】
次いで抵抗性判定工程として、前記微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤(白水処理剤)に対して抵抗性を有するか否かを判定する。例えば、前記微生物解析工程で検出された微生物または現在使用しているスライムコントロール剤を検索キーとして、前記薬剤検索データベースを検索し、検索対象の微生物に対して現在使用しているスライムコントロール剤の有効濃度が記録されている場合は、検索対象の微生物は現在使用しているスライムコントロール剤(白水処理剤)に対して抵抗性を有さず、有効濃度が記載されていない場合は抵抗性を有すると判定することができる。また公知の文献、または培養試験の結果などから、抵抗性の有無を判定することもできる。さらに白水処理剤を使用しているにも関わらず、前回の解析結果と比較して特定の微生物に増殖傾向が認められる場合、その微生物は抵抗性ありと判定することもできる。
【0050】
次いで発生源判定工程として、前記抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所を抵抗性微生物の発生源と判定する。発生源は複数存在する場合もある。前記微生物解析工程において、試料の微生物相を解析している場合、各微生物の構成比または含有量は既に判明しているので、新たに抵抗性微生物の存在比率を求める必要はなく、微生物解析工程において判明している存在比率から発生源を判定することができる。一方、微生物解析工程において微生物の種類だけを解析している場合は、抵抗性微生物が検出された試料について、その存在比率を前記方法により求め、その結果に基づいて発生源を判定する。
【0051】
次いでスライムコントロール剤選定工程として、前記抵抗性判定工程で判定した抵抗性微生物を検索キーとして、前記薬剤検索データベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出する。この場合、環境条件などを検索キーとして入力し、スライムコントロール剤をさらに絞り込むことができる。抽出結果はディスプレイなどの出力装置に出力させることができる。抽出されたスライムコントロール剤が1種類の場合はそのスライムコントロール剤を発生源処理剤として選定し、複数の場合はその中から選定する。抽出されたスライムコントロール剤の中から実際に発生源処理剤として使用するスライムコントロール剤の選定方法は任意であり、人が選定することもできるし、コンピュータで自動的に行うこともできる。具体的な選定方法としは、例えば次のような方法などがあげられる。
【0052】
1)抵抗性微生物に対して最も低い最小有効濃度のスライムコントロール剤を選定する。
2)抵抗性微生物に対して「最小有効濃度×価格」が最小となるスライムコントロール剤を選定する。この場合、処理コストを加味した選定を行うことができる。
【0053】
これらの選定方法は、薬剤検索データベースに機能の一部として組み込んでおくこともできる。
選定基準は、従来の長期にわたる経験の蓄積からとりあえず設定可能であるが、薬剤検索データベースのデータ集積数が少ない初期段階では、データが蓄積される度に処理成功率を目安に修正することが望ましい。
【0054】
次いで発生源処理剤添加工程として、前記発生源判定工程で判定した抵抗性微生物の発生源に、前記スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤、すなわち現在使用している白水処理剤とは別の発生源処理剤剤を添加する。
なお本発明の方法では発生源判定工程は省略することも可能であり、この場合抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤(発生源処理剤)を添加することもできる。
【0055】
上記のような方法によれば、抵抗性微生物に対して最も適切なスライムコントロール剤を短時間で、かつ的確に選定することができ、しかも発生源に対して添加することができるので添加量を最小限にすることができる。
【0056】
本発明のスライム抑制方法は、微生物解析工程など一連の工程は定期的または任意の時点で繰り返して行うことができる。
例えば、製紙工程から定期的または任意の時点で、試料を採取し、前記の方法により試料の微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析し、この解析結果を前回の解析結果と比較して、微生物相の変化からスライムコントロール剤効果の変化を監視する。微生物相に大きな変化が認められず、スライムコントロール剤の効果があると認められる場合は、そのスライムコントロール剤を白水処理剤として継続して使用する。また抵抗性微生物の存在比率が減少した場合は、発生源処理剤の添加を中止する。さらに新たな抵抗性微生物が検出された場合、その微生物に対する新しい発生源処理剤を選定して添加する。
このようにして、微生物相の解析および発生源処理剤の選定を繰り返して行うことにより、その時点における最適なスライムコントロール剤を使用してスライム抑制処理を行うことができる。
【0057】
また本発明のスライム抑制方法では、スライムコントロール剤を使用している製紙工程において微生物の増殖に起因する障害が発生した場合、その原因が薬剤抵抗性微生物の出現によるものかどうかを短期間で判断することができるので、抵抗性微生物であればスライムコントロール剤の種類変更で対応し、そうでなければスライムコントロール剤の使用方法(添加濃度、添加方法など)か環境条件変化が原因であるから、これらを見直すことよって迅速に解決策を講じることができる。
【0058】
なお本発明のスライム抑制方法は、白水処理剤の選定に前記薬剤検索データベースを利用することもできる。例えば、製紙工程において優占微生物となっている微生物を検索キーとして薬剤検索データベースを検索し、抽出されたスライムコントロール剤の中から白水処理剤として使用するスライムコントロール剤を選定することができる。
また本発明のスライム抑制方法は、スライムコントロール剤の選定に、薬剤検索データベースに入力されていない殺菌試験、増殖抑制試験または菌数測定などの結果を組み合わせて使用することができる。
【0059】
【発明の効果】
本発明のスライム抑制方法は、DNAの塩基配列に基づいて対象系の微生物相を解析し、スライムコントロール剤に対する抵抗性微生物が認められる場合には、その抵抗性微生物に最適なスライムコントロール剤をデータベースから選定してその発生源に添加するようにしているので、、抵抗性微生物に対して最も適切なスライムコントロール剤を短時間で、かつ的確に選定することができ、しかも添加量を最小限にして効率よくスライムの抑制を行うことができる。
【0060】
【発明の実施の形態】
次に本発明のスライム抑制方法を図面を用いて説明する。
図1は本発明のスライム抑制方法を適用する製紙装置の系統図である。
【0061】
図1の装置において、1はCGPパルパー、2はCGPチェスト、3はLBKPパルパー、4はLBKPチェストであり、これらがパルプ原料調製系を構成している。
6はウェット損紙パルパー、7はウェット損紙チェスト、8はドライ損紙パルパー、9はドライ損紙チェストであり、これらが損紙系を構成している。
11はサイズ剤タンク、12は硫酸バンドタンク、13は染料タンク、14は白水処理剤タンク、15は内添デンプン糊液タンクであり、これらが製紙薬剤調製系を構成している。
【0062】
17はミキシングチェスト、18はマシンチェスト、19は種箱であり、これらが調成系を構成している。
21は抄紙機、22はスクリーン装置、23はインレット、24はセーブオール、25は白水サイロであり、これらが白水循環系を構成している。
27は分離濃縮装置、28はクリア白水ピットであり、これらが白水回収系を構成している。31は工業用水ピット、32は外添デンプン糊液タンクである。
【0063】
図1の装置では次のようにして紙が製造される。すなわち、紙の原料となるパルプがCGPパルパー1、LBKP3パルパー、ウェット損紙パルパー6、ドライ損紙パルパー8に導入されて離解され、各チェスト2、4、7、9を経てミキシングチェスト17に導入される。ここでサイズ剤41および硫酸バンド42が添加混合され、さらにマシンチェスト18で内添デンプン糊液43が添加されてパルプスラリー44が調製される。このパルプスラリー44が種箱19に導入され、染料45、白水処理剤46が添加され、流量調整されてポンプ51によりスクリーン装置22に送られ、夾雑物が除かれた後、インレット23に送られる。
【0064】
このパルプスラリー44がインレット23から抄紙機21のワイヤー部52上に供給される。ワイヤー部52を通過した白水はセーブオール24で受けられ後、白水サイロ25に集められる。白水サイロ25の白水53は、一部は連絡路54中でパルプスラリー44と混合され、循環使用される。残部は分離濃縮装置27に送られて脱水され、回収された原料はミキシングチェスト17に戻されて再利用され、ろ液はクリア白水ピット28に集められ、各工程で再利用される。ワイヤー部52上に形成された紙層は後工程のプレスパート55、ドライパート(図示せず)などを経て紙製品とされる。プレスパート55、ドライパートで発生する損紙はそれぞれウェット損紙、ドライ損紙としてウェット損紙パルパー6、ドライ損紙パルパー8に送られ、再利用される。
【0065】
上記のようにして紙が製造される製紙工程では、白水処理剤タンク14から添加される白水処理剤46、例えば2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)がパルプスラリー44および白水53に溶解して白水循環系を循環し、白水循環系のスライム抑制が行われる。またクリア白水ピット28に集められたクリア白水56が再利用されることにより、再利用先のスライムも抑制される。
【0066】
このようにしてスライムの抑制が行われている製紙工程において、任意の2箇所以上から試料を採取し、各試料ごとの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて前記方法により解析する(微生物解析工程)。例えば、CGPチェスト1、LBKPチェスト3、ウェット損紙チェスト6、ドライ損紙チェスト8、サイズ剤タンク11、染料タンク13、内添デンプン糊液タンク15、ミキシングチェスト17、マシンチェスト18、白水サイロ25、クリア白水ピット28、工業用水ピット31、外添デンプン糊液タンク32などから試料を採取する。
【0067】
次いで抵抗性判定工程として、前記微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用している白水処理剤46に対して抵抗性を有するか否かを判定する。例えば、前記微生物解析工程で検出された微生物または現在使用している白水処理剤46を検索キーとして、前記薬剤検索データベースを検索し、検索対象の微生物に対して現在使用している白水処理剤46の有効濃度が記録されている場合は、検索対象の微生物は現在使用している白水処理剤46に対して抵抗性を有さず、有効濃度が記載されていない場合は抵抗性を有すると判定することができる。
【0068】
次いで発生源判定工程として、前記抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所を抵抗性微生物の発生源と判定する。例えば、DBNPAに抵抗性の微生物の存在比率がウェット損紙チェスト6で最も高い場合は、その抵抗性微生物の発生源はウェット損紙チェスト6であると判定することができる。発生源は複数存在する場合もある。
【0069】
次いでスライムコントロール剤選定工程として、前記抵抗性判定工程で判定した抵抗性微生物を検索キーとして、前記薬剤検索データベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出する。この場合、環境条件などを検索キーとして入力し、スライムコントロール剤をさらに絞り込むのが好ましい。複数のスライムコントロール剤が抽出された場合は、抵抗性微生物に対して最も低い最小有効濃度のスライムコントロール剤を選択するか、「最小有効濃度×価格」が最小となるスライムコントロール剤を選択することにより、発生源処理剤として使用するスライムコントロール剤を選定する。
【0070】
次いで発生源処理剤添加工程として、前記発生源判定工程で判定した抵抗性微生物の発生源に、前記スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤、すなわち現在使用している白水処理剤とは別の発生源処理剤剤を添加する。例えば、ウェット損紙チェスト6に、抵抗性微生物に有効であるとして選定されたHPGHC(2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシロヒドロキシモイルクロライド)を添加する。これにより、抵抗性微生物がその発生源で効果的に抗菌処理され、これによりスライムが抑制される。
【0071】
試料の採取は定期的または任意の時点で繰り返して行う。そして発生源処理剤の効果が認められた場合は、発生源処理剤の使用は中止し、白水処理剤による通常の処理を行う。一方、効果が認められない場合は、さらに別の発生源処理剤に切り替えるか、発生源処理剤の使用方法(添加濃度、添加方法など)または環境条件を見直す。さらに新たな抵抗性微生物が検出された場合、その微生物に対する新しい発生源処理剤を選定して添加する。
【0072】
このようにして、微生物相の解析および発生源処理剤の選定を繰り返して行うことにより、その時点における最適なスライムコントロール剤を短時間で、かつ的確に選定することができ、しかも発生源に対して添加することができるので添加量を最小限にしてスライムの抑制を行うことができる。
【0073】
【実施例】
参考例1
連続操業期間約2週間の中性抄紙の製紙工程において、抄紙機の白水循環系でスライムが発生するため、DBNPA(ジブロモニトリロプロピオンアミド)を有効成分とするスライムコントロール剤を種箱に間欠添加をする方法(DBNPAの系内濃度が20mg/Lを20分間維持するように設定した注入量を1日に4回、定量ポンプで自動注入した)でスライムコントロールを行った。この製紙工程ではこの他にクリヤ白水配管にもスライムが発生するため、同様にDBNPAを有効成分とするスライムコントロール剤をクリヤ白水ピットにも間欠添加する方法でスライムコントロールを行った。
【0074】
実施例1
参考例1の処理を開始してから2か月後に、抄紙機ワイヤー下のサクションボックス内に細菌を主体とするスライムの発生が観察された。そこでこのスライムを試料として寒天平板法で細菌を分離培養し、釣菌した48菌株につき16S rDNAを指標にして微生物相の解析を行った。各菌株から抽出したDNAを鋳型としてPCRで16S rDNAを合成し、3種類の制限酵素(BstUI、Rsal、HhaI)でそれぞれ消化してRFLP解析を行った。電気泳動パターンが一致するものは同じ菌としてあらかじめグループ化した後、5’末端より500bp前後の部分塩基配列を指標としてGenBankデータベースにアクセスして、個々の細菌を同定した。その結果、48菌株中25菌株がDeinococcus geothermalis、10菌株がAcidovorax temperans、8菌株がRiemerella属近縁のグラム陰性細菌、4菌株がShingomonasであり、残る1菌株がRhizobium sp.であった。
【0075】
各菌株の16S rDNAの塩基配列を指標にして薬剤検索データベースを調べた結果、Acidovorax temperansRiemerella属近縁のグラム陰性細菌、ShingomonasおよびRhizobium sp.はDBNPAに対する感受性菌であったが、Deinococcus geothermalisはDBNPAに対する抵抗性菌であることが分かった。
【0076】
後刻これを確かめるため、代表的分離菌株につきDBNPAの殺菌試験を行ったところ、Acidovorax temperansRiemerella属近縁のグラム陰性細菌、ShingomonasおよびRhizobium sp.は2mg/L以下のDBNPAに30分間接触することで生菌数の99%が死滅したが、Deinococcus geothermalisは30mg/LのDBNPAに30分間接触させても全く殺菌されなかった。
【0077】
次に製紙工程の各箇所から試料を採取し、DAPI染色直接検鏡法により全菌数を測定するとともに各48菌株を寒天平板法により分離し、16S rDNAの塩基配列により48菌株に占めるDeinococcus geothermalisの存在比率を調べた。試験結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
Figure 0003778019
【0079】
Deinococcus geothermalisは主にウェット損紙チェストに存在し、その存在比率は91.7%に達した。LBKPチェストやドライ損紙チェストにも検出されたが、これはパルプ調製に使用された回収白水を介してもたらされたものである。また、各種パルプ原料が集まったミキシングチェスト、マシンチェストは、全菌数が増加しているけれどもDeinococcus geothermalisの比率が低いことから、ここではDeinococcus geothermalisが増殖していないことがわかる。以上の試験結果からDBNPA抵抗性菌であるDeinococcus geothermalisはウェット損紙チェストで増殖し、白水循環系に供給されたものと判定した。
【0080】
薬剤検索データベースで、Deinococcus geothermalisを検索キーにしてスライムコントロール剤を検索し、中性域において殺菌効力の高いスライムコントロール剤に絞り込んだところHPGHC(2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシロヒドロキシモイルクロライド)が抽出された。HPGHCは系内濃度20mg/Lに20分間接触させることでDeinococcus geothermalisを殺菌することも分かった。ウェット損紙系の流量は白水循環系の流入量に比べて約20分の1であり、同じ系内濃度20mg/Lを達成するにはウェット損紙に添加する方が薬剤使用量が少なくて済む。さらにこのチェストの滞留時間は長いので、一度添加した薬剤が長時間微生物と接触し、連続注入をしなくても接触時間を維持できるので流量比以上に薬剤使用量が少なくても済む利点がある。
【0081】
なお実施例で用いた上記薬剤検索データベースは、Microsoft社のMicrosoft Access(商標)を利用して作成したものであり、各種水系および製紙工場のデンプンスラリー、デンプン糊液、コーティングカラーから分離した細菌について、pH3水準、温度3水準の条件下で各種スライムコントロール剤またはその素剤を用いて殺菌試験および増殖抑制試験を行い、その試験結果を入力したものである。さらに各種スライムコントロール剤を各種対象系に適用して得られた過去の実績データを網羅して入力したものである。なお、この薬剤検索データベースの検索は、Microsoft Accessに組み込まれている「並べ替え」、「オートフィルター」および「検索」の機能だけを利用して行い、検出結果をコンピュータの画面上に表示させて判断した。
【0082】
スライムコントロール剤検索の結果から、ウェット損紙チェストに発生源処理剤としてHPGHCを有効成分とするスライムコントロール剤を保有水量(チェスト容量)当たり25mg/Lを1日3回添加し、白水循環系にはDBNPAを有効成分とするスライムコントロール剤を従来通りの要領で添加する方法に処理法を変更した。
この時HPGHCの使用量は、白水循環系にこれを添加したと仮定した場合の約30分の1の使用量に相当する。
【0083】
その結果、シャットダウン時に観察されたスライム付着量は著しく減少し、サクションボックス付着物はいわゆるスライムから少量のパルプ繊維を主体とする付着物になった。
【0084】
処理法を変更してから2回目のシヤットダウン時およびその直前に、製紙工程の各部から試料を採取し、全菌数およびDeinococcus geothermalisの存在比率を、前回と同じ方法で測定した。その結果、全菌数は通常のバラツキ範囲内にあり変化がなかったが、Deinococcus geothermalisは検出されなくなった。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
Figure 0003778019
【0086】
以上の結果から少量のスライムコントロール剤を追加使用するだけで、DBNPAに抵抗性のDeinococcus geothermalisを、その発生源であるウェット損紙チェストで駆逐したことがわかる。また白水循環系におけるスライムコントロール効果を確実なものにしたことがわかる。
なお、同時に採取したサクションボックス付着物の全菌数は3.5×109cells/dry-gであり、これからもDeinococcus geothermalisは検出されなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスライム抑制方法を適用する製紙装置の系統図である。
【符号の説明】
1 CGPパルパー
2 CGPチェスト
3 LBKPパルパー
4 LBKPチェスト
6 ウェット損紙パルパー
7 ウェット損紙チェスト
8 ドライ損紙パルパー
9 ドライ損紙チェスト
11 サイズ剤タンク
12 硫酸バンドタンク
13 染料タンク
14 白水処理剤タンク
15 内添デンプン糊液タンク
17 ミキシングチェスト
18 マシンチェスト
19 種箱
21 抄紙機
22 スクリーン装置
23 インレット
24 セーブオール
25 白水サイロ
27 分離濃縮装置
28 クリア白水ピット
31 工業用水ピット
32 外添デンプン糊液タンク
41 サイズ剤
42 硫酸バンド
43 内添デンプン糊液
44 パルプスラリー
45 染料
46 白水処理剤
51 ポンプ
52 ワイヤー部
53 白水
54 連絡路
55 プレスパート
56 クリア白水

Claims (5)

  1. 製紙工程で発生するスライムをスライムコントロール剤を用いて抑制する方法において、
    スライムコントロール剤を用いてスライムを抑制している製紙工程の2箇所以上から試料を採取し、各試料ごとの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析する微生物解析工程と、
    微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有するか否かを判定する抵抗性判定工程と、
    抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所を抵抗性微生物の発生源と判定する発生源判定工程と、
    抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出し、この中から新しいスライムコントロール剤を選定するスライムコントロール剤選定工程と、
    発生源判定工程で判定した抵抗性微生物の発生源に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤を添加する発生源処理剤添加工程と
    を有する製紙工程のスライム抑制方法。
  2. 製紙工程で発生するスライムをスライムコントロール剤を用いて抑制する方法において、
    スライムコントロール剤を用いてスライムを抑制している製紙工程の2箇所以上から試料を採取し、各試料中の微生物をDNAの塩基配列に基づいて解析する微生物解析工程と、
    微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有するか否かを判定する抵抗性判定工程と、
    抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率を、前記各試料ごとに求め、抵抗性微生物の存在比率の高い試料の採取場所を抵抗性微生物の発生源と判定する発生源判定工程と、
    抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出し、この中から新しいスライムコントロール剤を選定するスライムコントロール剤選定工程と、
    発生源判定工程で判定した抵抗性微生物の発生源に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤を添加する発生源処理剤添加工程と
    を有する製紙工程のスライム抑制方法。
  3. 製紙工程で発生するスライムをスライムコントロール剤を用いて抑制する方法において、
    スライムコントロール剤を用いてスライムを抑制している製紙工程の2箇所以上から試料を採取し、各試料ごとの微生物相をDNAの塩基配列に基づいて解析する微生物解析工程と、
    微生物解析工程で検出された微生物が、現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有するか否かを判定する抵抗性判定工程と、
    抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、抵抗性微生物に対して有効濃度が入力されているスライムコントロール剤を抽出し、この中から新しいスライムコントロール剤を選定するスライムコントロール剤選定工程と、
    抵抗性判定工程で抵抗性を有すると判定した抵抗性微生物の存在比率が高い試料の採取場所に、スライムコントロール剤選定工程で選定した新しいスライムコントロール剤を添加する発生源処理剤添加工程と
    を有する製紙工程のスライム抑制方法。
  4. 抵抗性判定工程において、微生物解析工程で検出された微生物または現在使用しているスライムコントロール剤を検索キーとして、微生物に対するスライムコントロール剤の有効濃度のデータが蓄積されているデータベースを検索し、検索対象の微生物に対して現在使用しているスライムコントロール剤の有効濃度が記録されている場合は、検索対象の微生物は現在使用しているスライムコントロール剤に対して抵抗性を有さず、有効濃度が記載されていない場合は抵抗性を有すると判定する請求項1ないし3のいずれかに記載のスライム抑制方法。
  5. 微生物解析工程において試料を採取する場所が、パルプ原料調製系、損紙系、製紙薬品調製系、調成系、白水循環系および白水回収系からなる群から選ばれる2箇所以上である請求項1ないし4のいずれかに記載のスライム抑制方法。
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