JP3640161B2 - 起泡済みクリーム及びその製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強い耐熱保型性とみずみずしい口溶け性を併せ持った起泡済みクリーム及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、クリーム類またはこれらを起泡して得られるホイップドクリーム類は、洋菓子を中心に普及し広く使用されているが、物性面、衛生面の両面で冷蔵保存を必要とする制約がある。水中油型の乳化系は外相の連続相が水分系であるため美味しい食感を有するのが長所であるが、反面、菌の影響を受けて腐敗し易いという短所を有する。一方、パン或いは和菓子は常温流通が普通であり、常温流通に耐える美味なフィリング材が望まれるが、水中油型のクリーム類は物性面及び衛生面の両面から制約を受けるので普及せず、特に夏期の高温多湿の時期には到底クリーム類の如き美味なフィリング材の使用は不可能であった。
【0003】
以上のような点から、近年、常温流通に耐えるべく改善されたクリーム類が開発されてきたが、このようなクリーム類は、糖類を多量用いて水分活性を下げるとともに、融点の高い油脂を用いて耐熱性の向上を指向したものである。従って、極端に融点の高い油脂を使用する必要があり、口溶けが極めて不良であった。このような状況下において、常温流通販売に耐える口溶けのよい美味なフィリング材を使用したパン・菓子の要求は年々強くなる一方であり、このような観点から従来にない耐熱性、保存性に優れた水中油型エマルジョンの起泡物からなるフィリング材の開発が市場において強く要望されている。
【0004】
このような要望に対し、最近、油相と水相とを予備乳化後、殺菌処理し、次いで均質化して液状の水中油型エマルジョンを調製した後、使用油脂の融点から−5〜−20℃の温度で攪拌操作をおこない、液状の水中油型エマルジョンの脂肪球に凝集、及び合一させることにより可塑化させた後、同温度にて6〜24時間テンパリングを行うことによってクリーム状食品を得る方法が提案されている(特開平11−32676号公報)。しかしながら、このような方法は製法が繁雑であるとともに、得られるクリーム状食品は高比重(1.0 〜1.15)であって低比重にすることができないため製品の出来高が低く、経済性に難点があった。
【0005】
また、油脂15〜35重量%、蛋白質1〜6重量%及び固形物換算で20〜45重量%の糖類を含有する、UHT滅菌処理後の水中油型乳化物を比重0.5〜0.8に起泡させることによって起泡食品を得る方法が提案されている(特開平2−128651号公報)が、かかる方法によって得られる起泡食品は口溶け性を重視すると耐熱性が弱く、逆に耐熱性を良くすると口溶け性が悪くなるという欠点があった。
【0006】
さらに、脂肪率30%以上の水中油型乳化物を、該乳化物の構成油脂の上昇融点を中心として上下で約5℃以内の範囲の温度領域における恒温状態下に保持した後、緩徐に冷却して展延性を発現させることによって、展延性を有する水中油型乳化物を得る方法が提案されている(特公平6−9463号公報)が、かかる方法によって得られる水中油型乳化物は、ホイップされたものではないので、基本的にホイップドクリームとは食感の異なるものであった。
【0007】
また、このような従来より製造される耐熱保型性に優れる水中油型エマルジョンは、乳化安定性を得るための乳化安定剤として、リン酸のナトリウム塩またはカリウム塩あるいはクエン酸塩等のアルカリ金属塩類の使用が必須であり、さらにガム類またはゲル化剤の使用も必須であるが、かかる塩類の使用は風味的に好ましくなく、またガム類やゲル化剤の使用は口溶けを低下させるという欠点がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、乳化安定剤としての各種リン酸塩やアルカリ金属塩類を使用しなくても、またガム類やゲル化剤を多量使用しなくても、強い耐熱保型性とみずみずしい口溶け性を併せ持った、保存性の良好な起泡済みクリーム及びその製造法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、如上の点に鑑み鋭意研究した結果、起泡性の水中油型エマルジョンを製造する工程中において、乳化安定剤を実質的に使用せず、かつ油相に融解性状のシャープな油脂を用いることによって、ガム類やゲル化剤を多量使用しなくても、上記目的を達成することができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、油脂のSFCが25℃で40%以上、35℃で15%以下、塩類含量が0.01重量%未満である水中油型エマルジョンをホイップして成る、解乳化度が20〜60重量%の起泡済みクリーム、及び、当該起泡済みクリームと各種ソース類とを混合して成るフィリング材、並びに、油脂のSFCが25℃で40%以上、35℃で15%以下である起泡性水中油型エマルジョンであって、水相と油相とを予備乳化、均質化して起泡性水中油型エマルジョンを調製し、殺菌乃至滅菌処理後30〜45℃に冷却し、その後冷却しながらホイップして解乳化度を20〜60重量%にすることを特徴とする起泡済みクリームの製造法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明において、解乳化度とは乳化物の全油分に対する遊離脂肪分の割合(重量%)を言い、解乳化度が高いということは乳化物の乳化破壊の割合が高い状態をいう。従って、均質化後の乳化状態の安定な起泡性水中油型エマルジョンは解乳化度が殆ど0%であり、起泡性水中油型エマルジョンをホイップするということは、乳化状態の一部を破壊(解乳化)することであって解乳化度は高くなる。通常、起泡性水中油型エマルジョンをホイップしたときのホイップドクリームの解乳化度は10〜20%程度である。本発明において、解乳化度が20%未満では耐熱保形性が不十分であり、60%を越えるとフィリング材の油性感が強くなり、油っぽい食感となり好ましくない。
【0012】
水中油型エマルジョンの調製に使用する水相には、従来より使用されている無脂乳固形分を使用するが、その他、従来より乳化安定剤として使用されるヘキサメタリン酸塩等の各種リン酸塩、ナトリウム塩やクエン酸塩等の各種塩類は、解乳化を容易にさせるために実質的に使用しない。これらがクリーム中0.01%を越えて使用されるとスムーズな解乳化、低比重化を妨げ、ホイップの厳密な温度管理及び長時間のテンパリングを必要とする。また、ガム類やゲル化剤も特に使用する必要はなく、使用するとしても極めて少量で済む。
【0013】
また、油相に使用する油脂としては、天然の生クリームや従来の起泡性水中油型エマルジョンに使用される、乳脂肪の如きSFC曲線が横型の油脂ではなく、SFC曲線が縦型のシャープな油脂を使用する必要があり、具体的には各温度におけるSFCが25℃で40%以上、35℃で15%以下である油脂を使用する。このようなSFCを有する油脂を使用することにより、水中油型エマルジョンをホイップしたとき容易に解乳化度が20〜60重量%で、比重が0.7以下の起泡済みクリームを得ることができるのであって、従来のSFC曲線が横型の油脂では、本発明が目的とする起泡性クリームは得られない。
【0014】
このようなSFCを有する油脂に調製する原材料油脂としては、食用として使用できるものを広く採用することができ、例えばナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、落花生油、米糠油、とうもろこし油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した、上記SFCを満足する油脂が採用できる。
【0015】
これらの水相およびまたは油相には各種乳化剤を使用できるが、これらの乳化剤としてはレシチンで代表される各種リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等、従来より公知の各種乳化剤が例示できる。
【0016】
以上の水相と油相とを常法どおり予備乳化し、均質化して水中油型エマルジョンを調製し、これを殺菌乃至滅菌処理する。殺菌乃至滅菌処理後は、通常、均質化(後ホモ)するのが常識的に行われているが、本発明において解乳化を容易にさせるために殺菌乃至滅菌処理後の均質化(後ホモ)は不要である。仮に、均質機を通すとしても素通しするのが好ましく、止むを得ず圧力がかかるとしても10kg/cm2 以上にならないようにするのが好ましい。
【0017】
また通常、均質化(後ホモ)後は乳化安定な起泡性水中油型エマルジョンを得るために5℃前後まで急激に冷却する必要があるが、本発明においては特に殺菌乃至滅菌処理後、直ちに冷却を開始して30〜45℃になった時点でホイップ装置内に導入し、さらに冷却を続けながらホイップすることにより解乳化度が20〜60%で比重0.7以下の起泡済みクリームを得る。従って、本発明における起泡済みクリームを製造する方法は、通常のように5℃前後まで冷却して乳化安定なエマルジョンを作成する工程を省略して、エマルジョンを冷却する段階でホイップも同時に完了させる。ホイップ装置内への導入温度が45℃より高いと冷却能力不足によるホイップの不良が生じ得る。また、30℃未満ではエマルジョンが増粘してホイップが困難となる。
【0018】
本発明において、ホイップする装置としてはオープンミキサーよりは起泡可能な攪拌装置および冷却設備が付設された密閉型加圧式のホイッパーであるのが好ましい。加圧程度は大体0.5〜2kg/cm2 でよく、空気、窒素ガス或いは炭酸ガス等を起泡室内に圧入することにより調節されるが、これは原料の供給量および所望のオーバーラン値等によって変化するので、予め実験的に検討した上で適宜決定すればよい。
このようにして調製した起泡済みクリームを常法通り無菌充填し、使用時まで冷蔵保存し、あるいは流通形態も冷蔵温度域で実施する。
【0019】
以上の如く本発明は、解乳化度が20〜60%であり、容易に比重が0.7以下の起泡済みクリームを得ることができ、みずみずしい食感とシャープな口溶けを呈し、かつ、30℃の耐熱保型性にも優れるという効果を有しており、かかる起泡済みクリームをそのまま、またはこれに所望の各種フレーバーや各種ソース類を混合して、パンなど各種食品のフィリング材として有利に使用することができる。ソース類としては果肉入りフルーツソース、チョコレートソース等が例示できる。その他、ナッツ等適宜好みの材料を混合することもできる。
【0020】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの例示は、本発明を何ら限定するものではない。なお、例中に示す部および%は重量基準を意味する。
【0021】
実施例1
パーム核分別硬化油(融点:35℃)20部とパーム核硬化油(融点:36℃)10部の混合油(SFC:73/25℃,9/35℃)を60℃に加温し、これにレシチン0.2部を添加して油相を調製した。一方、約60℃に加温した水33部に脱脂粉乳4部、プドウ糖18部、砂糖15部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB:7)0.1部およびキサンタンガム0.04部と香料を適量加えて溶解ないし分散させて水相を調製した。次いで、この水相をホモミキサーにて攪拌しながら、油相を加えて予備乳化した後、均質化し、約70℃に1時間加熱して殺菌処理後、プレート式冷却機にて約38℃まで冷却した。このエマルジョンを起泡可能な攪拌装置および冷却装置の付設された密閉式のホイッパー内に導入し、空気を圧入してゲージ圧1.1kg/cm2 の加圧下にて冷却しながらホイップし、品温15℃の起泡済みクリームを得た。この起泡済みクリームの性状を表−1に示す。
【0022】
Figure 0003640161
【0023】
注1:透明な密閉容器の中に、絞り袋に入れた起泡済みクリームを絞り出し、30℃で一昼夜保存したときの型崩れの状態を観察する。
注2:同上の方法で実施したときの離水の有無を観察する。
【0024】
以上の起泡済みクリームをパンのフィリング材として使用したところ、このフィリング材はネタツキの無いシャープな口溶けとみずみずしい食感を呈しており、30℃における耐熱保形性にも優れていて、極めて良好なフィリング材であった。
【0025】
比較例1
実施例1において、同様に実施し、殺菌処理後は通常のクリーム製法通り5℃まで冷却してから、5℃に一晩乳化物を静置したところ、この乳化物は可塑化して固形状を呈し、その後のホイップが実質的に不可能な状態であった。
【0026】
比較例2
実施例1において、水33部に脱脂粉乳4部、ブドウ糖18部、砂糖15部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB:7)0.1部、およびキサンタンガム0.04部と香料を適量添加し、さらにリン酸塩0.3部を加えて溶解乃至分散させて水相を調製した。その後、同様に油相と水相を混合し予備乳化し殺菌処理後、5℃まで冷却してから、5℃に一晩乳化物を静置した。このようにして調製した乳化物をモンドミキサーを用いてホイップし、品温10℃、比重0.6の起泡済みクリームを得た。このときの解乳化度は15%であった。この起泡済みクリームは30℃耐熱保形性、離水耐性とも不良であるとともに、5℃放置後は戻り現象を呈し、物性面においてパン用フィリング材として不充分なものであった。
【0027】
比較例3
比較例2において、水相にさらにカラギーナン0.3部を加えた他は全て同様にして乳化物を調製した。さらに同様に5℃に冷却し、5℃に一晩放置して調製した乳化物をモンドミキサーを用いてホイップし、品温10℃、比重0.6の起泡済みクリームを得た。このときの解乳化度は18%であった。この起泡済みクリームは30℃耐熱保形性、離水耐性とも良好で、5℃放置後の戻り現象も発生しなかった。しかし、その口溶けはネバリが強く、口中でモタツキを呈し、パン用フィリングとして満足し得るものではなかった。
【0028】
実施例2
パーム核分別硬化油(融点:35℃)20部とパーム分別中融点部(融点:32℃)10部の混合油(SFC:55/25℃,4/35℃)を60℃に加温し、これにレシチン0.1部を添加して油相を調製した。一方、約60℃に加温した水30部にホエーパウダー4部、プドウ糖18部、マルトース14部、グラニュー糖4部、HLB7のショ糖脂肪酸エステル0.2部およびHLB14のショ糖脂肪酸エステル0.2部、キサンタンガム0.05部、ジエランガム0.01部と香料を適量加えて溶解ないし分散させて水相を調製した。次いで、この水相をホモミキサーにて攪拌しながら、油相を加えて予備乳化した後、均質化し、VTIS滅菌装置(UHT(直接加熱式)滅菌装置、テトラパック・アルファラバル社製)を用いて140℃4秒間滅菌処理した後、約40℃まで冷却した。このエマルジョンを起泡可能な攪拌装置および冷却装置の付設された密閉式のホイッパー内に導入し、空気を圧入してケージ圧1.1kg/cm2 の加圧下にて冷却しながらホイップし、品温12℃、解乳化度は35%で比重0.5の起泡済みクリームを得た。
【0029】
この起泡済みクリーム80部とストロベリーフルーツソース(ブリックス65)20部をスタティックミキサーを用いて連続的に混合し、ストロベリー風味のフィリング材を得た。このフィリング材の比重は0.6であった。
【0030】
このようにして調製したストロベリー風味のフィリング材は、シャープな口溶けとみずみずしい食感でストロベリー風味の強い極めて良好なフィリング材であった。合わせて、このフィリング材は30℃の耐熱保形性、離水耐性とも良好でパン用フィリング材として優れたものであった。
【0031】
比較例4
実施例2において、油相に用いる油脂を菜種油80部とパーム軟質油20部との混合油を水素添加し得た硬化油(融点:36℃、SFC:30/25℃,7/35℃)30部を使用した他は全て同様にして、ストロベリー風味のフィリング材を調製した。このときの起泡済みクリームの比重は0.68で解乳化度は30%であった。このようにして調製したストロベリー風味のフィリング材は、ソフトで口当たりの良いフィリング材であったが、耐熱保形性に乏しく25℃でも耐熱保形性、離水耐性とも不良でパン用フィリング材としては満足できるものではなかった。
【0032】
【発明の効果】
以上の如く、水相と油相とを混合し、予備乳化し、殺菌ないし滅菌処理した水中油型エマルジョンを30〜45℃に冷却した後、さらに冷却しながらホイップして得られる、解乳化度が20〜60%の起泡済みクリームは、これをそのまま、あるいは各種ソース類(果肉入りフルーツソース、チョコレートソース等)と混合したものをフィリング材として使用したとき、30℃に4日間放置してもダレたり離水したり戻り現象のない、耐熱保型性に優れ、保存性良好且つ風味良好なフィリング材を極めて容易に製造することが可能となったのであり、この発明はパン・菓子業界に多大の貢献をもたらすものである。

Claims (5)

  1. 油脂のSFCが25℃で40%以上、35℃で15%以下、塩類含量が0.01重量%未満である水中油型エマルジョンをホイップして成る、解乳化度が20〜60重量%の起泡済みクリーム。
  2. 比重0.7以下である、請求項1記載の起泡済みクリーム。
  3. ガム類またはゲル化剤含量が0.1重量%未満である、請求項1または請求項2記載の起泡済みクリーム。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の起泡済みクリームと各種ソース類とを混合して成るフィリング材。
  5. 油脂のSFCが25℃で40%以上、35℃で15%以下である起泡性水中油型エマルジョンであって、水相と油相とを予備乳化、均質化して起泡性水中油型エマルジョンを調製し、殺菌乃至滅菌処理後30〜45℃に冷却し、その後冷却しながらホイップして解乳化度が20〜60重量%にすることを特徴とする、起泡済みクリームの製造法。
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