JP3639124B2 - パルスレーダ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンテナ回転方式のパルスレーダ装置に関し、特にパルス積分処理やパルス・ドプラ処理などの、計測エリアごとに復数の受信信号を用いる処理を施す機能を有するパルスレーダ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
パルスレーダ装置にあっては、受信利得を向上(あるいは受信S/Nを向上)させるために、受信パルスを所定の回数ごとに積分する積分処理がよく知られている。また、移動する目標の移動速度を互いに分離するために、数回〜数十回ごとの受信パルス信号に対してフーリエ変換などの処理を行い、速度ごとの成分に分離するパルス・ドプラ処理がよく知られている。
【0003】
ところで、一般に全方位目標捜索用パルスレーダ装置にあっては、レーダ波の送受信を行うアンテナを、機械的回転駆動機構により全方位に渡って回転できるようにしたタイプのものが主流である。このようなアンテナ回転式パルスレーダ装置において、上記積分処理またはパルス・ドプラ処理などの、計測エリアごとに複数の受信信号を用いる処理を行う場合、以下に示す不具合が生じていた。
【0004】
すなわち、従来のアンテナ回転式パルスレーダ装置において積分処理またはパルス・ドプラ処理を行う場合に、処理のもととなる受信パルスを等方位的に(つまり、方位角度的に等間隔に)取り込んでいた。このため、処理の精度(積分処理においては受信利得、パルス・ドプラ処理においては速度の分離度)が方位ごとにばらつくという不具合が有った。
【0005】
このことを、図5および図6を用いて詳しく説明する。
図5(a)は、従来のパルスレーダ装置を用いてパルス積分処理を行う仕方を示している。
図5(a)において、レーダパルスの放射角度は、積分処理の開始時点に対応するパルスから終了時点に対応するパルスに渡って等間隔となっている。このとき、目標が積分開始パルスの近辺にいた場合を考える。つまり積分開始時点において、既にアンテナが目標の位置する方位を向いているとする。
【0006】
この場合、図6(a)に示すようにアンテナの回転に伴って、積分される利得は急速に低下していく(図6(a)において、STARTが積分開始パルスに、ENDが積分終了パルスに対応している)。積分結果としての出力はこれらの和として表されるので、結果として受信利得が低くなることになる。
【0007】
一方、図5(a)において目標が積分期間の中心付近にいた場合を考える。つまり積分期間の中間辺りで、アンテナが目標の位置する方位に向くものとする。
この場合、図6(b)に示すように、アンテナが回転しても積分される利得はあまり変化しない(図6(b)においても、STARTが積分開始パルスに、ENDが積分終了パルスに対応している)。このため、結果として受信利得は高くなることになる。
【0008】
図6に示したことは、アンテナのビーム形状(アンテナパターン)が指向性を持つことに由来している。つまり、アンテナのボアサイトが積分開始時に既に目標を向いている場合と、積分期間中に目標に向く場合とでは、後者の積分出力のほうがより高利得になることになる。
【0009】
したがって図5(b)に示すように、信号利得(積分出力)における利得特性が観測方位に対して波を打つ(方位特性が発生する)ことになる。なお、図5(b)に表した波は、積分開始時点の設定により左右(方位に対して)に移動する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のような全方位目標捜索用のアンテナ回転式パルスレーダ装置にあっては、その性能を測る指標としての距離計測可能レンジは、「全方位に渡って計測可能であること」を前提として評価される。つまり、方位ごとに距離計測可能レンジが異なっていた場合、その最低値が、レーダ装置としての性能をはかる基準とされてしまう。
このため、受信利得に方位特性があると、本来持っているポテンシャルよりも低い所で性能を評価されてしまうことになり、好ましくなかった。
【0011】
本発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、計測エリアごとに復数の受信信号を用いる処理を施す際に生じる処理精度の方位特性を抑圧し、これにより捜索性能の更なる向上を図り得るパルスレーダ装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、回転軸周りに一定の回転速度で回転駆動されるフェーズドアレイアンテナと、このフェーズドアレイアンテナからレーダパルスを繰り返し放射するレーダパルス放射手段と、このレーダパルス放射手段により放射された前記レーダパルスに基づく反射パルスを受信して、複数の計測エリアごとに、復数の受信信号を用いる積分処理を施す受信信号処理手段と、前記積分処理を施す際に、積分開始時点付近に対応する方位付近、および積分終了時点付近に対応する方位付近においては前記フェーズドアレイアンテナの高利得位置が密に、前記積分期間の中央に対応する方位付近においては前記高利得位置が疎になるように、前記フェーズドアレイアンテナのアンテナパターンを走査するビーム走査制御手段とを具備することを特徴とする。
【0013】
このように構成すると、ビーム走査制御手段により、フェーズドアレイアンテナのアンテナパターンがボアサイトに対して走査される。これにより、ボアサイトが回転軸周りに一定の速度で回転するにもかかわらず、アンテナパターンの高利得方向の回転速度は一定ではなくなることになる。
【0014】
つまり、計測エリアの開始および終了時点の近傍ではアンテナパターンの高利得方向が密に、計測単位の中間近傍ではアンテナパターンの高利得方向が粗になるように走査される。
【0015】
したがって、計測エリアごとに方位ごとの受信利得の不均等が打ち消され、均一化されることになる。これにより処理精度の方位特性を抑圧することが可能となる。このことは、出力パワーが同じであれば、最大探知距離を延伸できることを意味する。また、最大探知距離が等しければ、出力パワーを下げることが可能となり、レーダ装置の規模を縮小し、小型・軽量化を図ることが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係わるパルスレーダ装置の構成を示す機能ブロック図である。図1において、送信機2で発生出力されるレーダ送信信号は、サーキュレータ8を介してアンテナ1から空間に向け放射される。このアンテナ1はフェーズドアレイアンテナをなし、そのアンテナパターン(ビーム方向)は制御部7からの制御に基づいて走査される。さらに、回転駆動機構4により一定速度でアジマス方向に関して回転駆動されるようになっている。
【0017】
アンテナ1に到来した目標(図示せず)からのレーダ反射信号は、サーキュレータ8を介して受信機5に導かれて受信処理を施される。受信信号は積分回路6に入力され、ここでパルス積分処理を施されて目標信号出力が得られる。
【0018】
ところで、制御部7は、本発明に係わる制御機能として、ビーム走査制御手段7aを備えている。
このビーム走査制御手段7aは、アンテナ1のアンテナパターンを、アンテナ1のボアサイトに対して走査するための制御を行う。この走査の仕方が本発明の根幹をなすもので、以下に詳しく説明する。
【0019】
次に、上記構成のパルスレーダ装置の動作を説明する。まず、図2および図3を用いて概略的に説明する。
図2(a)は、本実施形態のパルスレーダ装置を用いて、ある計測エリアに対してパルス積分処理を行う仕方を示している。図2(a)において、レーダパルスの放射角度は、積分期間の開始および終了時点の近傍では密に、また積分期間の中央近傍では疎になっている。つまり積分されるパルスの間隔は、積分期間の両端にいくほどに小さく、中央にいくほどに大きいものとなっている。
【0020】
このとき、目標が積分開始パルスの近辺にいた場合を考える(場合Aとする)。つまり積分開始時点において、既にアンテナが目標の位置する方位を向いているとする。
この場合、図3(a)に示すように、積分される利得はアンテナの回転に伴って、STARTからENDまで不均等の間隔をもって低下していく。積分結果としての出力は、これらの和として与えられる。
【0021】
一方、図2(a)において目標が積分期間の中心付近にいた場合を考える(場合Bとする)。つまり積分期間の中間辺りで、アンテナが目標の位置する方位を向くとする。
【0022】
この場合、図5(b)に示すように、積分される利得はアンテナの回転に伴って、STARTから一旦上昇し、積分期間の中間で最大となりその後ENDまで低下していく。このときのアンテナ方位角度に対する間隔も不均等である。
【0023】
上記場合AおよびBにおける、積分される利得のアンテナ方位角度に対する間隔の不均等さは、ビーム走査制御手段7aによる制御によりもたらされる。
つまり、ビーム走査制御手段7aは、積分期間の中央を境として、この中央点よりも先行する時点では、アンテナ1のアンテナパターンをアンテナ1の回転方向に対して逆方向に走査する。一方、積分期間の中央点よりも後の時点では、アンテナ1のアンテナパターンをアンテナ1の回転方向に対して順方向に走査する。そしてこの走査の度合いは、積分期間の両端に近づくに連れて大きくなる。
【0024】
換言すれば、ビーム走査制御手段7aは、アンテナ1の回転軸の全周囲方向に対して、積分開始時点(積分終了時点)付近に対応する方位付近では、アンテナ1の高利得位置が密に、積分期間の中央に対応する方位付近では、アンテナ1の高利得位置が疎になるように、アンテナ1のアンテナパターンを走査する。
【0025】
このようなビーム走査制御手段7aによる制御により、結果として、積分期間における積分結果は目標の位置によらず均等になる。つまり図2(a)のように、積分利得の最大と最小値との差が小さくなる。これにより大きな効果が得られるが、それは後述するとして、本実施形態におけるビーム走査制御手段7aの制御の仕方をより詳しく説明することにする。
【0026】
次に、下記に示した諸元を持つパルスレーダ装置を仮定して、このようなパルスレーダ装置におけるビーム走査制御手段7aの制御の仕方を説明する。つまり、図3に示される(ビーム形状)アンテナパターンは、数式を用いて解析的に表現できることが多い。そこで、アンテナパターンおよびその他のパラメータを定義すると、ビーム走査制御手段7aの制御の仕方も数式的に表現できるはずである。そのような試みを、以下に示す。
以下の説明に用いるパルスレーダ装置の諸元を、以下のように定義する。
【0027】
【数1】
このように設計すると、1PRI当たりの時間にアンテナ1が回転する角度としてのΔφは、次の式(2)で表される。
【0028】
【数2】
ここで、積分区間における積分数nが10であるので、アンテナ1が積分期間中に回転する角度としてのΔθは、次の式(3)で表される。
【0029】
【数3】
【0030】
さて、以上の量を用いて、従来のパルスレーダ装置によりパルス積分処理を行った場合の積分損失(LOSS)を、目標が積分開始パルスの位置にある場合(上記場合A)と、目標が積分期間の中心にある場合(上記場合B)とに分けて求めると、それぞれ次の式(4)、(5)で表される。
【0031】
【数4】
なお、上記式(4)、(5)においてP(ψ)はアンテナパターンであり、ここでは近似的に以下の式(6)で表されるものを仮定した。
【0032】
【数5】
【0033】
ここで、ψはアンテナ1のボアサイトに対する角度を示す。また式(4)、(5)においてφA (i)およびφB (i)は、それぞれ場合AおよびBにおけるi番目のパルスでの目標とボアサイトとの相対角度であり、以下の式(7)で表される。
【0034】
【数6】
【0035】
さて、上記式(4)、(5)に基づき、従来のパルスレーダ装置における、(積分開始時の空中線正面(ボアサイト)に対する目標の角度)と積分損失との関係を算出した。そのグラフを図4に点線で示す。これから判るように、積分開始時に目標がボアサイト正面にいた場合その損失は−3.9dBとなり、目標が積分期間中点(:0.3度)にいた場合には、損失は−1.8dBとなる。両者の差は大きく、またレーダ装置の性能を評価する場合にはその基準を−3.9dBに採らざるを得ない。
【0036】
次に、本実施の形態のパルスレーダ装置によりパルス積分処理を行った場合の積分損失を、場合Aと場合Bとに分けて求める。本発明においては、ビーム走査制御手段7aによりビーム走査を行うので、これを表す新たな量としてi番目のパルスに対するビーム走査角Φ(i)を定義する。定義の仕方は様々あるが、本実施形態では次の式(8)のように定義した。
【0037】
【数7】
【0038】
ここで、kは積分損失を更に低下させるために設けた係数で、本発明の要旨には直接の関係はないが、このkを適切に設定することでより大きな効果を見込むことができる。
【0039】
式(8)に示すごとくビーム走査を行うと、i番目のパルスでの、目標とボアサイトとの相対角度は以下の式(9)で示されるようになる。つまりビーム走査を行うことで、式(7)が式(9)に書き換えられる。
【0040】
【数8】
この式(9)に基づき積分損失LOSSを求めると、次の式(10)に示すようになる。
【0041】
【数9】
【0042】
この式(10)、(5)に基づき、本実施形態のパルスレーダ装置における(積分開始時の空中線正面に対する目標の角度)と積分損失との関係を算出した。そのグラフを図4に実線で示す。ただし、k=2.03とした。これによれば、最大の損失は−3.3dBとなる。
【0043】
すなわち、式(8)に示すようにビーム走査を行うことで、積分損失を0.6dB削減させることが可能となる。つまり、性能を評価する際の基準を0.6dB向上させることができるようになる。
【0044】
かくして本実施形態では、ビーム走査制御手段7aを設け、アンテナ1の回転に伴いアンテナ1のアンテナパターンをボアサイトに対して走査して、積分開始時点(積分終了時点)付近に対応する方位近傍ではアンテナ1の高利得位置が密に、積分期間の中央に対応する方位近傍ではアンテナ1の高利得位置が疎になるようにしている。
【0045】
このようにすることで、アンテナ1の指向性によらず、積分される受信利得を全方位に渡って均等にすることができるようになり、積分出力の方位ごとのばらつきを解消できる。
【0046】
したがって、パルス積分処理の精度の方位特性を抑圧することが可能となる。これにより性能評価の際の基準を引き上げることができ、本来の性能を十分に発揮することが可能となる。また、従来のパルスレーダ装置に比較して、出力パワーが同じであれば、最大探知距離を延伸できるようになる。また、最大探知距離を等しくすれば、出力パワーを下げることができるので、規模の縮小、小型・軽量化を図ることが可能となる。
【0047】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施形態においては、パルス積分処理機能を有するパルスレーダ装置に対して本発明を適用したが、これに限らず、所定の計測エリアにおいて複数の受信信号を用いる処理を施す機能を有したパルスレーダ装置の全てに対して本発明は有効である。このような処理機能の他の例としては、パルス・ドプラ処理が挙げられる。
【0048】
また、上記実施形態ではパルスの送信および受信を一つのアンテナを介して行っているが、送信用および受信用のアンテナを別々に設けても本発明が有効であることは言うまでもない。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形実施を行うことができる。
【0049】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明は、パルスレーダ装置におけるアンテナをフェーズドアレイアンテナとし、かつビーム走査制御手段を設け、このビーム走査制御手段により、計測エリアごとに、アンテナパターンをボアサイトに対して走査して、受信利得を均一化するようにしたので、計測エリアごとに復数の受信信号を用いる処理を施した際に生じる処理精度の方位特性を抑圧することができるようになり、これにより捜索性能を更に向上させたパルスレーダ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係わるパルスレーダ装置の構成を示す機能ブロック図。
【図2】 本発明の実施形態に係わるパルスレーダ装置における積分処理の仕方およびその信号利得特性を示す図。
【図3】 本発明の実施形態に係わるパルスレーダ装置における積分位置を示す図。
【図4】 本発明の実施形態に係わるパルスレーダ装置の積分損失を、従来のレーダ装置との比較において示した図。
【図5】 従来のパルスレーダ装置における積分処理の仕方およびその信号利得特性を示す図。
【図6】 従来のパルスレーダ装置における積分位置を示す図。
【符号の説明】
1…アンテナ
2…送信機
3…方位ビーム走査回路
4…回転駆動機構
5…受信機
6…積分回路
7…制御部
7a…ビーム走査制御手段
8…サーキュレータ
Claims (2)
- 回転軸周りに一定の回転速度で回転駆動されるフェーズドアレイアンテナと、
このフェーズドアレイアンテナからレーダパルスを繰り返し放射するレーダパルス放射手段と、
このレーダパルス放射手段により放射された前記レーダパルスに基づく反射パルスを受信して、複数の計測エリアごとに、復数の受信信号を用いる積分処理を施す受信信号処理手段と、
前記積分処理を施す際に、積分開始時点付近に対応する方位付近、および積分終了時点付近に対応する方位付近においては前記フェーズドアレイアンテナの高利得位置が密に、積分期間の中央に対応する方位付近においては前記高利得位置が疎になるように、前記フェーズドアレイアンテナのアンテナパターンを走査するビーム走査制御手段とを具備することを特徴とするパルスレーダ装置。 - 前記ビーム走査制御手段は、
パルス繰り返し間隔をT[秒]、
前記フェーズドアレイアンテナの回転角速度をω[r.p.m:回転/分]
前記計測エリアごとのパルス受信回数をn、
kを任意定数、
前記計測エリアにおける最初からi番目のパルスのビーム走査角をΦ(i)としたとき、
i≦n/2のときには、
Φ(i)=k・(1−i)・T・ω・360/60 [度]
i≧(n/2)+1のときには、
Φ(i)=k・(n−i)・T・ω・360/60 [度]
なるビーム走査角をもって、前記各計測エリアごとに、前記アンテナパターンを前記フェーズドアレイアンテナのボアサイトに対して走査することを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
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JP24590598A Expired - Fee Related JP3639124B2 (ja) | 1998-08-31 | 1998-08-31 | パルスレーダ装置 |
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