JP3636939B2 - 磁気軸受の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転軸ずれを磁力により非接触に補償する磁気軸受の制御装置に係り、特に巻線に供給する電流量の制御の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
図2に一般的な磁気軸受構造の斜視図を示す。回転電動機3は、軸1を高速回転させる。スラスト方向の磁気軸受4は、軸1のスラスト方向の位置を一定に保つ。ラジアル方向の磁気軸受2,5は、軸1の軸ずれを補償して、そのラジアル方向の位置を一定に保つ。
【0003】
図3は、従来のラジアル方向の位置を一定に保つ磁気軸受の制御装置の構成ブロック図である。図3において、ラジアル磁気軸受は、スラスト方向から見た断面図として図示している。ロータ6は中心部に穴のあいた円形状の珪素鋼板をスラスト方向に積層した円筒形状をしており、焼きばめにより軸1に固着されている。ステータ7は珪素鋼板をスラスト方向に積層し、その内周には8つの極歯が等間隔に配置されている。ステータ7の四方に配置した2個の極歯を1組とする4組の極歯にはそれぞれ巻線11,12,13,14が巻かれ、電磁石を4方に4個配置した構造となっている。ここで、いずれかの巻線に電流を流すと励磁された電磁石の磁気吸引力により、ロータ6には励磁した電磁石の方向に推力が発生する。
【0004】
位置検出器8,9は、ロータ6の、直交座標でのX軸方向とY軸方向との2方向の位置をそれぞれ検出して、位置信号SXとSYとして出力する。減算器15,16は、ロータ6のX方向とY方向の目標位置信号GXとGYから、それぞれSXとSYを減算し、対応する差信号DX,DYを出力する。差信号DX,DYはそれぞれ推力制御回路17,18に入力され、推力制御回路17,18は、差信号が0となるように、ロータ6に加えるX方向とY方向のそれぞれの推力指令値FX,FYを出力する。電流値変換器19,20では、推力指令値と巻線電流が正比例関係になるように、推力指令値FXとFYに対して平方根演算又はバイアス推力を加える等の処理を行い、巻線11,13と巻線12,14に流す電流値信号CPX,CNXとCPY,CNYに変換する。電流制御回路21と22では内蔵する多数のパワートランジスタをパルス幅変調することにより、電流値信号CPX,CNXとCPY,CNYに一致するよう巻線11,13と12,14に流す電流IPX,INXとIPY,INYをそれぞれ制御する。
【0005】
以上のことから、図3の磁気軸受の制御装置では、ロータ6の位置を直交座標での2方向の位置を目標位置信号GXとGYに追従するよう制御でき、目標位置信号GXとGYを一定値にすれば、ロータ6のラジアル方向の位置を拘束するラジアル軸受としての機能を果たすことができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のラジアル磁気軸受では、磁気軸受制御装置により、4つの電磁石に流れる8相の電流をそれぞれ独立に制御するために、高価なパワートランジスタが数多く必要となってコストがかかるという問題点があった。
【0007】
また、8つの極歯にそれぞれ巻線を巻き付ける必要があって、製造工程が複雑になって、コストがかかるという問題点があった。
【0008】
さらに、このような4つの巻線の8相の電流を制御する装置は磁気軸受以外ではほとんどない上、磁気軸受は高速で回転する真空ポンプや工作機械等の特殊なスピンドルでしか使用されないため、量産効果によるコストダウンもみこめず、電流制御装置が非常に高価となっていた。したがって、磁気軸受システムは高速回転用の軸受としては格段に優れた性能を有する反面、通常の転がり軸受による軸受方式に比べて、コストがかかるという問題があった。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、簡易な構成で、8相制御と同等の機能を実現でき、コストを低減できる磁気軸受の制御装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記従来例の問題点を解決するための請求項1記載の発明は、磁性体からなるロータ外周に空隙をおいて複数の極歯を配置した磁性体からなるステータと、前記複数の極歯を励磁するスター結線またはデルタ結線した3つの巻線と、前記ロータの軸ずれ位置を直交する2方向で検出する軸ずれセンサとを具備する磁気軸受に取り付けられ、前記3つの巻線に流す電流を制御する磁気軸受の制御装置において、前記直交する2方向の軸ずれ位置を表す信号の入力を受けて、前記ロータの軸ずれを補償する推力を前記3つの巻線の磁力として発生させるための、前記各巻線に対応する3つの電流値を演算する3相電流値変換手段を有することを特徴としている。
【0011】
また、前記3相電流値変換手段は、前記3つの電流値Iu,Iv,Iwをそれぞれ、推力の大きさの平方根に比例する値をF,前記推力の方向角度をA、nを任意に選択した整数とし、θをA/2+nπとして、Iu=F・COS(θ),Iv=F・COS(θ+2π/3),Iw=F・COS(θ+4π/3)の数式に従って演算するのが好適である。
【0012】
さらに、前記3相電流値変換手段は、前回入力された軸ずれ位置に基づいて演算したθと、今回入力された軸ずれ位置に基づいて演算したθとの差の絶対値をπで除したときの余りが小さくなるように、前記nを選択するのが好適である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態に係る磁気軸受の制御装置について説明する。本発明の磁気軸受の制御装置は、3つの極歯に磁束を発生させる巻線をスター又はデルタ結線した磁気軸受に取り付けられ、3相の電流を制御することで軸ずれを補償するためにラジアル方向の運動制御を行い、8相電流で制御する場合の性能を維持しつつ、電流を流す相数を低減可能としている。
【0014】
図1は本発明の磁気軸受の制御装置の構成ブロック図であり、磁気軸受は、スラスト方向から見た断面図として図示している。尚、従来のものと同等のものは同じ符号を付して詳細な説明を省略する。ステータ27は珪素鋼板等の磁性体をスラスト方向に積層し、その内周部には等間隔に3つの極歯が配置されている。ステータ27の3つの極歯にはスター結線で接続された巻線28,29,30が巻装されている。推力制御回路17と18からのロータ6に加えるX方向とY方向の推力指令FXとFYは極座標変換器23により次の[数1]に基づいて極座標(F,A)に変換される。
【0015】
【数1】
F=C・SQRT(FX2+FY2)
A=ATAN2(FX、FY)
ここで、Cは一定の係数、SQRTは平方根演算関数、ATAN2は2変数を入力とする逆正接演算関数であり、FXとFYとの成分を有するベクトルの所定軸からの傾き角度を演算する関数である。極座標変換器23は、推力の大きさを示すFと推力の方向を角度で示すAとを3相電流値変換手段としての3相電流値変換器24に出力する。3相電流値変換器24は、まず、次の[数2]により、電流の大きさIと、位相θの演算を行う。
【0016】
【数2】
I=SQRT(F)
θ=A/2+πn
[数2]で、nは0又は1の整数であり、3相電流値変換器24は、いずれか一方を選択して[数2]の演算を行う。具体的に3相電流値変換器24は、前回演算したθをθpとして保持し、n=0のときのθをθ0、n=1のときのθをθ1として、θ0−θpと、θ1−θpとを演算して、これらの絶対値をπで除したときの余りが小さくなる方のθ0又はθ1を位相θとして選択する。
【0017】
さらに、3相電流値変換器24は、次の[数3]により、3相の電流値Cu、Cv,Cwを決定する。
【0018】
【数3】
Cu=I・COS(θ)
Cv=I・COS(θ+2π/3)
Cw=I・COS(θ+4π/3)
3相電流制御回路25は、3相電流値変換器24から3相の電流値Cu、Cv,Cwの入力を受けて、この値に相当する電流Iu,Iv,Iwを制御して、それぞれ対応する巻線28,29,30に流す。
【0019】
次に、このように電流を制御したときの磁気軸受の動作を説明する。
【0020】
巻線28,29,30に流れる電流Iu,Iv,Iwにより、3つの極歯からは電流量にほぼ比例した磁束が発せられる。ここで、ロータ6と3つの極歯間の空隙が一定の場合、極歯に発生した磁束により、ロータ6にはたらく磁気吸引力をFu,Fv,Fwとすると、磁気吸引力は磁束密度の2乗に正比例することから、磁気吸引力Fu,Fv,Fwは次の[数4]に示すようになる。
【0021】
【数4】
Fu=K・Iu2
Fv=K・Iv2
Fw=K・Iw2
ここで、Kは磁気軸受の推力と電流の関係により決定される比例係数である。また、ロータ6の中心を原点とし巻線28が巻装された極歯の方向をX軸および角度0として、ロータ6にはたらく力のX、Y成分をFx,Fyとすると、これらは、[数5]で表すことができる。
【0022】
【数5】
Fx=Fu−COS(π/3)(Fv+Fw)
=K(Iu2−(Iv2+Iw2)/2)
Fy=SIN(π/3)(Fv−Fw)
=√3K(Iv2−Iw2)/2)
【0023】
従って、[数3]により、次のようになる。
【数6】
Fx=(3/4)K・I2・COS(2θ)
Fy=(3/4)K・I2・SIN(2θ)
【0024】
さらに、[数2]により、次のようになる。
【数7】
Fx=(3/4)K・F・COS(A+2πn)=(3/4)K・F・COS(A)
Fy=(3/4)K・F・SIN(A+2πn)=(3/4)K・F・SIN(A)
また、[数1]を変形して、
【数8】
COS(A)=FX/(F/C)
SIN(A)=FY/(F/C)
を得るが、ここで、(3/4)K=1/Cとし、[数8]を[数7]に代入すると次の[数9]が得られる。
【数9】
Fx=FX
Fy=FY
【0025】
このように、極座標変換器23と3相電流値変換器24と3相電流制御回路25を用いれば、図1のような3つの巻線をスター結線した磁気軸受を直交座標系の推力指令で従来の8相電流を用いた磁気軸受の制御装置と同様に制御して、軸ずれを補償できる。
【0026】
尚、3相電流値変換器24において、nを0か1、つまり偶数又は奇数のいずれかを選択するにあたり、位相θと前回演算した位相θpとの差の絶対値をπで割った余りが小さくなるようにnを選択しているが、これは、3相の巻線に流す電流が急激に変化するのを防止するためである。すなわち、[数3]を見て理解できるように、θがA/2かA/2+πであるかによって巻線に流す電流向きが逆になるにもかかわらず、[数6]ではロータ6に働く力は同じである。これを利用すれば、例えば、単純にθをA/2として制御した場合を考えると、+πより僅かに小さい角度から−πよりも僅かに大きな方向に変化した場合には、本来ならば、θをπ/2から−π/2に近い値に変化させることとなり、巻線に流す電流を急激に変化させることになるが、上記のようにnを選択すれば、θをπ/2より僅かに小さい角度からπ/2より僅かに大きな角度とすることで、ロータ6に同様の大きさの力を作用させつつ、3相の巻線に流す電流が急激に変化するのを防止できる。
【0027】
尚、ここでは3つの巻線の結線方法をスター結線として説明したが、これはデルタ結線としてもよい。また、[数3]では巻線に流す電流を余弦関数(COS関数)で記述したが、X軸となる基準方向等の前提条件を変えた場合は、3つの各相に一定のオフセット位相を加算してもよいし、正弦関数(SIN関数)としても構わない。
【0028】
本発明の磁気軸受の制御装置によれば、8相電流制御を用いることなく、ロータの軸ずれを補償でき、電流制御を行う相数を低減して、パワートランジスタの数を大幅に削減でき、コストを低減できる。
【0029】
また、3相の電流制御回路は3相電動機制御用として大量に生産されており、これらの装置を流用すれば磁気軸受用の電流制御回路を大幅にコストダウンできる。巻線を巻く箇所も従来例の8カ所から3カ所にと大幅に減少して、容易に製造でき、コストを低減できる。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、8相電流制御を用いることなく、ロータの軸ずれを補償でき、電流制御を行う相数を低減して、パワートランジスタの数を大幅に削減でき、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る磁気軸受の制御装置の構成ブロック図である。
【図2】 一般的な磁気軸受構造の斜視図である。
【図3】 従来の磁気軸受の制御装置の構成ブロック図である。
【符号の説明】
1 軸、2,5 ラジアル磁気軸受、3 電動機、4 スラスト磁気軸受、6磁気軸受ロータ、7,27 磁気軸受ステータ、8,9 位置検出器、11,12,13,14,28,29,30 巻線、15,16 減算器、17,18推力制御回路、19,20,24 電流値変換器、21,22,25 電流制御回路、23 極座標変換器。
Claims (2)
- 磁性体からなるロータ外周に空隙をおいて複数の極歯を配置した磁性体からなるステータと、前記複数の極歯を励磁するスター結線またはデルタ結線した3つの巻線と、前記ロータの軸ずれ位置を直交する2方向で検出する軸ずれセンサとを具備する磁気軸受に取り付けられ、前記3つの巻線に流す電流を制御する磁気軸受の制御装置において、
前記直交する2方向の軸ずれ位置を表す信号の入力を受けて、前記ロータの軸ずれを補償する推力を前記3つの巻線の磁力として発生させるための、前記各巻線に対応する3つの電流値を演算する3相電流値変換手段を有し、
前記3相電流値変換手段は、前記3つの電流値Iu,Iv,Iwをそれぞれ、推力の大きさの平方根に比例する値をF,前記推力の方向角度をA、nを任意に選択した整数とし、θをA/2+nπとして、
Iu=F・COS(θ),
Iv=F・COS(θ+2π/3),
Iw=F・COS(θ+4π/3)
の数式に従って演算することを特徴とする磁気軸受の制御装置。 - 前記3相電流値変換手段は、前回入力された軸ずれ位置に基づいて演算したθと、今回入力された軸ずれ位置に基づいて演算したθとの差の絶対値をπで除したときの余りが小さくなるように、前記nを選択することを特徴する請求項1記載の磁気軸受の制御装置。
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