JP3628146B2 - 低温焼成磁器組成物および低温焼成磁器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多層回路基板における絶縁基板として有用な低温焼成磁器組成物と、低温焼成磁器の製造方法に関するものであり、例えば集積回路(IC)や電子部品を多層に積層し、焼成してなる銅配線可能な特に高周波用の低誘電率、低誘電損失を備えた低温焼成磁器組成物および低温焼成磁器の改良に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来より、セラミック配線基板としては、絶縁基板がアルミナなどのセラミックスからなるアルミナ質配線基板が多用されているが、近年、高度情報化時代を迎え、半導体素子はより高速化、高集積化、実装のより高密度化が進み、誘電率の大きなアルミナ基板(3GHzでの比誘電率は9〜9.5)は高周波回路基板等には不適切である。つまり、信号を高速で伝搬させるためには絶縁基板材料には、より低い誘電率が要求されている。また、マイクロ波、ミリ波対応として低損失化も要求されている。
【0003】
そこで、上述した低誘電率化に対応し得るセラミック材料としては、例えば、ガラスと無機質フィラーとの混合物を成形、焼成してなる、いわゆるガラスセラミックスは、誘電率が3〜7程度と低いことから、高周波用絶縁基板として注目されている。また、このガラスセラミックスは、800〜1000℃の低温で焼成することができることから、配線用導体として、銅、金、銀などの低抵抗金属を使用できるという長所を有する。
【0004】
一方、多層配線基板に種々の電子部品を実装したり、入出力端子等を取付けたり、またその多層配線基板をマザーボードなどのプリント基板に接続する上で、これら電子部品や入出力端子等、またはプリント基板との熱膨張率の差により基板に加わる応力から基板が破壊したり、欠けが生じるのを防止する為に、各材料間の熱膨張係数が近似していることが望まれる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のガラスセラミックス材料は、誘電率が低いものの、信号の周波数が10GHz以上のマイクロ波に対して、その誘電損失が30×10−4以上と高く、このような高周波用としては実用化し得るに十分な特性を有していないものであった。
【0006】
しかも、従来のガラスセラミックスは、誘電体特性を決定する成分のみでは、その組成を調整しても、熱膨張係数を種々調整することが難しく、そのために、種々の熱膨張調整剤を必要とし、その結果、誘電特性を損ねてしまうなどの問題があった。
【0007】
従って、本発明は、800〜1000℃の温度で、且つ銅、金、銀等の低抵抗金属と同時焼成が可能であり、しかも低誘電率および高周波領域で低誘電損失を有し、直線的な熱膨張挙動を示し、しかも熱膨張係数を幅広い範囲で調整可能な低温焼成磁器組成物と低温焼成磁器を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記問題点を鋭意検討した結果、Zn,Siを特定比率で含有する複合酸化物に対して、第1の添加成分としてLi2 Oと、第2添加成分として、B2 O3 、またはSiO2 とB2 O3 を含むガラスと、第3添加成分としてK、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属とを添加することにより、複合酸化物中のZnOと第2の添加成分中のB2 O3 中のB(ホウ素)成分による液相反応と、さらに第1および第3の添加成分であるLi成分と他のアルカリ金属成分による液相反応が加わることにより、僅かな量の添加成分の添加により、800〜1000℃の温度で焼成することができ、しかも、焼成によって得られた磁器として、磁器を形成する結晶相が、クオーツ型結晶相単相、またはクオーツ型結晶相とウイレマイト型結晶相を主体とすることによって、低い比誘電率と低い誘電損失、さらには幅広い範囲で熱膨張係数を任意に調整でき、とりわけ、クオーツ型結晶相単相からなる場合には、さらなる低誘電率化および高熱膨張化が達成できることを見いだし、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の低温焼成磁器組成物は、SiO2を14.9〜98重量%と、ZnOを1〜84.9重量%とを合計で80〜99.0重量%と、B2O3を0.1〜15重量%と、Li2Oを0.1〜10重量%と、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を0.1〜10重量%の割合で添加してなることを特徴とするものである。
【0010】
また、他の低温焼成磁器組成物としては、SiO2を14.9〜98重量%と、ZnOを1〜84.4重量%とを合計で80〜98.3重量%と、少なくともSiO2およびB2O3を含有するガラスを0.5〜20重量%と、Li2Oを0.1〜10重量%と、少なくともK、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を0.1〜10重量%の割合で添加してなることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の低温焼成磁器は、上記誘電体磁器組成物を焼成して得られたものであり、該磁器中の結晶相が、クオーツ型結晶相のみ、またはクオーツ型結晶相とウイレマイト型結晶相とを主体とすることを特徴とし、かかる磁器は、1GHz〜60GHzでの誘電率(εr)が7以下、誘電損失が30×10-4以下、さらに室温から400℃における熱膨張係数が1.5〜17ppm/℃の特性を有すること、さらには、前記磁器中の結晶相がクオーツ型結晶相のみからなる場合には、誘電率が4.5以下、室温から400℃における熱膨張係数が15〜17ppm/℃の特性を有することを特徴するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の低温焼成磁器組成物の第1の態様によれば、全量中、SiO2を14.9〜98重量%と、ZnOを1〜84.9重量%とを合計で80〜99.0重量%と、B2O3を0.1〜15重量%およびLi2Oを0.1〜10重量%と、さらには、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を0.1〜10重量%とからなるものである。
【0013】
各成分組成を上記の範囲に限定したのは、SiO2 が14.9重量%よりも少ないとZnOが過剰に析出してしまい誘電損失が劣化し、SiO2 が98重量%よりも多くなると焼結性が劣化し1000℃以下の低温で緻密化しないためである。SiO2 の望ましい量は25〜95重量%である。
【0014】
また、ZnOが1重量%よりも少ないと十分な液相が生成せず、1000℃以下の低温で緻密化しないためであり、84.9重量%よりも多いとZnOが過剰に析出してしまい誘電損失が劣化してしまうためである。ZnOの望ましい量は10〜60重量%である。
【0015】
なお、SiO2+ZnOの合計量が80重量%よりも少ないと、液相成分が多くなり、溶出してしまい、99.0重量%よりも多いと液相成分が少ないために1000℃以下での緻密化ができなくなる。
【0016】
また、Li2 Oについて、Li2 Oが0.1重量%よりも少ないと、SiO2 量が多い場合において、主相となるSiO2 相が容易にクリストバライトに相変態してしまい、200℃付近に変曲点をもつ熱膨張挙動を示してしまうためであり、10重量%よりも多いと誘電損失が劣化してしまうためである。Li2 Oの望ましい範囲は、1〜5重量%である。
【0017】
また、B2 O3 について、B2 O3 量が0.1重量%より少ないと、800〜1000℃の温度で磁器が十分に緻密化することができず、15重量%より多いと、過剰な液相が生成し1〜60GHzの高周波領域における誘電損失が30×10−4を越えるためである。B2 O3 の望ましい範囲は1〜5重量%である。
【0018】
さらに、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物は、前記Li2 Oとの相乗効果により、さらに低温焼成化を実現することができる。従って、かかるアルカリ金属量が0.1重量%よりも少ないと、Li2 Oとの相乗効果が発現せず、10重量%よりも多いと、800〜850℃でLi、B、Naなどを含む液相成分が溶出してしまう。かかるアルカリ金属酸化物の望ましい範囲は、1〜5重量%である。
【0019】
また、本発明の第2の態様によれば、SiO2を14.9〜98重量%と、ZnOを1〜84.4重量%とを合計で80〜98.3重量%と、Li2Oを0.1〜10重量%と、少なくともSiO2およびB2O3を含有するガラスを0.5〜20重量%と、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を0.1〜10重量%とからなる。
【0020】
この組成物において、SiO2 、ZnO、Li2 OおよびK、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物量の上限および下限の限定理由は第1の態様と同様な理由による。少なくともSiO2 およびB2 O3 を含有するガラスについて、上記ガラス量が0.5重量%より少ないと、800〜1000℃の温度で磁器が十分に緻密化することができず、20重量%より多いと、過剰な液相が生成し1〜60GHzの高周波領域における誘電損失が30×10−4を越えて高くなるためである。少なくともSiO2 とB2 O3 を含有するガラスの望ましい範囲は、1〜10重量%である。
【0021】
なお、上記の少なくともSiO2 、B2 O3 を含むガラスとしては、一般にホウケイ酸系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸鉛系ガラスなどが好適に用いられるが、特にSiO2 を5〜80重量%、B2 O3 を4〜50重量%の割合でそれぞれ含み、他の成分としてAl2 O3 を30重量%以下、アルカリ金属酸化物を20重量%以下の割合で含むものが好適に使用され、これらの酸化物成分を所定割合で配合したものを溶融、冷却してガラス化したものが使用される。
【0022】
上記第1および第2の態様の磁器組成物は、いずれも800〜1000℃の低温での焼成によって相対密度95%以上まで緻密化することができる。
【0023】
上記の組成物を上記の温度で焼成して得られる磁器は、クオーツ型結晶相単相からなるもの、あるいは図1(a)(b)の磁器組織の概略図に示すように、結晶相として、クオーツ型結晶相(Q)と、ZnOおよびSiO2 を含むウイレマイト型結晶相(W)を主体とするものである。また、第3の結晶相として、少なくともSiO2 、Li2 OおよびZnOを含む結晶相(L)を含む場合もあり、図1(a)に示すように、ウイレマイト型結晶相(W)を主相とする場合、図1(b)に示すように、クオーツ型結晶相(Q)を主相とする場合がある。また、上記以外に、少量のクリストバライト型結晶相、トリジマイト型結晶相などの結晶相が析出する場合もある。また、これらの結晶相の粒界に、SiO2 、ZnOあるいはB2 O3 等を含む非晶質が存在する場合もある。
【0024】
なお、前記ウイレマイト型結晶相とは、Zn2 SiO4 で表される結晶相であり、また、少なくともSiO2 、Li2 OおよびZnOを含む第3の結晶相は、Zn2 SiO4 型結晶のSiサイトにZnおよびLiが固溶した、Zn2 (Znx Liy Siz )O4 (x+y+z=1)の結晶相および/またはLi2 ZnSiO4 型結晶である。
【0025】
このように本発明によれば、磁器中に、クオーツ型結晶相や、ウイレマイト型結晶相を析出させることにより、比誘電率を7以下の低誘電率を有するとともに、マイクロ波、ミリ波などの高周波帯域、具体的には1GHz〜60GHzの範囲において、誘電損失が30×10−4以下の低損失特性を有するものである。しかも、この磁器は、組成物の組成を前述の範囲で制御することにより、上記誘電体特性を維持しながら、結晶相の比率などの変動によって、室温から400℃の温度範囲の熱膨張係数を1.5〜17ppm/℃の範囲で制御することが可能であり、しかも直線的な熱膨張挙動を示すものである。
【0026】
また、本発明によれば、SiO2 量が94重量%以上である場合、磁器を構成する結晶相は、実質的にクオーツ型結晶相のみからなり、この場合には、誘電率を4.5以下、室温から400℃における熱膨張係数を15〜17ppm/℃の範囲で制御することができる。
【0027】
本発明の低温焼成磁器を磁器を製造するには、前記組成物を得るにあたり、原料粉末としては、SiO2 、ZnO、Li2 O、B2 O3 およびK、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物、あるいは焼成により酸化物を形成し得る炭酸塩、硝酸塩など、あるいは上記酸化物のうち2種以上の複合酸化物なども使用できる。
【0028】
具体的には、ZnO、SiO2 源としては、単味の酸化物の他に、Zn2 SiO4 で表されるウイレマイト化合物を用いることができる。
【0029】
また、B2 O3 源としては、B2 O3 や焼結過程でB2 O3 を形成し得るB2 S3 、H2 BO3 や、ZnO・2B2 O3 、4ZnO・3B2 O3 などのほう酸亜鉛などの化合物の群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0030】
さらに、Li2 O源として、Li2 O、焼結過程でL 2 Oを形成し得るLi2 CO3 、LiOH・H2 O、Li2 S等、あるいはLi2 SiO3 、Li4 SiO4 、Li2 Si2 O5 、Li2 Si3 O7 、Li6 Si2 O7 、Li8 SiO6 などのSiO2 とLi2 Oとの化合物、Li2 ZnSiO4 、Zn2 (ZnxLiySiz)O4 (x+y+z=1)などのSiO2 とLi2 OとZnOとの複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0031】
また、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物源としては、各金属元素の酸化物や、焼成によって酸化物を形成し得る炭酸塩、硝酸塩などが使用される。
【0032】
またさらに、少なくともSiO2 およびB2 O3 を含有するガラスとしては、前述したような、ホウケイ酸系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸鉛系ガラスなどが好適に用いられる。
【0033】
これらの原料を用いて、前記第1の態様または第2の態様の組成物に調合し、混合する。そして、その混合粉末に適宜バインダ−を添加した後、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、押し出し成形、ドクターブレード法、圧延法等により任意の形状に成形後、酸化雰囲気中または、N2 ,Ar等の非酸化性雰囲気中において800℃〜1000℃、特に850〜950℃の温度で0.1〜5時間焼成することにより相対密度95%以上に緻密化することができる。
【0034】
この時の焼成温度が800℃より低いと、磁器が十分に緻密化せず、1000℃を越えると緻密化は可能であるが、銅、銀などの導体と同時焼成ができなくなる。因みに、同時焼成時に、導体として銅を用いる場合には非酸化性雰囲気とし、銀を用いる場合には非酸化性または酸化性雰囲気で焼成することが必要である。銅導体を用いることが出来なくなるためである。
【0035】
上記の製造方法によれば、ZnおよびSiからなる複合酸化物と、B2 O3 、またはSiO2 、B2 O3 を含むガラスに、さらにLi2 Oと、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物とを組み合わせて添加することにより、複合酸化物から生成するZnを主とする液相とB2 O3 中またはガラス中のB(ホウ素)成分のより活性な液相反応が生じる。さらにLiとK、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物とを組み合わせることにより、アルカリ混合効果により、さらに低温で液相が生成されることにより、アルカリ金属元素が一種の場合に比較して、低温で液相が生成される結果、僅かな添加物の添加により、800〜1000℃以下の温度で焼成でき、磁器を緻密化することができる。そのために、誘電損失を増大させる要因となる粒界の非晶質相の量を最小限に押さえることができる。このため高周波帯域においてより低い誘電損失を得ることができるのである。
【0036】
また、本発明における磁器組成物は、800〜1000℃で焼成可能であることから、特に銅、金、銀などを配線する配線基板の絶縁基板として用いることができる。かかる磁器組成物を用いて配線基板を作製する場合には、例えば、上記のようにして調合した混合粉末を公知のテープ成形法、例えばドクターブレード法、圧延法等に従い、絶縁層形成用のグリーンシートを作製した後、そのシートの表面に配線回路層用として、銅、金および銀のうちの少なくとも1種の金属、特に、銅粉末を含む導体ペーストを用いて、グリーンシート表面に配線パターンにスクリーン印刷法、グラビア印刷法等によって回路パターン状に印刷し、場合によってはシートにスルーホールやビアホール形成後、上記導体ペーストを充填する。その後、複数のグリーンシートを積層圧着した後、上述した条件で焼成することにより、配線層と絶縁層とを同時に焼成することができる。
【0037】
【実施例】
実施例1
平均粒径が1μm以下のZn2 SiO4 粉末、ZnO・2B2 O3 粉末または4ZnO・3B2 O3 粉末で示される化合物、溶融SiO2 (アモルファス)、各種アルカリ金属の炭酸塩の粉末を原料として用い、各金属元素の酸化物量が表1、2の組成に従い混合した。そして、この混合物に有機バインダー、可塑剤、トルエンを添加し、ドクターブレード法により厚さ300μmのグリーンシートを作製した。そして、このグリーンシートを5枚積層し、50℃の温度で100kg/cm2 の圧力を加えて熱圧着した。得られた積層体を水蒸気含有窒素雰囲気中で、700℃で脱バインダーした後、乾燥窒素中で表1、2の条件において焼成して多層基板用磁器を得た。
【0038】
得られた焼結体について誘電率、誘電損失を以下の方法で評価した。測定は、形状直径1〜5mm、厚み2〜3mmの試料を切り出し、60GHzにてネットワークアナライザー、シンセサイズドスイーパーを用いて誘電体円柱共振器法により行った。測定では、NRDガイド(非放射性誘電体線路)で、誘電体共振器の励起を行い、TE021,TE031モードの共振特性より誘電率、誘電損失を算出した。測定の結果は表1、2に示した。また、X線回折測定から、磁器の構成相を同定し、試料No.4、8についてX線回折チャートを図2、図3に示した。さらに、各磁器について、室温から400℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。
【0039】
また、比較例として、MgSiO3 、CaSiO3 を主成分とし、これに、B2 O3 含有化合物やアルカリ金属酸化物を添加して、同様に焼結体を作製し評価した(試料No.30、31)。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表1、2の結果から明らかなように、結晶相として、クオーツ型結晶相(Q)のみ、またはウイレマイト型結晶相(Zn2SiO4)(W)とクオーツ型結晶相(Q)とが主として析出した本発明の磁器は、いずれも誘電率が7以下、60GHzでの誘電損失が30×10−4以下の優れた値を示した。なお、本発明品の磁器の液相に対して、ICP発光分光分析によって分析した結果、いずれも液相中からZnと、その他に極微量のB、Si、Li、Na等が検出された。
【0043】
これに対して、SiO2 量が98重量%を越える試料No.1では1400℃まで高めないと緻密化できず、14.9重量%よりも少ない試料No.25では、誘電特性が大きく劣化し測定できなかった。B2 O3 量が0.1重量%未満である試料No.15では、焼成温度を1200℃まで高めないと緻密化することができず、本発明の目的に適さないものであった。一方、B2 O3 量が15重量%を越える試料No.18は、液相が溶出してした。Li2 O量が0.1重量%よりも少ない試料No.11では、クリストバライトが多量に析出し、熱膨張係数が17ppm/℃を越え、本発明の目的に適さず、しかも、熱膨張曲線に変曲点が生じた。
【0044】
また、ZnO量が84.9重量%を越える試料No.26では過剰なZnO相が析出し、このため誘電損失が増大し60GHzにおいて誘電特性が評価できなかった。一方、ZnO量が1重量%未満の試料No.5では過剰なSiO2 によりクリストバライト相が析出し、またZn量が不十分であるため、B2 O3 中のB成分と液相を形成することが困難となり、1300℃まで高めないと緻密化できなかった。
【0045】
さらに、Na2 O無添加の試料No.3では、1000℃以下の温度で焼成できなかったが、試料No.2に示すように、Li2 Oの一部をNa2 Oに代えると、950℃で緻密化することができた。また、Na2 O量が0.1重量%よりも少ない試料No.7でも1000℃以下の緻密化ができなかった。さらに、Na2 O量が10重量%を越える試料No.9では、液相成分が溶出した。
【0046】
また、比較例として、MgSiO3 やCaSiO3 を用いた試料No.30、31では、B2 O3 量を15重量%以上添加しないと緻密化しないため十分な誘電特性が得られず、本発明の目的に適さないものであった。SiO2 およびZnO以外の成分量が20重量%を越える試料No.14では液相が溶出した。
【0047】
実施例2
平均粒径が1μm以下のZn2 SiO4 に対して、表3の組成からなるガラス粉末と、さらに各種アルカリ金属の炭酸塩、場合により溶融SiO2 を添加して、添加したガラス以外のSiO2 、ZnOおよびアルカリ金属酸化物量が表3の組成になるように混合した。そして、この混合物に有機バインダー、可塑剤、トルエンを添加し、ドクターブレード法により厚さ300μmのグリーンシートを作製した。そして、このグリーンシートを5枚積層し、50℃の温度で100kg/cm2 の圧力を加えて熱圧着した。得られた積層体を水蒸気含有/窒素雰囲気中で、700℃で脱バインダーした後、乾燥窒素中で表3の条件において焼成して多層基板用磁器を得た。
【0048】
得られた焼結体について実施例1と同様にして誘電率、誘電損失および結晶相の同定、熱膨張係数を実施例1と同様な方法で測定評価した。測定の結果は表4、5に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
表4、表5の結果から明らかなように、本発明の成分組成に制御した試料は、実施例1と同様に、いずれも1000℃以下で緻密化できるとともに、結晶相として、クオーツ型結晶相のみ、またはクオーツ型結晶相とウイレマイト結晶相とが主として析出し、いずれも誘電率が7以下、60GHzでの誘電損失が30×10−4以下の優れた値を示した。しかも、熱膨張係数が1.5〜17ppm/℃の範囲で制御可能であり、変曲点も存在しなかった。
【0053】
実施例3
上記実施例1中のNo.4および8の磁器を用いて、直径1〜30mm、厚み2〜15mmの円柱サンプル)を作製した。また比較として汎用品のコージェライト系ガラスセラミックス(硼珪酸ガラス75重量%、Al2 O3 25重量%)、汎用の低純度アルミナ(Al2 O3 95重量%、CaO、MgO5重量%)を用い同様にしてサンプルを作製した。作製したサンプルを1GHz、10GHz、20GHz、30GHz、60GHzの高周波、マイクロ波、ミリ波領域において、誘電体円柱共振器法により誘電損失を測定した。結果を図4に示した。
【0054】
汎用品のガラスセラミックスは低周波領域において誘電損失は7×10−4と低いが、高周波領域になるに従い特性が劣化してしまい20GHz以上では20×10−4程度になってしまう。また、汎用の低純度アルミナは60GHzで40×10−4程度まで高くなった。一方、本発明品は、60GHzでの高周波領域においても誘電損失は30×10−4以下と低いものであった。なお、誘電率は汎用品ガラスセラミックスは5、低純度アルミナは9であった。
【0055】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の低温焼成磁器組成物は、誘電率が低く、30GHz以上の高周波においても誘電損失が小さいので、高周波用途のマイクロ波用回路素子等において最適である。さらに、熱膨張係数を誘電特性を損なうことなく、直線的な熱膨張挙動で幅広く制御できることから、かかる磁器を用いた配線基板をマザーボードなどのプリント基板に実装したり、電子部品や入出力端子を取り付ける際において、熱膨張差を小さくできることから、信頼性の高い基板を作製することができる。しかも、800〜1000℃で焼成されるため、Cu、Au、Ag等による配線を同時焼成により形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の誘電体磁器の組織の概略図である。
【図2】本発明の誘電体磁器(試料No.4)のX線回折チャート図である。
【図3】本発明の誘電体磁器(試料No.8)のX線回折チャート図である。
【図4】本発明品および従来品の誘電損失の測定周波数との関係を示した図である。
Claims (4)
- SiO2を14.9〜98重量%と、ZnOを1〜84.9重量%とを合計で80〜99.0重量%と、B2O3を0.1〜15重量%と、Li2Oを0.1〜10重量%と、K、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を0.1〜10重量%の割合で添加してなることを特徴とする低温焼成磁器組成物。
- SiO2を14.9〜98重量%と、ZnOを1〜84.4重量%とを合計で80〜98.3重量%と、少なくともSiO2およびB2O3を含有するガラスを0.5〜20重量%と、Li2Oを0.1〜10重量%と、少なくともK、Na、CsおよびRbの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を0.1〜10重量%の割合で添加してなることを特徴とする低温焼成磁器組成物。
- 請求項1または請求項2記載の低温焼成磁器組成物を焼成して得られる低温焼成磁器であり、該磁器中の結晶相が、クオーツ型結晶相のみ、またはクオーツ型結晶相とウイレマイト型結晶相とを主体とするとともに、1GHz〜60GHzでの誘電率(εr)が7以下、誘電損失が30×10−4以下、さらに室温から400℃における熱膨張係数が1.5〜17ppm/℃の特性を有することを特徴とする低温焼成磁器。
- 前記磁器中の結晶相がクオーツ型結晶相のみからなり、誘電率が4.5以下、室温から400℃における熱膨張係数が15〜17ppm/℃であることを特徴とする請求項3記載の低温焼成磁器。
Priority Applications (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP16636197A JP3628146B2 (ja) | 1997-06-23 | 1997-06-23 | 低温焼成磁器組成物および低温焼成磁器 |
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